立ち向かうのは歴戦のウィザード(の転生者)、志垣旺牙。
負けるな旺牙!世界の平和は君の手に委ねられた!
今回!凶獣、敗北!デュエルスタンバイ!
・・・やっぱあの次回予告は最強のネタバレだよなぁ。
空が、世界が紅く染まっていく。天空には紅い月が昇っている。
「布仏先輩、本音!二人を安全な場所へ!もう戦う余力なんかないだろう!」
突然のテレモートの乱入に対し、俺は非戦闘員の布仏姉妹に指示を出す。
幸いまだ奴は攻撃を仕掛けてくる様子もない。
「しおーはどうするの!?」
「俺はこいつをぶちのめす!」
凶獣を展開し、俺は構えた。
それでもまだテレモートは構えようともしない。
余裕か、それとも・・・。
「早くしろ!巻き込まれたいか!」
俺の怒声に、四人がようやくピットへ戻ろうとする。
「旺牙!無理しないで!」
僅かに振り向くだけでその声に応える。
「旺牙!俺達も!」
「駄目だ!お前たちはアリーナに人が入ってこないようにしてろ!何が起こるかわからない!」
「でも!」
「いいから、今は言う通りにしろ!どのみちお前たちじゃこいつに干渉できない!」
いや違う。ISなら侵魔に攻撃が通る。
だが、相手はネームド級。もしもがあり得る。
それに奴の纏う覇気は、トルトゥーラ以上の物を感じる。
間違いなく、強敵だ。皆を巻き込むわけにはいかない。
「・・・くそ!旺牙!やばくなったらすぐに助けに来るからな!」
侵魔の強大さを肌で覚えていた一夏がすぐに判断してくれた。
これで良い。これで、全力で戦える。
アリーナに人がいなくなると、テレモートはようやくハンマーを構えた。
「待っててくれたのかい。優しいこって。」
「元より俺の狙いは貴様のみ。他の者に興味は無い。」
「それでいなくなるまで待つとか、立派な騎士道精神だな。」
「ふん。純粋な闘争を邪魔されたくないだけだ。」
そこで会話が切れる。
二人の間に、一陣の風が吹いたような気がした。
刹那、両者が弾ける様に間合いを詰めた。
「ぜあぁぁぁぁぁっ!!」
「ぶるあぁぁぁぁっ!!」
俺の蹴りが、テレモートのハンマーがぶつかり合い、破裂音を上げる。
互いにあまりの威力に距離が開く。
奴のハンマー、インパクトの瞬間ブーストしやがった。
ただのハンマーじゃない。『錬金術』で造られた特殊な得物か。
それに奴の重厚な鎧。多分に魔力を感じる。『魔鎧』ってことか。
戦い以外出来なそうな見た目のわりに、意外とインテリなのかもな。
「ふうぅぅぅぅ・・・。今の一撃、中々に良い。腕が痺れたわ。」
「ありがとよ。こっちもまだ脚がビリビリしてるぜ。」
互いの初手は互角。だが今ので分かったことがある。
こいつ、おそらく俺より強い。
こいつが俺の考えてるような『武人』なら、まだ上の攻撃があるはずだ。
対して、俺は攻撃力が心許ない。
攻守揃った相手には中々厳しい。
「次だ。うるあぁぁぁぁぁっ!!」
ちぃ!少しは考えさせろってんだ!
「《一閃》!」
再び爆発音が場に響く。
この馬鹿力!なんて攻撃力だ!
