時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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秋刀魚イベントはあるんだと感心してしまう私です
それはそうと新艦娘を手に入れるためにバカンスmoodeにしてる深海棲艦を倒す
ダメだ、何か艦娘が悪役になっているぞ?


第89話 怪物戦艦の過去Ⅲ ~征服された世界~

浦田結衣は、暗い廊下の中を足を引きずりながら歩いた

 

「あそこへ行かなくては……」

 

 浦田結衣は戦艦ル級改flgshipに変身出来ない。いや、変身出来るのだが、先ほどの自爆攻撃で負傷したのだ。まさか龍田が、自分が保有してる砲弾を爆弾に造り変えたのは驚いた。道理で薙刀による攻撃しかしなかったはずだ

 

(クソ、まだ本調子ではない。実戦経験で成長させるしかない)

 

浦田結衣の戦艦ル級改flgshipは第二次世界大戦のドイツ海軍が建造を計画していた超弩級戦艦をモデルとしている。モデルは『H42』

 

 

 

 モデルにした経緯は、浦田重工業と接触した時、戦艦ル級改flagshipの改修に手を付けた。何しろ、戦艦棲姫と港湾棲姫を相手にしないといけない。そのため、浦田重工業の科学技術と例のパソコン……空自の幹部の軍事アドバイスを参考にした。彼はH級戦艦を紹介した

 

 データによると、ビスマルク級戦艦の拡大改良型で、搭載している砲に比べると船体が大きく、防御区画が非常に広いことも特徴的である

 

主砲も魅力的であり、これなら倒せるだろう。『超人計画』と自身の身体を駆使して『H42』に改装する事に成功した

 

 しかし、問題が生じた。確かに強い。48cm主砲は大和型戦艦を超えている。10.5cm連装高角砲や20mm対空機銃なども魅力的だ。だが、48cm主砲弾は当たらなければ意味がない。近距離なら兎も角、遠距離攻撃になると戦艦の主砲は当たる訳がない。虚しく海面を抉るだけである。一方、空母は艦載機さえあれば、遠くから攻撃が随時可能だ。洗脳し支配下に置いた空母ヲ級と模擬戦闘をした所、こちらが敗れた

 

(兄さんは気付いていないが……一尉は軍事学に手を抜いている)

 

 皮肉なことに模擬戦闘した事により、空自の幹部の思惑が見破られた1人でもあった。だが、彼女は伝えなかった。軍事学は良い線まで行っている。なら、それを上手く利用しようと考えたからである

 

 目を付けたのは、戦車とレーダー射撃である。なぜ、目を付けたかと言うと『平行世界』の戦艦は砲も砲弾も製作技術がロストテクノロジー化してるためである。アイオワ級戦艦は湾岸戦争まで使用していたらしいが、この戦艦はどちらかと言うと沿岸砲撃用重砲プラットフォームとして使っていたらしい

 

(なるほど、一尉は見た目で誤魔化したな。確かに砲が沢山あれば強いと錯角している。そのため、維持費がかかるであろうH級戦艦を紹介した……まあ、いい。こちらで調べよう。独自路線になるがな)

 

 結衣はアイオワ級戦艦を真似た。電子機器は一新し、米軍が使用した対空兵器を導入した。対空レーダー、近接信管、40mm機関砲などを備えた

 

 次にMBTである戦車を徹底的に調べた。『平行世界』の艦船の防御が、装甲などの受動的なのからCIWSやミサイルなどの能動的なものに変わったのに対し、戦車は今だに装甲頼りであるか?

 

 応えは直ぐに見つかった。陸上車輌の索敵手段は何だかんだで未だに目視であるからである。必ずしも見通しの利く環境で戦わないため、迎撃対象を発見するのが間に合わないからである。遠距離から一方的に攻撃できる訳ではなく、ガチンコの叩き合いになると装甲頼りは必須である

 

 人型となった深海棲艦は、何も全て『平行世界』の軍艦に真似しなくていい。陸上に上がれば、無敵に近い。装甲も更新し、自身の砲を受けても耐えられる装甲を手に入れた

 

 最後に射撃管制システムだが、これは容易だった。建造しているイージス艦のレーダー射撃を流用すればいいだけの話である。結衣が身に着けたレーダーはOPS-14対空レーダーやOPS-28対水上レーダーであり、海上自衛隊の標準レーダーだが、それだけで十分だ。後は連動するよう兄が改装してくれる

 

 つまり『H級戦艦 H42』がモデルだが、近代化改修を施した戦艦ル級改flagshipである。レーダーも高性能であり、コンピューター内蔵されているため、主砲の命中率は高い。このお蔭で、戦艦棲姫と港湾棲姫を倒せたのである

 

 しかし、装備になじむのは時間がかかる。それを見越したのか、未来から時雨がやって来た。たかが駆逐艦娘と高を括っていたが、ここまでやるとは思わなかった

 

(なるほど、私に敵わないから味方を増やすか……だが、甘いぞ!)

 

 まだまだ、自分自身の能力を高める事は出来る。しかし、軍艦である以上、弾切れや被弾は免れない。治癒能力も修復能力もあるが、かなり疲弊する。変身もそうだが、体力を使うのだ。回復させるには補給が必要である事には、艦娘と変わりない。まさか、龍田が自爆覚悟で攻撃するとは予想外だった

 

 別部屋に補給ワ級が待機している。結衣は補給ワ級が待機してる部屋にたどり着くと扉を開けたが、中を見て仰天した。補給ワ級が倒れており、資源は散乱している

 

「な!これは!」

 

「やっぱりね!こんな仕掛けだと思った!」

 

天井裏から何かが降りて来た。忍者のような身のこなしに結衣は、一歩引いた

 

「貴様!なぜ、ここに!」

 

 バカな!変身を解く前までは龍田以外は遠くに居たはずだ。レーダーに映っていた……が、結衣は川内の姿を見て唖然とした。川内は艤装を身に纏っていない!

