憑かれてるのかなぁ・・・。毎月ご祈祷してもらってるんだけどなぁ・・・。
目を開ける。身体中が痛い。柔らかい何かに身体を預けている状態だ。
ああ、ここは保健室か。どうやら気を失っていたようだ。
人の気配はしない。先生はちょうど席を外しているようだ。
自分でも何があったのかよく覚えていない。ただ新しい男が奴を連れて行ったのを最後の記憶に残っている。
敵。『俺達』の敵、侵魔。『紅い月』より来る世界の侵略者。
何故奴らがこの世界にやって来た。しかも固有名を持った個体が。いや、奴の言ったことが本当なら、『魔王級侵魔』までこの世界を狙っていることになる。
世界結界の存在しないこの世界に侵入するのは、たしかに容易いのかもしれない。だが、どうやってこの世界の事を知った。
いや待て。世界結界が存在しない?ならなぜ紅い月が昇った?結界が無いなら、門は必要ないはずだろう。
まさかと思い、自分の『月衣』に意識を集中させる。すると、俺が前世で不測の事態の為に持っていた拳銃が手に握られていた。
「嘘だろ・・・。」
慌てて拳銃を仕舞う。月衣が使える。それはこの世界に結界が張られている証拠だった。試しに、簡単な結界も張ってみる。出来た。出来てしまった。すぐに解除する。
間違いない。この世界に、世界結界が生まれている。
そして俺は、ウィザードだったものから本物のウィザードに覚醒している。通りで織斑先生の出席簿アタックが最近効かないはずだ。月衣が俺を護っていたからだ。
トルトゥーラと戦っていた時はひたすらに夢中だったけど、いくらISでも魔法を食らってタダで済むはずがない。あれも月衣の恩恵か。
何故だ。何故この世界がこんな事に・・・って、あ。
まさか、俺が束さんに前世の事を話したときから?
だとしたら、ヤバクネ?俺が世界を変えてしまったってことか?
よーし落ち着け俺。深呼吸だ。もしそれが事実なら、ヤバイな。
頭を抱えていると、保健室の扉がノックされる。
「まったく、まだ眠りこけているのか・・・どうやら目を覚ましたようだな。」
「ええ、おかげ様で、織斑先生。」
部屋に入ってきたのは織斑先生と、保健の井上先生だった。軽口を返したつもりだったが、井上先生がやけに慌てている。
「落ち着いてください井上先生。」
「ですが織斑先生!彼は三日間眠り続けていたんですよ!?」
三日!?やけに身体が痛いと思ったらそんなに寝てたのかよ。
「大丈夫ですよ先生。これぐらい平気です。慣れてますから。」
「そうです。こいつは昔から無茶ばかりの小僧でしたから。」
ひでえ。
「ですが・・・。」
「ダイジョーブッす。姉代わりの言葉っすから。」
オロオロしながらも俺の身体のチェックを忘れない井上先生。彼女もやはり、IS学園に集められたプロだということか。
「しかし大変だったのは事実だ。日本政府がお前の怪我を理由に身柄の引渡しを求めてきたのだからな。ま、全て蹴ってやったがな。」
げ。そんな事になったら、治療を名目に何されるか分かったもんじゃない。学園側には感謝感謝だな。
「そういえば一夏たちは大丈夫だったんですか?」
「ああ。初日の夕方にはケロッとして帰っていったぞ。最後までお前の心配をしていたが、面会謝絶を理由に追い出した。」
はは、やっぱりひでぇやこの人。
「それでは志垣。早速本題に入ろう。『アレ』は何だったんだ。お前も奴らも互いを認識しているようだったが、なぜかカメラの調子が悪くなってな。肝心な部分が聞こえてこなかった。」
・・・やっぱりきたか。さて。
「誤魔化そうとしても無駄だ。お前が真実を話すまでここに軟禁する。」
「ちょ、怪我人学生相手に容赦ないっすね?」
