月の兎は何を見て跳ねる   作:よっしゅん

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気が付けばそろそろ一年経つんですねこの小説。
何か時の流れが早い気が……


第23話

 

 

 

 

 

 

 

 ■■が死んだらしい。

 寿命だとか、病気なんかではなく、交通事故だったらしい。

 そう、らしいというのは、実際に見た訳ではないからだ。

 

 しかし死んだという事実は、今しがた理解した。

 だって、目の前で■■が火葬されているから。

 

 ■■の親と少し話した。

 どうやら■■は事故に遭う前、友達と一緒にある場所に向かおうとしていたらしい。

 しかしその友達は偶々その日、風邪を引いてしまっていて、■■と一緒に行く事が出来なかった。

 だから■■は仕方なく、一人で行こうとした。

 そして事故に遭った。

 

 その事も本当は知っていた。

 だって■■の友達とは、他でもない『私』なのだから。

 

 私が風邪を引かなければ、一緒に行くことが出来ていれば、こんな事にはならなのかったかもしれない。

 もしくは私も一緒に死んで、こんな悲しい気持ちにならずに楽になれたのかもしれない。

 

 つまり■■を一人で死なせてしまったのは、私のせい?

 そうなのだろうか、いやそうなのだろう。

 

 ■■、嗚呼■■……私の唯一の親友。

 きっと■■は私を怨んでいるのだろう。

 私は■■から沢山のことを教わった、しかし私から■■にしてあげれた事なんてなに一つない。

 そんな役立たずな私のせいで、■■は死んでしまった。

 怨まれ、憎まれ、憎悪されたってそれは仕方のない事だ。

 

 どうしたら私は償えるのだろうか?

 できるのなら、私は償いたい。

 

 でもどうやって?

 どうやって、どうやって、どうやって、どうやって?

 答えを探しているうちに、気が付けば私は……

 

 見知らぬ場所、見知らぬ時間、見知らぬ世界……見知らぬ『私』になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つっ……!?」

 

 まるで頭を鈍器で殴られたかのような、そんな痛みで意識が覚醒した。

 

「ぐっ……げほっ、げほっ!」

 

 次に襲ってきたのは強烈な吐き気。

 思わず寝ていた身体を起こして、必死に吐き気を堪える。

 

 変な夢だった、全く覚えのない景色に出来事、それなのにまるで自分がそれを体験したかのような気分になっていた。

 それがとてつもなく不愉快で、気持ち悪かった。

 

「……蓮子、蓮子は?」

 

 ここが何処なのか、何故私は寝ていたのかなんて気にならなかった。

 気が付けば私は親友の姿を探していた。

 さっき見た夢のせいなのかは知らないが、何だか不安な気持ちでいっぱいだった。

 

「蓮子……」

 

 近くに彼女はいない。

 なら探しに行こう。

 見知らぬ襖を開け、見知らぬ景色を視界に収めながら縁側を歩く。

 

 すると視界の先に人影が見えた。

 

「蓮子……!」

 

 まるで怖い夢を見た後の子供のようだった。

 いや、実際今の私はその通りなのだろう。

 とにかく不安で不安で、それを拭いたくて仕方がなかった。

 

 私はその人影に駆け寄り、力一杯抱きしめた。

 人肌を感じたかった、安心したかった。

 

 

 

 

 

「……怖い夢でも見たのかい?」

 

 そんな声が聞こえた。

 まるで母親が自分の子供に優しく話しかけるような、温かくて、柔らかい声だった。

 

「でも大丈夫、今の状況そのものがあなたにとっては夢みたいなもの。夢から覚めればそれは全て夢の中の出来事になる……だから怖くて不安なのは今だけ」

 

 そして私の頭に手を乗せたのだろう、そのまま愛でるように撫でられた。

 それがとても心地良かった。

 

「もう少し眠りな、まだ朝の四時前……朝食の準備はまだ先になるし。眠れないなら子守唄でも唄おうか? それとも添い寝? 私の知る小むす……子供はそれでよく眠ったりしてたけど、君はどうかな? あ、それとも寝る前のトイレが先かな?」

 

 ……と、突然の口調の変化というか、軽口を言い始めた事に驚きようやく寝ぼけていた脳が覚醒した。

 蓮子じゃない、一体誰だ、というかここはどこだ、私は一体何をしているのだ。

 

