平行世界の日本
この物語の世界とは別の世界、深海棲艦が存在しない21世紀の世界が存在していた。神の悪戯かどうかは誰にも分からないが、隕石の衝撃により、制限はあれど双方の世界を行き来可能な通路が生まれた。しかし、これを第二次世界大戦の悲劇を避けるためと己の欲望に使うための理由で悪用している者がいた。それが浦田社長。運が良かった事にワームホールが開いた先が宗教団体のある施設だった事。そして、宗教団体を隠れ身として活動するのが出来た事である。宗教団体は金さえ渡せば何も言わない。そのため、ホワイトな商工を設立し宗教団体を支援する一方、現代技術や兵器をせっせと自分が住む世界へ送り己の野望のために準備していた。元陸自隊員の協力の元、自衛隊の旧式兵器も入手出来た。一見、こんなのはバレるかも知れない。しかし、浦田社長は現代日本の法の抜け道を知っていた
それは、民間技術を軍事転用できるものを入手していたのである。例えば、レーダーのノウハウや武器製造に必要な工業機械は金さえ出せば買える。電卓やコンピューターなんかは自分達の世界では、ぶっ飛んだものだ。特に冶金、化学、加工技術を優先的に取り入れた。何も最先端の技術でなくてもいい。自分達の住む世界は、ミサイルなんてない。銃や爆弾を造って送らなくてもいい。そんなものは向こうの世界でも出来る。鉄やアルミなどの資源はある程度、手に入れればいい。必要なのは、軍事転用できる技術とノウハウそして人員。それだけあれば、十分だ
実は浦田社長の考えは、海外の軍事企業の人と同じである。ある民間の航空会社が海外に航空機に取り付ける部品を売りに行ったら、各国の軍関係者がたくさん集まったと言う。軍事技術は何もミサイルや銃などの火器類だけではない。民生品と軍事品は表裏一体。日本は武器の輸出は厳しくチェックしても、軍事転用可能な民生品はほとんどスルーである。おまけに浦田社長は、最先端の兵器を求めていない。だから、現代日本を誤魔化す事に成功した。入金先を誤魔化した帳簿や税金対策も容易にできる
しかし、問題があった。やはり、兵器が足りない。自衛隊の旧式兵器を入手したが、火力が足りない。そこそこ強く、整備がしやすい兵器が欲しいのである。そのため、海外の兵器がいい。だが、誰かの協力が居る。そのため、宗教団体の教祖様に国家転覆のために必要な兵器リストを渡すとやってくれたのだ。何と某国と繋がりがあるらしく、兵器を秘密裏に運んでくれるらしい。しかし、相手の国は見返りが欲しいらしくイージス艦のデータを欲したのだ。そのため、自分の側近の女性を使った
「私にこんな仕事をさせるなんて」
海上自衛隊の幹部を脅迫させイージス艦のデータを盗むと自殺に見せかけて殺した。独身だからそこまで騒がないだろう
そして真夜中、宗教団体の友人であろう人から兵器の受け渡すと言って来た。浦田社長は、相手の指示通りの場所に待ち合わせた。宗教団体が政治家と繋がっている以上、積荷を偽造する事など容易な事。入港して来た貨物船にはギッシリとロシア製の兵器が乗っていた。RPG-7、プラスチック爆弾、対戦車地雷や重機関砲、Mig21や戦車もある。ジェット機や戦車は流石に分解されていたが、組み立てる事も出来るため問題はない
「どうやって持って来たんだ?向こうでは、違法ではないのか?」
「日本と一緒にしないで欲しい。こっちはこれが商売だ」
ロシア製の武器は、安く買えること、そして頑丈で壊れにくいこと、そしてソ連崩壊によって流通ルートが増えた事もあり、現代でもゲリラやテロリストが使い好んでいる。ジェット機ですら、金さえ出せば乗れるというほどだ。法治国家と謳う現代日本だが、丸め込めばこう言ったことも黙認してくれる。しかし、宗教団体が購入したMi-17が余計だったが
「それでは受け取ろう」
浦田社長は手を差し伸べたが、相手の手には拳銃が握られている。サプレッサー付きだ。周りの部下達も銃を構えている
「まずは金とイージス艦の情報だ。置いて行って貰おう!」
「……やれやれ。どうせ嘘だろ。私の親しい女性によると後ろの物陰に公安がいると囁いていたぞ」
相手は驚愕した。何処の国の人間かはいい。暗闇だったが、滑稽な表情だ。どうやら、目の前の男は警察と内通したらしい。教祖様はこちらの悪事に気付いたのか?それなら、こっちはそれよりも上をいかないと。もう、隠れ身としている宗教団体はいらない
