今年もゆっくりやっていきたいと思います。
この話が終わるのが先か、今使っているパソコンが逝くのが先か、それが問題だ。
(少しはクラスメイトとも打ち解けられるかもしれない。)
そんな朝のひと時を思い出す。
ふっ、所詮は現実逃避だ。
教科書と睨みあうなかで思う。だんだんと内容が難しくなっていく。
単語や意味は理解している。その並び方が理解できない。外国語の読み書きが出来ても、会話が出来ないみたいな。
ただ好きだから、という理由でなんとかなると思っていた過去の自分を殴りたい。
これでも一夏よりは理解出来ている自身はあるが。
前世で『箒機士』の『兵器』の開発を手伝っていたのがまだ功を制しているような。
そういえば、『兵器』を装着しているウィザードたちはどういう感覚だったのだろう。俺が初めてISに触れたときは、なにか懐かしさのようなものを感じたが。
「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。」
山田先生の授業も半ば上の空になりながら考える。
そもそも俺がこの世界にいることが理解できない。
『ファー・ジ・アース』での輪廻から弾き出されても、『主八界』の何処かに転生されるとばかり思っていたのに。
それがなぜ少々のウィザードの力を持ちながら、ウィザードも侵魔もいないこの世界に俺はいるのか。ISを動かせたのか。
イレギュラーにイレギュラーを重ねるとどうなるのか。この世界にとって、どう影響を与えるのか。
まさか、俺以外にウィザードや侵魔がいるわけではあるまいに。
駄目だ。考えてもきりがない。授業に集中しよう。
「これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ」
「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられてるみたいでちょっと怖いんですけども・・・」
クラスメイトの一人が不安そうに尋ねる。たしかにISと一体化するあの独特の感覚は人によっては不安になるだろう。
まるで自分がなにかに乗っ取られるような、そういう恐怖すら感じるかもしれない。
「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出ると言うことはないわけです。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、型崩れしてしまいますが」
・・・ふと、俺と一夏と目が合う。数秒し、顔から火が出たように赤くなった。
今更俺達男子が、普通はいないはずの男子がいることに気付いたらしい。
「え、えっと、いや、その、織斑君と志垣君はしていませんよね。わ、わからないですね、この例え。あは、あははは・・・。」
山田先生のごまかし笑いは教室中に微妙な雰囲気を漂わせた。いや、女子の方々。胸を隠さないで。いややっぱ隠して。何言ってんだ俺。
「いや、男にも腕や脚にサポーター着けてる人はいますし、パンツも同じような物だと思いますから、そう動揺しないでください・・・。」
「そ、そうですよね!男性でもそういうのがありましたね。あはは・・・。」
俺はそう言ったが、思春期の女の子たちの微妙な空間は収まらなかった。先生もまだ赤くなってるし。
ホントどうしてくれるのよ・・・。
「んんっ!山田先生、授業の続きを。」
「は、はいっ!」
妙な空気を咳払い一つでシャットアウト。さすが織斑先生、そこに痺れる、憧れる。真似できそうにないけど。
「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話―つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします。」
AIとも違うらしい、ISの難解な特徴だ。
「それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください。」
なるほど、命を預ける意思を持った相棒なのだから、当然だ。
などと頷いていると、すかさず女子が挙手する。
「先生ー、彼氏彼女のような感じですかー?」
「そッ、それは、その・・・どうでしょう。私には経験がないのでわかりませんが・・・。」
経験っつーとそりゃ男女交際のことだろう。また赤面してるよ山田先生。ちと初心過ぎじゃね?生徒に翻弄されてるよ。
