感想は「可愛い、(甲だと)強い、心が痛い」
何しろ、撃破されるモーションが仰向けに倒れながら爆炎に包まれる姿ですから
あれ、どっちが正義で、どっちが悪だったっけ?
クリアしても喜ばないって珍しい
北海道の千歳基地では、浦田重工業に味方した事が最大の過ちであった。目の前に広がる地獄絵図を眺めながら、飛行隊長はそう考える。
ここは海軍航空隊であるが、浦田重工業が日本を乗っ取ろうと行動しているのに対して、ある集団も浦田重工業に賛同し立ち上がった。立ち上がると聞こえはいいが、実際は反逆である。千歳基地の基地司令達を殺害すると戦う同士を募った。隊員達は困惑した。なぜ、軍を裏切る必要があるのか?確かに国に不満はあるが、そこまでしてやる必要性がどこにあるのか?他国からの侵略なら兎も角、友軍同士でなぜ戦う必要があるのか?
基地の隊員の半分去った。去る者は放って置いた。あいつらもいずれは分かるだろう。今は浦田重工業の全面バックアップだ。その千歳基地に浦田重工業が保有する航空機が進出した。巨大な輸送機が並び、戦闘機が護衛する
巨大な輸送機に積まれるのは、隊員全員見たことも無い爆弾だった
MOAB……聞いた話だと巨大な爆弾らしい。何でも爆撃機には載せられないので、輸送機の貨物室に入れて、後部から貨物の空中投下と同じ方法で投弾すると
善戦していた浦田警備兵だったが、謎の攻撃を受けたため、爆撃命令が出たらしい。反乱部隊は、浦田警備兵と共に輸送機を使って陸海軍の基地を爆撃していた。威力は凄い。見たことも無い巨大な爆発。立ち上るキノコ状の雲
飛行隊長は、浦田重工業に付いていったのは正しいと確信した。ついていった部下達も同様だ。実行力があり、理想を掲げる浦田重工業は正義だと
だが、その正義は巨大な悪によって蹂躙していた
「はぁ……はぁ……こんな事があってたまるか!」
千歳基地の滑走路に並ぶ戦闘機と輸送機が爆発炎上している。浦田重工業に肩入れしてから一時間後に深海棲艦から攻撃を受けた。深海棲艦は浦田重工業が操っていたのではないのか?
だが、偵察機の報告では違っていた。見たことも無い深海棲艦が現れたのだと。ソイツのお蔭で深海棲艦はこちらの命令を無視しているという
「ダメです!数が多過ぎます!」
こちらは40機近くも戦闘機がある。だが、あいつが放つ艦載機は、400機近くある。MOABを積んだ輸送機は真っ先に撃墜され、対深海棲艦の弾丸や爆弾を積んだ戦闘機爆撃機は、全て撃墜された
また、ソイツは何と砲撃まで出来るらしい。お蔭で街に展開していた部隊は、一方的にやられる始末である
千歳海軍航空隊の基地の上空では、物凄い数の深海棲艦の艦載機に覆われた
「ははは……滅茶苦茶だ。航空機の数は多いし、砲撃までする……対抗兵器があっても敵わない。深海棲艦は俺達に手に負えない」
もはや、笑うしかない
とんだ化物を敵に回したのだ、と。
その思考を最後に、まるで電源でも切るように飛行隊長の意識が途切れた。空から雨のように降る爆弾を食らったからである。他の隊員も浦田兵も同じ運命をたどった
その破壊を北海道の沖合では、洗脳から目を覚ました深海棲艦が『ある者』を守るように航行していた。反乱部隊が言っていた『ソイツ』は、足をプラプラさせてたり伸びしてるような仕草をしながら執拗に攻撃している。撃墜された艦載機はいるが、僅かである。攻撃ヘリであるコブラが2機、『ソイツ』に向かったが、『ソイツ』は艦載機を召喚すると襲うよう命じた
攻撃ヘリのパイロットは驚愕した。獰猛な鳥の群れが襲った錯角に陥ったからだ。如何に個別性能で優越だとしても、数の理論で押されては敵わない
攻撃ヘリは奮闘したものの、あっという間に敵機に食われ撃墜していくのを『ソイツ』は見ていた
「ダカラ……無理ナノヨ」
彼女の名前は、飛行場姫。北海道と呼ばれる土地に自分達の仲間が洗脳されていると聞いて向かったのだ。人間なんてどうでもいいが、自分達の仲間を利用しようとした集団は許せない。そのため、基地を執拗に攻撃した。そして、何故か人間の武器が通用したのだが、飛行場姫は戸惑うどころか歓喜していた
「チョット怪我シタダケヨ」
