時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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秋刀魚イベント完了した私です
谷風に新たな改装が……。念のため、レベルを上げよう


第94話 戦力増強

 浦田重工業の地上部隊は、深海棲艦のボスが出現した事により、大混乱した。自分達の軍団が手に入った事への喜びが絶望に変化したためだ

 

 地上部隊は右往左往するばかりだ。指示を求めても無線からの返事は無い。自分達のボスである浦田社長や警備隊長はいない。いや、警備隊長が乗っていたアパッチは撃墜されたのを他の部隊も目撃しているのだから、分かっているはずである。しかし、浦田警備兵は誰もが信じられなかった。自分達の上司が、戦死したのを受け入れる事が出来なかった。地上部隊だけではない。非戦闘員までも同じだった

 

 

 

 浦田重工業の研究員達は、地下研究室で書類や薬品をケースに慌ててしまっていた。所長は研究員達に今までの研究の成果を出来る限り持ちだすよう命じたのだ

 

「所長、我々はどうなります!?」

 

「反政府組織か海外にいく。まだ、輸送機があればいいのだが」

 

 所長がいう輸送機とは千歳航空隊の事を指している。千葉の飛行場は、帝国陸軍の空挺部隊によって制圧されたと聞いているからだ

 

しかし、彼は知らない。飛行場姫によって、千歳海軍航空隊の飛行場は壊滅した事を

 

「深海棲艦の研究データは、誰もが喉から手が出るほどのものだ。3体の遺体も忘れるな」

 

「ですが、コイツはどうしましょう?」

 

 研究員はあるものに指を指した。鎖で拘束され檻に閉じ込めていた港湾棲姫だ。港湾棲姫は、幾度の実験によって衰弱している。流石に姫だけにあって、生命力は強く研究員の手に余るものだった。何しろ、腕力が人間よりも強い。こんな相手をどう扱えと

 

「コイツも連れて行く。何か役に立つだろう」

 

 同行していた警備兵は、頷くと港湾棲姫の運搬準備に掛かった。だが、港湾棲姫は笑っていた

 

「何だ、コイツ?笑っていやがる」

 

 化け物が笑う。警備兵は顔をしかめたが、港湾棲姫は分かっていた。テレパシーの力は無いが、懐かしい気配を研究員達よりもいち早く感じたからだ

 

「生キテイタ……マサカ、本当ニ」

 

「何?」

 

 警備兵はドイツ製の短機関銃MP5A3を構えた。どうせ、撃ったところでこいつは死にはしない

 

だが、遠くで物音が聞こえた。いや、破壊音と言うべきか……

 

「おい、ここは核シェルター並に設計した地下施設だけど、平気なのか?」

 

一人の研究員が何気に呟いたが、所長はそうは思っていない

 

誰かが侵入したんだ!100mmの鋼鉄製の扉を何者かが破壊したんだ!

 

 その直後、遠くで銃撃と破壊音が微かに聞こえたが、数秒で沈黙した。警備兵は無線で状況を聞こうとしたが、応答はない。いや、1名だけ答えたが、出た相手は仲間ではなかった

 

『会イニ来タワ。私ノ仲間ハ死ンデイナイデショウネ?』

 

 無線機から冷たい声が研究室内に響き渡った。誰もが声を発しなかった。攻めて来たのは帝国陸軍でも艦娘でもない。深海棲艦の親玉が来ているのだ!

 

「ど、どどどうしましょう!敵が来て……」

 

「慌てるな!コイツを人質にすれば何とか切り抜けられる!」

 

「しかし、戦艦ル級改flagshipでさえ能力を吸い取れなかった奴ですよ!抵抗する力は無いにしても、生きる力は我々よりも――」

 

「そんな事言っている場合ですか!相手は人間ではないのですよ!人間の軍隊だって、非情な事をするのに、相手が礼儀正しい相手だと言うのですか!」

 

 たちまち研究員の間で口論が始まった。歴史を振り返っても、古今東西において礼儀正しい軍隊は存在しない。勿論、深海棲艦も例外ではない。そんな中、厚い扉から物凄い音が響き渡った

 

 ドーン!

