時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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谷風改丁になっても中破は、足を開く
本人は何も気にはしないのだろうか?


第10章 最終決戦
第96話 連合艦隊出撃


 東京湾はある者同士が戦っていた。深海棲艦のボスである南方棲戦鬼とその座を奪おうとして攻撃してくる戦艦ル級改flagshipである

 

巨弾が飛び交い、下級である深海棲艦も巻き添えを食らったが、大部分は2人の戦いから離れた。それでも被害は大きく、海岸にも着弾した。巨弾は地面を抉り、クレーターを創る。隠れていた浦田兵も撤退し遠くから眺めていた陸軍の地上部隊や海軍の陸戦隊は怯えながら二つの戦いを眺めていた

 

そんな戦いも終わりを迎えようとしている。南方棲戦鬼は艦載機を飛ばし、砲撃しながら隙を見て雷撃を行った。しかし、これだけ攻撃を繰り出しても南方棲戦鬼の表情は、険しくなるばかりだ。なぜなら、南方棲戦鬼が苦戦しているからだ

 

「貴様、ソノ能力……」

 

「そうだ。戦艦レ級から奪った能力だ。助かるよ」

 

 南方棲戦鬼は怒り目の前の敵を撃沈させたい所だが、苦戦しているためどうしようもない。仲間を呼んだが、来るまで時間がかかる

 

「いいぞ。デメリット無シニ戦艦ノ他ノ能力ヲ加エル事ガ出来ルトハ」

 

「コイツ!」

 

「ドウシタ?人間ヨリモ素晴ラシイ生命体ナンダロ?戦艦棲姫カラ習ッタ。人間は愚かだと。争いが全くない平和な世界すら築きも出来ないと。だから、私はこの世界の頂点に立つ。お前の力は私の足元にも及ばない」

 

「私ヲ舐メルナヨ」

 

 だが、南方棲戦鬼は自分の劣勢が覆せないのはわかっていた。己の艦載機は片っ端から撃ち落とされ、相手から見たこともない攻撃を受けている。飛べる艦載機は無く、艤装は破壊され射撃管制もやられた

 

「ル級ノ癖ニ……艦載機ヲ使ウトハ」

 

 南方棲戦鬼は空に飛んでいる飛行物体を睨んだ。上空には黒く塗り立てられたものが空を飛んでいる。深海棲艦のものではない。しかし、結衣から放たれた艦載機は、異様なものであった

 

 円盤状のような航空機。通常の航空機とは思えない機動を繰り出し、スピードもそれなりにある。とても強く、コイツらのお陰でこちらの艦載機はバタバタと撃ち落され制空権を奪われた

 

護衛要塞も撃破され、砲雷撃戦も苦戦を強いられている。火力が違い過ぎる

 

「私ハ…モウ…ヤラレハシナイ!」

 

南方棲戦鬼は、歯を食いしばりながら戦艦ル級改flagshipに攻撃を加えた。魚雷も艦載機もない。残るのはボロボロになった装甲と主砲である。しかし、いずれ弾は尽き装甲も砕けるだろう。最後まで戦うつもりだ

 

(クッ!コンナ所デ沈ミハシナイ!)

 

 南方棲戦鬼は最後の力を振り絞って引き金を引いた。主砲が火を吹き、木枯らしのような飛翔音を立てながら戦艦ル級改flagshipに向かった。戦艦ル級改flagshipはニヤリと笑った。浦田結衣は余裕の表情をしているのを見ると本気で戦っていないらしい

 

 

 

 一方、時雨達の艦娘は、出撃準備に入った。練度も高くなく、いきなり実戦である。中破大破した艦娘もいたので、高速修復剤で済ませた。入渠の方がいいが、時間がかかるためそんな悠長な事を言ってられない。しかし、数は限られていたため、天龍と龍田、そして鳥海に使う事にした。一方、博士は装備の開発だけでも、と工廠妖精と共に開発していた。艦載機だけは何とか最新のものを揃える事が出来た

 

「烈風……知らない子ですね」

 

「そりゃ、平行世界では未完成だったからのう」

 

 太平洋戦争では、零戦の後継機である烈風は、間に合わなかった。しかし、仮に間に合ったとしても戦況は覆せなかっただろう。米軍もF8Fという機体を開発していたのだから

 

 戦艦の砲弾は九一式徹甲弾しか開発出来なかったが、戦艦の数はこちらが多い。命中させるためには、着弾観測が必要がある。観測機を飛ばすためには、制空権を取らなければならない。そのためには、空母が必要だ