飛行場姫は暫く周辺海域にいるつもりだ。こちらの仲間を奪還しつつ、不届き者を攻撃するために
一方、佐世保の街は火の海と化していた。その街の中に浦田重工業の施設があった。浦田重工業の決起のお蔭で街の住民達は、避難した。浦田兵が街を支配していたが、それがアダとなった
前兆なんてなかった。海から『アイツ』が現れたのだ。『アイツ』は強烈な殺気と威圧感を放ちながら佐世保に接近した。浦田重工業が抱え込んでいた深海棲艦は早速、裏切り『アイツ』側についてしまった
浦田兵は抵抗したが、彼等は鬼・姫級の恐ろしさを知らない。何しろ、地対艦ミサイルを躱す方法がある事を。護衛要塞のお蔭で対艦ミサイルは、『アイツ』に届かない。いや、仮に命中しても『アイツ』の攻撃は止まない。『アイツ』は抵抗する者……浦田兵を施設ごと根こそぎ破壊したのだ
一方、佐世保の住民達は高台や避難区域から唖然呆然としていた。民間人だけでなく、避難作業に当たっていた軍人も警察官も消防隊員も今置かれている自分たちの状況を甘んじて受け入れることが出来なかった
街がたった一人の怪物によって蹂躙されている
「ああ、ああ……」
一人の男性は、佐世保の街が燃えるのを立ち尽くしながら見てる事しか出来なかった
何もかも厄災によって失われていく……
「何てこった……俺は……あんな奴と平和条約を築こうと考えたのか……」
その男性は、深海棲艦を友好条約を結ぼうと市民活動していた一人であった。彼は知らないが、後に提督達が佐世保に居た時に、艦娘を嫌う反艦娘団体の1人だった。深海棲艦は知能がある。なら、対話も出来る。平和的解決があるんじゃないかと
だが、その信念を打ち砕いたのは深海棲艦のボスだったのは皮肉と言いようがなかった
「忌々シイ」
怪物が怨念染みた声を上げながら街を砲撃してくる。砲身は鉄が溶けたように真っ赤に染め上がる。放たれた砲弾は、禍々しい赤い光を放ちながら街に着弾する。どんな建物だろうと木端微塵に吹っ飛ぶ
「深海棲艦出現は、政府の陰謀だとか某国の新兵器だと思っておったが……あんなものを見ると、陰謀論を信じたワシが馬鹿じゃったよ」
近くに居た老人も、声を震わせながら呟いた。いや、市民活動していたメンバー全員は思った。深海棲艦は人間の常識なんて通用しない、と。そう結論づけると深海棲艦との和平交渉の考えを諦め始めた。いささか情けないかも知れないが、未来では使えないと嘲笑って浦田結衣に殺されたよりかはマシかもしれない
『アイツ』……市民活動家の心を簡単にへし折った泊地棲鬼は、佐世保を過剰に攻撃した。浦田重工業の事もあるが、自分達の仲間が良い様に使われた事に怒り心頭だった。しかも、人間によって。傲慢で極まりない存在は過剰に攻撃して思い知らさせないといけない。そうこうしている内に別の所から、浦田兵の増援がやって来てこちらを攻撃してくる。攻撃ヘリと対戦車ミサイル部隊がやって来ても泊地棲鬼は怯まない
「来タノカ」
泊地棲鬼は呟くと同時に攻撃目標を変えた。狙いはこちらを攻撃してくる不届き者を
欧州では戦闘が止んだ。いや、深海棲艦が一方的に戦闘を打ち切った
「な、何が起こったんだ?」
グラーフ・ツェッペリンは訝し気に呟いた。深海棲艦の攻撃は熾烈で防戦一方だった。日本から運ばれてきた『艦娘計画』のノウハウが到着し建造された艦娘が立ち向かったが、敵わなかった。何しろ、数が多い。U-511もプリンツオイゲンも大破し、Z1とZ3は満身創痍で海上に倒れている
ここまでかと思い覚悟を決めたドイツ艦娘達だったが、何故か相手は攻撃を辞めた。いや、リーダーである戦艦タ級が突然、何者かに攻撃を受け撃沈されたからだ
「コンナトコマデ……攻メテ来タノ?バカナノ?愚カナノ……ッ?」
浦田重工業が送り込んだ深海棲艦だったが、ある者が来たお蔭で黙らせたらしい
「助かったが、あれは何だ?」
「分からない」
グラーフの問いにビスマルクは首を振った
「だけど、あまり会いたくはないタイプね」
その者は、深海棲艦である事に間違いはない。しかし、一本の長剣を両手で持っており、姫騎士の様な姿をしている姿を見てタダの深海棲艦と思うのだろうか?
