今回はドロップが豊富ですね。掘りを優先するため甲攻略は止めておこう
「提督!不知火!摩耶さん!」
時雨は暗闇の中を走り回っていた。ワームホールに砲撃した直後、眩い光が目に入ったと思ったら、自分は暗闇にいた。何処までも続く闇。走り回っても、提督に合わないどころか、壁にぶち当たらない。自分がどこにいるのか、見当すらつかない。自分はビルの中にいたはずだ!
時雨は焦っていたが、突然、視界が開けた。そこは……
「え?」
ある家の部屋だった。知らない部屋。提督のアパートでも博士の実家でもない。制服や置物を見れば、ここは女の子の部屋だと分かる
掛けてある制服は、学生服だろう。なぜ自分はここにいるのか、理解出来ない。扉を開けようとしたが、何故か開かない。ノブが固く、扉を叩いても誰も返事もない。オロオロとしている中……開かなかった扉が開き、1人の女子が入ってきた。髪が短い普通の女子。10代後半に見える
「あ、あの。ここはどこ?気がついたら、僕はここにいて――」
時雨は切羽詰まっりながらも早口で説明したが、相手はこちらが見えていないのか、普通に歩いている。こちらに近づくと、時雨の身体をすり抜けてしまった。何が起こったか、分からない。まるで、幽霊のような……
いや、幽霊にしてはおかしい。周りの部屋もおかしいのだ。品々が古く、明かりも裸電球1つだけ。貧乏であるのは間違いないが、窓の外は寂れた村である。電線もそんなになく、街も発展もしていない
まるで、自分が再び過去へ遡ったような……
再び視界が暗くなっかたが、すぐに明るくなった。場所も変わり、何処かの家の部屋から学校へ変わっていた。木製の机や椅子が沢山並べられており、黒板がある。時雨は直ぐに学校だと分かった。高等学校だろう。制服も見たことはないが、集まってある男女を見ると学生だと分かる。何処の学校かは不明だが、士官学校ではないのは確かだった
初めて見る高等学校。しかし、1つだけの席は違っていた。あそこだけの机が違っていた。時雨は興味本位で席に近づいたが、なぜ違っていたのか理解すると後ずさりした
机の上には悪口雑言が書き殴られている
バカ、死ね、消えろ
それしか書かれていない。周りにいた人達は盛んにその机に指を指しては、悪口を言う始末だ。教室の扉が開き、先程見た女子学生が入って来た。入るや否や周りの学生達が集まる。男女関係なく
その女子学生は何処かに連れて行かれたが、どれも禄でもないものばかりだ。時雨は彼女が何をされていたのか分かった
いじめだ
ある空き教室で倒れながらも彼女は、壁をぼんやりと見つめていた。学生服は乱れ、あちこち受けた暴行の跡が肌を見せる。今日も同じだ
この状況を打開する方法を考えていた。高校進学してから想像を絶するいじめを受けた。理由は不明。恐らく、父が日露戦争で戦死したのが原因なんだろう。しかし、私は父には一度も会っていない。私が生まれた時には、既に死んでいたのだから
その父の戦死について何処で歪んだのか、高校進学してからいじめが始まった。初めは女子による無視や嫌がらせから始まった。いじめは男子にも急速に広まった。担任の見ていない所で、罵られ、暴行を加えられる
最初に止めに入っていたクラスメイトも、次第に見てみぬふりをするようになった
暴行、恐喝、脅迫、集団無視、次第に過激になるいじめ……
脅されいたため、担任にも相談できず、母は一日中、働いているためどうする事ができなかった。兄は忙しいと言って何かをやっている。助けは無い
クラスメイトが怖くなり、かつての友達も離れていった。身内も宛にできず、どうすることも出来ない
いつか耐え忍べば、いつか相手は飽きて止めるだろう。
