今回はバトル佳境です。がんばります。
「スズメバチ」
そう言ったアヅサの爪は針の様に尖り、それを飛ばしてスウの動きを止める。
「あ、危ない...」
アヅサがよろけたことにより狙いがブレたのか、その針は刺さらなかったものの、遥か後方の壁へと深く刺さっていた。
「許さない...わたしをコケにした罪...万死に値するわ!!」
虫。それは、太古から進化に進化を重ね、未だ人類でも判明していないことが多い、謎の種である。
「クモ!!」
アヅサの手から粘性のある糸が飛び出る。
「きゃあっ!」
ルナの足元へと放たれた糸は、行動の自由を奪う。
「カマキリ!」
動けないルナへ、アヅサの大きな鎌へ変形した腕が喉へと伸びる。
「させません!」
ガキィ!
シルバの拳が鎌を横から叩き、それを阻む。
「ファイラ!」
ボウッ、とパールの手から放たれた火がルナの足に絡みつく糸を焼き切る。
「あ、ありがと!」
「あいつ、急に動きが変わったな...蟲の名前を言い出してからか...」
完全にブチ切れているアヅサは、先ほどから畳み掛ける様に連続で攻撃してきているが、なんとなく動きが鈍い。
「あいつもしかして...」
「はあ、はあ。カブトムシ!」
そう言ったアヅサの腕は深い茶色に変色し、ランへと殴りかかる。
どうやら、ランが回復の要だということに気付き、先に仕留める気らしい。
「錬鉄の鎧!コウ!!」
物理攻撃の無効化。その魔法はランの体を黒く纏い、フルプレートを思わせる鎧の様に使用者の体を守る。
ガゴオオ!と大きな音を立ててぶつかり合うアヅサの拳とランの体は、ランが後ろに吹き飛ばされることでひとまずの終局を見せる。
「な、なんて威力!?完全に無効化したはずなのに!!」
「カブトムシの力がそんな鎧で止められるわけないのよ!!」
「てやあっ!!」
隙を覗かせるアヅサへ、ルナの剣が伸びる。
「ぐっ...がアッ!」
ルナの剣の切っ先は、アヅサのカブトムシの鎧のちょうど脆そうな部分へ突き刺さり、鮮血が飛び散る。
「やったか!?」
「ふぅ...ふぅ...カブトムシでもダメ...ならもうこれしかないわ...絶対に使いたくなかったけど仕方ない!!冥土の土産に見せてあげるわ...」
アヅサはよろめく体をどうにか立て直し、おそらく最後の魔法を口にする。
「ゴキブリ。」
アヅサの体は光沢のある黒に染まり、体からは棘の様なモノが飛び出ている。頭には二本の触覚が伸び、四つん這いの姿勢をとっていた。
「うっぷ...おぇ...最悪の気分だわ...これを使わせたのはあなたたちが初めてよ!!絶対に後悔させてやる!」
次の瞬間、ランとパールがスウの視界から消える。
「え?」
「見えるはずがないわ...あんた、ゴキブリの速度って知ってるかしら...」
「もしあのゴキブリがその性能を保ったまま人間のサイズになれたとしたら...そのスピードは300kmオーバー。そしてなにより...」
ビュゴッ!