その者は戦う気はないらしく、深海棲艦を引き連れて去っていった。海上に残されたのはドイツ艦娘のみ
「夢に出てきそう……」
帰路につく際にビスマルクは呟いた。後に深海棲艦を纏めて去った者を『欧州棲姫』と呼ばれるようになった
警備隊長は驚愕した。見た事もない深海棲艦。どう見てもボスだ。殺気や威圧感が半端ない。どういう訳か、出現している
それどころか、各地にある浦田重工業の施設が襲撃しているのだ。深海棲艦のボスのお陰で支配下にあった深海棲艦は正気に戻る始末である。戦艦ル級改flagshipはどういう訳か艦娘と戦闘しており、周りまで把握していない。東京湾は、よく分からないボスが現れる始末だ
「おい、社長!聞いているか!これもお前の作戦か!」
『違う!なぜ、出現したか分からん!』
「じゃあ、誰かが意図的に召喚させたってか!ワームホールは支配下ではないのか!」
警備隊長は怒鳴ったが、相手から返事はない。これでは、計画が水の泡だ。警備隊長は、目の前のボスに攻撃するよう専念した
「ハンター各機、あの奴を狙え!地上部隊に連絡しろ!地対艦ミサイルも用意するんだ!」
しかし、地上部隊の大半は大混乱していた。何しろ、味方の後ろに敵が出現したのだ。苦労して旧軍の地上部隊を追い払ったと思ったら、今度は強敵が現れた。しかも、こいつは専用の武器でしか倒せない!南方棲鬼から放たれる巨弾に逃げ惑うしかなかった
『ダメです!もうこちらは、八方塞がりです!現代兵器の大半はコンピュータが狂って使えませんし、飛行場は深海棲艦の空襲で事実上、壊滅されました!もう、退路も進軍も出来ません!』
「クソ!」
悪態をつく警備隊長は、あの一等空尉を思い出した。こちらがいくら説得しても、この世界に移住するのを拒否したことを
『そこまでして、浦田から離れるのか?軍事の知識は、お前が詳しいんだ。俺は陸しか知らない。頼むよ』
『断る。正しい道だか何だか知らないが、他所へ行って改革するなんて正気か?そこに住む人達の考えを全否定する事は得策ではない。反発を生む』
『戦後の日本だって、鬼畜米英から従米属国になったんだ。人の考えなんて簡単に変えられる!』
『それは、一部の人が勝手に言ってるだけであって、視野が狭いだけだ。そういう人達を鵜呑みにしても録な事はない』
あの一等空尉は浦田から去った。この場にいれば、帝国陸海軍や艦娘を戦術で瞬く間に制圧しているだろう。指揮能力は、悪くない方だ。しかし、あいつは今はいない
アパッチは無事で兵装も先ほど補給したばかりだ。味方機はコブラ2機。ジェット戦闘機は、燃料が尽きて墜落した
「奴を倒す!対深海棲艦のミサイルと機関砲弾がある。倒すぞ!」
コブラ二機と従えてアパッチは、先頭を飛行する。既に会社の敷地は、艦砲射撃によって滅茶苦茶になっていた
「TOWとヘルファイアで一斉射撃だ!いいな!」
『『ラジャー』』
南方棲鬼に照準を合わす三機の攻撃ヘリ。ヘルファイアは、対艦用として開発されている事もあり、効果はあるはず。いや、深海棲艦にミサイルを防御する機能なんてない
「てっー!」
警備隊長が号令を下すと同時に、アパッチに吊り下げているヘルファイアは、火を吹き真っ直ぐ南方棲鬼に突進した。コブラもTOWを発射している。南方棲鬼は何が起こったか分からなかった。突然、攻撃を受けたのだ。護衛する護衛要塞はいない。しかも、中破したままである事もあり、ミサイル攻撃は流石に堪えた
「ギャアアアァァァー!」
炎に包まれながらも断末魔を叫ぶ南方棲鬼。この世とは思えない叫びに警備隊長は、ゾッとしたが、相手はやられたのだ
『敵、ダウン!』
「よし、次のターゲットに向かうぞ!」
恐れる事はない。深海棲艦も結局は、近代兵器の前には無力ということだ。旋回しようと操縦桿に力を入れようとした時、コブラから悲鳴じみた声が、無線を通じて警備隊長の耳に響き渡った
『隊長!敵は健在です!しかも……何だ、あの姿!』
警備隊長は、海の方に目を向けると愕然とした。炎と煙からあのボスが出てきたのだ!しかも、姿が変わっている!
ボスの姿は変わらない。しかし、下半身が巨大な腕が生えた艤装に包まれている。まるで鬼のようだ
艤装も砲塔も以前よりもゴツくて沢山ある。
(何なんだ、こいつは!)
流石の警備隊長もこれは予想外だった。倒したと思ったら、何と強くなって復活した!まるでゾンビのようだ!
