IS×NW~世界を渡りし者~《更新停止》   作:戒炎

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気がつけば今年も終わりなんですね~。

今回はいつもよりも短いです。
それでこの時間まで掛かったのか・・・。


朝のひと時

 四月の早朝、と言っても五時はまだ薄暗い。

 そんな時間にジャージに着替え、簪がまだ寝ている事をそっと確認してから外に出る。

 少し肌寒いくらいの風が流れる中、軽く体操をしたら準備完了。日課にしていたジョギングを始める。

 ホテルに缶詰にされていた時は碌に運動が出来なかったからな。鈍っていた身体を鍛えなおさなくてはならない。

 ただでさえ『喧嘩』が決まったのだ。こうして基礎体力作りからやらなくては、一夏はともかくオルコットの足許にも及ばないことだろう。

 幸い、IS学園のグラウンドは広い。四、五周もすれば良い運動になる。

 ん?軽く走れる距離じゃない?はっはっはっ。世界を救うことに比べれば屁でもないわ。

 それに『あの人』の扱きと比べれば・・・今でも身震いがする・・・。

 血反吐を吐いてからが本番だったからなぁ。

 考え事をしながらもペースを上げていく。十分に身体も温められずに朝食の時間で運動終了なんて笑えないからな。

 両足にズシンズシンと負荷がかかる。まずは片足5kgの錘から始めている。ほら、俺って足技がメインだし、格闘家だから。そのうちもっと負荷をかけていくつもりでいる。

 走っていると、ちらほらと同じような生徒がいることに気付く。どうやら上級生のようだ。慣れているという感じがする。

 向こうもチラッとこちらを見て一瞬ギョッとされるが、必死なのか声を掛けてくることは無かった。集中を乱されたくなかった時なので有難いことだった。

 しかし誰にも会わないように朝早く出たのだが、まさか頑張り屋さんたちがいるとは、感心すべきか警戒すべきか。少なくとも、朝から珍獣扱いはゴメンだ。

 

 

 その後は静かに走り終える事が出来た。良い汗もかけたが、ここからが本番だ。

 人気の無い場所に移動し、息を整える。

【龍】、気が全身に行き渡るのをイメージし、血流とプラーナの流れを同化させる。

 そのままゆっくりと右足を上げ、止める。空手や中国拳法の型を意識しながら。

 俺の格闘術は元来喧嘩殺法であり我流だが、戦うという事のイメージを意識することで実戦でも動けるように身体に染み込ませる。

 次は左足、左右の正拳、裏拳、後ろ回し蹴りを順に繰り返す。ここでも全身に気を流す事を忘れない。脱力しているのに、汗が溢れてくる。

 次に、右足を蹴り出すという構えを取ったまま静止、【龍】を右足に集中させる。

 その【龍】をゆっくりと左足に移動、その後腕、手、頭と徐々に移していく。【龍】の制御の訓練だ。

 全身に等しく配分したり、一点に集中させたりして力の流れを確認、強化する。

 同じ【龍使い】がいれば組み手が出来たのだが、贅沢は言えない。

 それにしても、今の俺の状態はどうなっているのだろう。

 ウィザード特有の【月匣】や【月衣】は使えない。【異能使い】の超能力も使えない。なのに【龍】は扱える。こんな転生はありえない。そもそも【転生者】特有の【遺産】を持っていない。俺の存在は、完全にイレギュラーだ。

 俺は、本当にここに居てもいいのか?

