明石達はタイムマシンの準備をしている中、提督はブリーフィングをしていた。その中に陸軍将校である中佐もいた。中佐も呼ばれたのだが、提督が計画を全て明かした事を知ると、お前ならやると思っていたと褒めてくれた
「皆が作戦を放棄しないのを確認された所で作戦内容を伝える。まずタイムマシンについてだ。1つ1つ説明していく。よく聞いてくれ」
一同は頷く。タイムマシン自体が艦娘に手に負えない代物だからだ
「作り上げたこのタイムマシンだが、問題点が多い。普通の人間……いや、普通の生命体では過去へ送る事が出来ない。身体の負担が大きすぎてとてもじゃないが、人が時間旅行出来る代物ではない。つまり、艦娘の誰かが行かないといけない」
一同は唖然とした。なぜタイムマシンは人を送れないのだろうかと。そしてなぜ艦娘だけが無事に送れるのかと
「先ほども言った通り、実際にやってはいない。実はこの技術は『ある人物』の研究成果を応用して造った代物だ。艦娘と…そして深海棲艦と深く関わりがあるからだ」
提督はそこで一息入れた
「次に重要な問題がある。機械の関係により艦娘を送る事が出来るのが限られてしまった。明石の話だと駆逐艦が最適との事だ」
駆逐艦達は顔を見合わせた。過去に行けるのは駆逐艦だけ?重巡や戦艦などの大型艦どころか軽巡すら送れないのか?
「最後に一番厄介な問題がある。このタイムマシンを動かすためには大電力がいる。幸いな事に俺は、損傷が少ない棄てられた火力発電所を見つけた。燃料も満足出来る量は無かったが、こいつを動かせる電力分はある。火力発電所の残骸を明石達が修理し、発電機も燃料も全て地下施設に設置した。空襲等で電力停止になる事はないだろう」
尤も、大破した火力発電所を再び動かすのに明石達は躍起になって修理していたので大変だったらしい。発電機であるタービンが、全てダメだったら計画はもっと先になっていただろう。幸いな事に無事に動くタービンが幾つかあったのでタイムマシンを動かせる電力は確保出来た。敵が地下施設を破壊するための地中貫通爆弾とやらを撃ち込まれたら終わりだが、提督はそれはないと考えている。敵はこっちの計画を知りたがっている。それを確認するまで火力発電所の破壊を極力控えるはずだ
「問題はタイムマシンを起動させたら敵は察知するだろう。アイオワの話だと、敵は熱源を探知する方法を持っているとの事だ。敵は俺が何かやっているか知りたがっているらしい。敵も必死になって攻撃して来るだろう。火力発電所を起動させてから転送完了するまでの時間は、最短で15分。機械と時間の関係上、過去に行けるのは1人だけだ」
提督の説明に全員が青ざめた。状況は相変わらず悪いのだ
「司令官、誰を送る気なの?」
暁が不安に聞いてきた。誰を過去に送るのか。皆がとても気にしている所だった。時間旅行に当てられた艦娘は、重大な任務を背負った事を意味する。しかも援軍も送れない。誰がやるのか見当もつかなかった。しかし提督は既に決めていた
彼はある駆逐艦に近づくと手に肩を持ち力強く言った
「時雨、お前が過去に行け!お前が深海棲艦が出現した4年半前に行くんだ!」
時間旅行に宣告された時雨は頭が真っ白になった。幾多の無茶な命令や任務を受けて来たが、流石にこの命令には頭が追いつけなかった。全員の目が時雨に向けられる。視線が痛く、この場から逃げ出したい。プレッシャーがのしかかり、提督の手が鉛のように重く感じた
「無理だ」
とっさに出た返事は命令拒否。こんな任務、僕には向いていない
「僕には出来ない。他の駆逐艦が最適のはずじゃあ…。過去に行くなんて無理だ」
「いや、お前だ!お前が現在いる駆逐艦の中で最適な艦娘だ!」
「何で僕なんだい!?運が良いからって僕がこんな任務に向いていない!」
時雨は提督の手を振り払い、後ずさりした。提督は険しい顔をしたが、口を再び開いた
「俺が運で決めたと本気で思っているのか?それは誤解だ」
「では何で……」
「4年半前に無事たどり着いたら、真っ先に過去の俺に会いに行け!」
時雨を含めその場にいた艦娘達は全員驚いた。過去の提督に会う?