しかし、深海棲艦ではこれが当たり前である。鬼や姫級は、大改装して強くするのは朝飯前である。手に負えない、もしくは本気を出したい時に発動可能である
戦艦棲姫と港湾棲姫などは先遣隊ということもあるが、人間の武器では殺られないと分かるとある程度の戦力と能力しか送らなかった。過小評価もあるが、本気で戦う必要性なしと思ったらしい。それが仇となって戦艦ル級改flagshipに負けてしまったが
しかし、今の深海棲艦は本格的な戦力をワームホールを通じて送り込んだ。
そのため、警備隊長を始め、浦田の警備兵は驚愕した。こんなのは聞いていない!
『隊長!どうします!?』
コブラのパイロットから指示を仰いでいるが、警備隊長自身もどうすればいいのか、分からなかった。しかし、考える暇はない。敵は手から艦載機を召喚すると、こちらに向けて飛ばしてきた
『墜チナサイ!』
掛け声と共に深海棲艦の艦載機が、攻撃ヘリに向かっていく。
「クソ!迎撃しろ!」
対空ミサイルと重機関砲を発射して抵抗しようとしたが、相手は多数に無勢。しかも、戦闘機だ。攻撃ヘリは、戦闘機のように対空戦闘を得意としない。精々、火の粉を振り払うくらいである
コブラが2機とも火を吹いて落ちていく。アパッチは逃れようとしたが、深海棲艦の戦闘機と比べて鈍足であるため振り払えない
そして、目の前に深海棲艦の艦載機が現れた
白く口がパックリ空いている。歯並びがいい
「クソ。あの一尉の言う通りだな。思想云々は役に立たんな」
それ以降、警備隊長は覚えていない。仮に分かったとしてもどうしようも無いだろう
深海棲艦の艦載機が、アパッチを襲った。アパッチは攻撃に耐えられず、錐揉みになって落下。墜落した
いや、浦田重工業の部隊全てが危機的状態だった
アパッチと南方棲戦鬼の戦いを見ていた時雨達は、唖然とした。以前、あんなに苦戦していた未来兵器……それもアパッチとコブラの戦闘ヘリを呆気なく落としたのだ
それだけでない。浦田社長が呆然としてる中、無線から次々と連絡が入ってくる。それも指示を求めるものや被害が出ているものが多い
『大変だ!深海棲艦がこっちに攻撃してくるぞ!』
『おい、どう見てもボス級じゃないか!何でここにいるんだ!』
『ボスを狙え!何をしてる!?』
『ダメだ!対艦ミサイルだけでは足りない!ボスなんかは直撃しても死なないぞ!』
『あの丸っこい奴を何とかしろ!盾にしているせいでミサイルが当たらん!』
どれも悲鳴じみた報告ばかりだ。部下も動揺しており、浦田社長に目が集まる。浦田社長も呆然としている
「どういうつもりだ?」
掠れた声で提督に聴く浦田社長。時雨を人質としているのに、追い詰められてるようである
「一体、どういうつもりだ!?」
「深海棲艦はお前達の軍隊ではない。だから、返したのさ。戦艦棲姫の話だと、お前たちが支配下に置いた深海棲艦を正気に戻す事が出来ると」
提督の先祖の話だと、テレパシーで深海棲艦を指揮している。だが、結衣はそれを悪用して下級の深海棲艦を洗脳し支配下に治めた。だから、港湾棲姫などの姫級を弱体化させたのだ
「姫・鬼級をたくさん連れて来たようだな。しかも、どういう訳か移動が早い。お前達が支配下に置いた深海棲艦は、正気に戻ったらしいぞ?」
砲撃によって壁に穴が開けられた風景は、砲撃によって施設が壊され出て来る下級の深海棲艦がぞろぞろと出て来ている。そこに南方棲戦鬼が近寄っている
南方棲戦鬼はイラついていた。どうやって自分達の仲間をコントロールしているのかに。しかも、人間がやった事だ。空母ヲ級は、呆然としているし、戦艦ル級は目が覚めたような仕草をしている。そして、よく分からない装備を纏っている事に戸惑っている軽巡ツ級などを見た南方棲戦鬼は、吠えた
「オイ貴様等、何ヲヤッテイル!人間如キニ支配サレヨッテ!」
「ア……アア……」
戦艦ル級は腰を抜かし、空母ヲ級は狼狽した。駆逐イ級も軽巡ツ級も後ずさりする始末だ。何しろ、ボスである南方棲戦鬼が、怒っているのだから
「サッサト、ソノ変ナ装備ヲ捨テロ!汚ラワシイ!」
南方棲戦鬼の一声で深海棲艦は行動を起こした。身に着けていたミサイルランチャーやレーダーは海中に捨てた。空母ヲ級は、試作段階であるジェット機をゴミを捨てるかのように放り投げたのだ。どうも人類の兵器には、嫌悪感があるらしい
南方棲戦鬼は凄まじい声を上げた。それは怒りだ。もし、キリスト教徒がこの場に居たらあれこそ魔女の悲鳴と言うだろう。甲高い声に全員、ギョッとしたのだ。しかも、遠くに設置されていた臨時司令部まで聞こえたのだ
