作者)いや、いきなり大量の情報を押し付けるのもいけないと思って。
旺牙)魔空龍円刃!
作者)最近厳しくねーっ!?
「作戦完了―――と言いたいところだが、お前たちは独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐに反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ。」
「・・・はい。」
戦士たちの帰還に、鬼の教官殿はそれはそれは冷たい言葉をくれた。
腕組みで待っていた織斑先生に俺たちはきつく言われ、勝利の感触さえおぼろげだ。今は大広間で全員正座。この状態でもう三十分は過ぎた気がする。個人的にはこれくらい物の数ではないのだが、セシリアが限界だ。顔色が真っ赤になったり真っ青になったり。これはかなりの危険信号だ。
俺は違反行動をしていないって?勝手に殿を請け負って、そのまま敵の罠にかかったのが良くなかったらしい。もう一人の鬼がそう言ってた。
「あ、あの、織斑先生。もうそろそろそのへんで・・・。け、けが人もいますし、ね?」
「ふん・・・。」
怒り心頭の織斑先生に対して、山田先生はおろおろわたわたとしている。さっきから救急箱を持ってきたり、水分補給パックを持ってきたりと忙しい。しかし、なぜこの人を見ていると小動物を見ている気分になるんだろう?
「じゃ、じゃあ、一度休憩してから診断しましょうか。ちゃんと服を脱いで全身見せてくださいね。―――あっ!だ、男女別ですよ!わかってますか、織斑君、志垣君!?」
・・・いや、わかってますがな。ちょっと意地悪してやる。
「あー、そんな目で俺たち見てたんだぁ。ひでぇな山田先生。」
「え、あ、その、ごめんなさい・・・。」
「こらこら、山田先生イジメるな。」
チュドンッ!!
鋭いリバーブローが突き刺さる。
「・・・すいませんでした。」
「男子の診断は俺だ。さっさと別室に行くぞ。」
安東先生に従い、俺は大広間から出た。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
うわ、気まずい。久しぶりの邂逅に気合を入れたはいいが、何もできずにみんなの力を借りてやっと勝利を手繰り寄せた。余裕のようで、実際は薄氷の上の勝利だった。信頼していたとはいえ、みんなに何かがあったらと思うと・・・。
「ウィザードは一人で戦うものじゃない。最後に全員の力を借りた判断は悪くないと思っている。」
え?
「捕らえられたのは減点だが、そうだな、七十点と言ったところか。」
この人がこうも褒めるなんて。
「俺、死ぬんですか?」
「何言ってんだお前。」
・・・これは、自信を持っていいんだろうか?
「まぁ、お前の理想は防衛だからな。誰かを守りながら戦う、厳しい道だが、決めたからには貫き通せよ。」
「・・・はい!」
「「「「「「とっとと出てけ!」」」」」」
六人の女子の怒声に押されるように、一夏が廊下に転がりでてきた。
まったく、女難の相とはよく言うが、こいつは・・・。ていうか簪の肌は見てないだろうな。見てたら圧縮してよくわからないグロい物質にしてやる。
・・・なぜに俺は最近簪の事となると変になるんだ?
「あ、安東、その、先生。」
「うむ。安東先生だよ。」
うーんこの絶妙な爽やかじゃない感。
「先生も、今回の俺たちの行動は、」
「教師として、指揮官としては減点だ。」
一夏が何かを言い切るまえに、先生は評価を下す。
「う・・・。」
「だが、君は生きて帰ってきたし、全員が生還できた。自信を持て。まだ未熟だが、君には人を救う力がある。」
「・・・はい!」
そう言って、救急キットを持って先を行く安東先生。
「なあ、旺牙。」
「なにかね一夏。」
「安東先生って、すごい人なのか?」
「飴と鞭の配分が上手いんだよ。」
そういうところも変わっていない先生に、俺も変わらず男惚れしている。
・・・だからホモじゃないよ!?
◇ ◇ ◇
「ね、ね、結局なんだったの?おしえてよ~。」
「・・・ダメ。機密だから。」
少し離れた席で、ぱくぱくと夕食を食べるシャルロットに一年女子が数名群がってあれやこれやと訊いている。おそらく一番取っつきやすい彼女なら訊けると思ったのだろうが、そいつは無理だ。シャルロットは優しそうでいて専用機持ちの中では一番責任感が強い。
「ちえ~。シャルロットってばお堅いぁ。」
「あのねぇ、聞いたら制約つくんだよ?いいの?」
「あー・・・それは困るかなぁ。」
「だったら、はい。この話はこれでおしまい。もう何も答えないよ。」
「ぶーぶー。」
やるなシャルロット。同学年の女子なら軽くあしらうか。一見して妹キャラや貴族のお嬢さんキャラに思えるが、案外お姉さんキャラがあっているのかもしれない。セシリア?同じ貴族のお嬢さんでも方向性が違うだろ。
テーブルでは果敢にもラウラに突撃してる女子がいるが、それこそ無茶だろう。昔から言うだろう。ドイツ人は規則に厳しい。軍人ならなおさらだ。
ところで、俺の周りの女子たちも俺をちらちら見ている。そろそろ鬱陶しくなってきたぞ・・・。
「・・・何用かね君たち。」
「いやぁ、志垣君のことだから絶対に喋らないだろうけど。」
「なにかの拍子でポロっと零れないかなっと。」
「・・・言わねえよ。見くびるな。」
「うーむ、やはり堅いか・・・。」
「あのなあ、お前らは制約がつくし、後ろ盾のない俺は下手すりゃ査問委員会に呼ばれちまうんだ。下手すりゃ一生塀の中。それでも聞きたいか?」
「え、遠慮しておきます・・・。」
うーん。やはり俺にはシャルロットのように受け流すような大人の対応が出来ん。脅すように言ってしまう。どうしてここまで差が出来た。
「・・・。」
「・・・。」
「なんだよ、ぼーっとして。お前らも聞きたいのか?」
「「あ、そうじゃなくて。」」
声が重なった。沙紀に萌、ここまで息があったコンビだったとは。
「じゃあ何で心ここにあらず、って顔してたんだよ。」
「え!?そんな顔してた!?」
「ああ、ばっちり。」
「うぅ。」
萌は顔を真っ赤にして俯いてしまった。ふれないほうがよかったか?
