花粉症の時期ってなにもやりたくなくなるんですよね。
さて、ひとっ走り行ってくるか。
まだ寝ている簪が起きないようにゆっくりと部屋を出る。
最近夢見が悪いような気がする。
どんな内容だったかははっきりと覚えていないが、前にも見たような。
ウィザードの見る夢には何かしらの意味があるジンクスがあるのだが、中身を覚えていなければなあ。少なくとも良い内容ではなかったのは確実だ。
ま、軽く体を動かして気分を発散しよう。
~~~二時間後~~~
あ~、さっぱりした。やっぱり朝のジョギングは最高だな。
そろそろ簪も起きている頃だろう。
「ただいま~。」
ドアを開けると、着替え中なのかパジャマの上着をたくし上げている簪と目が合った。
ふむ。簪は自嘲するが、なかなか・・・。
「良いものをお持ちで。」
俺の顔面に時計がめり込んだ。
前が見えねえ。
「悪かったって。悪気は無かったんだよ。」
「・・・(つーん)。」
あー、完全に機嫌を悪くしてしまった。
ちゃんとノックしなかった俺に非があるのはしょうがないが、どうしよう。
謝っても簡単に許してくれそうにないが・・・。
・・・この手は使いたくなかったが。
「なあ~、機嫌直してくれよ。今度好きな菓子作ってやるから。」
餌付け、食べ物で釣ろう。もうこれしかない。
「・・・ケーキ。」
ん?
「シフォンケーキ。」
意外と簡単に釣れた
「あぁ。とびっきりのを作ってやるよ。」
はいこれにてこの話題は終了。
軽く罪悪感が残るが、これで許してくれるなら。
しかし、簪の身体、引き締まっていてそこそこのサイズで、まだ瞼の裏に焼き付いている。・・・煩悩退散、煩悩退散。
「あ、志垣くんに簪ちゃん、おはよう。」
「おはよう。」
「おう、おはよう。」
「おはよう、二人とも。」
食堂に行く途中で立花と嶋田に出会った。
そのまま四人で歩く。
よく考えたらこの二人には世話になりっぱなしのようだ。
二人と本音が積極的に俺に話しかけてくれたから、他の皆の警戒心も無くなった。
二人がいたから、打鉄弐式も完成に一気に近づいた。
この数ヶ月で、簪以外には特に仲良くなった仲だ。
「ねえねえ志垣くん。そろそろさあ、私たちのこと名前で呼んでよ。」
「ちょ、ちょっと萌!」
うむ、それもいいかもしれない。
俺は別に女子を名前で呼ぶのには抵抗がない。
「じゃあ改めて、沙紀に萌。これからもよろしくな。」
「わ、私も、名前で呼んでいい?」
「もちろん!友達でしょ?」
簪は、えへへ・・・、と照れたように笑っている。良い傾向だ。
友達が増えれば簪ももっと明るくなるだろう。
対して沙紀の方はなんだか少し赤くなっている。さてどうしたのか?
「そういえばさ、あの噂って本当なの?」
噂?なんじゃそら。
「ほら、学年別トーナメントで優勝すると」
「「萌ーーーーッ!」
おう、嶋田、じゃなくて萌が二人に取り押さえられた。
何か言いかけていたが何だったのだろう。
(だ、ダメだよ萌!)
(本人に聞いてどうするの!?)
(もがが)
『女三人寄れば姦しい』とはよく言うが普段賑やかしの萌が抑えられ、おとなしい方の二人がこんな暴挙に出るとは思わなかった。お兄さんびっくりだ。
しかし噂とは何なのか。気になる限りだが。
「しが、旺牙くんは気にしなくていいからね?」
「そうそう、こっちの話だから。」
「ん?そうか?でもなんだか気になる」
「「いいから!!」」
ハイ!これ以上聞きません!!
時は流れて夕飯時。
たまには学食で食べようかと簪とともに食堂へ向かっている。
食堂の『お姉さま方』の技術は素晴らしく、未だに技を盗み切れていない。せめてレシピが分かればいいのだが、生憎『秘伝』なのだそうだ。くそう。
簪と二人で食堂につくと、なんとも賑やかな場所があるではないか。
近づいてみると、案の定一夏がいた。騒動の発端は大抵こいつだからな。
「あ、また年寄り臭いのが現れた。」
鈴さんや、俺だって泣きたくなる時があるのだよ?