そんな先生を尻目に女子たちは男女についてキャイキャイ騒いでいる。
こ、これが女子校というものか・・・。甘い、甘ったるい・・・。
俺はずっと共学だったからよく分からん。というか、前世の輝明学園のウィザード用の訓練であんな質問したらどうなるか・・・。
他の先生方はともかく、あの『先生』の前だったら・・・。うわっ、今でも寒気が。
俺がかつての記憶に身震いしているとチャイムが鳴る。
「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね。」
いそいそと山田先生が教室から出て行く。お仕事ご苦労様です、と言っておこうか。
「しおー、お菓子頂戴。」
「よし。これをやろう。」
俺はトッ○を取り出し、本音に渡した。ちなみに箱ごとだ。
「わーい♪」
うむ。やはり最後までチョコたっぷりは偉大だ。
「志垣君、朝の続きなんだけどさあ。」
「どうやったらその身体になるの?脂肪率何パーセント?」
立花、嶋田も俺の席に近寄ってくる。
て言うか嶋田。どんな質問だよそれ。
「あ、それ私も知りたかった!」
「それ全部筋肉!?」
それを皮切りに他の女子も話しかけてきた。本音たちがいることや朝のやり取りで、俺に害が無い事が伝わったのだろう。
それでも一夏より寄ってくる女子は少ない。いや、別に悔しくはない。
それよりもみんなが俺の腕やら腹やらを触ってくるんだ。今時の女子はこんなに大胆なのか?俺ちょっと、いやかなり戸惑い気味。
「えーい、ベタベタ触るな。体脂肪率は三パーセントをキープしてる。飯食ってそれなりに動けばこうなるぞ。」
「「「いや、それは無い。」」」
なんなんだよお前ら!まあ自分でも特殊体質だと思うよ。でも声を揃えて否定する事ないじゃない。泣くぞ。
そんな和やか?な空気の中に突き刺すような視線を感じる。これは敵意だ。
大方女の特権であるISの世界、というより今の女尊男卑の世界に俺達がいることが気に入らないのだろう。
それでもこんな素人の敵意なんぞ放っておけばいい。何かしてくるようならその時だ。売られた喧嘩は倍額で買う。それが志垣旺牙だ。
熱い視線に見つめられていると、昨日のようにスパーンと音がする。織斑先生の出席簿が火を吹いた音だ。また一夏が何かやらかしたな。この姉弟は見てて飽きないな。
「ところで織斑、志垣。お前達のISだが準備まで時間がかかる。予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ。」
専用機、と言うと、俺の場合『凶獣』か。束さん、本当に用意してくれたのか。
「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで・・・。」
「ああ~。いいなぁ・・・。私も早く専用機欲しいなぁ。」
うわー、俺はほとんどコネで手に入れるとか言えねぇ。つか企業契約になるんじゃないのかな?あと最後、専用機は簡単には手に入らないぞぉ。
一夏がきょとんとしている。あの顔は何が何やらわかっていない顔だ。
溜息混じりに織斑先生が言う。
「教科書六ページ。音読しろ。」
「え、えーと・・・。」
長いので纏めるとこうだ。
①ISは世界に467機しか存在しない。
②コアは篠ノ之博士以外作れない。博士はコアをもう作っていない。
③コアの取引はアラスカ条約にて禁止されている。
④俺と一夏が特別待遇。ただし。
「本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前達の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」
「な、なんとなく・・・。」
④に実験体の条件が付く。まあ身体や頭を弄くられるよりよっぽどマシだ。
しかし俺だけじゃなくて一夏にも専用機か・・・。
偶然にしては妙だよな・・・。やっぱり束さんが裏で手を引いているとしか思えん。真実はわからんが。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか・・・?」
女子の一人がおずおずと質問する。・・・まあ珍しい名字だし、そう思うわな。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ。」
