IS×NW~世界を渡りし者~   作:戒炎

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今回もサブタイ詐欺になるやも・・・

そういえばもう一周年になるんですね。
読んでくださった方々、お気に入り登録までしてくださった方々。
この小説は皆様の支えによって何とか続いております。
遅筆ですが今後もよろしくお願いいたします。



姉妹の戦(又は意地の張り合い)

 打鉄弐式が完成してから数日。戦闘経験を積むため、模擬戦の日々。

 実機での戦闘は少ないはずなのだが、簪は才能の方も高いのかすぐに俺達に追いついた。

 特に同じ代表候補性であるセシリアや鈴とはすでに互角の戦いを見せている。

 いやはや恐ろしい。ついでに一夏は一勝も出来ていない。本番に強いタイプとはいえ、情けない限りだ。俺?一応全勝中だ。俺の凶獣の防御を簡単に貫けるとは思うなよ。

 さらに言うと、この数日で簪は以前より少しばかり明るくなった、ような気がする。

 二式が完成したことと、友達が増えたことが良い方向に働いているのだろう。

 だが、まだ足りない。足りないぞ。

 簪、というよりも更識姉妹の事だ。このままというのもなんだか奥歯に物が挟まっているようで気分が悪い。

 

 だから、いらぬだろうがお節介を焼くことにした。

 

 まずは織斑先生に、結構派手なバトルをすることを予め告げておく。その時、「お前は他人事に首を突っ込まなくてはならん性格なのか」と言われたのは放っておく。

 次いで、第二アリーナの貸し切りを済ませる。

 そして最後にある日に更識先輩を呼び出して俺のやることは終了。

 あとは野となれ山となれ、てか。いや、無駄に終わっちゃだめか。

 

 

 

「それで旺牙くん、こんな所に呼び出して何の用?告白にしては色気のない場所ね。」

「はっはっはっ。ご冗談を。」

 そんな軽口を交わしながら、更識先輩は隙なく俺を見ている。

 後ろには布仏先輩を伴っている。

 なんだか妙に睨まれているのは、俺の思惑がバレている所以だろう。

「それとも生徒会長の座が欲しくなっちゃった?困ったな、志垣くん相手だとお互い手加減が効かないと思うのよね。」

「残念ながらそれも違います。本音、いいぞ。」

 さて、本日のもう一人の主役にご登場願いますかな。

 

「旺牙、これって・・・。」

「・・・旺牙くん。一応聞くけど、どういうことかしら?」

 先輩の目が猫というより蛇のようになる。俺を威嚇しているのは言うまでもない。

「旺牙、どういうことなの?なんでお姉ちゃんが。」

「志垣くん。会長たち姉妹の問題に簡単に踏み込むのはどうかと思いますが。」

 おーおー俺ってば悪者っぽいですな。でも辞めない。

 だってこの人たち放っておくと何も解決しないまま永遠の別れ、なんてことになりかねないくらいこじらせえてるんだものな。

 だったら誰かが悪く言われてもなんとかせな。

 家族は仲が良い方がいいに決まっている。家族のいない俺が言うのもなんだが。

「とりあえず、お前らバトれ。」

「「だから何で。」」

 君ら実は仲良いんじゃない?

「俺は頭も良くない。すれ違った人間同士が分かりあうには真正面からぶつかり合うのがいいと思うんだ。だけどアンタら必要以上に相手を避けてるだろう。だから強引な手を取らせていただきます。」

 ちなみにもう逃げ場はないんだけどな。

 管制室には織斑先生がスタンバってる。観客席には一夏たちがすでに入っている。

 これで戦いませんなんて言われたら、俺の苦労台無し。

「無理だよ。お姉ちゃんに勝てっこないよ・・・。」

 簪は戦う前から戦意喪失してしまっている。

 駄目だ簪。ここで逃げたら、一生逃げ続けることになるぞ。

「逃げるな簪。勝てと言っているんじゃない。向き合えって言ってるんだ。そもそもお前は逃げていたんじゃないだろう。お前なりに『戦ってきた』から弐式を完成させることが出来たんじゃないか。」

