「王蛇殿、お帰りはあちらです。」
「タイミング狙って来てやがるのかお前らは!」
「言っている意味が分からんが、不都合でもあるのか?」
不都合しかねえよ、この野郎!
後ろにはエネルギーも空の一夏とシャルルの二人。
他にも月匣のせいで逃げることのできない観客の皆々様。
相変わらずバッドタイミングで来やがる。
「志垣旺牙よ。」
「・・・なんだよ。」
「今回の俺の目的は、織斑一夏の抹殺にある。」
マジかよ・・・。今の状況じゃ、本気のテレモートから守りきれるかわからんぞ。
エネルギーも吸収しながら戦うのも限界がある。ていうか《獣王悪食》はまだ完全に使いこなせていない。常に発動できるわけじゃない。
どうする・・・。
「だが、貴様との決着がまだだ。それまでは、母上の命であっても聞けん!」
「決着?あの時俺が負けただろうが。」
「あの時の貴様が万全でなかったことなど、とうに気付いているわ。完全な敵を倒してこそ、俺の戦いに意味がある。」
侵魔にしては正々堂々だことで。
厄介なのはこいつの言に裏がないってことだ。反応に困る。
「貴様も今の戦いでエネルギーが減っているだろう。織斑一夏共々、回復してくるがいい。」
あー、やりにくい!何考えているんだ!
「騎士でも気取っているのかよ!?」
「うむ、俺は覇王軍最強の騎士だ。それに反することはできん。」
・・・ああそうかい。ならそうさせてもらおうかい。
「一夏、シャルル、一度下がろう。ボーデヴィッヒを医務室に連れて行かないとな。」
「お、おい旺牙。あいつの言う事を素直に聞いていいのか?」
「ああ。ありゃ俺たちの準備が整うまで梃でも動かんよ。多分、な。」
そういう『漢』だよ、あいつは。
===少年準備中===
さて、こっちは何事もなく準備できたが、アリーナは修羅場中だった。
学園のISがテレモートを取り囲んでいた。
少し不味いな・・・。
「・・・志垣旺牙よ。こいつらを何とかしろ。五月蠅くてかなわん。」
心底つまらなそうな態度で周りを睥睨する。
テレモートが手をあげる。すると黒い何かが空間に現れる。それは少しずつ形を成し、中世の騎士のような姿をとった。しかし、その中身は空洞だ。がらんどうの鎧侵魔が召喚された。
その侵魔たちが、客席に向かい飛び掛かる。
パニックに陥る観客席。まさか、テレモートが力を持たないものを攻撃するのか!?
くそ!俺の考えが甘かったのか!?
「安心しろ、こ奴らにはまだ手出しさせん。この邪魔者どもが何もしなければな。」
あまりにも危険な状況。こちらから手を出せば、無防備な人たちに攻撃が行く。
そうなったら・・・。
「皆、ここは俺に任せてくれ。皆は観客を頼む。念のためにな。」
「で、でも旺牙・・・。」
一番近くにいた簪が声をかけてくる。
「頼む。奴は良くも悪くも正直だ。俺とタイマンはるなら全力でそうするだろう。逆に約束を破れば・・・。」
間違いなくアリーナが血に染まる。
「だから頼む!俺と奴の決闘を大人しく見ていてくれ!約束する!俺は、絶対に勝つ!」
アリーナに俺の声が響く。生徒たちは沈黙を、高官ら来賓は何やら騒いでいる。
だがその雰囲気に負けない。必ず勝つから。
『各員、アリーナの守備に当たれ。観客を守れ。志垣、言ったからには、必ず勝て。』
スピーカーから千冬さんのが聞こえる。
当たり前だ。負けるためにいるんじゃない。勝つために準備を整えてきたんだ。
「旺牙・・・。」
「なーに心配するな簪。俺は、勝つから。」
凶獣を纏ったままテレモートの前に出る。それを合図にか、ISたちが鎧侵魔を牽制するように配置する。千冬さんからの指示だろう。ありがたいことだ。これで奴との戦いに集中できる。
だが、どうにも気になることがある。
「月匣はそもそも侵魔が自分の領域として、邪魔者を追い出すものじゃなかったのか?それがこんなに人間を入れて、どうするつもりだ。」
「兄者はどうか知らんが、俺にとって戦いとは決闘。決闘にはそれに相応しい観客が必要だと思わんか?」
「・・・ああ、お前が戦闘狂だということがよく分かった。」
畜生、ちょっと気持ちが分かっちまった俺が憎い。
「御託はもう必要ないだろう。俺と貴様、どちらが強いか、決着の時だ!」
「・・・ああ、はっきりさせよう。どっちが強いのか。」
さぁ、始めようか!!
