しかし、秋刀魚イベントが気になりますね
時雨は、頭が真っ白になった。今まで見た悲惨なビジョンで心が痛んだが、未来の提督を見て全て吹き飛んだ。しかも、夢ではない!頬をつねったが、痛みは感じただけで目の前の人物は消えない!
時雨の仕草に未来の提督は、苦笑いした
「大丈夫だ。夢じゃない。と言っても、語弊がある。それは兎も角、よく頑張った」
提督……いや、未来の提督は前かがみになると座り込む時雨に頭をなでた。懐かしかった。不愉快の欠片もなかった。ただ、会いたかった
「提督……本当に提督なの!」
「ああ、本当だ。俺は死んだはずだが、どういう訳か過去へ送り込んだ時雨と一緒にいる。無事だったか」
時雨は警戒した。もしかして、敵の策略かも知れない。だが、時雨は直感的に目の前にいる未来の提督は、本物だと確信した。証拠はない。ただ、艦娘と提督の絆は簡単には切れない。時雨は立ち上がると飛びつくように提督に抱きついた
「う……うう……何で……何で僕が……僕達がこんな目に……」
「すまない。傍にいてやれなくて。そして、酷い目に合わせてしまって」
間違いなかった。未来の提督の事はよく知っている。癖も喋り方も
「だが、敵の拠点を襲撃してワームホールを破壊したのはよくやった。ありがとう」
その言葉を聞くと、時雨はハッとした。未来の提督は、なぜそこまで把握しているのか?
「提督、ここは?」
「ああ。その事なんだが」
未来の提督は時雨を離すと、肩を透かした
「実は俺もよく分からないんだ。自爆用の核爆弾スイッチを押したと思ったら、いつの間にか、この空間にいた。ここがどこなのか、どんなものなのか、俺には分からない」
提督は苦笑いした。本当にここが分からないらしい
「だけど、綺麗だ」
何処から光が入ってきているのか、分からない。風もなく、物音もしない。水を打ったような静けさとは正にこれだろう。しかし、時雨はこの空間を嫌悪する事はなかった
「だが、これだけは言える。我々は四次元空間にいる。お前が浦田重工業が隠し持っていたワームホールを破壊した時、エネルギーの余波が時雨の脳に干渉したのだろう。お前は時間旅行したのだから。タイムマシンは、『あいつ』がワームホールの研究をした時に産んだものだから」
「提督がここにいるのは、タイムマシンを破壊したから?」
「さあ?ただ、先に逝った艦娘達はここにはいない。残念ながら」
提督は少し寂しげに言う。そうだ、未来の提督は自爆したんだ
「提督、質問していいかな?」
「答えられる範囲なら」
「どうして、僕がワームホールを破壊したと知っているの?幽霊になって僕を見ていた?」
「違う。答えは時雨、先ほど、お前が見たビジョンと同じように俺も見たからだ」
未来の提督は首を横に振った
「俺は『あいつ』と違って科学は詳しくない。ただ、ワームホールは時間的特異点だと書いてあった」
提督は顎を手に当てている。無精髭を生やしておらず、やつれてもいないため海軍士官そのものだ
「ワームホールは、その前後の時間の流れを見せているのだろう。悔しいが、俺達の世界は侵略されていた。しかも、人間の悪によって。俺も時雨と同じように見せられ、何が起こったのかようやく分かった。予想はしていたが、俺自身信じられなかった」
提督は言葉を切った。何かを言いたそうだったが、やがて決心したかのように口を開いた
「暫くしてから、この空間はあるものを見せてくれた。お前が過去の俺と接触して任務を働いてくれたことを」
「見てたの?その……なんか恥ずかしいな」
時雨はモジモジした。しかし未来の提督は無表情だった
「いや、あの頃の俺をあそこまで導いてくれたのは感謝している。俺を『あいつ』……親父と仲直りさせたことも」
しかし、提督の声は暗かった
「だが、お前が浦田重工業に捕まり、戦艦ル級改flagship……浦田結衣に拷問されたとき、俺はお前と同じように泣いた。本当だ。お前まであんな酷い目に合わせてしまった。お前が壊れたらどうしようかと……心配で……」
「大丈夫。僕は僕のまま。壊れていない」
恐らく、未来の提督は今までのビジョンを見ていたのだろう。拷問されたときの映像も。刑務所で浦田結衣による拷問で、時雨が廃人にならないのは奇跡に等しかった
「あいつらは酷い。それしか言えない。どの国よりも大きな過ちをした。戦争、虐待、差別、拷問、そして環境破壊……。お前に過酷な任務を与えた上に、酷い目に合わせてしまった。艦娘計画を稼働しなければ――」
「提督!それは違う!」
時雨は反論した。確かに艦娘を見下す人もいるだろう。だが――
「僕は自分の意志で戦っている!あんな悲劇を繰り返さないためにいるんだ!僕の事は僕で決められるから」
時雨は力強く言ったが、すぐに慌てて付け加えた
「あっ。でも、色々と教えて欲しいかな。社会に溶け込む方法とか」