艦娘の疑問を他所に提督はポケットを取り出すと時雨に見せた。それは地図と写真だった
「これは当時、俺が住んでいた町の地図だ。タイムマシンはその町の近くに転送出来るが、正確な位置までは無理だ。地図に俺が住んでいた住所を書いておいた。向こうに着いたら、昔の俺の所まで来てくれ」
「当時の提督、若いんだね」
写真を見せられた時雨の感想だった。提督は常に白い軍服を着ていたため、私服を着ている提督の姿は新鮮だった。顔も面影はあるものの童顔だ
「ああ、そうだ。大学時代の時の写真だ。今残っている写真はこれしかなかった。話を戻そう。なぜお前を選んだか。それは昔の俺は、俺ではないからだ」
「どういう意味?」
提督は言うかどうか一瞬迷ったが
「なぜなら、昔の俺はクソガキだったからだ。当時の俺は大学生だったが、ちょっとした訳ありで人間不信になってしまった。『ある人物』のせいで俺の学生生活は滅茶苦茶になった」
「『ある人物』ってどんな人?『タイムマシン』と関わりがあるみたいだけど?」
「そうだ。そして『艦娘計画』に関わっていた人物。艦娘の……お前達の創造主だ」
誰もが事態の把握に言葉を詰まらせた。無理もない。今の提督の話は、衝撃的なものだった
「僕達の……創造主?」
「そうだ。今ではお前達の存在は当たり前だが、当時はまだ架空の存在だ。『艦娘計画』を知っているか?当時の計画は、政府どころかマスコミも叩かれ、世間では笑いの種だ。余りに非現実的なプランだったから。俺は『あの人』を知っている。……『創造主』と関わりがあったから、社会の批判は俺にも降り注いだ。お蔭で親友も家族も俺から去っていった。周りは四面楚歌。親しかった者は俺との関わりを断ち、話しかけもしなかった。俺は『あいつ』を憎んだよ。人生を狂わせた元凶だったから」
誰も言わない。過去の事を思い出したのだろう。提督から微かに怒りを感じた
「で、でも。私達が着任した時にはその『創造主』に会いませんでした」
「そうよ。建造されて初めに会ったのはあんただけだった」
初期艦である吹雪も叢雲も疑問に感じた。初期艦は5人。吹雪と叢雲以外に漣、電、五月雨である。……その3人の艦娘はもういないが
「それはあいつが、研究途中に深海棲艦に襲われたからだ。俺が2年前にその『創造主』の研究の跡を継いで『艦娘計画』を稼働させた。国はいつもの手、見せかけだけで資金どころか研究員すら寄越してくれなかった。代わりにここにいる陸軍将校が手伝ってくれた。吹雪や叢雲が知らないのも無理もない」
「あの時はお前を放って置けなかったからだ。『そいつ』が何をやらかしたのかも知っている。今まで私がお前達の護衛を引き受けた理由はそれだ」
陸軍将校である中佐はニヤリと笑っていたが、艦娘達はそれどころではなかった。初期に建造された吹雪も叢雲も信じられない顔をしていた。初めは国が『艦娘計画』を苦肉の策として再開させたと聞かされていたのだ。しかし、真実は違った
「だから昔の俺を説得してくれ。過去の俺の事だ。艦娘の話をしだすとお前を追い出そうとする。聞く耳を持たないはずだ。詐欺師か何かと同様に思われるだろう。もう一度言うが、昔の俺はお前が知っている俺ではない」
提督の案に確かに一理ある。駆逐艦の艦娘の中で暁や叢雲みたいに馴れ馴れしい態度をとったらどうなるか。その人は提督でもなければ軍人ですらない。子どもの悪戯として認識してしまうだろう。人を説得するのは容易な事ではない
「昔の提督に会って説得に成功した後は?その先はどうするの?」
「先程にも言った通り、俺は創造主を知っている。人物も住んでいる場所も。お前を連れて創造主の所に行くだろう。そして『艦娘計画』を急がせるんだ」
つまり提督は浦田重工業が新兵器を世界に売りつける前に艦娘の建造に成功させ、深海棲艦を撃破すれば日本を始め世界は艦娘に注目させるとの事だ。深海棲艦も艦娘を好敵手として戦う。深海棲艦が浦田重工業を襲う事を阻止し、世界崩壊するのを防ぐ……。これが提督が考えているプランだ