 

「アンタと同じ方向を使わせてもらうよ!」

 

「艤装を外してここに来たのか!」

 

 どうやら、龍田を誘拐する時に艤装を取り外して追跡していたらしい。深海棲艦と戦う時は心細いが、彼女の身体能力なら躱せるのは容易だ。しかも、補給ワ級だ。武装は取り外している

 

「補給艦に武装を着ければよかったね!」

 

「チッ、コイツ!」

 

 川内はクナイを手にすると、結衣に襲い掛かる。忍者の武器で艦娘の装備にしては、気休め程度の武器だが、接近戦では役に立つ。無防備な補給ワ級を殺すくらいは出来る。結衣も負けじとばかり応戦し、互いに激しい肉弾戦が繰り広げられた。クナイと毒針の投げ合いまで発展したが、手持ちの武器はそれくらいだ。結衣は疲労で戦艦ル級改flagshipに変身出来ず、川内は艤装を鳥海達の場所へ置いてきたままだ

 

(早く来てよ!)

 

 川内は胸の中で呟いた。苦戦ではないが、彼女から殴られた威力は強烈だ。何しろ、クナイを空中で掴むと握りつぶしたのだ

 

(霧島さん、早く来てよ!)

 

川内は段々と焦った。折角、倒せそうなのに!

 

 

 

 

 

時雨は目を瞑り、耳を塞いだ

 

 これは過去のヴィジョンだ。これから起こる事案は知っている。浦田結衣が、なぜあそこまで狂ったのか。それが分かったからだ。確かに過去の人間関係やいじめで歪んだのは否定できない。しかし、その解決手段が絶対的な力を手に入れる事になるなんて……

 

 早くこの悪夢から目が覚めて欲しい。頬を突っ張ったり、頭を叩いたりしたが、一向に覚める気配がない。時折、聞こえる悲劇の音が塞いだ耳を通して聞こえる

 

「止めろ……悪かった。許してくれ」

 

「嫌よ。因果応報というのを知らない?」

 

 懇願する数々の声。そして呆れる結衣の笑い。そして、銃声と悲鳴。復讐ではない!もう虐殺だ!立場が逆転しただけだ!

 

「つまらない。全員殺しても全く面白くもない。てっきり武器を取って殺しに来ルト思ッタラ泣クダケ。言イ訳ヲスル馬鹿モイル。害虫駆除ト変ワラン。所詮、コノ程度カ。人間ッテツマラナイ存在ダ。戦艦棲姫ノ言ウ通リダ」

 

冷たい声が鼓膜に刺激する度に鳥肌が立った。戦艦棲姫とは違う冷酷

 

 

 

 聞こえて来るのはそればかりだ。時雨は耳を塞いでいる手の力を強めたが、ある言葉が耳が入った事で塞いでいた目と耳を解放した

 

「……艦娘計画?」

 

「そうだ。こちらで妨害を行っているが、奴はやる気だ」

 

社長室にて兄妹との会話。浦田社長は、あまり好ましくない言い方だ

 

「奴は別世界で起こった戦争にて沈んだ軍艦……その魂を具現化させる方法で深海棲艦を対抗するらしい」

 

「別にいいじゃない。退屈していた所よ。浦田重工業が壊滅したという偽装をしてトラック島に引きこもっているのに」

 

「そうではない!その軍艦とやらは、大日本帝国海軍の軍艦だ!あの軍国主義が造った船だぞ!禄でもないはずだ!」

 

 浦田社長は、吠えた。浦田社長は、平行世界において第二次世界大戦から21世紀までの歴史を知っている

 

「深海棲艦が駆逐されたらどうなる?第二次世界大戦と呼ばれる戦争が起こるのは目に見えている!」

 

「考え過ぎじゃない?人間同士、争って沢山死んだら、こちらのやり方がやりやすいんじゃない?」

 

「そんな事あるものか!科学技術が飛躍して発展する可能性だってある!何らかの拍子で対抗手段を手にすれば、深海棲艦が狩られる!折角、強力な軍団を手に入れたと言うのに!」

 

 浦田社長の考えは、一理ある。深海棲艦に対抗出来る兵器が艦娘以外であるなら、深海棲艦は狩られる事に成る。……艦娘は首になるだろうが

 

「だから、『狂人』と呼ばれる左遷された海軍大佐を殺すよう命じたのね」

 

「息子が再稼働するとは思わなかった!」

 

「でも、いいチャンスよ。深海棲艦に効果あるなら、立派な実戦経験を積める。そういう計画だったけど?」

 

 この会話を聞いて、時雨は思い出した。未来の記録だと、提督は艦娘計画を再稼働して、海軍編入されるまで民間企業として艦娘と一緒に運用していた。父親が殺されても稼働したのは感心するが、このヴィジョンを見た時雨は嫌な予感がした

 

 これは未来のヴィジョンだ。つまり、浦田重工業側のものだ。自作自演で浦田重工業はトラック島及びハワイ島に要塞を築き、移住している。……何もなければいいのだが……

 

不安を抱える時雨を他所にヴィジョンは進む

 

「それで私に何をしろと?」

 

「予定通り、まずは大国を潰す。イギリスとアメリカを攻撃しろ。徹底的にだ」

 

「それじゃあ、引っ掻き回すのね」

 

平然と会話する2人。時雨は青ざめたが、残念ながら場面が変わった

 

 

 

今度は海上だ。

 

いや、そうではなかった。川のようだ。何処なのかを見渡したが、ある建造物を見て驚愕した

 

「自由の女神……」

 

 時雨は浦田結衣が、どこにいるのか理解した。何と、アメリカのニューヨークにいる!彼女の周りに次々と深海棲艦が浮上する。重巡リ級、軽巡ツ級、空母ヲ級、空母ヌ級、戦艦ル級……

 

「タ級ハテムズ川ヲ遡ッテロンドンニ到着シタ」

 

『いいだろう。攻撃を開始しろ』

 

「待って!」

 

 時雨は叫んだが、次の瞬間、深海棲艦全員は砲という砲を発射した。空母ヲ級、軽空母ヌ級は艦載機を全て繰り出してマンハッタン島を襲う

 

 珍しそうに眺めていたニューヨーク市民は、驚愕した。深海棲艦が攻撃してきたのだ。陸地に興味なく、陸に砲すら撃たない深海棲艦が、なぜ急に変わったのか?