沙紀は沙紀で、浮かない表情に変化した。
「・・・私もIS学園の生徒だから、特殊任務行動いうのが何を意味しているのか、少しはわかるよ。危ない事、なんだよね。」
そうしてあげた顔は、悟ったような困ったような、不思議な顔だった。
「だから、これだけ言わせて。みんな、無事でよかった。」
あー、照れるようなこと言わないでくれます?
「おー、しおーが耳まで真っ赤だ。」
うるさいよ本音。
それにしても一夏たちの周りはいつも賑やかだな(現実逃避)。
◇ ◇ ◇
「ふう・・・。」
温泉に浸かり、ほどよく温まった体に、夏の夜風が当たる。いつもなら蒸し暑い不快な風も、今は爽やかに流れている。これも旅館の人気の一つなのだろうか。
俺は今、壁が無く外が解放されている廊下に腰掛けている。砂が入ってこないか心配に思ったが、そもそもの造りがそうならないようになっているらしい。
「なんとも濃い臨海学校だったな。」
呟きながらペットボトルのお茶を飲む。若干ぬるくしておいたのが、体にしみる。
周囲の時間が止まったような感覚の中で、客が来たことを感じる。
「よう、簪。お前も座れよ、いい気持ちだぞ。」
「女子はずっと前にお風呂を出たよ。でも、そう言うなら、お邪魔します。」
簪が俺の隣に座る。風呂はもう入ったと言っていたが、まだ体の火照りが治まっていないのか、首筋の赤が消えて切っていない。
俺は月匣からジュース、お茶、紅茶を出して彼女の前に広げる。
「どれがいい?」
「旺牙って、たまにどこからともなく物を出すよね。」
「ふふふ、俺は『魔法』が使えるのだよ。」
「すごい『魔法使いさん』だ。じゃあ、お茶を頂くね。」
残った飲み物は簪の目を盗んで月匣にしまう。本来はこういう使い方じゃなかったはずなんだが、安東先生の影響でなんともずぼらになってしまった。
さああぁ・・・。
風が一陣、優しく流れる。
俺たちは何を言うでもなく、並んで座っていた。
穏やかな沈黙が訪れる。
「心配、したんだよ。」
その沈黙を、簪が静かに破る。
「旺牙がMIA認定された時、頭の中がぐちゃぐちゃになって、目の前が真っ白になって、でも私は代表候補生だから、みんなの前で泣くことなんて、出来なかった。泣く時間なんてなかった。みんなと一緒に福音を止めに行くことが私にできる、私がしなくちゃいけないことだったから。」
「ああ、間違ってない。」
「でも、『あいつ』が現れた時が、限界だった。もう体中から怒りが溢れ出して、血液も沸騰しそうで、なにより自分が憎しみに囚われていくのが、怖かった。旺牙が居ないのが怖くて、泣きたくなった。」
「・・・・・・。」
簪が目尻を拭う仕草する。
そして俺との距離を詰め、肩に頭をつける。
俺の心臓の鼓動が早くなる。そして簪のも。
「ありがとう、帰ってきてくれて。ありがとう、助けてくれて。」
「・・・ああ、俺からも、ありがとう。助けてくれて。信じてくれて。」
まったく、女ってのは狡いや。自分が困ってることを伝えると、男がどう応えるかを無意識に理解している。だが、それでいいものだと思う。古来から、男の最高の褒美は女の笑顔なのだから。
女尊男卑の世になってそれが崩れたように思えるが、本当に良い女はいつでも美しい。
そもそも、最近の俺は簪に魅かれている。いや認めよう。もう、惚れている。
いつからだろうか。出会ってまだ数ヶ月、自分で言うのもなんだが、ちょろい。だが、それでいいと思う。
恋愛とは、惚れた方が負けであるとよく言う。本当にそうだろうか。少なくとも俺は、毎日が楽しい。彼女といられることが、とんでもなく嬉しい。
今の俺は負けたのに楽しんでいる。負けて得るもの、それは胸の高鳴り。俺はそう思う。
だから、今はこの時間を楽しみたい。ふたりでいる、この時間を。
◆ ◆ ◆
「いいの、沙紀。あのふたり、随分良いムードだけど?」
「それを言うなら萌だって。最近旺牙君のこと気になってるんでしょ?」
「あ、ええ、私?あ、あはは。」
「いいよ。隠さなくても。」
「はあ。私は見てる方が楽しかったのにな。」
廊下の角、ふたつの影が旺牙と簪を見つめていた。
旺牙を想うのは簪だけではない。ふたりもまた、いつの間にか旺牙に心奪われた乙女たちだ。
彼女たちも同じ。惚れることが敗北なら、その胸の高鳴り、ときめきを楽しんでいる。
でもふたりとも。早くしないと、本当の意味で負けてしまうぞ?
