IS×NW~世界を渡りし者~   作:戒炎

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一夏との戦いは、まあすぐ着けさせるつもりです。
サブタイ詐欺になりかねないな。




男の意地

 さて、凶獣のエネルギー補給も終わった事だし、連戦と行こうじゃないか。

 相手は一夏操る『白式』。

 オルコットに比べれば大した事のない相手・・・なんて慢心はしない。

 

 一夏は長年の付き合いで俺の性格をよく知っているだろうし、癖も知っている。

 今の戦いで動きも見られただろう。

 

 何より、白式は戦闘を見た感じ高機動型。《雪片弐型》での近接戦のみ。

『伏竜』の格好の餌食になりそうだが、当たってはくれないだろう。

 それにもし、あの初代《雪片》と同じ能力だったとしたら、凶獣との相性は最悪だ。

 

 こうなったら、防御を捨てての短期決戦しかない。

 せっかくの重装甲の凶獣を使いこなせていないことに泣けてくるぜ。

 

「しお~。」

 おっと?こっちのピットに本音と立花、嶋田がやって来た。さっきまで観客席に居たと思ったんだけどな。

「さっきは凄かったね、志垣君!」

「ホント!代表候補生相手に勝っちゃうなんてね!」

「運と機体性能のお陰で無茶できたのさ。実力は、良くて同等だよ。」

「「だからそれが凄いんだって。」」

 ハモるなよ・・・。

「本当はかんちゃんも呼びたかったんだけどいつも通りでね~。」

 かんちゃん?誰?歌手?

 まあわざわざ応援に駆けつけてくれた三人の為だ。

 良い試合を、出来れば勝利で飾りたい。

 俺だって男だ。見栄を張りたいお年頃(精神年齢三十歳)だ。

「じゃあ、ちゃちゃっと勝って来るよ。」

「「うん。」」

「がんばれ~。」

 気の抜ける声だな本音よぉ。

 しかし女の子に応援されるのって、結構悪く無いな。

 

 

「志垣旺牙。凶獣、喰らってくるぜ!」

 俺は再びアリーナへと飛び出した。

 

 

 待つこと数秒、一夏と白式が姿を現した。

 今度は互いに一次移行は済んでいる。

 俺はこれでも老練した戦いが出来るが、一夏に三味線は弾けないだろう。

 つまり、最初から全力という事だ。

「来たか、一夏。」

「待たせたか?」

「いいや。」

 遊びにでも出かけるかのような気軽さで言葉を交わす。

 だが、空気はピリピリとしていた。

 互いに闘気を、殺気を交える。

 ハイパーセンサーに、一夏の表情が映し出される。その額には若干汗が滲んでいた。

 おいおい。この程度で気圧されてちゃ、良い戦いは出来ないぞ。

「びびってるのか?」

「・・・正直、怖いよ。さっきの戦いを見たらな。

 怖いと言いつつも、その視線は逸らさない。

「それでも、俺は戦う。千冬姉の名に恥じない人間になるんだ。」

「・・・お前のそういう所、嫌いじゃない。むしろそんなお前だからこそ、俺は友になりたいと思った。」

 俺が拳を構えると、一夏も《雪片弐型》を構える。

 数秒が、何分にも思える時間が経つ。

 そして、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

 

 突撃してくる一夏に対し、俺は『伏竜』の弾幕で迎撃する。

 直線でしか飛ばない『伏竜』を、難なく避けてくる。だが、俺だって棒立ちなわけじゃない。

 一夏を中心に、円を描くように動き射撃を行う。

「くそ、近づけない!」

 そう簡単には間合いを詰めさせない・・・と思ったか!

 射撃を止め、円の動きを維持しながら接近する。

 一夏は慌てて迎え撃つ姿勢をとるが、遅い!

 一閃でその顔面を蹴り飛ばす。

 吹き飛ばされるその身体。それをスラスター全開で追いかける。

 追いついた今度は腹部に一閃。追い討ちに顔を掴んでアリーナの壁に投げつける。

 白式が叩きつけられている間に、『インカネーター』を発動する。

 紫のオーラが凶獣を纏い、そのボディをさらに禍々しく、巨大に見えさせる。

「どうした!それで終わりか一夏!」

 わざと余裕そうに叫ぶのは威圧のため。ここで心が折れるようでは、話にならないだろう。

「まだ・・・、まだぁ!」

 予想通り一夏は体勢を立て直してきた。

 そうだ、それで良い。

 そうでなくては、喰らいがいが無い!

「行くぞ!《一閃錬気蹴》!」

 先程より龍を練り、重い一撃を狙う。

 だが、寸でのところで回避された。

「そこだっ!」

 一夏が放ったカウンター気味の剣戟が、凶獣の肩を軽く切り裂く。

 シールドダメージはほぼ無し。機体ダメージが軽微か。

 これくらいなら、これで直せるな。

 体勢を整え、肩に手をかざす。

「『ヒール』。」

 説明しよう!凶獣には微量の回復用ナノマシンが搭載されていて、多少の傷なら回復できるのだ!

