旺牙「正月はとっくに過ぎた。」
ケジメ案件である
互いにボロボロになりながら、拳を、蹴りを交換する。
俺もテレモートも鼻から、口から血を吹き出し、腫れもできている。
それがどうした。互いに引けないのだから、格好を気にしている暇はない。
テレモートの拳が俺の顔面を捉える。倒れそうになるが、血で滑って威力が下がったのか何とか意識を保っていられる。
返しに俺の蹴りが奴の横っ腹を打つ。
「くう、おおおっ!」
「ぬぅああああっ!」
鬼の表情で耐え、咆哮をあげる。なりふり構わず目の前の敵を倒す。
拳を放つ。同時に奴の拳も俺の顔面に迫っていた。
「「ぶおっ!」」
クロスカウンター。威力が何倍にもなって帰ってくる。
だが奴も同じはずだ。その証拠に、次の一撃が飛んでこない。
息が上がる。残りの体力はどれくらいだ?
構わない。ここで全部使え!
「ふんっ!」
テレモートの攻撃も、空を切る。
限界は、とうに超えているのだ。
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アリーナを囲むISチームは言葉を失っていた。
この凄惨とした闘いが、自分たちの人智を超えたもの、理解すら超えたものだからだ。
ISは人類最強の兵器、のはずだった。それと互角に戦う個人が存在するなんて、思いもしなかった。
彼女たちは戦慄し、知らないうち身体が震えていた。
「全弾フルスイング・・・。恐ろしくレベルの高い喧嘩だな。」
一夏とシャルルが戻ってきた時、アリーナは修羅の闘技場となっていた。
「ちょ、一夏!旺牙は大丈夫なの!?フルスキンの凶獣がボロボロだよ!?」
「手を貸したくても無理なんですの。あのがらんどうの鎧がわたくしたちを見張っている以上、ISを持たない方々の身が危ない。」
セシリアが状況を説明する。鎧たちは沈黙を保っているが、テレモートの合図一つで動き出すのだ。
「僕たちには何もできないのかな・・・。」
シャルルが唇を噛んで悔しがる。だが一夏は信じていた。旺牙の勝利を。
守るべきものがある時の志垣旺牙は、今まで無敵だったのだから。
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攻撃が緩慢になる。素早く動けない。
だがそれは奴も同じ、拳がゆっくりに見える。
だが体が重く回避できない。決闘初期の威力は無いが、それでも身体に響く。脚ががくがくと震える。完全に泥試合の様相だ。
だがまだだ。ここで倒れるわけにはいかない。
「一閃・錬気蹴!」
ここで一撃を放つことが出来た。蹴りを側頭部にぶつける。
「な、がっ。」
体勢を崩した!畳みかける!
「肘打ち!裏拳!!中段蹴り!!!」
「ぐ!むお!かはっ!」
往ける!このまま連打で押し切って!
「がっ!?」
身体が宙に浮く。腹にボディーブローが突き刺さっていた。
この野郎!どこまでタフなんだ。
紅の空の下、闘いはまだ終わりそうにない。
奴が息絶えるまで。俺の身体が動かなくなるまで。
たとえ死んでも、魂になって闘う!
魂が消えても、棺桶から出て奴に勝つ!
息を荒げながら、テレモートは声を上げた。
「確かに貴様は俺が認めた戦士だ。だがなぜそうなってまで闘う。貴様の正義のなせるものか。」
正義。正義か。
「そんなもんはとっくに捨てちまったよ。」
正義の味方ごっこをしていた俺はもう死んだ。ここにいるのは、ただ目に映るものを守りたい、それだけしか考えていない一匹の獣だ。
「俺の後ろに仲間がいて、お前たちと戦う力が無い。だから俺が前に出るんだ。背中に誰かがいる限り、負けられねぇよな!」
「・・・そうか。俺には、貴様は十分輝く正義の味方に見えるがな。」
「その目、曇ってんじゃないか?」
殺し合いをしているというのに、軽口をたたき合う。
歯をむき出し、不敵に笑い合う。
お互いゆっくりと構える。
決着が近いことは分かっていた。
誰もが沈黙を保っているが、空気はビリビリと震えている。
これで最後だ。頼むぜ俺の全て。
「「でえぃやぁーーー!!」」
同時に駆けだす。
奴の拳が俺の顔面を殴りつける。今度はジャストヒットし、俺の頭が地面に叩きつけられる。次の瞬間、両脚を天に伸ばし足底で顎を蹴り上げる。
その体勢のまま脚でテレモートの首を掴み、フランケンシュタイナーの要領で地面に叩きつける。《マヒ》を狙う《竜尾》。久しぶりに使ったな。
倒れているテレモートに対し。
「破を念じて、刃と成せ・・・。」
食らいやがれ!
