私が倒したアイツはイャンクックっていう名前のモンスターらしい。しかも、普通のイャンクックとは少し違い、そのイャンクックの亜種なんだって。別名は青怪鳥。その綺麗な色の鱗や甲殻は人気もあると剣の人が教えてくれた。
そんなこともあり、せっかく倒したのだから私も鱗を一枚だけもらっておくことに。
ずっとずっと昔にいたハンターたちも、こうして自分が倒した相手からその素材をもらっていたんじゃないのかな。
青怪鳥との戦いは予想以上に私の体力を奪ってくれたらしく、体力が多いと思っている私でも倒してから暫くは動くことができなかった。
それでも座って休むことで、その体力も回復。
「よっし、帰ろっか」
今日は本当に色々なことがあった。オババに教えてあげたいことがたくさんある。
剣の人はどうしようかとも思ったけれど、せっかく引っこ抜けたのだし、これもオババに見せてあげたい。オババに見せた時の反応が楽しみだ。
「剣の人もそれでいい?」
一応、確認。ヤダって言っても持っていくつもりだけど。
「ああ、構わんぞ。俺だけじゃ動けんし、この場所に居ても仕様が無いからな。どうせなら俺だって色々な世界を見てみたい」
そんな剣の人の声を聞いてから、地面へ刺しておいた剣をまた背中へ。
……世界、か。私はあの村から外へ出たことがない。だから、そこにどんな景色が広がっているのかも知らない。
そんな世界のことを考えると、心が踊った。
「はぁ……ホント、あんたって子は」
村までの帰り道が分からなかったから、昨日と同じようにまた帰る時間が遅くなってしまった。さらに、何度もローリングをしたせいで身体が泥だらけだったこと、見つけたら逃げろと言われていたモンスターと戦ったこと、なんだかよく分からない大きな剣を持ってきたこと、などなど。色々なことが重なり、そんな私に待っていたのはやっぱりオババのゲンコツだった。ちょー痛い……
「あっ、それでね、オババ。この剣喋るんだよ!」
オババに叩かれた頭は摩りながら報告。きっとオババだって喋る剣を見たら驚くはず。
「おバカ。剣が喋るか!」
「ああいや、喋れるぞ」
「喋るんかいっ!」
オババの言葉に私によりも早く応えてくれた剣の人。
そんな声を聞いたオババは大きな声を出したあと、私の担いでいる剣を見つめ、固まった。いつもいつも騒がしいオババだけど、今日はまた一段と騒がしい。
私にはよく、もう少し落ち着け、なんて言うくせにオババも落ち着きがないって私は思うんだ。
「……驚いた。今の声は本当にその大剣が?」
ふっふーん。どうだ! 流石のオババでも喋る剣には驚いただろう。あと、なんでかは分かんないけど、この剣は斬ると爆発もするんだ。
「どうやらそうらしい。どうしてかは俺も分からんがな」
それにしても、この剣って何なんだろうね? とりあえず持ってきちゃったけれど、喋る剣とか意味分かんない。
「アタシもそれなりに長い時を生きてきたけれど、喋る大剣を見たのは初めてだよ。それに、その見た目……もしかして炎王龍の大剣かい?」
「おお、よく分かるな。作るときは大変だったが、良い武器だよ」
炎王龍……? なんのことだかさっぱりだ。とりあえず、どうやらこの剣はすごいってことなんだとは思うけど。
よく分からないことが多かったし、私がどうやって青怪鳥を倒したのかとか、オババには言いたいことや聞きたいことがたくさんあった。でも、どうやら今日はもう限界らしい。
ああ、ダメだ。今日は本当に疲れた。アレだけ身体を動かしたのなんて久しぶりだし、それもしかたのないこと。少しでも気を抜くと直ぐにでも寝てしまいそうだ。
……うん、今日はもう寝ることにしよう。
「……おばば」
「うん? なんだ……ああ、眠いのか。寝るのは良いけど、その前に身体をちゃんと洗うんだよ」
はーい。
