特に天龍改二の姿は、RJが血の涙を流しそう。まあ、しょうがないね
国会議事堂
深海棲艦の攻撃により世界が大混乱するその頃、日本ではある事が行われようとしていた。国会議事堂では臨時国会が開かれた。議会では、様々な人が集まった。国会議員だけでなく軍人や記者達も入り、国会議事堂の外では多くの人が民衆が集まっていた。皆はこれから行われる事に息を呑んで見守っていた。なぜなら、浦田重工業の副社長が、502部隊が行った刑務所襲撃に対する証言だ。岐阜基地では基地司令を始め、クーデター残存部隊や賛同者が集まっているのだ。なぜ、502部隊は浦田重工業に戦いを挑んだのか?その詳細な証拠と証言を国会で提示するために臨時国会が開かれたんだ。そのため、多くの人達が注目した。何しろ、あの大企業の副社長だ
国会議事堂の広場で民衆が騒いでいる最中、一台の黒塗りの車とパトカー数台が国会議事堂に向かっている。広場で騒いでいた民衆は、警官たちによって追い払われた。マスコミも集まったが、警官達は中へ入らせまいと抑えている
警官と民衆の間で押し問答している中、道が開かれた車両の数台は滑るように進む。国会議事堂の玄関の前へ止まった。ドライバーが車から出るよりか早いか後部ドアが開くと副社長と浦田社長を支えている秘書が降りた
国会議員があれこれと声を掛けたが、全て無視して中へ入る。副社長は迫り来る記者や議員を追い返すと秘書だけ聞いた
「すぐに終わりそうか?こんな連中の前に話せとは」
「原稿通りに読めば数分で終わります。証拠写真と共に渡して質問を無視し船に乗せます」
「そうか。せいぜいバカ騒ぎすればいい」
社長から聞いたが、この秘書は気が利く。但し、棘が無ければの話だ。お触りはなしだ。後ろから目があるのか、軽く躱される
「まあ、ゆっくりやろう」
待機部屋に入りながら呟いた。計画通りだ。艦隊が日本を離れれば、浦田重工業が操る深海棲艦の攻撃が始まる。工場を跡形もなく破壊するためだ。もう、この国には要は無い。この巧妙な偽証言と偽装した証拠を大本営と政府に渡せば、内戦が始まるだろう。勝手に争って破滅すれば手間が省ける。副社長は胡散臭そうに長く続く廊下を歩いていた
「それでは、浦田重工業の副社長。証人の場に」
会議室では、国会議員と場内に入る事が許された記者が注目していた。秘書に促され証人台に立った。全員の目が浦田副社長に集まった。彼等にとって大事だ。クーデター残存部隊が岐阜基地に立てこもっているのだ。強引に鎮圧するよう兵を差し向ければ内戦になってしまう。深海棲艦の姫級がいる以上、こういった事は避けたい。既に東南アジアや中国などではいい例だ。中国大陸では、中国共産党も中国国民党も深海棲艦の攻撃によって壊滅され、史実の満州事変なぞ起こっていない。そのため、民族同士が対立しあっている。尤も、二つの集団を壊滅させたのは浦田重工業の仕業だが
「では、一ヶ月前に事件がありました襲撃事件についてです。あの刑務所では、対深海棲艦用の兵器を開発すべくボスや複数の深海棲艦を捕らえました。しかし、502部隊はどういう訳か奴らを解放しました。これは我々に敵対する余り、人類の敵と手を結んだと考えられます……」
浦田副社長は、秘書に用意してくれた原稿用紙をただ淡々と読んでいた。別にこれは不思議な事でもなく、国の元首や大統領などは原稿を読みながら演説している。スピーチの直前まで改訂されたケースもある
浦田副社長は延々と述べていたが、全て502部隊と『艦娘計画』を推し進めていた海軍大佐を批判する内容だった。自分達は被害者に過ぎない。それだけだったと
関東地方のとある空港
時雨達が空港に着いたのは副社長が演説している真っ最中である。空港は事前に制圧していたためトラブルは無かった。いや、実際は違う。賛同する者がこちらにいたためだ
「急いで運べ!」
