時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第77話 防空能力

 日本より離れたヨーロッパでは火の海だった。深海棲艦の艦砲射撃と艦載機によって主要都市は破壊されていた。1ヶ月前辺りから攻撃を受け、政治家などの人物も殺された。無論、深海棲艦の対策はしていたものの、深海棲艦には通常兵器は一切効果がないため人々は逃げるしかなかった。人々は内陸に向けて避難した。深海棲艦は、内陸まで行かない事は知っていた。しかし、当然人口密度は高くなり、食料医薬品などの生活に欠かせない物資が不足していた。誰もが思った

 

こいつには勝てない、と

 

しかしそんな最中、戦う集団がいた。日本から運ばれてきた『艦娘計画』のノウハウが到着し建造された艦娘が

 

ドーバー海峡では、2つの艦隊が激突していた

 

 戦艦ル級改flagshipの副官のポジションとして活躍している戦艦タ級eliteである。その戦艦タ級は深海棲艦の艦隊を引き連れて欧州を攻撃していたが、何と艦娘に邪魔されたのだ

 

「邪魔ダ。サッサト帰ナ」

 

戦艦タ級は警告を発したが、相手からは艦載機と砲撃で返事された

 

ドイツで建造された艦娘達が早速、街を蹂躙している深海棲艦に攻撃を始めた。建造され、この世界の事を聞かされたが、まさかここまで酷いとは思わなかった

 

「さあ、かかってらっしゃい!」

 

 戦艦のビスマルクは相手を挑発したが、その顔を余裕がない。空母であるグラーフ・ツェッペリンも重巡プリンツオイゲンも同様だ

 

負ける気はしないが、数が多過ぎる。そして、守るべき非戦闘要員があまりに多すぎる

 

だからと言って、軽々と白旗を上げる訳にはいかない

 

 グラーフ・ツェッペリンはBf109とFw190T改を繰り出して空母ヲ級の艦載機を一掃し、プリンツオイゲンとZ1、Z3は駆逐イ級と雷巡チ級の集団相手に戦っている

 

UIT-25(ルイージ・トレッリ)やU-511は、後方支援の艦隊である輸送ワ級に対して雷撃した。史実と同じく

 

 乱戦の中で2つの戦艦がぶつかる。ビスマルクは戦艦タ級eliteに突進すると必殺の38cm連装砲を食らわす。相手の砲撃も凄まじく、既に中破までダメージを負った

 

(試射無しで当てるなんて!)

 

通常、砲撃というのは簡単に当てるのではない。試射や観測機を駆使し計算をして修正するものである。しかし目の前にいる敵は、どういう訳か簡単に当てて来ている。余りにも命中率が良すぎる

 

「ドウシタ?コノ程度カ?無駄ナ抵抗ハ止メテ降伏シロ。丁重ニ扱ッテヤル」

 

 戦艦タ級eliteは嘲り笑ったが、ビスマルクはキッとに睨んだ。日本から派遣された技術士官から話は聞いている。砲撃の命中率が異常に良いのは、恐らく浦田重工業が関わっているからだろう

 

「私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルク。甘く見ないで!」

 

「……ナラバ仕方ナイ。死ヌシカ無イナ!」

 

 双方の主砲から火を吹き、2人の間に16inch三連装砲から発射される砲弾と38cm連装砲から発射される砲弾が飛び交った。双方とも一歩も引かない

 

 

 

 ヨーロッパで艦娘と深海棲艦が戦っている最中、日本でも同様に双方との戦いが始まろうとしていた

 

「あ、あれが時雨が言っていた戦艦ル級改flagship」

 

「何なんですか、あの殺気は!」

 

 不知火も大淀も息を呑んだ。彼女達は直感的にこの戦艦ル級は、異質であることを感じ取った。先日に交戦した戦艦棲姫とは違う威圧感

 

「……あいつ、以前よりも殺気が増している!気をつけて!」

 

