作者)というか人の温もりを欲している。
旺牙)うーむ。
作者)はっはっはっ。悩め若人。
夏、凶獣、技研にて
やあみんな、こんにちは。旺牙お兄さんだよ!
八月に入ってより一層暑くなってきたね!
IS学園は他の学校よりちょっと遅れて夏休み。帰省した生徒、学園に残った生徒、色々な子たちがいるよ。
お兄さんは今レゾナンス発のモノレールにふたりで乗っているよ。
「はあぁぁぁ・・・。」
「溜息は幸せが逃げるぞ。」
隣にいるのが簪だったら良かったのにな・・・。
「女に現を抜かすな、とは言わんが、もう少し態度を控えろよ。そんな苦虫を嚙み潰したような顔をしてると人まで逃げていくぞ。」
「うるさいやい。」
なんだよ、なんだよ。なんでちょうどこの日なんだよ・・・。
◇ ◇ ◇
「映画?」
「あ、ああ。本屋のくじ引きでさ、当たったんだ。」
ちょっとした外出、外の空気を吸うのもいいかと本屋に行った。
新しいレシピ本やIS関連の雑誌を取り、レジへ向かう。
清算中、店員さんが箱を持ってきて、ある程度買い物をした客にくじ引きを行っているらしい。こういうのコンビニだけじゃなかったんだ。
まあ運試しにと箱に手を突っ込んで適当に一枚取る。こういうのは下手にかき混ぜると当たらない。ピッと一枚潔く選んだほうが良い。それで良いのが当たったことないけど。
取りだしたくじを開く。なになに・・・?
『レゾナンス映画チケットペア』。
神が微笑んだ。
「と、いうことがあってな。」
「へえ。」
「さらにこの映画、勧善懲悪のヒーロー物でして。」
「・・・ほう。」
お、簪も乗ってきたな。
よし、往け、志垣旺牙!
「あー、その。一緒に観に行かないか?」
「・・・うん。行こうか。」
・・・よおおおおおおおぉぉぉぉぉしっっ!!
俺は心の中でガッツポーズと咆哮をあげていた。
デートだよな?これって、俺からデートに誘えたってことで良いんだよな!?
「ただ日にち指定があってさ、八月のこの日なんだが・・・。」
「・・・うん。この日は何もないよ。」
おーし日程OK。パーフェクトだ。
コンコンッ。
俺の脳内がお花畑になっていると、ドアをノックする音で現実に戻される。
はいはい、いま出まーす。
「よう旺牙。今時間大丈夫か?」
「安東先生?なんすかこんな時間に?」
「そんな遅くでもないだろ。オカジマ技研から連絡だ。八月△日、研究所に来てほしいそうだ。俺も同伴でな。」
「はいはい、△日ですね。ん?△日?」
チケットの日にちは、八月△日・・・。
「「(´;ω;`)ブワッ」」
「ど、どうしたお前ら。」
◇ ◇ ◇
「今日じゃなきゃいけなかったすか?」
「ああ。グループの総裁が今日しか時間が取れなかったんだ。」
「総裁・・・。岡島伸一氏じゃあないですよね。」
「ああ違うが、彼と似たような経歴だ。俺の盟友でもある。」
「盟友?」
「まあ、話をすればわかるさ。」
なんだか適当に流されたような気がする。
ていうかオカジマ技研グループは地味に見えて支社が世界中に存在する大グループだ。一応、日本の本社にのみISのコアを一つ、つまり凶獣の分が任されている。研究用の、言い方が悪いが余りのコアがないため、他の専用機より細かく、逐一データの催促が来る。正直うんざりするほどに。
その分報酬を貰っているのでなにも反論できないが。
「次の駅で降りたらバス移動だ。一人でも来れるようルートを覚えておけ。」
「了解です。」
はあ、未練がましいのはわかっているが、映画、行きたかったな。
◆ ◆ ◆
「はあ・・・。」
更識簪は憂いていた。
仄かな想いを寄せる男子から、デートのお誘いがあったのに、それが無駄になってしまった。
感情の爆発をなんとか抑え、ちょっとクールに応えてみたりして、自分の方が大人、な感じを出しつつ。
本当なら飛びついたりしたかったのを、必死にとどめたのだ。
だが、それも無意味に終わってしまった。
なぜ、どうして、今日でなくてはならなかったのか!
