安東先生の衝撃的登場、及び機密暴露で全員が手を止め、ざわつく。そりゃそうだ。今までの自分たちの常識が、俺と一夏のせいで崩れたというのに、さらに世界的規模の秘密を知ってしまったのだから。織斑先生が作業に戻るように言っても、緩慢な動きになってしまっている。まるで死刑宣告を受けた被告人のごとく。
いやもう、なんてことを言ってくれたのだろうこの人は。
「旺牙、凶獣は俺が見よう。もう一度展開しろ。」
「あ、はい。」
「む。私も凶獣のデータが欲しいんだけど。」
「もちろんデータは渡す。お前の方が『専門家』だからな。」
「いちいちむかつく・・・。」
束さんにこんな口きけるのが織斑先生以外にいるとは・・・。というか辺りの気温を下げるような会話しないでください。夏の砂浜なのにシベリアの凍土のようだ。
そんなやり取りをしながら、凶獣の装甲にぶすりとコードを刺す先生。すると先程の束さんと同じくらいのディスプレイが出現する。
「なんだこのフラグメントマップは。不思議と言うか常軌を逸しているというか、おれの『グレート・ワン』ともまるで違う構築だな。お前、何かしたか?」
「できるわけないでしょう、機体の整備ができるようになったのも最近なのに。」
ちなみにフラグメントマップというのは、各ISがパーソナライズによって独自に発展していくそのその道筋のことをいう。人間で言う遺伝子だそうな。
「ところで先生。なんで俺や一夏、安東先生はISを使えるんです?」
「さすがにそこまでは解からん。試しにISをフルスクラッチしてみたら、いつの間にか俺にフィッティングして、気づけば俺の専用機になっていた。何を言っているのかわからないと思うが、作り主の俺でも理解不能だ。」
「はぁ。」
「束ならわかるんじゃないか?ナノ単位まで分解されればなにか結果が出るだろう。」
「辞めときます。」
「俺もごめん被る。」
ディスプレイを見ながら、新たに出現させたキーボードを叩いている。束さんはピアノを奏でるかのようだったが、安東先生はまさに『叩く』と言った感じで、空中キーボードなのにダカダカ音が聞こえてきそうな勢いだった。
「しっかし凶獣の自己進化ぶりはアレだな。まさに獣のように凶暴だ。今まで見てたが旺牙、すこし乱暴に扱い過ぎじゃないか?」
「はあ、そうなんす、ってなに?今まで見てた?じゃあ助けてくれても良かったんじゃないですか?」
「それじゃお前の成長にならんだろ。俺の親心、いやウィザード風に言えばお前が対処するのが『運命』だったんだ。」
出たよ、ウィザードの『運命』。どれだけ強いウィザードでも、『打ち倒す運命』になければ侵魔を滅ぼせないという理論。逆に覚醒したばかりの新人が強大な侵魔を倒すのも『運命』とやららしい。いまだに俺はその謎理論が理解できない。
「んー。おい束。『こいつ』はどの段階でオカジマに渡した。」
「とりあえず外観が出来てからだよ。武装面はそこに任した。」
「なるほど・・・。どうりで対『やつら』用の武装が整ってあるはずだ。」
ん?武装は束さんが基礎を用意したって言ってた気がするが。まさか本当にオカジマ技研は対侵魔用の武器を作ってる?
「単一使用能力は、覚醒直前か。予想より早いな。まああれだけ無茶すればこうもなるか。」
安東先生は一人ブツブツと呟いている。ま、俺には何一つわからないんだがな(自虐)!