X兵器は航空機から降ろされるとトレーラーに載せられた。勿論、このまま本社ビルに向かうと迎撃させられてしまう
「提督、テレビを見て」
格納庫で準備している所を整備員の休憩室にあった時雨は置いてあったを指さした。もう、既に始まっているらしい
「あの野郎……堂々と言いやがって」
提督は呻いたが、現状ではどうする事も出来ない。しかし、もうすぐだろう。向こうの人が動いてくれるはずだ。既に先遣隊がある事をしている事だろう
国会議事堂の会議室
「……以上が我々の被害報告であります。質問は受け付けません。我々には、これから業務がありますので」
怒号の質問と野次が飛んだが、浦田副社長は原稿をしまうと秘書に連れられて扉に向かう。扉の前には歩哨が立っていたが、なぜか止められた
「失礼ですが、貴方達を出す訳には行きません」
「何なんだ、君達は?私は忙しいのだ!」
通せんぼしている歩哨に対して副社長は怒鳴った。掴みかかろうとしたが、その手は秘書に止められたのだ
「失礼します。兵士達の様子がおかしいです」
「まさか……」
耳打ちされ、副社長は驚愕した。兵士達の様子がおかしい。国会議員や軍関係者、そしてマスコミを取り囲んでいる
「これは、どういう事だ!」
「浦田副社長、貴方を拘束させてもらう」
部下を引き連れ、人込みをかき分けながらこちらに来るものが居た。そう、『艦娘計画』を実施した博士の先輩にあたる元帥が現れたのだ
「拘束だと!何の権限だ!?」
「貴様らの悪事だ。国家転覆罪、市街地での戦闘による民間人の被害、502部隊の殺害命令。……そして、深海棲艦を我が物として世界中の人々を大量虐殺している事だ!」
元帥の声は会場に響き渡り、その場にいた人達は驚愕した。何を言っているのだ、この軍の上層部の人間は?統合参謀は気でも狂ったのか?
そうこうしている内に兵士達が沢山のテレビを持ちながら会場にやって来た。全員がどよめいた。何が行われているのか?
「元帥!君は何をしている!?」
「私の処分よりもこれを見てください!」
総理大臣が一喝したが、元帥は動じない。テレビに写し出されたものは……
「なっ!?これは!」
その場にいた者は再び驚いた。そこに写し出されているのは、浦田重工業の幹部らしき人物が淡々と説明している場面だった。らしきというのは、上半身が陰になっていて誰なのか判別が出来なかったのだ。自分が浦田重工業の幹部という人物は、証拠として社員証を掲げたが、もちろん写真は隠されていた
『すると、あなた方浦田重工業の狙いは、世界を手中に治めるためだと?』
『それだけではない。我々は最新鋭の科学力と軍事力で世界をコントロールしようと企んでいる。社長は特別に造り上げた戦艦ル級改flagshipを使って深海棲艦を操り、この国を含む世界各国を攻撃しようと企んでいる』
1人の優男は手元の資料を広げカメラに向かってよく見せるように広げた。世界攻撃するための作戦内容、世界各国の地図に攻撃する方法が書いてあるもの。そしてトラック島とハワイに工場と居住区を建設していること。そして、深海棲艦の改修案である
『社長の口癖は日本に失望したとばかり呟いています。アメリカという大国と戦争するために国を発展させたのではないと。そして、ヨーロッパの国々が小競り合いを始め、再び世界大戦が開かれるだろうと予測していました』
幹部の1人の証言に会場は水を打ったかのように静まり返った。実は、この幹部は偽物である。作戦内容は、時雨と例の息子が持っていた未来の記録を参考に造り上げたものだ。当然、偽物だが浦田重工業にしか知り得ない情報だ。特に深海棲艦の兵装改修案には全員がショックを受けたらしい。おいそれと反論出来ないはずだ
場面は変わり502部隊の将校が堂々とした態度で説明をした