 

 だが、考える暇は与えてくれない。橋やビルを破壊し、道路や航行している船を攻撃する深海棲艦にニューヨークはパニック状態だった。駆けつけた米軍も歯が立たない。通常兵器は一切効かないからだ。駆けつけたP-40『ウォーホーク』やF4F『ワイルドキャット』の戦闘機や建物に隠れながら深海棲艦に砲撃するM3中戦車と一〇五ミリ榴弾砲、そして六〇ミリ迫撃砲も必死に応戦した。だが効果は一切なく、戦艦ル級と空母ヲ級の艦載機によって食われたのである

 

 それどころか、戦艦ル級や重巡リ級達はマンハッタン島に上陸すると無差別に逃げ惑う市民や街を攻撃した。巨弾がホテルやレストラン、遊園地などで炸裂した。食い止めようと米陸軍の地上部隊が駆けつけたが、勝負は一方的でオモチャの兵隊のようにバタバタと倒れた。何しろ、戦車砲が直撃してもけろりとしている。米軍の心を打ち砕くには十分な戦力の差だ

 

「もうダメだ!」

 

 部隊が次々と全滅するのを目の当たりにした米軍の司令官は、撤退指示を出した。このままでは、全員死んでしまう!戦うよりも国民を避難優先させるよう指示を出した。

 

 

 

「何ダ、米軍ダカラ沢山引キ連れて来たのにあっけないわね」

 

浦田結衣は呆れるように呟いた。深海棲艦は通常兵器が効かないのもあるが、深海棲艦自体も強い

 

「やれやれ、折角だから土産にこいつを頂こうか?」

 

 戦艦ル級改flagshipに変身すると主砲全て、ある方向に向けた。それは、自由の女神である

 

 強力な艦砲が一斉射撃したのだからたまらない。自由の女神は木端微塵に打ち砕かれ、破片となって崩れ落ちた

 

「良い土産だ」

 

 落下し水しぶきを上げながら沈んでいく自由の女神の象徴たる松明を潜水カ級達に命じてサルベージするよう命じると、付近に航行していた貨物船に載せると撤退を命じた

 

 

 

 アメリカとイギリスを徹底的に叩いた浦田結衣は、自身のアンテナを使ってラジオを聞いていた

 

『――親愛なる合衆国国民に、いや、現在この放送を聞いている全人類同法諸君に申し上げます』

 

米英大都市を攻撃した翌日、アメリカ政府は重大発表が行われた

 

『既に報じられている通り、現在、我が合衆国領土、及びイギリス領土で深海棲艦による攻撃を受けました。深海棲艦はご存知の通り、人類とは異なる生命体以外の事は不明です。深海に棲み、人類や陸には興味なかった彼女等は、本格的な侵略を開始しました』

 

『数時間後には、欧州とアジア各国で深海棲艦が暴れており、予断を許さない事態です。これまでのところ深海棲艦は、戦闘行動を中止する動きを見せません。交渉もなく、呼びかけにも応じません。彼女達の意志は明白です。この世界を征服し、人類に替わる支配種族として君臨する事です。人類以外の知的生物が、我々に敵対しているのです』

 

『全世界の人類、全世界の土地、全人類の利益が大きな危険に晒されています。しかし、現在でも人類は一致団結して立ち向かう態勢下ではありません。我々は既に人類以外の知的生命体による侵略行為を受けているにも拘わらず、人類同士で争っているのです』

 

『人類は、今史上最も重大な戦いを迎えようとしています。現在世界で行われている戦争全ての即時停戦、並びに深海棲艦を対象とした全世界の軍事同盟の締結を呼びかけ、必ずやハワイ、そして海を人類の手に取り戻し、敵を根絶やしにすると誓います。勝利なくば我々人類の破滅に繋がる戦いです。アメリカ、そして全人類に神のご加護があらんことを』

 

 このアメリカ政府の発表に対してアメリカ国民は、熱狂した。議員も軍人も立ち上がって拍手しているらしい。この大統領演説と偵察機によって中継された映像を見た浦田結衣は、大袈裟に笑った

 

「ヘェー。人類ノ危機……ヨク、言エルワネ。人類ノ絆ナンテ脆イモノヨ」

 

結衣は無線通信して、社長に指示を出した

 

「兄さん……いや、『主』。チャンスよ。人種差別されている人達や植民地の現地民に武器と携帯食料を投下して。こちらは軍事施設や交通網の破壊に専念する」

 

『既に実行している。ジャンボジェット機で積んでいる最中だ。一万メートルという高高度から投下する』

 

 高高度から物資を投下するらしい。まだ、ジェット機は存在しておらず、高高度を飛ぶ戦闘機も存在しない。B-29も登場しておらず、レシプロ機でも、高度1万メートル以上を飛ぶにはターボチャージャーと言われるものが必要であるが、そんなものは後の話だ

 

 インディアン、黒人、植民地であるアジアやアフリカ各国の現地民、そしてソ連によって弾圧された少数民族に、武器弾薬と医薬品、そして食料を投下した。励みになる書類を出して。初めは警戒した彼等だったが、親切心でやっている深海棲艦と謎の支援者に手を出した。彼等は、この世界危機を他所に独立運動やデモを行った。独裁政権で強制収容所にいた人達を解放する始末である。長年虐げられた怨みは、そう簡単に拭えるものではない。密かに支援してくれる存在によって、現地民は欧米軍に攻撃した。その中で一番、泥沼化したのが中国である。何しろ、中国では漢民族以外の少数民族をたくさん抱えているからである。挙句の果てには中国国民党や中国共産党とは違う勢力が出る始末である。特に香港では、悲惨だった。植民地としてのイギリス統治していた事もあり、武器を持った中国人はイギリス人を追いやった。中には残虐行為までしている人達もいる

 

 このような事が世界各地で多発していたため、世界は人類同士の戦いへと突入した。そのため、深海棲艦はやりたい放題である。アメリカやイギリスが呼び掛けた人類団結は、空振りになり始めた。アメリカ自身も、黒人とインディアンの蜂起に手を着けなければならないし、イギリスも植民地を次々と失う始末だ。ドイツもソ連も戦艦ル級改flagshipが政府高官全員皆殺ししたため、国内は大混乱に陥った。独裁者という求心力を失った国は、大混乱するのが定めである。そこを狙われた

 

 ヨーロッパも大規模な攻撃を受け混乱するなか、人々は人類の敵よりも人間同士、争う事を選んだ

 

 時雨は、このやり方に複雑な気分だった。艦娘は、国や人を守らないといけない勤めがあると教わったが、その信念が揺らいでいた

 

 人間は、一致団結すらしない。倫理や社会が崩壊すると、こうも崩れ去るのか?なぜ、人類の敵よりも同胞を争うのか?