恨みます、神様。
「それにしても、行きたかったなあ・・・。」
チケットを見つめる。題名は―――
『劇場版マージナルヒーローズ ヒーローVSヴィラン 究極激突!』
とあった。
ずいぶん昔の『テレビまんが』的なノリだが、彼女はそういうのが嫌いではなかった。
だからこそ、旺牙と観に行けるのが嬉しかったのだが、気分はまるでジェットコースター。上げて、落とす。
だが、せっかく旺牙がくれたのに、無駄にするのも嫌だ。
本音を誘って見に行こうか。
「簪ちゃ~~んっ!元気ーーっ!」
イラッ。
いけないいけない。駄目だ、我慢だ。
あの時、旺牙の企み、じゃなくて謀略、でもなく彼のお陰で簪と楯無は、まだぎこちなさはあるものの歩み寄ることが出来た。
いや、ぎこちないのは簪だけで、たまに強襲してくる。その時の台風っぷりといったら。旺牙は「姉妹仲良く」と言って部屋を出てしまうし。
楯無は楯無で、旺牙に感謝はしている。だが今は、愛する妹と一緒にいられる方が嬉しいのだ。
「も~、だめよ、暑いからって冷房の利いてる部屋に籠ってちゃ。お姉ちゃんとどこか遊びにいこっか?」
このテンション、どこかで見た気が・・・、ああ、篠ノ之博士に似てるんだ。いや、あの人はもっと高かったし人によって上下が激しかったっけ。
姉キャラとはこんなに元気なのだろうか?いや、布仏姉妹も織斑姉弟も違うので、一概にそうとはいえないか。
「今日は旺牙君はお出かけ?んもー、こんな可愛い子を置いてどこに行ってるのよ。」
イライラッ。
「これはもうお姉ちゃんと出かけよと神様が言っているんだわ!映画のチケットもあるみたいだし、早速―――
ブチッ
「もーーー、出てってーーーーーっ!!」
◆ ◆ ◆
「着いたぞ。オカジマ技研グループ本社ビルだ。」
「でっけ・・・。」
世界中に支社を持つ、って文言通り、本社はまさに見上げきれない超高層ビルだった。ISの武装関連で仕事をしている、っというが、それ以外にも医療、物流、何でもござれらしい。IS学園にも多額の融資をしているとここに来るまで聞かされていたが・・・、予想以上だ。
ちょ、先生、俺を置いてずんずん進まないでくれ。俺みたいな小市民はもう圧倒されてるんだから。
あ、ガードマンに止められた。ん?なにかカードのようなものを見せたが。
「何してる旺牙。早く行くぞ。」
「あ、は、はい。」
ガードマンに敬礼されながら、デカい体を小さくして通る。
うわ、中も広いし、隅々まで掃除が行き届いているのかどこもかしこもピカピカだ。
「安東です。アポは取っていたはずですが。」
「アンドウ・イツキ様ですね。総裁がお待ちです。こちらへ。」
なんだか簡単に受付も突破。先生、あんたこっちで何してきたんだ。
「行くぞ。あまり待たせるわけにはいかないからな。」
コクコクと頷くことしかできない。もう声もでねえよ。
黙ってついていくと、秘書の一人であろう女性が先導してくれる。さすがに勝手に動き回られては良くないのだろう。先生もその女性に続く。俺もおたおたしながら続く。
「一応慣れておけ。お前がどういう道を行こうと、ISにかかわっている以上、大企業に訪問することもあるんだからな。」
「はい。いやでも、ここまでデカいのは・・・。」
「ふっ、ここが一番呼び出される可能性が高いんだからな。」
そう言われればそうなるな。よし、今のうちに慣れておこう。
「それでは、失礼します。」
やっぱ無理!女性が押したエレベーターのボタン!めっちゃ階数多かった!
「お前はアレだな。心の声が煩い。」
「ナチュラルに声を聴くな!」
化け物か!あ、魔王だった。
ふざけていると、エレベーターが目的の階に到着した。
「こちらです。」
堂々と歩く先生と、いまだに硬い動きで後に続く俺。
案内されたのは両開きの扉の前。すげえなあ、この扉だけでいくらするんだろう。
「総裁、安東様と志垣様をお連れしました。」
「ありがとう、入ってくれ。」
扉が開かれる。
広い部屋だ。両端に多数の本、いやデータファイルが並んでいる。電子化の時代、紙媒体を残しているとは珍しい。もちろん電子データも取ってあるのだろうが、総裁は慎重派なのだろうか。
観葉植物が並ぶ部屋の奥、立派なデスクに腕を置き、その人物はいた。
「やあ、初めまして、志垣旺牙君。それと、久しぶりだね、一樹。」
「だいたい一年ぶりか、翔貴。」
えっと、俺、置いてけぼり?
「おっと失礼。自己紹介がまだだったね。僕は岡島翔貴(おかじましょうき)。よろしく。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
岡島翔貴総裁はわざわざ離席し、俺の前までやってきて右手を差し出した。
俺もそれに倣うように右手を差し出し、握手を交わす。
うわ、近くで見るとどえりゃあイケメンじぇねえか。
一夏や安東先生とは違った、落ち着いていて柔和な微笑み。優しい瞳。シュッとした鼻筋。相手を落ち着かせるような優しい声。いかん、語彙力が爆死しとる。
岡島総裁はそれぞれの事業はその会社に任せていて、本人が公の場に出ることは少ないと聞いていが、こんな形で出会うことになろうとは。
「長時間の移動で疲れただろう。まずは掛けてくれ。あさみ君、お茶を。」
「かしこまりました。」
秘書であろう女性に指示し、着席を促す。
うわ、ソファが柔らけぇ!っても自身の貧乏性を嘆くのはやめよう。
「さて、一樹。彼にはどこまで伝えてあるのかな?」
「なにも言ってないに等しいな。」
「偉そうに言えることじゃないよ、まったく・・・。」
今日は話に置いていかれることが多いなぁ・・・。
「旺牙。翔貴、もとい岡島総裁はな、侵魔の被害者だ。」
「!?」
なん、だって?