ああ、本当に疲れたな。こんなに疲れているのだし、今日はぐっすりと眠ることができそうだ。
「おやすみなさい」
「お休みシャル」
☆ ☆ ☆
「それで……あんた、何者だい?」
紙タバコへ火を付けてから、俺の目の前にいる老婆はそんな言葉を投げかけてきた。
顔に刻み込まれた深いシワ。落ち着いた物腰。その年齢は明らかに俺よりも上だろう。
うん? ああ、でももしかしたら俺の方が年齢は上なのかもしれないのか。そもそもどうして大剣になっちまったのか分からんが、あの木に突き刺さっていた時間は短くないだろう。
どの道、色々と聞かなきゃならんことがある。今の俺には知らないことが多すぎるんだ。
「さっきも言ったが、そもそも俺がどうしてこの身体になったのかも分からんよ。この大剣を俺が使っていたことは確かだが」
「なるほど、ねぇ……つまり、あんたは」
「ああ、ハンターをやっていたよ」
自分でいうのもアレだが、それなりの実力を持っていたハンターだと思う。それこそ、この大剣を作るくらいの実力はあったのだから。炎王龍――テオ・テスカトルの素材を用いた大剣。それが今の俺の身体。
この大剣は好きだったが、まっさか自分自身がその大剣になるとはねぇ。人生分からないものだ。まぁ、今は人ですらないが。
それから、老婆には今のこの世界のことを色々と聞いた。
そんな老婆の話は信じたくもない内容だったが……まぁ、そうなっても仕様が無いのかもしれない。だって、あの戦いで俺たちハンターはモンスターに負けたのだから。
それからもう数百年。信じられんよなぁ。
「ハンターねぇ……あの戦いにあんたは参戦していたのかい?」
「まぁ、な」
酷い戦いだった。
本当に酷い戦いだった。
空を埋め尽くすんじゃないかって量の飛竜。地上には飛べないモンスターどもが蔓延り、それらが人間の住む場所を襲った。
俺たちだってただでやられるわけにはいかない。だから、全力で抵抗したさ。自分のため、何かを守るため、全てのハンターたちが戦ったと思う。
次々と仲間たちが倒れていく中、俺だってこの大剣を振り下ろし続けた。我武者羅に、直向きに……まぁ、それでもモンスターどもを倒すには届かなかったわけだが。
最期に俺が見た景色は……どんなものだっただろうか。記憶に靄のようなものがかかり、どうしてソレを思い出すことはできなかった。
「……もう、この世界にハンターはいないのか?」
そんな戦いから、人間がモンスターに負けてから数百年。この世界も随分とまぁ、変わってしまったものだ。
「表向きはそうさね。ただ、王都やドンドルマのような大都市では、どうにかしてハンターを復活させようとしているって聞くよ」
復活、か。それは有り難いことだが、きっと時間はかかるだろう。それにハンターになれる人間は多くない。
普通の人間と比べ、超人的な体力に力。そして――心の強さ。それらがあって始めて人間はあのモンスターどもと戦うことができる。
そして何より、モンスターと戦うなんて常に死と隣り合わせのことをしたがる人間が、どれほどいるのだろうか。
「……確かにアタシたちはモンスターに負けたよ。けれどもね、そのまま終わってしまったわけじゃない。現にアタシたちはこうして生きていて、こんな小さな村でも多少のモンスターくらいなら何度も倒してきた」
人間たちが絶望的な状況なのは変わらない。
けれども、きっと反撃のための種火はまだ残ってくれている。つまりは、そういうことなのだろう。そうだというのなら……希望はある。まだ終わっちゃいない。
「アタシだって若い頃は素手でアオアシラを倒したこともあるさね」
バケモノかこの婆さん! この世界の人間のためハンターをやってくれよ。流石に俺だって素手でアオアシラは無理だぞ。只者ではないと思っていたが、何者だこの婆さん。
「でも、アタシももう年だよ。最近は若いもんに任せっきりだ」