そんな希望的観測で抵抗する気も失せていた。しかし、いじめはどんどん加速していく。そして、その我慢も限界を越えた
今までされたことを振り替えって来た
毎月のように脅し取られるお金。女子からのいたずら、男子からの暴行。そして、遂には性的暴行までされた
この明らかにいじめという領域を超えている。このままではいずれ殺されてしまうかもしれない
自分が何をしたのか?何に気に入らないのか?全く見に覚えもない。もしかすると、最近、試験的に導入を実施した男女共学の高等学校に入学したのが不味かったかも知れない。学費を満足に払える身分ではないから仕方ないかも知れない
弱い者が淘汰され、強い者が幅を利かせる。そして、弱者は何も得られない
今の自分は最底辺で淘汰される人間だと理解した。自然の世界でも肉食獣は本能で獲物を狩る。自分はたまたまか弱い草食動物だ
私は悟った。黙っていても、耐え忍んでも、もがいても同じ。なら、肉食獣のように狩る側につくしかない
選択肢は1つ
私の教室にいるクラスメイト全員を復讐する事。自分の苦しみを味合わせる事。手段は問わない。例え、どんな手段を取ろうとも
まずは1人目。男子生徒だ。成績優秀で運動も抜群である。しかし、この男子生徒はとてつもなく腹黒かった。「良かったら、力になるよ」と近づいてきた。私は涙を流して、その男子生徒を信じた。そして、誰もいない場所で暴行された
私は怒った。少しでも信じた私がバカだった。1ヶ月調べ尽くして、行動に出た。彼が影で女子生徒に手を出している事を掴んだ
私は実行した。密告したのだ。楽しそうに話している他校の女子生徒と話しているところに親達が待ち構えていた。どうも、被害者の親達らしい。中には腕に自信がある人もいた
その男子生徒は、集団リンチされた。被害者の女子生徒も加わり、彼は無惨な姿となった
「今度、やってみろ!警察に突き出しからな!」
親は男子生徒に罵ると、退散した。1人取り残され、ボロボロになった男子生徒は泣きわめいた
そんな自業自得である光景を私は遠くから眺めながら喜んだ。家に帰っても部屋でバカみたいに笑っていた。楽しくて仕方ない
しかし、私は笑うのを辞めた。1人を復讐しただけ。それだけだ。まだまだ狩る者は沢山居る。数週間掛けて練った復讐だ。失敗する訳がない
それからというものの、私は復讐に入った。不良男子には、警察や両親を使って補導を。女子には性犯罪者を招き入れて紹介してやった。数年前に指名手配である性犯罪者を偶然出会ったのだ。こちらを襲って来たが、ナイフを使って抵抗した。いつもはいじめられていたら怯えていたが、今はその微塵も感じない。死の恐怖は無かった。激しい取っ組み合いが始まったが、何とかこちらが勝った
匿う代わりに自分のコマとして扱った
初めはバレないか心配していたが、意外と上手く行った。1人、また1人と補導や謹慎処分が増えると、流石のクラスメイトも空気が暗くなった。皆はストレスを抱えていた。そして、八つ当たりは当然、自分にも回って来た
「チッ……こいつ疫病神か?だが、関係ねぇ!テメーは俺らのオモチャだ!」
物置小屋で私は、犯された。数人の男子生徒達によって。だが、全てが終わりゴミのように放って置かれた私は、泣きもしなかった
「フフフ……アハハハハハ!」
私は狂ったかのように笑った。もう隠れてこそこそと復讐するのは止めた。これからは法を犯そうが、命を奪おうがどうでもいい
私が死んでもいじめている奴等は何も変わらない。身内も友人も先輩も頼れる人はいない。家族は死んだも同然だ
「みんな、私と同じ地獄に墜ちて欲しいだけ。それだけ」
その後も笑い続けた。もう、普通に生きていく事は出来ないだろう。そのためには、力が欲しい。人を簡単に屈服させるほどの絶対的な力が!