とりあえず空いている席に座り夕飯を頂く。
女子が固まっているゾーンからは噂がどうのこうの聞こえてくる。
噂ねえ。なんか嫌な予感しないな。
ま、人の噂も七十五日、放っておけばいいか。
隣では簪が顔を赤くしてうどんをすすっている。
いったい何があるというのだ。
(私は織斑くんかなぁ。)
(競争率パないわよ。)
(あたしは・・・志垣くんかな・・・。)
(お、筋肉好きめ。)
早速前言撤回。俺も噂が気になってきた。でも朝の様子からして誰かに聞いても答えは返ってこないだろう。
あ~、もやもやする。
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言えるわけがない。
今度の学年別トーナメントで優勝すると。
織斑一夏か志垣旺牙のどちらかと付き合えるなんて!
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「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ。」
「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」
「そのデザインがいいの!」
「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル。」
「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん。」
月曜日の朝、女子たちはカタログ片手にわいわい楽しそうである。
「そういえば織斑君と志垣君のISスーツってどこのやつなの?見たことない型だけど。」
「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、もとはイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる。」
よくすらすら言えたもんだ。一夏のくせに。
「俺のも特注品ではあるけど、大元はオカジマ技研のノーマルタイプだそうだ。俺用にカスタマイズするとどうしても大型になって費用もかさむらしい。」
ああ、なんだかこういうやりとりなんだか懐かしい。どこの武装がどうだの、武器は見た目が重要か性能が重要かを語り合ったこともあったっけ。
・・・もうあの日には帰れないんだな。そう考えると、なんだか寂しい気がする。
最期は『世界を裏切った大罪人』のくせして、なにしんみりしてんだか。
「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず。」
浸っているところに山田先生が現れ、ISスーツについてすらすらと説明した。
これだけの情報を暗記しているとは、流石教師。
しかしそう考えると、ISスーツって簡易月衣にも思える。ISそのものと合わせると、立派なウィザードの完成だ。
「山ちゃん詳しい!」
「一応先生ですから。・・・って、や、山ちゃん?」
「山ぴー見直した!」
「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。・・・って、や、山ぴー?」
入学から大体二ヶ月。山田先生には八つくらいの愛称がついていた。それだけ親しまれているのだろうが、ちょっと軽すぎやしませんかい?
「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと・・・。」
「えー、いいじゃんいいじゃん。」
「まーやんは真面目っ子だなぁ。」
「ま、まーやんって・・・。」
「あれ?マヤマヤの方が良かった?マヤマヤ。」
「そ、それもちょっと・・・。」
「もー、じゃあ前のヤマヤに戻す?」
「あ、あれはやめてください!」
おお、珍しく語尾が強い。よほど嫌な思い出があるのだろう。
しかし山田先生がおとなしい、というか気弱な性格だからと言って、本人に対してあだ名で呼ぶかね。女子って凄い。
「と、とにかくですね。ちゃんと先生とつけてください。わかりましたか?わかりましたね?」
はーいとクラス中から返事が来るが、どうせ口だけで答えているのだろう。
「諸君、おはよう。」
「お、おはようございます!」
山田先生の時とは対照的に、たった一言で教室中を軍隊のようにピシッとさせたのは我らが鬼教官、織斑千冬先生である。いやもう教室の空気がさっきまでとまるで違うもの。
一年一組はメリハリがついてるな(遠い目)。
「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう。」
いや構うだろう!というツッコミでクラスの心が一つになれた気がする。一応男が二人もいるんだし、下着はあかんやろがい。
ちなみにIS学園の指定水着はなんとスクール水着。紺色のアレである。
まさか最先端の学校で絶滅危惧種が生き延びていたとは。何とも驚きである。
そういえば体操服もブルマーだったな。俺と一夏は短パンだけど。どうなってんだこの学園は。誰の指示だよ誰の。
それと、学校指定のISスーツはタンクトップとスパッツをくっつけたような、シンプルな作りである。なんでわざわざ学校指定のものがあるのに各人で用意するかというと、ISは百人百通りの使用へと変化するものなので、早い内から自分のスタイルというのを確立するのが大事なんだそうだ。無論全員が専用機をもらえる訳じゃないので個別スーツを用意する意味があるのかは難しいところだが、そこは花の十代乙女たち。感性を優先させてくれているのだろう。
