このとーり反省していますのでどうかお許しください、なんでもしますから
やはり最近スラスター、特に右脚の調子が悪い。
ガードを固める分には問題無いが、蹴り脚がすっぽ抜けたり変な方向に曲がったりしたら事だ。早急に解析、必要なら処置が必要だろう。いくらISに幾らかの自己修復機能があるとはいえ、このまま放っておいたら変な癖が出来かねないしな。
という訳で、俺は今珍しくも整備室に来ていた。
しかしどうしよう。俺一人じゃ技術はともかく知識が足りん。ISを弄ったことなんて無いからな。
『前』の箒機士から聞いた知識が役に立つと良いんだが・・・。
っと、どうやら先客がいたらしい。しかも知り合いじゃないか。
「よう、簪。」
俺は軽く右手を挙げる。
「あ、旺牙・・・。」
簪は俺を見つけると一旦作業の手を止める。
彼女の目の前には一機のISが鎮座していた。
「これがお前の『相棒』か。」
「うん、これが私の『打鉄弐式』。」
その姿は名の如く、何処と無く打鉄に似てはいたが、そこはやはり後継機であり専用機。通常の打鉄と細部が異なっており、専用武器の搭載部も見受けられた。
俺はその姿を見て素直に美しいと思った。
白式やその他の専用機のような華やかさこそ無く、凶獣のような禍々しさも無い。
だが、戦う者の気骨が感じられた。
俺が打鉄弐式に見入っていると、簪は作業を再開させていた。
眼鏡型の簡易ディスプレイから流れてくる情報を整理、高速でタッピングしプログラムを組んでいる。正直に言って、何をしているのかまるで目で追えない。
「なに、やってるんだ?」
恐る恐る聞いてみた。
彼女は今度は手を休めることなく返答する。
「今は武装のデータの構築。他にも稼動データの確認。やらなくちゃいけないことはいっぱいある。」
手と眼を忙しそうに動かしながら答えるその姿からは鬼気迫る何かを感じさせた。
言うならば「邪魔をするな」だろうか。
「そ、そうか。なら俺はあっちで自分のISの調子を見てるよ。」
今度は返答は無かった。ちょっと怖い。
さて、どうしたものか。あわよくば一緒に整備を、と思っていた目論見は外れた。
下手に弄って余計に調子を悪くさせたら目もあてられない。誰か助っ人になってくれそうな人はいないかなぁ~。
「あれ、志垣くんじゃん。」
「え?志垣くん?」
あ、嶋田と立花だ。ん?あの二人って確か整備科。
「お二人さん!良い所に!今暇か?」
「「??」」
「なるほど。右脚のスラスターね。」
「ああ。ちょっと見てもらえないか?」
「はいはい。ちょっと『診てあげる』から、展開してくれない?」
「ん、了解した。」
そう言われ、凶獣を展開する。展開と言っても、装着するわけじゃない。さっきの打鉄弐式のようにハンガーに鎮座させた。
「ふんふん。」
「えーっと・・・。」
二人は凶獣の状態をじっくり見ている。時折ディスプレイで何かを確認しながら。やっぱり俺も覚えた方が良いんだろうか。
「うん志垣くん。」
「結論から言うとね。」
ゴクリ。
「「馬鹿力が原因。」」
おい!?なんだよそりゃ!
こっちは真剣に悩んでるんだぞ!