「ハハハ……そんなのは、戦争が終わってからでいい。急ぎ過ぎだ」
時雨の反応を見て未来の提督は笑うと、歩き出した。時雨も後を追う
「何処へ行くの?」
「見せたいものがある。そこまで距離があるから、歩きながら話そう」
時雨は未来の提督と一緒に歩いた。懐かしかった。何処へ連れて行くかは知らない。しかし、自分の好きな人と歩いて行くのは不愉快なんて全くない
未来の提督は、歩きながら時雨に説明していた
「我々から見れば、この現象は超常現象だ。誰にも分からない。だが、大まかな事は分かる。全ての元凶かもな」
「艦娘は、提督の先祖の研究の成果で生まれた事も?」
時雨は、捕まった時に聞かされた事を思い出した。確か昔、先祖と深海棲艦は接触していた事を
「それもある。しかし、艦娘計画で分かった事がある。生命の誕生は、神が生み出されたものではない。そういう仕組みだ。従来の概念では説明出来ない。どんなに科学が発達しても解明出来んだろう。艦娘計画は、社会にとって少しばかり荷が重かったようだ」
「反艦娘団体が聞いたら、怒りそうだね」
「大抵の人間は、理解出来ないものを酷く恐れる事だ。しかし、全員ではない」
時雨は先ほど見たビジョンを思い出した。やたらと排斥したがっている。
「俺の親父みたいな柔軟な発想を持つ人は余りいない。稀なタイプだろう」
確か博士は人類の誕生だって、未だにはっきりしないのに艦娘くらいで怒るのは視野が狭いって言っていたような……
「でも、研究施設がないからって犯罪が起こった別荘を買って艦娘計画を行ったのはどうかと思う」
「親父は科学者だ。無神論ではないが、科学に宗教持ち込むのはバカだ、と言ってたくらいだからな」
未来の提督は微かに笑った。親子で何だかんだと喧嘩しても、やはり家族愛はあったようだ。時雨は不意に疑問を口にした
「この先どうなるのかな?」
「誰にも分からない。浦田重工業に打ち勝っても、また壁にぶち当たるだろう」
未来の提督は、歩く足を止めた。時雨はなぜ止まったのか、前をみた
何時からあったのだろう。そこには大きな木が立っていた。長寿の大木が、未来の提督と時雨の目の前にあった。まるで、突然現れたようだ。さっきまでは、何もない白い空間を未来の提督と一緒に歩いていただけなのに
「この木は?」
「ビジョンを見せた正体かな?俺はこいつを『生命の樹』と呼んでいる。全ての枝が、歴史となって未来へ広がっている。『あいつ』……いや、親父によると世界は無数にあると言う。僅かな違いで違う世界が造られる」
その大樹は、風が吹いていないため葉や枝がこすれる音もしない。鳥も虫もいないため、とても静かだ。しかし、よく見るとその枝は、普通の枝ではなかった
「分かるか?『艦だった頃の世界』の枝が何処にあるのか?高次元に深海棲艦が住む世界が何処にあるのか?」
「先祖もこれを見て……?」
「さあ、ただ誰かここに来た事があるようだ。落書きした跡がある」
提督は大木に向かって指を指した。そこには、漢字で長々と書かれていた。残念ながら、古い文字であったため、読解は不可能だ。恐らく、提督の先祖だろう
「提督。僕を過去へ送れば、崩壊した未来は防げると確信していたの?」
時雨はふと聞いた。あの時、提督はどう思っていたのだろう
「正直に言おう。残念ながら、確信は無かった。完全に博打だった。だが、それだけではない。本当は……お前だけでも生きて欲しかったからだ」
提督は悲し気に言った。限られた時間と戦力で出来た事は、知れていた
「建造ユニットは、平行世界の軍艦の魂を具現化させる機械。当然、1人1人の役割は設計されてある。清霜がどんなに戦艦を夢見ても出来ない」
「清霜が聞いたら怒りそう」
ここに清霜がいたらダダこねるだろう。建造ユニットを改造するよう進言するかも知れない
「いや、そんな事よりも大事な事はあるだろ?」
提督は首を振った
「俺は親父の遺産であった建造ユニットを見て考えた。排斥する人間や浦田は、艦娘を兵器としか見ないが、俺は違う。お前らと暮らして分かる。戦う以外にも興味を持って行動してもいいと。戦う以外でも趣味を持ったり、夢を見て偉大なものを目指してもいいはずだ」
時雨は未来の提督を見た。この人は、どんな生き方をすればそのような考えが出来るのだろう
「でも、どんなことをすればいいのか?」
「初めは身近なものでもいい。例えば、金剛達は紅茶が好きだ。俺は、金剛に紅茶が詳しく書かれていた雑誌や本を買ってやった。金剛は大喜びだった。自分でも知らない事が書いてあると」
金剛が喜ぶ紅茶はどんなのだろうか?時雨はそう思いながら、ふと思った事があった
「僕は……僕達は孤独なの?」
時雨はふと疑問を口走った。自分達は普通の人間ではない。しかし、見た目も行動も人間だ。それなのに、溝があるのはおかしいのではないか?