「折角、平和的で取引しようと思ったが、どうやら死にたいらしいな」
「ハッタリは止めろ!例え俺を殺したとしても外交問題になるぞ!コネがあるんでな」
片言の日本語だが、怒りのあまりに怒鳴った。銃を向ければ従うと思ったらしい
「この国の外交や政治なんてどうでもいい――やれ」
私の女性は、目にも留まらぬ速さで部下に近づくと胴体にパンチを食らわせた。ただのパンチ。しかし、そのパンチは部下の男性の胸を貫通している
「×○□~~!」
母国語だろう。部下達は女性に向けて発砲したが、何と女性はケロリとしている。それどころか、変身したのだ。戦艦ル級改flagshipを知らない人達は哀れだ。化け物が現れたと思ったら、強烈な痛みを味う前に死んでいた。銃声が鳴り響いたが、数分後もすると銃声が鳴り止んだ。浦田社長は逃げも隠れもしない。その必要はない。周りは死体だらけだ。リーダーだった人は失禁して腰を抜かしている
「さて、誰の仕業だ?」
「こんな事をして――」
しかし、相手は悲鳴を上げた。女性は更に死体を持って来たのだ
「ツイデニ見張リノ警官モ殺シタ」
「○×□――!」
相手はよくわからない叫び声を上げたが、戦艦ル級改flagshipは右腕を踏みつけ潰した
「質問に応えろ。誰の命令だ」
「た、たたたた大使館だ」
「なるほど。他所の国の命令か。では大使館員は皆殺しだ。――頼めるか」
「イイワ。コッソリト殺スノネ」
まるで日常の会話の様に軽い口調。故に狂気を感じさせる。流石のリーダーもこの異常事態に頭が付いて行かない
「ま、ままま待て!君達は――」
リーダーが覚えているのはそこまでだった。化け物の女性の手の拳がこちらに向かって来たのが最期だった
その翌日、平行世界の日本のある港でとんでもない事件が発生した。数人の外国人と公安の職員の変死体が発見された。また、ほぼ同時刻に某国の大使館員全員が惨殺されるという事件も起こった。付近を通りかかった人は、玄関前に人の死体が沢山あるのを目撃し通報したらしい。しかも殺され方も異常で、どれも何か鈍器で殴られたらしいとの事。海上自衛隊の幹部の自殺と情報漏洩疑惑も重なった事により、この一連の事件は日本を震撼させ、更には外交問題にまで発展した
警察は事件を必死に究明しようとしたが、手掛かりがなかった。リークしていた公安も宗教団体の裏取引である事は突き止めてはいたものの、現場の人間が死んでいるためどうしようもなかった。自殺した自衛官も同様である。脅迫されたのは分かっているが、不明過ぎる。二人組の男女については情報も少なく、何者かも突き止められない。また、ネットでは様々な噂が流れた。『右翼団体の仕業』『CIAの暗殺』『政府の闇取引を口封じのためにSATによって抹殺』など
市民団体が国会議事堂に押し寄せ、総理を辞めろ!というコールが起こる始末である
しかし誰もこの事件の真相にたどり着いた者はいなく、数か月もすると国民の関心は薄れ、次第に忘れられた。そのお蔭で、兵器をたくさん積んだ貨物船の行方は誰も知らない
その兵器は、時雨達が住む世界で使われていた
陸軍が浦田重工業の私兵軍団と衝突する数分前、民衆は浦田重工業の本社ビルに殺到した。平行世界の日本の戦前ではこんな事は考えられない光景だ。それはともかく、重工業の暴挙に民衆と警官、そして憲兵隊が本社ビルに向かったが、彼等の行進はあるところで止まった。何と、浦田重工業の私兵達が道にズラリと並んで道路を封鎖している。異様な装甲車や戦車も確認出来る。空には見たこともない回転翼機が飛び回っている
「な、何なんだ?」
1人の男は呟いた。憲兵隊や警官とは違う威圧感。しかも、警告すら発しない
憲兵隊も警官も戸惑った。今までこんな相手をしたことはない。権力を振りかざして逮捕も出来るが、今回は違う。しかも、部隊長と思われる人が号令を出すと浦田の部隊はこちらに銃口を向けた
「なっ……!貴様ら!何をしているのか、分かっているのか!」
憲兵隊長は怒鳴ったが、返事はなし。民衆もこの異様な光景には、誰も声を上げない
「ま、まさか撃ったりしないよね?」
1人の男は構わず進んだ。幾らなんでも、民間人相手に銃を発砲する事はない。相手は民間企業が雇っている軍団だ。そう思ったのだろう
しかし、相手はそんな生易しいものではなかった
一発の銃声が響き渡り、その男は血を吹き出しながら倒れる
たちまち阿鼻叫喚となり、群衆は逃げ出した。彼らは悟った。こいつらは本気だ!