向こうでは果敢にも、というか無謀にもセシリアが束さんに話しかけていた。そして冷たくあしらわれていた。その場だけ南極大陸になったような冷たさだ。
まったく・・・、この人は昔からこうだ。
いわく『人間の区別がつかないね。わかるのは箒ちゃんとちーちゃんといっくんとおーくんくらいだね。あと、まあ両親かねえ。うふふ、興味ないからね、他の人間なんて』とのこと。一応、安東先生は駄目な方向で反応しているようだが。ああ、あとクロエがいるじゃん。秘密だけど。
最初は俺のことも無視していたが、俺が四歳のころ束さんを一本背負いしたり、束さんがいじった機械をばらしてもう一度組み立てた時から態度が急変。大事なモノリストに載ったらしい。興味が湧いたとのこと。今では不定期にやってくる大事なお客さんになった。IS学園に入ってからは通信を一度しただけだけど。
「あー・・・ごほんごほん。」
束さんが一夏で遊んでいると、箒が咳払いをして話に入っていく。
「こっちはまだ終わらないのですか?」
「んー、もう終わるよー。はい三分経った~。あ、今の時間でカップラーメンができたね、惜しい。」
なにが惜しいのか・・・。ふざけているのか本気なのかまるでわからん。さすが束さん。ちなみに、褒めてない。
「んじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。箒ちゃんイメージ通りに動くはずだよ。」
「ええ。それでは試してみます。」
プシュッ、プシュッ、と音を立てて連結されたケーブル類が外れていく。それから箒がまぶたを閉じて意識を集中させると、次の瞬間に紅椿はもの凄い速度で飛翔した。
その急加速の余波で発生した衝撃は砂が舞い上がる。こちとらフルスキン、砂塵に影響されずに箒の姿を追うと、二百メートルほど上空で滑空する紅椿を凶獣のハイパーセンサーが捉えた。
「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
「え、ええ、まぁ・・・。」
束さんもISを装備しているんだろうか、オープン・チャンネルでの会話が俺に、おそらく白式にも飛び込んでくる。
「じゃあ刀使ってみてよー。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータ送るよん。」
そう言って空中に指を躍らせる束さん。武器データを受け取った箒は、しゅらんと二本同時に刀を抜き取る。さすがに洗礼された動きだ。
「親切丁寧な束おねーちゃんの解説つき~♪雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出、連続して敵を蜂の巣に!する武器だよ~。射程距離は、まあアサルトライフルくらいだね。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫。」
束さんの解説に合わせてかどうかはわからないが、箒が試しとばかりに突きを放つ。右腕を左肩まで持って行って構える、篠ノ之剣術流二刀型・盾刃の構え。攻防一体の構えで、刀を受ける力で肩の軸を動かして反撃に転じるという守りの型。
そこから突きが放たれると同時に、周囲の空間に赤色のレーザー光がいくつもの球体として現れ、そして順番に光の弾丸となって漂っていた雲を穴だらけにした。
「次は空裂ねー。こっちは対集団仕様の武器だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動で展開するから超便利。そいじゃこれ打ち落としてみてね、ほーいっと。」
言うなり、束さんはいきなり十六連装ミサイルポッドをコール。光の粒子が集まって形を成すと、次の瞬間一斉射撃を行った。
「箒!」
「―――やれる!この紅椿なら!」
その言葉通り、右脇下に構えた空裂を一回転するように振るう箒。またあの赤いレーザーが、今度は束さんの言葉通り帯状になって広がり、十六発のミサイルを全弾撃墜した。
「すげえ・・・。」
一夏が感嘆の息を漏らす。爆煙が収まっていく中、真紅のISと箒は威風堂々たる姿をしていた。
全員がその圧倒的なスペックに驚愕、魅了され、言葉を失う。その光景を、束さんは満足そうに眺めてうなずいた。
だが、この状況に酔うことが出来ない人間もいた。
織斑先生と安東先生は束さんを厳しい目で見ていた。
そして俺は、いまだ興奮が治まらない箒を見ていた。
あの姿には見覚えがある。『かつての』俺。力を手に入れ、自分が特別な存在だと思っていた俺に似ていた。『昔の』自分を見るのってのは、どうも気分が悪い。
「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」
山田先生が慌てて声をあげた。安東先生の乱入以上に慌てている。これはただ事ではなさそうだ。
「どうした?」
「こ、こっ、これをっ!」
渡された小型端末の画面を見て、織斑先生の表情が曇る。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし・・・。」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた―――。」
「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる。」
「す、すみませんっ・・・。」
「専用機持ちは?」
「全員出席しています。」
織斑先生と山田先生が小声でやりとりしている。しかも、数人の生徒の視線に気がついてか、会話から手話へと切り替えた。それも普通の手話ではなかった。軍用、ともちがうようだし、IS関連の独自のものだろうか。
「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ。」
「了解した。―――全員、注目!」
山田先生が走り去った後、織斑先生はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせる。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」
「え・・・?」
「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って・・・。」
「状況が全然わかんないんだけど・・・。」
不測の事態に、女子一同はざわざわと騒がしくなる。
しかしそれを、織斑先生の声が一喝した。
「とっとと戻れ!以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!!」
「「「はっ、はいっ!」」」
全員が慌てて動きはじめる。接続していたテスト装備を解除、ISを起動終了させてカートに乗せる。その姿は今までに見たことのない怒号におびえているかのようでもあった。
「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、志垣、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識!―――それと、篠ノ之も来い。」
「はい!」
妙に気合が入っているな。・・・こういう時が一番不安なんだが、織斑先生はどう考えているのか。