……どうやら俺はとんでもない村にいるらしい。
いや、まぁ、モンスターなんぞ何処にでも現れるものだし、こうして生きていくためにはそのモンスターを倒さなければいけないんだ。だから、誰かが戦う必要はあるのだが。
ああそうだ。この村のことも気になるが、それよりも聞きたいことがあった。
「あの嬢ちゃん……シャルは何者なんだ?」
あの時は勢いで俺を使ってもらったが、普通の人間にとってハンターが使う武器は重すぎる。しかも俺はその武器の中でもかなりの重量がある大剣。それを普通に使うことのできたシャルは……
「それがアタシにも分からないんだよ。もう十数年も前になる。まだ歩くこともできないあの子をアタシが見つけたんだ」
シャルとこの老婆に血縁関係がないのは確かだろう。これまで多くの者を見てきたが、ハーフの存在は見たことも聞いたこともないのだし。
そして、この老婆の言葉を聞く限り、シャルの両親は分からないってことか。つまり孤児、ねぇ。親近感が湧くじゃないか。
「それでも、あの子は立派に育ってくれたよ。まぁ、ちょいとばかし元気がありすぎるのも困ったものだけどね」
そう言って老婆は何処か楽しそうに笑った。
確かに、あの猪突猛進さは危ないよなぁ。若い者はそれくらいで良いのかもしれんが、アレじゃあ何処へ向かって突っ走って行くのか分かったものじゃない。
「……シャルはハンターの素質がある」
「ああ、知っているよ。当の本人は気づいていないだろうけどね」
初めて武器を担ぎ、初めてモンスターと戦ったというのにアレだけの動き。的確な状況判断。冷静さと強い心に熱い気持ち。今はまだ危なっかしいばかりだが、良い指導者さえいれば、きっと立派なハンターになるだろう。
「あんたはこれからどうするつもりだい?」
「あー……こんな身体だしなぁ。ひとりじゃ動けんよ。けれども、せっかくこの身体になったんだ。俺にできるのはモンスターと戦うことくらいだろう。そして、俺もそれを望む」
俺ひとりでこの世界をどうにかしようなんて思っちゃいない。しかし、だ。負けっぱなしってのは嫌いなんだよ。確かに身体は変わっちまったが、俺はもう一度モンスターと戦いたい。
「ああそうかい。そうだねぇ……このままこの村に居てもモンスターと戦うことはできるだろうさ。でも、あんたほどの大剣をこの村に置いておくのはちょいともったいない」
「何を、言いたいんだ?」
こんな身体だ。俺が活躍するためには誰かに使ってもらうしかない。
そして、この話の流れ的に俺を使うのは――
「あの子は動き始めたらもう絶対に止まらない。それに、この村はあの子にとってあまりにも小さすぎる。これも良い機会だってアタシは思うんだ」
「……つまり?」
目の前の老婆は口に咥えた紙タバコを吸い、真っ白な息を吐き出す。
そんな真っ白な煙で色づいた景色の先、老婆はもう一度笑ってから声を出した。
「あのバカ娘のことよろしく頼むよ。ハンターさん」
止まっていた物語は動き始めた。
★ ★ ★
・第1章
・武器
数え切れないほどの量のモンスターと戦ってきたシャルルリエであるが、彼女はその時、ひとつの大剣を使い続けていた。
その大剣は古龍――テオ・テスカトルの素材を用いた大剣だったと言われている。残念ながら、その大剣がどうなったのかは不明であるものの、彼女が炎王龍の大剣を使い続けたのは確かである。また、当時、彼女の使っていた大剣は世界にふたつとない物であり、現在の基準で考えても一級品だったと考えられる。
しかしながら、当時の武器防具の加工技術は衰退しており、例え素材があったとしても、シャルルリエの使っていた大剣を作ることは不可能であった。そのような大剣を彼女がどうやって手にしたのかは不明である。
また、その大剣は言葉を発することができた、との証言もあるが、その詳細についても不明である。