「しかし浦田重工業が保有する技術力は、当時では世界一だ。簡単には諦めないはずだ。『艦娘計画』が実現可能と知ったら、全力で妨害してくるだろう。会社の金儲けの邪魔をしているようなものだ。最新鋭の兵器の完成を急ぐかも知れない。当時の社会情勢は、深海棲艦が出現した時期だったため複雑怪奇だから何が起こるか分からない。会社もぶっ潰しても解決すらならないだろう」
「その後は提督も分からないんだね」
時雨は呆れた。歴史を改変するのは遥かに難しい
「深海棲艦が出現するのを食い止めるという選択肢はどうですか?深海棲艦が現れる原因を叩き潰す方が成功率は高いです。私達もこの世界に存在しない可能性もありますが?」
「鳥海、残念ながらその過去へ行けたとしても深海棲艦をこの世界から抹消する事は出来ない。なぜなら……。いや、この話はよそう。俺も詳しくは知らない。『あいつ』の方が詳しく知っている」
提督は知っているようだが、話を切りあげた。鳥海もそれ以上、何も聞かなかった。深海棲艦が出撃した原因は大まかに知っているようだが、そこまで詳しくないようだ。分からない以上、今はそんな事を議論している場合ではない
「4年半前に行って、浦田重工業が最新鋭兵器を売り込む4年前までに僕と過去の提督と創造主が何とかする。期間はたった半年……。酷いよ。僕にこんな無謀な任務を押し付けて」
時雨は非難したが、心の中では分かっていた。過去を変える唯一のチャンスだ。このチャンスを逃してはならない
(夕立……また会える日がくるかもしれない)
過去に行き、建造が可能になったら夕立……そしてみんなとまた会えるかも知れない。建造された艦娘は、時雨が知る彼女達ではないが、再び会えると思うと……
「提督、僕は過去へ行くよ」
時雨は決意した
例え過去の提督だろうと、提督は提督だ。説得するのは容易だろうと。提督と僕達を造った創造主を説得出来れば、世界滅亡を防ぐ事が出来ると
しかし、僕は甘かった。楽観視し過ぎた。この任務は非情なものだという事を後から知る事になる
時雨は過去へ行く準備を始めた。というより、明石や夕張がほとんどやっているだけで、時雨がやれることは艤装を外すくらいだ。艤装を装着したままだと転送出来ないらしい。その間に提督は他の艦娘と作戦会議をしていたようだ。襲撃した時の防衛戦を構築するためだとか
「自分の正体が、艦娘であると告白するのは最終手段だ。昔の俺は、お前の話を絶対信じないはずだ。だから昔の俺に見せるんだ。海の上に立ち、深海棲艦を倒す姿を。当時の近海は、駆逐イ級がうろついているから問題ない。改二に改装されたお前なら出来る。適当に倒せばいい」
作戦開始の直前、提督は時雨に念を押した
「最後に重要な事がある。これだけは絶対に守ってくれ。過去の俺と『創造主』以外は誰一人信用するな。何が起こるか分からん。確実に信用出来ると分かるまでは気を許すな。警戒しろ」
「分かった。艤装も持っていけるのは嬉しいけど、補給と入渠はどうするの?」
「『創造主』に会いに行けば何とかなるはずだ。当時の『あいつ』は艦娘の建造は理論上可能という結論に達しているはずだ。補給と入渠は頼めば何とかしてくれるだろう」
艤装は明石の特殊な仕様でコンパクトにまとめる事に成功し、何とかハードケースに収まるようにしたのだ。他にも地図や写真。そして戦闘記録や未来の出来事が書かれた数冊のノート。青葉と秋雲が残してくれた写真や絵……
「持てる荷物はこのハードケースに入る量だけ。これ以上の荷物は、機械に負担がかかってしまう。貴方のCIWSは防衛戦に使います。ごめんなさい。あなた一人だけ送るのような機械を造ってしまって」
「ううん。感謝してる。だって上手く行けば、未来が変わるから」
謝る明石に時雨は明るい声で返した。本当は怖いはずだ。心の中で分かっている。しかしほんの少し……少しだけ希望を持てた気がした
「それで提督は僕を送った後はどうするの?タイムマシンを守る作戦はどんなの?兵器は?」
何気なく時雨は聞いた。タイムマシンが起動すれば、敵が総攻撃を仕掛けて来る。提督は当然、襲撃に備えているはずだ。浦田重工業が開発したミサイルやジェット機を手に入れたに違いない。転送している間、提督は防衛戦をするはずだ。善戦し転送が終われば艦娘を率いて隠れて住むと。時雨はそう思っていた。しかし、提督は黙っていたままだ