 

 

 

 

場面が変わり、時雨はある光景を見て驚いた

 

「佐世保……」

 

 そう、景色や港の風景を知っている。『艦だった頃の世界』でもよく知っている場所……佐世保だ

 

 そんな場所に、レンガ造りの鎮守府が立っていた。未来で海軍編成して間もない頃の時

 

 敷地内では、顔を知っている仲間達がいた。赤城、加賀などの空母組や高雄達の四人組の重巡が楽しそうに話している。神通や吹雪達もいて楽しそうだ。このときはまだ、時雨は建造されておらず、複雑な気持ちだ

 

 だが、このビジョンは悪魔の立ち振舞いを見せるものだと気付いた時雨は、仲間よりも浦田結衣を探した

 

 敷地外に眺めている女性がいた。顔は違うが、間違いない。浦田結衣だ。外見の変形は出来るが、性別までは出来ないらしい。しかし、時雨は浦田結衣が浦田社長とは違う考えを持っていると感じた。彼女の目には、怒りでも憎悪でもない

 

軽蔑と妬みだ

 

 

 

 浦田結衣は艦娘を見ていた。ここのところ、日本の近海を中心に海が奪われるという報告を耳にした。しかも、深海棲艦を倒せる力があるらしい。どんな軍団なのか?さぞかし精強だろうと思ったが、実際に目で見ると呆れ果てた

 

「こんな奴が……深海棲艦を倒しただと?ただの……少女が……」

 

 信じられなかった。どう見ても、ただの少女だ。艦娘というのは、女性兵士か何かと思っていたが……

 

「私は力を求めて人間を辞めた。人の道を外してまで手に入れた。後悔は無い。だが、コイツらは人の姿を保ったまま力を手に入れている」

 

 浦田結衣は、艦娘に嫉妬した。自分とは違う力に。そして、軽蔑した。まるで自分が通っていた高校生時代の事を。虐められる前までは、楽しい学生生活だった。にも拘わらず……姉妹艦同士で仲良くし、『狂人の息子』として世間から笑い者にされた青年も出世している

 

「すみません。この鎮守府に用がありますか?」

 

 ふと見ると小学生から中学生前半くらいで政府を来た少女が声を掛けた。色々と考えていた事もあり、気付かなかった

 

「いや、軍の施設なのに女子校のようになっているから不思議がっていたところだ」

 

「そうだったんですか。安心して下さい。私達は艦娘ですから」

 

 その少女はこの施設を説明していた。何でも、奪われた海域を奪還するために戦っているだとか

 

「申し遅れました、私は吹雪です」

 

「そうか。女の子が戦場へ行くなんて、お前の司令官は酷い事をするもんだ」

 

「そうではないですよ。私達は私達なりの戦いをしているんですから」

 

吹雪は不満そうに反論した

 

「でも、珍しい意見ですね。ここの街の人はあまりいい顔をしませんから」

 

「どういう事だ?」

 

結衣は訝し気に聞いた。何の不満があると言うのだろう?

 

「いや、あまり言いたくはないのですが、私達艦娘に対して街の人は、陰口で言っているんです。『艦娘は出来るだけ市民の前に出て来ないでほしい』とか『艦娘は怖い』とかで。睦月ちゃんなんて豆腐を投げつけられたくらいで」

 

「つまり、差別と偏見に晒されているって事か?」

 

「あ、いや。別に全員という訳では無いのですよ。ただ、深海棲艦よりも私達を冷たい目で見るなんておかしいかなって」

 

吹雪は慌てて言ったが、結衣にはある感情が沸き上がって来た

 

(コイツら……差別されているのに抗議すらしないのか?)

 

 結衣はますます、艦娘に対して嫉妬した。自分とは違う存在。私は人間を辞めているのに、艦娘は人間に近い存在。どうも納得しない。世間では、兵器だとか深海棲艦に似た性質を持つ怪物とかが流れていた。しかし、結衣は違った。なぜ、こいつらは人間のように暮らしていけるんだ!

 

だが、そんな感情を表に出さずになだめるように言った

 

「大丈夫。どうせ、そんな人達は口先だけだから」

 

「え?」

 

 吹雪は戸惑ったが、結衣は吹雪から去った。よく分からない女性を見送っていた吹雪に白い軍服を来た海軍士官。提督が近づいてきた

 

「どうした、何かあったか?あの女性、こちらを観察していたような気がしたが」

 

「ううん。何でもありません」

 

 吹雪は笑顔で答えた。悪い人間ではなさそうだと判断した。だが、このヴィジョンを見た時雨は、胸騒ぎがした。今の言葉に引っかかっていた

 

 

 

 場面が変わり、今度は何処かの会場だ。ある市民団体が集まっているらしい。時雨は壁に掛かっている垂れ幕やプラカードを見てショックを受けた

 

『艦娘を佐世保から追い出そう!』

 

『奴らの人間への好意は口だけだ!』

 

『兵器に人権はいらない!』

 

 艦娘の悪口ばっかりである。しかも、集まっている人がとても多い。全員鉢巻を巻いている

 

「それでは、田中さん。貴方は艦娘が深海棲艦と戦う所を見たと」

 

「はい、そうです」

 

 時雨は田中という苗字にギョッとして振り向いた。その女性は間違いない!衛生兵に化けて近づいた姿。ビルに潜入する際、提督は見破ったが、この者達は気付きもしない

 

何をするのか……時雨は反艦娘団体の主張で不快に思っていた事は全て吹き飛んだ

 

「彼女達の武器は、軍艦に搭載されている兵器と同様の力を得ています。例えば、駆逐艦が持つ主砲。あれは車一台を簡単に破壊する力を持ちます」

 

この証言に全員がどよめいた。この言葉で周りからは声が上がった

 

「なんて事だ……そんな少女が街をうろつくなんて」

 

「だから、艦娘配属は反対だって言ったのに!」

 

「こんな異質な存在を政府が認めるなんて。大本営と海軍は何を考えているんだ!?」

 

身勝手な意見しか言わない人達。しかも、誰も艦娘を庇う人はいない。全員一致らしい

 

「では、貴方達は艦娘をどう思っているのですか?人間ではないと?」

 

「艦娘が人間?では、艦娘に性質の似ている人型深海棲艦は人間だって言うのか!ふざけんな!」

 

1人の男性の叫びに会場は拍手喝采だった

 

「もう、我慢ならない!鎮守府に行って文句をいってやろう!」

 

「まあ、待ってください。貴方達はそれを何回も実行しましたが、憲兵達に阻まれている。無駄ですよ」

 

田中……いや、浦田結衣は指摘した

 