私は図書館に籠った。必死になって本を探す姿を見た職員や客は、不審がっていたが、どうでもいい。しかし、これといった成果は無かった。薬物は入手の難易度が高く、例え実行できたとしても証拠が残る。参考程度の知識しか入らなかった
「なあ、お前……段々と人相が悪くなってきていないか?」
ある日の事、こちらの駒として使っていた逃亡犯が、さらりと言った。コイツの名前はどうでもいい。だが、犯罪者がこちらの姿をどうこう言われてもどうでも良かった
「それなら、さっさと手を動かして。悪人さん」
「悪人……か」
犯罪者は黙々と作業を続けた。初めて出会った時以降、私に従っている。本人は隠れ家が欲しかったらしく、従っているのだが
「俺が犯罪者になったきっかけを教えてやろうか?」
「知らない女を襲って強姦したでしょ?」
「違う。あいつとは知り合いだった。恋人だった。だが、あいつの親の都合で結婚相手は既に決まっていた。俺は彼女の両親に説得しようとしたが――」
「嵌められた」
男性は頷いた。どうやら、冤罪らしい。その恋人の両親が勝手に仕込んだのだろう。恋人も親の言う事を信じてこちらを見限った
「でも、何でその後も強盗や強姦を――」
「開き直ってやった。俺はもう帰る場所もない。うっぷん晴らしだ。お前が通報しようがどうでもいい。刑務所でも飯は食えるからな」
「……」
私は黙っていた。この犯罪者……必死に生きようとしている。だが、信用してはいけない。こちらを襲ったのだから
「なあ、知っているか?」
犯罪者はふとある事を口にした
「人間って簡単に死ぬって事を」
犯罪者はゾッとするような笑みをした。普通の人なら後ずさりするだろう。しかし、私は興味津々だった。簡単に死ぬ?
「おい!止めろ!出せ、このアバズ――ぎゃああぁ!」
私は優越感に浸っていた。先日に私を襲った男子生徒達に向かって石を投げたり、熱湯をかけたりしているのだから
「単純過ぎて拍子抜ける」
犯罪者が呆れたのも無理もない。下駄箱に指定された場所と時間に行くよう手紙を置いたのだ。賭けに近いが、何と先日に襲われた集団全員が来た。まあ、警察告白するという脅迫状を送ったのだから。勿論、脅迫する証拠もない
代わりに落とし穴という罠を沢山仕掛けた。私は哀れにも落ちていった不良たちを見下していた。不良たちはこちらを罵ったが、人通りがない夜の場所で騒がれても全く問題ない。例え居たとしても殺そう
「やめてくれ……助けてくれ……」
ネズミの死体や石を投げ捨ててから数分後、不良達は怯え切っていた。完全に参ったのだろう。既に身体がボロボロである。だが……
「『やめて』『助けて』……私、何度アンタ達にそう頼んだ?一度でも聞き入れてくれた事あったかしら?女性に暴行して、自分達に何も罪がないというの?」
この言葉で不良たちは絶望した。この女、本気だ。俺達を殺そうとしている!いや、流石にそれはしないだろう。何せ、女子がする訳がない
しかし、その希望も甘かった。彼女はあるものを手に取った。月明りで彼女が持っている物を見て、全員悲鳴を上げた
「おい、……止せ、止せ!」
「お前、狂ったのか!」
何と、彼女が持っていたのは弓矢だった。こちらに向けて弓を引いている!逃げようとしても数十メートルの穴の中に逃げ道があろうか?
彼女は穴からはい上がろうともがく男子生徒に向けて矢を放った。弓矢の練習をしていたのか、初めから命中。男子生徒は倒れた
「ひ、人殺し!」
男子生徒は悲鳴じみた叫びを上げたが、降ってくる矢を躱さないと行けなかった。しかも、先ほど矢に刺さった者は、苦しみ出して死んだ
「あ……ああ……」
男子生徒は恐怖し、失禁した。あの、女に。一体、彼女の近くに立っている見知らぬ男は彼女に何を吹き込んだのだろう?