「小僧!本気を出せ!このままではつまらんぞ!」
別に手前を楽しませたいわけじゃねえんだが、仕方ない。
「《インカネーター》出力最大!」
超能力で凶獣の能力をフルで出し切る。
正直、これで追いつけなけりゃ俺の負けは確定だ。
「《バリアントウォール》!」
続くテレモートの一撃を、全力を持って防ぐ。
ゴンッ!という鈍い音がする。
「ほう・・・。」
防げたのは僥倖。だが防御に全力を使っていたんじゃ奴は倒せない。
攻防力、だっけ?攻撃と防御のバランス。それを考えなきゃならん。
あっちは常時魔鎧着込んでてズルいぞこん畜生。
「《一閃・錬気蹴》!」
反撃とばかりに奴の腹に『龍』を練りこんだ一撃をぶち込んでやった。
「グフッ!?」
見事にめり込む。意外だったのは奴の魔鎧がそこまで硬くなかったことだ。
どうやら重厚そうなのは見た目だけで、攻撃の動きを阻害しないよう軽く作られているようだ。
おまけにこいつ、攻撃を防御しない。圧倒的な自身の攻撃力で敵を圧し潰すタイプだ。
しかもお互い同時攻撃か、交互に攻撃を放つのを趣旨とした戦闘を好んでいる。
これならまだ勝機はある!
「でりゃーーーーー!」
「つあーーーーーー!」
炸裂音三度。俺の『右脚』と奴のハンマーがぶつかり合う。
俺のダメージもあるが、奴にもダメージは入っているはずだ。
そして悪いが、俺は手前の騎士道精神だか何だかに付き合う気はない!
「《伏竜》!」
俺は両手を合わせ、左右のエネルギーを集中させて伏竜を放つ。
「グヌ、オォォォォォォーーーッ!」
エネルギーの奔流を、それでも突き進んでくるテレモート。
「覇ぁぁぁーーー!全開だーーーーーーー!!」
武装である《伏竜》に本来の龍を乗せた本来の伏竜を放つ。
「ぶあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
テレモートの姿は光の奔流の中に消えていった・・・。
「今のでくたばってくれたら楽なんだけどなぁ。」
ポツリと呟く。
当然そんな美味しい話は無く、砂塵の舞う中、何か重いものを振るう音がする。
テレモートのハンマーが砂塵を吹き飛ばす。
多少はダメージが有ったものの、まだまだ元気という感じだ。
野郎、魔鎧着てなくても十分タフじゃねえか。
「面白い・・・。やはり面白いぞ貴様!」
だから、褒められても嬉しかねえんだってばよ!
それなら、こいつで一気に決める!
「錬気怒涛拳!」
「ヌッ!?」
今までのような大技ではなく、細かく、速い連撃を叩き込む。
目論見は、奴の態勢を崩すこと。
そこに、今の俺の最高の技を叩き込む!
俺の速攻にたたらを踏むテレモート。
今だ!
「破を念じて、刃と成せ・・・。」
念を、龍を込めろ!
「念導龍錬刃ッ!!」
全てを込めた右拳を奴の心臓に叩き込む!
「グオォォ!?」
手応え・・・あった!
ボキッ!
「え?」
フルスキン越しに声が出る。
見ると、俺の拳はテレモートに捕まり、握りつぶされていた。
解放される拳。ISの指ごと、五指はあらぬ方向を向いていた。
「~~~~ッ!?」
目で見てから初めて確認できた、声にならない痛み。
「くっ!《ヒール》!」
間髪入れずに回復魔法で癒す。
骨は治ったが、痛みは継続中だ。
それよりも、心理的ダメージの方がデカい。
「フハハハ・・・。良かったぞ、今の一撃。」
テレモートは恍惚の笑みを浮かべている。
「だがまだ足りん!足りんぞ!もっと大きな一撃を!俺に!死合っているという実感をくれ!」
戦闘バカもここまでくると病気だねどうも。
だがまずい。非常にまずい。
今のが俺の切り札だったんだ。
そいつで倒せなかったとなると、打つ手が・・・。
いや、俺がここで弱気になってどうする。
俺の後ろには、皆がいるんだぞ。
なら。
「だったら!とことん付き合ってやらあ!!」
何合、攻撃を交わしただろう。
俺の息も大分上がってきた。シールドエネルギーも限界だ。
対してテレモートはまだまだ余裕の顔をしていやがる。
いや、奴の魔鎧には罅が入っているから、ダメージは大きいはずだ。
大方、闘争に愉悦を感じているんだろう。
トルトゥーラは変態サディストだったが、こいつもこいつで変態だ。なんだ?覇王軍ってのは変態の集団か?
