体の芯まで冷える今日この頃、皆様風邪などひいておりませんか?
私は親が風邪気味なので戦々恐々としております。
六月頭、日曜日。
俺と一夏は久々にIS学園の外、というか共通の友人、五反田家にいた。
「で?」
「で?って、何がだよ?」
格ゲー対戦中の二人の後ろで、俺は漫画を読んでいた。長編漫画は一度読みだすと続きが気になって仕方ない。
「だから、女の園の話だよ。いい思いしてんだろ?」
してないわけじゃないんだが、一夏が鈍感だからなぁ。
一夏と対戦している五反田弾は俺達の中学からの友達なんだが、入学式当日に知り合って以降やたら馬があい三年間鈴と揃って同じクラスだった。中学時代はその四人でつるんでいたと言える。
それに弾はこの右目を、皆が腫れ物に触れるように扱う中、変わらず接してくれた良い奴だ。単に馬鹿なだけかもしれんが、その時は救われた気がした。
「嘘をつくな嘘を。お前らのメール見てるだけでも楽園じゃねえか。なにそのヘヴン。招待券ねえの?」
あるか馬鹿。てかさらりと俺を混ぜるな。
ISは本来女性にしか扱えない。
だというのに俺と一夏というイレギュラーが発生してしまった。
ISが動かせる。それだけの理由で(まぁ大層な理由だが)俺たちは基本女子校であるIS学園で絶賛寮生活中だ。
周りが皆女子なもんだから、トイレにも気を使うし、下ネタなんか言った日にゃどうなることやら。
「つうか、アレだ。鈴が転校してきてくれて助かったよ。話し相手本当に少なかったからなあ」
「ああ、鈴か。鈴ねえ・・・。」
中学時代から二人を生暖かい目で見ていた弾からすると、鈴の話題は楽しそうに聞いてくる。少しキモい。
「よっしゃ、また俺の勝ち!」
「おわ!きたねえ!最後ハイパーモードで削り殺すのナシだろ~・・・。」
ちなみに今二人が対戦しているゲームは『IS/VS(インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ)』。発売月だけで百万本セールスを記録した超名作。データは第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』のものが使われている。
・・・諸事情により千冬さんのデータは無い。
「やっぱイタリアのテンペスタは強いわ。つうかエグいわ。」
「たまには別のキャラ使えよ。イギリスのメイルシュトロームとかよ。」
「いや、あれすげえ使いづらいし、技弱いし、コンボ微妙だし。」
「腕の悪さをキャラのせいにするなよ。」
「いや、旺牙の弱キャラ好きは置いておいて。」
解せぬ。弱キャラにはロマンがあるじゃないか。
ちなみにソフトを開発したのは日本のゲーム会社なんだが、当然のように各国から苦情が来たらしい。『我が国の代表はこんなに弱くない!』だとさ。
困ったソフト会社はなんと参加二十一ヵ国それぞれが最高性能化されたお国別バージョンを発売。これがもう各国でバカ売れ。
てか、内部数値いじるだけで二十一種類作れるんだから、ボロいもんだぜ。
「で、話は戻るが鈴のことは」
意地でも鈴の話題に戻そうとする弾の言葉は、突然の訪問者に遮られた。
「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに」
ドカンと蹴り開けられるドア、ビタンと俺の顔にはりつく何か。全ての現象の元は弾の妹の五反田蘭。顔に張り付いているのは彼女の履いていたスリッパだった。
俺達より一つ下の中三。有名私立女子校に通う優等生だ。兄妹でどうしてここまで差がついた。
「あ、久しぶり。邪魔してる。」
「いっ、一夏・・・さん!?」
それにしてもあれかね、女子ってのは自分のテリトリー内ではラフで無防備なのかね。肩まである髪を後ろでクリップに挟んだだけ。服装もショートパンツにタンクトップという機能性重視の格好をしている。
しっかし、IS学園に入学してから目のやり場に困ったことは数知れず。それこそタンクトップで廊下ですれ違ったときは気まずかった。あの簪すら時折無防備な格好をしている。俺たちだって健全な男子高校生なんだぞと声を大きくして叫びたい。
「い、いやっ、あのっ、き、来てたんですか・・・?全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど・・・。」