 時雨だけは戦艦ル級改flagshipの別の異質に気づいた。殺気が違う。気をしっかり持たないと心が折れそうだ

 

「また、来やがったか!」

 

「攻撃しますか!」

 

「待て、海軍大将が乗っている!見る限り巻き込まれたらしい。攻撃したら、あいつは死ぬ!」

 

 提督は運転席にいる海軍大将を確認しているため、攻撃中止を命じた。双眼鏡を覗くと明らかにその海軍大将は、狂ったように笑っている。発狂したのだろう

 

 しかし提督はこの人物が、父親を左遷させた張本人。そして彼は知らないが、未来でも会っている。尤も、初めは艦娘を海軍編入しようとあれこれ招いたが、深海棲艦が強力な装備を持ったことで艦娘の敗戦が続くと一転して未来の提督と艦娘を非難した人物である

 

奇妙な因縁がここでも起こった事を彼らは知らない

 

「君ぃ、それは正面から攻撃したらの話やろ。側面ならどうや!」

 

 龍譲は巻物を広げると式神が飛んでいく。いや、式神が艦載機へと姿を変えて、エンジンを上げる。岐阜基地で演習で何度も見ていたが、やはり不思議な光景だった。敵機はいないため、艦爆の彗星と艦攻の天山の航空隊だ

 

「気を付けろ、龍譲!」

 

「分かってるで。戦艦棲姫のようにはいかんわ」

 

 龍譲は何も考えずに攻撃を仕掛けたのではない。ドライバーを傷つけずに攻撃することくらいは朝飯前だ。実際に、『艦だった頃の世界』の海軍航空隊は化け物揃いである。その質の高さは受け継がれている。また、戦艦棲姫との戦闘を教訓に艦載機を一新させたのも大きい。九九艦爆よりも大きな爆弾も搭載可能な彗星。九七艦攻より性能が高い天山は龍譲の攻撃力をアップさせた。戦艦ル級改flagshipを倒せずともダメージを与える事が出来るはず。中破まで持っていけるはずだ

 

「ソロモン海や未来のようには行かないよ、っと!」

 

 

 

側面からの迫り来る航空機を戦艦ル級改flagshipは睨んだ

 

「アノ艦載機ハ龍譲。ナルホド……艦載機ノ練度ガ高イノハ、伊達デハナサソウダ」

 

 龍譲は太平洋戦争時、軽空母で多くの作戦を遂行した軽空母の1つである。編隊は見事であり、動きも無駄が無い

 

 ここまで艦載機の練度を演習だけ上げたのは、龍譲自身の力である。実際に『艦だった頃の世界』では着訓練艦として搭乗員を育成した事もある。その訓練は相当厳しかったらしく、「赤鬼、青鬼でさえ『龍驤』と聞いただけで後ずさりする」と恐れられていた程である。時雨も龍譲の艦載機の猛烈な訓練姿には、舌を巻いたほどである。一航戦である赤城加賀とは違う強さを持っている

 

 しかし艦爆や艦攻が戦艦ル級改flagshipに向けて急接近しているにも拘わらず……戦艦ル級改flagshipは顔色を変えずに艦載機を睨みつけていた。側面から迫り来る艦載機に高射砲と対空機銃を向けると発砲した。数門の高射砲と対空機銃が火を吹いた。通常の対空砲火は、時限信管による射撃は命中率が低いはずである。しかし、戦艦ル級改flagshipの高射砲と対空機銃の命中率は異常だった。弾幕も雨あられのように飛ばしてきている事もあり、彗星と天山はバタバタと撃ち落とされたのだ。強力な防空能力に天山の搭乗員である妖精は慌てて反転して距離をおいた。このまま突っ込むと全滅する。戦闘の一部始終見ていた龍譲も例外ではなかった

 

「な、何や!今の攻撃!対空砲火だけで航空攻撃を防ぐなんて!」

 

 流石の龍譲も驚愕した。無論、警戒はしていた。時雨の証言でミサイルという兵器には気を付けていた。しかし、戦艦ル級改flagshipはミサイルを全く使っていない。高射砲と対空機銃だけで防いだのだ。普通、高射砲はこんな命中率が良い訳がない。対空機銃もだ。こんな事あり得るのか?