(負けないからね、簪。)
恋する乙女の夜も長い。
◆ ◆ ◆
翌朝。朝食を終えて、すぐにIS及び専用装備の撤収作業に当たる。
そうこうして十時を過ぎたところで作業は終了。全員がクラス別のバスに乗り込む。昼食は、帰り道のサービスエリアで取るらしい。・・・この人数を?と思ってしまう。
「あ~・・・。」
一夏殿がまた死んでおられる。この人でなし、とは誰に言えばいい?きっとブーメランのように一夏に刺さるだろう。
「すまん・・・誰か、飲み物持ってないか・・・?」
すげえ、本当に死にそうな声だ。
「・・・ツバでも飲んでいろ。」
「知りませんわ。」
「あるけどあげない。」
順にラウラ、セシリア、シャルロット。別のバスなので鈴はいないが、いても同じ状況だろう。しかしシャルロット、あるんならあげなよ・・・ッと思ったが、どうせ原因は一夏だ。どうでもいい。
最後の希望をと、箒へ視線を向ける
「なっ・・・何を見ているか!」
ボッと赤くなったと思ったら、手刀を繰り出していた。
「ふ、ふん・・・。」
ここまでひどいとは・・・。一体何があった?
「うー・・・しんど・・・。」
「「「「い、一夏っ」」」」
「はい?」
コントのようなことをやっていると、社内に見知らぬ女性が入ってきた。
「ねぇ、織斑一夏くんっているかしら?」
「あ、はい。俺ですけど。」
どうやら一夏への客人のようだ。
その女性は、おそらく二十歳くらい。少なくとも高校生、ハイスクールに通う年齢には見えない。おっとこれは失礼だな。鮮やかな金髪が夏の日差しで輝いている。
服装は格好いいブルーのサマースーツを着ている。といっても織斑先生のようなビジネススーツではなく、おしゃれ全開のカジュアルスーツ。開いた胸元からはりっぱな双子山がわずかに・・・痛い痛い。沙紀さん、あの、見てないので太ももをつねるのはやめてください。ウィザードでもそれは痛い。
「君がそうなんだ。へぇ。」
女性はそう言うと、一夏を興味深そうに眺める。品定めをしているわけでも悪意を持っているわけでもなく、どうも純粋に好奇心で観察しているといった感じだ。
「あ、あの、あなたは・・・?」
「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音』の操縦者よ。」
「え―――」
「ちゅっ・・・。これはお礼。ありがとう、白いナイトさん。」
「え、あ、う、・・・?」
「そこのビーストさんも、今度お話しましょ。バーイ。」
一夏の頬には軽いキスを、俺には投げキッスをした。え?ナニコレ。
そのままひらひらと手を振ってバスから降りるナターシャさんを、俺たちはぼーっとしたまま手を振り返して見送る。
うん。俺も一夏も嫌な予感に変な汗が湧いてきた。
「ちょっと待ってほし―――」
「「問答無用。」」
沙紀からは脇腹と太ももを思い切りつねられ、止めに萌に首を『コキャッ』とされた。
四組にいるはずの簪の念のようなものが飛んできたのを最後に、俺は意識を失った。
それから昼食になるまで、誰も起こしてくれなかったのが悲しかった。
次回から新章突入!まあ、やることは変わらないんですがね。
前回やらなかった解説コーナー
仙人・・天地自然の気の流れを操るすべを鍛錬によって会得した者たち。仙人だからといって長寿や不老不死キャラを作る必要はなく、修行中の者が殆どである。
強化人間・・侵魔との戦闘を想定して戦闘技術に特化した訓練、教育、身体強化を施された人類。まさに対侵魔用の決戦兵器と化した者たちである。
侍・・主に刀を使う者たち。様々な『構え』から剛剣を繰り出したり、鋭い一閃を払う。『秘技』によっては刀以外の武器も使用可能。
電脳使い・・コンピューター技術を極めて世界を支えるウィザード。特殊な道具を介し、魔法を操る。
聖職者・・神の代理人として侵魔と戦う者たち。神への信仰、神からの祝福を武器に戦う。前衛、後衛、どちらにも組めるクラスだと作者は思っている。
勇者・・世界によって選ばれた、または産まれた存在。どうにもならない危機を解決し、倒せない敵を打ち破るのが使命である。