バトル用アリーナが俺たちの決闘場となった瞬間、俺は『瞬時加速』で接近し、テレモートはハンマーを振り上げる。
俺の上段蹴りと奴のハンマーが激突した瞬間、巨大な激突音とともに周囲の空気が震えた。暫くの押し合いの後、ゆっくりと両者が離れた刹那、再び激突音を響かせる。
違ったのは、互いに連続攻撃に移行したことか。上段の二連撃からカポエラの如く地に手をついて回転蹴りを浴びせる。テレモートはその全てにハンマーを振り回して防ぐ。野郎まるで軽い棍棒を振り回すようにハンマーを動かしやがる。
暫くそんな攻防が続いたが、テレモートがタイミングを変え、ハンマーを俺の横っ腹に打ち込んだ。互いにタイミングがずれていたため、直撃は避けることはできた。だが、超痛ぇ!このハンマー、強化されてやがるな!
が、俺だって負けていられるかよ!
ダメージで浮いた体勢を利用し、顔面に蹴りを打ち込む。
「ぐぶぁっ!」
「一発だけと思うなよ!」
浮遊したまま、連続で顔を踏み潰す。
「調子に・・・乗るなよっ!」
隙を取られ、脚を掴まれ地面に叩きつけられる。今度は俺が顔面にダメージを受ける。畜生、鼻血出てきた。侵魔には絶対防御が薄れる効果でもあるのか?
後頭部に殺気を感じる。脚は掴まれている。これはヤバいか!?回転で拘束を解除し急いで離れると俺の頭があった場所にハンマーがめり込んでいた。うわ、シャレになんねぇ!
「殺す気か!?」
「そうにきまっているわ!」
ああ、まあ、敵同士ですしね。ちょっとした茶目っ気だよ。
一度距離を取って・・・。
「魔空龍円刃《零式》!」
両手で龍を練り放射する。今更だが、どうやら俺の技が音声入力式になっているらしい。声に出すと威力が上がるのだ。まぁ、相手に先読みや反撃を喰らう可能性が大な仕様だが、俺は結構気に入ってます。
そんなことを考えていると、龍は真っ直ぐテレモートに向かって行く。だが。
「うるぅぅぅあああぁぁ!!」
ハンマーの一振りでかき消される。ダメージは少ないだろうと思ったが、全くの無とは思わなかったよ、クソ野郎。
それなら、と再び零距離まで詰める。今度は両腕に龍を纏わせながら。
「があああああああ!!」
「ぬっ!」
それに合わせ、テレモートも突撃してくる。
受け攻め回避幾つか予想してたが。
そいつは悪手だぜ、騎士様よ!
「魔空龍円刃《終式(ついしき)》!!」
零式と紛らわしいが、零式は遠距離攻撃。
終式は、零距離での魔空龍円刃。いつも以上に龍を練り、叩きつける魔空龍円刃の究極形。更に今回は互いに突撃した、つまりカウンターの形になった。
「ぐぅっ!?ガハッ!」
よし!直撃!
ガァァン!
「な・・・あ・・・。」
右側頭部に強い衝撃が走る。一瞬意識が飛ぶ。
逆に俺がカウンターを喰らうとは。すぐに距離を取ればよかった。完全に俺の油断だ。
それでも地面を踏みしめ、背中で奴を突き飛ばす。
たいした距離を取れなかったが、間合いは外せただろう。
「ぬんあああああああっ!!」
駄目だ!勢いは奴にある!無理にでも突進してきた。
ハンマーを大上段に振り上げ全力で叩きつけてくる。単純だからこそ、威力も圧迫感も凄まじい。
避けられ・・・、間に合わ・・・、死・・・。
気付けば両腕をクロスさせ、頭上で構えていた。必死の抵抗を、身体が選択した。
ズウウウウウン!
