浦田重工業が保有する航空基地が混乱する中、X兵器を載せたトレーラーを502部隊は、予定通り本社ビルに近づいてくる。途中で浦田兵が待ち伏せていたが、どれも強引に進んだ。特に障害物に対してはロケット砲で吹き飛ばした
「爆破範囲に入りました!」
「もっと近づけ!あいつらは、気づいていない!」
軍曹の言ってる事は正しい。戦艦ル級改flagshipを率いていた深海棲艦の艦隊は、全て艦娘である時雨達に向かっている。待ち伏せてしている敵兵も、軽火器類しか見ない。これは何かの作戦なのか?それとも、本当に知らないのか?
どうも後者のような気がするが、今は関係ない。大佐の息子から無線連絡があり、バスを拾ってこちらに向かっているという。どうやって戦艦ル級改flagshipを巻いたのか知らないが、兎に角、無事だ
そして、博士と艦娘の工作艦である明石から朗報が来た
『聞いてくれ、軍曹。X兵器は成功した!』
「本当か!」
『本当です。担当士官から連絡がありました。特殊無線機以外の電子機器は死んでいると』
突然、無線に割って入って来た明石も興奮気味で喋っている。兎に角、敵飛行場を無力化した。なら、今度は敵拠点に炸裂させてやる!
一方、浦田重工業の本社ビルは騒然としていた。千葉県にある航空基地から連絡が途絶えた。無線の故障かと思ったが、違う。しかも、遠く離れて警備に当たっている分隊長から連絡が来たが、内容が支離滅裂だ。突然、コンピュータがイカれたと言っている
被害報告に浦田社長は、分からなかった。四発の重爆撃機が飛行場に強行着陸したと思ったら、付近を飛んでいた味方のジェット機とヘリが突然、墜落したという。これは日本軍の新兵器か?しかし、それはないと浦田社長は否定した。第二次世界大戦時の兵器類は、大体覚えている。このような奇想天外の兵器は、聞いたことがない。攻撃を受けていないのに墜落させた?超能力か?それとも、艦娘の新しい能力か?
ジェット機の損失は痛いが、あまり実感が湧かない。悩んでいるときに警備隊長から連絡が来た
「何だ?今、忙しい。航空基地が艦娘の新兵器の攻撃を受けた。今は原因究明に――」
『何やっている!さっさと本社ビルに接近しているトレーラーを破壊しろ!』
警備隊長は、切羽詰まっていた。何をそんなに慌てているのか?
「どうした?自爆攻撃の対策ならしている。戦車とヘリを並べて待ち構えている。502部隊を捕らえ、公開処刑にする。奴等の士気を下げる手段だ」
勿論、502部隊の行動は読んでいた。トレーラーを守ってこちらに向かっている事から巨体な爆弾なのだろう。原子爆弾や化学兵器、生物兵器はあり得ない。そんなものを使用すると関東地方が壊滅するからだ。生物兵器も考えにくい。しかし、万が一のために対策チームも戦車と共に待ち構えている
バカの一つ覚えだろうと呆れて放って置いたが、警備隊長の焦り声は無くならない。それどころか、聞き慣れない言葉を口にした
『違う!奴等はEMP兵器を持っていている!』
「E……え……?何だって?」
『レーダーやコンピュータなどの電子機器だけを破壊するために造られた電磁波兵器だ!このままだと、コンピューター搭載している全ての兵器は、使用不能になるぞ!』
そこまで聞くと、浦田社長は頭が真っ白になった
電子機器だけを破壊する兵器だと!