「だって見てよこのデータ。蹴りの際、特に右脚にかかってる負荷を。」
どれどれ・・・。うわ、何じゃこりゃ!?俺こんなに全力で蹴って・・・たな、うん。
「それとスラスターに補助ブースターの多さが祟ってるよ。人間で言う疲労骨折に近いかな。」
そんなに無茶させとったんか。束さんとオカジマ技研謹製だからと思って甘く見ていた・・・。
すまんな相棒。こんなんにしちまって。
一瞬凶獣が淡く光ったような気がしたが、気のせいだろう。
「対処法はあるのか?」
「このまましばらく安静にしておくか、稼動データから無理にISの方を合わせるって手があるけど、どうする?私は前者をお勧めするけど。」
「わたしも。あんまり無茶させると変な風に学習しちゃうと思うし。」
二人の有難いアドバイスを貰ったが、正直俺は焦っていた。
またいつ侵魔の襲撃があるかもしれない。生身で戦ってもいいが、ISは強力な武器になる。特にネームド級の侵魔が相手なら尚更だ。
「・・・無茶を承知で、後者にしてくれないか。今は時間が惜しい。」
「何が時間が無いのか知らないけど、志垣くんがそれで良いって言うならそうする。骨折って言うのも言い過ぎたかもね。ちょっとした『手術』になるかもだけど。」
いや、それ大層なことなんじゃないですかね嶋田さんよ。
「これくらいなら私一人でも出来るから、沙紀は志垣くんに整備のレクチャーをしてあげてよ。そう時間も掛からないかもだし。」
「え!?わたし!?」
なぜそこで驚く立花よ。
「む、無理だよ・・・。わたしだけで教えるなんて。」
「何言ってんの。せっかく志垣くんと話できるチャンスをあげたんだから、有効活用しなさいよ。」
おーい、二人とも。何コソコソ話てんだ?置いてけぼりは寂しいぞ?
「はいはい、とにかく二人は離れてて。ちょっと邪魔だから。」
ヒドッ!?邪魔とまで言うか!?
そう言うと嶋田はトレードマークのサイドテールを後ろで纏めて作業に入ってしまった。
「えっと、じゃあ簡単な整備の仕方を教えるね。志垣くんは専用機持ちだから、ある程度は自分で診れないと。」
「ういっす。お願いします先生。」
「せ、先生って。大袈裟な。」
「っというわけ。何か質問はある?」
「いや、凄い解り易かった。これなら簡単な整備は出来そうだ。」
いやほんと、感謝感謝だ。
専用機を持たされた以上、整備科は専攻出来ないものだと思っていたからな。
これを良い機会にISに触れていこう。
「あ、言い忘れてた。危ない危ない。」
「ん?何だ?」
「ううん。志垣くんには、この前助けてもらえたから、そのお礼。本当にありがとう。」
なんだ、そのことか。
「気にするな。友達が危ないって時にはなんとかするものだろ?」
「友達・・・。うん、友達か・・・。」
何だ。なんか歯切れが悪いな。
「え、えっとね、志垣くん。あのね・・・。」
?何だ?
「顔、赤いぞ。大丈夫か?」
手の平を立花の額に当ててみる。
「ひうっ!?」
うわ。全身が跳ねた。こっちが驚いたわ。
「ご、ごめん・・・。」
「いや、俺こそ不躾だったな。すまん。」
・・・なんだか妙な空気だ。
ところで、立花ってこんなに小さかったか?
いつも嶋田と一緒だから身長を気にした事は無いけど。
まあ俺がでかすぎるのかもしれない。
「そういえば聞いたよ。二年生三人に圧勝したって。」
「・・・どこでお聞きになられたのですか?」
あの後反省文に追われて大変だったんだぜ?
「凄いよね。もう一年生相手じゃ物足りないんじゃないの。」
「そんなことない。正直あの三人よりセシリアや鈴のほうが強い。一年にもまだ見ない強敵がいるかもしれないからな。油断は出来ないし、鍛錬を怠る気にはなれんさ。」
「・・・そういう修行者っぽい所も良いと思うよ?」
ん?何か言ったか?
「おーい。終わったよ・・・っと。お邪魔でしたかな?」
嶋田。何ニヤニヤしてんだ?