こら教師。個人情報は守りなさい。チョクチョク俺のところに来ていたとはいえ、あの人は超国家法に基づいて絶賛手配中の要注意人物だぞ。本人はそ知らぬ顔、ゴーイングマイウェイだけど。
「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内がふたりもいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ!」
俺の心中は穏やかじゃない。なにせ箒は・・・。
「あの人は関係ない!」
突然の大声に、箒に群がっていた女子は何が起こったのかわからない様子だった。
「・・・大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない。」
そう言って、箒は窓の外に顔を向けてしまう。
盛り上がっていた女子達も凍りついたような空気の中、困惑や不快な表情で席に着いた。
箒・・・、束さんは昔に戻りたがってる。仲の良かった昔に。
たった二人の姉妹の心が離れ離れなんて、寂しすぎるだろ。
後は、お前の想いだけなんだよ・・・。
「しおーも専用機もらえるんだねぇ。」
などとのほほんと言ってくる本音。ちなみに今度はガムをあげた。よく食う娘だな。
「俺の場合は事前に通達が来てたけどな。ちなみにオカジマ技研。」
「オカジマ技研って、ISの武装開発に力を入れてる会社だよね。」
「そうそう。代表取締役が若くてイケメンなとこ。」
もはや立花と嶋田がセットでくっついて昼食を取っている。
さっきオルコットと一夏がまたひと悶着起こしていたが、一夏なら大丈夫だろう。色んな意味で。
しかしオカジマ技研の代表は若いイケメンか。まさかな。そこまで一致するとは思えない。
「それにしても志垣君、相変わらずよく食べるね。」
「見てるだけでお腹一杯・・・。」
「そうか?」
カツカレーなんて誰でも食べるだろう。まあカツ含めて2kgはあるがな。
「ねえそこの君、今話題の二人の男性操縦者の一人でしょ?」
豪快にカツカレーを頬張っていると、一人の女子が声を掛けてきた。
リボンの色からすると三年生だろうか。
「もう一人の子と一緒に、代表候補生と戦うんでしょ?ISの稼働時間はどれくらい?」
「ん~・・・。大体三十分ぐらいっす。」
「それじゃあ無理よ。ISは稼働時間がものを言うの。代表候補生なら軽く三百時間は動かしてるわよ。」
それは織り込み済み。圧倒的に不利なのは百も承知だ。それでも売られた喧嘩、逃げるわけにはいかない。
「私が教えてあげようか。少しでも良い戦いがしたいでしょ?」
「折角ですけど、その申し出、辞退させていただきます。」
「あら?どうして?」
上級生は少しムッとしたように言った。そりゃそうだ。こんなことを言われたら俺でも不思議がる。
「今このままの俺で、今の実力で臨みたいんです。それで負けたら、俺はそれまでの男だったってだけ。ま、勝ちに行きますけどね。」
「そっ、なら無様に負ければいいわ!」
それだけ言い、彼女は去っていった。プライドの高い人だったのだろうか。なら今の言い方は礼に失していたな。後で名前を聞いて謝らなければ。
「そんな必要ないと思うよ。あの先輩、ただ志垣君に近付きたかっただけみたいだし。」
「そうなのか?」
敵意や殺気には敏感なんだけどな。
「でも、本当に断ってよかったの?あの先輩の言う事にも一理あるよ。」
「良いんだよ。オルコットはともかく、一夏とは同じラインからのスタートなんだ。条件は同じじゃないとフェアじゃない。何より言ったろ?負けるつもりは無いって。」
三人は俺の顔をジッと見つめてくる。なにか変なこと言ったかな?
「しおーってさぁ。」
「うん。」
「結構ねぇ。」
「「「大口叩くんだ」」」
「君ら失礼だな!」
そんな昼休みだった。
解説コーナー
『輝明学園』・・「きめいがくえん」。ウィザードの養成機関。日本全国はもちろん、世界中に系列校、協力校を持っている。一般生徒も通っており、ウィザード生徒は自身の能力を隠しながら修行を行う。何故か秋葉原校に事件が集中する事が多い。ちなみに中高一貫制度を取り入れている学校がほとんど。旺牙は秋葉原校出身。
『箒機士』・・「ほうききし」。マジックブルームに搭乗するクラス。IS搭乗者に近い。
『兵器』・・兵器型箒。箒機士が乗りこなす防具型のマジックブルーム。
最近立花と嶋田をレギュラーにしようか迷ってます。