『炸裂したらヘリや戦闘機は墜落するし、戦車もトラックも動かん!中古の兵器を魔改造して全部、コンピュータで制御されているからな!それどころか、試作で近代兵器を搭載した深海棲艦の艦隊も影響を受ける!ミサイルもレーダーも使い物にならんぞ!』
「バ、バカな!」
予想外の事態に浦田社長は焦った。直ちに攻撃命令を出したが、後の祭りだ
「貴様はこれをなぜ、予期していなかった!?」
『予期出来るか!電磁パルスの兵器は、俺達の世界でも最近になって実用化出来た兵器だ!第二次世界大戦時の兵器にこういった兵器は存在しない!俺達の世界の誰かが、時雨という艦娘に吹き込んだとしか考えられん!心当たりはいないか!?』
浦田社長は必死に考えたが、中々思い付かない。あり得ないならだ。軍事技術を伝えたにしても、ワームホールはこちらが抑えている。宗教団体や虐げられた現地民などは雇っているが、どれもあり得ない。彼等が高度な軍事技術を持ってこれる訳がない。と言うより、高度な技術なんて知っている訳がないし、持っていないはずだ。
(分からん……)
軍事顧問は警備隊長である元陸自の隊員しかいない。こちらの警備会社にテロや軍事作戦を伝え育てたのだ。裏切る訳はない。軍事技術もだ
(まさか……)
浦田社長は思い出した。軍事を教えて貰ったのは警備隊長だけではない。艦隊の編成や航空作戦などを教えて貰ったもう一人の自衛官。こちらを支えてくれたが、浦田社長の勧誘を蹴り、ひっそりと去っていった者。
この世界を知らないが、何らかの方法で伝えたのなら……
(バカな!アイツが裏切っただと!!)
それなら納得がいく!アイツなら出来るはずた!航空自衛隊の幹部であるアイツなら!仕事の関係で海上自衛隊との交流をしていたため、海空の軍事作戦を熟知していた!防衛省の航空幕僚監部の防衛部に勤めていた
(あの野郎!これを予期していたのか!それとも、海自の幹部の自殺の偽装を見破っていたのか!?)
浦田社長は頭をかきむしった。こんなはずはない!私の夢を邪魔してたまるか!
浦田社長は知らないが、実はイージス艦の情報入手のために脅迫した海上自衛官と浦田社長に軍事学を教えた航空幕僚監部で働いている航空自衛官は仲が良かったのではなく、まして友人でもない。しかし、海上自衛隊のイージス艦情報漏洩に対して防衛省内で調査が行われたが、不運にも日米合同演習絡みで会う予定だった。関係者全員調査され、その空自の幹部にも容疑が掛けられてしまった。つまり、巻き込まれてしまったのである。その空自の幹部は無罪を主張し、関与を裏付ける証拠も出なかったが、灰色となった。というのも、データを盗んだスパイや国が分からなかったのである。結局、左遷され戦史研究室という小さな部署に入れられた。実はイージス艦のデータを盗んだのは、浦田社長によって命令された戦艦ル級改flagshipである。人間に化けれたのと平行世界には存在しない怪物であったため、捕まる訳がない。警察や公安は首を捻るばかりだ。だが、この事件で浦田に不信感を持ち離れていくどころか、彼は浦田に従うふりをしてパソコンの軍事学のデータに細工を加え、本物の情報を隠したのである。試作兵器のデータを入れたのも、どうやら浦田の企みを何となくであるが感づいたらしい
タネを明かせば、この事態を撒いた原因は浦田社長自身。時雨がいた未来では、空自の幹部のささやかな抵抗は空振りに終わったが、今は違う。EMP攻撃は成功している
そんな背景を知らずに、浦田重工業の本社ビルを守っていた私兵部隊は大混乱した。向かって来るトレーラーをさっさと破壊しろとの命令を突然受けたからだ
直ちに上空を飛んでいるジェット機を向かわせた。ヘリは鈍足であるため間に合わない。しかし、向こうも気づくだろう。トレーラーの爆弾を炸裂させるかも知れない。そのため、どうするべきか迷ってしまった。近代兵器を身に纏った部隊の弱点でもある。こういった事態を想定していないのもあるが、何よりも替えがないのだ。第一陣のイージス艦の艦隊は東京湾から出ようとしているため問題はない。しかし、こちらの防衛力は下がる。既に航空基地は激戦であるが、何とか制圧に着手しているという。しかし、コンピューター部品はほとんどダメになっており、レーダーもミサイルも使えない。そして、何よりも制空権の確保が難しくなったという事である