 イカン。邪念が混じった。集中集中・・・。

 

「朝から感心だな。」

 しばらく鍛錬を続けていると、後ろから声と共に何かが投げつけられた。

 突然の事でびっくりしてしまったが、投げられたものは白く、柔らかいもの、タオルだった。それにこの声。

「織斑先生・・・。」

「使え。汗だくだぞ。」

 そういえば自分でタオルを持ってこなかった。迂闊。

 まあこんなことも初めてではないので、有難く使わせて頂こう。

 ふわりとした良い匂いがする。

「先生、これ洗濯したのって。」

「一夏だ。」

 やはりか。織斑先生、いや今はプライベートなのだろう、千冬さんがこんなしっかり洗い物が出来るとは思えない。失礼を承知で断言しよう。この人家事はとことん一夏頼みだからな。寮の部屋とかどうなってるんだろう。想像するだに恐ろしい。

「なぁ旺牙。お前の向上心は賞賛に値する。だが、なぜそこまで強くなろうとする。戦う姿勢を崩さない。」

 千冬さんが真剣な顔で尋ねてくる。

 強くなる理由か。そんなの。

「考えた事も無ぇ。」

「・・・は?」

「あえて言えば、馬鹿な自分への戒めってやつかな?俺もよく分からんですよ。」

 本当は違う。目指す人がいたから。

 馬鹿な自分を導いてくれた人がいたから。その人の期待に応えたかったから。

 だが、その人には、もう逢えない。

「なんだそれは。お前が馬鹿なのは知っているが。」

「酷えや。」

 ここでやっと互いににやける。朝っぱらから真面目な話は嫌だな。

「ところで千冬さん。この一週間で俺と一夏はISを借りれます?」

「無理だろうな。あまりに急な話だ。いくらお前達でも予約に捻じ込むことは出来ん。」

 やっぱりか。ISを実際に使いたいって生徒は多いからな。俺達だけ特別扱いは無理ってこった。

 なら、余計に鍛錬と予備知識が必要になるか。

 売られた喧嘩、是非とも勝ちたいものだ。もちろん、千冬さんに個人レッスンを、なんてのも無理だな。出来たとしても、そんなことしたら全校生徒を敵に回しそうだ。

「まあそれなら仕方ない。千冬さんの顔に泥を塗らない程度にはやりますよ。俺が誰の弟分か、皆に知らしめてやりまさあ。」

「・・・そうか。」

 ふと複雑な顔を見せるも、すぐにいつもの凛々しい顔付に戻ってしまった。

 今の表情はなんだったのだろう。

「鍛錬も良いが、時間には遅れるなよ。校庭十週では済まさんぞ。」

 おお怖い怖い。

「あ、タオルは洗って返しますよ。」

「要らん。お前にくれてやる。」

 そう言って後ろ向きに手を振りながら行ってしまった。

 あの人はとにかくイケメンな行動をするよな。俺が女だったら惚れてたかも。

 っと、そろそろいい時間かな。切り上げて朝飯にするか。

 

 部屋に帰ってくると、既に簪の姿は無かった。朝から何処に行ったのだろう?

 

 

--------千冬Side------

 弟分、か。

 私は、旺牙の事をどう思っているのだろうか。

 あいつの言うとおり、弟か?

 それとも、一人の男としてか?

 分からない。

 一夏を救ってくれた感謝か?

 代わりに疵付けてしまった後悔か?

 分からない。

 いつか答えが出るのだろうか。

 だがその前に旺牙。

 お前が遠くに行ってしまいそうな、そんな気がするんだ。

-----------------------

 