 

 頑丈に閉じていたドアから響き渡り、周りは静まり返った。皆の目は扉の方に向ていた

 

「救助部隊……ですか……?」

 

「深海棲艦の救助部隊だろう」

 

 研究員の1人はすがるように呟いたが、所長は即座に否定した。人間の救助部隊なら分厚い鉄の扉を殴った跡が残る程、叩くはずはない。いや、殴っているといった方がいいのか……。答えは1つしかない

 

「なんて事だ!もう敵が……」

 

「う、うわあぁぁぁ~」

 

 たちまち研究員達はパニックに陥った。こんな事になるなんて!辺りが騒がしくなる間にも、敵はドアを殴り続けていた。ドアは変形し、殴った跡も多くなっている 

 

 そして……遂にドアは轟音をたてながら飛ばされ、何者かが入って来た

 

 黒いワンピースを身に着けている女性が入って来た。研究員の1人は、女性の職員かと思ったが、容姿を見た彼は小さな悲鳴を上げて腰を抜かした

 

角が生えており、眼も赤い

 

「馬鹿な、お前は死んだはずだ!」

 

 それは、提督達が生き埋めにした戦艦棲姫だった。忘れる訳がない。自分達の手で内陸部に埋めたのだから!

 

「生キ返ッテ来タワ。私ガ眠ッテイル間ニ仲間ヲ酷イ目ニ合ワスナンテ」

 

「なんて事だ!半信半疑だったが、本当に生き返るなんて!」

 

戦艦棲姫は嘲笑っていたが、所長は気が気でない

 

 あの時、確かに死亡したと確認した。戦艦ル級改flagshipは、心臓に鉄の槍を突き刺した。生命活動は停止していた。しかし、死体を研究しようにもメスが通らない。傷1つ付けていないどころか、腐敗すらしない。火葬で遺体を焼こうとしても、現れたのは火傷すらつかなかった横たわる戦艦棲姫の姿だった。怪物艤装も同様だ。解剖しようにも、刃物すら通らない。あまりの不気味さに埋めて処分する事にした

 

 これで解決したかと思われたが、まさか提督達が掘り起こして、しかも生き返った事に驚きを隠せなかった

 

「ン~?人間ノ常識デ、コノ私ガ死ヌト思ッタカ?」

 

 戦艦棲姫のきつく言い放ったと同時に何かが扉を突き破って入って来た。それは、怪物艤装である。おぞましい吠え声に研究員達は悲鳴を上げた。腰を抜かし床を這って逃げようとする者、訳の分からないまま喚く者、化け物に屈しず武器を構える者

 

「サア、全員死ヌ覚悟ハイイ?」

 

「待て、話し合おう!取引だ!悪くないだろ!」

 

所長は両手を上げ、降参である事を戦艦棲姫に見せびらかせた

 

「取引?」

 

「そうだ。我々はお前達に協力する。あんた達のバックアップくらい出来るはずだ。悪くないはずだ。アンタの仲間も解放する」

 

 所長は、マシンガンのように一気に話したが、戦艦棲姫はつまらなそうに聞いているだけだ

 

「お互い水に流そう!暴力では何も解決しない!私がいた国では、戦争をしない事を掲げている!憲法で戦争放棄と――」

 

「死ネ」

 

 怪物艤装から無数の機銃が現れると、一斉に火を吹いた。反撃する者はいたが、戦艦棲姫には効かない。虐殺であるが、戦艦棲姫は気にしない。港湾棲姫に何をされたのか、すぐに分かったからだ。怪物艤装は銃撃を止めた。全員、血を流して倒れ、動かなくなっているからだ。……いや、1人だけ息がある

 

「アラ、マダ生キテイタノ?」

 

「深海棲艦には……知能が……あるはず」

 

「ダカラ?ツマラナイ話ヲ聞クタメニ来タンジャナイワ」

 

戦艦棲姫は怪物艤装に殺すよう命じた。トドメの一撃で所長は、絶命した

 

 

 

「アリガトウ。モウ駄目カト……」

 

 拘束から解放され、荒い息をしながら港湾棲姫は、礼を言った。北方棲姫も来ており、自分の姉を介護していた。自分の姉がここまで弱っている。北方棲姫は、ワ級を呼び寄せた

 

「ホッポ……奴等ニ何カサレタ?」

 

「ウウン」

 

 北方棲姫は首を横に振った。どうやら、艦娘である時雨とその人間集団は、北方棲姫を丁重に扱ったらしい

 

「安心シロ。奴等ト取引ヲシタ」

 

「貴方ラシクナイ」

 