戦艦ル級改flagshipは密告した情報を元にトラックを追いかけていたが、呆れていた。ただの民間人が乗っていただけ。荷物もよく分からないものが乗っていた。手製の爆弾のようで触ると勝手に爆発した。面倒くさいのでトラックごと爆破処理させた
「奴等ハドコダ」
「知らん!地獄に落ちやがれ!」
捕らえられ殴られながらも青年は戦艦ル級改flagshipの足元につばを吐いた。その後に重巡リ級に殴られる。まあ、予想していた事だ。囮だろうと思って攻撃し捕まえたら、よく分からない人間だった。恐らく、艦娘を見て協力したのだろう
「フン。奴ニ同情シタノカ?ズット『狂人』ト蔑ンダ癖ニ」
「え?」
その男は驚愕したが、戦艦ル級改flagshipは無視した。どうせ、分かるはずがない。空母ヲ級に再び艦載機を出して探しているので間もなく見つかるはずだ。その最中に予想外の情報が飛び込んできた
『バトルシップ、聞こえるか!さっさとトレーラーを破壊しろ!あの爆弾が炸裂したら、お前に搭載されている電子機器がイカれるぞ!』
しかし、戦艦ル級改flagshipは驚きもしなかった。たしかに電子機器をやられると痛い。しかし、戦艦ル級改flagshipは既にかくし球とも言えるものを持っている。また、燃料弾薬どころかコンピュータ部品を満載している輸送ワ級が後方に控えているため、彼女にとって痛くも痒くもない
「爆破範囲ハ?」
『予想だが400から500メートルだ!』
「ナラ、ソノ範囲外ニイル。不幸中ノ幸運ダ。ソレニ、例エそれを起爆させたとしても、銃の数はこちらが上だろう。人は死なないのだから」
『……まあ、日本を捨てるのだから問題はないが……。だが、反撃を食らう!もう、遠慮は無用!深海棲艦を使って旧軍を牽制しろ!日本全国にある都市と軍事基地を攻撃させるんだ!作業に支障が出る!』
「フン。分かった」
戦艦ル級改flagshipは通信を切ると、捕らえられた青年に向けた。彼は重傷を負っているにも拘わらず、呆然と戦艦ル級改flagshipを見ていた
「おい、お前。……何で人間のように喋れるんだよ?」
「おっと。うっかりシテイタ。オ前ノオ蔭デ攻撃ヲ免レタヨ」
混乱している青年を問答無用で拳銃を使って射殺した。もう用はない
「全ク……大人シク降伏スレバ良イモノヲ」
戦艦ル級改flagshipは日本近海にいる深海棲艦の艦隊に無差別攻撃を命じた。お陰で、日本各地で悲劇が起こったのは言うまでもない
そんな状況を他所に、502部隊の車両が本社ビルに近づいていた。途中で艦娘が乗ったバスと合流出来たが、今度はジェット機が近づいてくるという
「博士からです!X兵器は効果ありとの事です!」
大淀は喜んでいたが、提督は走破思ってはいない。実は時雨の対空電探に高速で近づく機影を確認しているとの事だ
「軍曹!奴等はこの兵器の正体を気付かれた!ここで起爆させるんだ!」
本社ビルとの距離は約180メートルだが、範囲内だ
『分かった!起爆させろ!』
車両は急停止し、作業を開始した。ボタンを押すだけだ。しかし、護衛していた装甲車が爆発した。ジェット機から発射された対地ミサイルが命中したのだ
「クソ!」
爆風の煽りを受けトレーラーは横転した。時雨は提督が命じるよりも早くも動いた。起爆方法は、全員教わっている。トレーラーによじ登り、コントロールパネルを開く。そうしている間もMiG21は旋回して攻撃しようもしている
「何してる!早く押せ!」
「分かっている!」
時雨は思いっきりボタンを押した。何も起きない。MIG21は、既にミサイルを発射していた。こちらに飛んでくるミサイルは――そのまま上空を通りすぎ住宅街に着弾し爆発させた。ジェット機も制御不能に陥っているらしくこのまま地面に激突した
時雨の対空電探もイカれているのか、ノイズばかり走って使い物にならない
「よし、成功だ!」
「うん……そうだね」
こういった兵器は見たことがなく、実感も湧かない。しかし、効果はあるだろう。ちょっと疑問を感じてしまった