全身ガードごと地面に埋め込まれる。
やべぇ、衝撃が逃せられない。特に腕が壊される!
「う、ぐおおおおおおお!」
全力で腕を振り払い、何とかハンマーを弾き飛ばす。
野郎、戦闘能力が上がっているのもそうだが、ハンマーまで強化してきたか。
おお~、両腕が痺れとる。
「一撃で沈めるつもりだったが、流石だ。」
「褒められても、嬉しくないね。」
テレモートの腹をよく見ると、鎧に亀裂が入っていた。魔空龍円刃は確かに効いていたんだ。だが、それ以上に気力で反撃してきたわけか。その代償は俺の腕、か。
だがまだ動く。若干罅が入っていたが、これくらいならヒールで回復・・・いや、回復する隙はなさそうだ。こちらの一挙手一投足を見られている。ヒールを唱えようならその間隙に攻撃を喰らう。
ここはこのまま、壊れかけの腕でなんとかするしかない。厄介な。
「魔空龍円刃《壱式》!」
「ぬうん!」
片手で振り払うかよ・・・。見切られたか?
いや、よく見ると弾いた奴の腕も震えている。ダメージは確かに入ってる!
「効いてんのに、無理してんじゃねえよ。」
「貴様こそ、その両腕は大丈夫か?」
互いに笑みを浮かべ、皮肉を言い合う。この短い間で、お互い大ダメージを受けた。
肩で息をする。疲労があっという間に溜まる。忘れていた。これが命を懸けた、『死闘』だ。
「まだ、まだ行くぜぇ。」
「ふむ、来い!」
スラスターを全開にし、アリーナを駆け回る。
まだまだ!ここで『瞬時加速』を追加!スピードが最大限に達する。
曲がる度に骨が軋む、肉が裂ける。それでも俺は止まらない。
もう一撃加えれば!
「見えているぞ!」
テレモートが俺に掴みかかる。ハンマーでは間に合わないと判断したのだろう。だが。
スカッ。
「何っ!?」
俺のスピードは!まだ上がるぞ!
上下左右、縦横無尽に飛び回る。正直何度も意識は飛びかけている。だが、捕まるわけにはいかない!
両腕に龍を練る。後は、タイミングのみ。
「ぐ、ぬおお!」
奴が俺を追う。だが、目で追えるスピードだと思うなよ!
「ぬううううううっ!」
俺にも限界がある。このあたりで決めたいが・・・!野郎!
「・・・。」
追うのを止め、正面に構えた。
背中は、駄目だ!魔法陣で防いでいる!てかそんな器用なこと出来るなら初めからやれよ!
どうせ「騎士の戦に合わん」とか考えてたんだよ。
まあ、そっちがその気なら、全スピードを込めた攻撃を、真正面から叩き込む!
「ぃぃぃぃぃ往くぞぉぉぉぉぉ!!」
勢いは十分、龍の練りも十分、後は。
打ち込むだけ!
「魔空龍円刃《終式》!」
パワー、スピード、龍全て乗せた攻撃だ!ハンマー越しだったが、確実にダメージを・・・
「噴ッ!」
ブウン!
「ぐふっ!?」
野郎、ダメージ覚悟でハンマーを振り上げやがった。
攻撃後の隙を狙ってカウンターの大上段・・・、学習能力が無いのか俺は!
アリーナ中央にクレーターが作られる。中心は俺と、俺の頭を叩き潰したテレモート。大分深い穴が作られたが、どっこい生きてる土の中。
いや、ふざけてる場合じゃない、ダメージがデカすぎる。
「貴様が正面から来るのは読めていた。貴様は正直だからな。多少なダメージなど気合で抑えた。」
化け物かよ・・・。あ、化け物だったな。畜生、頭がんがんする。吐き気もだ。ダメージがデカすぎた。
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嘘・・・。旺牙があんなに追い詰められてる。
あんなに修行していたのに、あんなに頑張っていたのに。
一夏やデュノア君相手にも戦えた旺牙が、あんなに・・・。
「かんちゃん・・・。」
「簪ちゃん・・・?どうしたの?」
何の因果か、私の後ろには本音と沙紀たち。私は、彼女たちを護らなくてはならない。
でも、だけど。
あんな目に遭っている旺牙をみていられない!