「うるあぁぁぁぁぁっ!!」
ちっ!少しは休ませろっての!
やがるつも限界が近いはずなんだ!
もう少し踏ん張ってくれよ、俺の体!
「てやぁぁぁぁぁっ!!」
俺は右脚に渾身の力を込めて蹴り放つ。
ふっと、脚から力が抜ける。正確には、スラスターと補助ブースターが止まった。
(ヤバい!こんな時に!)
そして何度目だろう。炸裂音がした。
砕けた。『凶獣の右脚装甲』が。
それと同時に凶獣が、ISが解除された。
「グ、ガァァァァァ!!」
今度は痛みで声が出た。
ヒールは間に合った。だがやはり痛みはどうしようもない。
「ぬん!」
すぐさま次の一撃が飛んできた。野郎矜持も何もかも吹っ飛んで戦いを楽しんでやがる。
すぐにバリアントウォールを張る。
だがハンマーの威力を殺しきれない。そのまま壁まで吹き飛ばされた。
崩れたアリーナの壁を退かそうとして、左腕に力が入らないことに気付く。
どうやらこっちも折れたらしい。けっ。痛みに慣れてきやがった。
「ヒー・・・ル。」
声が上手く出せない。ヤバい。こりゃ相当ダメージを喰らった。
「・・・辞めだ。ISとやらが無い貴様と戦っても面白くない。」
何だと、この野郎。
「まだ、ヒュー・・、終わって、ヒュー・・、ねえぞ・・。」
口からは変な息が漏れている。
だがまだ終わるわけにはいかない。
あいつらが後ろにいるんだ。だから、だから。
「負けられねえんだよ・・・、手前なんかに・・・。」
「・・・その心意気や良し。だが戦えぬ体ではな。」
そう言いながらテレモートは俺に近づく。そして。
「噴ッ!」
「ガハッ!」
強烈なボディブローをお見舞いしてきた。
その一撃で、粉砕まではいかなかっただろうが、あばらをやられ、俺の意識は飛んだ。
すまない『先生』。俺、少し弱くなっちまったみたいだ・・・。
「こやつ、脚を壊していたか。」
とんだ興ざめだ。テレモートは思う。
自分の昂らせ、静めてくれるような漢と思いやってきた。
実際に、彼は自分を昂らせてくれた。矜持を一瞬忘れるほどに。
だが、なんという幕切れ。
所詮ウィザードも、ISなる仮初の鎧を纏っていてはこの程度か。
ここで止めを刺すも良し。だが・・・。
「ウオォォォォォッ!!」
突如として響く怒声。
テレモートは振り返る。
「旺牙から、離れろォ!」
そこには白式を纏った一夏がいた。否、正確には雪片弐型を構え突撃してくる織斑一夏の姿が。
テレモートにとっては取るに足らぬ相手。そう思っていた。
ハンマーで雪片を受け止める。ただそれだけのはずだった。
砕けたのは、テレモートのハンマー。
彼は柄の部分だけが残った己の得物を見て驚愕する。
「もらった!」
一夏は返す刀で雪片を振るう。
「甘いわ小僧!」
しかし、テレモートは拳だけで白式を吹き飛ばす。
一夏は白式の態勢を立て直し、今度は己が剣を正眼に構える。
その姿を見て、テレモートは何かを確信した。
「フ、フハ、フハハハハハ!」
侵魔は一人高らかに嗤う。
「良い土産話が出来た。此度はここで退散するとしよう。」
「待て!」
テレモートの姿が徐々に薄くなる。
嗤いは狂気を帯び始める。
「伝えておけ!決着は必ずつけると!そして白き小僧!貴様もまた運命の渦中にあるのだ!努々忘れるな!」
その言葉を残し、侵魔は完全に姿を消し、天空の紅き月も消え去った。
「何だったんだ、あいつ・・・。」