『我々は浦田重工業の不穏な計画を掴んでいました。元帥の命令により調べた結果、我々でも驚くべく事を企んでいました。奴らは深海棲艦を我が物とし、世界征服を企んでいます!』
「嘘だ!これは何かの陰謀だ!」
副社長は喚いたが、憲兵達は銃口を向けられ取り押さえられた。秘書も同様だ
『しかも、あろうことか深海棲艦を対抗するため元海軍中将が立案した『艦娘計画』を批判するよう仕向けたのも彼らです。実際に試作段階で生まれた艦娘と彼等がした仕打ちを撮った映像です』
場面が変わり映し出されたのは、時雨が深海棲艦である駆逐イ級の集団を淡々と倒す戦闘シーンだ。実は、これは時雨が提督と博士が出会いデータを取るために撮影したものだ。時雨を目の見える範囲で出現し、データを取って研究期間を短くさせるために映像を撮ったものが、まさかこんな所で役に立つとは思っていなかった。拘束された時、西村軍曹達が撮影した映像記録は紛失したが、こういった所は放って置かれた。浦田社長にとって興味が無かったのだろう
テレビを見た人達は、辛酸を嘗めていた深海棲艦が一人の少女に倒される映像には仰天し、中には歓声を上げた。マスコミや評論家たちが『艦娘計画』をバカにしていたが、実際に倒される場面を見せられると喜んでしまう。誰でもそうだ。憎き敵が倒されるのには喜ぶのは当然だ
しかし、次に映し出される映像には誰もがショックを受けた。中には悲鳴を上げるものもいる。何故なら、信じられないものが流れたのだ。それは……
『――!ああああぁぁぁぁっ!?』
『ふふふ……!どうした!?さあ、泣け!もっと泣け!そうだ、その調子だ!』
『止めて!嫌ああああぁぁぁぁ!!』
『殺して欲しいのか?だが、安心しろ。簡単には殺さない。さっさと話したらどうだ!?私としては、まだ粘って貰わないと面白くないがな!』
『お願い!止めて!誰か助けてえぇぇ!』
映し出されたのは拘束し時雨を拷問している映像である。時雨が酷い目に合わされた拷問の映像がテレビ放送されているのだ。その映像を見た全員が金縛りがあったかのように身動きしなかった。艦娘である時雨を拷問される映像が流れた事もあるが、それよりも拷問相手が深海棲艦である。しかも、戦艦ル級改flagshipだ。それに加えて、拷問道具を持ってくる浦田重工業の従業員には全く見向きもしない。戦艦ル級が攻撃しているのは、艦娘の時雨のみで人間には危害すら加えない
こんな事はあり得るのか?深海棲艦は人を見るな否や、無差別に攻撃してくる。それが常識だ。だが、映像ではそんな常識を打ち破るものだった
しかも、深海棲艦が人間では死ぬだろうと思われる鈍器か何かで艦娘を拷問している。情けも一切なし。誰がこんなのを予想出来ようか?テレビから流れる時雨の絶叫と楽しげな戦艦ル級改fiagshipの狂った笑いに呆然とした
「バカな……これは出鱈目だ!」
「本当にそう思うか?」
副社長は叫んだが、元帥は冷たかった。勿論、この映像には信ぴょう性が問われるだろう。しかし、この映像を裏付ける証拠は揃っている
浦田重工業が経営する刑務所には、非道な実験をしていた事、深海棲艦を使って世界を攻撃するための作戦資料、そして艦娘の拷問である。死刑囚の顔はこちらで編集して身元不明にしたが、実験映像は本物である
そして、何よりも時雨が拷問された映像が衝撃的だっただろう。手足を鎖と重りで自由を奪われ、つるし上げられている。時雨の身体は、擦り傷や鞭跡や銃痕、そして打撲だらけで服も血まみれだ。これだけで激しい拷問を受けたことを物語っている
実は時雨達が出発する前に先遣隊として部隊は、秘密裏にマスコミを襲撃した。各局を制圧した部隊は、502部隊から渡されたテープを指定時間に流すよう言われた。電波の関係で流せるのは関東地方だけだが、それでも十分だ。だが、内容が余りにも衝撃的過ぎてテレビ局を占拠した陸軍の部隊全員どころか拘束され抗議しているテレビ局員ですら呆然とした