憲兵隊と警官は応戦しようとしたが、彼等の持つ装備で倒せる相手ではない。自動小銃どころか装甲車の重機関砲、そして何と戦車砲まで火を吹いたのだ。回転翼機からは、ロケット弾が発射される始末だ。予想外の行動に流石の憲兵隊持つ警官も群衆と一緒に逃げ出した。拳銃ではどうにもならない
逃げている間も、私兵部隊は群衆に向かって発砲していている。私兵部隊が撃つ自動小銃は人体に大穴を開ける。戦車と装甲車は警官や憲兵隊に向けて、火を吹き死体の山を築く
最早、戦闘ではない。虐殺である。ある意味、強行手段ではある
「こちらに歯向かう民衆を攻撃しろ。これで、大本営は思い知るだろう。我々は貴様らよりも強いとな」
マスメディアによる世論の訴えなぞ、気にはしていなかった。自分の部隊に命じたのは「歯向かう者は、先制攻撃しろ。例え、例外は一切なし」と伝えた。本来なら、これも考えられない事だ。反発するだろう。しかし、浦田重工業に働く者は、そんな疑問を微塵にも感じなかった。既に浦田社長は平行世界の日本の宗教団体がよく使う手を導入したからだ。洗脳技術を
よって、部隊長の命令が下された部下達は、躊躇なく民間人相手に銃をぶっ放したのだ。言い換えれば、武力弾圧である。本来なら、国民を武力弾圧するような政府や組織は長く続かないし、世間から非難が上がるだろう。しかし、例外も存在するのである
平行世界だと、代表例として中国の天安門事件である。民主化を求めるデモ隊に対して、中国政府は武力で制圧したという。国際世論から批判が出ても、中国政府は否定し続け、時間が経つにつれて人々は無関心になってしまった。それに加えて、経済という力を活かして国際世論の批判を躱している。他の国がやれば、間違いなく国家転覆しているだろう。結局は、外交と経済など上手く使えば非人道的な行為は、相手も目を瞑ってくれる。経済という餌には、誰も抗えないという事である
浦田重工業は、中国政府ほどではないが、大本営や政府に対して巧みに付き合っていた。武力制圧して批判されても、大半の人達は既にトラック島行きの船に乗っている
そのため、武力制圧を実行したのだ。この暴挙の知らせを聞いた陸軍大将も元帥も思考停止に陥った。まさか、彼等がそんな事をするとは思わなかった。最早、これは内乱だ。早速、待機させていた一個師団を向かわせたが、防戦一方でどうにもならないという
「なぜ、進軍出来ん!企業が雇っている軍隊を倒せないとはどういう事だ!」
「強力な戦車と回転翼機がいるせいです!我が軍の戦車が太刀打ちできません!」
こちらも三式中戦車を繰り出したが、真っ先に撃破されると言う。なぜ、こうも相手は強いのか?深海棲艦が上陸して襲って来たならともかく、企業が保有する兵器の方が国軍よりも強力だったとなれば、面目丸潰れである。しかも、戦車や戦闘機などの兵器は、浦田重工業のお蔭で発達した。欧米に追いついたと思った矢先に倒されたのだからたまったものではない
陸軍の部隊長は物陰から、この異様な光景を目を見張った。元帥の命令で浦田重工業を攻撃したのはいいが、浦田重工業が保有する私兵軍団に恐怖した
こいつら本当に日本人か?兵器が違うし、ユニフォームも違う。歩兵に限っては、自動小銃を持ってやがる。こんな話、聞いていない。大体、あの上部が丸い異様な大きい戦車を破壊する手段なんて持っていない。何処かの部隊が自爆覚悟で攻撃したが、全部無駄に終わったらしい
部隊長も元帥からによる命令には半信半疑だが、浦田重工業のやり方に信じざるを得なかった。逃げ遅れた群衆や憲兵も全員、殺したのだ
西郷隆盛が率いた西南戦争以来、日本で内戦は起こった事が無い。部隊長は初めての実戦だったが、これほど強い敵とは思わなかった。今では逃げ隠れるのが精一杯だ。無線でありのまま報告したが、司令部は信じたかどうか
「大尉、どうします!?」
声を震わせながら部下が聞いてきたが、答える事が出来ない。大勢いた部下が、今ではたった一人だ。雨のように降る銃弾と降ってくる光とロケットで部隊は壊滅。私の部隊は数分で壊滅した。いや、数秒かも知れない
「他はどうなっている?」
「分かりません!」