だが、それを考える時間は無かった。1人、また1人と矢に刺された。致命傷でないにも関わらず、突然苦しみだして死んだ者もいる
「アハハハハハ!まさか、本当に死ぬなんて!」
「当たり前だ。トリカブトの毒を使っているんだ」
犯罪者は何を教えたのか?それはトリカブトである。トリカブトは有毒植物である。強力な毒性を持ち、経口から摂取後数十秒で死亡する即効性がある。そのため、世界各地でも狩猟用の毒矢に塗布する毒の原料とされており、日本でもヒグマを狩る時に使われていたらしい
「毒の知識を身に付ければ、強力な武器となる。他にもフグ、蛇、キノコなどの生物毒は、役に立つ。わざわざ、危険を冒して店で買う必要性すらない」
「ふーん。よく知っているわね」
「親が薬屋だったからだ」
しかし、私は犯罪者の言葉なぞ聞いていない。穴に横たわっている死体を見て、私は笑った。私の手で殺した。道徳心だとか抵抗感だとかそんなものは、微塵も感じなかった。すがすがしい気分だった。苛めていた人を絶望を味合わせてから殺したのだ。哀みなんて一切なかった。死んで当然だ。お前たちが私をこんな風にしたのだ!
私達は穴を埋めると帰宅した。次の犠牲者を探さなくては
今までの出来事を見ていた時雨はゾッとした。これは、テレビ番組ではない!余りにも生々しいし、現実感がある!触れず話せずの光景に戸惑いだったが、いじめられた女子学生を見て息を呑んだ。無抵抗の女子学生を、しかも強姦された苛めに対しては流石に時雨も怒りを感じた。よって、その女子学生が復讐として行動した場面では、仕方ないと割り切った。自分がその女子学生がされたことと同じ目に会ったら、自分は怒り、場合によっては復讐するだろう
しかし、毒矢で人を殺すのは流石にやり過ぎだ!殺人に手を染めている。しかも、彼女は後悔も哀れみも全くない!『艦だった頃の世界』の太平洋戦争では確かに人を殺したかもしれない。だが、それは戦争だ。相手もその事は承知の上で銃火器を手にして引き金を引いている。しかし軍隊でさえ犯罪は、ちゃんと対処している。だから、軍隊には軍隊警察であるミリタリーポリス……憲兵隊が存在する。尤も、『艦だった頃の世界』である日本軍の憲兵隊は民間に対する司法警察も兼ねていたため、思想犯の取り締まりが凄かったらしい。それは兎も角、時雨には既に戦争とただの殺人の区別はついていた
だから、時雨は行き過ぎた復讐に嫌悪した。そして、その女子学生が今では悪魔にも見えた。虐められ死にそうな顔が、今ではゾッとするような笑顔をしていた。いじめによって性格が歪んだとはいえ、人がここまで狂気になるのだろうか?
そして、初めて殺人が行われた時から、その女子学生の行為は過激となっていた。辺りが暗くなり、別の場面が映し出されているのは、目を覆いたくなるような残虐な場面ばかりである
ある部活の合宿で学生だけでなく、顧問の先生や宿屋の主人まで食中毒死した。原因は毒キノコ。食用キノコと間違って食べたと警察は判断して事故処置とした
ある場面では階段から転落死したというもの。どうやら、腹痛によって便所に急ぐ余り、踏み外しというもの。また、野生動物である熊に襲われ瀕死の重体になったというもの。なぜ、熊が人里に降りて行ったのか誰にも分からない
そして、行方不明になる学生が跡を立たなかった。その理由は……
「止めろ、止せー!」
斧を掲げて迫り来る女子生徒から必死に逃げようもする男子生徒。しかし、動きがおかしい。毒でも盛られたのだろうか?遂には力尽きて地面に倒れたが、例の女子生徒は嬉々している
「悪かった!俺が悪かった!だから――」
「安心して。立派な墓石を作って上げる」
満面の笑みを浮かべる女子生徒。そして、そのまま首を跳ねた
「あ……ああ……」
身の毛のよだつ光景に時雨は、子動物のように震えだした。過度の暴行を受けボロボロになった被害者である女子生徒への同情は、完全に吹き飛んだ。いじめによって怪物が生まれた!