「では、どうしろと?」

 

「簡単な話です」

 

 結衣は指を鳴らすと1人の男性が入ってきた。その人は、結衣にくっついていた犯罪者だった。その者は鞄を抱えている。取り出した物を見て、全員が驚愕した

 

「な、何だ……これは?」

 

「銃です。こっちは手榴弾――」

 

「そうじゃない!何でこんなものを持ち込んでいる!」

 

あれほど騒がしかった会場は、水を打ったように静まり返った

 

「何って艦娘が嫌いなんでしょ?だったら、殺してしまいなさい。必要なら重火器も上げるわよ」

 

「いや、お前……」

 

 市民団体は、思考停止状態に陥った。ここまで直球に提案する人は、始めてだったからだ

 

「我々は人殺しでは――」

 

「あれ?貴方達は先程までこう言っていませんでした?『艦娘は人間じゃない』って。言い換えれば、艦娘殺しても殺人すらならないんですよ?」

 

「確かに艦娘は人間ではないと言ったが、それとこれとは違う!」

 

「艦娘を猪と見て殺せばいいじゃない。脳内変換すれば――」

 

「短絡的な事で解決しようとするな!」

 

白髪が混じった男性が、不愉快そうに言った

 

「深海棲艦と艦娘。どれも人には出来ない化け物だ。これらの関係性も分からないため抗議しているだけだ」

 

「つまり、仕組まれていると?」

 

「全て偶然と思っているのか?」

 

 老人は自論を述べ始めた。だが、浦田結衣は聞き流した。なぜなら、どうでもいい考えだからだ

 

「現実はもっと残酷で、また気まぐれだ。都合良く人類の敵が現れた思ったら、人類の味方が現れる。そんなのは、それこそフィクションの世界だけだ」

 

「恐らく、なんらかの意図が絡んでいると、そう考えてもおかしくないだろう」

 

「何が言いたいのか、結論から言おう。この世界は、もう終わっているんだ。神に見放されたのだ。それを――おい、なぜ欠伸をしている!」

 

老人は、目の前の女性が大きな欠伸をしてつまらなさそうに聞いていたからである

 

「さっさと言え。お前は何が言いたい?」

 

「深海棲艦と平和条約を築く」

 

 あまりの突拍子のない意見に浦田結衣は、鼻で笑った。目の前の女性の態度が変わった事で市民団体全員は結衣に睨んだが、彼女は全く気にしない

 

「不可侵条約を結べば奴等は攻撃して来ない。奴等は知性があるとある雑誌で読んだ」

 

「その通りだ。条約締結すれば、戦う必要もない。艦娘を絶対の存在とは思わないほうがいい。第一、人間じゃないんだぞ」

 

「ワシらは艦娘のように艤装を付けることが出来るか?海の上を自由に走れるか?通常兵器すら傷つけられない深海棲艦に傷を付けらるどころか、奴らの攻撃を喰らっても生きていられるか?どういう仕組みなのか、誰も説明しない」 

 

「艦娘は『感情を持つ兵器』だ。化け物に過ぎん!」

 

 賛同のような声に老人は、緩めた口許を更に歪ませ、不気味な笑みを作り上げた。これで、相手は艦娘を嫌うはずだ。だが、彼女は呆れる始末だ

 

「では、深海棲艦は素晴らしく、正義の存在だと?」

 

「人の話を聞いていたか!化け物が――」

 

「やれやれ。反艦娘団体とやらを興味あって近づいたが、どうやら本当に口先だけの人間集団らしいな。自分は安全な所にいて、力も無いくせに悪口しか言わない。挙げ句の果てに人頼みとか――コイツらを駒としようと考えていた私がバカだった」

 

 市民団体は狼狽した。段々と彼女から放つ威圧感に。冷や汗が出てくる。野次も次第に無くなり始めた

 

「米国の黒人やソ連の少数民族は使えたが、コイツらは使えないとは。仕方ない。反艦娘のゲリラはこちらで編成するか。『主』に頼むしかない。それにコイツラハ、昔ノクラスメイトト同ジダ。マア、コノ程度ノ考エシカ無イト思ッテイタガ」

 

「え?な、何だ……お、おお前――」

 

「気ガ変ワッタ。全員、皆殺シダ。コンナ奴等ノ命ノ価値ナゾ全ク無イ」

 

 浦田結衣は本性を表した。戦艦ル級改flagshipに変わり武器を乱射したため、会場は阿鼻叫喚となった

 

「深海棲艦だ!人に化けるなんて!」

 

「嘘だろ!逃げろ!」

 

「駄目だ!ここの会場は、深海棲艦に囲まれている!」

 

 今までの威勢は何処へ行ったのか?市民団体は浦田結衣に怯え逃げ出した。しかし、いつの間にか出入り口という出入り口に下級の深海棲艦が包囲されており逃げ道は無い。警察や憲兵とは違い、殺す気でいる。重巡リ級と軽巡ツ級達は主砲副砲、そして機銃を乱射し、駆逐イ級は戦車のように突進してくる。人は飛ばされ、撃たれ、殴られながら次々と死んでいく。深海棲艦の出現に阿鼻叫喚となる人々。時雨は、何も出来ず、呆然としていた

 

 

 

「ひっ……い、いいい命だけは……」

 

 大勢殺され、会場は血の海になり、人の死体の山を築きあげていた。男2人と女性5名が生かされているだけ。学生らしい歳の人もいる

 

「サテ、ドウデモイイ話ばかりだったが、気に入った所はある。深海棲艦と友好条約を締結して平和を築くだって?」

 

「あ……ああ……」

 

「ま、どうでもいい。能天気どころか自ら戦いもせず、文句しか言わない。そんな奴は、要らん」

 

 浦田結衣は呆れていたが、していた。変死体となった老人からあるファイルを奪った。それは……

 

「貴様らは艦娘を追いかけ回しているのか?まあ、艦娘の名簿を持って帰るとしよう。ありがとう、私達の天敵の情報や人数を詳細に教えてくれて。これで心置きなく、艦娘を倒す大義が出来た。礼を言う」

 

「嘘だ……嘘だ嘘だ!深海棲艦は陸を攻撃しないって!」

 

 男性は絶望した。このような事態になるとは思わなかった。この市民団体には自分の妻も息子もいた。それが、深海棲艦に殺されゴミのように捨てられているのだから

 

「自分の都合のいい話しか聞かない奴は、役に立たん。お前の敵はどっちだ?私か?それとも、艦娘か?」

 

「テメー殺してやる!」

 

 隠し持っていたのだろう。包丁を手にすると結衣を刺し殺そうとした。だが、結衣は難なく受け止めると粘土のように曲げてしまった。それどころか、副砲を使って腕を吹き飛ばした

 

「ぎゃあああ!」

 

「人間に近い艦娘は毛嫌うほど差別しておいて、人間ではない深海棲艦と友達になれる。そして、何かの陰謀だと社会か政府のせいにする。フン、この程度の発想が、お前達の人間の限界と言う事か。どうでもいいが、呆れる」

 

 もう一人の男を射殺する浦田結衣。こんな理不尽な事を想定していなかったらしい。いや、艦娘ばかり敵視するあまり、肝心な事は考えていない間抜けなのか?