国民も同様だ。テレビを見た国民は、驚きのあまり映像に釘付けになった。しばらくして失望という沈黙の底に静まり、やがて浦田重工業や政府や軍に対する怒りとなって噴出した
「なんちゅう出鱈目だ!何なんだ、あの映像は!」
「浦田重工業は、優良企業じゃなかったのか!」
「深海棲艦と手を組むどころか、あんな幼い少女を拷問するなんて!幾ら何でも酷過ぎる!国民を騙して暴走しているんじゃないか!」
「いや、違う。隠しただけだ。だが、政府も軍もグルだ!どうせ、目を瞑っていたに違いない!」
「そうだ!浦田重工業を潰せ!政府も軍も全員クビだ!」
群衆は、いまや暴徒と化していた。自分達を守ってくれるはずの軍と政府が悪徳企業と手を組んでいる事に怒らない者はいない。『お国のため』と言われるかも知れないが、限度がある。まして、人類の敵である深海棲艦と手を組んで世界を手中に収めるなんてもっての外だ
群衆はこぞって近くの陸海軍基地や浦田重工業に押しかけようとした
「ちょっと待て」
そんな中で、冷静に立ち返り事実を整理しようとする者もいた
「502部隊と言ったらクーデター残存部隊だったはずだ。日本を混乱に招こうとしているかも」
「そんな事があるか!深海棲艦は世界を攻撃しているのに、なぜ日本だけ攻撃を受けていない!?それが何よりも証拠だ!」
「お前な、そこで働いているかも知れんが、あいつらはお前の事なんてどうでもいいと思っているぞ!」
たちまち口論となり、取っ組み合いも始まった。警官や憲兵隊は、放送局や国会議事堂に立てこもる部隊のにらみ合いよりも群衆に着手せざるを得なかった。実は放送直前に警察と憲兵隊は、先遣隊の動きを察知して出動させた。しかし、先遣隊は精鋭だったこともあり、運よく放送局を無血で占拠出来た。職員を人質とし立てこもって時間稼ぎをした甲斐があった。警官も憲兵隊もこの放送に困惑している。警官はともかく、憲兵隊はまもなく上からの命令で包囲を解くだろう
空港
「見なくてもいいです!時雨は、十分戦いました!」
「僕は大丈夫。……大丈夫だから」
空港では時雨達は、502部隊が放送している映像を流しているのを凝視していた。映像作成の際に拷問された映像まで使うと将校が言ったが、時雨は否定はしなかった。それくらいしなければ、誰も真実に気がつかないだろう。実は時雨を救助作戦の際に、監視カメラの映像データを持ち帰ったのだ。囚人に対する投薬や人体実験などの非道なデータが沢山あったため、将校はそれを使う事を決意した。勿論、時雨が拷問される映像もあった
しかし、やはりあまりいいものではない。身体が震え、泣きそうになる。不知火と大淀が倒れそうになる時雨を支えてくれた。提督も龍譲も呆然としていた。聞いてはいたが、まさかここまで酷い目に会わされているとは思わなかったからだ
あの時……僕は泣いていた。絶望していた
戦艦ル級改flagshipによる拷問で心身がボロボロになり、傷の手当もされず、血まみれで破れた服を何日も着て、助けを呼ぶも助けは来ず、食事も睡眠もとらせず
右腕は潰れ、左足はへし折られ
廃人になりかけていた。あれは地獄だった
しかし、僕はこれで挫く訳にはいかない。手を差し伸べてくれる人は居る
不知火は時雨に拷問映像を見せまいとテレビから離れるよう促したが、時雨は拒否した。僕はここで、音を上げる訳には行かない
「顔色が悪いぞ。休んでおけ」
「せやで。幾らなんでも」
戦いの前に士気や体調も大事だ。戦えない人は、戦場に出すわけにはいかない
「僕は大丈夫。本当に大丈夫」
時雨は気を取り直して何とか踏みとどまった。だが、幸いな事にこの映像は確かに効果はあった。情報だと、囚人の人体実験や時雨の拷問の映像に国民は嗚咽と鳴き声と罵り声で溢れているという