「あれが……予備作戦……」
「バカな考えだと思ったが……今となっては仕方ないか」
陸軍大将も元帥も高台に上り一部始終、双眼鏡で覗いていた。容姿は官能的だが、外見は恐ろしい。そのため、以前から声が上がっていた深海棲艦と対話するという案は、世間知らずと言う事だと改めて実感した
「各部隊に伝達。浦田重工業に向かう部隊を除いて、全部隊は海岸沿いから撤退」
「浦田部隊は?」
「奴等がやってくれる。あいつは怒り狂っているぞ。自分達の仲間がいいように使われていたのだから、怒り狂うのも無理はない」
南方棲戦鬼は、仲間を従えて浦田重工業の施設に攻撃をしていた。以前まで操られていた下級の深海棲艦も同様だ。空母ヲ級は、従来の艦載機を繰り出し、戦艦ル級は砲撃を開始。浦田重工業の施設を攻撃していた。しかし、南方棲戦鬼の砲撃は強力だ
「私ノ砲撃ハ本物ヨ」
放たれる主砲は、地上部隊諸共、耕された。何しろ、攻撃が強烈だ。浦田部隊も応戦したが、残念ながらそんな力はない。かと言って陸地には帝国陸軍が待ち構えているため、撤退出来ない
いや、浦田重工業の本社ビル付近ではない。浦田重工業が保有する基地も工場も離れ小島に設営した補給所にも鬼や姫級が出現した
駆逐棲姫や軽巡棲鬼が第二艦隊であるイージス艦に殺到して撃沈され、浦賀水道の近くにある工場では装甲空母鬼が放つ強力な艦載機によって空襲が起こった。泊地棲鬼が暴れまくったお蔭で地対艦ミサイルの部隊は全滅した。何しろ、ミサイルを放っても下級の深海棲艦か護衛要塞が盾となってボスを守る始末だ。これでは性質が悪い
よって、長年に渡って力を蓄えて来た浦田重工業は、深海棲艦によって崩壊していく。部隊も深海棲艦から攻撃されるとは思わなかった。戦艦ル級改flagshipのお蔭でコントロール出来たとばかり思ったからだ
「よくも……よくも!」
「世界を攻撃しようとした奴が、何を言っている?」
提督は呆れるように静かに言った。浦田社長は顔を真っ赤にしている
「お前は……世界を滅ぼす気か!?」
「滅ぼしているのはお前だ!妹を利用し、深海棲艦を自分の軍隊に組み込み、挙句の果てに偏見で国や艦娘を蔑む。やってる事は、お前が忌み嫌う国と変わらない」
提督は浦田社長を睨んだ。浦田社長も予想も出来なかった。まさか、姫級を召喚するとは……
「お前も同じだ。深海棲艦のボスをこの世界に呼び寄せた。核兵器をこの世に持ち込んだと同然だ」
「言い訳はしない。確かに人類の敵を増やした。だが、お前も人類の敵だ。時雨が経験した世界では、お前たちが住む区域以外は、地獄だったと言っている」
浦田社長は一瞬、顔が蒼白になったが、すぐに気を取り直した
「なら、人類は愚かだって事だ。人類は、神になれなかったという事だ。深海棲艦は悪魔だが、私は違う。なぜなら――」
「米英中露仏の常任理事国は、非道なことを沢山した。だから、世界を支配して平和な世を作るというのは正しい、と言うつもりか?」
提督は、吐き捨てるように浦田社長の演説を遮った
「俺から見れば、どれも同じだ。確かに人類の敵が現れても、一致団結しない人類には呆れる。だがな、支配してまでするような事か?こちらの言い分を聞かないからと言って、武力と言論弾圧して従わせるのは間違っている。お前は怪物になっている!大量殺戮者という名の怪物に!」
浦田社長は怒りで時雨の拘束に力が入らなかったのだろう。時雨は、掴まれている手を強引に振りほどいた。浦田社長は痛みで悲鳴を上げ、部下は慌てて時雨を攻撃しようとする。しかし、時雨は素早く提督の元へ駆けたため狙いが外れる。時雨は警備兵を攻撃しようかと迷ってしまった。敵とは言え、相手は普通の人間である。しかし、こちらに武器が向けられているため、抵抗しない訳にはいかない
自動小銃に撃たれながら、反撃しようとする時雨。しかし、主砲が火を吹く前に相手は脚から血を流して倒れたのだ。撃たれたらしい
撃った相手はというと……
「よくもこちらに武器を向けたな!」
提督は64式小銃を構えている。しかも、引き金を引いているのだ。摩耶も不知火も囲まれていた浦田兵と戦っていた。ただ、不知火は兎も角、摩耶は重巡であるため主砲を撃つのは不味い。そのため、対空機銃で相手を無力化している
提督と2人のお蔭で時雨は脱出し、敵も床にうずくまっている。浦田社長を含め全員、殺していない。手足を撃っただけだ
「大丈夫か、時雨」
「うん。ありがとう」
時雨は満面の笑みを浮かべた。もう、艦娘の指揮官としてやっていけそうだ。だが、提督はちょっと甘いような気がした
「そうか……お前は人を殺すのが苦手のようだな」