「提督、どうしたの?」
他の艦娘達もこちらを見ている。皆の顔は、真顔で何かから吹っ切れたようだった
「提督……みんな……どうしたの?」
嫌な予感がした。不安になる時雨を他所に、提督は艦娘を見渡すと再び時雨を見た。提督の顔も真顔になっていた
「ダメだ」
時雨は悟った。提督も他の仲間も何をしようとしているのか。時雨は陸軍将校を見たが、彼はただ笑っているだけだ。その笑顔は無理矢理作ったかのような笑顔だった
「ダメだ、提督!僕が許さない!こんなの作戦じゃない!もう失いたくない!イヤだ!!」
目から涙が溢れ、提督に駆け寄った。提督がこれから何をするのか……。何が何でも止めないといけない!今度は西村艦隊の時の比ではない。しかし、誰かが両腕を掴まれ引き戻された
「離して、伊勢さん!日向さん!僕のために皆が死ぬのはおかしいよ!ねえ!離して!!」
提督も仲間も遠のいていく。本当に会えなくなる。必死に提督の元に駆け寄るため、拘束された腕を離そうともがくが、相手は戦艦だ。力も天龍と桁違いだ。伊勢も日向も何も語らず、無表情で暴れる時雨を引きずっていく。時雨の抵抗も虚しくタイムマシンの前に連れていかれると明石達は早速準備した。カプセルは開き、伊勢と日向は時雨を強引に押し込んだ。時雨は最後まで抵抗したが、手足は縛られ、さっきのハードケースをカプセルに入れると明石はコントロールパネルに向かった。カプセルの中で時雨は泣き喚いた。希望のため、世界のためとは言え……余りに非情過ぎた
「時雨、済まない。お前が送る準備をしている間、俺が密かに皆と話した。深海棲艦に立ち向かえる兵器は残念ながら持っていない。防衛戦になるが、俺達が生き残る確率はゼロだ。お前を無事に送り出すまで最後まで戦う覚悟だ」
「こんなの間違っている!君には失望したよ!何で誰も提督を止めないんだ!何でみんな死ぬのに平気でいられるんだ!僕にあの戦争よりも酷い光景を見るのは嫌だ!!」
時雨は提督の耳を貸さず泣き喚いた。カプセルはガラス張りだが、そのガラスがまるで生と死の境界線のように感じた
「みんな、お前を期待しているんだ。だからこれからやる事に引き受けてくれた。これから俺達がやる事を。聞いてくれ。臨時首都である札幌は数日前に陥落した。あそこには俺の母が居たんだ。そこに避難するよう薦めたのは俺だ。俺の手で殺したようなものだ。艦娘も軍曹も俺達を守ってくれた兵士も俺が殺したようなものだ。だから、最後は償わせてくれ。此処で戦って死ぬのは本望だ。捕虜は御免だ。あいつらは捕虜を扱うのを知らないらしい」
提督はまるで父親が子どもに言うように優しく話しかける。しかし時雨はただ泣いているだけだ
「4年半前にまた会おう。その時はお前が俺を導いてくれ。縛っている手足は、向こうについたら外れる。もうお別れだ。敵を寄せ付けない作戦をしなければ。明石、夕張、秋津洲は火力発電所を動かしてタイムマシンを起動させろ。それ以外の者はついて来い」
提督は扉に向けて歩きだし、3人を除く多くの艦娘も提督の後に付いていく。視界が見えなくなるまで時雨は泣く事しか出来なかった
ウィンストン・チャーチルの演説「犠牲なくして勝利なし」
戦争が発生している以上、この手の法則からは逃れられない。勿論、この作品も……
話は変わりますが、艦これのゲームだと犠牲は資源だと思います。撃沈はリスクでしょう。大破進軍さえしなければいいだけなので、アニメの如月のような即撃沈ではなくて良かったです。しかし万が一、高練度の艦娘が撃沈したら戦力に穴が出来ます。再び育てるのも一苦労。一から育てる時間も資源もないというのに……。しかも、貴重な装備が喪失したらどうするんだ?牧場やってる暇があるなら攻略出来ていない単体任務をやる方が先(実際に牧場やった事はほとんどない)
特に改装された翔鶴、瑞鶴、大鷹、サラトガが撃沈されたら目も当てられません。カタパルトなんてどうやって再入手するでしょう?よって私はこの4人だけは常に補強増設枠を設置して常に応急修理女神を装備しています。費用は自腹(泣)。指輪もネジも有料だから今更と思いますが、これも犠牲か……
艦これ始めてから今まで撃沈した艦娘は、無しですから良しとしましょう