 

「くそ!これなら、どうや!」

 

 今度は艦載機を高度を上げるよう命じた。急降下爆撃である。艦船や地上兵器は上面の防御は手薄なため、戦果を挙げ易いために生まれた戦法だ。対空砲火も仰角が取れないかも知れない

 

 彗星は急降下爆撃を仕掛けたが、やはり強力な対空砲火の洗礼を受けた。命中率も半端なく、彗星が次々と火を吹いて撃墜されていく。奇跡的に生き残った彗星が爆弾を投下したが、外れてしまった

 

 

 

「急降下爆撃もほとんどやられた!クソ、どうやったらあんな芸当が出来るんや!」

 

 龍譲は絶叫したが、他の艦娘も同じだった。戦艦なので航空攻撃すればダメージを与えられると思っていたが、実際は違ったのだ。そして、後方から砲声が一発、響き渡った

 

木枯らしと共に艦娘を乗せた装甲車に砲弾が物凄い勢いで迫ってくる

 

「嘘やろ、試射無しで命中させるなんて!」

 

「危ない!」

 

 提督の命令よりも早く不知火は前に出て盾となった。副砲の砲弾は、不知火を直撃した。もし、不知火が盾になっていなければ装甲車は破壊されていた。

 

 強力な爆風と爆音が車列を襲い、装甲車の上に乗っかっていた時雨達は危うく振り落とされそうになった。爆風と砲弾の威力で大破され飛ばされる所を大淀と時雨は空中でキャッチした。間一髪だった

 

「不知火を怒らせたわね……!」

 

 大破し傷口を抑えている不知火は怒りを顕わにしたが、内心では驚いている。戦艦の副砲の砲弾が余りにも強烈だ。副砲でこの威力なら主砲の威力が想像出来ない

 

「X兵器は無事だ!」

 

時雨はトレーラーを見ながら叫んだが、内心では腸が煮えくり返った

 

こんな調子で大丈夫なのだろうか

 

 

 

「成ル程、『マジックヒューズ』ト『40mm対空機関砲』ハ見事ダ。火器管制システムヲ一新スレバ『ミサイル』ヤ『CIWS』ヲ使ワナクテモ防ゲルシ、攻撃モ無駄弾モ無クナル。フン……流石、イージス艦ヲ造ッタ国ダ。発想ガ柔軟ダ。通リデ『マリアナの七面鳥撃ち』ガ起コル訳ダ」

 

「い、今のは何なんですか!?」

 

 豊吉大将は悲鳴じみた声を上げながら聞いてきた。無理もない。車の天井に穴を開けたと思ったら、飛行機と交戦したのだから堪ったものではない。戦艦ル級改flagshipの砲声と爆音で錯乱しそうである

 

「余リ五月蝿イト、貴様ヲ殺ス」

 

 氷のような冷たい声に豊吉大将は、遂に悲鳴を上げた。しかし、逃げたいと思っても逃げる事は出来ない。車から飛び降りたい所だが、そんな勇気はない!慌てているが、彼は気付かない。戦艦ル級改flagshipの手が迫ってきている事に

 

 

 

「本当に、あれが戦艦ル級改flagshipなのか?」

 

「うん。外見は一緒だけど……」

 

「廃工場に現れた時と姿が違うが未来でも、纏っていたのか?」

 

「僕も初めて見る」

 