「ん、トイレは平気なのかな? じゃあお休みの時間だ」

 

 そして顔を上げた私の視界に入ってきたのは、綺麗な真紅の瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 目が覚めた、そして視界には見知らぬ天井。

 

『おはようございます』

 

 そして枕元には、正座した兎の耳を付けた女性が……はて、私は知らぬ間に変なお店にでも迷い込んでしまったのだろうか。

 

「……って違う、私は確か……!」

 

 覚醒しきった脳を高速で回転させ、今までの記憶を呼び覚ます。

 そして慌てて飛び起きようとした途端、片腕と片足に微かな痛みを感じた。

 

『落ち着いて、折角塞いだ傷が開いちゃう。筋肉とか神経は断裂してなかったし、傷も綺麗に塞がるはずだから、痛いのは今だけ』

 

「え……あ、はい……」

 

 すると嘘みたいに、動転していた気持ちが急に落ち着いた。

 チラリと自分の体を確認してみると、左腕と右脚に真っ白な包帯が巻かれていた。

 それを意識すると、ほんの少しだけ痛みが増したので、今後は意識化に入れないようにする。

 

「それで……えっと、ここは何処というか、貴女は……?」

 

 何処かで……というか今さっきまで言葉を交わしていたような。

 しかしまるでノイズが走るかのように、頭の靄は晴れず記憶がしっかりと再生されない。

 

「……そういえば、蓮子は」

 

 何処にいるのかと、声に出そうとした瞬間、部屋の襖が思いっきり開かれた。

 

「メリィィィィィィ! 生きてる!?」

 

 そして謎の奇声をあげた彼女が、部屋の中へと飛び込んで来た。

 

「生きてる、生きてるよね!? 本当に良かった、そして私の話を聞いてくれメリー、ここには何と世にも珍しい妖怪が沢山いるらしくてね、昨日も本物の鬼とか天狗に会ったんだよ本当だよ」

 

「ちょ……落ち着いて!」

 

 ダメだ、こうなった彼女は爆走する車と変わらない。

 というかこんなにも彼女が興奮するなんて珍しいことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、ここは私の夢の世界とかじゃなくて、実際に実在している別の世界ってこと?」

 

「だからさっきから何度もそう言ってるじゃないか」

 

「…………」

 

 そんな事ありえない、なんて言葉は今更言えるはずがなかった。

 なにせ現にこうして現実的な怪我をしていて、この痛さが夢だとは到底思えない。

 

「そんなに不思議かしら? 外の世界の人間達はもう幻想を抱く余裕すらないの?」

 

「人間っていうのは、理解できないものは怖いと思うのよ……そして理解してしまえば完全にそれを現実のものとして認識してしまう生き物なの。だから非科学的なモノを現実的にしようとする、怖いものから目を背けたいがためにね」

 

『何か悲しいですね』

 

 そしてさらに、私と蓮子の目の前には不可思議な人達が現にこうして存在している。

 絶対に死なない不老不死と、お伽話にしか出てこないはずのかぐや姫、それと兎人間……明らかに異質な存在だ。

 

「……はぁ、まぁこの際というか、認めざるを得ないというか……何でこんな事になったのかしら」

 

「おいおいメリー、何でそこでしょげるのさ。世の摩訶不思議を体験するためのサークルとしては、これまでにない貴重な体験……あ、でもそんな大怪我をしたんだから嫌になって当然だよね……」

 

「べ、別にそういうわけじゃないわよ……」

 

「ほんと? じゃあメリーもテンション上げてこう! そしてこんな素晴らしい世界に連れて行ってくれたメリーに感謝を! そうだ結婚しよう!」

 

「何でそうなるのよ……」

 

 自分から舞い上がっておいて、いきなり下げるのはやめてほしいものだ。

 かといってフォローを入れるとすぐに調子乗る……そこが彼女の魅力なのかもしれないが。

 

「いいわねー、青春してるわね貴女達……ねぇ永琳、あなたも見習ったら?」

 

「は? いきなり何を言いだすのよ……」

 

「とぼけちゃって、そんな永琳も可愛いと思わない鈴仙?」

 

『ん? まぁ師匠はいつも可愛いと思いますが』

 

「は、はぁ!? か、可愛い……!?」

 