 

 戦艦ル級改flagshipは艦載機搭載能力はないが、空母ヲ級を操る可能性がある。零戦でもいいかも知れないが、妖精が開発した兵器は、例え間に合わなかった兵器でも再現が可能である。整備もバッチリで燃料もハイオクガソリンを使っている。そのため、『艦だった頃の世界』においても、戦後アメリカは本国に持ち帰った零戦や紫電改などにオクタンが高いガソリンを入れて飛ばしたところ、グラマンF6Fに劣らない性能を発揮し、舌を巻かせたと言う実話があったという

 

 勿論、『平行世界』の日本の工業力では、オクタン価が高いガソリンを精製出来ず、戦争の中盤以降には松根油を使って飛ばす始末である。航空機の場合、入れる燃料にも左右されるのだからたまったものではない。しかし、今は『艦だった頃の世界』である環境ではないため、こういった課題はクリアしていた

 

 

「突貫工事で装備を揃えたが、まだまだ不十分だ。しかし、くつろぐ暇はない。相手は悪魔だ。ここで奴を仕止めるぞ!」

 

 提督は艦娘達に激励を送った。霧島達のように返り討ちにあうかも知れない。しかし、奴をここで取り逃がしたら被害は広がるだろう

 

「奴は艦娘を……いや、この世界諸共、嫌っている。止められるのはお前たちだけだ」

 

「ああ!武蔵の仇は取ってやる」

 

 長門は拳を握りながら吠えた、実際は死んではいないのだが、武蔵は出撃不可能だった。提督を始め、他の艦娘も指摘しなかった

 

「敵の強さが見えない。隠し持っている可能性がある」

 

「どういう意味です?」

 

 赤城は質問した。空母、いや、航空機が戦艦を仕留めるのは簡単である。『艦だった頃の世界』でもマレー沖海戦で実施したのだ

 

「赤城さん……僕はあの戦艦ル級改flagshipがよく分からない。未来世界でもあそこまで強くなかった」

 

「それにあいつは進化している。時雨が知っている戦艦ル級改flagshipは、いない」

 

時雨とさっきまで戦った川内が提督の代わりに答えた

 

「だが、恐れる必要はない。浦田重工業という未来技術は、もう無いだろう。切り札として持っている可能性は否定できないが、数に限りがあるはずだ」

 

 提督の言っている事は正しい。ジェット機やミサイルなどの現代兵器は、確かに強力だ。しかし、これらの兵器は通信をはじめとする複雑なサポートシステムや兵站がないと稼働しない。ユニットを創るにしても一朝一夕に作り上げるのは出来ない。浦田重工業は中古でお手ごろなシステムを使う事で、この難点を克服した。戦術や軍事面は、一等空尉のお蔭で欠点を浮き彫りにしたらしいが

 

 ……だが、浦田結衣はどうなのか?浦田社長と違って現場の人間である。未来でも、それなりに抵抗する艦娘と戦っていたのだ

 

「元帥の話によると、東京湾の湾口付近にて空母型の深海棲艦のボスを倒したらしい。そして、湾内にいるボスに向かっている。……奴が何も考えもせずに戦いに挑んでいるとは思えない!奴を湾内から出させるな!資源は気にするな!アイツをぶちのめして来い!」

 

 鹵獲した資源は豊富だが、建造や入渠のために現在は半分だ。提督はあるもの全て使ってでも奴を倒そうとしているらしい

 

「心配いりません。鎧袖一触よ」

 

 加賀は沈着冷静な性格だ。しかし、時雨は内心ではどう思っているのだろう?時雨が経験した未来の戦争について話したが、話し終えるまで誰も口を挟まなかった。加賀や瑞鶴などの空母組は、敵の航空機が強すぎたためにほとんど出撃しなかった。赤城が沈み、翔鶴を失い墓の前で茫然自失になって一日中座り込んでいる瑞鶴を支えていたと語ると、加賀は「そう……」と言っただけだ。内心では、驚いているだろう。悲惨な事になるとは思っていなかっただろう

 

「連合艦隊、出撃します!」

 

 空母組の赤城、加賀。戦艦の長門と金剛。重巡である摩耶と鳥海。軽巡川内と天龍。駆逐艦の時雨、吹雪、不知火である。他の者は予備要員となった。龍譲は回復したが、身体の事を考え予備要員となった。全員無傷で戦闘に勝つことは旗艦は長門が取る事になった