物陰に隠れながら、通り過ぎる戦車と歩兵を眺めていた。部隊長も部下もこの兵器には驚いた。浦田重工業の支援により三式中戦車が開発出来たが、浦田重工業はそれよりも強力な兵器を持っていた。第一、エンジン音が違う。空を飛ぶヘリも見た事が無い。502部隊という奴らが、この兵器と戦ったと聞いたが、まさか本当に現れるとは思わなかった
「戦車は……2種類あるのか……」
観察していた部隊長は、行進する浦田部隊に気付いた。姿形が違う
空も同様だ。ヘリとジェット機のお蔭で制空権は失った。以前までは、列強国やら満洲国建国やらで海外と戦う事に成ると先輩から教わった。しかし実際は違った。まさか日本の、しかも首都の近くに敵がいるとは思いもしなかった
「移動しましょう!あんな化け物の兵器がいたら、我々は全滅してしまいます!」
浦田部隊が通り過ぎて部下が声を掛けた。勿論、そうするつもりだ。このままだと、本当に日本が壊滅してしまう!
司令部
元帥は司令部に籠って報告を待ったが、返ってくるのはどれも苦戦と援軍要請のみ。善戦したという報告はゼロである。攻勢に出たつもりが、押し返されているという。特に海岸に近くにいた部隊は悲惨だった。深海棲艦による艦砲射撃や空襲で壊滅したという。しかし、これはどうする事も出来ない。深海棲艦には、こちらの兵器が通用しない。幸いな事に東京湾には深海棲艦はあまりいないらしい。何か意図があるのだろうか?嫌な予感がする。確かトラック島に向けて輸送艦隊を出すと502部隊から聞いたが……
兎に角、このままでは不味い。海からの攻撃は深海棲艦が、陸や空からの攻撃は浦田の私兵軍団が相手になっている
「早く、502部隊に繋げ!」
部下に命じて無線連絡した。このままでは持ちこたえられない
『元帥、何でしょう?』
「到着するまでどれくらいだ?」
『1時間以上はかかります』
「30分で到着しろ!奴らが持つ異質の兵器のせいで我が軍は、持ちこたえられない!」
元帥は焦った。反攻作戦が失敗しかねない。陸海軍の総攻撃で浦田重工業の部隊を引き付けるはずだった。装備の質の差はあるかも知れないが、もしかすると数の暴力で勝てるかもしれない。502部隊はその隙に海岸沿いに侵攻。守りが薄い所をX兵器で攻撃。新型兵器を無力化させる
しかし、このままだと押し返されてしまう。急遽、増援で2個師団加えたが、それも押されているという。何しろ、目にも留まらぬジェット機が飛び回り、鉄の怪鳥とも言える攻撃ヘリが地上部隊に向けて狙い撃ちされ、巨大な戦車に押されているという。一企業が持つ兵力が、ここまで強いと頭を抱えてしまう
「あの海軍大将は何処へ行った!?」
後輩である海軍大将は、浦田重工業と親しい関係だ。そのため、陸戦隊を出すよう要請したが、はぐらかされた。しかし、こうなってしまうとそうは言ってられない。側近の士官に問いただしたが、予想外の返答が帰って来たと言う
「すみません!大将は逃げてしまいました!黙っていろ、と脅されまして」
「……何という事だ!」
元帥は頭を掻きむしった。軍のトップが逃げるなんてあってはならない事じゃないか!
首都に近い所で戦闘が発生しているため、道路という道路は避難民ばかりだった。元帥も予期はしていたが、ここまで混乱するとは思わなかった。敵が強すぎたのである。それに加えて、浦田部隊は民間人問わず無差別攻撃しているため、余計に混乱してしまった。海岸付近は既に深海棲艦が展開してしまった事もあって、避難経路が限られている。鉄道も通っているが、とても間に合わない。敵が近くにいる
そのため道路という道路は渋滞で一杯だ。陸軍大将はやむなく憲兵隊に対して、発砲許可の規制を緩めた。このままだと暴動が起きてしまう。それでも、事態を沈静化出来る訳がない。既にあちこちで暴動が起こっている。何しろ、遠くから戦闘による爆発と発砲音が嫌でも聞こえて来るのだ
その混乱に上空で物凄い爆音が響いた。見かけない飛行機が空を飛んでいるのを目撃した市民は、肝をつぶした
明らかに軍の飛行機ではない。消去法で浦田重工業のものとしか考えられない。浦田重工業は、強力な新兵器を持っているという噂は本当だった。そして、無差別攻撃している事も深海棲艦と組んで世界を攻撃している事も。この飛行機の翼の下に吊るしているものは、新型爆弾に違いない!