「違う。艦娘でもありながら、同時に普通の人間でもある」
提督は時雨と向き合った
「確かに艦娘と人間は違う。だが、違う所がいい。『平行世界の日本』や『浦田重工業』のような同じ過ちはしなくて済む」
未来の提督は何が言いたいのか、分からなかった。同じ過ちをしなくて済む?
「どういう意味?」
「つまり、選択肢があると言う事だ。自分で自分のしたい事が出来る。それは良い事だ。自由意志は誰にも奪う事は出来ない。それに、周りから学び合っている。『艦だった頃の世界』、戦争、俺、そして世の中の事を。怨念を糧にして生きている深海棲艦とは違う事が出来る」
未来の提督は何が言いたいのか分かったような気がした。艦娘は、兵器のような無機質なものではない。選択肢は沢山ある
「そんな事……いや、僕一人だけで」
「それは違う。ワームホールは超常現象だが、世界の介入や歴史改変は、人の意志でも出来る。四次元空間に来て分かったが、歴史や生命の誕生というのは絶対的なものや決められたものではない。しかし、人々はそれを不変であると思っている。神の冒涜という名でお茶を濁している」
「でも、浦田重工業は間違った事をした」
時雨は今まで見たビジョンを見た。浦田結衣は許されない所はある。しかし、彼女は社会によって性格は歪められた
「確かにそうだろう。しかし、それは選択の問題だ。人生……いや、生命誕生や進化論もそうだろう。困難な事はあろうだろう。失敗して挫ける者もいるだろう。だが、それが人生というものだ。何も国を守るという大義だけで生きていく存在でもない」
時雨は、少しばかり考えていた。もし……もし、深海棲艦との戦いが終わったら?自分達はどう生きるか?誰かが提督と縁を結ぶかも知れない。誰かが人生失敗して野たれ死ぬかも知れない。だが、普通の人間でもそういう人もいるのではないか?
「でも、浦田社長も浦田結衣も怪物になったのは、世の中に失望したから。ディープスロートが残したパソコンで色々と学んだんだ。平行世界の未来の兵器は、僕が想像を絶するものばかりだった」
あのパソコンの中に未来兵器が沢山あった。イージス艦やジェット機なんて氷山の一角だ。何しろ、宇宙から仮想敵国を監視する人工衛星というものがある
「僕が造られた理由は分かるんだ。『艦だった頃の世界』と同じ。今は艦娘で女の子だけど……敵を倒すため、仲間を守るため、どんな理由があったって僕は兵器で、突き詰めてしまえば人を傷つけるために造られた存在なのに」
人はなぜ戦争をするのか?歴史を遡れば、人類は古来から戦争をしている。原因は様々。食料や資源の争いから始まり、異なる宗教や民族間同士のいがみ合い、国家間での争い……
兵器は人の争いで生み出されたものである。技術が発展するに連れて兵器も発展する。艦娘も結局は、人の知能と肉体を手に入れたに過ぎないのではないか?イージス艦も科学技術が発展した象徴だ
(お前が『軍艦だった頃の世界』の戦争を体験したはずだ。兵器は、世界を支配するためにある。強力な兵器を持った者は、力を行使し弱い者を従わせ、王として君臨する。歴史を振り返って見れば、当たり前の事だ。……銃が発明された時、ヨーロッパの国々は何をしたと思う?他の国を支配するために使われた。スペインが南米のアステカ帝国・インカ帝国を征服出来たのはどうやったかと思う?)