「・・・萌の馬鹿。」
「アハハ、ゴメンゴメン。まあとりあえず応急処置はしておいたよ。あまり無茶させなきゃ大丈夫なはず。」
おお、そりゃ有難い。無茶は、させるかもしれないけどな。
「お礼に二人には新作のオレンジババロアを差し上げよう。試食みたいで悪いが。」
「お、アリガト。ちょっと疲れてたから糖分が欲しかったんだよね。」
「嬉しいけど、何処から出したの?」
そりゃ月衣から・・・とは言えんな。
月衣が機能すると知った日から、その中身はお菓子で埋まった。
俺は武器は持たないし、ISは待機状態があるから中身を圧迫する事は無い。
月衣って便利だ。なんせ中の物の状態は変わらないんだから。
あの頃は非常用の野菜や食料を入れていたもんだ。
「それは秘密です。」
「志垣くんてたまに変だよね。」
失礼な。
「それじゃ、私たちはこれで。」
「なんだ、もう行くのか?」
「うん。本当は整備科の予習のつもりだったんだけど。」
「専用機の整備が出来たんだから、それで良しとしましょう。何よりの経験になったわ。」
そう言って二人は整備室を後にした。
ディスプレイを開き状態を見てみる。最初に見せてもらった、負荷がかかっていた部分が幾分か改善されていた。そしてご丁寧に解説文も残されていた。
こりゃオレンジババロアだけじゃ足りないかもな。
そんな事を考えていると、ある一画が賑やかになっていた。
正確には二人が口論・・・の割には静かで、しかも片方はやけにのんびりした話し方をしていた。
いやいや、どっちも顔見知りやん。
「だからかんちゃん、一人で弐式を完成させるなんて無茶だよぅ。」
「ごめん本音。こればっかりは私がやらないといけないの。」
簪と本音、何を話しているんだ?
打鉄弐式を一人で作る?いやいや、無茶だろ。ISってそんなに単純な物じゃないぞ。
いくらさっきのプログラミング技術があろうと、必ず壁が出来てくる。一人じゃその壁を乗り越えるには知恵が必要になる。生憎、人間ってのはそう完璧に出来てない。
いや、それが出来る『完璧超人』を知ってるけどさ。
そういや弐式は半ば放棄されていたと簪が言っていたな。
「ほらぁ。お嬢様だってほんとに全部一人で作ったわけじゃ。」
「!お姉ちゃんのことは言わないで!」
お嬢様、と言う単語に過敏に反応し、遂には声を荒げる簪。
お姉ちゃん、ということは、更識先輩のことか?もはや拒否反応にしか聞こえなかったぞ。
「かんちゃん・・・。」
「・・・ごめん本音。一人にして・・・。」
しばらく逡巡し、トボトボと整備室を出て行く本音。
・・・ふむ。
「おーい、本音。」
「あ、しおーだ。」
俺は本音の後を追いかけた。簪はしばらくそっとしておいた方が良いと思ったから。
「さっきの話、少しだけど聞こえちまってな。差し支えなきゃ、何があったか聞いていいか?」
「・・・うん。しおーなら良いかな。」
どうやら話をしてもらえるほどには俺は信用されているようだ。
「しおーは私のお姉ちゃんのことは知ってる?」
「いや?初耳だけど?」
本音曰く、布仏家は代々更識家に仕えている家系であり、本音は姉共々更識姉妹とは幼馴染みの関係にあたる。
さらに本音は簪専属のメイドであるらしい。この性格と言動でメイドが務まるのか?とか思ってはいけない。
しかし専属メイドとか、更識家どんだけデカイんすか。
さすがに詳しくは教えてくれなかったが、更識姉妹には確執があるらしい。それは更識先輩の口ぶりから予想していたが、あの様子だと相当根は深そうだ。
先輩、アンタ何やらかしたんですか・・・。
「あのままじゃかんちゃん壊れちゃうよ・・・。」
本音もいつもののほほんとした空気ではなく、少し沈んでいるように思えた。
「ちなみに本音。お前の姉とは確執があったりするか?」
「?仲良いよ?」
良かった!これで布仏姉妹まで何かあったら手に負えなかった所だ!
とは言うものの、俺の力で何が出来る?
ああも意固地になっている簪は初めて見るし。
・・・いつか荒療治が必要になるかな。
「しおー、怖い顔になってるよ。」
本音。顔の事でとやかく言わないでくれ。何気に傷つく。
とりあえず今は打鉄弐式の完成を急いだ方が良いな。
「ISの方は取り合えずなんとかなるかもしれない。」
「ほんと!?」
「多分、な。ちょっち強引な手を使うが、手を貸してくれるか?本音。」
「うん!かんちゃんの為なら幾らでもがんばるよ~!」
やれやれ。頼もしいんだか頼りないんだか分からんな。
よし。ミッション『簪説得』スタートってか?