 身を乗り出した提督は時雨に聞いたが、時雨は曖昧に返事していた。未来で、そして捕らえられ拷問された相手だ。しかし今、目の前な戦艦ル級改flagshipに違和感を覚えた。戦艦ル級の艤装が違っていたのだ。戦艦ル級の艤装は、軍艦を立てたようなものを持っている。しかし追って来ている戦艦ル級改flagshipは、そんなものを持っていない。どちらかと言えば、長門や陸奥が纏っていた艤装に近い形だ。改修したのか?しかし、未来でもこんな変化はなかった。提督も違和感を覚えたのだろう。廃工場の時に戦った時に見た姿が違っていたからだ。言葉では言い表せない異変に時雨はどう反応したら分からなかった

 

「司令、撃ちますか?」

 

「駄目だ、人質がいる!」

 

「しかし、このままでは、やられます!」

 

 大淀の言い分は尤もだ。ドライバーである海軍大将がいる以上、攻撃が出来ない。しかし、何かしなければやられる

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

 不意に龍譲が声をかけた。自慢の航空攻撃が通用しなかった事にショックを受けているようである

 

「艦載機の補充は限られている。待ってくれ!」

 

「そうやない!……何かとてつもない力を隠しているようやけど……あいつの能力は不明やけど、分かった事があるんや」

 

龍譲は慌てて言った。あの攻撃で分析したらしい

 

「一つ。見た事あらへんけど、あいつはミサイルという兵器を頼っておらん。もう1つ、妖精は奴の独り言を聞いたで。確か『マジックヒューズ』と言っておった……よく分からんけど、新兵器、若しくは別の兵器が使われているかも知れへん」

 

「ミサイルを頼っていないの!」

 

 聞いていた時雨は、驚愕した。いや、時雨も思い出した。未来では、アイオワは現代改修でミサイルを装備していたが、それに対する戦艦ル級改flagshipはミサイル装備していない。でなければ、大阪の戦いでミサイルを使っていたに違いない。ミサイルを防ぐ自信があるのか、それとも使えない事情があるのか?

 

「提督、あれを!」

 

 大淀が指を指しながら叫んだ。指先には、戦艦ル級改flagshipを乗せたあの車が横転している

 

僅かに目をそらしただけでこうなっていたのだ

 

「何処だ、何処へ行った!」

 

「あれ!」

 

 今度は装甲車に向けて何かが飛んできた。それは人だった。赤い血を引きながら。ドライバーだった海軍大将が、変死体となって降ってきたのだ

 

「ひっ!」

 

 グロテスクな姿になって落ちきた死体に大淀は悲鳴を上げた。しかし、他のものは違った。装甲車の前に走っているジープに戦艦ル級改flagshipが着地したのだ。隊員は訳の分からない事を喚きながら銃を向けて引き金を引いたが、戦艦ル級改flagshipはかすり傷すらつけられなかった

 

「ジャンプしたのか!」

 

「駄目だ、攻撃出来ない!」

 

 戦艦ル級改flagshipの身体能力に提督は驚愕したが、時雨はそれどころではなかった。別の車両に乗っていた人を掴むと盾のように掲げた。人質を取った隊員は、逃れようと暴れたが、拘束が解く気配はない。抵抗した者もいたが、秒殺された。ドライバーは振り落とそうとハンドルを切ろうとするが、あっという間に気絶させられてしまった。暴走状態なのだが、人が乗っている。攻撃の躊躇いに相手が挑発してきた

 

「ドウシタ。時雨、攻撃シテ来イヨ!コイツモ死ヌ事ニナルケドナ!」

 

「俺に構うな!撃て!」

 

 ジープに乗っていた隊員は喚いたが、時雨はそうはいかない。未来では、仲間の死を見ている。そのため、攻撃に戸惑っている。第一、仲間を見捨てる事は出来ない!