 

「おい、何だこれ!」

 

そんな中、1人の男性が入ってくる。それは昔、出会った犯罪者だ。顔は嬉々している

 

「お前がこんな立派になってるとは思わなかったぜ!」

 

「お世辞はいい。だが、私の手を借りず脱獄した事は褒めてやる。脱獄の祝いだ。そこの五人の女性、好きにしていいぞ」

 

 震えていた女性達は悲鳴を上げた。逃げようとしてる女が2人いたが、軽巡ツ級に殴られた。腕を吹き飛ばされた人は何が起こっているか、分からなかった。深海棲艦が人を雇っている!?

 

「お前も元は女だろ?いいのか?」

 

「構わん。私は女性にも虐められた。可哀想なんて思いもしない。数分後にはここを爆撃する。さっさと連れて帰れ」

 

 犯罪者は喜びの余り捕らえられた女性を連れ去った。片腕を失った男は、逃げるように去ったが、結衣は追いかけなかった。どうせ、何も出来はしない。それに、誰も信じないだろし、誰も同情しないだろう。人類の味方である艦娘を嫌ったのだ。深海棲艦から攻撃受けて目が覚めたとしても遅すぎる。数分後、空母ヲ級の艦載機による空襲で全て吹き飛ばされた

 

 後日、片腕を失った男は、自殺した。病院へ行き今までの出来事を警察や憲兵に訴えたが、誰も相手をしなかった。せいぜい、治療と調査と被害報告を聞いただけである。しかも、人に化ける深海棲艦がいると訴えても、誰も信じなかった。浦田結衣の予想通りに誰も相手をしなかった。深海棲艦の脅威からから守ってくれる艦娘を嫌っている人が、今更助けを求めるなんて何を考えているのか?周りは冷たい目しか見ていない

 

腕だけでなく、何もかも失った男性は自ら命を絶つのは時間の問題だった

 

 

 

 このおぞましい光景に時雨は、泣き出した。確かに艦娘を快く思わない人もいるだろう。だが、敵はそんなものを区別する事なく襲った。使えないと分かると切り捨てる。使える者は雇い、使えない者は問答無用で襲う

 

……もう、人ではない。怪物だ

 

 

 

場面が変わり、今度は海上にいた

 

『深海棲艦に近代兵器を搭載した。空母ヲ級改修はまだだが、軽空母はヘリ空母として、軽巡ツ級はミサイル駆逐艦風に改修した。後は――』

 

「もういいか?兵器システムは全て目を通した」

 

『分かった』

 

 心配するのはいいが、無線で何を言っているのか?艦娘のお蔭で巡回して航行している深海棲艦の艦隊が、艦娘によって撃破される。偵察機を上げて観察したが、艦娘はいい気になって航行している。潜水艦娘が3人いるが、呑気なものだ

 

「さあ、いい気になっている潜水艦を沈めるとしよう。対潜ヘリで始末しろ」

 

「止めて!」

 

 時雨は声を上げた。何が起こるか理解した!これは、未来の映像だ!日記で読んだため何が起こったか、分かっていた。だが、叫ばずにいられない!軽空母ヌ級から黒く塗り上げられたSH-603機が吐き出された

 

時雨は走り出した。ヴィジョンなので、航行は出来ない。この日に航行していた潜水艦娘は確か、伊8と19、伊58……

 

 無駄だと分かっていても、身体が動いてしまう。だが、ヘリの方が早い。あっという間に追い抜き小さくなっていく

 

 そして遠くまで飛び、ある地点まで着くと空中停止した。次の瞬間、3機のヘリから何かが発射されるのを見た。白煙を上げて海に落下する

 

「ダメだ!逃げて!」

 

 叫び声も虚しく、別の場所で水しぶきが上がった。何が起こった分かった。撃沈したんだ

 

 この次に起こる出来事を時雨は知っていた。艦娘と深海棲艦のパワーバランスが狂ったのだ。兵器の性能差で艦娘は狩られる事となった

 

 霧島、瑞鶴、隼鷹、利根、五十鈴そして初霜が対空ミサイルと対艦ミサイルだけであっさりと片付けられた。相手は何が起こった分からなかっただろう。艦載機は片っ端から墜とされるし、砲雷撃戦も戦艦の主砲に入る前にミサイルでやられる

 

「未来兵器、強過ギダロ?」

 

大破しよろめきながら尻尾を巻いて逃げる霧島達を、戦艦ル級改flagshipは遠くから見て呆れていた。これでは、戦争にもならない。全滅するのも容易い

 

時雨はもう耐えられなかった。結衣が艦娘に何をするのか、分かっていた。己を強くするために艦娘を狩るだろう。そして、自分のはけ口として捕まえる

 

世界がどうなろうが、知った事はない。世界の頂点に立つために手段は選ばない。例え、国を滅茶苦茶にするために、赤い水を悪用して環境破壊する事も

 

 

 

 そのおぞましい映像の始まりを告げるのは、遠征の帰還の艦隊をステルス戦闘機で爆撃するものであった。次に聞こえてくるのは悲鳴と怒号。艦娘の砲声が聞こえたが、数十秒で沈黙してしまった

 

 時雨はそれを見るなり、恥も外聞も捨てて背を向け、そして耳と目を閉じた

 

(何も出来ない……僕には何も出来ない……)

 

 一秒が永遠に感じられるような感覚を独り耐えながら、ひたすら時間が過ぎるのを待った

 

 

 

耳を抑えていた時雨だったが、あるラジオ音を聞いてハッとした

 