 と、何やらあちらの方も騒がしくなってきた。

 どうやらあの銀髪の人、色々と苦労してそうだ。

 

「と、とにかく! これからどうするのよ、この子達をいつまでも此処で預かっておくわけにもいかないでしょ」

 

「逸らしたわね永琳」

 

「うるさい!」

 

 あ、ついに銀髪の人が黒髪の人に躍り掛かった。

 冷静かつ知的なイメージな人だったが、意外と簡単に揺れ動いてしまうようだ。

 

『……とりあえず師匠の言ってることは正しいんだよね。どうするこれから』

 

「どうすると言われても……」

 

 落ち着いてきたとはいえ、未だ頭の中は混乱している。

 

『選択肢は大きく分けて二つ、幻想郷(ここ)に永住するか、元の世界へ帰るか。それだけの話だよ』

 

「え、帰れるの?」

 

『うん、ここの巫女さんに頼めば普通に帰れるらしいよ』

 

 ……何だろう、てっきり簡単には帰れないと思っていたのだが。

 

「……蓮子はどうしたい?」

 

「ん? 私はメリーと一緒なら何処だっていいよ」

 

 意外だ、彼女のことだからこちらの世界に一生住みたいとか言い出すかと思ったのだが。

 

「私は……」

 

 どうしたいのか、少し迷ったが答えは案外すんなりとでた。

 

「私は帰りたい……やっぱり元いた世界の方が住み慣れてるし、それに……なんだか私はここにいちゃいけない、そんな気がするの」

 

 ただ本当にそれだけの理由だった。

 

『……そう、じゃあ行こうか。博麗神社に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまぁ意気揚々と二人を連れ博麗神社へと向かったのだが……

 

『別にこの外来人達を帰すのは構わないけど、じゃあ今すぐ帰しまーすってわけにはいかないのよ。悪いけど、色々と準備しなくちゃいけないから明日また来なさい。というか何の冗談? そこの金髪の顔どっかで見た事あるような面なんだけど……まぁ私には関係ないか。ほら賽銭の一つでもしてとっとと帰りなさい、掃除の邪魔よ』

 

 と、何故かメリーちゃんを見るなり不機嫌になった霊夢ちゃんに一蹴されて結局引き返してきてしまった。

 

「うぅ……あの巫女の人なんかずっと私を睨んでたんだけど」

 

「なんでだろうねー、メリーが可愛い過ぎたとか?」

 

 というわけであと一日、この二人を永遠亭に泊める事にした。

 

「そういえば、レポートの提出っていつまでだったかしら」

 

「……やめようメリー、こんな時にまで現実の事を直視するのは」

 

 二人とも最初は困惑の色を示していたが、帰れるとわかったため少し余裕が出てきたのだろう。

 二人の顔にはいつのまにか笑顔があった。

 

(……さて、問題がまだ一つ残ってるんだよね)

 

 少女メリーの傷はそこまで大したものではなかった。

 何より師匠が措置したのだ、数日で傷跡なんて残らないくらい完治するだろう。

 しかし、いくら傷が浅かろうが傷は傷だ。

 そこには明確な敵意があって、しかもその犯人はおそらく未だにメリーを狙っているだろう。

 

 理由は知らない。

 知るつもりもない。

 しかし止めねばならない。

 だって彼女は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風の騒めく音と、獣の遠吠えが奇妙な共鳴を起こす。

 そんな雑音なのかもわからない音を耳にしつつ、迷いの竹林の象徴ともいえる大きな竹藪を背に、私は竹林の中にある大きな屋敷を見つめる。

 

「…………マエリベリー・ハーン」

 

 憎むべき人間の名を口に出す。

 狙いはマエリベリー・ハーンのみ。

 一回目の時は邪魔が入ったが、今回は迅速に仕留める。

 明日になれば博麗霊夢の手によって彼女達は元の世界へと返される。

 そうなってからでは遅い。

 だから今このタイミングで、マエリベリー・ハーンの命を断ち、私は……

 

「私は、彼女を救う……」

 

「ふーん、『自分』を殺してでも? それが最善の策なのかい?」

 

 声がした。

 知らない声だ。

 しかしこの声を私は『知っている』気がする。

 けれどやはり聞いたことのない声だ。

 

「……誰かしら?」

 

「別に私が何者でも良いじゃないか、少なくとも私はあんたの事を知ってるし、一応面識もあるよ……『八雲紫』」

 