「ああ、うん。今日はちょっと外出家の様子見に来たついでに寄ってみた。」
ちなみに俺は付き添いである。アパートは引き払ったからな。
「そ、そうですか・・・。」
「なあ、そろそろ俺にも話題振ってくれないか?」
「え・・・って、旺牙さん!ごめんなさいごめんなさい!」
いやまあ、痛くはないんだけどね。スリッパを蘭に投げ返す。
「本当にごめんなさい。お兄を狙ったつもりが。」
「おい。」
「威力は申し分なかった。あとはコントロールだな。」
「はい・・・、ごめんなさい。」
「いいって。別に怒ってないから。
スリッパを履き直し、一息つく。
「蘭、お前なあ、ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ」
ギンッ!蘭の視線一閃。
まるでポ●モンのへびにらみのようだ。分かりやすい戦力差。
「・・・なんで、言わないのよ・・・。」
「い、いや、、言ってなかったか?そうか、そりゃ悪かった。ハハハ・・・。」
完全に蛇に睨まれた蛙状態。これだけで五反田家における弾の地位の低さが分かるってんだ。
ギロリと弾を一睨みし、蘭はそそくさと部屋を出ていく。
「あ、あの、よかったら一夏さんもお昼どうぞ。旺牙さんも。まだ、ですよね?」
「あー、うん。いただくよ。ありがとう。」
「い、いえ・・・」
おーい。俺はついでですか?なんか悲しくなってきた。
「しかしアレだな。蘭ともかれこれ三年の付き合いになるけど、まだ俺に心を開いてくれてないのかねぇ。」
「「は?」」
ハハハ、何言っちゃてんだこのハリキリボーイは。
ありゃホの字の相手に対して照れてるオーラ全開だったじゃないか。俺でも気付くぞ。
「いや、ほら、だってよそよそしいだろ。今もさっさと部屋から出ていったし。」
あーもー・・・。
「聞きまして志垣さん家の奥様、今のセリフ。」
「ええ五反田さん家の奥様。小学生の頃からですのよ。」
「んまー、酷い。」
などと小芝居を挟む。
「ま、こいつは神の領域に達した朴念神だからな。俺は諦めて誰の側にも付かないことにした。」
「俺はこんなに歳の近い弟はいらん。」
首を傾げてる織斑さん家の一夏くん。君のことだよ。
「まあ、いいや。とりあえず飯食ってから街にでもでるか。」
「「昼飯、ゴチになります。」」
「なあに気にするな。どうせ売れ残った定食だろう。」
その売れ残った定食のレシピが知りたいのに、教えてくれない。というか五反田食堂の味を盗めない。あの味、舌には馴染んでるんだがなあ。
「じゃ。ま、行こうぜ。」
「うげ。」
「ん?」
「おろ?」
「・・・・・・」
露骨にイヤそうな声を出す弾を、後ろから覗く俺と一夏。
そこには俺たちの昼食が用意してあるテーブルがあるんだが、先客がいた。
「なに?何か問題でもあるの?あるならお兄ひとり外で食べてもいいよ。」
「聞いたか二人とも。今の優しさに溢れた言葉。泣けてきちまうぜ。」
先客の蘭にありがたいお言葉をもらう弾。まあなんだ、涙拭けよつハンカチ。
「別に四人で食べればいいだろ。それより他のお客さんもいるし、さっさと座ろうぜ。」
「そうよバカ兄。さっさと座れ。」
「へいへい・・・。
「何俺のこの疎外感。」
こうして俺、一夏、弾、蘭という並びで座る。
「蘭さあ。」
「は、はひっ?」
「着替えたの?どっか出かける予定?」
「あっ、いえ、これは、その、ですねっ。」
蘭の格好は、先程までのラフな姿ではない。髪もおろしたロングストレートがきれいなキューティクルを放っている。服装も半袖のワンピース。きれいな腕がよく映える。裾からはティーン特有の躍動感溢れる脚が伸びている。わずかにフリルの付いたニーソックスと裾の間の絶対領域が眩しい。・・・俺の趣味ってわけじゃないよ?
「ああ!」
一夏が声を上げる。嫌な予感しかしない。
「デート?」
ダンッ!
「違いますっ!」
もうホント・・・。この馬鹿どうしてくれよう。
「ご、ごめん。」
「あ、いえ・・・。と、とにかく、違います。」
「違うっつーか、むしろ兄としては違って欲しくもないんだがな。何せお前そんなに気合いの入れたおしゃれするのは数ヶ月に一回」
バシッ!
瞬撃のアイアンクロー、というより口封じ。昔冗談で教えたのだが、見事に物にしたようだ。
「・・・!・・・・・・!」
「(コクコクコク!)