「安東、教師として合流したからには、お前にも来てもらうぞ。」
「当然だろうな。了解だ。」
「では、現状を説明する。」
旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間では、俺たち専用機持ち全員と教師陣が集められた。
照明を落とした薄暗い室内に、ぼうっと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。」
軍用IS・・・。響きだけでも面倒そうな代物だ。
「・・・・・・。」
一夏以外、皆が厳しい顔つきになっていた。あいつはあいつで現状を理解できていないようだ。
思えば国家代表、並びに候補生。有事の際に対しての訓練も受けていたのだろう。特に正式な軍人であるラウラの眼差しは真剣そのものだった。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後。学園湖上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。」
淡々と続ける織斑先生。次の言葉は、半ば予想通りのものだった。
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう。」
やはり。教員が訓練機を扱うと聞いた時点でそうなると思ったんだ。この案件、一筋縄じゃいかないぞ。
「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように。」
「はい。」
早速、手を挙げたのはセシリアだった。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します。」
「わかった。ただし、これらは二ヶ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる。」
「了解しました。」
まあ、軍事機密だからな。よそにペラペラと喋って、自国どころか第三国に情報が入ってしまったら、それこそ戦争の序曲ってことになる。即処刑されないだけ軽い処分だろうよ。
データが開示されると、教師陣と代表候補生の面々が相談をはじめる。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるですわね。」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が有利・・・。」
「主力兵装のスピード。これじゃあ『山嵐』はむしろ的・・・。」
「この特殊兵装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイブ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ。」
「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」
セシリア、鈴、簪、シャルロット、ラウラは真剣に意見を交わしている。
くそ!対侵魔の作戦会議ならまだ意見を出せようものなのに、ISのことになるととんと疎くなる。自分が情けない。今日まで何を学んできた!
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速二千四百五十キロを超えるとある。アプローチは一回が限界だろう。」
「一回きりのチャンス・・・ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね。」
山田先生の言葉に、全員が一夏を見る。
「え・・・?」
「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ。」
「それしかありませんわね。問題は―――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか。」
「しかも、目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう。」
「旺牙、凶獣の速度は?
「全速力でギリギリだな。問題はハイパーセンサーの感度がよろしくないところか。」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!お、俺が行くのか!?」
「「「「「「当然。」」」」」」
俺含め六人の声が見事に重なった。
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない。」
先生、それはむしろ一夏を焚きつける言葉です。いや、狙ったのか?
「やります。俺が、やってみせます。」
まあ、シスコン気味の一夏なら、みんなの、いやさ織斑先生の期待には応えるだろうな。
「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています。」
全てのISは『パッケージ』と呼ばれる換装装備を持っている。
パッケージとは単純な武器だけではなく、追加スラスターなど装備一式を指し、その種類は豊富で多岐にわたる。中には専用機だけの機能特化専用パッケージ『オートクチュール』というのが存在する。俺の凶獣にもあるのだろうか。
これを装備することで機体の性能を性質を大幅に変更し、様々な作戦が遂行可能になるというものだ。ちなみに、俺も含めて一年の専用機持ちは今のところ全員がセミカスタムの標準装備である。
あー、シャルロットだけはフルカスタム機のデフォルト、ってわかりづらいわ!
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「二十時間です。」
「ふむ・・・。それならば適任―――」
だな、と言おうとした織斑先生を、底抜けに明るい声が遮る。
「待った待-った。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
気配を辿ると、天井からだった。全員が見上げると、部屋のど真ん中の天井から束さんの首がさかさに生えていた。いやこえーよ。
「・・・安東、つまみ出せ。」
「無理ってわかってて言ってるだろ。」
「とうっ★」
くるりと空中で一回転して着地。相変わらず驚異の身体能力である。どこまででたらめなんだこの人は。
この作戦会議室に人間やめてる存在が三人。ん?天下取れんじゃね?
「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」
「・・・出て行け。」
頭を押さえる織斑先生。山田先生は必死に束さんを室外に連れて行こうとするが、するりとかわされてしまう。
「聞いて聞いて!ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」
「なに?」
「おい束。まさかぶっつけ本番で行く気か?」
「お前には言ってないだろ、しっ、しっ。」
「こいつ・・・。」
急な束さんの登場。そして紅椿の存在。この作戦、大丈夫なのか?
またも変なところでぶった切ってすいません。切りのいいところまで書くと一万字超えそうなので。
え?もっと書いてる人は沢山いる?すいません、私が無理なんです(汗)。