そうとしか見えない。時雨は、この悪夢から目が覚めて欲しいと思った。だが、一向にこの悪夢から覚めてくれない
しかし、強引な行動であるため、流石の警察も疑いだして捜査に乗り込んだ。だが、証拠は全くなく、警察も手を焼いた。また、例の女子生徒はいじめにあったという過去がある事から警察も事情聴取しかしない
「私は知りません。興味ないですから」
「そうか。てっきり喜ぶと思ったんだが」
「私は人を殺す勇気なんてありません。この前も『お前がやったのだろ!』と暴力を受けましたから」
手の怪我を見せる女子生徒。警察はその場にいた担任に厳しい目を向けた
「お宅の学校教育は、どうなっているのですか?」
「すみません。善処いたします」
担任は戸惑いながらも蚊が泣くように言う
「待って!この人が犯人だ!逮捕して!」
警察が帰る姿を時雨は叫んだ。これは幻かも知れない。しかし、この場を見せられては叫ばずにいられない
時雨は1人になった例の女子生徒を見た。警察官に見せた泣いた姿は消え、ぞっとするような笑いをしていた
場面が変わり、物置小屋の場面なった。時間が経ったのだろう。蝉の鳴き声が聞こえてくる。しかし、例の女子生徒と犯罪者のペアを見れば、どうでも良いことだ
「いずれはバレる。焦りすぎだ。警察の捜査能力はバカに出来ない」
「ええ、そうね。なら教えて欲しいのがあるの」
女子生徒は忠告には全く耳を傾けない
「その前に言わせてくれ。クラスメイト全員を殺すのか?」
「ダメなの?」
「構わん。だが、困難だろう」
犯罪者は首を降った。とてもではないが、困難である
「1ついい?何で、私に従ったの?」
「お前の悪が凄まじいからだ。並の人ならこんな事はしない。だから、見てみたかった。お前の復讐に」
「勘違いしないで。復讐はもう止めた」
意外な事を言う例の女子生徒。何を言っているのだろう?
「私は強くなる。どんな相手だろうとぶちのめせる絶対的な力が欲しい。どんな手段だろうと」
この女子生 徒は、何を夢見ているのだろう?絶対的な力?そんなのは空想的だ。しかし、誰も疑わなかった完全犯罪には、近くで見ていた犯罪者にとって満足するものだ
「良いだろう。では、自殺しろ」
ある家で事件が起こった。指名手配犯が、ある1人の女子生徒と母親を襲ったという事件。母は心臓が弱かったこともあり、心臓麻痺で死んでしまった。残された例の女子生徒は、絶望して家に火を放ったとされる。後日、警察官は遺書らしきものを見つける。それは、指名手配犯を罵る手紙だった。白骨化した遺体も発見され、事件は幕を降ろした
逮捕された指名手配犯は、パトカーに乗せられるまで「某高校生の殺害は、俺がやった!殺して見たかったんだ!」と自慢したという
それにより遺族や被害にあった学生は、指名手配犯に罵声と石を投げつけたが、彼は全く気にしていない
この場面を見た時雨は、信じられなかった。自殺は嘘に決まっている。母親を殺したんだ。そして、あの白骨化した遺体も、例の女子生徒ではないだろう。そのように考えていると、警察は書類に自殺した名前を声に出しながら書いていた。その名前を聞いて時雨は悲鳴を上げた
「名前は浦田結衣っと」
時雨が悪夢を見ている中、ビルのある階では戦いが続いていた
その階は砲弾と機銃弾で滅茶苦茶になり、穴が空いている。そんなボロボロの廊下を5人の艦娘が息を切らしている。とてもではないが、敵が強い。たった1人だ。その1人を殺せない。人に変身する時は、レーダーには映らない。しかし、こちらには夜目がいい艦娘がいる。特に川内と鳥海のお蔭で暗闇に動く影を見きれた。艤装もないので、防御はそこまで高くないはずだ。しかし、身体能力は高いらしい。砲弾や刃は躱されるし、格闘戦でも強い。コッソリと爆弾付けられてしまい、被害が出る始末である。だが、戦艦ル級改flagshipでいる時と人になっている時の時間間隔は同じである事を霧島は見破った
「霧島さん、奴の能力は本当に無限じゃないんだろうな?」
「間違いありません。戦って確信しました。人への変形能力……あれは、無限ではないと」
霧島は暗闇に目をやる。見えない廊下が、一層不気味であった。夜戦経験である自分達でもここまで恐怖に駆られた事はない
「恐らく、戦艦ル級改flagshipでいる時は、エネルギーの消費が激しいのでしょう。何らかの補給があると思います。毒攻撃も弾薬節約のためでしょう」