しかし、時雨の困惑を他所に他は大混乱に陥った。電力システムが止まったため大停電を引き起こし 、通信機器にも影響が出た。効果範囲に入っているジェット機や攻撃ヘリは突然墜落し、戦車も照準装置や動力をやられ動かなくなったという。付近を飛んでいたレシプロ機の内、数機はエンジン不調で墜落したが、ほとんど浦田重工業の航空兵力で壊滅していたため、この攻撃には損害は軽微という皮肉が生まれた。レーダーも機能停止し、本社ビル近くの港に泊まっていたイージス艦や貨物船は、システムダウンして出港できない
ここまで来ればX兵器の正体は、分かるだろう。電子機器を破壊したのはX兵器から発せられる
しかし、コンデンサから発生する電磁パルスは、微弱であるため増幅させる必要がある。そのため、強力な蓄電装置と電力が必要であるためそう簡単に造れる訳がない
ディープスロートがデータとして残した兵器の分類は、JDAMという無誘導爆弾と巡航ミサイルに搭載可能のHPM兵器(Champ)である。最近になって米軍が開発に成功し、日米合同演習で使われたらしい。電磁パルス対策と効果を試験するために使用していたという。ディープスロートはどうやって手に入れたか知らないが、電磁パルス発生装置を利用した兵器の設計図や電気回路を手に入れたらしい。電気回路と科学知識のデータを残して入れたため、明石と博士は理解するのに苦労した。何しろ、代替システムを製造するのに手こずったからだ。パソコンにも一応記載されていたが、それでも効果を発揮できなかった
そのため博士は明石を建造するために簡易的建造ユニットを造る事を決意したのだ。不知火、大淀、龍譲はおまけで建造したが、それでも十分な戦力だ。時雨だけでは負担が大きすぎる。明石は、自身の能力と工廠妖精の力をフルに使って電磁パルス発生装置の開発に成功した。博士も登戸の連中も不眠不休で作業したが、出来上がったのは巨大な電子装置だった。巨大コンテナ並みの大きさに収まったのは奇跡だろう
しかし、重量があるため巨大な航空機か大型トレーラーが必要だ。軍の試作の大型爆撃機である「連山」と大型トレーラーで向かうことにした。それしか手はない
成功したのは、敵が兵器の正体に気づかれなかったのは幸運だった。また、どういう訳は水際で撃破するつもりらしく、包囲作戦で捕まえる気だったらしい。舐められていた感があったが、兎に角、電磁波攻撃は成功した。浦田重工業は強力な兵器を持っているが、大量に失ってしまうと途端に不利となる。何しろ、電子機器を頼っているのだ。電子機器が麻痺してしまった今、少数精鋭でこの状態は不味い
また、通信システムがやられているため、部隊との連絡が出来ない。高高度核爆発なら、両軍問わずシステムがやられていただろうが、幸いにも局地的であるため、そこまで被害はなかった。しかし、警備隊長は撤退を命じた。幸い、万が一のためにEMPでも壊れない特殊無線機も少なからず部隊長クラスに持たせていたため命令できた。指揮官の仕事は指揮なので、通信機能が高性能というのは珍しくない。しかし、現場は混乱したのは言うまでもない
「撤退ッ!?相手を押しているのに、どうしてです!!」
『本社ビルが正体不明の攻撃受けてシステムが全てダウンしたんだ。このままだと本社ビルが無防備になる!』
首都に展開している浦田の部隊長は自分の上司である警備隊長に罵倒した。
「こちらは戦車も動きますし、まだ電子機器は使えます!」
『お前達が進軍しても包囲されてしまったらお仕舞いだ!撤退するしかないだろッ!! 他の部隊に通達させろ!!直ちに引き返すんだ!』
帝国陸軍の地上部隊と海軍の陸戦隊を押していた浦田部隊は大混乱した。電磁パルスについてはほとんどの者が理解出来ないため、新兵器によってやられたと説明することにした。当然、納得する者はいない。しかし、上からの命令だ。従うしかない
「撤退だとッ!?」
「本部が新兵器にやられたらしいぞ」
「糞野郎が!!何やっているだ!」
浦田の部隊達は首都進軍のルートから撤退し本社ビルか港まで戻っていく。突然、あわただしく逃げていく浦田部隊帝国陸軍の地上部隊は、眉を潜めた
「准尉殿、奴等逃げていきますぜ」
「罠……か?」
「それにしては慌ただしい逃げ方ですよ」
撤退しながら奮闘していた彼等は、突然の浦田部隊の撤退を見ていた日本軍は不思議に思った。先ほどまで押されまくられたからである。味方の戦車は真っ先に撃破され、戦闘機も片っ端から落されていく。有利だった彼等が、尻尾を巻いて逃げるとはどういう事だろう?
