さてさて、鈴が編入してきて賑やかになりそうなんだが、最近視線を感じる。
いまだに好奇の視線に混じり、男がここにいることに対する敵意を感じ取っていた。 が、それとも違う。俺を観察するような気配だ。
向こうは上手く隠しているつもりだろうが、『気』が隠しきれていない。だが、堅気でも無さそうだ。
・・・そろそろ鬱陶しいので今日はコンタクトをとってみようと思う。
学校が終わった後、少しづつ人混みから離れ、校舎裏に誘導する。相手もそれを理解したのか、気配を隠さなくなってきた。
ふむ、そろそろ良いか・・・。
「この辺りでいいだろう、追跡者さん?」
「あら、やっぱり気付いていたのね。」
振り返るとそこには、水色の髪をしたスタイルの良い、控えめに言っても美人な女子が立っていた。
その顔には見覚えがあった。二年生でありIS学園の生徒会長、そしてロシア代表に選ばれた実力者、更識楯無だ。ん?更識?
「いつごろから私の尾行に感づいていたの?」
口元を扇子で隠しながら聞いてくる。その扇子には『疑問質問』と書かれていた。
「いや、貴方ほどの実力者が気配を隠していたら、逆に不自然なんですよ。」
「あらそうだった?それは失礼♪」
分かっててやってたか。喰えない人だ。
「ところで生徒会長様が、俺に何か御用で?」
「そう身構えないでよ。大した用じゃ、いえ、大した用かも。」
更識先輩は扇子をパシンと閉じる。その刹那、右の手刀を繰り出してきた。
殺気は感じなかった。だが、この程度の速度では捉えられる。
左手でその手刀を受け止める。
その後に放たれた左ハイキックを右腕で止める。
受け止めた攻撃をそのまま受け流し、回転させるように投げる。柔術の応用だ。一応『あの人』から力任せ以外の戦い方、相手のいなし方も伝授されている。
更識先輩はその投げに逆らわず、その場で一回転し着地する。ちらりとスカートの中が見えた気がするんだが気のせいだ。俺は知らんったら知らん。
「良いわね。よく反応したわ。」
「よく言いますよ。全然本気じゃないくせに。」
今の一瞬で、彼女がほとんど手を抜いているのは理解できる。
聞いた所によると、IS学園の生徒会長は学園最強の証でもあるらしい。
そんな最強様が、こんな子供騙しの芸当に本気で返し技を使ってくるとは思えない。
まあ、本気だったとしても簡単には負けてはやれんけどね。
「挨拶は終わり。ちょっとした試験のつもりだったけど、貴方は合格ね。」
「合格?」
「ええ。自衛できるかどうかの試験。」
「自衛なんて今までもやってましたが?」
「そういう意味じゃないのよねぇ。」
先輩が広げた扇子には『専守防衛』と書かれていた。・・・あの扇子、取り替えたところを見ていないんだが、どうやって文字を変えた?触れてはいけないことなのか?
「貴方、それと織斑一夏くんは世界でも貴重な男性操縦者。それは理解しているわよね。」
そりゃもう。ここに来る前に「モルモットにならないか?」なんて言われたこともあるぐらいですから。
「貴方達を狙っている人物や組織、国家はそれこそ山のようにいるの。そんな連中から、大事な大事な二人を護るのが私のお仕事ってわけ。」
「お仕事?あなたは一体?ただの女子高生とは思えませんが。」
「ん~。貴方には教えておいても良いかな。簪ちゃんのこともあるし。」
そう前振って、更識先輩は告げた。
「更識家は日本の影の部分。対暗部用暗部。私はその現当主なのよ。」
暗部。つまり汚れ仕事や各国のスパイ対策のようなものか。現代の忍と言うべきか。(この比喩が正しいか分からんが)
道理で俺の柔術に軽く反応できたわけだ。相当鍛えこんでいる。
「あら、驚かないのね。」
「もう何があっても驚きませんよ・・・。いや、驚けないと言うべきかな、はは・・・。」
「貴方も結構苦労してるのね。」
そんな哀れみの眼は要らん。
「とりあえず、貴方の護衛は今のところ必要無さそうね。一夏くんには機を見て接触してみましょう。」
「あぁ、アイツには必要かも知れませんよ。今のところ弱いですし。」
「あら辛辣。でも今のところという事は。」
「ええ。化けますよ、アイツは。」
一夏の強さは心の強さだ。そしてそれは今はダイヤの原石だと思う。磨けば磨くほど、アイツは輝く。俺はそう確信している。親友贔屓かな。