 

「貴様ハ生温イ。未来ヲ救ウ作戦ハドウシタ?攻撃シテ来ナイナラ、死ニナ!」

 

 見たこともないバカデカイ主砲がこちらを向けている。戦艦ル級改flagshipは、こちらを完全に舐められている。しかし、不知火も大淀もどうしていいか分からなかった。例え攻撃出来ても手持ちの武器では、戦艦ル級改flagshipの装甲を破れない

 

「提督!」

 

時雨は提督を見たが、提督は歯を食い縛っている。作戦失敗になるかもしれない。しかし、相手はそう簡単には倒せない。友軍を攻撃するなんてもっての他だ!

 

「くそ、攻げ――」

 

提督が攻撃命令を出そうとした直後、戦艦ル級改flagshipが乗っているジープに向かって別のジープが体当たりした。何と軍曹が乗っていたジープだった

 

「貴様ー!」

 

予想外の出来事に戦艦ル級改flagshipを乗せたジープは、バランスを崩し道路から出でしまった。しかも、最悪の事にここの道路は、海岸沿いだ。崖になっていたため、戦艦ル級改flagshipごとジープは、海に落ちた

 

「……そんな」

 

『何をボーッとしている!奴の脅しに屈するな!』

 

時雨は絶叫したが、無線から軍曹の怒鳴り声が響いた。仕方ないとはいえ、幾ら何でも……

 

『何が何でもX兵器を守れ!手段は問わん!』

 

 時雨は反論しようとした。自分の部下を助けようとしないとは何を考えているのか。軍曹はトチ狂ったのか?抗議しようと息を吸ったが、提督に止められた

 

「お前の言いたい事は分かっている。だが、今は止めておけ!」

 

 提督の鋭い指摘に時雨は、抗議しようとした。だが、止めた。分かっていた。仲間を犠牲にするなんて……

 

 他の艦娘も同様だ。自分達は無力だ。戦艦ル級改flagshipに翻弄され攻撃が出来なかったのを。あんなやり方で攻めるとは。人を盾にするとは

 

「分かった」

 

時雨は悔しそうに呟いた。そうだ。まだ、たどり着いていない。急がなくては

 

 しかし、事態は改善してくれない。水没したジープから水しぶきが上がったかと思うと、こちらに追いつくように何かが海の上を走っている

 

「奴が来る。海から」

 

「くそ、この道路は海岸沿いだ。だが、これしか方法が無い」

 

 提督の言う通りだ。深海棲艦の艦砲射撃が来るからこそ、避難民も浦田兵もいないのだ。内陸を目指せば、避難民の人ごみか浦田兵が待ち構えている

 

戦艦ル級改flagshipはこちらに不適の笑みを浮かべながら近づいて来る

 

「金剛さんと同じ高速戦艦……しかも、あの主砲の大きさは……見た事が無い」

 

 不知火も事態に付いていけない。深海棲艦の知識があるからこその反応だった。異質過ぎた。主砲も大和型戦艦である46cm主砲よりもデカイ。にも拘わらず、30ノット(約56km/h)以上も出して追いつこうとしている

 

「ダメだ。X兵器を守らないと!」

 

 時雨は絶望した。このままだと、全滅してしまう。奴を止める手段がないのか?主砲はこちらを向けている

 

「……まさか。おい、運転手!スピードを緩めてくれ!」

 

「無理です!敵に追いつかれてしまいます!」

 

「良いんだ!あいつの狙いは、X兵器じゃない!俺達だ!」

 

 提督は装甲車の運転手に叫んだ。運転手は困惑したが、速度を落とした。通常、あり得ないのだが、こちらに砲を向けられてはやられるだけだ

 

 装甲車の速度が落ちた事により車列からどんどんと離れていく。そして、何と戦艦ル級改flagshipも速度を落としたのだ

 

「な!?あいつは何で僕達を?」

 

「分からん。X兵器よりも時雨に興味があるかもな」

 

 提督の直感は正しかった。戦艦ル級改flagshipは、X兵器や502部隊の阻止ではない。艦娘だ

 

「軍曹、そのまま行ってください!戦艦ル級改flagshipを牽制します!」

 