「念導龍錬刃ッ!!」
「ヌグアッ!」
直撃、か!
グンッ!
なんだ!?引き釣り下ろされて!?
一瞬のうちにマウントを取られた!?
「ぬぅああああっ!」
拳が連続で振り下ろされる。防御するも、何発はそれをすり抜けてくる。どこの格闘技イベントだっつーの。
悪態ついてもダメージは変わらない。早く引きはがさないと、な!
ISの残った機能で回転し、拘束を解く。
ペッと口の中の血を吐き出す。
念導龍錬刃でも魔空龍円刃でも奴は倒れなかった。
そうなると、最後の切り札を使うしかない。
だが、あれは放つための龍を練るのに時間がかかる。
おまけに脚はガタガタ。打てるのは一発が限界。
呼吸を整える。『アレ』を放つための準備を。
再び互いの動きが止まる。
数分も経っていたようで、数秒しか経っていないようで。
「うるぅぅぅあああぁぁ!!」
膠着に耐えかねたように、テレモートが拳を振り上げ向かってくる。
慌てるな。見極めろ。奴の動きを。
拳が近づいてくる。・・・ここだ!
迫りくる拳を掻い潜り、懐に入り込む。
今度は俺の両拳に力を込める。『龍門』を。
「はあぁ、錬気怒涛拳ッ!」
その名の如く、怒涛のように拳を打ち込む。どこまでも速く、迅く!
「ヌガァァァァァッ!」
「でぃやぁぁぁぁぁっ!」
テレモートの残った鎧がボロボロと砕けていく。
「破ッ!」
最期の一撃を打ち込む。
奴の動きが止まる。
その隙に足に龍を練る。
「テレモート、これがお前に放つ最後の一撃になる。・・・別に出会い方が違えば友になれるだろうなんて言わない。」
龍、錬成完了。
「俺たちは敵同士、そういう運命だった。」
空中に舞い上がる。
「破を念じて、龍(りゅう)と成せ!」
全身を龍(りゅう)の形に成ったプラーナで覆う。
「『龍王爆功撃』!!」
勢いのまま、テレモートにぶつかる。
「うおりゃああああー!」
そのまま蹴り進む。脚からプラーナを流し、爆発させる。
俺たちは止まらずそのまま壁まで押し込んでいく。
ドガァン!と轟音が鳴り、テレモートが俺と壁に挟まれる形になる。
後方にジャンプし、奴との距離を開ける。
残っていた鎧が崩れだし、パリーンという音とともに完全に崩壊した。
「・・・ふ、ふっふっふ。」
「・・・。」
「俺の負けだ・・・。」
敗北宣言を聞く。何故だろうな、素直に喜べない。
「さっきも言ったが、友にはなれない。でも、いい勝負だった。」
「ああ、晴れやかな気分だ。本当に、いい勝負だった。」
相手は侵魔。だが、この男は強かった。心からそう思える。
「ふふふ、母上はこうはいかんぞ。あの方は俺なんぞと次元が違う。」
「それでも、俺は勝つ。それがウィザードの使命だ。」
キラキラと何かが舞っている。よく見ればテレモートの体が薄くなっていく。
これが奴の最期となるとは、意外と儚いものだ。
「ふふ、さらばだ、志垣旺牙。もう二度と会うことは無いだろう。」
その言葉とともに、テレモートの姿は完全に消え失せた。言葉が少ないのも奴らしい。
はは、何か言っておけばよかったか。
俺はそっと敬礼した。それだけでも許されるだろうと思ったし、これくらいの敬意は示したかった。
そして、俺の意識は吹っ飛んだ。
===覇王軍===
「そんな・・・、テレモート兄様が・・・。」
悲しみを堪えるように、顔を伏せるマリア。
「ホッホッホッ、未熟なウィザードに討たれるとは、なんとも情けないですねぇ。」
「トルトゥーラ兄様!そんな言い方は無いでしょう!兄様は立派に戦って!」
「それでも勝利を常とするのが我ら覇王軍よ。それをわきまえなさいマリア。」
「パツィア姉様・・・。」
四天王の長として、そして覇王の長女として落ち着きを見せるパツィア。
それでもマリアは悲しみを隠せなかった。マリアの優しさを理解してくれたのは、母である覇王ジーザと、一見戦闘狂だが妹への優しさを見せたテレモートだけだった。
特にテレモートは封印中もよく話し相手になってくれていた。意外にも妹想いの男であったのである。