「まさか502部隊の極秘作戦が成功したのか?」
「そうだとすると好機ですな。またとない千載一遇ですぞ」
「……よし、慎重前進しよう。早速、中隊長に報告してくる」
こうして日本軍はゆっくりと前進を始めた。本当は戦車を使いたかったが、残念ながら戦車は全て破壊された。日本軍の前進に浦田部隊は直ぐに気付いた
「奴等が来るぞッ!」
「早く逃げるぞ!! 物資は置いていけ!!」
「日本軍にあげるのか?あんな奴等に!」
「捕まって拷問されるのと一目散に逃げるのはどっちが良いんだッ!」
遂には補給物資を置き去りにして逃げる羽目になった。トラックに乗せるのも限界はある。これに飛び付いたのは勿論、日本軍であるのは言うまでもない
「浦田給与だッ!?」
「此方は医療品だ。軍医を呼んでこい!」
日本軍は進軍よりも捕獲した物資を奪うことに専念したため進軍が遅れてしまった。実は太平洋戦争でも米国やイギリスの補給物資を略奪する際にも彼等は『ルーズベルト給与』『チャーチル給与』と言って喜んだという。
特に米国輸送機が落下傘による補給物資の投下を誤って日本軍に落とした時は手を叩いて喜んだという
彼等は、梱包されていた食料品であるミルク缶、チーズ、チョコレート、パンなど当時の日本国内では手に入らなかった食べ物を楽しんだと言われている。勿論、誤って投下してしまった連合軍は、上から地団駄を踏んだのは言うまでもない。戦争で数少ない喜劇(?)が起こった1つである
この世界の日本軍は浦田重工業のお陰で経済成長したこともあり、不自由はないものの、やはり足りないものは足りない。特に医療品は嬉しかった。戦闘により負傷者が多数いたからである
これは帝国陸軍にとって予想外の戦果だった
一方、浦田社長は暗くなった司令塔にいた。既に部隊の撤退を命じたが、それでも時間がかかるという。ジェット機を主力とした航空戦力は壊滅的であり、戦車も大半は失っていた。やむを得ず、電子機器がやられ動かないT-72や74式戦車は破壊するよう命じた。悔しがっているように見えるが、違っていた。僅かながら笑っているという
『おい、これからどうする?』
「第二陣の艦隊の復旧を終えたら、直ちに離脱する。間に合わないものは置いていく!」
電磁パルスは確かに厄介ではある。しかし、高高度核爆発ほどの強さではないため生き残る機械は僅かながら存在する。現在、港に停泊している6隻のイージス艦と貨物船は機能停止したが、船長の話だと復旧は可能との事である。幸いにも欧米の原爆開発を警戒していたため、EMP防護はある程度していた。そのため、奇跡的に復旧は出来るのだが、時間はかかるとの事だ
『おいおい、尻尾巻いて逃げるのか?……まあ、切り捨てもやむを得ないな』
警備隊長は呆れていたが、流石に全員収容は間に合わない。帝国陸軍もバカではない。時間は伝えてあるものの、上手く行かないのが現場である。浦田社長は無線を切ると、イージス艦の艦長に伝えた
「艦長、艦対地ミサイルはどうだ!」
『精密な誘導は出来ません!電磁パルスでシステムダウンした箇所はともかく、誤作動が起こります!味方の誤爆もあり得ます!』
イージス艦も電磁パルスを受けてシステムに干渉し誤作動しているという。何とか復旧出来たが、完全ではない。オリジナルではないため、ただでさえ機能は劣るのに更に低下してしまった
『ヘリも飛ばせません!大まかな位置でしか……』
「構わん!撃てるなら、さっさと撃て!地上部隊が危機的状況だからだ!」
『……分かりました』
ここで言う艦対地ミサイルは、戦闘機に取り付けている空対地ミサイルを魔改造したものである。米軍なら巡航ミサイルだが、残念ながら浦田重工業は米軍ではない。独自開発と改造で手に入れた兵器である