『……暗黒の日が今も続いています。まるで地獄の門が開き、我々の前に悪魔が現れたかのようです。深海棲艦の姿形そして大きさは様々ですが、大半は成人女性の姿のようです。深海棲艦からは何の要求もなく、交渉可能なリーダーもいません。深海棲艦の目的はどうやら人間社会を滅ぼすだけのようです。沖縄――』

 

このラジオは知っている!時雨自身が建造した日だ。だが、目に映ったのは、自分自身がいた基地ではなかった。海上だ

 

堂々と立っている戦艦ル級改flagshipの前に肩を抑え、うずくまっている巫女の女性がいた。頭から血を流し荒い息をしている。艤装も破壊され大破状態だった

 

「オ前ガアノ金剛?活躍シタ戦艦ニシテハ弱イナ」

 

「よくも……榛名を!許さないデース!」

 

 金剛は立ち上がると主砲を向けた。しかし、戦艦ル級改flagshipの方が早かった。全砲門発射した砲弾は、金剛の艤装諸共、破壊した。水しぶきと爆発音が収まった時には、金剛はいなかった

 

「そんな……嘘だ!」

 

時雨は金剛と榛名には、会っていない。建造された時には、沈んでいた。分かっていたが、それでも悲惨だった。金剛の最期を見たのだろう。長門が突進し戦艦ル級改flagshipに挑んでいた

 

砲撃戦が繰り広げられたが、時雨は再び目と耳を塞いだ。後の事は知っている。もう一度、仲間である艦娘が死ぬのを見たくはなかった

 

 

 

 

 

どれくらい経ったのだろうか?不意に聞き覚えのある声が聞こえた

 

懐かしい声が……

 

「山城?」

 

 そうだ。この声は山城だ。確か未来で沈んだはず……。いつも、不幸と嘆いていた。会いたかった仲間。そして、思わず目と耳を開けてしまった

 

目に入り込んだ凄まじい光景に時雨は絶叫した

 

山城は吊るされ、全身傷だらけだ。戦艦ル級改flagshipが自分にされた光景

 

 鎖は部屋の天井から伸び、山城の両腕を固定し釣り上げ、立たせ続けている。両足はバタつくことができないように重りが取り付けられている

 

「お願い、知らないの!新型兵器が何なのか……」

 

「どいつもこいつも同じ事を言う。海軍大将もだ。下手すると殺してしまうぞ。まあ、貴様らは死なないがな」

 

 山城の目の前には、弓を構える戦艦ル級改flagship。弓矢はどう見ても空母艦娘のものだ。奪ったのか

 

「姉様に合わせて。無事なの?」

 

「新型兵器を教えてくれたらな!」

 

 浦田結衣は戦艦ル級改flagshipであるため、弓矢は艦載機にはならない。しかし、矢の威力は強力だ。何しろ、和矢は鉄製のフライパンを貫通する威力があると効いた事がある。しかし、結衣が手にしていらいる矢の先端は、丸みを帯びており、刺さる心配はないがその分、打撃力が強化されている

 

 

 

 山城は矢に射たれる度に悲鳴を上げた。当たった場所には紫の痣ができ、体のあちこちから流血している

 

「飛龍とかいう空母の弓矢は、凄いのを持ってるな。どうだ?嘗ての仲間の武器にいたぶられる気分は?」

 

「悪魔!飛龍を沈めるなんて!あんたは――がはあぁぁ!」

 

 罵る山城に対して、結衣は山城に向けて矢を放つ。放たれた矢が高速で飛来し、腹部にめり込んだからだ

 

しかし、倒れこむこともできないため、山城はそのまま立たされたままだ

 

「ああ、そういえばお前の姉は、私が沈めた。余りにも鬱陶しかったから」

 

突然の告白に山城は、顔を強ばらせた

 

「でも、面白かったな。模擬海戦で私に勝ったら妹を解放してやると言ったら、乗ってきたよ。当然、ミサイル数十発食らわせた。それでも沈まず、私に挑んで来たからトドメは私が沈めた。中々、タフだったぞ」

 

「よくも……よくも姉様を!殺してやる!姉様を殺したあんたを――」

 

 しかし、それ以降の言葉は山城から出なかった。戦艦ル級改flagshipは、山城に強烈なパンチを食らわしたからだ。手加減なし。拘束していた鎖は切れ、山城は今度こそ吹っ飛ばされ倒れた

 

「フン、新型兵器を探れと言われたが、ここまで難航するとはな。アイオワとお前達のボスである提督、中々やってくれる」

 

痙攣し気絶して倒れている山城を、ゴミのように引きずり出す

 

 

 

 結衣が手にして向かった先はある牢屋である。地下室に降り、扉の前に立つ。鍵を開け、中に入ると中から凄まじい悲鳴の数々が、部屋の中から響き渡った

 

 未来の戦争で行方不明になっていた艦娘達がいた。全員、ボロボロで怯えきっている。例外なし。駆逐艦娘から重巡、戦艦娘まで……。海外艦娘であろう者もいる

 

「山城……みんな……そんな。酷い!」

 

 分かっていた、時雨も捕まった時も戦艦ル級改flagshipに拷問された。強力な力を付けた結衣は、艦娘相手を徹底的に痛め付けていた。そのため、己の敵である艦娘を見下している。いや、反艦娘団体よりも酷いかも知れない

 

人権は完全に無視。監禁し、放置。暴力は振るわれ、全員怯え切っている。食事は出るが、粗末なものだ

 

「はあぁぁ!」

 

 それでも、立ち向かう者はいた。那智と加古だ。だが、どこから現れたのか?重巡リ級が立ちふさがり警棒を取り出すと、立ち向かう重巡二人殴り倒した

 

「「ぐあぁぁ!」」

 

 2人は苦痛で悶絶した。数少ない抵抗も刈り取られたのだ。そして、追撃するかのように戦艦ル級改flagshipは部屋の隅っこの方で怯え固まっている所へ主砲を向けた

 

「止めて!」

 

 ボロボロで全身傷だらけにも拘わらず、駆逐艦娘達を守ろうと立ちはだかる物がいた

 

……阿賀野だった

 

 悲痛な懇願で身を挺してまで守ろうとしている阿賀野を見た戦艦ル級改flagshipは、阿賀野に向けて主砲を発射した。戦艦の主砲弾をまともに受けた阿賀野は、飛ばされボロ人形のようになって飛ばされた

 

「イイカ。今度逆ラッタラ、抵抗スル者ニ加エテ、誰カヲ罰スル。何時ニナッタラ学ブンダ?」

 