なお、専用機持ちの特権、『パーソナライズ』を行うと、IS展開時にスーツも同時に展開される。着替える手間も省け、今まで着ていた衣服は素粒子化して収容される。ウィザードたちにも似たような装備の展開の仕方をするクラスがいるのでなんとなくわかる。魔鎧使いの鎧とか、特殊な衣服とか。
「では山田先生、ホームルームを。」
「は、はいっ。」
眼鏡を拭いているところに声を掛けられ、慌てて身を整える。そんなだから生徒にからかわれちゃうんだよ、実力は高いはずなのに。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」
「え・・・。」
「「「ええええええええっ!?」」」
ええい煩い!などとは言えないか。三度の飯より噂好きの乙女たち、その誰もが情報を手に入れることが出来なかった話なのだ。驚きもしよう。
というか同時期の転校生を一クラスに集中させるものか?バランスとかあるんじゃない・・・あ、わかった。問題があるんだな。
そんなことを考えていると、教室のドアが開いた。
「失礼します。」
「・・・・・・」
教室に入ってきた二人の転校生を見て、ざわめきがぴたりと止まる。
まるで時間がまで止まったようだ。
なぜなら。
二人の転校生のうちひとりは、男だったのだから。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします。」
彼、シャルルはそう告げて一礼する。
「お、男・・・?」
誰かがそうつぶやいた。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方たちがいると聞いて本国より転入を」
同じ境遇?俺たちがISに乗れることが判明したのは数ヶ月前だぞ。それも世界的に報道までされた。同じ境遇なら、同時期にその境遇とやらが公表されるはずだ。
だがフランスに男性操縦者が発見されたという話は聞いていない。まぁ極秘扱いされていた可能性もあるが。
しかし人好きのする整った顔、礼儀正しい立ち居振る舞い。黄金色の髪は首の後ろで束ねている。体は男にしては随分華奢。それでもスマートで、しゅっと伸びた脚が美形度を上げている。
まさに絵から出てきたような『貴公子』。だがなぜだろう。何か違和感を感じる。
「きゃ・・・」
「はい?」
しまった!?対ショック防御!
「きゃああああああああーーーっ!」
ぐわぁー!防御しても耳が!
窓ガラスがビリビリ震えてるぞ!?
「男子!三人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~~~!」
元気だね、うちのクラスは。ほかのクラスから女子たちが来ないのはHR中で生徒たちを抑えているからだろう。先生方、お疲れ様です。
「あー、騒ぐな。静かにしろ。」
心底面倒くさそうに織斑先生がぼやく。こういうノリ嫌いな人だからな。
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」
忘れていたわけではない。というか、俺としてはこっちの方が気になった。
腰近くまで伸ばした輝くような銀髪。左目には黒眼帯、丁度おれと左右対称になっている。そして開いている右目は赤く色づいているが、温度を感じない、冷たいモノ。
抜き身のナイフのような雰囲気は『前世』で会った『軍人』と酷似していた。
どうでもいいが、シャルルは同年代の男にしては小柄な方、もう一人は女子の中でも背が低い印象だった。
「・・・・・・」
いや、なんか言えよ・・・。そんなに織斑先生を見ていても仕方ないだろう。
「・・・挨拶しろ、ラウラ。」
「はい、教官。」
教官、ねえ・・・。嫌な予感がするよ。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ。」
「了解しました。」
そう答える転校生、ラウラはぴっと伸ばした手を体の真横につけ、脚をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。
やはり軍人、もしくは軍属。そして織斑先生を教官と呼んでいるとなると、ドイツ、だろうな。
先生、千冬さんはとある事情で一年ほどドイツで軍隊教官として働いていた。とある事情、そう、『俺のせいで』。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
「・・・・・・」
え?終わり?
「あ、あの、以上・・・ですか?」
「以上だ。」
突っぱねられた山田先生は泣きそうな目になっている。先生をいじめるもんじゃないぞ?
「!貴様が」
ボーデヴィッヒは一夏の傍に近づくと、
バシンッ!
見事な平手が飛んだ。ボーデヴィッヒが、一夏を殴ったのだ。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか。」
違うんだよ。ボーデヴィッヒ、一夏は悪くない。悪いのは。
「いきなり何しやがる!」
「ふん・・・。」
そのまま今度は俺の近くにやってくると、右拳を思い切り振りかぶった。
さすがにそのまま食らうわけにはいかない。こちらも右手を上げる。
バアンッ!
直撃したわけでもないのに、右手で受け止めただけなのに平手以上の音がした。それだけ力を込めていたのだろう。
「貴様は・・・、貴様こそ認めんぞ。」
「悪いが救ってもらった命だ。そう簡単に捨てられんよ。」
無茶は沢山してるけどな。
あと、何だかんだで受け止めちゃった。どうしよう。
はてさて、これからどうなることやら・・・。
やっとここまで来た・・・長かった。