「あ!ズリぃ!」

「ズルクナイモーンダ。機能をフル活用してるだけだ。」

 しかし流石《雪片》の名を継ぐ刀。この凶獣の装甲を切り裂くとはな。

 これはいよいよ短期決戦を心掛けないといけない。

「こいつで攻める!『龍門』!」

 オルコット戦で見せた連撃を見舞う。

 回避を試みた一夏だが、そう簡単に抜け出せるほどこの技は甘くない。

 防御を主とする俺の、必勝パターンなのだから。

「ソラソラソラソラソラソラソラッッ!!」

「ぐっ、が、くあ!?」

 逃がしはしない。これで決める覚悟だ!

 

 

『龍門』は確かに全弾当てたはずだ。

 それなのに一夏は立っている。

 シールドエネルギーは残り二桁。美しかった白式のボディもボロボロだ。誰が見ても満身創痍。本人へのダメージも相当のはずだ。

 それでも、一夏は立っている。

「・・・どうしてそこまで粘れる?もう決着は着いただろう。」

「・・・まだだ。まだ、倒れられない。」

 やれやれ、これじゃ俺が完全に悪役じゃないか。

 まぁ、こんな形じゃ仕方ないわな。

「意地か。」

「ああ、下らないかもしれないけど、意地があるんだよ。」

 下らなくなんかない。その意地で、お前は立っているんだから。

「俺は、今度は俺が、千冬姉を、お前を守るんだ。こんな所で、倒れられるかよ・・・。」

 千冬さんだけじゃなくて俺もかよ。

 一夏。お前って存外欲張りだよな。

 でもな一夏。千冬さんはともかく、俺のことを気にする事はないんだ。

 お前は、お前達は自分の道を行ってくれ。

 じゃないと、心配で俺の方がどうにかなっちまう。

「なら覚えておけ。これが暴力だ。お前を、お前達を襲うものだ。少なくとも、俺を超えないと、千冬さんを守るなんて言ってられんぞ。」

「はは、肝に銘じておく、よ!」

 こいつの最後の一撃なのだろう。雪片弐型が凶獣の胴体を掠める。

 それを確認してから、俺は一夏の顔に掌を宛がう。

「錬気掌。」

 龍を流し、最後の一撃を与えた。

 

 

《試合終了!勝者、志垣旺牙!》

 

 

 互いにISが待機状態に戻る。

 一夏が傷だらけだ。流石にこの状態を放置は出来ない。

(『医竜』。)

 気を送り、傷を癒す。僅かに一夏の身体が光ったが、微々たるものなので誰も気付かないだろう。

 そのまま一夏を担いで彼の出てきたピットへと向った。

 

「一夏!」

 ピットに戻ると、箒が駆け寄ってくる。

 普段からこれならこいつも可愛いのにな。

「心配するな。疲れてるだけだ。直に目を覚ます。」

「そうか・・・。」

 安心した後、キッと俺を睨みつける。

 こいつはこいつで解っているんだろうが、やはり理性が文句があるらしい。

 それを必死で抑えているんだろう。

「ん・・・。」

「お、お目覚めか。」

「あれ・・・。そうか、俺、負けたのか・・・。」

 後を箒に任せ、俺は自分のピットに戻った。

 

 

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「その、なんだ。箒。」

「負け犬」

「酷くね!?」

 一夏に肩を貸したまま、箒は言い放った。

 あまりの言い草に抗議の声を挙げるが、体の痛みで上手く声が出ない。

「それでも。」

「え?」

「それでも、最後の意地は、見せてもらった。」

「箒・・・。」

 沈黙が場を支配する。

 それを破ったのは、一夏の一声だった。

「また、教えてくれよ。」

「何?」

「今度は、ISをさ。負けっぱなしじゃ嫌だから。」

「ふ、ふん!当たり前だ!あんな体たらくでは話にならないからな!」

 そう言って顔を真っ赤にし背ける箒。

 傍から見ていれば照れているのが丸解りなのだが、当の一夏が鈍いため、意味が無かった。

 

 一方で、千冬は違う事を考えていた。

(一夏のダメージは相当の物だったはず。それがこの短時間で目覚めるとは・・・。先程旺牙に担がれた時淡く光ったように見えた。ISの機能か?それとも、旺牙、か?お前は何をした?お前は、何者なんだ?)