 声は背後からした。

 それに気が付いた私はすぐさま振り向いた。

 

「…………?」

 

「ん? そんなに見つめないでくれよ、恥ずかしい」

 

 しかしどうした事だろうか。

 確かに私の背後には、声の主がいた。

 けれども、その姿を認識する事が出来なかった。

 人型という事はわかるが、それ以外は全くわからない。

 まるで靄がかかっているかのように、顔どころか輪郭すらもわからなかった。

 

「あなた……何者?」

 

「あぁ悪いな、今はまだ名乗るわけにも正体を明かすわけにもいかないんだ……だってつまらなくなっちゃうし、ここまで我慢してきたんだ。もうちょっと『今の状況』を楽しんでいたいんだよ」

 

 揶揄い甲斐があるしな、と付け足してそれはクツクツと笑い出す。

 言っている意味はわからないし、特に知ろうとする事もしない……が、それとは別に疑問がある。

 

「……さっき『自分を殺してでも』って言ったわよね? まさかあなた、私のこと知ってるの?」

 

「いや、全部は知らないよ。八雲紫が今までどんな生を歩んできたのか、何をしてきたなんて私は全く知らない。けど、マエリベリー・ハーンと八雲紫は『同じ』って事は分かる」

 

 同じ、その言葉を聞いて私は少なからず動揺した。

 まさか……本当に私の『正体』をコイツは知っている?

 

「一つ教えてあげる、生物に限らず万物にはある共通点がある……形あるものには全て『波』があってな、分かりやすく言うと『波長』って言うんだ」

 

 人影は何処から取り出したのか、煙管のようなものを取り出して煙を吹かし始めた。

 

「そして波長っていうのは、全て違う形をしている。雪の結晶のように、全く同じっていう事はあり得ないんだ。けど……八雲紫とマエリベリー・ハーンという人間を構成している波長は似通っている……というより全く同じなんだ」

 

 夜の竹藪に煙が充満していく。

 煙は霧と混じって、空中をただ彷徨う。

 

「つまり、八雲紫とマエリベリー・ハーンは同じなんだ。八雲紫にとってあのマエリベリー・ハーンとは自分であり、過去か未来の存在、又は並行世界(パラレル)の自分という結論に至る……何か間違ってるところは?」

 

「…………いえ、その通りよ。アレは私、正確には過去か(パラレル)の私ね……未熟で、何も分かっていない頃の私、つまらない人間よ」

 

 思わず苦笑いが出た。

 まるで黒歴史をそのまま直視しているようで、何とも言えない奇妙な感じがする。

 

「……それで、あなたは何をしに? まさか私の邪魔をしに来たのかしら」

 

 確かに人を殺めるという行為は褒められたものではない。

 しかし此方にも事情があり、引けない理由がある。

 例えどんなに非難されようが、私は(メリー)を殺す。

 そして彼女……何よりも大切な友人(蓮子)を救う。

 

 例えあの蓮子が別の世界の……私の知らない蓮子でも構わない。

 違う存在だろうが、私にとっては大切な友人だ。

 

 そして彼女の側に(メリー)は必要ない。

 むしろいるだけで彼女に危険を招く存在だ。

 だから殺す、排除する。

 ただそれだけの理由だ。

 それを邪魔しようとするモノがいるなら、何であろうと取り除いてみせる。

 

「いや、別に邪魔をするつもりはないよ。本気で殺したいと思っているなら、その感情の赴くまま殺せばいい」

 

「は?」

 

 しかし、ソレは予想外の答えを出してきた。

 

「うん、『本気』でそう思ってるなら部外者の私にそれを止める権利はない。けど八雲紫……あんたは『迷ってる』じゃないか、だから止めに来たというより、忠告しに来たってところかな」

 

「迷ってる……私が?」

 

 一体何に対して迷っているというのか。

 

「そう、迷ってる。その憎しみは本物だとしても、殺意は偽物だ。ただ見栄を張っているだけの、見せ掛けのモノ」

 

「偽物? 冗談言わないで、私は本気で……!」

 

「本気で殺したいと? けど実際に『殺せてない』じゃないか。チャンスはいくらでもあった、そもそもあんたなら最初にあの二人を襲った時に一瞬で首を跳ねる事だって出来るはずだ」