「んきゃああ!!」
シルバが吹き飛ばされる。アヅサは動いていない様に見える。
「初速が最速。加速無しに初手から全開よ」
「くっ...なんてスピード...それにこの威力っ!自己強化でここまでできるなんて!」
残されたルナとスウは、次のアヅサの攻撃への覚悟をすることくらいしか残されていない。
「たとえ見えても避けられる筈がないわ...私がこの世で最も嫌う最強の生物なのだから!!」
ドゴッ!「ぐあっ!!」
スウが一瞬だけ視界に捉えたそれは、アヅサの鋭い眼光だった。見えない拳は腹へとめり込み、スウは胃の内容物を撒き散らし、5Mほど吹き飛ぶ。
「ふふ...あなた、この子のことをとても大事に思ってるみたいね...絶望というものを教えてあげるわ....」
「きゃあああ!!」
シュン、ドコ。シュン、ドコ。
アヅサは比喩でもなんでもない程目にも止まらないスピードでルナの周りを飛び回り、通過と同時に攻撃を加える。
「はぁ、はぁ。ぐうっ!!」
もはや立ち上がる力もないルナは、床へ倒れこみなすすべなく蟲の様な息をあげている。
「あはは、はぁ。これで終わりよ...先に逝ってなさい!!」
「ルナああああ!!」
「くそっ、なにか、なにかないか!!攻撃は間に合わない、魔法もダメだ!誰か!誰かルナを!ルナを助けてくれ!!」
「あの世で後悔しなさい!!」
アヅサが拳を手刀の様な形に変え、喉元へ最後の攻撃を仕掛ける。
「くそおおおお!!!」
ピタリ。世界が静止する。
「!?」
「呼んだかな?」
どこかで聞いたどこまでも澄み渡る声がする。
「やあ、スウ。なかなかのピンチと見える。あなた、女の子泣かせたらダメじゃない。」
「ゼ、ゼウス!?」
そこには、かつてスウをこの世界に送り込んだ神、ゼウスが立っていた。
「なんでここに!?」
「なんでってことはないんじゃない?あなた、言ったじゃない。誰か助けてーって。困った時の神頼みってね。だからこうして助けに来たのよ。」
「で、でも...世界に干渉するのはダメだからって僕を送ったじゃないか。倒しちゃっていいのか?あいつを。」
「そりゃダメね。結局はあなたたちでなんとかするしかない。でも、チャンスをあげるわ。無駄にはしないことね。」
チャンス?チャンスとは何だ。
ゼウスは指先でルナの鎧に優しく触れる。
「さあ、目覚めの時間よ。その子を助けてあげて。」
ガキィ!!止まった世界が動き出す。
「!?」
確実に当たる軌道だったアヅサの攻撃は、何かに阻まれる。
「なぜ!?なにをした!!」
「君かい?この子を殺そうとしたのは。許せないなあ。」
そこには、うさぎのような小さな生物がちょこんと座っていた。
「全く。こんなに気に入る子は滅多にいないってのに。君には相応の報いを受けてもらうよ。」
そう言うと足元のうさぎはゆっくりと大きくなり、女神を思わせる女の姿に変わる。
「じゃ、おやすみ。なに、殺しはしない。あとはこの子たちが決めることさ。」
女神は本当にゆっくりとアヅサへ手を伸ばし、抱き締める仕草をとる。
「とろいわね!!そんなの喰らうわけが...っ!?う、動けない!?」
「当たり前じゃないか。これは愛。攻撃じゃない。慈愛だけで構成される神の魔法なのだから。」
「女神の抱擁」
「きゃああああ!!」
女神は優しく。優しくアヅサを包み込み、そしてアヅサは気を失って倒れ、動かなくなった。
「これで今回は終わり。また何かあれば呼ぶといい。スウ君。君には感謝しているよ。こうして形を与えてくれたこと、この子を守ってくれたこと。その栄誉を称え、名を教えよう。」
「私はグーパ。また会える時を楽しみにしているよ。」
そう言うとグーパと名乗った女神は光の玉になり、ルナの鎧へと吸い込まれていった。
「ありがとう...」
こうして、戦いは幕を閉じたのであった。
はい、ぎがです。
いかがだったでしょうか。
個人的にはうまくできましたが、いかんせんボリューム不足ですかね。
では、今回の補足コーナー。
アヅサちゃんの魔法は、前回紹介した通り、生物の力を貸りて攻撃するものです。本人は虫が大の苦手で、虫の力を借りると知能が低下し、単純な攻撃しかできなくなってしまいます。腕だけに留めたりして抑えることはできますが、マックスで借りてしまうとよりその生物の本能的な動きに思考をとらわれてしまい、爆発的な力と引き換えに身体への負担が飛躍的に増加してしまいます。特にゴキブリは脳への影響が大きく、一度使えばそのあとはかなりの時間無防備になってしまうもろ刃の剣です。
またどうぞ。