もう弾は一生蘭に勝てないだろう。五反田家カーストの最下位は永遠だな。それにしても。
「お前ら仲いいな。」
「あ、それは俺もそう思う。」
「「はあ!?」」
おおハモった。
でも事実そう思う。嫌いな相手なら喧嘩どころか視界にすら入れないだろう。話しかけるなんてもってのほかだ。
「食わねえんなら下げるぞガキども。」
「く、食います食います。」
厨房から現れたのは八十を過ぎてなおも健在、五反田食堂の大将にして頂点、五反田厳さんだった。長袖の調理服を肩までまくり上げ、剥き出しになった腕は筋肉隆々。中華鍋を一度に二つ振る剛腕は、熱気に焼けて年中浅黒い。自然に出来た筋肉なので、まったく無駄がない。
まだ月衣が発現していなかったころに受けた拳骨は千冬さんにも勝るとも劣らない威力。腕相撲は全敗だった。
「「「いただきます。」」」
「いただきます・・・」
元気がないのはもちろん弾だ。
「おう。食え。」
厳さんは次の料理に取り掛かる。
その音をバックに、俺たちは食事の合間合間に雑談を始める。物を噛みながら喋ると中華鍋という凶器が飛んでくるので、その辺りのマナーは徹底している。
「でよう一夏。鈴と、えーと、誰だっけ?ファースト幼馴染み?と再会したって?」
「ああ、箒な。」
「ホウキ・・・?誰ですか?」
「ん?俺のファースト幼馴染み。」
「ちなみにセカンドは鈴な。」
「ああ、あの・・・。」
蘭の機嫌が悪くなる。まあ、恋敵の話なんざ聞きたかないだろうよ。
「そうそう、その箒と同じ部屋だったんだよ。まあ今は」
あ、地雷踏んだな。
「お、同じ部屋!?」
蘭よ、気持ちはわかるが取り乱すな。汁が飛んできたんだよ汁が。椅子も倒れてるぞ。今日の俺散々じゃね?
「ど、どうした?落ち着け。」
「そうだぞ落ち着け。」
ギンッ!蘭のへびにらみ!弾はマヒした!
ちなみに厳さんは蘭に甘い。俺たちが同じように椅子を倒したら宝具『おたま』が飛んでくる。
「い、一夏、さん?同じ部屋っていうのは、つまり、寝食をともに・・・?」
動揺して言葉遣いが古風になってる。
「まあ、そうなるかな。ああ、でもそれ先月までの話で、今は別々になってる。そういやなんで旺牙と同じ部屋にならないのかな?」
知るか。学園側の事情に興味は無いね。今の俺は空気に徹しているのだ。
「い、一ヶ月半以上同せ、同居していたんですか!?」
「ん、そうなるな。」
弾の奴が汗をダラダラ流している。これは、一夏の近況報告を怠っていたな。
「・・・お兄。後で話し合いましょう・・・。」
「お、俺、このあと一夏と出かけるから・・・。ハハハ・・・。」
「では夜に。」
声に何とも言えない覇気が纏っている。これがお嬢様校の中等部生徒会長の実力か。
「・・・。決めました。」
何をでしょう。予想はついてる。
「私、来年IS学園を受験します。」
がたたっ!
「お、お前、何言って」
ビュッ、ガン!
清々しいほどの音がして、おたまが弾の顔面に直撃した。だから静かにしてればいいのに。
「え?受験するって・・・なんで?蘭の学校ってエスカレーター式で大学まで出れて、しかも超ネームバリューのあるところだろ?」
「大丈夫です。私の成績なら余裕です。」
「IS学園は推薦ないぞ・・・。」
よろよろと立ち上がる弾。こいつ復活だけは早いんだよな。あとは体力がつけばいいのに。
「お兄と違って、私は筆記で余裕です。」
「いや、でも・・・。な、なあ、一夏!あそこって実技あるよな!?」
「ん?ああ、あるな。IS起動試験っていうのがあって、適性がまったくないやつはそれで落とされるらしい。」
その起動試験はそのまま簡単な稼働状況を見て、それをもとに入学時点でのランキングを作成するようだ。俺の試験官が千冬さんだったのはだいぶイレギュラーだったらしい。
「・・・・・・。」
無言でポケットから何やら紙を取り出す蘭。受け取って開く弾。
「げえっ!?」
「IS簡易適性試験・・・判定Aか・・・。」
「問題はすでに解決済みです。」
何やら得意になっておられますなあ。
「それって希望者が受けれるやつだっけ?たしか政府がIS操縦者を募集する一環でやってるっていう。」
「はい。タダです。」
頷いてる厳さん。本当に蘭に甘いな。タダより高いモノは無いともいうが。
「で、ですので。」
こほん、と咳払い。あ、俺なんか嫌な予感してきた。
「い、一夏さんにはぜひ先輩としてご指導を・・・。」
「ああ、いいぜ。受かったらな。」
一夏のやつ、安請け合いしやがって。しょうがねえ。俺が悪者になりますか。
「俺は反対だな。」
関係者たちの視線が俺に集まった。
原作文章が多かったので、次回はオリジナル要素を入れていきたいと思います。