 

「え……あ」

 

 ぐらり、と視界が揺れた気がした。

 確かにおかしい、どうして私はあの時、遠距離からの狙撃で彼女を仕留めようとしたのか。

 他にもやりようはあったし、より確実な方法が絶対にあった筈だ。

 それをどうして……私は。

 

「簡単な話だ、単にあんたは『殺したい程自分(メリー)が憎いけど、殺したくない』ってだけだったんだよ……その理由は誰よりも八雲紫自身が知ってる筈だ」

 

「わたし……が?」

 

 目眩がする、頭がよく回らない、まるで内側から溶岩が吹き出ようとしているかのように身体が熱い。

 

「私……(メリー)が居たら彼女は、蓮子はきっと幸せになれない」

 

 気が付けば思考を置き去りにして、私の口は勝手に動き出した。

 

「だから、手遅れになる前に……私と同じ結末をあの二人が辿らないように、引き離さなきゃ……」

 

 人影は私の独り言をただ黙って聞く。

 

「…………あぁでも」

 

 そして私の頬を、静かに透明な液体が流れていく。

 

「一緒に居たい、例え何が起ころうと私は……蓮子と一緒に居たい! だって、だって……」

 

 私は、マエリベリー・ハーン(八雲紫)は宇佐美蓮子の事を『愛しているから』。

 

 本当は嬉しかった。

 例え違う私と彼女でも、メリーと蓮子という人間が一緒に居て、共に笑い合ったり、冗談を言い合ったり、走ったりしているその光景が、何よりも嬉しくて、少し嫉妬した。

 

 けど、かつて私が蓮子を失った日のような惨劇があの二人にも起きる可能性があるのなら、私はそれをどうしても止めたかった。

 その想いを、私はわかりやすい『殺意』で表そうとした。

 

「なんて……馬鹿なんでしょうね、私は」

 

「そうでもないよ、ただ『感情』っていうのはそれだけ厄介なモノなだけさ……さて、迷いは晴れたかな? じゃあ私から最後に、一つお節介を」

 

「え……何を」

 

 何をしようとするのか、訊ねようと顔を上げると、そこにはまるで最初から誰も居なかったかのように、人影は影も形も残さず消え去っていた。

 

「メリー? そこにいるのはメリーかい?」

 

 ……そして心臓がドキリと跳ねた。

 人影の代わりのように、その声の持ち主は現れた。

 

「……蓮子」

 

「あ、やっぱり『メリー』じゃないか。どうしたのこんな時間にこんな所で? さては私と同じく『何となく外の空気が吸いたくなった』とか? いやー、私たち以心伝心、一蓮托生だね」

 

 そこに現れたのは別の私と一緒に来た蓮子だった。

 彼女は私の知っている蓮子と変わらぬ笑顔で、楽しそうに語り始める。

 

「けどダメじゃないか、怪我もしてるし、メリーを狙った輩がまだこの辺にいるかとしれないんだよ? ……あ、でもこの辺には結界だとか何とかが張ってあるから大丈夫だって兎のお姉さんが言ってたっけ。なら平気かな、いやー流石はファンタジー世界、結界とかカッコいいね」

 

 ……これは一体どうした事だろうか。

 彼女は私の事をメリーと認識している、いくら同じ存在といえど、格好が全く違うのだから間違える筈が……

 

「どうしたのメリー、私の顔に何か付いてる?」

 

「え……あ、別に何でもないわ……よ」

 

 ……もしや、あの人影が何か細工をしたのだろうか。

 幻術か何かで、私の姿をメリーに見せてるとか……

 

「そう? なら良いけどさ、それよりメリー。この前出た課題何処までやった?」

 

「か、課題? あ、えと、まだ……全然よ」

 

「じゃあ帰ったら一緒にやろう、二人でやればすぐ終わるさ」

 

「……そう、ね」

 

 懐かしいやり取りだった。

 私もかつては、こんな他愛のない会話を彼女とよくしていた。

 

「……メリー? え、何で急に泣いて!? 傷口が痛むのかい!?」

 

「いえ……違うの、何でもないわ」

 

 ……あぁそうだ、この際だから聞いておくとしよう。

 さっきまでの私だったら、きっと怖くて聞けなかった質問だ。

 けど不思議と、今なら聞ける気がした。

 