『分かった!気を付けろ』

 

 スピードを落として車列から離れる装甲車。艦娘とドライバー、そして提督しかいない。それだけで戦艦ル級改flagshipの気を逸らすしかない

 

「あの戦艦ル級、俺達を捕まえて遊ぶ気だ。逆に言えば、X兵器の正体を知らない。もし、知っていたならとっくに攻撃している」

 

「でも、あいつは前よりも強くなっている」

 

 時雨は主砲を構えた。あいつに小細工は通用しない。沈める事は不可能だが、牽制は出来る。こっちの被害がなければいいが

 

 戦艦ル級改flagshipは海岸沿いの道路を走っている装甲車を追跡していた。わざと外して攻撃している。先ほど撃った砲弾を命を張って仲間を庇った艦娘がいたらしい。最新のレーダー射撃を駆使しているため、狙いは簡単だ。しかし、呆気なく終わってしまうため暫くは泳がせるつもりだ。トレーラーのようなものを護衛しているが、内心どうでも良かった。爆弾抱えて突っ込むようだが、甘すぎる。本社ビルには大勢の兵士や兵器が待ち構えている。アパッチに乗り込んでいる警備隊長には連絡したため、対処できるはずだ

 

「無駄ナ事ヲ。私ヲ足止シテモ辿リ着ケン」

 

 そう言っている間も砲弾が降ってくる。しかし、致命傷になるほどでもない。駆逐艦と軽巡の主砲くらいで戦艦は沈まない。かすり傷にもならない。そう思ったその時、上空から艦載機が殺到してくる。艦載機は全部、天山ばかりだ。海の上を走っているので、雷撃が出来ると思ったのだろう

 

「愚カ者ガ!私ガ何モ考エズニ、貴様ラヲ追イカケテイルト思ッテイルノカ!」

 

 叫ぶと同時に、上空には深海棲艦の艦載機が飛来して来る。数は40機。しかも、全て戦闘機だ。敵機を確認した天山の妖精搭乗員は魚雷を全て投棄して逃げるよう指示した。このまま突っ込んでも全滅するだけだ。しかし、艦載機は逃がす訳がない。一機、また一機と落ちていく。そうしている内に深海棲艦の艦隊が追いついてきた。空母ヲ級1、軽巡ツ級2、重巡リ級1、駆逐ナ級2である

 

 これでも十分な戦力だ。追いつめないといけない。まずは牙を完全に奪わなければならない。そのためには、弾薬を無駄に消耗させること。また、こちらには輸送ワ級の艦隊が後方に控えている。こちらには弾薬は十分にある。艦娘の精神や戦い方は旺盛だが、補給はないだろう

 

「手元ニハ弾薬ヤ艦載機ハ、チャント有ルノカ?」

 

 嘲笑いながら逃げ回る数機の天山を嘲笑いながら眺めていた。迎撃しなくてもいい。弾が勿体無い。空母ヲ級の艦載機で十分だ

 

 

 

「アカン!増援が来てしもうた!」

 

「クソ!ここからは歩きだ!装甲車を捨てるぞ!」

 

「分かりました!煙幕を張ります!」

 

 装甲車には、発煙弾発射機が付いている。煙幕を張る事で敵の視界を遮るものである。幸い、ここの地帯は住宅街だ。隠れて進むのは、不可能ではないはずだ

 

 

 

「ン?煙幕カ?」

 

 砲撃をしていた戦艦ル級改flagshipは、射撃中止をした。装甲車のスピードが落ちたと思ったら、煙が装甲車を包んだのだ。火災にしてはおかしい

 

「煙幕デ隠レテ奥ヘ逃ゲタナ。逃ガサン!」

 

 空母ヲ級に振り向き合図を送ると、空母ヲ級は頷いた。次々と艦載機を発艦させ捜索にあたった。陸地に向かう艦載機に無線が入って来た

 

