まだまだ増えますので覚悟してくださいね
ではどうぞ。
「ううーん...?」
目覚めた。何か凄いものを見たような気がするが、頭が痛くてよく思い出せない。
「あ、やっと起きました!」
ルナがベッドの横で本を読んでいる。どうやら看病してくれていたようだ。
「ああ、おはようルナ。えっと、僕何してたんだっけ」
「スウさんは、私たちがお風呂に入っている間、寝てしまっていましたよ。」
ああ、そういうことか。
「ん?僕確か椅子に座ってたような...」
「まあいいじゃないですかそんなことは!」
「お、おう...?」
有無を言わせないルナの声に、まあいいか、と思う。
「ところでシルバは?ランも姿が見えないみたいだけど。」
「お二人なら、お買い物です。もう帰ってくると思いますよ。」
がちゃり。そういった直後に部屋のドアが開く。
「おかえりーーー......だ、だれ?」
そこには、ラン、ともう一人、銀髪でストーレートショートの、可愛らしい黒を基調にしたフリフリのゴスロリコスプレをした美少女がいた。
「しっ、シルバ!シルバですスウ様!!」
「シルバ...お前、シルバなのか!?」
なんということだ。ついさっきとは大違い、というか別人なのでは?と思うレベルの変貌ぶりである。
汚れがついたまま腰あたりまで伸ばしっぱなしだった髪はバッサリと切られ、肩くらいの長さに揃えられている。
つるりとした髪の毛がなんとも艶っぽく頭部を彩っている。
そしてなんといってもこの服。
ゴスロリはゴスロリだが、コスプレではないのだ。本物、という表現がぴったりくるようなゴスロリである。
体系は決してロリではないシルバが着ると、幼さの中に秘められた女性の部分が際立ち、とても色っぽい。ガーターベルト最高。
「シルバ、楽しかったか?」
「はい、とても!こんなに幸せなのは生まれて初めてです!」
ズキン、と胸がささくれる。この子は、この程度の幸せすら、感じたことも、恐らく考えたこともなかったのだろう。
「そうか。つぎは僕と行こうか。」
「スッ、スウ様とですかっ!?はい!是非!お供させていただきます!」
うん。この子はこれでいい。幸せであるべきだ。
「スウさん、提案なんですが。」
ルナが口を開く。
「シルバさんは、私たちについてきていただくんですよね?でしたら、冒険者になってはどうでしょう。」
そうだ。冒険を生業とする冒険者についていくには、やはり冒険者になるしかない。
「冒険者...そうだな。シルバ、お前、戦えるか?」
なんとなく聞いてみた。結構筋肉あるし。ん?なんで筋肉あるなんてこと知ってるんだろう?うっ、頭が。
「はい!私、スウ様のためなら、矛にも盾にも爆弾にもなります!」
「いや、爆弾は却下。戦闘経験とかはあんの?」
おそらく、体に目一杯ダイナマイトを付け、敵地で爆発させてこい、といったら、死ぬ直前まで敵地の中心へと走り抜け、自分ごと木っ端微塵にするだろう。そんな覚悟が見えてしまう。
「はい!私、元奴隷ですから!当然戦うこともあります!魔法も少しは学があります!」
「へぇー魔法まで使えんのか。何か見せてくれよ。」
魔法、と聞くとつい見たくなってしまう。悪い癖だ。
「はい、では私シルバ、スウ様の為に愛を込めて、唱えさせていただきます。」
重いよ。愛が重い。
「願うは静寂。聖者の十字架は折られたり。囲い、囲い、囲え。」
「コクオウ。」
シルバの目の前に、1m四方くらいの真っ黒い立方体が現れる。
「なんだこりゃ。」
すっと手を伸ばすスウ。
「待って!!」
ランが止める。
「スウ、魔法に対してあんまり迂闊に動いちゃダメだよ。シルバも、そんな危険な魔法使うことないでしょ。」
「す、すみません...スウ様にいいところをお見せしたくってつい...」
寂しそうに下を向くシルバ。
「まあ、そのまま展開してて。いい?スウ。よく見ててね。」
そう言うと、右手をその立方体に向けるラン。ルナは何が起こっているのかわからない、といった風にキョロキョロしている。
「光の加護を。ホーリーライト。」
あ、それ見たことあるある。いつかルナが使っていた魔法だ。しかし、威力はかなり抑えられているようで、ふわふわと光の玉が飛んでいく。
そして、その球はゆっくりと立方体に近づき、触れる、と同時に。
ギュオオッ!!