そう……提督は敵を無力化しただけ。殺していない。しかも、摩耶も不知火も同様で無力化しているだけだ
「ああ、人類同士の争いは止めないとな。でないと、艦娘が人類に失望して守る必要ないと思われたら終わりだ」
意外な反論に時雨だけでなく、浦田社長もポカンとしている。だが、直ぐに気を取り直して邪悪な笑いをした
「艦娘が人類に失望しただって?バカをいうな!人殺し兵器が何を言っているか!」
「懲りないようですよ?」
しかし、不知火は浦田社長の悪口雑言に激昂もせず、ただ提督に報告するだけである。摩耶もだ
「仕方ない。法で裁くために憲兵隊へ引き渡そうと思ったが、気が変わった」
「どうする気だ?」
提督の呆れるような、失望するような言い方に摩耶は、聞いてきた。摩耶からして見れば、天誅を下したい所だ。何しろ、撃たれたのだから
何をするのか?
「時雨、お前に任せる」
「分かったよ」
時雨は艤装を構えた。これは戦争だ。だが、ここで殺したらやっている事は、浦田社長と同じだ
「私を殺しても世の中は変わらんぞ!お前達も同類だ!正義のヒーローなんていない!社会は残酷だ!お前も時雨も艦娘も社会に淘汰されるだけだ!」
浦田社長は最期と察したのだろう。高々と演説ぶっているが、時雨はため息をつくだけだ
「提督はいつも言っていた。僕は……僕達は学ぶことが多いって」
「は?」
予想外だったのだろう。浦田社長は、戸惑った。何を言っているのか?浦田兵も同様だ
時雨は浦田社長と見つめたまま自分の主砲を外に向けて発射した。発射した砲弾は、海に落ちて水しぶきを上げただけだ。摩耶は唖然とし、浦田社長は笑った
「提督、どうしてだよ!?」
摩耶は非難がましく言ったが、提督は何も言わない。浦田社長は、勝ち誇ったように未だに笑っている。足を撃たれても、そんなのは気にしないという風に
「どうやら、お前は人を過大評価している!そいつはそんな勇気はない!何しろ――」
しかし、浦田社長は凍り付いたかのように言葉を切った。目は外に向けている。浦田兵もである。時雨は何も躊躇ったから、外に向けて砲撃したのではない。あれを呼び寄せるための砲撃
その砲撃に反応したのだろう。遠くに居た南方棲戦鬼が物凄い勢いでこちらに向かっている!時雨の砲撃を感知した南方棲戦鬼は、人類の抵抗だと勘違いしたらしい。下級の深海棲艦は別の場所にて攻撃している。仲間が人類の施設を攻撃している様子を眺めている中、こちらに向けて攻撃を仕掛けて来た。南方棲戦鬼から見れば、抵抗勢力と見えたらしい。深海棲艦の鬼・姫級は相手を徹底的にやっつけるという考えがある
「俺は人を殺さない。だが、助けもしない。特に深海棲艦側についている人間はな!」
提督は時雨の手を引っ張ると砲撃で空いた穴から逃げ出した。摩耶も不知火も後に続いた。浦田社長は逃げようとしたが、何しろ脚を撃たれている。逃げようにも逃げる事が出来ない。警備兵も悲鳴を上げながら床を這いずり回っている
「愚カ者メ!」
南方棲戦鬼は叫びながら砲撃を開始した。南方棲戦鬼はビルの中に人がうずくまっているのと、そこから逃げようと走っている集団を見たが、当の本人はどうでも良かった
何しろ、こちらに向けて攻撃を仕掛けて来たのだ。そんな不届き者は、始末しないといけない
南方棲戦鬼が持つ全砲門が、一斉に火を吹いた。南方棲戦鬼が放った砲弾は、赤い光を輝きながら目標へ突進する
「貴様ー!よくもこんな事をー!」
浦田社長は吠えたが、それが最期だった。砲弾は、着弾と同時に炸裂。炎と爆風は、ビルの中にいた人の集団をこの世から吹き飛ばした。浦田社長とその場にいた警備兵を吹き飛ばしたのだ
南方棲戦鬼は勝ち誇ったかのように攻撃した場所を見つけていた。次にビルを攻撃しようと攻撃しようと装填したが、煙と埃が漂っている中からある集団が飛び出して来た
「提督……お前、人を殺さないって」
「深海棲艦好きらしいから紹介しただけだ」
全速力で走る提督と時雨と摩耶、そして不知火だった。戦艦の砲弾が放つ砲弾の爆発をまともに食らったら人は無事では済まない。しかし、摩耶と不知火は提督を庇うようにして爆風から守ってくれたのだ。最も、全ては防げず灰を被っていたが
「よし、仲間と合流するぞ!」
提督は南方棲戦鬼を見向きもせずに全速力で走る。南方棲戦鬼から攻撃を受けたら一たまりもない
南方棲戦鬼は、逃げていく奇妙な集団を攻撃しようかと迷った。今まで出会った人間は、武器を持ってこちらを攻撃されるか、喚きながら逃げるかのどちらかだった。しかし、あの人間と一緒にいるのは何者だ?