「当たり前だ。・・・私だっていまだに信じられんのだよ。あんな化物のことはな。」
どうする、話すか。・・・そうだな、この学園で真実を知る人間がいても良いかも知れん。というか、束さんに話した時点で手遅れなら話してしまおう。
「解りました。ただ、これを話すのは織斑先生だけです。井上先生を含め、口外は無用です。」
「それが通る立場だと?」
「通らなければ一生話しませんよ?」
俺と織斑先生の間に、見えない火花が飛び交う。喧嘩売ってるみたいで嫌だが、俺も真相がはっきりしない現状、俺の、そして『世界の真実』を知る人間は少ないほうが良い。回避できないなら、出来るだけ信用も信頼も出来る人間が好ましい。
「・・・井上先生、人払いを。」
「ですが。」
「この馬鹿はこうなったら梃子でも動きません。重要な事柄は私から学園に話します。」
「・・・はい。私は表にいますので、話が終わったら声をかけてください。」
そう言って井上先生は出て行った。話が分かる人で助かったよ。
さて、あとはこっちだな。
「さあ状況は整えたぞ。さっさと話せ。」
「はい。ただ、これから話すことは本当に荒唐無稽な話です。」
「『ウィザード』に『侵魔』、さらに言えばお前は別世界からの転生者、か。まるで漫画かゲームだな。」
「はは、何も知らなかったら俺もそう思うでしょうね。残念ですが真実です。」
「そしてその侵魔がこの世界に侵略してきている、ということも真実か。」
「はい。」
俺の知っていることを、全てでは無いが話した。俺が関わった事件は、今は関係ないだろうから、ただ多くの戦いを経験したと言っておいた。
「お前がそのウィザードとやらに目覚めたのはいつだ?ああ、こちらでの話だ。」
「記憶は産まれた時からです。能力は最近。」
「なるほど、お前が時折やけに大人びた言動をする理由が解ったよ。体感的に、お前は一夏たちの倍生きているわけだ。」
「まあそうですね。しかし、よく信じる気になったもんだ。」
普通ならこんな与太話一笑に伏せるところだろ。
「お前がこんな時に下らん嘘を吐く男だとは思っていない。おそらく真実なのだろうな。・・・信じたくない事も含めて、な。」
侵魔の存在の事を言っているのだろう。たしかに、あれは普通の人間(イノセント)にとっては脅威だ。ウィザードで無い以上、織斑先生・・・、千冬さんや束さんでも対抗できない。
トルトゥーラの幻惑魔法が効いたこともあり、人類には為す術は無いのかもしれない。
いや、あった。
「しかし旺牙。お前の話が本当なら、ブルー・ティアーズがあれ等に対抗できたのは何故だ?イノセントとやらがどんな兵器を使おうと、侵魔とやらに傷を負わせることは出来ないのだろう?」
「そこなんですよ。あの時は必死だったんでセシリアを頼ったんですが、なんで有効打どころか致命傷を与える事が出来たんだろう。」
「オルコットがウィザードという事はないのか?」
「ありえません。ウィザードは隠そうと思わない限り同類には解るもんですし、セシリアがあの状況で隠すメリットは無いはずです。大体俺以外のウィザードにこの十五年出会ってない。」
となると怪しいのはISの方か。あれが何かウィザードの代わりになっているのか?
もしそうなら俺の凶獣も怪しい。アレには俺の龍や超能力を乗せられる。まるで俺がウィザードとして戦うことを想定していたみたいに。・・・あ。
「そういえば「なんだ」IS造る前の束さんにも喋っちゃった・・・。」
「・・・」「・・・」
沈黙が空間を包む。
ゴッ、という音と共に、拳が俺の頭に振り下ろされる。いや、音を置き去りにしていたかもしれない。
痛くないけど響くんだよ!脳に!