「仕方ナイ。コウデモシナイト、助ケラレナイカラナ」

 

 戦艦棲姫は不機嫌そうに答えた。何しろ、こんな組織を倒すのに人の手を借りる事に成るとは思わなかった。しかし、今の自分では、単体で浦田重工業に挑むのは無謀だ。対深海棲艦の兵器はあるし、戦艦ル級改flagshipの力を奪った浦田結衣までいる。あの女を化け物に育てたのは自分のこともある

 

「早ク逃ゲナイト」

 

「心配スルナ。空母棲鬼ト離島棲鬼ガ外デ見張ッテイル。南方棲戦鬼モ暴レテイルカラ、人間共ハ此処ノ奪還ナンテ出来ンダロウ。ソンナ事ヨリ『レ級』ト『重巡棲姫』、『駆逐古姫』ヲ探スゾ」

 

 どうやら、戦艦棲姫は救出と同時に仲間を探しに来たらしい。大きいコンテナの中から自分達と同じ存在がいるのは分かる。懐かしい感覚。異世界へ行き、帰れなかった二人と浦田結衣にやられた者

 

 鍵がかかったケースを強引にこじ開けた。中には、ミイラ状態になった3人の遺体が横たわっていた

 

「レ級……重巡棲姫……駆逐古姫モ無事ダ」

 

 戦艦棲姫がいう無事は、人間の感覚とは語弊が生じる。それはそのはずで、ミイラ状態でも蘇生出来る能力はあるのだから。ケースから取り出した書類によると、浦田重工業は『一族』が埋葬したとされる墓から掘り起こしたものらしい。浦田結衣があの時、強くなったのかが分かった。重巡棲姫の身体の一部が無くなっている。ミイラになっても、僅かながら力は残る。しかし、拒絶反応するほどではない。浦田結衣は戦艦ル級改flagshipでありながら、姫級の力を手に入れたのだ

 

「ン?」

 

 戦艦棲姫はレ級の身体を見て眉をひそめた。首に幾つもの穴がある。数や大きさからして人間の指だろう。誰がやったのかは、大体想像はつく。しかし、なぜこんな事を?

 

 戦艦棲姫は知らない。レ級が持っていた能力を盗み、己の身体に取り込むための手段である事を

 

 戦艦レ級……航空戦、砲撃戦、雷撃戦、夜戦をこなすマルチファイターである。火力だけなら、鬼・姫級にも劣らない。浦田結衣は、何を盗んだのか?

 

 

 

 戦艦棲姫が地下研究室内にいる中、本社ビルの敷地では大騒ぎだ。吹雪達と502部隊を包囲していた浦田部隊に変化が訪れた。突然、重巡リ級や軽巡ホ級らが苦しみ出したのだ。そして、南方棲戦鬼が東京湾で暴れているのを浦田警備兵は困惑した

 

このチャンスを軍曹達は、見逃す訳には行かない

 

「よし、今だ!撃って撃って撃ちまくれ!」

 

 下級の深海棲艦は、混乱して戦えない。軍曹が号令をかけると同時に部下達は、捨てた武器を急いで拾うと警備兵に向けて攻撃した。あきつ丸も隠し持っていたカミ車である特二式内火艇を召喚し、あきつ丸自身も武器を取って戦っていた

 

 突然の事態に混乱した警備兵は、逃げ出した。まさか、深海棲艦のボスらしきものが現れるとは思わなかったらしい。警備隊長が乗っていたアパッチも撃墜されては自分達はどうしろと?

 

「逃げろ!早く!」

 

 地上部隊は逃走した。乗って来た車も置いていった。しかし、ここで厄介な事が起きた。洗脳が溶けた下級の深海棲艦が正気に戻ったのだ。戻ったからと言って、こちらの味方ではない。現に重巡リ級は頭を押さえながらもこちらに砲を向いている

 

「不味いのです!」

 

「心配するな! もう少しで完成する!」

 

 電は叫んだ。自分達は大破しているため、満足に戦えない。だが、博士は脅威が無くなったのを感じると素早く高速建造したのだ。妖精もあわてて作業に入る。そして、建造ユニットから新たな艦娘が出てきた

 

「私が、戦艦長門だ。よろしく頼――」

 

「自己紹介はいいから、さっさとあの敵を攻撃しろ!」

 