見た目は人間だが、南方棲戦鬼は直ぐに見破った。自分達と似たような存在……
不意に聞いた事が無い爆音がした。矢じりの形をした飛行物体が、目も止まらない速さでこちらに向かっている
「墜チナサイ!」
南方棲戦鬼はジェット機を迎撃するために戦闘態勢に入った。護衛要塞は防御態勢を取り、南方棲戦鬼も艦載機を出現させた
あの少女を相手にするのは後回しだ!
戦艦ル級改flagshipは、無線で一連の出来事を把握していた。しかし、信じられなかった。まさか、ワームホールを開通させて、深海棲艦を呼び寄せるとは!
「コノ気配ハ鬼級……マサカソンナ事ガ」
しかし、戦艦ル級改flagshipは、深海棲艦をコントロールしている。それなのに、察知出来なかった。ずっとモニターしていたのだ
それが何故……
「確かに今の私達では、貴方に勝てない」
喉を掴まれながらも霧島は、はっきりと話している。ボロボロだが、意識はある
「司令は決断しました。貴方を勝たせる訳にはいかないと」
「チッ……利害ノ一致カ」
大体、想像出来た。時雨は、自分の性格をある程度、知っている。つまり、利用されたのだ。自分が虐められている過去を知ってるかどうかはいい。しかし、相手を痛めつけてから倒すのは把握していた。
つまり、目の前にいる艦娘は、私の注意を逸らすため……
テレパシーで下級の深海棲艦を洗脳するのは出来るが、永遠ではない。定期的にやらないとこちらに従ってくれない
それにつけこまれた。戦艦棲姫は人間嫌いなのは、知っている。だが、戦艦棲姫と取引したのは艦娘ではないはずだ。だとしたら……
「ソウカ。ナラバ仕方ナイ。隠シ玉ヲ使ウトシヨウ」
戦艦ル級改flagshipは、艤装から注射器を取り出すと自分の体内に注射した。何をしたのか、霧島は分からない
「何故、オ前達ト戦ウ時、止メヲ刺サナイノカ。私ハ深海棲艦であると共に人間でもある。肉体というのは、鍛えれば鍛えるほど強くなる」
霧島は結衣が何を言ってるのか、分からなかった。突然、普通の人間のように喋り出したのだ
変化する結衣の姿に霧島は愕然とした。艤装が変化している!