『なぜ奴らをさっさと仕留めない?』

 

「これは私の戦いだ。手出しするな。邪魔すると例え『主』だろうと歯向かう。それが私との関係のはずだ」

 

 戦艦ル級改flagshipは人の声で素っ気ない返事をした。無人航空機から状況を把握しているのだろう。浦田社長が連絡して来たのだ。普通、戦いにおいて手を抜くのは考えられない。相手が予想外の事をしでかすかもしれない。だが、戦艦ル級改flagshipは、それを承知の上でやっているのだ

 

『君の性格を知ったつもりだが……まあ、いい。艦隊は出港するが、航行の邪魔はするなよ』

 

「『主』が造ったイージス艦が護衛しているのだろ?心配し過ぎだ」

 

 戦艦ル級改flagshipは一方的に無線を切った。手加減しているのは勿論、艦娘を捕まえるためである。殺すのは簡単だ。たかが軽巡駆逐艦と軽空母だ。勿体無い。捕まえ力の糧とするため、標的艦にするつもりである。簡単に言えば、なぶり殺しである

 

「人間ハドウデモイイガ、例ノ息子ト艦娘ダケハ生カシテ捕マエロ。楽シミガ無クナル」

 

 空母ヲ級にはそう命じた。うっかり殺してしまっては大変だからだ。あの息子を生け捕りにしろ、と命じたのは社長自身だ。浦田社長から命じられた歴史人物の暗殺任務はつまらな過ぎた。だが、オッペンハイマーやグローヴスなど原爆開発チームのメンバーとヒトラーやスターリンなどの独裁者を始末するのも一興だ。浦田社長から教えてくれた平行世界の歴史はつまらなかったが、歴史人物を消すのは暇つぶしにはなる。人前では傲慢な態度を取った人が恐怖で死んでいく姿は、中々面白いものだった。だが、何故か岐阜基地への攻撃は許されなかった。きっと、ギリギリまで日本を隠れ身として使うつもりだったらしい

 

(まあ、必死に抗う姿も面白いな)

 

 戦艦ル級改flagshipはニヤリと笑った。欧州攻撃を指揮している戦艦タ級は、ヨーロッパにも艦娘が現れたと言う。面白い知らせだ。自身に満ち溢れた艦娘を沈めるのが楽しくなって来た

 

 




おまけ(あり得たかも知れないヨーロッパ戦)