それは単に対空ミサイルに過ぎなかったが、そう考えるとパニックに火がついた
恐怖のあまり失神する者、持病の心臓病の発作が起きて頓死する者、訳の分からない絶叫を上げながら走り回る者
交通統制や避難誘導に当たっていた警官も憲兵も、同様だった。とてもではないが、このパニックを抑える事が出来ない。何しろ、あんなものが空を飛んでいては、抑えようにも抑えられない
道路には町から逃げる人々がいたが、一人だけ逆方向に向かっている者がいた。そのものは女性であり、戦闘が行われている所へ向かっている。ジェット機が飛び回っているにも拘わらず、平然としていた
「骨董品でも強力なのね」
女性は呟いた。実は陸軍の部隊長が見た強力な戦車は、平行世界の世界では旧式と化している兵器類だ。特に浦田重工業は、強力な戦車を持っていると無線で喚いているが、女性はため息をついた
戦車の正体は、74式戦車とT-72である
前者は陸上自衛隊が10式戦車更新のために74式戦車を廃棄する工場からかっぱらって来た。火器管制も入手出来、オイルを入れると動ける。T-72は旧共産主義圏にて、多く使われた戦車である。尤も貨物船に乗っていたのは輸出用モデルであり、装甲や砲弾の威力等に大幅なスペックダウンを施した、所謂「モンキーモデル」である。米軍相手には全く通用せず、現代日本でも真っ先に撃破されそうな骨董品が、この世界では強力だ。三式中戦車をものともしない。空から叩こうにも、上空にはジェット機が飛んでいる。歩兵が戦闘車両に敵う訳がない。装甲が薄いところを狙うかか対戦車地雷で爆破させるかでやらないと無理である。502部隊がRPG-7をコピーして部隊に普及させているが、そんなもので簡単に装甲が破れはしない
浦田社長が余裕であるのはそのためである。尤も、兵器は万能ではないため数か月前に廃工場で戦闘があった際にヘリが撃墜した時は、驚きもしなかった。弱点を突かれたためだ。しかし、旧式で使い勝手良い兵器を奪い改装を施した発想は確かに有効である。相手から見れば、まるで魔法のように現れているように見えるが、浦田社長にしてはこれといった事はしていない。とは言え、F-4EJやMig-21などのジェット機や74式戦車やT-72といった戦車など持っているのは驚きだ。運用出来たのは、長年に渡って工作機械や技術を持ち込み蓄えた成果でもある
そう考えている内に、浦田部隊の警備隊長から無線連絡があった
『ハンター1からバトルシップへ。部下がお前の大好きなお友達を見つけたそうだ。どうだ?F-4に爆撃させるか?』
「こっちも確認している。手出し無用た。私がやる。楽しみを取っておきたい」
『任務を忘れるな。社長が怒るぞ?』
既に空母ヲ級が確認しているが、深海棲艦は人間には興味がない。要人暗殺には、写真と住んでいる場所を渡した程だ。それでも一家殺害など多大な被害が出たが、そんな事はどうでもいい
しかし、無線通信によると反撃されて思うように攻撃出来ないらしい。海岸沿いの道路を通るとは大胆だ。深海棲艦が待ち構えているが、その艦砲射撃をかわしている。道路を破壊するよう命じたが、その前に艦載機の攻撃を食らって阻止されているという。恐らく空母艦娘がいるのだろう
「時雨以外にも艦娘がいるという情報は本当だな。しかし、何人いようが、大したことではない。無駄な事を」
人混みの中、ある場所だけは人は、避けている。高級車と護衛が軍人である事から恐らく上層部の人間だろう。その女性は、そう感じた。どうせ、上層部の人間を殺すよう『主』から伝達されている。恐らく、ジェット機と強力な戦車(?)を見て驚愕し尻尾を巻いて逃げようとしたのだろう。後部座席の窓にはカーテンがしてある
「おい、お前!何、近づいているんだ!」
護衛はこちらに気づくと銃を構えた。高圧的で怒鳴り散らしている。彼女はそんな護衛を無視して車に触る
いい車だ
「
護衛は銃を構えたが、その後の事は覚えていない。何故なら、『彼女』は護衛の顔面にパンチを食らわせたからだ。只のパンチならいい。顔面が陥没し、護衛は即死したのだ。何があったのか、分からなかったのだろう