イージス艦のVLSから数発の艦対地ミサイルが発射された。到達まで数分もかからない。陸軍である地上部隊は何が起こったのか分からなかった。上空からロケットが飛んで来たかと思うと、爆発と轟音と爆風に見舞われたからだ。破壊力は凄まじく、帝国陸軍の地上部隊はまたしてもすりつぶされた。不発だったのか、地面にめり込むロケットが数本あったが、炸薬があるため近寄れない。それに加えて、増援で浦田部隊がやって来て反撃して来た。戦闘車両が無くても銃や大砲は健在である。戦車は照準システムと動力が使用不能しただけで、撃つだけなら問題は無い。戦車砲の装填は、マニュアルでも動かせる。T-72戦車も動力は動かなくても戦車砲と機関砲で応戦して来た
地上部隊は、浦田部隊の追撃の停滞を余儀なくされた。豊富な火力で撃ってきているためである。また、数機の攻撃ヘリやジェット機は生き残っていた。電磁パルス炸裂時に効果範囲外に居たのだろう。執拗に攻撃を加えた
ロケット弾、ミサイル、機関砲の猛火を地上部隊に浴びせた。流石の帝国陸軍も怯み、後退を余儀なくされた。しかし、ミサイルは今や貴重になった事で補給はロケット弾か機関銃弾しかない。ミサイルも誘導装置が組み込まれているため、誤作動する可能性があるからだ。だが、ここで叩きのめさないと本社ビルは危ない
物凄い銃撃戦が行われていたが、今度は浦田の私設軍隊の方が後退しながら応戦している。帝国陸軍も一気に叩き潰したい所だが、こちらは浦田の猛攻によって陸攻である爆撃機も戦車も破壊されてしまった為、進撃するのは難しい
「あれだけ被害を受けても、抵抗するとは」
陸軍大将は苦笑いした。認めるしかない。こいつらは悪だが、強敵だ。クーデターやテロといった生易しい相手ではない。手持ちの兵力でどれだけ戦えるか。現在、陸上輸送機に改造された深山改を使って兵員輸送しているが、それで足りるかどうか。戦車も戦闘機も先ほどのジェット攻撃で8割は失ったのだ
「厳しい戦いになる。気をしっかり持たないとな」
元帥も頷いた。勝負はまだ終わってはいない
陸軍の地上部隊と浦田部隊が激突している隙に、提督と艦娘達。そして502部隊は警備が薄い本社ビルに侵入しようとしていた。建造ユニットを奪還するためである
おまけ(EMPと高出力マイクロ波発生装置(HPM))
提督「電磁パルスについて?物語には出たけど、そこは説明する程ではないと思う。警備隊長が言っているように簡潔明瞭に言ってしまえばいいと思う」
明石「ダメですよ!説明するって感想の返信で約束したでしょう!それに応えないと!」
提督「だけどな、電磁パルスなんて難しいよ。ウィキペ○ィアでも分かりにくく書いてあるから」
時雨「別にいいじゃない。それでも提督は、知っているみたいだから」
提督「まあ、いいが。しかし、電磁パルスは難しい。ここで難しい理論をコピペして貼りつけてもも意味がないから、(なるべく)誰でも分かりやすく説明する」
時雨「提督、今回は真面目だ」
明石「毎回、後書きではギャグ満載だったのに」
提督「まずはEMPである電磁パルスについてだ。電磁パルスとは、あれだ。とても分かり易言えば、映画『GODZILLA』(2014年)で怪獣、MUTO(ムートー)が出しているあれの事だ。電子機器を無力化してしまう能力と思えばいい」
明石「いや、間違っていないけど説明省き過ぎで例えが雑です!」
MUTO(♂)は思った
MUTO「嫁さんに会うために目覚めたら、米軍が待ち構えていた。恋愛を邪魔する奴は、誰であろうと許さん!食らえ、EMP」
米軍「コンピュータが!電子機器が全部、麻痺してしまった!レーダーも使えないし、ミサイルも発射すら出来ん!」
MUTO「これがEMPだ!電磁パルスで人類の兵器を無効化できるので、攻撃をほぼ受けていない。戦わずに勝つのが俺のやり方だ」
米軍「グヌヌヌ」
進撃するMUTO。電磁パルスのせいでコンピュータが全く使えない米軍は、機械式で動く核爆弾で対抗しようとする!さあ、どうするか!