皆から介抱され座らされた時雨は、安堵した。誰もかれも艦娘を嫌ってはいない。未来の戦争で未来の提督と艦娘達を苦しめて来た反艦娘団体というゲリラは、深海棲艦の手先ではなく、浦田重工業だった。それだけでも安心した
国会議事堂の会議室は、映像が終わるまで釘付けだった。何しろ、浦田重工業が隠していた行為をテレビを通じて流していたのだ
(これは映像の暴力だ)
副社長は、そう感じていた。もしかすると、全国ネットで流しているかも知れない。真実であろうか無かろうが、これでは浦田重工業に対する反感を買ってしまう
現に非人道的な映像が流れる度に、会議室の空気が明らかに殺気立っているのを副社長は感じ取った。502部隊は、映像を通じてこちらを完全に悪と認識させるためであるのは明白だ。これでは、こちらが大変な事に成る。社長が用意してくれた偽の証拠では、誰も信用しないだろう
実際に将校が考えた作戦は、正に平行世界でも度々行われていた。特に残虐性の証言や映像は使いようによっては、恐ろしい効力を発揮する。世論を誘導しやすくするのが簡単だからだ。虐げられた者達に世間が同情し、加害者を徹底的に批判するからである
例えば、湾岸戦争当時はこんな事があった。1人のクウェート人少女「ナイラ」がアメリカ議会に登場し次のように証言したのだ
「病院に乱入してきたイラク兵士たちは、生まれたばかりの赤ちゃんをいれた保育器が並ぶ部屋を見つけると、赤ちゃんを一人ずつ取り出し床に投げ捨てました。冷たい床の上で赤ちゃんは息を引き取っていったのです。本当に怖かった……」
ナイラが涙を流した後、その証言はメディアを通じて報道され、全米が涙を流したと言う
そして、アメリカは中東に軍を派兵し湾岸戦争に勝利した。しかし、戦争終結後に問題が発覚したのである。あの証言をしたナイラは、実は在米クウェート大使館の娘で、アメリカ国内で贅沢な暮らしをし、実際にはクウェートには住んでいないナイラ=アル=サバーであることが明らかになったのだ。ナイラがクウェートから奇跡的に生還したというのも、アメリカの世論がガラッと変わったあの証言も、何もかも全て嘘だったのである
つまり、真実だろうが嘘だろうが、世論を巧みに誘導出来ると言う事である。浦田重工業は上手い事使っていたが、まさか502部隊がこのような事をするとは思わなかったのである。しかも、これが偽者だという証拠がない。映像は全部、浦田重工業のものだ。そして、マスメディアの発展も浦田重工業のお蔭である。浦田社長は、平行世界の日本の高度経済成長期を参考にあるものを持ち込んだ。それはテレビである。マスメディアのにも力を入れた浦田重工業だったが、それが追い詰められる形になるとは皮肉である
映像が終わると同時に副社長は辺りを見渡した。総理大臣や国会議員だけでなく軍人も記者も同じだ。全員、殺気立っている。元帥が引き連れて来た憲兵隊もこちらに銃を向けているのだ
「言い訳はあるか、浦田重工業?……いや、侵略者共!」
元帥は副社長の胸倉を掴むと叫んだ
「日本をここまで発展させ、しかも類を見ない優良企業だと思っていたが、まさか裏でこんな事をしているとは!貴様ら、どういうつもりだ!人々が深海棲艦によって苦しんでいる中……まさか自分達の手先にして、しかも世界各国を攻撃しているだと!?何様のつもりだ!」
「こ、これは……」
「神にでもなるつもりか!そう言えば、お前のボスは政府批判で有名だったな。確かに軍人や政治家の中には、過激でどうしようもないバカな連中はいるが、世界を滅ぼそうなどと思った輩は誰一人としていないぞ!」
元帥の怒りに押され副社長は冷や汗が出て萎縮していたが、秘書の方は無反応だった。銃を突きつけられても余裕の顔だ
「こいつらを拘束しろ!」