「マリア。復讐などという行動はとらないでくれ。それはテレモートも望まない。全力で戦い、そして潔く散った。あのウィザードも、全力で闘いに応えた。恨む筋ではないよ。」
「・・・はい、母様。」
マリアに優しく語り掛ける覇王ジーザ。
「・・・。」
それを気に入らないという表情で見つめる者が一人。
「フフ、母上様。次は私が参りましょう。なに、あのウィザードを討てば、『覇王を討つ者』を葬ることなど容易いこと・・・。」
トルトゥーラが名乗りでる。自信があるのか、深い笑みを浮かべている。
「うむ、賢きトルトゥーラ。お前に任せよう。だが、油断するでないぞ。」
「ハハ、必ずや命を達成して見せましょう。」
侵魔たちの宴は終わらない。世界の全てを包み込むまで。
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『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上』
ピッ、と部屋のテレビを消した。
「結局そういう話に落ち着いたか。」
「いや、もう平気に動ける旺牙は人間を止めてる気がするよ。」
失礼な、ヒトの作ったデザートを頬張っておいて。
まあ今回は今まで以上に疲労と傷を負ったと思う。それでも夜には目が覚めて自室待機できているんだから、自分でも化け物めいてる。だんだん人間味が無くなってきたというか。
「こっちはチャンスが消えて喜ぶべきか悲しむべきか困ってるのに・・・。」
「ん?何か言ったか?」
「何も。」
そう言えば俺たちと一夏たちはどうなるんだ?またやり直し?
すっげーめんどくせぇ。
コンコン、とドアがノックされる。
「志垣くん、いらっしゃいますか?」
この声、山田先生か。簪とアイコンタクトして、招き入れる。
「どうしました?」
「朗報ですよ朗報!今日から男子の大浴場使用が解禁です!」
「ほう。」
今まで女子たちから反対の声が上がってた大浴場の使用。
何でもボイラー点検の関係で、それなら男子三人に使ってもらおうという計らいらしい。
大浴場、久々に身体を伸ばして風呂に入りたいところだが、ちょっと待ってほしい。
男子は三人ではなく『二人』だ。・・・どうしよう。
「そ、それはいいですね!時間は決まってるんですか?」
「いえ、とりあえず今晩中ですね。それがどうかしましたか?」
ああ、そんな小動物みたいな目で見ないでくれ!
「わ、わかりました。お言葉に甘えて入らせていただきます。」
「はい!それでは私はこれで。」
来た時同様、風のように帰ってしまった。意外とフットワーク軽いな。
さてと・・・。
Pi!Pi!Pi!
「ああ一夏か?お前ら先に風呂入ってろ。んでお前らが出たら俺が入る。」
『うおおい旺牙!?そのことで連絡しようとしてたのに!』
「俺まで一緒に入ると余計気を遣わせるだろう。後はお前ら二人で入ってろ。」
『いやだから』
「いいから入ってろ。んで出たら連絡しろ。いいな?」
『・・・はい。』
まったく、それくらい自分でなんとかしろってんだ。俺?俺は部外者だし。
「旺牙、お風呂入らないの?」
「デザート片付けてからな。」
「手伝うね。」
簪は良い子だなあ。
「で、結局二人で入ったのか。」
「お、おう。」
「\\\」
シャルルの顔が赤いのは、湯上りのせいじゃないと思う。
「・・・変なことしてないだろうな。」
「「してない!!」」
そうですか。
「んじゃ、次は俺が入らせてもらうぞ。」
「うん。お休み。」
「お休み、旺牙。」
俺は自分の裸体を晒すのが好きではない。
この全身の傷は、あまり見られたくない。
自分で残すと決めた以上、消す気は無い。
だが、やはりいい気はしない。
この傷を消そうと思う時が、トラウマを乗り越えた時なのだろう。
まあ、それにしても。
「あったけえなあ~。」
俺の全身が伸ばせる風呂何て、いつ以来だろう。
今はこの気分を満喫しよう。
翌日。朝のホームルームにはシャルルの姿がなかった。
一夏曰く、食堂で別れたきりらしい。
それとボーデヴィッヒの姿もなかった。これはまあ、昨日の負傷で休んでいるのだろう。あれ、俺が平気なのはみんなスルー?