「分からないのは、なぜ1人なのでしょうか?大勢で襲って来れば一網打尽出来るのに」
鳥海が不思議がるのも無理はない。なぜ、1人なのか?下っ端である深海棲艦は沢山居るはずだ。操れるのだから。しかし、敵はそれを実行した。しかも、楽しんでいるという
「なあ龍田、大丈夫か?」
「天龍ちゃん、大丈夫……私は」
しかし、天龍はその言葉を真に受けなかった。僅かに見えた龍田の顔は、顔面蒼白だった。毒攻撃を躱しながら、幾度と浦田結衣を切りつけようとした。だが、薙刀は空を斬るばかりで中々当たらない
「川内さん、作戦通り」
「いいよ」
ふぐ毒にかかった古鷹と暴力を振るわれ重体になっている大淀をここから運び込まなくてはならない。先ほどの通信では、502部隊と吹雪達は建造ユニットを降ろしている最中であると言う。ただ、貨物用エレベーターを完全に復旧させる事は出来なかったらしく、スピードが遅い。増援で新たな制圧部隊が投入されたらしく、あきつ丸と陸戦隊である妖精が交戦しているという。戦車があるため有利だが、弾薬は限りがある
「時間はありません。時間が経てば、敵が有利になります。敵をおびき寄せます」
一同は物陰から出る。これ以上、隠れても意味がない。霧島達は物陰から出て来ると警戒しながら廊下を進む
だが、相手はこちらを休ましてはくれない
「危ない!」
川内は警告すると同時に霧島達の前に躍り出る。その瞬間、毒入りの注射針が雨あられのように降ってきた。その辺にあった机を破壊して造った盾で防いだが、それでも全てを防ぐ事は出来ない。隠れきれなかった右肩と足に刺さるのを感じた川内は直ぐに抜いたが、倒れ込んだ
「川内!」
「あそこにいる!撃て!」
暗闇の中に微かであるが、人影を確認した。そこに砲弾を叩き込んだが、どういう訳か相手は避けない。それどころか、反撃して来る
「20.3cm砲!結衣じゃない、重巡リ級よ!」
「あの野郎、囮を使いやがって!龍田、あいつを……って、龍田ー!」
龍田がいない。敵は囮を使って、どさくさに紛れて龍田を誘拐した。こちらの注意を引いたとは言え、明らかに慣れている!
「天龍、待って!」
無闇に走ろうとする天龍に鳥海は阻止した。霧島は、素早く重巡リ級に砲弾を叩き込んだため、相手の攻撃は沈黙した。逃げたか死んだのか分からないが、今はどうでもいい
「邪魔するな!俺は――」
「分かっています!見捨てる事はしませんから!」
肩を掴まれ厳しく言う鳥海。鳥海の剣幕に天龍は、戸惑った。やり取りを見ていた霧島も助言した
「大丈夫です。私の予想では、相手を騙す事に成功したようです」
「え?」
天龍は間抜けた声を上げたが、何なのか分かった。川内、お前って奴は……
「フン、相変ワラズノ戦イ方ダ。レーダーデ丸分カリ。サテ、サッサト仲間ヲ呼ベ。デナイト、身体ガ滅茶苦茶ニナルゾ」
誘拐された龍田は、既にボロボロだった。龍田は抵抗したが、相手の方が強かった。何しろ、圧倒的な暴力で大破状態まで持っていかれたのだから。今の龍田は、息を切らして床に倒れている。幸い毒を注入されなかった。いや、する必要性はないだろう
「くっ……」
「何ダ、ソノ眼ハ?私ハソノ反抗ノ眼ハ嫌イダ!」
立ち上がろうとする龍田に戦艦ル級改flagshipは本気で殴り飛ばす。龍田はその勢いで壁に激突すると再び床に倒れ込んだ。激突した壁は、ヒビが入っている
血を吐き出す龍田。薙刀は破壊され、反撃する力はない。あるとすれば……
「分かった。……提督に連絡する」
「ホウ」
龍田は無線を入れた。相手は直ぐに出た。こちらの状況を知りたがっているらしい
『龍田!どうした?』
「ちょっと……聞きたい事があるの。艦娘は何なの?」
『どうした?何が言いたい?今はそれどころではない!』
「いいから……確認したいだけ」
龍田は何とかして普通に話したかったが、身体中を蝕む激痛と相手の威圧感で声が震える
『どうした、龍田!何を言っている!?』
「私は……いや、艦娘は人間社会に溶け込めるのかなぁ~って」
龍田は相手の方を見つめながら無線通信する。この敵を見て思った事があったからだ。提督も勘付いたのか、聞いてきた
『何があった?』
「あら、提督は『艦娘は人間』と言うと思ったのに。私はね、艦娘は人間じゃないと思うの。……そう思いたいの。だって……」
龍田は生唾を飲んだ。尋常ではない殺気に身体の震えが止まらない。ここまで憎悪が増したモノは、何なんだ?