 

時雨が旗艦の方がいいのでは、という声もあったが、時雨はこの案を降りた。

 

 皆が出撃する前に誰かが声をかけた。その誰かは理解していた。未来の提督だ。声がした方向に振り向くと、未来の提督がいた

 

 他の者は見えないのだろう。準備したり、仲間と話したりしている。提督や博士すら気づいていない

 

「時雨、大丈夫か?」

 

「まだ、いるとは思わなかった」

 

 時雨は怪しまれないように小声で返事した。頭が可笑しくなって出撃しない、と思われては大変だ

 

「提督……超人計画は、先祖の人達は浦田社長のように野望を持っていたのかな?」

 

「装備の最終チェックしろ。不具合で起動出来なかったとなれば、笑えないからな」

 

 時雨は直ぐに装備チェックした。うん、不具合はない。武器は全て稼働するとは限らない。何かしら不具合で事故があるのは、よくある話だ

 

「お前は立派だ」

 

未来の提督の悲しげな言葉に時雨は手を止めた

 

「拷問部屋で浦田結衣が言っていた。戦争がある限り、兵器は存在する。確かにその通りだ。人は力を得ると、傲慢になり、他所を征服しようとする」

 

時雨は何も言わない。戦艦ル級改flagship……浦田結衣が言っていた

 

「だが、お前は人の心がある。もっと学ばせたかった。お前達が社会の中で生きていける……共存するため」

 

 提督は戦後の事まで考えていたようだ。しかし、その望みは当分ないだろう。仕方ないとはいえ、ワームホールを開き深海棲艦の鬼・姫級を呼び寄せたのだから

 

「僕はどうすればいいの?」

 

「強く生きるんだ。何もかも絶望せず。希望を持て」

 

未来の提督は相変わらず優しかった。遠くに提督がいるが、気付いていない。いや、時雨以外見えないだろう

 

「もう会うことは無いだろう。忘れるな。歴史が変わる現象がある。どんなことがあっても、遂行するんだ」

 

「うん」

 

 時雨は覚悟を決めていた。『艦だった頃の世界』では、西村艦隊は、己自身を除いて全滅した

 

「アカシックレコードでは、この時間軸の結末がどうなるかはなかった。我々が干渉したお蔭で未来予測は不明。どうなるかは分からない」

 

「でも、浦田結衣を東京湾に逃がすと不味い」

 

「そうだ。奴はまだ諦めないつもりだ。深海棲艦の女王になる可能性がある。それだけは止めないと」

 

時雨はいつでも出撃できる。皆も同じだ。海岸に並んで出撃態勢を取った

 

「そう言えば、時雨は何をブツブツと独り言を言っていたのですか?」

 

「ちょっと自問自答していた」

 

 隣に居た不知火が聞いてきたが、時雨ははぐらかした。近くに未来の提督が居る事なんて知らない。時雨以外、見えないからだ

 

「俺はもう死人だ。だが、俺の過去なら出来る。学ばせてくれるはずだ」

 

 未来の提督は時雨に向かって言って来た。誰も聞こえないだろう。長門が激励の言葉を投げていたが、誰も未来の提督に気付いていない

 

「でも、僕達のために指揮を取っていた」

 

「いや、俺の最終目的は艦娘と人の共存だ。2つの種族の架け橋になるようにと思ってな。現実は厳しいが、夢くらい持ってもいいはずだ」

 

未来の提督が言うと同時に長門は出撃するよう命じた。抜錨だ

 

「皆……大丈夫かな?未来の戦争みたいに……」

 

 ほんの少しだけ恐怖を覚えた。未来兵器は破壊したはずだ。だが、浦田結衣の能力は不明だ。『生命の樹』が見せたビジョンのようになるのは……

 

「心配するな。これは未来の戦争ではない。ハイテク兵器が存在する平行世界ではない」

 

「時雨、お前どうしたんだよ!皆、待っているぞ!」

 

 時雨は我に返ると、時雨以外の艦娘は既に海面に居た。時雨がまだ海の上に居ない事に気付いた天龍が、声を掛けたのだ

 

「生き生きとした艦娘を見送ったのは佐世保以来だ……お前なら救える。仲間も過去の俺も世界も」

 

時雨は静かに海に出た。もう迷わない。これが最後のチャンスだ

 

「さあ、行くんだ!ケリを付けて来い!」

 

「時雨、行くよ!」

 

 時雨は仲間と合流すると、直ぐに目的地に向けて舵を取った。誰も話さない。敵は強い。奪った資源もこの戦いで底をつくだろう。しかし、次は無い

 

「絶対に負けない!」

 

時雨は力強く言い聞かせた。侵略者に負けてたまるか!

