当サイトでは「発酵」という名前で活動していきたいと思います。
この作品に対する向き合い方というのは、あらすじに書いているので、是非目を通してください。
世界観の詳細について気になることがあれば、感想のついでに書いてくれると助かります。
作中に掘り下げることももちろんありますが、作り上げた世界観全てを説明する機会はないと思います。
現在進行形で世界観は構築(8割程はできています)しているため、何気ない質問というのがこの世界を鮮明にしてくれる助けになるかもしれません。
様々な点で拙さが目立つと思いますが、これからよろしくお願いします!!
語り手は饒舌に
広々とした石造の空間の真ん中に、ダイニングテーブルと栃の椅子が対面式で二脚置かれている。薄墨に囲まれた中にワンポイントとしてある赤みを帯びた淡黄褐色は、良いと言えるデザインではなかった。それもそのはずで、姑息的に準備したものなのだから仕方がない。相手が急きょ予定の変更の連絡をしてきたため、それなりの場しか設けることができなかったのだ。
この椅子に数分は坐っている。自分が机の上に置いた筆記用紙もペンもこの不釣り合いな空間に馴染んでいっている気がする。時とは恐ろしいもので、一時的に観念を捻じ曲げてしまうときがある。最初は落ち着きのなかった机上のものが、たった数分という時の力を借りることで、この空間の均衡を保つ存在へとすっかり栄達してしまった。
「すいません。少しだけ遅くなりました」
正面にある入口には扉が無いため、彼が声をかけてくれるまで気づかなかった。思案を巡らせすぎると周りが見えなくなるのは、僕の悪いところだ。
「いえいえ、気にしないでください」と僕は言った。右手の平を天井に向けて机上に出し、椅子に坐るように勧めた。
失礼します。そう言って静かに椅子を引き腰を下ろした彼の表情には、緊張と好奇が混ざっていた。
「急ごしらえなため殺風景な場所ですが、よろしいですか?」
「促すような形になってしまったのはこちらの責任ですので気にしないでください。むしろ、これぐらい圧迫感がある空間のほうが良いかもしれません...あぁ、皮肉じゃないですよ。これぐらいのほうが僕自身をきっちりと掴めそうってことです。狩場のようなところで、自己を表現するのは難しいですから」と彼は言って口角を絶妙にあげて笑ってみせた。
目の前の目鼻立ちがしっかりしている黒髪の壮年は、いつの間にかこの空間に馴染んでいた。僕自身も、ただ置かれているだけのペンたちも、数分という巨大な力の流れに身を任せることでしか成れなかったものに、彼は1分も経たない内に成ってしまったのだ。あるいはいくら周りが見えなくなっていたとしても、空間の歪みを感じなかった。つまりここに入ってきた時点で、彼はもう既に成っていたのかもしれない。
傍から見ればユーモア性の高い人と感じるような先の一場面に、僕はこの人の人間性の一角を見た気がした。
「それなら良かったです」と僕は言って静かにペンを持った。
「では早速ですが、その自己を表現するということについて、深く掘り進めていきたいと思います」と僕が言うと彼はおもむろに肩に力を入れた。
「記者のスクリです。今回はよろしくお願いします」と僕は事務的な挨拶をする。
「ドンドルマ属のG級ハンターのウェーナーです。よろしくお願いします」と彼も丁寧に挨拶をする。
彼の口から「G級ハンター」という単語を聴くと、目の前の男の存在感を改めて実感できる。この世界においてハンターとは、最も険しく厳めしい山の頂上に立つ存在なのだ。その中でもG級という場所は、それよりも上方にあって、文字通り雲の上の存在なのだ。
やっぱり実在するんだ。そういう俗な嗜好を胸中で巡らせると、自然と高揚してしまう。そのせいだろうか。僕が最も気になっている彼の公になっていない経歴について訊きたい、という欲求が抑えられなくなった。
「まず一つ目の質問・・・をする前にですね」と僕は言って一呼吸置く。彼は僕が続きを話すことを待ってくれているようだった。
「上位ハンターに残した偉業の数々についても、一つだけ取り上げて語るなんてできないぐらいに素晴らしいです。これから挑む前人未踏の例のプロジェクトについてもとても期待しています。そこに関しては順を追って訊かせていただきます。ウェーナーさんが表舞台に立ってから、つまりギルドカードの所持を認められた後の活動については、他の記者の方よりも目を通しているという自負がありますし、ある程度一般的な認識として広まっています。ですがそれ以前の話というのは全く世に出回っていないんです。ウェーナーさんの基盤を作った時代を僕は感じたいのです!」
右の顳顬をポリポリと掻きながら愛想笑いしているウェーナーさんを見て、感情を抑え込めていない自分に気づいて急に恥ずかしくなった。
「そんな熱狂的な態度をみせられたら僕も頑張って答えるしかないですね。つまり僕のハンター生時代の経歴を訊きたいということですよね」と彼は言って変わらずの笑顔をみせてくれた。
「私情たっぷりで申し訳ないです」と僕は隠しきれない羞恥心を言葉と笑いで少しでも軽減できるように努めた。興奮を鎮めることに努めたため、話の軸を戻すまでに少しの間が空いた。その間も彼は真摯な態度で僕の口が開くのを待ってくれていた。
「えー、お恥ずかしいとこをみせてしまいました」
「いえいえ。今回の取材に対するスクリさんの熱意を感じられたので、純粋にうれしいですよ」
「ありがとうございます。といっても最初の内容に関しては私情たっぷりなのですが」と僕は言った。彼は僕の言葉一つ一つに丁寧に対応してくれた。
「ごほん。少しだけ油を売ってしまいましたが、本題に戻ります。先ほどウェーナーさんが要約してくれたように、まず最初に僕が訊きたいのはハンター生時代の5年間についての話です。今日はこのことにたっぷりと時間を割いて訊いていきたいと思っています」と僕は言って一度息(または話のリズム)を整えた。
「思い出話を家族に話すように、というのが理想の形ですが。後は語り手のウェーナーさんにお任せします」
少し意地悪な言い回しをすると、彼は相応の動揺を表に出していた。
「昔話はあまり得意ではないので、スクリさんが上手く使ってください」と言った彼の表情には、お返ししますという言葉が浮かんでいた。
「あはは・・・。いやー、敵わないですね」
「ここからは漫談のようにはなりませんが、丁寧に記憶を起こしていきますね」
そう言って彼の表情が先までとは異なる方向性へと変化した。
「はい。お願いします」
ペンを持つ右手にぎゅっと力が入る。
ウェーナー史に新たなページが追加される瞬間を僕だけが目撃できる。彼の過去とは対照的(あくまで僕の中での想像だが)な華やかさの欠片もないこの空間で、正反対の不格好な僕が、乏しい道具たちで、彼の想いを紡ぐ。代弁者と言う偉業を担うことができる。彼の口が開く刹那に高揚は頂点に達する。
「17年前に僕はここドンドルマに初めて来ました。まずはそこからはなしましょう」
紡ぎ手の想いを乗せて。
文章は一日クオリティなため、誤字脱字等があれば指摘お願いします。
今後の評価次第という贅沢な動機をぶらさげて、更新ペースは調整していきたいと思います。
読んでいただきありがとうございました!!