「普通の人間が悪魔になるなんて……考えたことも無かった。艦娘も悪魔になったら……シャレにならないわよね。……とても怖い。深海棲艦とは違う化け物になるのは見たくないから」
「誰モ遺言ヲ残セトハ言ッテイナイ!」
龍田は意識が飛ぶかと思った。戦艦ル級改flagshipの拳が、龍田の腹部に振り落されたのだから。だが、龍田は恐怖に飲み込まれ悲鳴を上げるよりも、勇気と無謀を選んだ。最後の力を振り絞って戦艦ル級改flagshipの腕を掴んだ
「貴方の……負けよ……」
艤装から14cm砲弾を束ねた塊を取り出した。ここで戦艦ル級改flagshipは龍田の意図に気付いた
「コイツ、自分ガ持ッテイル全テノ砲弾ヲ爆弾ノ代ワリニ!戦イノ最中ニ改造シタト言ウノカ!」
戦艦ル級改flagshipは距離をおこうとしたが、龍田は掴む力を緩めない
(コイツ、500kg並のパンチを殴ってボコボコニしたのに力を緩めない!)
「貴方の命運は尽きた!」
龍田は金切り声を上げると大量の砲弾を爆破させた。流石の戦艦ル級改flagshipも、この爆発には応えた。至近距離で、しかも大量の砲弾が炸裂した事により戦艦ル級改flagshipも損傷を追った。致命傷までは行かなかったが、戦艦ル級改flagshipを退却させるのには十分な攻撃だった
勿論、龍田にもダメージを与える。ズタボロにされた事もあって、龍田は逃げる事は出来ず爆発を諸に受けた
幸い、龍田は艤装を外されなかったため死ぬことはないものの、意識不明の重体で廊下に横たわっていた。窮鼠猫を噛む。龍田は最後まで戦い抜いた。爆発の音を聞いて駆けつけた霧島達は、現場の凄まじさに声も出なかった
遠く離れた所では足を引きづりながら移動する人影があった。それは、戦艦ル級改flagshipの姿では無かった
Q.もしかして悪堕ちパターンか?
A.いいえ。普通の人間が悪魔になる姿を見てどう思うか?です
「スタンフォード監獄実験」というのが過去にありました。学生を囚人役と看守役に分けて、監獄を模した実験場でそれぞれの役割を担ってもらうというだけなのですが……。最初はバイト感覚で善良だった学生が、実験が進むにつれてとんでもない方向性に行き、僅か数日で実験は中止になったという
まあ、仕組まれていたというイカサマがあったらしく真偽は不明ですが(アブグレイブ刑務所の捕虜拷問は実際あった事件ですから)
簡単に言えばどんな人間でも、状況を整えれば悪魔に転じるという事です。虐められた少女が出した行動をみて時雨は……
ワームホール破壊の余波で時雨にある人物の過去を映し出します。このある人物の過去編は、予定では3話に分けます