「え?な、何だ?こいつらは?」

 

 長門からしたら、よく分からないだろう。建造ユニットから出て来たと思ったら、重巡リ級が武器を振り回してこちらを攻撃しろうとしている。次に、軽巡ホ級の軍団が、怯えている駆逐艦娘と避難させようと奮闘する陸軍部隊を見て、長門は咄嗟に行動に出た。まずはこちらに攻撃しろうとしてくる重巡リ級を41cm砲で粉砕。次に、速足で駆逐艦娘と陸軍部隊の前に駆け寄ると守るように立ちはだかる。軽巡ホ級と駆逐イ級の砲撃を受けたが、びくともしない

 

「フッ、効かぬわ!」

 

 深海棲艦は自分達の攻撃が通じない事に驚いたが、長門は戦艦であるため当然である

 

 駆逐イ級と軽巡ホ級が必死になって攻撃する中、長門は自慢の41cm主砲で丁寧に一つ一つやっつけた。そんな中、解毒に成功した龍譲も立ち上がると戦いに参加した。しかし、艦載機を発着艦する能力までは回復していない。明石の制止を振り切ると、龍譲は思い切った行動に出た。何と12.7cm連装高角砲を装備して深海棲艦に向かっていったのだ。予想外の行動に流石の明石も博士も唖然とした。空母が砲撃戦するなんて聞いた事が無い。しかし、龍譲はそれをやってのけた。高角砲で駆逐イ級と砲撃戦を展開していたのだ。しかも、良い勝負である

 

 強力な攻撃を受けた深海棲艦は、驚愕した。何なんだ、コイツらは?しかし、その疑問は後回しだ。生き残った下級の深海棲艦は慌てて海へ逃げ出した。ここでわざわざ死ぬ訳にはいかない。それに、テレパシーで自分達のボスが呼んでいる

 

「ふっ!怖気づいたか」

 

「やったで!」

 

 龍譲と長門は喜んだが、他の人は唖然としていた。長門は兎も角、龍譲のやり方が強引過ぎた

 

「何で空母が、砲撃戦に加わっているんだ?」

 

「別に珍しくないで?以前にやった事あるしな」

 

 軍曹は突っ込んだが、龍譲は当たり前のように話す。『艦だった頃の世界』で何をやったんだ?だが、深海棲艦を追い出したため、軍曹は口をつぐんだ

 

「長門さん、ありがとうなのです」

 

「助かりました。もうダメかと」

 

「ふっ!ビックセブンがいるから安心しろ」

 

 駆逐艦娘達から感謝されて長門は、戸惑いながらも照れていた。長門は駆逐艦娘が好きらしい

 

 そうこうしている中、漣がある方向に指を指しながら素っ頓狂な声を上げた。時雨達が来たのを目にしたのだ

 

「ご主人様が来ました!」

 

「ようやく来たわね。何を――って何で全員煤塗れなの!」

 

「怪我しているけど、大丈夫でありますか!」

 

 時雨達の姿を見た艦娘達は質問攻めにあった。とりあえず、摩耶を明石に診てもらう事にして、陸軍将校と軍曹、その場にいた全員に今までの事を簡潔明瞭に話した

 

「成程、ワームホールは破壊したのじゃな!」

 

「浦田社長は死んだか!というか、何で深海棲艦のボスに殺させるんだ?」

 

 博士は手を叩いて喜んだが、軍曹は呆れていた。出来れば、提督か時雨のどちらの手で殺して欲しかった

 

「僕は提督の指示に従っただけだよ」

 

「艦娘が嫌いだったから、助けなかった。それだけだ」

 

時雨は淡々と話し、提督もどうでもいいような感じで返事をした

 

「いや、これで良かったかもな。人間不信のあまり、深海棲艦の力に頼った。その報いを受けたんだ。深海棲艦はお前達には従わないとな」

 

 将校は静かに言ったが、内心では違っていただろう。出来れば、司法で裁くために捕らえたかった

 

「それで、あれはどうするの?」

 

 叢雲は海の方に指を指した。彼女が指した先には、海岸沿いの施設に向けて艦砲射撃している南方棲戦鬼の姿だった。艤装という艤装が真っ赤に光ったと思うと、一斉射撃を行う。南方棲戦鬼が放つ砲弾は、戦艦棲姫と同じく赤い光を放ちながら浦田重工業の施設を攻撃している。浦田兵達は右往左往しているのだろう。リーダーを失い、立ち向かう武器も片っ端から破壊されたのだから