明石「もう怪獣説明になっているじゃないですか!真面目にやって下さい!」
提督「分かった。どうやら例えが悪かったようだな」
明石「全く、何しているんですか」
提督「よし、レザーバックかスペースゴジラを使おう。さて、どうするか――」
明石「いや、同じですから!怪獣持ちださないで下さい!」
(※レザーバック(パシフィックリム)とスペースゴジラもEMP出来ます)
提督「冗談はここまでにして」
時雨「やっぱり」
提督「電磁パルスとは言うのは、電子回路に高圧パルスを発生させて電子回路を破壊される現象。早い話、送電線や送電鉄塔へ雷が落ちたのと似たような状況と思っていればいいよ。最悪の場合、電子回路が焼き切れる事態まである」
時雨「修理は出来るの?」
提督「被害次第ってところ。広範囲に電磁パルス攻撃すると、復旧は短時間では済まない。現代はコンピュータ制御されているから、通信機器類(テレビ・ラジオ・インターネット・アマチュア無線など)などは勿論、生産工場、交通・運輸・流通システム、送電、金融も完全に停止して、すぐに回復できない」
時雨「電磁パルスって広範囲で攻撃出来るものなの?」
提督「電磁パルスは核爆発の際に発生するもの。高度100kmから数100kmの上空で核爆弾を爆発させると、上空高くでは大気が薄いため爆風はほとんど起きないが、地上に電磁パルスを降り注ぐ。因みに過去にハワイで、核実験によるEMP騒ぎがあったから間違いないよ」
時雨「過去に……あった?」
提督「1962年にハワイから800マイルほどの距離で米軍が高々度核実験した際に起こった被害の事。フィッシュボール作戦による核実験。ハワイに影響したのはその中の『スターフィッシュ・プライム』。人工のオーロラを発生させると共に、ハワイの数百の街灯故障を引き起こしたり、防犯アラームが落ちたり、レーダー壊れたり、ハワイの電話システムをダウンさせたり……。復旧に1ヶ月くらいはかかったらしい」
時雨「そんなに?」
提督「当時、低軌道を飛んでいた人工衛星の3分の1が破壊された。迷惑な話だよ」
時雨「で、対策は?当時、こんな被害があったんだから対策は」
明石「勿論、あるわよ」
提督「その前に質問だ。電子部品である真空管・トランジスター・パラメトロン・IC・LSIの内、どれが電磁パルスに耐えられるか?」
時雨「真空管じゃない?よく聞くけど。MiG25もあるし」
提督「……」
時雨「違うの?」
提督「間違っていない。ただ、真空管の場合はあくまで耐性が高いというだけ。強力な電磁パルスだと落雷の直撃のように導通する金属配線に高い電流が流れるので耐えられない。真空管も強力な電磁パルスを浴びせば、ヒータフィラメント線が断線、金属電極が真空放電で溶ける。如何に真空管だろうと万能ではない」
時雨「電磁パルスで評論家達は、MiG25をよくあげるけど」
提督「あれは勝手に言っているだけだな。そもそもMiG25は本気で核戦争想定するために造られたかどうか分からない。というかF-14、F-15だって初期型は真空管使っていたから」
時雨「あ、あれ?」
提督「確かに昔は『レーダーの一次系は真空管回路じゃないと、核による電磁パルスには耐えられない』と 言われていたが、逆に言えば真空管のような素子なら耐久力がある。最近は耐久力のある半導体回路が作れるようになったため真空管に頼る必要はない」
明石「因みに何も真空管に置き換えなくてもシールドしていれば、電子機器は守れる。レーダーや無線はシールドしたら使い物にならないので、一種のブレーカー、フィルターのようなもので保護しているから限定的とは言っても壊れない。電磁波シールドシートなどネットで漁れば売っている。本当に効果はあるか不明だけど」