 シャワーで汗を流し、食堂に向う。簪もおらず、一人寂しく食事を取っている・・・わけもなく。

 遠巻きに女子達が俺を見ている。物珍しげに。

 いやいやあんたら。別に男を見るのなんて初めてじゃないだろう、早く慣れてくれ。それとも俺の方がこの状況に慣れなくてはならないのか。

「ね、ねえ志垣くん。一緒に朝御飯いいかな?」

 心の中でショボンとなっていると二人の女子が声を掛けてきた。声が若干震えているのは気にしない。

「ん?ああいいぞ。一人だと寂しかったんだ。」

 渡りに船、孤独と羞恥から同時に解放された気分だ。

 二人は俺の前の席に着く。たしか立花と嶋田だっけか、同じクラスの。

 外野から、

「あの子達凄い・・・。」

「ああ~、抜け駆けされた!」

 なんて聞こえるが気にしない。

 二人と会話しながら食事をし、何気なく名前を呼んでみると驚かれた。どうやら俺が名前を覚えていた事に驚いているらしい。

 人の名前と顔を覚えるのは得意な方だ。『あの人』に仕込まれたし、戦闘時誰が味方で誰が敵かを即座に判断するのに大事になってくる。

 なにより女の子とコミュニケーションをとるのに名前が出てこないと、この時代それだけで怒られる。

 その後、俺に関する色々トンデモ噂を聞かされた。

 曰く、100mを十秒台で走れる。

 曰く、不良を千人病院送りにした。

 曰く、熊殺し。

 いやね、出来なくはないよ?体力重視のウィザードの能力をほぼそのまま受け継いでいるんだから。

 ただ不良千人は無い。どんだけ治安が悪い場所にいたと思われてるんだよ俺。

 熊は殺せるかな~、なんて冗談で言ってみたら(本当に出来るけど)、それは無いよ~と笑われた。それでよい。

「それにしても、志垣くんって結構話しやすいね。」

 突然立花がそんな事を言ってきた。

 俺そんなに取っ付き難いと思われてた?

「うん。失礼だけど、見た目ちょっと怖かったし・・・。」

「織斑くんとオルコットさんにお説教してた時、威圧感凄かったから、中身も怖い人なのかなって思ってた。」

 意外とズバズバ言うねキミ達。俺傷つくよ?

「でもこうして話してると優しそうだから、良かった。」

 二人とも無垢に笑いながら笑顔を向けてくれる。

 俺が優しい、か。

 本当に優しい人間なら『あんな事』には参加しなかったはずだ。

 そして【凶獣】の二つ名も付けられる事は無かった。

 俺が、本質的に凶暴だからこそ、前世で死ぬ事となった。

 だからこの笑顔を向けられる資格は、俺には無い。

 でも、その一方で、こんな表情を護りたいと思う自分がいる。

 ただの罪滅ぼしか、自己満足かは分からない。

 今度こそ、本当の『正義の味方』になりたいと、そう感じている。

「ありがとうな。良かったら、懲りずにまた話しかけてくれよ。」

 出来るだけ優しく笑顔をかえす。

 二人の顔が薄らと赤くなる。

 ・・・露骨過ぎた?

「と、ところで志垣くんって、朝からいっぱい食べるね!?」

 誤魔化すように嶋田が尋ねてきた。

 まあ俺は三食きちんと食う派だからな。朝は特に食う。

 今日の朝飯は一般的な和食。白米に鮭の塩焼き、納豆とひじき、味噌汁。

 問題はそのどれもが大盛り、いや特盛りなこと。それを会話しながら次々と咀嚼していく。

 食べて、動いて、学んで、寝る。それが俺の体型と体力を維持している。

 お陰で食費が凄いがね。

 俺からしたら女子はなんでそれだけで体が動かせるんだ?サラダとパンだけなんて、俺じゃ途中で倒れるぞ。

「わたしたちはほら、ねえ?」

「あははは・・・途中で食べちゃうから。」

 間食は体に悪い、とは言えんね。俺も食べるもの。その分動くけど。

 衣食についてはこれ以上突っ込まない方がいいな。デリケートな話だし、デリカシーに関わる。

 とりあえず朝食を食べ終わり、俺達は解散した。

 さて、今日も一日頑張りますか。




いつもの解説コーナー

『遺産』・・『転生者』が持つ特別なアイテム。某伝説の聖剣や魔槍などの他にも、なかなかユニークな遺産がある。元ネタを探してみるのも面白い。全部は流石に書ききれません。

作中に出てきた立花、嶋田に今後の出番があるかは分かりません。ノリしだいです。
私の技量ではこれが年内最後の投稿になりそうです。
それでは皆様、良いお年を。
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