「そう。なら今後の彼の活躍に期待ね。ところで、もう一つ、お願いがあるんだけど。」
先程までと違い、どこか様子が変だ。歯に何か詰まったような物言いというか。
「そういえば、さっき簪ちゃんって呼んでましたけど、もしかしてお二人は。」
「え、えぇ、あの子は妹なの。」
やっぱりか。性格は全然違うけど、どこか面影がある。
だが、簪がどうしたのだろう。
「今からする私のお願いに、ハイかYESで答えてね。」
やめてくれ、アンゼロットを思い出す台詞はやめてくれ。
「どうか、妹をお願い!」
「・・・はい?」
「つまり、簪の友達になってやってくれ、と。」
「そう。そうなのよ。」
「何故に俺に?」
「貴方を観察していて、その紳士的な態度を信じてみる事にしたわ。」
「喧嘩は買うって明言した男ですよ。」
「でも自分から揉め事を起こした事は無いじゃない。」
あー言えばこー言う。
しかし何故更識先輩はそんな事を言い出したのだろう。
「ほら、あの娘、ちょっと暗いでしょ。」
結構ズバッと言うな。
「それでまともに会話する人間なんて貴方か本音ちゃんくらいのものよ。だから、貴方の存在は貴重なの。」
「いや、姉妹なんだから相談事に乗るとか、色々あるでしょう。」
「う、そ、それは・・・。」
はい確定。この姉妹訳ありだわ。
何で俺の周りの『姉妹』はこう面倒事を抱えているんだか。
「別に簪が嫌いなわけじゃないんでしょう?」
「そんな事あるわけないじゃない!!」
初めて怒鳴られた。ついでに扇子には『妹魂上等(シスコンじょうとう)』の文字が。
深くは突っ込まないけど、何をやらかしたんだか。
しかし友達になってくれ、ねぇ。
「先輩。その話、言われるまでもありませんよ。」
「・・・どういうこと?」
視線に殺気が篭る。答え次第では殺す、と言わんばかりだ。
「俺は彼女とはもう友人のつもりです。最近は少しづつ会話も増えてきましたし。」
「・・・そう。」
何だか複雑そうな、悔しそうな顔をする。
俺はどう答えれば良いんだよ。
「それにしても、よくそんなクサい台詞が言えるわね。意外と気障?」
「キザでもギザでもないですよ。俺は真実を言ったまでです。」
自分でもちょっと恥ずかしいけどな。
「そう。それじゃあ、簪ちゃんのこと、よろしくね。」
「うい。任されました。」
そう言うと、先輩は校舎裏を後にした。
さて、あとはもう一人だな。そろそろ出てきてもらおうか。
「話は終わりましたよ、織斑先生。」
「ふ、私の気配にも気付いていたか。やはりな。」
---楯無side---
私ったら、初対面の相手に大事な妹を任せようだなんて、血迷ったかしら。
でも、彼の左眼はとても澄んでいた。見ているこっちが安心してしまうほどに。
それに、本気で戦ったら、正直勝てるかどうか分からない。そんな底の知れない強さを秘めている。
いつか一夏くんと一緒にISの訓練をするのも良いかもしれないし。
それにしても、彼って本当に十五歳なのかしら?
年齢不相応に落ち着いてるわ。
今はまだ要観察ね。
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「で、更識はどうだった?」
「強いですね。でも、どこか甘さが見えた。」
おそらく試合では良い勝負が出来るだろう。
だが、『何でもあり』の『殺し合い』では、俺が勝つと断言できる。
あの人の心にはまだどこか隙があるような気がする。
「しかし俺の知り合いは訳ありばかりですね。どんな星の下に産まれてきたんだか。」
「『類は友を呼ぶ』と言うぞ。」
どこか楽しそうに言う織斑先生。それなら、俺の姉代わりの貴女が一番の変わり者と・・・。
ギロリと睨まれた。だからなんで考えてる事が解るんだよ。
「お前の人物眼は意外と馬鹿に出来ん。お前が言うなら更識は甘いのだろう。まあ、私から見れば奴もまだまだひよっこだがな。」
おお厳しい厳しい。
さて、俺はそろそろ帰るとしますかね。
「では先生。今日はこれで失礼します。」
「ああ。でわな。」
踵を返し、立ち去る俺の背中を、織斑先生はじっと見つめていた。
そういえば、なんであそこに居たんだろうか。
時間は夜。夕食も済ませ、次は何を作ろうかと考えていた所だった。
「簪、何か食べたいものあるか?」
「いつも思うけど、旺牙はなんで色々作れるの・・・?」
・・・趣味だから?