 

「あいつも倒す。密約違反だ」

 

「深海棲艦のボスを呼び寄せておいて、それは無いんじゃない」

 

「約束守る人だと思うか?」

 

 密約は攻撃するよう取引をしたが、攻撃対象は浦田重工業の施設のみ。当然、深海棲艦はそんな約束を守ってはいなかった

 

よって、住宅街や繁華街などにも被害が出始めている。帝国陸海軍は既に安全地帯まで撤退していた。敵わないからである。出来る事といったら、次々と投降する浦田兵を捕まえるぐらいしか出来なかった

 

「最初から裏切ると思っていたのですか?」

 

「助けたのに、こちらを攻撃しただろ?」

 

 不知火は呆れていたが、提督は当たり前のように話す。時雨も提督の提案を全て賛成した訳では無い。浦田重工業を倒すために深海棲艦を利用するのは、あまり良いものではない。しかし、あの時点において現戦力で浦田重工業を倒せるかと言われるとノーである

 

「では、私はあれを倒すんだな。艦隊戦なら――」

 

「いや、長門。残念だが、そいつの相手はお預けだ」

 

提督は長門が拳を握りしめ、やる気満々で海を行こうとするのを制止した

 

「戦艦ル級改flagship……だね?」

 

 時雨の呟きに龍譲はギョッとした。川内が大破し、気を失っているのを見れば分かる。それだけ強いと言う事だ

 

「奴は戦艦棲姫と港湾棲姫と戦って倒した事がある強敵だ。単体でも強い」

 

 提督は建造ユニットに歩み寄ると操作を開始した。博士も手伝ったが、特に何も言わない。どうすべきか分かるのだろう

 

 一同は早急に整備と補給に急いだ。摩耶の怪我は、明石の力で完治し、川内も意識を取り戻した。しかし、川内は目が覚めると悔しそうに今まで起こった事を話した

 

「心臓を突き刺しても――死なないだと!」

 

「まるゆ……怖いです」

 

 軍曹は愕然とし、まるゆは後ずさりした。艦娘達も絶句した。自分達は人外である事は理解している。だが、敵は自分達よりも強力だ。化け物に等しい

 

「時雨、お前は未来から来たのは本当なのか?」

 

「うん」

 

長門は川内からの報告を聞いたが、時雨は頷くだけだ。何度も聞いてきたのだから

 

「私はあいつと戦ったのか?退けたのか?」

 

 時雨は何も言わず首を横に振った。未来の戦争で、長門は負けたのだ。圧倒的な力を持つ戦艦ル級改flagshipは、長門の戦意を挫くだけでなく、真っ向から戦って沈めたのだ

 

「そうか……」

 

 時雨の説明を聞いた長門は、悲しそうに呟いた。拳を握りしめただけだ。長門は『艦だった頃の世界』では帝国海軍の象徴でもあった。「陸奥と長門は日本の誇り」と言われた程である

 

艦隊決戦して負けたと聞かされて、どう思ったのだろう?

 

そんな事を気にせずに提督と博士、そして明石は建造ユニットを稼働させる

 

 

 

暫くして4人の艦娘が現れた。戦艦と空母2人ずつだ

 

「航空母艦、赤城です。空母機動部隊を編成するなら、私にお任せくださいませ」

 

「航空母艦、加賀です。……あなたが私達の提督なの? 学生に見せるけどそれなりに期待はしているわ」

 

「英国で産まれた帰国子女の金剛デース!宜しくお願いシマース!」

 

 頼もしい人達が現れる。それぞれ艦娘として召喚した。どれも懐かしい人達。そして、自分が知らない艦娘が現れる

 

「フッ、随分待たせたようだな……。大和型戦艦二番艦、武蔵。参る!」

 

「武蔵さん!?」

 

 時雨は驚愕した。まさか、大和型戦艦が現れるとは思わなかったからだ。長門よりも巨大な主砲塔、46cm三連装砲だ。『艦だった頃の世界』では、世界で最大級の主砲を持つ戦艦である

 

他の艦娘と違い、威圧感がある

 

「武蔵……そうか、お前が」

 

 武蔵は提督と目が合い、提督は唖然としている。何しろ、他の艦娘と違って威圧感があるのだ

 