 

 

 

 艦娘達が編隊を組んで出撃する様子を地上から戦艦棲姫が見ていた。時雨や提督達がいた場所から離れているため出会う事はなかった。そして、航行している艦娘達もこちらの存在に気づかれていない。尤も、相手はこちらを相手する暇はないだろうが

 

 港湾棲姫だけでなく、かつての仲間を救った。ミイラ化した仲間に命を再び吹き込むことは可能だ。地球にはない物質のお陰で、遺体になろうが、甦る事は出来る。流石に遺体が木っ端微塵に吹き飛ばされては無理だが

 

 兎に角、戦艦レ級も重巡棲姫も駆逐古姫もエネルギーを与え肉体再生に成功した。まだ目を覚まさないが、それも時間の問題だ。聞きたい事が山ほどあるので、まだ出港する訳にも行かない

 

 寝ている三人は、怪物艤装に運ばせて地上に出た。港湾棲姫も北方棲姫の手を借りながら何とか自力で歩いた。北方棲艦と違い、長い間捕まっていたのだから無理もない

 

「ドウシタノ?」

 

「アレガ艦娘……人類ヲ守ル存在……」

 

 戦艦棲姫の動きが止まったことに港湾棲姫は聞いた。帰って来た返事は、僅かながら不愉快な返答だった。研究施設で見つけた超人計画……その亜種とも言える計画で艦娘は生まれた。自分達の技術を利用して生まれた存在。そして、人間に近い

 

「アイツラハ私ガ倒ス」

 

「可哀想ダヨ。助ケテクレタノニ」

 

 北方棲姫は不意に口にした。相手が北方棲姫であったこともあり、戦艦棲姫は反論しなかった

 

「ソレハ甘イ考エダ。アイツラヲ助ヨウトハ思ワナイ。助ケルト後悔スル。オ前ニモイズレ分カル」

 

 戦艦棲姫は相手の事もあり、余り強い口調で言わなかった。北方棲姫に難しい理論を言っても分からないだろう

 

 しかし、港湾棲姫はそうは思わなかった。戦艦ル級改flagshipは、自分が知る能力ではない。段々と脅威になっていている。現に南方棲戦鬼から発している救難信号を受信していた。軽巡棲姫は仲間を呼んで現場に急行している。しかし、戦艦棲姫は南方棲戦鬼を助けるだけだとテレパシーを使って命じた。浦田結衣である戦艦ル級改flagshipは艦娘達が倒してくれる。自分達の代わりに倒してくれる。戦艦棲姫は勝手に戦って双方自滅した方が嬉しい。例え浦田結衣が勝っても、戦いで疲弊しているはずでトドメを刺せるはずだ。だが、戦艦棲姫は楽観しているのではと港湾棲姫は思うようになった。人類や艦娘を嫌うのはいいが、その考えのお蔭で酷い目に合っている事を忘れている

 

 港湾棲姫は以上の事を踏まえて指摘しようもしたが、決意を揺るがない戦艦棲姫を見て、止めておいた。話し合っても無駄である

 

 そうだ。これは人類の過ちであり、人類の問題なのだ。こちらに害をなさない限り深海棲艦である私達が、首を突っ込む必要はない、と

 

 そう考えると、海岸で待っている空母棲鬼と離島棲鬼に向けて歩いた。今は、こんな場所から逃げる事が優先だ

 

 勿論、港湾棲姫も深くは考えずに浦田結衣の存在を楽観はしていた。多数の鬼・姫級がこの世界にやって来た事も合ったらしい。現に浦田重工業を壊滅させる事に成功した。所詮、敵は1人だ。補給も修理も限られているはずで、いくら深海棲艦の力を手にしたと言っても限界はある。深海棲艦は無敵ではない。南方棲戦鬼は苦戦しているだろうが、結局は押して勝てるはずである

 

 そう……戦艦ル級改flagshipが普通であればどんなに良かった事か……

 




話があまり進まないのは戦いの前兆でもある……

ここからは第10章となります
後に付け加えておきます
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