 ヨーロッパの海岸にある都市や軍事基地が深海棲艦によって蹂躙される中、ある者が現れ深海棲艦に攻撃を加えた!何と1人で駆逐イ級や軽巡ホ級の軍団を倒したのだ
姿形からして艦娘に思えたが、どうも違う
兵士1「1人であの深海棲艦の集団を倒すなんて……何者なんだ!?」
兵士2「艦娘だろうよ。やっと来たか!」
兵士3「いや……それにしては男なんだが?」
兵士1「と言うより、メカっぽくないか?腹から機関砲が出ているのだが?」
兵士2「写真とやけに違うけど……」
兵士達は困惑した。伝えられた情報と違うからだ
艦息?いや、二次創作ネタで使われる艦息にしてはおかしい。武器もどう見ても艤装ではなく、身体収納式だ。まるでサイボーグのような……
???「サイボーグだ!」
兵士1「え!?」
駆逐イ級「食ラエ!」ドン
???「フン!」
駆逐イ級「ナニ!砲弾ヲ手デ弾イタ!」
そう、男の正体は何とルドル・フォン・シュトロハイム大佐だった
シュトロハイム「ブァカ者がァアァァァ!!ドイツの科学は世界一ィィィィ!!軽巡ツ級のパワーを基準にィィィィィィィィ……このシュトロハイムの身体はつくられておるのだァァァァ!!」
周りが呆気にとらわれる中、ハイテンションになっているドイツ軍人は喜んでいる。なんだこいつは!?兵士達も避難中であった民間人も呆然としている中、謎の男は、弾帯を引っ張り出し重機関砲に装填する
シュトロハイム「俺の体はァァ、わァがゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りであるゥゥ!!つまり!すべての人間を超えたのだァァァァ!!くらえ、深海棲艦共、1分間に600発の鉄甲弾を発射可能!30㎜の鉄板を貫通できる重機関砲だ!1発1発の弾丸がお前の体をけずりとるのだ!」
 物凄い姿勢と銃撃音に深海棲艦は悲鳴を上げながら倒れている。兵士達は呆然とする中、ビスマルク達がやって来た
ビスマルク「ちょっとアンタ!何で、この世界にいるのよ!?クロスオーバーになっちゃうじゃない!」
シュトロハイム「心配無用ゥゥ!ここは後書きだからだぁぁぁ!」
ビスマルク「そういう問題じゃないわよ!第一、どうやってこの世界に来たのよ!」
実は建造ユニットから艦娘が生まれて来るのだが、何故かシュトロハイムは造られた(?
)らしい。通常ならあり得ないはずだ
シュトロハイム「愚問だ。だが、教えてやろう。我がドイツの科学は世界一ィィィィィィ!できんことはぁなぃぃぃ!他所の世界の死人を転生させて召喚する事なぞ、容易だからだぁぁぁ!」
プリンツオイゲン(無理矢理過ぎる……)
グラーフ・ツェッペリン(紫外線照射装置がないだけマシだな)
シュトロハイム「艦娘達はソファーに座ってオレの闘いぶりを見てな」
U-511「ソファってどこに?」キョロキョロ
Z1「フ……フラグ立てているような」
Z3「しっ!」
艦娘までも呆気にとらわれたが、ここでシュトロハイムにも予想外の事が起こる

 シュトロハイムのサイボーグの力は研究用として捕らえられた軽巡ツ級を元に設計されている。そう、軽巡である(大事な事なので二度言いました)
よって、戦艦タ級や空母ヲ級などの攻撃力には絶えられなかった
深海棲艦の駆逐軽巡がやられているのを聞いた戦艦タ級eliteは、戦艦と重巡の砲撃と空母ヲ級と軽空母ヌ級の艦載機による空襲を実施。よってシュトロハイムは大破(?)してしまった
戦艦タ級elite「ザコヲ倒シタクライデ調子ニ乗ルナ!駆逐艦ヤ軽巡ハ番犬ノヨウナモノ。我等トハ比較ニナラン!!」
シュトロハイム「ま……まだ勝てん!今の俺の装備では……今の人間の科学では……やつには勝てん!俺は、柱の男どころか深海棲艦にさえ勝てないのか!?」
ビスマルク「もういいから下がっていなさい。後は私達がやるわ」ガシッ!
シュトロハイム「なんだ貴様!何だ、この手は!?上官に向かって!」
ビスマルク「何時から貴方の部下になったのよ!」カチン
戦艦タ級elite「ソンナ機械ヤ艦娘ナゾ相手ニナルカ!」


後日、この異様な戦い(?)を見た人達は口々に言った。爆発音や砲声よりも言い争う声の方がとてもうるさかったと

その後、ビスマルクを率いる艦娘達は謎の男シュトロハイムと共に深海棲艦を倒すために冒険に出る
「ビスマルクの奇妙な冒険」の始まりである(嘘)


時雨達が戦っている中、ヨーロッパでも戦いが始まっています
ちょっとだけ出ていますが、ビスマルク頑張っていますね
後書きではシュトロハイムが出ててんやわんやです。実は一時期、真面目にクロスオーバー作品である『ビスマルクの奇妙な物語』を書こうと思った事はありました(笑)
ただ、書いて見て思ったのですが、こういうのは四コマ漫画でやるべきで小説には向いていないという結論に達して闇に葬りました。クロスオーバーは難しいですね(汗)
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