なんて会話をしていると、ドンドンドンッ!とドアが乱暴にノックされる。
こんな時間に誰だよ、とブツクサ言いながら応対する。
ドアを開けた先にいたのは、先程のノックとは対照的にしゅんとした鈴だった。
「・・・何やってんだお前。」
「・・・ちょっと話聞いて欲しくて。」
はぁ。どうせ一夏と喧嘩したとか、そんなところだろう。
昔から鈴は一夏と何かあると俺に相談してくる。
面倒だと思ったことは無いが、最後は惚気話になるので少し気が滅入る。
「とりあえず入れよ。簪ー、ちょっと客が来たけどいいよな?」
「え、あ、う、うん・・・。」
「・・・。」
「ほいよ、アイスティーとプリンくらいしか無かったけどいいかな?」
「あんたってホント・・・。お菓子職人にでもなれば?」
おいおい。俺の進路希望は町工場だったんだぜ?
簪は自分のベッドに座ってチラチラこちらを見ている。
鈴は椅子に座らせ、その対面に俺も座る。これが一年前までのよくある光景だった。
さて、今回はどんな相談なのやら・・・。
「織斑一夏・・・。馬に蹴られて死ねば良いのに・・・。」
「辛辣だな簪。だが今回は俺も擁護できない。」
「でしょ!?あいつったら本当にもう最低!」
鈴が怒るのも無理はない。
織斑一夏。我が親友。アイツは鈴の一世一代の勇気を勘違いしてとらえていたのだ。
『毎日酢豚を食べてくれる?』を『毎日酢豚を奢ってくれる』と解釈。
いやいやいや。ありえないだろう。
女の子が毎日ご飯を作ってくれる。日本風に言えば『味噌汁を作ってくれる』と言うのは、もはや告白だ。
そんな約束をそんな風に間違って覚えているのは日本中、いやさ世界中を探しても一夏ぐらいなものだろう。
あの馬鹿・・・、余計な問題を起こしやがって。
「しかし鈴よ。アイツがどこまでも朴念仁なのはお前も知ってるだろう。」
「でも今回のは流石に頭に来たの!」
こいつはこいつで意固地だからなぁ。頭に血が上ってるうちは何言っても聞かないか。
「あ、このプリン美味しい。あんたまた腕上げたわね。」
「アップダウンが激しいのも相変わらずだな。」
ちょっとお兄さん呆れるよ?
「とにかく!あたしは怒ってるの!聞いてる!?」
はいはい聞いてますよ。
まったく下らねぇ・・・。痴話喧嘩は当人だけでやってほしいよ。
それに首突っ込む俺も俺か。
「そんなに気に入らないなら、今度のクラス対抗戦でその怒りをぶつけてみれば良いんじゃないか?体動かしたほうがお前もすっきりするだろ?」
「・・・それもそうね。よーし!一夏の奴、ボコボコにしてやるんだから!」
一夏と当たるまでどっちも負けないと良いな。
なんてこと言っても無駄か。こいつの自信家ぶりはセシリアに匹敵する。
「そうと決まれば力着けないと!旺牙、プリンお代わり!」
「あ、旺牙・・・その、私も。」
「はいはい畏まりましたよお嬢様方。」
女子は甘い物が好きだねぇ。
翌日、生徒玄関前廊下に大きく張り出された紙があった。
表題は『クラス対抗戦日程表』。
一夏の相手は、鈴だった。
神よ、貴方も下らねぇ運命を下さる。
人物紹介コーナー
アンゼロット・・ファー・ジ・アースの守護者。見た目は可憐な美少女だが神々の使徒であり、ウィザード達に様々な無茶振・・・使命を与える。とても『イイ性格』をしている(ここでは書ききれないほど酷い場合もある)。