「み、みなさん、おはようございます・・・。」
教室に入ってきた山田先生はなぜだかふらふらとしている。だいぶお疲れのようだ。
「今日は、ですね・・・みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと・・・。」
なんだか煮え切らないというか、はっきりしないというか、・・・何?転校生?
クラスのみんなもそこに反応したらしく、一斉に騒がしくなる。今この時期、というか今月はふたりも来ているのに、それにまだ、あ・・・まさか。
「じゃあ、入ってください。」
「失礼します。」
この声は、まさか。
「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします。」
ぺこり、スカート姿のシャルル、もといシャルロットが礼をする。俺を始めクラス全員がぽかんとしたまま礼を返す。
「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。はぁぁ・・・また寮の部屋割りを組み立て直す作業がはじまります・・・。」
なるほど、山田先生の憂いはそこにあったのか。
さてと・・・。
「え?デュノア君て女・・・?」
「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね。」
「って、織斑君、同室だから知らないってことは」
「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」
「あ、俺だけ別に入った。」
「旺牙てめー!!」
ザワザワザワッ!教室が一斉に喧噪に包まれ、それはあっという間に溢れかえる。
その時、バシーン!教室のドアが蹴破られたかのような勢いで開く。
「一夏ぁっ!!」
鈴が、女の子がしちゃいけない顔で現れた。
「死ね!!!」
ISアーマー展開、それと同時に両肩の衝撃砲がフルパワーで開放される。
って!ヤバい!俺の防御も間に合わない!このままじゃ一夏が『ミンチより酷ぇや』状態になってしまう。
ズドドドドオンッ!
「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」
怒りを解放し肩で息をしている鈴がいる。が、それ以上に気になるのが、一夏と鈴の間に割って入ったのは、ボーデヴィッヒだった。
『シュヴァルツェア・レーゲン』を身に纏い、おそらくAICで衝撃砲を相殺したのだろう。
「助かったぜ、サンキュ。・・・っていうかお前のISもう直ったのか?すげえな。」
「・・・コアはかろうじて無事だったからな。予備パーツで組み直した。」
「へー。そうなんーむぐっ!?」
ズキューン!!
や、やったー!
キス、接吻、ヴェーゼ、マウストゥマウス!
レールガン以上の大砲だー!
「お、お前を私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」
「・・・嫁?婿じゃなくて?」
いやそこじゃねえだろ。
「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする。」
誰だよそんなこと教えたやつ!
「志垣旺牙!」
今度は俺ぇ!?
「お前は私の相棒だ!」
・・・はい?
「同じく日本では共に戦った者を『相棒』と呼ぶそうだ。トーナメントで私たちは共に戦った。それも息を合わせてだ。それを『相棒』と呼ばず何と呼ぶ。」
それも誰かの入れ知恵か?ていうかトーナメントでは俺が合わせてやった形になっていたんだが・・・。
・・・まあなんだ。悪い気はしない。
「あー、なんだ。そういうことなら、よろしく頼むぜ、『ラウラ』。」
「うむ、よろしく頼む、『旺牙』。」
背後で繰り広げられている地獄絵図は見ないようにしよう。
その晩。
「旺牙、ボーデヴィッヒさんと『相棒』になったんだってね・・・。」
「ああ。・・・どうした?機嫌悪いぞ?」
「別に。(旺牙の『相棒』は私がなりたかったのに・・・)。」
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ドイツ某所上空。
かつて研究所があった場所には、草一本生えていない更地が広がっていた。
ここで研究されていたのはVTシステム。研究所ではシステムの効率化、強化、量産化がなされていた。
ISとその乗り手を侮辱する行為。それが彼らの逆鱗に触った。
生存者ゼロ。たとえいたとしても、上空に漂う黒い死神の手によって刈り取られることだろう。
「上級侵魔を一人で倒すか。そろそろ俺の出番が近づいているか。」
黒はそこでようやく踵を返し、そこを飛び去る。
久しぶりの解説
爆功・・・爆発的にプラーナを解き放ち、相手を吹き飛ばすほどの攻撃を行う特技。
龍王爆功撃・・・旺牙が出せる全ての特技を組み合わせた奥義。イメージは『仮面ライダー龍騎』の主人公、龍騎のファイナルベントです。
ん?知らない?ニコニコ動画やYouTubeで調べてみてください。