「鬼!悪魔!私達をこんな事をして!」

 

「ヘェ?コノ状況ガ分カラナイ人ガ居タナ。聞キ間違イカ、蒼龍?」

 

 戦艦ル級改flagshipは飛龍の弓を引くと、矢を放った。轟音を撒き散らしながら、蒼龍の頭に直撃した

 

「中々、思イ通リノ所ニ当タラナイナ。目ヲ狙オウトシタノニ」

 

 戦艦ル級改flagshipは嘲笑っている中、高雄は気絶している蒼竜に駆け寄った。矢は蒼龍に刺さっていないものの、丸みを帯びた矢の打撃力は凄まじい。脳震盪を引き起こして気絶した

 

「サテ、駆逐艦娘数人連レテ行ク」

 

 戦艦ル級改flagshipの命令を受けた軽巡ツ級は、陽炎達に手を伸ばす。全員、悲鳴を上げ逃げ惑い、ある者は阻止しようと立ち上がったが、全て暴力によって沈黙させられた

 

「貴方達は……何のためにこんな事を!」

 

「高雄、勘違イシテイナイカ?コレハ戦争ダ。捕虜ノ待遇ガ五ツ星ホテルダト思ッテイルノカ?」

 

 殴り倒され踏まれてながらも高雄は戦艦ル級改flagshipを睨んだ。幾ら何でもこんなのはあんまりだ

 

「マア、艦娘モ哀レダナ。負ケ戦バカリデ国民カラハ敵視サレ、深海棲艦カラ虐待サレル。国ヤ軍ハ私ガ滅ボシタ。味方ハ誰モイナイゾ?」

 

「ああぁぁ!」

 

 戦艦ル級改flagshipは、床に転がる高雄を壁に沿って震え上がって固まっている艦娘達の方へ力一杯、蹴飛ばした

 

 あちこちで悲鳴や泣き声が上がってる艦娘達を戦艦ル級改flagshipは無視して部屋から出て行く

 

 

 

 時雨は泣きだした。自分達はなぜ、ここまで酷い目に合わないといけないのか?生まれが違うだけで周りから差別されないといけないのか?その疑問が沸きだした。こんな事になるんだったら、人間を守らなくていいのではないか?と思うようになって来た 

 

 別に人類と敵対しているわけでもないというのに、何故艦娘である自分達をここまで酷い扱いを受けねばならないのか?

 

 ただ普通の人間ではないというだけの理由で、反艦娘団体とかいう連中はこちらに害を為しているという。こんなのでは、報われないのではないか?結果的に反艦娘団体は敵に塩を送るような事をした

 

 そうしている間もビジョンは残酷な場面しか映さない。島を監獄にしているため、捕まえられた艦娘は逃げ道もない。助けもない。未来の提督は捕虜を助ける戦力なんてない。テレビ番組のように強い正義のヒーローが助けてくれるというご都合主義なんて存在しない

 

 演習と称してミサイル標的艦となって撃沈した艦娘。過剰な拷問で廃人寸前になりかけた艦娘。重労働させられ余程の事がないと休ませてくれない艦娘……

 

幸い、人員に余裕がないのか、それとも浦田社長が艦娘を異常に嫌っているのか知らないが、慰安婦に引き渡すような事はしなかった

 

しかし、それだけだ。扱いが酷いのは変わらない。

 

「地獄だ……未来の世界は地獄だ……」

 

 不安定になる感情を抑えながらその場で座り込んだ。自分が出来る事は何もない

 

 時雨は再び耳と目を閉じた。もう沢山だった。しかし耳を強く抑えても、微かに聞こえる悲鳴と爆発音は完全には防げない

 

 震えながら泣きだした時雨。もうこの悪夢から目が覚めて欲しい。僕達は奴隷か慰み者なんかではない!

 

(嫌だ嫌だ嫌だ……僕はこんな未来は嫌だ!)

 

時雨は心の中で強く叫んだ。もう手段がない

 

 

 

 どれくらいの時間が経ったのか。ふと、塞いだ耳から聞こえて来る爆発音や悲鳴は聞こえてこない。代わりに別の声が聞こえた

 

「時雨……もう悪夢は終わった。よくやった」

 

時雨は心臓が止まったかと思った。聞き覚えのある声だ。いや、懐かしさがある

 

 恐る恐る目を開け、耳を塞いでいた手を退かした。先程まで見たビジョンは、流れていない。あるのは、白い空間だった。周りには何もない。そんなよく分からない所に時雨はいた。そして、目の前に提督が立っていた

 

 いや、提督ではない。建造されてからタイムスリップまで一緒に居た提督。私服で学生風情という姿ではない。大人びており、白い軍服を着こんでいる海軍士官だ

 

……間違いない。未来の提督だ。しかも、優しく接している。幻想ではない!

 

「え?な……んで……?」

 

今までのビジョンを見せられた事全てが吹き飛んだ。未来の提督は、死んだと思っていたのに!

 




この作品を描く前に、あるユーザーさんとのやりとりでこんなメッセージがありました
『もし、深海棲艦が艦娘よりも強くなったらどうなるか?艦娘が一人残らず全員戦死したら、ブラック鎮守府や大本営、そして艦娘を嫌う人達は未だに艦娘のせいにするのかな?』
という事です
まあ、実際にどうなのか?
第一、戦争は過酷なものです。一旦始まった以上、落ち着くところまで行かなければ収まらない力学を持っています
言い換えると手持ちのカードは、最大限に使わないといけないと言う事です
負ける側は徹底的に叩かれます。旧史においても連合国、ドイツを完膚なきまで叩き、首都ベルリンにまで攻め込み廃墟となさしめた
ベルリンを攻め込んだソ連軍は、八歳から六十歳に至るまでベルリンの婦女子全てを強姦したと言われています
日本軍により民間人の殺害、略奪、捕虜虐待などを行った記録のもあれば、アメリカ兵による日本兵捕虜の集団殺害や虐待が行われた記録もあります

 人間同士の戦争でも色々と問題があるのに、深海棲艦が人類に対してマトモな扱いはしないでしょう。この作品では敵はちょっと違いますが、あまり変わらないような気がします。敵は、無差別に攻撃するでしょうから

 艦娘が大敗した世界……よく艦これSSであるブラック提督や反艦娘団体などは艦娘であるヒーローが敗北した世界を想像した事はあるのでしょうか?
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