元帥が叫んだ直後、テレビの映像が乱れた。502部隊がまた何か流すのか?いや、そんな予定はない、と元帥は否定した。確かに残虐性の映像を流して国民の認識を浦田重工業が悪とさせる作戦は驚いたが、この後の予定はない。と言う事は…
「浦田の仕業か?」
映し出されたのは、社長室の椅子に座りながら拍手する浦田社長の姿だった
放送局
502部隊に協力していた先遣隊は驚いていた。映像を流して、浦田重工業の悪事を流したのはいい。しかし、まさか浦田重工業が電波ジャックするとは思いもしなかった
いや、陸軍中野学校(諜報機関)の協力もあって敵の妨害もある程度は予想はしていた。そのため、この作戦が失敗するとビラを撒くという手段もあったが、放送を妨害される事は無かった。全部流した後に、電波ジャックは無意味のはずだ
「これは一体?」
「分からん。だが、身の潔白の映像じゃないだろ!」
苦々しく吐く部隊長。何をするか分からないが、ここにいても、もう用済みだ。後は打ち合わせ通り、全部隊浦田重工業の本社ビルに向かうだけだ
「よし、従業員は解放して本社ビルに行くぞ!」
兵士達は放送局の職員を解放すると外に出た。民間人を拘束するのは本心ではない。予想通り、外は大混乱だった。放送局を包囲していた警官達も右往左往しており、刑事は無線を握りしめて問いただす始末だ。数人立ち向かって来るものも居たが、簡単に追い払った。警官には恨みはないが、今はここで足止めを食らう訳にも行かない。警官達も、まさかこんな事態になっているとは思わなかっただろう
元帥からの事前の命令で作戦は決行する事に成っている。既に増援が来ており、戦車も装甲車も外に待機していた。既にゴーの合図は出されているのだろう。全員が乗ると同時に発進した
後は順調に作戦が進んでくれればいいのだが。部隊長はそう願わずはいられなかった。時雨を酷い目に合わせた浦田重工業を倒さないといけない。任務よりも時雨に同情したのだ。あの狂った浦田重工業を倒さないと気が済まない
反攻作戦の初めは、テレビを通じて浦田重工業の悪事をばらしたと言う事です。刑務所でコッソリと回収した時雨の拷問映像を流したお蔭で世論が同調してしまいます
本編で出て来た「ナイラの証言」
冷戦が終結した翌年、イラクによるクウェート侵攻をきっかけに湾岸戦争が勃発したのは、クウェートに侵攻したイラク軍よりも「ナイラの証言」が大きかったでしょう
世界世論が向かった証言と写真一枚
証言は「ナイラ証言」として世界中に配信され、米国議会でも取り上げられました
それがナイラという少女です
「イラク兵がクウェートの病院に来て15人の未熟児を床に放り投げ殺した」と証言し、イラク兵の残虐さを訴えました
そして一枚の写真。これは原油にまみれた水鳥の写真です。今でもネットで見られると思います
これをイラクが海に原油を垂れ流したせいとの事
この証言と写真が世界に衝撃を与え「イラクは酷い」「クウェートを救え」という論調に染まってしまいます
しかし、ナイラの証言そのものは米国の広告代理店がねつ造したものだと判明しました。ナイラという少女はクウェートの駐米大使の娘で、そんな事件は存在しなかったとの事
さらには、原油にまみれた水鳥もイラクとは関係ない場所で撮られたもの
情報操作で世論はガラリと変わってしまうのは世の中です。まあ、当時はインターネットなんてなかったですし
因みに湾岸戦争で一番振り回されたのは多分、日本(金だけ出してアメリカなどから非難され、クウェートからも感謝されなかった)
まあ、悲惨な写真と非道な証拠があれば大抵の場合、世論は同調します。やり過ぎるとバレて誰も相手にはしないでしょう
作品の場合だと、平行世界からテレビを持ち込んで広めたのは浦田社長。マスメディアを発展させたのも浦田重工業。そして、テレビを通じて悪事が暴露されたのは皮肉としか言いようがありません(浦田重工業が窮地に陥ったとは言っていない)