「な、お前!何をしている!」
残りの護衛は1人の女性を取り囲み銃を向けたが、全員息を呑んだ
凄まじい殺気と睨み付ける目にたじろいだからだ。それでも、海軍大将を守るのが彼等の任務だ。取り押さえようと1人が飛びかかったが、逆に殴り飛ばされた。比喩ではなく、本当に数メートル飛ばされた
「発砲を許可する!射殺しろ!」
銃声がなった。しかし、護衛達は驚愕した。弾は確かに命中した。にも拘わらず、倒れるどころか出血すらしない
「な、何なんだ!」
恐怖にかられ、護衛全員が女性に向けて発砲したが、倒れない。それどころか、女性とは思えない怪力で護衛を殴り倒したのだ
異様な光景に周りにいた人々は悲鳴を上げて逃げようとしたが、避難している人混みを簡単に逃げる手段はない。たちまち阿鼻叫喚となった
「うあぁぁー」
護衛が謎の女性によって殺されるのを見たドライバーは、外見も恥も殴り捨てて逃げてしまった
「ちっ……まあ、いい。頂くとしよう」
車に乗ろうと体を振り向くと、1人の軍服を着た男性が、座り込んでいる。さしずめ騒がしいので外を覗いたら、殺戮の現場になっていたため逃げようとしたが、恐怖のあまり腰を抜かしたのだろう
「おい、お前。運転しろ」
「き、貴様!こんな事を――ぐぁ!」
海軍大将は我に帰って喚いたが、相手の女性は胸ぐらを掴むと力任せに運転席に放り投げた。人をゴミを捨てるかのように軽々投げたのは、早速普通の女性ではない。いや、人間ではない
「ブツブツ言ってないで運転しろ。私は艦娘を捕まえなければならない」
「貴様、こんな事をして只で済むと思うな!」
海軍大将は何が起こっているのか分からない。しかし、変な輩が護衛を殺し、海軍大将を投げるどころか命令しているのだ。こんな事があってたまるか!
(そうだ!こんな事をして、いいはずがない!海軍士官学校では最優秀の成績を納めて卒業した。 江田島では教官を勤めて後輩を育てあげ…… 部隊に配属されてからもみんなから慕われ 尊敬されたからこそ海軍大将になれた。浦田社長との交流を深め、浦田重工業を生み出す軍事技術を軍に取り入れた事で、南雲 忠一や源田 実などのライバルを倒すことが出来た!結婚もして、既に2人の息子と娘がいる!税金だって他人よりもたくさん払ってる! どんな敵だろうと、ぶちのめしてきた。いずれ元帥にもなれる!私は豊吉和彦海軍大将だぞーッ!)
心の中で叫んだ!そうだ!恐れる事はない!相手は世間知らずの女だ!例え、浦田社長のお気に入りの女性だろうと、知った事ではない!高学歴の癖に柔軟性が全くないライバルをたくさん蹴落としたのだ!たかが、女ごときで自分の人生を失ってたまるか!
「いいか、よく聞け!この非国民が!死刑にしてやる!絶対に死刑にしてやる!私にこんな事をして――」
しかし、残念ながら豊吉大将の罵声はここで終わった。再び胸倉を掴まれたのだ
「もう一度言う。……運転しろ」
今度は運転席に押し込められた。苦痛で呻く豊吉大将だったが、今度は震えだした。目の前の女性に恐怖した
こいつ、こんな殺気を出していたっけ?
浦田社長のお気に入りの女性は、殺し屋だったのか?
(何だ、こいつは……そう言えば、数人いた護衛を簡単に倒したぞ。殺される。逃げなきゃ殺される)
「た、助け――ひっ!」
豊吉大将は助けを呼ぼうと声を上げたが、その女性の腕を見て悲鳴を上げそうになった。何と腕が黒くゴツイものに変形したのだ。しかも、その形状は……
「き、ききき、貴様……そんなバカな!」
「さっさと運転しろ。艦娘と502部隊の車両まで運転しろ。場所は追って示す。追いつかなければ殺す」
「は、はい!」
彼女が後部座席に乗る間、豊吉大将は先ほどの現象を必死に考えた。しかし、今の現象をどう説明すればいいのか、自分自身ですら分からない
(何で……何であいつが深海棲艦なんだ!?どういう事なんだ!こうなるんだったら、あいつを左遷させなきゃ良かった!)