「そういう事は早く言え。」
「スンマソン・・・。」
「束が何か仕込んだか?そういえばISを造るとき妙な男がいたような・・・。」
何やらブツブツと呟く千冬さん。何か心当たりがあるのだろうか。
心当たりと言えば、オカジマ技研もだ。いくら基礎を束さんが作ったとはいえ、なぜ凶獣を完成出来た?さっきも考えたが、あれは『ウィザードの俺』の専用機と言っていい。
一度探りを入れてみるか。
「まあいい。確かなのは、一般生徒では相手にならん『敵』が存在するのだな。」
「はい。最悪、先生方が相手でも、勝てるかどうか。」
しかも月匣を張られたら最後。相手が招き入れないかぎり俺でも手出しできない。
「解った。私から学園側にはテロリストの仕業としておいた。この『真実』もお前の許しが無い限り口外しない。」
「ありがとうございます。」
「だが、一人で全て抱え込もうとするな。身体を大事にしてくれ。あんな思いはもう嫌なんだ・・・。」
千冬さん・・・。違うよ、あれは俺が勝手にやったことだ。あんたがそんな顔しちゃいけない。
それに、いつか言わなくちゃいけないけど、あなたのそれは、唯の・・・。
「さて、お前はもう一日世話になっておけ。録に体も動かせないのだろう。」
「ははは、なんでもお見通しで。ではお言葉に甘えて。」
「なに、退院後の補習と課題が楽しみなだけだ。なぁ志垣?」
うおおおおおお!俺の身体よ動いてくれ!ドSな悪魔に殺されるぅ!(主に脳が)
「で?お前は何でまた此処にいる?」
保健室から解放され、地獄の補習を受け、さらに山のような課題を頂いたその夜、寮に帰るとまたもや鈴が寛いでいた。
「うっさいわね。友達の部屋に行くのに理由がいるの?ねー、簪。」
「うん。私も鈴と話するの、楽しいから。」
この女、外堀から埋めていやがった。あ、俺の作り置きのクッキー食べてる・・・。
はぁ。なんか怒る気にもなれんわ。
もう見慣れた光景にため息を吐くしかない。
「あー、旺牙。身体はもう平気なの?」
「おうよ。お前こそどうなんだよ。」
「あたしはほら!元気さが魅力の一つと言うか?」
ホント、あんな事があったてのに、その元気を分けて欲しいもんだよ。
「それでもさ、その、一夏とあたしを助けてくれたみたいじゃない?」
何だ急にしおらしくなりやがって。
正確にはセシリアもだけどな。
「その、ありがとう・・・。」
・・・はぁ。
デコピンを軽く鈴にお見舞いする。
「~~つ~~。なにすんのよ!?」
「あのな、友達を助けるのに頑張るのは当たり前だろ?そんなこと口に出さすな恥ずかしい。」
そんなことより、お兄さんは君が一夏と仲直りできたかどうかの方が気になりますな。
そう言うと顔を赤くして俯いている。なんだ?なにか良い事でも
「聞いてよ旺牙!」
あ~あ~、こりゃだめだ。
「今度はデートと思わせておいて俺や弾を誘って遊びに行こうと。なるほど。」
馬鹿かアイツ。
「織斑一夏、救いようが無い・・・。」
今回は俺も賛同だよ簪。
プリプリ怒りながらクッキーを頬張る鈴。おい、掃除してけよ。
ここは話題を変えよう。そうでもしないとやってられん。
「そういや、親父さんとお袋さんはどうしてる?特に恋愛相談なんか、お袋さんに聞いてみればいいじゃないか。」
「・・・。」
急に大人しくなった鈴。なんだよ、だからアップダウン止めろって。
「一夏にも話したんだけどね、あたしの両親、離婚したんだ・・・。」
あ、地雷踏んだ。それも特大の。
簪からの死線、もとい視線が痛い。
鈴が中国に帰ることになったのもそれが原因だったらしい。
たしかにあの頃の鈴は不自然なまでに明るく振舞っていた。それが逆に俺と一夏に違和感を覚えさせるほどに。
だが、あの二人が離婚していたとは・・・。俺には理想の夫婦に見えていたんだが。
原因は、流石に解らん。俺自身恋愛をしたことが無かったから、彼らの下した決断が理解できん。たとえそれがどれほど深い事情があったにしても、ここに一人、笑えていない少女がいる。
ここ一年、会ってもいないそうだ。
「親の事で一夏や旺牙には相談しにくくて・・・。」
まあな。俺達は両親がいない。俺は死別、織斑姉弟に至っては「捨てられた」とまで言っている。
「難しいよね、家族って・・・。」
「・・・あぁ、そうだな。」
「じゃあ二人とも、お休み。」
「じゃあね、鈴。」
「いい加減自室で過ごさんとルームメイト泣くぞ。」
さて、課題に入りましょうかね。
はぁ、超ダルビッシュ・・・。
「家族は難しい、か・・・。」
ここにもいましたね、難しい家族が。
この姉妹もいつかどうにかしないといけないな。
『紅い月』・・『月門(ムーンゲート)』が開くと現れる幻の月。真の月とも呼ばれる。
『月門』・・裏界から侵魔が現れるときに開く。
『魔王級侵魔』・・強大な力を持った侵魔達。爵位で階位を現される。最高位は皇帝。現在とある事情にて空位。
次回からしばらくオリジナル展開が続きます。転校生二人が好きな方々はスイマセン。
許してちょ♪
あ、石は止めて、鉄球も止めて、そんな棘付きなんてギャー