「で、どういう状況なんだ?」

 

 

 

 時雨と提督は、今までの出来事とタイムスリップについて簡潔明瞭に言った。『艦だった頃の世界』では歴戦であったためか、口を挟まず最後まで説明を聞いていた。時雨のタイムスリップには、何とか話がついていけたらしい。内心では、驚いているだろうが、表情を変えない。しかし、戦艦ル級改flagshipの存在には流石に嫌悪感を抱いた

 

「つまり、私達の相手は、沖合に暴れている深海棲艦よりも元人間で狂った戦艦ル級改flagshipを倒せと言う事か?しかも、強いと?」

 

「情けない話だが、深海棲艦のボスは俺の判断で呼び込ませた。これ以上、浦田社長が深海棲艦を駒に世界を攻撃させないためにな」

 

「しかし、相手は容赦ないようですが」

 

 加賀は指摘したが、全くその通りである。南方棲戦鬼は、陸地に対して主砲を乱射している。施設という施設は徹底的に破壊され、それどころか、周囲の住宅街まで被害が及んでいる

 

「勿論、あいつも倒す。約束を守っていない奴は嫌いだ」

 

「なら、良かったです」

 

加賀は安心したかのように指摘した

 

「戦場に性善説を持ち込まれては困ります」

 

「そこまで腐ってはいない。それに戦艦棲姫も見抜いていた節もあるがな」

 

 提督は思い出していた。戦艦棲姫は、こちらの提案を嘲笑っていたし、最初は断りもした。利害の一致という点で協力したようなものである

 

「しかし、相手は戦艦です。もし、深海棲艦のボスが洗脳を解いたのなら、敵は1人のはず。叩くチャンスです」

 

 赤城は指摘したが、提督は黙った。確かに赤城の言い分は正しい。いくら強力な主砲と防御を持っているからと言って、自分達の戦力で十分である。練度は低くても空母2、戦艦3で一隻の戦艦を倒せるはずである

 

これでも、過剰な戦力だ

 

「……川内、お前は奴が補給していたのを見たらしいな」

 

「そうだよ。後、もう一息だったけど」

 

 提督は考えていた。顎に手を当てながら。思考中の仕草が未来の提督とそっくりだ。時雨は心の中で思った

 

「提督?」

 

「あ、ああ……武蔵。お前の補給はどれくらいだ?」

 

「え?何を――」

 

「どれくらいだ?」

 

「長門の2倍だ。大破すると、その分資源は沢山食う」

 

 武蔵はムッとしたが、淡々と答えた。大型艦は強力な分、補給も大変だ。入渠も時間がかかる。大型艦であるため、当たり前なのだが

 

「おい、嘘だろ」

 

「提督、その言い方は失礼だろ!」

 

「違う!戦艦ル級改flagshipの方だ!アイツは武蔵並の力があるのに、なぜ補給が艦娘よりも少ない!?大型艦だろ!?なのに、補給が少ないって、あり得るのか!」

 

 提督の叫びに全員がハッとした。確かに補給にしてはおかしい。主砲が大和型戦艦よりも大きいのは確認済みだ。修理も資源を武蔵同等かそれ以上なのに……

 

「確かに、少なすぎるよ……よく考えたら……」

 

 川内も思い出したのだろう。補給ワ級はそんなにはいない。2体いたが、彼女等が持っていた資源で補給と修理が出来るのだろうか、と

 

「何てことだ……本当なら……奴は鬼級どころか姫級に進化する可能性がある」

 

「どういう意味ですか?」

 

博士が途方も暮れた声に加賀は反応した

 

「深海棲艦の力の源は、この世界にはない未知の元素だ。その元素は、深海棲艦に様々な力を与える。動力源、弾薬に艦載機。修理も改装も可能じゃ。その元素のお陰で深海棲艦は、戦える状態じゃ。強さ云々は兎も角、補給において完璧なものなのじゃ」

 

「つまり、相手は、その元素というのがあれば常に戦える存在なのか!深海棲艦が大型艦を多数抱えている理由がそれか!」

 

「深海棲艦は艦娘とは違う。艦娘は燃料や弾薬などで補給や修理など出来るが、未知の元素での補給は不可能。深海棲艦からしてみれば代替エネルギーとしか見ておらん」

 

ここまで聞いた時雨は真っ青になった。まさか……

 