「ねぇ蓮子、私は……マエリベリー・ハーンは貴女の側にずっと居てもいい人間?」

 

「? 何を今更、勿論良いに決まってる。例えメリーと一緒に居ると死ぬとか言われても、私はメリーから離れないよ。それでもし本当に私が死んでも構わない、だって私達は最高の友だからね!」

 

 そして彼女は、とびきりの笑顔でそう答えた。

 

「……そう、よかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぅ」

 

 ボンヤリとした意識がジワジワと鮮明になってくる。

 

「……ふわぁ、何か長い夢を見てたような」

 

 欠伸を噛み殺しつつ、私ことマエリベリー・ハーンはそんな感想を述べた。

 確かに何か夢を見ていたような気がするが、全く思い出せない。

 

「……まぁいいや、着替えよう」

 

 まだハッキリとしていない意識で、寝間着を脱ぎ捨てる。

 そして『傷一つ無い』私の少し白い肌には、寝汗という奴が少し浮き出ていた。

 余程変な夢でも見たか、部屋が少し暑かったのだろう。

 

「……まさか突然ストリップするとは。もしかしてそういう趣味があったりする?」

 

「はぁ? そんな訳ないじゃない……私は至って普通……蓮子?」

 

「そうだよー、蓮子ちゃんだよー、さては私が泊まりに来たの忘れてた?」

 

「…………変態!」

 

「理不尽な平手打ち!?」

 

 しまった、そう言えば蓮子が居たことを完全に失念していた。

 これでは私は、突然友人の前で下着姿になる変態女ではないか。

 

「あ、ごめん蓮子……つい」

 

「……いたた、同性なんだからそこまで気にしてなくても良いんじゃない?」

 

「それは無理よ」

 

 この世全ての人が、自分の下着姿を同性に見せても平気な人間というわけではない。

 恥ずかしがる人だって居る筈だ。

 

「まぁ良いや、それよりその辺で適当に朝食を取りつつ、約束通り課題を一緒にやろうじゃないか」

 

「……課題?」

 

「え、だって一緒にやろうって言わなかった……け?」

 

「何で貴女も曖昧なのよ……まぁ良いけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来ないわね」

 

 博麗霊夢は待っていた。

 昨日来た外来人を元や世界へ帰すため、徹夜で色々とその為の準備をした。

 しかし日が空の天辺に来ても、肝心の外来人どころか、あの兎まで来やしない。

 

「あー、何か私の勘ではこのまま待ってても意味ないって囁いてる気がするわ……」

 

 しかし博麗霊夢は律儀に待つ。

 確かに自分の勘はよく当たるが、過信は一切しないのが私なりのルールだ。

 万が一のため、一応待ち続ける。

 

「……何の用? 私忙しいんだけど」

 

 ふと、気配を感じた。

 

「えぇ、見てわかるわ霊夢。調子はどう?」

 

「そうね、見たくもない奴が来てイライラしてるところよ」

 

「あら酷い」

 

 そいつ、八雲紫は私の背後に現れた。

 

「そんな霊夢に一つ教えたいことがあるのだけど……あの外来人の二人は、私がちゃんと帰したわよ」

 

「……あんたが? へぇ、珍しい事もあるじゃない。それなら暇になった私の為に、仕事を横取りしたあんたがお茶でも淹れてきてよ」

 

 それならこのまま縁側で日向ぼっこでもしよう。

 

「えぇ良いわよ、ちょっと待ってて」

 

 ……そして耳を疑った。

 あの八雲紫が、素直に私の言葉に頷いたことに。

 いつもなら軽く受け流すか、自分の式神にやらせようとするあの八雲紫が……一体どういう風の吹き回しだろうか。

 

「はい、熱々のお茶よ」

 

「……ありがと、何よ、今日はえらく素直……」

 

 程なくして戻ってきた紫から湯呑みを受け取り、その顔を見た瞬間少し動揺した。

 

「……なに? 髪切ったの?」

 

 腰まで届いていた紫の髪は、肩口まで短くなっていた。

 丁度昨日来た外来人の……コイツと似たような顔立ちをした方と同じくらいの長さだった。

 

「えぇ、どうかしら、似合ってる?」

 

「……まあまあじゃない?」

 

 ……明日は雨でも降りそうだ。

 

 

 

 

 




蓮メリっていいよね
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