 千冬の旺牙に対する疑念が生まれた瞬間であった。

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「さすがに怖かったか?」

 ピットに戻ってきた俺を出迎えたのは、いつも通りの満面の笑みの本音と、若干笑顔が引き攣っている立花と嶋田だった。

 もう怯えた小動物のようだった。そこまでか・・・。

「いやだって、あそこまで一方的だとさぁ・・・。」

「ねぇ・・・。」

 一夏が可哀相ってかい。ああそうですかい。

 俺だって頑張ったんだけどね。

「あ、志垣君が悪いわけじゃなくて、なんて言うか。」

「こんな強い人が、世界で二番目の男子で同じクラスなんだって思うと圧倒されちゃって。」

「しお~は強いんだね~。お菓子あげる。」

 俺の味方は君だけだよ本音ェ・・・。

 

 

 

 

 その夜。

 日課のトレーニングを終わらせるといつの間にか簪が部屋に帰ってきていた。

 何処へ行っていたのか聞いてみたが、お茶を濁すばかりだ。

 ちょっとは親しく慣れたと思うんだがなぁ。まだまだか。

 久しぶりにクッキーなんぞを焼いてみたくなり(餌付けじゃないぞ)備え付けのキッチンに向う。

 調理器具は揃っているし、材料も買っておいたから問題ない。

 さて始めるかと思ったその時、部屋の扉がノックされた。

 エプロンを外して来客の対応に向う。

 来客は意外な人物だった。

 

「どうした、オルコット?」

「い、いえ・・・。」

 もう八時を回った時間。

 おそらく目当ては俺だろう。クラスの違う、と言うかまず面識の無いだろう簪に会いにきたとは思えない。

「なんなら上がってくか?ルームメイトもいるけど。」

「いえ!ここで大丈夫ですわ!」

 なにやら緊張した面持ち。

 俺何かやらかしたっけ?

「そ、その!今まですみませんでした!」

 ・・・ハイ?

 何故いきなり謝られているのかな俺は。

 簪も驚いている。いや、君以上に俺が驚いているんだからね?

「人を見かけだけで醜いなどと判断して、あんなに高潔な戦いが出来る方を、その。」

 ああ、そういうことか。

「人間第一印象は所詮見た目だ、見た目を言われるのは慣れてるよ。それに俺の戦い方は高潔とはかけ離れてる。」

「それでも!貴方方からは強さを感じましたわ!戦闘ではなく、人としての強さを!」

「・・・なんでそんなに声を荒げる。お前に何があった。」

「・・・それは。」

 それから俺は簪の許可を取り、オルコットを部屋に上げた。

 とりあえずハーブティーで持て成す。

 オルコットの話を纏めると。

 オルコットの家は女尊男卑の前から母親が強く、夫は妻の顔色を窺ってばかりいた。そのせいか、オルコットは「男は弱いもの」という考えに育ってしまったらしい。

 そしてある日、両親は事故で他界した。

 残された遺産を狙い、親戚や財界の者が寄ってきた。ここでも彼女は、人間の醜い部分を見てしまった。

 それに負けず、オルコットは一人で家を護ってきた。そういうことだ。

 一人と言っても、気を許せる人間はいたそうだが。

「それが今日、強い意志を持った男性がいることを知りました。一夏さんと、貴方です。」

「強い意志ね。俺はともかく、一夏は強い。いや、強くなる。心も、力も。それは確かだ。」

「わたくし、どうすればいいのでしょう。あそこまで酷く言ってしまって。」

「アイツは気にしないさ。それでも気がすまないって言うなら。」

 俺は一呼吸置いて告げた。

「友達になれば良い。人と人が離れるのは簡単だけど、くっつくのも簡単なんだ。特に、アイツにはもっと多くの友達が出来てほしい。そして、前に進んで行って欲しいんだ。」

「何だか父親みたいな台詞ですわね。」

「言うな。自分でも親父臭いし酷い台詞だと思ってるんだよ。」

 何が悲しくて親友の人間関係をサポートせな・・・いや、親友だからするのか。

「という訳だから、オルコットも「セシリア」ん?」

「セシリアとお呼びくださいな。わたくしたちももう、友人、好敵手(とも)ではなくて?」

 は!一本取られたよ。

「俺も旺牙と呼んでくれ。これからよろしく、セシリア。」

「ええ、旺牙さん。」

 今夜、また一人友人が出来た。

 

「ところでセシリア。お前一夏のこと・・・。」

「わーわーわーきゃー!」

 あの野郎、また一人落としやがったか。

 

--------

「私、何だか置いてけぼりなんだけど(ボソ。」

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解説コーナー

『ヒール』・・本来は誰でも習得できる一般魔法と呼ばれる特技。ダメージをある程度回復する。

『医竜』・・気を送り込み、他者の傷を回復する龍使いの特技。自分には使えない。

 少し圧倒しすぎた感がある。
 言うなれば、
 
 ???>国家代表>旺牙>>代表候補生≧一夏
 
 みたいな感じです(IS使用時)。条件次第では国家代表≧旺牙になります。

 いよいよ立花と嶋田に出番を与えなくてはいけないのだろうか・・・。
 皆さんはどう思います?

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