「旺牙・・・。」

「もうひと踏ん張りだ。姉さんに、お前の気持ちをぶつけてやれ。俺も見てる。」

「・・・わかった。私、やってみる。」

 簪は一呼吸置くと。

「お姉ちゃん!私と、本気で戦って!」

 大きな声で宣戦布告した。

「・・・本気なのね。」

「・・・うん。」

「なら、勝負しようじゃない。全力で、叩き潰してあげる。」

 そう言って先輩は片方のピットへ向かって行った。

「旺牙。」

「・・・なんだ。」

「私、伝えてくる。今まで言いたかったこと全部。だから、ちゃんと見てて。」

「勿論だ。」

 俺達もピットへ向かった。

 

 

 

======

 アリーナ上空、二機のISが相対する。

 方や打鉄弐式。簪の想い、皆の絆が詰まった機体。

 方やミステリアス・レイディ。淑女の名を冠する水色の機体。

 日本代表候補性対ロシア国家代表。姉対妹。これだけなら結果は火を見るより明らかだろう。

 だが、妹は、簪は少なくとも簡単に負けるつもりは無かった。

 皆で作った機体だから。皆が見てるから。姉に伝えたいことがあるから。

 何より、あの人が見てるから。

 姉は、妹を安く見てはいなかった。この数日で、彼女が強くなったのは目に見えていたから。

 それでも、負けてやるつもりは無い。負けられない理由があるから。

 生徒会長のプライドなどというものではない、もっと大事なもののために。

 両者に緊張が走る。

 そして、試合開始のブザーが鳴った。

 

 先に動いたのは打鉄弐式。超振動薙刀『夢現』を構え突撃する。

 ミステリアス・レイディは手に持つ槍『蒼流旋』で受け止める。

 互いの得物が激しくぶつかり合う。

 数合に及ぶ探り合いは、ミステリアス・レイディが数メートル間を開けたことで流れが変わる。蒼流旋に取り付けられたガトリングが火を噴いた。

 初めの数発こそ被弾するが、打鉄弐式も大きく敵機を回るように回避する。

 そこで反撃に出たのは背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲『春雷』。

 中間距離での撃ち合いに戦闘が移行する。

 互いに射撃を貰わない。否、打鉄弐式の方が着実にダメージを重ねていった。

 それもそのはず、春雷は威力が高いが隙も大きい。まだ戦闘データの少ない弐式ではオートロックも上手くいかず、掠りもしない。

 対して蒼流旋のガトリングは威力こそ劣りはすれど、連射速度に大きく秀でている。国家代表の腕も加われば、命中率に差は出る。

(危険だけど、ここはやっぱり近接戦で。)

 打鉄弐式が再び夢現で斬りかかる。が。

「読んでたわよ。」

「!?」

 寸でのところで躱され、蒼流旋の横薙ぎをもろに受けてしまう。

 ダメージが大きかったのか、態勢を大きく崩す打鉄弐式。その隙を見逃すミステリアス・レイディではなかった。

 蒼流旋から蛇腹剣『ラスティ・ネイル』に切り替え、斬りかかる。

 壱、弐、参・・・蛇腹剣が幾度も打鉄弐式を襲う。弐式も辛うじて直撃は避けているが、そこは蛇腹剣の利点。ガードを上手くすり抜けて確実にシールドエネルギーを奪っていく。

 このまま守っているだけでは何もできずに負けるだけ。簪はそれだけは嫌だった。

 幸い装甲は打鉄弐式の方が勝っている。一撃。一撃浴びせれば流れは変わる。

 簪は多少強引に突っ込んだ。『それがまた誘いであるとも知らずに』。

「ところで簪ちゃん。」

 楯無の、何でもないような言葉が簪の耳に、酷く遠く聞こえた。

「このアリーナ、『少し熱くない』?」

 しまった、と思った時には既に遅し。

 二機の間で爆発が起きる。

 これぞミステリアス・レイディの武装、『清き熱情(クリア・パッション)』。ナノマシンで構成された水を霧状にして攻撃対象物へ散布し、ナノマシンを発熱させることで水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす、その衝撃や熱で相手を破壊する能力。