実は艦娘の創造主である博士を左遷させた張本人が、この海軍大将の豊吉和彦である。浦田社長にそそのかされてやったためである。そのため、栄転し海軍大将という座を手に入れた。しかし、それが間違いであったと気がついても遅かった。震える手でエンジンを掛けたが、もう1つ問題があった
「あ、あああああの。避難民で道路が溢れていますが」
道路と言う道路は避難民で一杯だ。車も立ち往生しており、避難は滞っている。だが、非情な命令が海軍大将に下された
「関係ない。行け」
その女性は最早、他人の命なぞどうでもいいという事らしい。こいつは人間じゃあないのか!
「はい……」
蚊の鳴く声を上げながら、アクセルを踏む。これにより、避難民に新たな惨劇が訪れたのは別の話
幹線道路では、502部隊が率いる車両が浦田重工業の本社ビルを目指していた。時間が有限であるが、X兵器はトレーラーにある。おいそれと速度を上げる訳には行かない。また、幹線道路が海岸沿いに走っている事もあって、浦田兵や避難民の人達に遭遇しなかったが、艦砲射撃と空襲の洗礼を食らった
それでも、時雨達は奮闘した。装甲車の上に乗ると、迎撃した。特に大活躍したのは龍譲だった。艦載機はひっきりなしに発着艦を繰り返している。艦戦は空母ヲ級の艦載機を撃墜し、艦爆隊と艦攻隊は追跡している重巡リ級や軽巡ホ級を攻撃している
時雨や大淀、そして不知火は対空砲火で空母ヲ級の艦載機を追い返していた。撃墜する余裕はない。味方に当たってしまう
「提督、敵を振り切った!」
「よし、その調子で頼む!」
時雨は提督に現状を報告した。このままだとたどり着けそうだ。敵の妨害がなければ
「敵の妨害がありません。陸軍が浦田軍を引き付けたお蔭でしょうか?」
『本当にそうであればいいけどな。情報によると、一個師団が壊滅的な被害を受けた。強力な戦車とジェット機のお蔭で攻め込めないらしい』
不知火は軍曹に問いただしたが、状況は最悪である。このままだと、浦田兵がこちらに気づくだろう。陽動の意味がなくなる
「ですが、浦田重工業が持つジェット機や攻撃ヘリが来てもおかしくはないです。そのまま、見逃す訳はないと思いますが」
大淀が指摘した。大淀は状況分析が得意らしい。時雨を救助した際に、刺客を送り込んだ浦田の戦力を聞いている
「攻撃ヘリを送り込む事はないだろう。数が少ないゆえに対空戦闘はそこまで得意としない。それにこちらには龍譲がいる。でないとするなら――」
提督が独り言のように無線で言って来たその時、時雨は感じた。殺気を
「な、何や?さっき誰かに睨まれたような」
「ええ。こんな感じは初めてです」
龍譲も不知火も感じたのだろう。大淀も一瞬、幽霊を見たかのように青ざめていた
『おい、後ろから車が来てるぞ!何だ?……あれは、海軍大将じゃないか。しかも……何だ、ありゃ!車が血まみれじゃないか!』
軍曹は叫びに時雨は、後方を見てギョッとした。車のバンパーが血塗れになっているのだ。しかも、あの車は確かお偉いさんの送迎用の車のはず
「あ、あいつだ。きっとあいつだ!未来で僕達を酷い目に合わせた戦艦ル級改が乗っている!」
時雨の警告にその場にいた全員が息を呑んだ。提督も装甲車から顔を出している
「海軍大将を人質にするなんて!」
「いや、大淀。奴がそんな事をすると思うか?」
大淀の言葉に提督は指摘した
「あいつは捕らえた艦娘を非道な事をした上で沈めた奴だ。そんな奴が、人質を盾にすると思うか?多分、巻き込まれたのだろう」
これには大淀は更に青ざめた。つまり、あの海軍大将は殺すつもりだろう。不運にも戦艦ル級改flagshipに捕まってしまったらしい
「ワハハハーッ!」
海軍大将は狂気に満ちた笑いを上げながら運転していた。楽しいからではない。脅迫されたとは言え、ここまでやらされるとは思わなかった。道路上に溢れるほどの避難民達を車で人を轢殺したのだ。女子ども関係なし。制止しようと駆けつけた憲兵や警官もである。そのため、ショックで精神崩壊してしまった。後ろに乗っている正体不明の女性は平気であるが
「追いつきました!あいつらに追いつきました!――ここまでやったんです!私の命はッ!この海軍大将の豊吉和彦の命だけは助けてくれますよねえぇぇぇぇ!」
狂気に満ちた質問を後部座席にふんぞり返っている女性に投げかけた。もう、逃げ出したい!こんな所で死にたくない!それが本音だ。だから、元帥の反攻作戦に反対したのだ!自分のキャリアを台無しにしたくはない!