提督「冷戦時代に米ソがバンバン核実験したお蔭で、現在はある程度EMP防御する手段は生まれている。ただ、全部隊に行き渡って対策されているというのは疑問だな」
時雨「どうして?」
提督「予算関係」
時雨「……」
提督「最近の戦闘機や戦車や軍艦は、コンピュータ無しだと戦力にならない。F-16なんかはコンピュータ無しでは、水平飛行も難しい。全部、電磁パルス対策でシールドつけたりしたら天文学的な金がかかるな。それに真空管は寿命が短いのが宿命。外部振動にも弱いから、電磁パルス対策のために真空管というのは、今ではほとんどの者は使おうとしない」
時雨「MUTOが実際にやって来たら終わり……それはそうと、浦田重工業の場合は何で?」
提督「本作品では浦田重工業の軍事技術は、民生品を流用して魔改造して動いている。軍事技術と民生品は表裏一体だけど、軍(自衛隊)のようにシールドなんてしていないし、そもそも電磁パルスの想定していない。まあ、電磁パルス対策でシールドするには金がかかるし」
時雨「……意外と間抜けのような」
提督「誰も予想出来なかったのが本音。しかも、非核型の電磁パルスを使うとは思いもしなかったから。元陸自の警備隊長が驚いたのはそういう背景」
時雨「本作品で出たHPM兵器って何?」
提督「早い話、電磁パルス発生装置と言った方がいいかな?電子機器を使って電磁パルスを発生させる事。ただ核とは違って出力が低いから、効果は限定的。だから、イージス艦は復旧されちゃったし、逃れた現代兵器もいるけど効果は絶大」
時雨「どうして、米軍はこんなものを開発したの?」
提督「敵レーダー対策だろうな。なにしろレーダーというのは、電波を待っているわけなので。アンテナにシールドしてしまったら使えないから目潰しには持って来いの兵器」
時雨「レーダーと無線を目潰しすると言う事は……」
提督「SAMサイト、レーダー誘導ミサイルなどは使えなくなる。更には車両の不動化、コンピューターや通信関係の破壊、 航法装置を破壊することによる航空機、船舶への攻撃が出来るからこれを食らった敵はたまったものではない。先ほども言っているようにレーダーやアンテナはシールドが出来ないから」
時雨「最後にこれは実用化されているの?」
明石「……」
提督「まだだと思う。米軍も現時点での実用化は公式に発表されていない。でも、完全にSF兵器ではない」
提督(本作品のHPM兵器も架空だけどな)
明石(しっ!)
時雨「電磁パルスとHPM兵器は分かったけど、個人が持つ電子機器も壊れるかな?蛍光灯や懐中電灯とか」
提督「瞬間的に大電流が流れてOKな回路だったら、壊れない」
時雨「そうなの?」
提督「懐中電灯はフィラメントに損傷を与えるほどの強力なパルスを与えられない限り大丈夫。乾電池も使えるから」
時雨「そうなんだ」
提督「芝刈り機も動く」
時雨「へぇー」
提督「大人のおもちゃ、ピン○ロー○ーも動く」
明石「ちょっと!どさくさに紛れて何言っているの、この人!」
提督「長くなったのでこれで終わり。電磁パルスはMUTOが生み出す電磁波と覚えておけばOK。効果はコンピュータ破壊。一応シールドで対策出来るが、レーダーは対策しづらい。そして、HPM兵器の開発した理由は、米軍の関係者がスペースゴジラを見て『これだ!』と思いついて造り上げた兵器と思えばいい(嘘)」
明石「結論が滅茶苦茶!今までの説明、何だったの!?」
時雨(最後はやっぱりこうなるんだ)
電磁パルス兵器は様々あり、爆発を用いたEMP発生装置、キャパシター(コンデンサ)を用いた発生装置、アクティブ・フェーズド・アレイ(AESA)を電磁パルス兵器として利用するなどいろいろあります。これがあれば、現代兵器などを持ってくるオリ艦娘やクロス艦娘を倒せますね