 効果範囲こそ限定的だが、その威力は絶大。

 打鉄弐式はその攻撃力に押され、墜落してしまった。

 

 

「ちょっと、簪このままじゃ負けちゃうわよ!?」

「鈴さん。少しは落ち着いてくださいな!」

 ギャラリーにいた鈴たちは簪の心配をする。

 だが一方で、一夏はどこか冷静に戦いを見ていた。

「どうしたのだ、一夏。」

「このまま終わるような子じゃないよ、簪は。」

「何故分かる?」

「お前にも分からないか箒。弟や妹には、兄や姉には無い意地ってのがあるんだ。」

 だから、まだ負けない。一夏はそう断言した。

 

「お嬢様・・・。」

 虚はただ見ていることしかできなかった。

 楯無の苦悩を知っていたから。苦痛を知っていたから。

 だからこそ、姉妹の溝を広げるようなこの戦いに賛成出来なかった。

 それでも虚は彼女を止められなかった。その覚悟も知っているが故に。

 だからこそ願う。せめて無事に戦いが終わるようにと。

 

「あわわ~。かんちゃ~ん。」

 本音は慌てた様子でピット内から戦場を見つめる。

 だが、旺牙は動じない。

(簪。お前はまだ、見せてないだろう。伝えてないだろう。お前の想いを。)

 ここで全部見届けてやる。それが旺牙流の覚悟と想いだった。

 

 

 

「終わりよ、簪ちゃん。」

 ゆっくりと、獲物にとどめを刺すべく、ミステリアス・レイディが近づいてくる。

「貴女では私に勝てない。言ったでしょう。『無能でいなさいな』って。」

 突きつけられる最後通告。このまま一方的に試合は終わってしまうのか。

 突きつけられるは蒼流旋。最後の一撃を放たんと、淑女は構える。

 

 嫌だ

 

 そして、止めの一撃が叩き込まれた。

 

 嫌だ

 

「嫌だ!!」

 刹那、槍と薙刀が交差する。夢現が蒼流旋を受け止めたのだ。

「嫌だ!まだ負けたくない!だって、まだ何も伝えてないから!」

 二対の武器が再びぶつかり合う。だが、先ほどまでとは打って変わり、打鉄弐式が優勢だった。

 それは単なる技術の差ではなく、気力の差。簪の気迫が、楯無を上回っただけだ。

 それでも、妹が姉を圧していることに変わりはなかった。

(さっきまでとは違う。まるで簪ちゃんの気力に弐式が応えているよう!)

「私は!今はまだ無能かもしれない!でも、いつまでもそうじゃない!」

 夢現が蒼流旋を弾き、袈裟懸けにミステリアス・レイディを捉える。

「くっ!」

 薄い装甲が災いし、大きくシールドエネルギーが削られる。

「いつまでもお姉ちゃんの後ろばかりにいたくない!今は無理でも、いつか必ず追いつく!一緒に戦いたい!真剣に戦いたい!対等になりたい!」

 打鉄弐式が春雷を構える。ほぼゼロ距離での射撃だ。

 

「私は!お姉ちゃんの『隣』に居たい!」

 