しかし、彼女の口は冷たいものだった
「ダメだ」
豊吉大将は、泣きもせず命乞いもせず、ただバカみたいに笑っていた
(そ……そうか!これは夢だッ!この海軍大将の豊吉和彦が死ぬわけがない!夢だ!夢だ!バンザイー!)
狂ったように笑いながら現実逃避している海軍大将を他所に彼女は、能力を発動させた。それは 変形であった。肌の色はみるみる内に白くなり、顔も髪も変形していく
目も変化して黄色いオーラを纏い、片方の目から青い炎のようなエネルギーを発している
バックミラーで一部始終見ていた豊吉大将は、絶叫した。まさか、人間が深海棲艦に変身するとは思わなかった。脅迫されたときの腕の変形は、浦田重工業の新技術かと思ったが、違う!人間に化けていたのか!
「お、おおおお前は何者だ!」
「説明シテ私ニ何ノ得ガアルトイウノダ」
深海棲艦特有の怨念じみた冷たい返事に豊吉大将は、悲鳴を上げた。まるで、ホラー映画に出てくる幽霊が、テレビ画面からそのまま現れたかのような錯覚に陥った。豊吉大将は恐怖のあまり、アクセルを踏んだことにより時雨達に追い付く
「モットダ。モット近寄レ。サテ、誰ヲ捕マエヨウカ」
戦艦ル級改flagshipの心の中は、502部隊や艦娘の侵攻阻止の命令よりも己自身の欲望を最優先にしてしまった。早速、命令無視だが、誰も止めることは出来ない
戦艦ル級改flagshipは副砲で車の上部を吹き飛ばすと、シートを踏み台にして身を乗り出した。高速で移動する車を何ともないのか、安定している。戦艦ル級改flagshipの砲、全て艦娘が乗っている装甲車に照準を合わせる
サア、狩リノ始マリダ
実話
日本の某企業「これは気象観測用のセンサーです。上空150メートルまでの乱気流を測定することができます」
ロシア海軍「とても興味深い製品だ。……海軍の航空部隊にとっては」
アメリカ研究機関 副所長「空母に着艦するパイロットに乱気流を警告できる!素晴らしい!」
日本の某企業「え!?いや、ちょっと待て!」
日本の企業が造り出す民間技術は、優れものです
しかし、海外の軍需産業までも注目されているのですから大変です
冷戦期には米ソは軍事に対して巨額の国家予算が投入されまして、最先端の技術を開発してきました。しかし、それは過去の話。財政上の制約もあり、民間で次々と開発される高度な技術を、逆に軍事に活用するのが主流です
有名な話ですと、米国防省はスーパーコンピュータをアップグレードするために家庭用ゲーム機であるプ○イス○ーション3を200台購入したとの事。最近だと北朝鮮のものと見られる無人機に日本のカメラが搭載されていたりと日本の民生品は人気です
武器輸出三原則?民生品と軍事技術は表裏一体。防ぐ事は不可能です。火器類だけが兵器ではないのですから。よって浦田社長も海外の軍事企業と同様に目を付けられました。コンピューター部品や治金技術などは武器ではないですからね。暗視ゴーグルなんてネット注文出来ますし。ただ公安に目を付けられていたらしいですが
なので、こういったジョークが生まれたとの事
アメリカ「ISISの連中はなぜ皆、武器を持ちながら某日本企業の車に乗ってる!?どういうことなのか説明しろ!」
海外「アメリカは馬鹿なの?そんなの日本車が乗りやすい決まってるだろ!」
アメリカは車社会なのに車の良し悪しを見分ける事が出来なかったようで……
そして、物語では海軍大将が真っ先に逃亡していますが、これは史実の旧日本軍でもやっています
日本軍は敵前逃亡した恥ずかしい軍と言われようですが、実は結構オチがあり、満洲のソ連侵攻では関東軍のトップが部下や民間人を置いて、尻尾まいて逃げたくらいです
まあ作品の豊吉大将は逃亡中、戦艦ル級改flagshipにキャッチされてしまいました
ああ、戦艦ル級改flagshipにさえ遭遇しなければ……