「なっ!そんな!」
「ありがとう。私をココマデ強クシテクレテ」
浦田結衣の目的に気づいた霧島は、逃げようともがいたが、何と相手は手を離したのだ
霧島はその後の事は覚えていない。48㎝の砲弾九発をマトモに受けたのだ。余りの威力に霧島は壁を突き破って外に吐き出された
「そ……そんなバカな……」
成長する戦艦ル級改flagshipの姿を天龍は、恐怖で声もでない。まさか、戦うごとに改装するとは思わないからだ
不意に戦艦ル級改flagshipの背中が爆発した。どこから現れたのか、鳥海が結衣の背後から砲撃をしたのだ
「鳥海、逃げたと思ったが。何か一発逆転の奇策でも思い付いたのか?」
「司令官さんが撤退命令を出さない限り、私は戦う!」
鳥海は強気だ。しかし、天龍は見た。鳥海の足が微かに震えているのを。どんなに攻撃してもびくともしないどころか、成長する相手に恐怖を抱くな、という方が無理である
「言いたいのはソレダケカ?ナラ、屑鉄ニナルガイイ!」
48cm砲が鳥海と天龍に向けられ発砲するまで、鳥海は叫びながら20.3cm砲を撃ち続けた。どんなに逃げても好転しない。なら、戦うまでだ
平行世界の日本
ある病院に急用患者が担ぎ込まれてきた。救急隊員と看護師が、手術室に運び込まれる中、駆けつけた医師に救急隊員が矢継ぎ早に報告して来た
「26歳の航空自衛官が何者かに撃たれ意識不明の重体です!」
「なぜ、空自の人間なんだ?現場の人間では無いだろ!」
医者が不機嫌になるのは無理もない。この病院では、民間人の他に警察官と陸自隊員が運び込まれていた
その理由は、提督達が爆弾を投下した事から始まる。浦田社長が隠れ身としていた過激な宗教団体は、蜂起した。兵器密造したのがバレたため、ある地帯を解放区と称して占拠した。何しろ、重火器どころかロシアの軍用ヘリまで持っているのだから、警察は自衛隊にも応援を呼びかけた
世間は大混乱したが、意外にも早く収まった。その理由は、この過激な宗教団体を弾圧に支持する国が幾つかいたからだ
その中には、近隣諸国まで含まれていた。実は、浦田社長が平行世界に取引していた武器商人の出身国は、その近隣諸国だった。この武器商人が、浦田社長を殺したのは分かっていた。証拠は無いにしても、武器商人が売った兵器の足取りを掴めたのは容易だ
中古とは言え、ジェット機やヘリを大量に買った宗教団体を庇うとは何事か?アメリカも銃火器が行方不明になっている事を掴んでいた
その周辺国やアメリカの非難に流石の市民団体も宗教団体を支援して来た政党も委縮してしまった。言い訳しようにも、自分達が支援して来た宗教団体が、裏で兵器を買ったという証拠があるため反論出来ない。それも平和主義を第一として掲げる政党なら、論外だ。政党のトップである首相は、やむなく防衛出動を出した。これ以上、他国に迷惑をかける訳にはいかない……
戦闘は起こったものの、数時間で鎮圧された。教祖様も信者達も逮捕され、過激な宗教団体も向こうの世界である浦田重工業と同様、崩壊へと向かった
だが、生き残りがいたのだろう。裏切りと判断して僅かの期間に滞在していた空自の隊員を狙撃した
犯人は逮捕されたが、撃たれた相手は無事では済まない
「緊急手術するぞ!弾丸を摘出し――」
医者が看護師に指示する中、一尉は意識を取り戻した。と言っても、微かに目を開けただけだが
(そうか……撃たれたのか……でも、データはちゃんと送信した)
彼はプログラマーの人間であった。防衛大学校に入る前にプログラミングをして独自のゲームソフトを創るのが趣味であった。防衛大学校に入っても電気工学や機械工学など理系を学び、趣味と混ぜながら暮らしていた
しかし、母が宗教団体に入信した事により人生は一変した。性格が変わり果ててしまった母。止めさせようと躍起になって動いたが、効果なし。海上自衛官の自殺で漏洩疑惑をかけられ、それにより妻も娘も去っていった
しかし、彼は諦めなかった。宗教団体を崩壊すべく情報収集し、ネットに流したのだ。裏金、闇取引、麻薬、兵器密造等
幾つものサーバーを経由してネットに拡散したのだからバレる事は無い。仮にばれても、どうでも良かった。失う物なんて無い
(後悔はない……だが、提督と時雨とかいう艦娘に会いたかったな)
電話で話した相手。浦田と戦う者が他にもいた。それだけでも十分だった。浦田は、何がしたかったのだろう?
しかし、彼は考えるのを止めた。どうせ、自分の命は尽きるのだから。助かる事は無いだろう
(さようなら、提督に時雨。日本版のディープスロートは死ぬ定めらしい)
彼は再び意識を失った
おまけ
戦いの後、ビスマルクは疲れのあまり直ぐに寝たが、彼女が見た夢は正に悪夢だった
欧州棲姫「オーイ、ビスマルク!会イニ来タヨ」
アークロイヤル「ビスマルク、ここで会うとは!おおい、おおーい!」
ビスマルク「いやあぁぁぁ!」
欧州棲姫「ナゼ逃ゲル!待テ!」
アークロイヤル「仕方ない、ソードフィッシュ隊、発艦!奴の足を止めろ!行きなさい!」
ビスマルク「来なくていいから!2人で襲うなんて卑怯よ!」
プリンツオイゲン「ビスマルクお姉様が悪夢にうなされている」
グラーフ「『来るな』とか『複葉機が』とか寝言で言っていたな」
Z1「起こしてあげた方がいいんじゃない?」
浦田重工業崩壊。え?周りにも被害が?深海棲艦は人類の敵です。仕方ない面はあるものの、やはりピンポイントで攻撃して欲しいものです
……まあ、民間人に被害が起こらず、戦闘員だけ攻撃なんて現代戦でも難しいですが
浦田社長はストーリーから退場。警備隊長も死んだでしょう。
まだ、戦艦ル級改flagshipがいますが……