 春雷が放たれる。この距離、大ダメージは必至だろう。

 だが、それがすべて届くことは無かった。

 ミステリアス・レイディのナノマシンのカーテンが威力を半減させることに成功したのだ。

 だがそれでも、威力をすべて殺しきることは出来なかった。

 装甲の一部が大きく抉れている。

「簪ちゃん。貴女・・・。」

「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

 大きく肩で息をする簪。

 妹の叫びが、想いが、楯無にどれだけ届いただろう。

 だが今は真剣勝負の最中。ここまでされて手を抜くことは、自分の矜持に反する。

 だからこそ、思い切り叩き潰そう。生徒会長としてでも、更識家当代としてでも無く、この子の姉として。

「え?」

 そう口にした時には既に遅かった。機動力重視の打鉄弐式が思い切り体当たりを放ってきたのである。

 思わぬ攻撃に距離を開ける楯無。だが、それが致命的だった。

「いっっっ、けぇぇぇぇぇぇっ!!」

 打鉄弐式の最終兵器、六機×八門の誘導ミサイル『山嵐』。それが既に発射されていた。

 皆の手によって形が成され、あの人の、旺牙の知識によって完成した、想いの武装。

 何で旺牙がそんな知識を持っていたとか、今はどうでもいい。この武装が、マルチ・ロック・オンシステムが完成したことを伝えたかった。

「ちょっ、これはキツいっ!?」

 楯無の悲鳴にも似た声。彼女も伊達で国家代表になっていない。ミサイルの雨を高速で回避していく。いや、それは雨というよりも正に風の牙。猛獣が牙をむいて襲い掛かる。

 牙はどこまでも追いかける。そして、轟音が鳴り響いた。

 

 黒煙が中空を支配する。

 未だ、試合終了の宣言は無い。

 黒煙が晴れる。

 そこにいたのはミステリアス・レイディ。しかし、いつもの姿ではない。

『麗しきクリースナヤ』。赤い翼を広げたユニットが接続された、ミステリアス・レイディの超高出力モード。

「まさかここまで追いつめられるなんてね。」

 ミステリアス・レイディは再び距離を詰める。クリア・パッションの射程まで。

「認めるわ、簪ちゃん。貴女は、最強の挑戦者よ。」

 三度の轟音そして。

『試合終了。勝者、更識楯無。』

 

 

 

======

 

 

 

 俺と本音、布仏先輩はアリーナに出ていた。

 布仏先輩はすぐに更識先輩に近づく。何だかんだであの人もボロボロだからな。

 俺たちは簪の傍まで来た。負けたというのに、その表情は晴れ晴れとしている。

「よう。伝えられたか、ちゃんと。」

「分からない。でも、私なりには言えたと思う。」

 そうか。ならば良し。

 そうしていると、ISを解除した更識先輩が近づいてきた。

「お姉ちゃん・・・。」

 更識先輩はそっと簪を抱きしめた。

「ごめんなさい。貴女が思い詰めていたこと、知っていたのに。」

「ううん。もういいの。それより、伝わった?私の気持ち。」

「ええ。本当は、貴女には茨の道を歩いてほしくはなかったんだけど、その覚悟が本物なら、追ってきなさい。私のいる場所は、まだまだ遠いわよ。」

「・・・絶対に追いつく。」

 ちらりと俺を見る。

「頼もしい王子様がいるんだから大丈夫よね♪」

「え、ふえぇぇぇっ!?」

 真っ赤になる簪。いや、俺そんな大層なもんじゃないんだがね。

「それにしてもやってくれたわね旺牙くん?これが狙いだったんでしょう?」

「狙ってはいましたよ?でもこうなればいいなぁ程度に。貴女たちは俺の想定以上の結果を出した。それも姉妹の絆の力ってもんですよ、更識先輩。」

「あ、それ。」

 え、どれ?

「その『更識先輩』っての禁止。簪ちゃんとごっちゃになっちゃう。これからは『楯無さん』って呼びなさい。」

 ん~。なんか気恥ずかしいものがあるな。

「だったら『お義姉さん』でもいいのよ♪」

「お姉ちゃん!!」

 もっと恥ずかしいわい。てかイントネーションがおかしかったぞ?

 

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 突如として鳴り響くサイレン。

『お前たち!何かが来る!早くそこから離れろ!』

 管制室の織斑先生からそんな声が飛ぶが、遅かった。

 何かがアリーナのシールドを破り、地上に落下してきた。

 土煙が舞う中、低く、響く声がした。

「今日は、どんな祭りが催されているのだ?」

 一度聞いたことがある。この声は、間違いない。

「手前はお呼びじゃねーよ!テレモート!」

 煙の中から現れたのは重厚な鎧に身を包み、巨大なハンマーを持った偉丈夫だった。

 




毎回駆け足気味ですいません
来週以降、少し忙しくなるので今週中にもう一話投稿するか一段落してからにするか考え中です。

早ければ明日か明後日投稿するかも。そうなった場合、今まで以上にグダグダになる可能性ががが・・・。

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