「……て、事は浦田結衣は無敵?」

 

「悪用してる時点でその類いになるじゃろう。しかも、さっき新たな艤装が出たと川内が言っておったな」

 

「う……うん」

 

全員の目線が川内に集まったため、川内はどぎまぎしながら頷いた

 

「艦娘は鍛えれば改装が出来る。しかし、深海棲艦も出来る。まさか、戦って強くなるとは……」

 

「何だよ、それ!完全に化け物だろ!」

 

提督は唖然とした。提督ではない、

 

その場にいた艦娘全員もだ。まさか、ここまで化け物とは思いもしなかった

 

「親父、答えてくれ!いくら弾薬補充出来るからと言って未来兵器まで補充されることはないよな!」

 

「多分……しかし……奴が能力を上げたのなら……」

 

 奥歯に物が挟まったような答えに提督は、頭を抱えた。これでは、浦田重工業を倒しても意味がないのではないか!

 

「提督、心配しないでくだサーイ!私達が倒すデース!」

 

「そうだ。私達は未来で沈んだかも知れないが、そう簡単にはやられん!」

 

「ああ、この武蔵もいる。『艦だった頃の世界』では、多く被弾しても浮いていられたのでな」

 

金剛、長門、そして武蔵はそんな事はお構い無しに言う

 

「大丈夫です。未知の敵が来ようと倒して見せます!」

 

「そうです。一航戦の力を敵に見せてやります!」

 

 赤城も加賀も弓を力強く握った。最終的に艦娘全員戦うことにしたことを選んだ。時雨も同様だ

 

「そうか……分かった」

 

提督は不覚にも目が潤むのを覚えた

 

 彼女達は、艦娘である前に日本を守る軍艦なのだ。彼女達は、日本海軍の軍人そのものだ。国を守るための存在。それ以上でもそれ以下でもない

 

 

 

しかし、そんな感動的な事は長くは続かない。上から轟音が聞こえたかと思うと何かが落ちてきた

 

それは――

 

 




おまけ
提督「明石、摩耶がおかしくなった!」
明石「おかしくなったって……どういう意味です?」
提督「多分、銃弾を受けたせいだろう。兎に角、見てくれ!」
明石「分かりました……摩耶、貴方――」
摩耶「カーニバルだよっ!カーニバルだよっ!カーニバルだよっ!」クルクル
提督「実は、誰かが俺達を監視するために作り上げた存在なのかと、心配で心配で」
明石「あー、気にしないで下さい。次話になったら正気に戻りますから」
時雨(ネタをメタ発言で返した?)

おまけ2
金剛「英国で産まれた帰国子女の金剛デース!宜しくお願いシマース!」
提督「金剛……あれ、未来のノートとは容姿が違う。間違いだったのかな?」
金剛「どう書いてあるのですカー?」
提督「黒いドレスを着て、髪は金髪。「めんどうくさい」といつも呟く女性かと」
金剛「それ……別世界の艦だと思いマース……」
時雨「大戦艦だよ、それ」
提督「そうか、間違いだったか」
時雨(楽して勝ちたかったのかな?)

おまけ3
赤城(?)「ようやく会えたね指揮官様。ゆっくりと親睦を深めましょう」
加賀(?)「ここに私を満足させてくれる敵がいるというのか?」
提督「……すまん。けものフレンズの方々は、今すぐ元に居た世界に帰った方がいい。今は戦時だ。悪い事は言わないから危険だぞ」
赤城加賀(アズレン)「「アズールレーン出身です!『フレンズ』ではなくて『KAN-SEN』です!ワザとでしょ!」」
加賀(艦これ)「この人、ここ(後書き)では、こういう性格ですか?」
時雨「うん(大丈夫かな)……」


空から降ってきたのは?
提督達は奪った資源で艦娘が増強。決戦兵器、武蔵登場しました。活躍出来るか?

龍譲が高角砲で砲撃戦したのは、史実ネタ
12.7cm連装高角砲で砲撃戦を始めた挙句、連合軍の哨戒艇を倒したとの事。空母って何だったっけ?

擬人化のゲームやアニメが増えてきましたね。初めて『りっくじあーす』や『蒼き鋼のアルペジオ』などを見た時は、驚きましたが。今では『ドールズフロントライン』をやってはいますが、なぜM134ミニガンが実装されていないのか?とても謎です
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