遺憾ながら時雨は、戦艦ル級改flagship……いや、浦田結衣から言われた言葉を思い出した。未だに、あの言葉が冷たいナイフのように思った。間違ってはいない。事実だからだ
表面的な議論だけでは、戦争は無くならない。無くならない以上、兵器は存在する
「確かにそうだ。しかし、お前はそれを受けいれている。過去の悲惨な過去を忘れてはいない。それに、我々がより良い道を示せば変える事が出来る」
時雨は提督を見た。なぜ、そんなものを信じているのだろう?未来の戦争で経験したはず……
「言いたい事は分かる。しかし、間違ったからと言って永遠にそのままとは限らない」
時雨は口を開く前に、提督が先に発した
「確かに俺達は負けた。時雨、恐れる事は無い。世の中は不変ではない。そのためには、希望を持つんだ。希望は、時には強力な武器にもなる。お前の任務は何だ?」
提督の質問に時雨は答えた。迷いもなかった。どんなに痛めつけようが、一度たりとも忘れていなかった
「過去に行き、提督を説得して、艦娘計画を早めて未来を救う事」
初めは簡単な任務だと思った。しかし、それは前途多難の連続だった。過去の提督はクソガキだったし、創造主も予想通りの人物ではなかったし、浦田重工業はブラック企業を通り越して悪の組織と化している。だけど……建造ユニットから現れた仲間を見て、時雨は嬉しかった。しかも、未来で会った事がない2人も入れて。陸軍所属の艦娘が現れるなんて誰が予想出来ようか
「あきつ丸もまるゆも俺は、会った事がない。それだけでも進歩だ」
確かに未来は変わっているだろう。しかし、その反動なのか、浦田結衣である戦艦ル級改flagshipは未来とは違い、強くなっている節がある
「戦艦ル級改flagshipが強くなっているのは、歴史の修正力?」
「それは違う。敵も変化しただけだ。浦田社長は兎も角、浦田結衣は倒さないといけない」
「過去に虐められた悲劇の人間を説得して改心するよう呼びかけるというのではないんだね?」
時雨は驚きもしなかった。戦艦ル級改flagshipは元人間である。てっきり逮捕しろ、と言われると思ったからだ
「事情がどうあれ、限度というものはある。奴は力を手にして世界の頂点に達そうとしている。しかも、それが超人計画の一部なのだとしたら、葬らなければならない」
「浦田社長の方は?」
「浦田社長は、第二次世界大戦を回避するために、偶然とはいえ深海棲艦を操って世界を過剰に攻撃した。だが、結果として新たな戦争を生んでいる。戦争を回避させようと出た行動が、結果的に世界を滅ぼすきっかけとなった」
結果的に、自分達が住む地区以外の場所なんて気にはしないのだろう。地獄になったのも『お前達が招いた結果だ』と言いかねない
「浦田重工業を倒したとしても深海棲艦は、世界の攻撃を止めない」
「そうだろう。しかし、深海棲艦は陸地には興味が無い。海は奪われても、世界を滅ぼすような事はしない」
楽観的な憶測だが、港湾棲姫や戦艦棲姫を見ると世界を滅ぼそうとしている雰囲気ではない。敵ではあるが、戦艦ル級改flagshipのように残虐行為はしないだろう。人とは違う価値観のせいかもしれない
「だから、時雨。お前は希望を持って欲しい。皆と仲良く暮らせる日が来るのを」
「本当かな?」
「本当だとも。この樹を見ればいい。見たいものが、全て見えるはずだ」
時雨は樹を見上げた。葉や枝を見て、この大木はただの植物ではないと理解した
あらゆる世界のあらゆる事象が枝や葉の一枚一枚に刻まれていた
「これは……」
「ある者はこう言うだろう。『アカシックレコード』と」
アカシックレコード……それは宇宙誕生からの全ての記憶、過去から未来までの出来事を記録する存在。人類の誕生、動植物の進化、そして戦争の歴史……
時雨は納得した。何をしなければならないのか
「僕は帰れるの?」
「いつだって帰れる。お前が帰りたいと思う気持ちがあれば」
未来の提督は、相変わらず優しかった。浦田重工業さえなかったら、こんな上司で憧れの人だっただろう
「忘れるな。自分はどんな存在なのかを。そして、何をすべきかを。嘆く必要はない。お前はまだ、建造されたばかりなのだから」
「変なこと言わないでよ」