春雷を構え、テレモートという大男に向ける。
「「駄目っ!」」
周りの声も、既に聞こえていなかった。
気が付けば、私は春雷を放っていた。
砲弾がテレモートに直撃する。
舞っていた砂塵が晴れる。
そこには、たいしたダメージもなさそうに立っているテレモートの姿。
「あ、ああ・・・。」
直撃したはずなのに・・・、何事もない?
私の身体と精神は恐怖で震えていた。もしかしたら、涙を流していたのかもしれない。
「女ぁ・・・。」
「う。」
「覚悟も無い者が、男の決闘に割り込むなあああぁっ!!」
あの凶獣にも大打撃を与える、テレモートのハンマー、それに押しつぶされたら・・・。
ああ、私、死ぬのかな・・・。絶対防御、間に合えばいいな。
思わず目をつむる。ああ、私ってまだ弱いのかな。
・・・・・・
何も起こらない。私に振りかかったハンマーの衝撃もこない。
ゆっくりと目を開ける。
目の前には、凶獣の頭部が砕け散り、いつもの眼帯を着用した旺牙の姿が。
「あ、旺、牙・・・?」
「あいよ。」
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なんとか間に合ったか。ハイパーセンサーで周囲の事は把握していた。もちろん、簪の行動も。
スラスターを限界まで噴かし、テレモートより先に簪のに出た。絶対防御があるとはいえ、あれの攻撃を受けたらどうなるか・・・。
ま、間に合ったから良いか。
「あ、あの、私・・・。」
「気にすんな。これぐらい屁でもねえ。」
絶対防御越しなのに頭部から血が流れているのが分かる。どんだけの威力だったんだよ、今の一撃。
「貴様、この決闘を汚しておいてどうする気だ。」
周囲の鎧侵魔から殺気が漏れる。牽制と守備にまわっていたIS部隊にも緊張が走る。
「今俺が合図を出せば、一斉に我が下僕たちが暴れだすぞ。」
「ああ、そのことなんだが。」
これが聞き入れてもらえるかわからない。でも俺にはこれしかできない。
「噴ッ!」
凶獣のボディパーツをパージし、両腕と両脚のみの状態になる。
これなら俺へのダメージが倍になるかもしれん。
「望むなら、絶対防御も切る。だからなんとか、今回はこれで勘弁してもらいてえ。」
「・・・・・・。」
背を向け、離れていくテレモート。
聞き入れて、くれたのか?
鎧侵魔は動かない。
「・・・何をしている。続きを始めるぞ。」
何とか、なったのか。
あ、あぶねー。実際はかなりの賭けだった。あいつがガチガチの武人で助かった。
「・・・簪。」
「は、はい!」
さっきから縮こまっていた簪に声をかける。んでチョップ。
「あうっ。」
「そんなに俺が信用ならねえかよ。大人しく見てろ。」
「う、うん。」
「必ず勝つ。だから、大人しく、しっかり見ててくれ。お前の、その目で。」
俺は簪の目を見て、力強く言い聞かせる。
「・・・、わかった。ごめんなさい。それと、勝って!」
テレモートのもとに向かう俺の背中に、そんな声が投げかけられる。
「・・・あいよ。」
それに対し、右腕を上げることで答える。
「待たせたな。」
「・・・一度だけだ。二度目は無いと思え。」
へーへー、わかってますよ。
「・・・来い。」
「ああ、往くぞ!」
右拳に力を籠め、思い切り振りぬく。
ズガンッ、という音とともに、テレモートが吹き飛ぶ。その手にあったハンマーも砕け散る。
・・・。ええと?
テレモートはペッと血を吐き出し、ゆっくりと立ち上がる。
な、何の目的が?
「これで、対等だ。」
ハンマーも失い、鎧も全体にひび割れている。
俺をなめているわけではなさそうだ。
どうやら本気で、俺の状態と対等になったつもりらしい。どれだけ決闘馬鹿なんだよ・・・。
「ああ、いいぜ。そっちがその気なら、俺も全力で答えるだけだ!」
第二ラウンドの始まりだ!
あーーーーーーーーーーー。
語彙力が欲しい。