一夏はひとり呟く。だが、それより優先するべきことがあった。
「!誰か!担架だ!旺牙を保健室に連れていく!」
今日この日、IS学園に衝撃が走った。
二年生をも凌駕する噂の『獣』が、謎の乱入者に敗れ、重傷を負った。
ここはIS学園保健室。
志垣旺牙はここのベッドに寝かされていた。
意識がないため本来ならば病院などに運んだ方が良いのだが、『男性IS操縦者』の肩書がそれを許さない。その病院が、本当に信頼できるか判らないからだ。
故に、学校で処置を施すしかない。幸いにも、IS学園は医療機器もそこらの病院より優れている。
眠る旺牙。その傍らには、一人の少女が座っていた。
更識簪。旺牙によって心を救われた少女。少なくとも、彼女はそう思っていた。
初対面の時、ぶっきらぼうに挨拶してしまった非礼を、ちょっとした冗談で帳消しにしてくれた。
いつも手料理やお菓子を作ってくれた。
趣味のアニメ鑑賞に付き合って、場を盛り上げてくれた。
打鉄弐式の完成を手伝ってくれた。そして人と人との繋がりの大切さを教えてくれた。
そして、姉との確執を消し去る後押しをしてくれた。
簪が笑顔になるときには、いつも旺牙が居てくれた。
簪はずっと求めていた。自分を助けに来てくれるヒーローを。自分に笑顔をくれる存在を。
(早く戻ってきて・・・。私の、ヒーロー・・・。)
凶獣は倒れたのか。魔を噛み砕く牙は折れたのか。
「・・・誰か呼んだか?」
ゆっくりと、しかしはっきりと言葉を発する旺牙。
「!?お、旺牙!!」
旺牙の覚醒に対し、その巨体に思わず抱き着く簪。
「簪・・・、流石に、痛ぇ・・・。」
凶獣は、未だ倒れず。
場を移して、何処かの空間。
覇王軍の居城、と言ったところか。
「テレモート!貴方は何処まで愚かなのですか!敵を目の前にして逃げかえるなど!」
「猛るな兄者。俺は弱者を甚振る趣味は無いだけだ。それより、土産話がある。」
「あら、何かしら。あなたの口から話だなんて、明日は槍が降りそうね。」
「そうからかうな姉者。母上。朗報と凶報、同時にございます。」
「うむ、申してみよ。」
上座に座る少女は先を促す。
「は。『あの時の少年』、やはり本物。『覇王を滅する者』で間違いないかと。」
その言葉を聞き、場はさらに騒然となる。
「そんな・・・。お母様を討てる人なんて・・・。」
「テレモート!そこまで分かっていながら!」
「そうですよ!母上の御身に何かあったらどうするのですか!」
「弄るのに夢中で気付かなかった兄者に言われたくは無いな。」
「貴様!」
「フハハハハハ!」
喧々囂々とする場に、少女の高らかな笑いが木霊する。
「そうか!我を討てる者か!確かに凶報!確かに朗報よ!ハハハハハハ!」
少女は笑う。無邪気に、そして残酷に。
「そうでなくてはつまらん!志垣旺牙、そして『織斑一夏』!運命の子らよ!我に挑め!世界を救いたくば、我を止めて見せよ!」
覇王。それは絶対的な勝者に贈られる称号である。
覇王は揺るがない。己の身を揺るがす凶事さえ、彼女にとっては愉悦にすぎない。
久しぶりの解説コーナー
『錬金術師』・・科学と魔術、両方の面から世界の法則を紐解こうとするウィザードたち。
ガジェットという特殊なマジックブルームを持つ者もいる。
『魔鎧使い』・・まがいつかいと読む。特殊な防具『魔鎧』を装備して戦う。以上。
少しの間忙しくなりそうなので連投です。