建造されて数年は生きている。改ニまで改装され強くなったが、自分はまだ未熟だ。学ぶ事はまだある
「勿論、1人が出来る事は限られている。しかしお前には過去の俺がいるし、仲間がいる。お前にはお前の未来が待っている。艦娘は人類を守る存在だと胸を張って生きていける世界を、浦田重工業が悔しがるような世界を創るんだ」
そうだ
まだ仲間がいる
家族として、共に生きてくれる人達がいる
そして、姉妹艦の存在も
「分かった……!」
今にも泣き出しそうな表情で未来の提督を見つけていた。未来は変えられるという希望を持って
「ありがとう。後、もう少しだ」
不意に未来の提督と大木の姿がボヤけた。涙のせいではない。何が起こったのか、分かる。しかし、時雨はそれを受け入れた
僕はまだ、やるべき事があるのだから
ビルのある一室で川内と浦田結衣の肉弾戦は、続いていた。艤装を外したとは言え、人とは桁違いの身体能力を持つ川内と疲労しているとは言え、強力な力を手に入れた浦田結衣は、武器も持たずに格闘していた。飛び道具は使い尽くし、格闘戦している2人
しかし、川内は浦田結衣の変化にギョッとした。殺気が増しているのだ
「フフフ、そうだ。いいぞ。こんな艦娘がいるとは予想外だ。だが、想定内ニシテヤル。人ノママデモ戦エルト!」
「なっ!」
浦田結衣は、確かに疲弊している。しかし、それとは裏腹に嬉々している。危機的状況にも拘わらず。そして、何と艤装を一部、召喚している。それも、先程で見た艤装とは違う形状をしている
(まさか!)
川内が心で叫ぼうとしたその時、別のドアが勢いよく開く。中から霧島と鳥海、そして天龍だ
「よくも龍田を!」
「チッ!」
「川内、無茶し過ぎです!」
天龍は突進して浦田結衣が刀を受け止めている最中、鳥海は艤装を川内に投げ寄こした。鳥海もまさか、艤装を外して結衣と同じくステルス行動するとは思わなかった。だが、無事であった事に内心ではホッとしているらしい
霧島は主砲を使って砲撃しようとはしなかった。何しろ、結衣の動きが人間離れしているからだ。動きがトリッキーで狙いが定まらない
結衣も霧島が脅威である事を知っているため、霧島に急接近すると殴ろうと拳を上げた。近すぎると撃てないと踏んだのだろう
「この時を待っていました!」
霧島は、主砲で攻撃しようと思っていない。狭く閉鎖した空間では、主砲発射は危険だ。それに、主砲を撃ち込んでも躱すだろう。霧島は、結衣が放つ拳を腹部に直撃する手前で捕まえたのだ。結衣は驚いた。まさか、パンチを受け止めるとは思わなかったからだ。慌てて引っ込めようとしたが、中々離れない
「コイツ!」
結衣はもう片方の手で殴ろうとしたが、その片方の手も鳥海が素早く捕まえたのだ
「なッ!離せ!」
結衣は鳥海を振りほどこうと腕を振ったが、鳥海は離そうとしない。川内も加勢に加わったため動きが鈍くなった
「捕まえました!」
「離セ、ガラクタ共ガ!」
結衣は拘束を振りほどこうと足で蹴るなどして抵抗したが、中々振り解けない
しかし、霧島も鳥海も川内も焦りを感じた。結衣は戦艦ル級改flagshipに変身していない。にも拘わらず、物凄い力である。コイツの力は、一体どこから来ているんだ?油断すると振り解いて逃げてしまう
だが、この状況を見逃す人はいない
「うおおおぉぉぉ!」
刀を構え突進する天龍がいた。刀の刃は、両腕を拘束し身動きが取りにくくなっている結衣に向けられている
「龍田と大淀と古鷹、そして時雨の仇だ!」
今の結衣は、戦艦ル級改flagshipではない。そのため、邪魔となる装甲はないはずだ。焦る結衣を他所に刃は、結衣の心臓を貫通した
「グッ!」
天龍の刀によって身体を突き抜かれた結衣。抵抗する力が弱まる中、天龍は荒い息をし、刀を握りしめたまま結衣に向かって怒鳴った
「言ったはずだ!刀で切り刻んでやる、と!」
勝った!心臓が破裂して、奴は即死のはずだ!
天龍は心の中で勝利を確信した。霧島も川内も鳥海も天龍の刀に目を向けて、天龍と同じように考えていた。流石に心臓がやられては、如何に怪物戦艦だろうと死ぬだろう。生命体である以上、死も存在するのだから。そのため、結衣が頭を項垂れても微かに口角が釣り上がるのを見た者はいなかった
やったか?
次回で分かる……はず……