「っ!?」
光の玉は、立方体に触れたと思うと、消えてしまった。
「この魔法の説明、シルバ、してくれる?」
当然ランは知っているのだろうが、相手の顔を立たせようといった優しさが伺える。
「は、はい。では、説明させていただきますね。」
「この魔法は闇属性の魔法で、コクオウ、と言います。奴隷が覚える魔法の中でも取り分け強力で、ご覧の通りなんでも吸い込む空間を作る魔法です。」
「なるほど。」
「防御と攻撃を同時に行え、なおかつ魔力消費が少ない、として貴族の方々を護衛するときに使え、と叩き込まれました。」
「よくできました。」
ランも納得がいく説明だったようだ。
「ちなみに、この魔法で発生する立方体の大きさは魔力量と消費魔力に比例します。魔力を抑えれば小さいものができ、大きな魔力を注げば、いくらでも大きくなる、というのも特徴の一つです。」
「ふぅーん。面白いなあ。」
「ちょっとスウ、使って見たら?」
「僕が?」
提案するラン。見たら使える、というのをまだ信じていない様だ。
「そうだな、じゃあみんな離れてて。えーっと、詠唱は確か...」
詠唱を唱えようとした時、なにか違和感を感じる。
「なあ、ラン、シルバ。この魔法、ちょっと無駄が多くないか?」
「無駄?」「ですか?」
ランとシルバが首をかしげる。
「ああ。この詠唱、もう少しどうにかできそうだ。ちょっと見ててくれ。危なそうなら止めてくれ。」
「わかった。」
目を閉じる。
「...静寂の十字架よ、世界を囲え。コクオウ。」
ヒュルッ、とスウの目の前にあの立方体が現れる。
「す、スウ様!?今の詠唱は!?」
驚くシルバ。ランはもう呆れている。
「いや、なんか回りくどい詠唱に思えたから、必要なさそうなところ省いてみたんだ。うまくいったみたいだな。」
「はあ、もう訳がわかりません。」
ルナもうなだれている。
「スウ様素晴らしいです!既存の魔法を短略化するなんて!!完成されたと思われていたこのコクオウを、超えてしまったのですよ!」
「別に短くしただけなんだけどな。」
「何言ってるの。その立方体、見てみて。」
3人はその箱の様なものに目をやる。
「濃い...ですか?なんか。」
「はい...なんていうんでしょう...私のものより、ずっと暗い...黒い?ですか?」
「そう。その魔法、多分上位魔法くらいまでなら食い付くせる程の濃度なの。シルバのは良くて中級くらいね。」
「簡略化だけでなく強化まで!?スウ様、本当に素晴らしいですー!!」
照れるなあ。褒められると。でも、別にほんとにそんな難しいことをした気はないのだが。
「はあ、もういいでしょ、冒険者ギルド行こ。」
ランは疲れた様に部屋を出る。僕らも後からついていくのだった。
冒険者ギルド。くるのは初めてではないが、色々ありすぎて久しぶりな気がする。
「あの、冒険者登録おわりました。スウ様、1ゴールドも私なんかに使っていただいて...」
申し訳なさそうに言うシルバ。1ゴールドなんてお金、奴隷だったからからするととてつもない大金だろう。
「いいんだよ、お金はまだ結構あるし。それで?職業は?」
「ジャッジメント、審判者、と書かれています。」
「ルナ、ジャッジメントって?」
聞いたことがない。何をするのかも想像つかないし。
「はい、冒険者の間ではジャッジ、という職業です。ジャッジは一撃系の魔法を得意とし、主に魔法と体術、両方で戦います。スピードがあり、威力も大きいですが、スタミナや魔力切れに気をつけたい職業ですね。」
「ふうーん。つまり、シルバはフィジカル、魔力共に申し分ないけど、その継続に難ありってわけか。」
「お恥ずかしいです...」
しかし、これはいい職業だ。戦闘を長引かせさえしなければ、高い能力を発揮してくれるだろう。
「よし、これで4人パーティが揃ったな。そろそろ申請して、クエストを受けるか...」
「ちょおっと待ったああああ!!!」
「!?」
受付へ向かおうとした僕の背後で、大きな声がする。
「あんたたちね!?あの張り紙をしてたのは!!」
声が大きい。こわい。
「あ、ああ。あの張り紙のことか。確かに僕らだ。」
「あたしをあなたのパーティに入れなさい!!」
またやっかいそうなのが現れた...そう思い、スウは頭を抱えて遠い目をするのだった。
はい、読んでいただきありがとうございます。
今回は魔法、応用編、第2弾です。
今回、コクオウ、という闇魔法が出てきました。
この魔法、等級の概念が存在していません。
なぜかというと、使う人によってレベルが勝手に調整される魔法だからです。
例えば下級魔法は、どれだけ頑張っても中級魔法には届かない威力です。逆にいえば中級魔法はどれだけ出力を抑えたとしても下級以下にはなりません。
つまり、調整の幅が決められているのです。
ですが、悪いことではありません。まず、注ぐ魔力が多い少ないと言った出力ミスが起きにくいです。更に、出したい火力ちょうどを出すこともできます。
なぜ等級があるかというと、それだけ普及し、みんなが使うからです。
等級がない魔法はあまり使われないが故に研究が疎かになっているのです。
等級がないために出力は自由ですが、出したい理想火力と魔力調整のギャップから、気づいたら思ったより多くの魔力を使っていた、ということがよくあるようです。
練習を積むか、それこそ才能によって、思い通りに操ることができれば、等級がないが故のメリットを最大限活かせるでしょう。
またどうぞ。