「何年前だったか?」
「忘れもしないよ。四年前、僕がグループを継いで、婚約者と結婚秒読みだった頃だ。・・・僕を残して誰もいなくなってしまった。」
「・・・総裁が助かったのは、なぜ?」
「俺がギリギリで間に合った。いや、あれは間に合ったとは言えんな。」
「そんな・・・。!?」
俺は思わず秘書さんを見た。
「大丈夫。彼女も『世界の真実』を知る者だ。安心していいよ。」
「は、はぁ・・・。なんか、すいません。」
「いえ、お気遣いなく。」
あさみさん、といったか。なんだか隙のなさそうな人だ。
「それでは、話の本筋に戻ろう。志垣君。君は『自分のせい』で侵魔がこの世界に現れたと思っているようだね。」
「え、あ、その・・・。」
無論。俺がイノセントである束さんに話し、信じさせてしまったのが原因だろう。
そして世界結界が弱まり、この世界に侵魔が・・・うん?
あれ、自分で言っていて混乱してきたぞ?
俺が『世界の真実』を漏らしたことで世界結界が弱まって。いや、それでは『この世界』に元々世界結界が存在したことになる。
ん?んん?侵魔が先で結界が後で、いや、あれ?
「いい具合に混乱してきたな。バッサリ言うぞ。『この世界』にも、元々世界結界が存在していた。それはつまり、『ウィザード』も『侵魔』も存在していたんだよ。」
「は?ええ?えええ?」
「うるさい。」
殴られた。理不尽だ。
「まあ最初に話したのが『束だったから何とか持ちこたえた』ものの、お前、千冬にも話したろ。口が軽すぎだ。馬鹿者め。」
「まあまあ。それで、僕が対侵魔にも使えるISの武装を開発しているのは、なんてことはない。ただの復讐さ。武装づくりのノウハウは一樹を経由しているからね。元々、ISは侵魔とも戦えるように出来ているらしいがね。」
「全世界のISコアには俺が強化型のAnti-KAGUYAを組み込んである。それなりの搭乗者なら下級侵魔ぐらい倒せるさ。」
「Anti-KAGUYAって、四百六十七機全部に!?」
「もちろん・じゃなきゃ意味がないだろう。」
Anti-KAGUYA。要するに、対象の月衣に干渉し、無効化することを目指した、対侵魔、対ウィザード兵器である。だが、『ファー・ジ・アース』ではあまり効果が発揮できなかったというのに、それを先生が強化したとなると、あちらの物より数段効果を発揮できているのだろう。
現にセシリアは単独でレッサーデーモンを撃破し、一年の専用機たちでトルトゥーラにダメージを与えることが出来ていた。
「もしかして、束さんも協力を?」
「ああ、一応な。あまり乗り気じゃなかったようだが、お前の話と、俺の魔法の実践でなんとかな。」
「そうですか・・・、ん?あんたも魔法見せてんじゃねーか!」
「俺の方が後だったから問題なし。」
「むむむ。」
俺たちのやり取りを見て、総裁とあさみさんが小さく笑っている。
畜生、師弟の恥だ・・・。
「君が言った通り、仲が良いようだ。」
「ああ、俺の一番弟子だからな、気軽に話せる。」
なんだよ畜生、急に泣かせるようなこと言いやがって。
「それにいいパシリにもなる。」
前言撤回だこのもやしっ子!
内心毒づいていると、急に周囲の雰囲気が一変した。
濃厚な殺気、そして天空に輝く紅い月。
侵魔か!そう感じた瞬間、窓から巨大な蝙蝠がガラスを突き破り突撃してきた。
俺は床を蹴って岡島総裁の防衛に回る。
「ありがとう志垣君。だけどすぐ終わる。」
何を暢気なっ、と思っていると、あさみさんが何かを構えるように腕を伸ばす。あれは、拳銃の形?
すると、構えた右手を魔法陣が纏い、リボルバーが出現。
バンバンバンッっと、一気に全弾発射。
「キキイイィィィッ!?」
断末魔をあげて、侵魔は消滅。紅い月も姿を消し、部屋は何事もなかったように元に戻る。
しかし、あさみさんが使ったのは間違いなく月衣。そして取りだしたのはリボルバー型の魔銃、マグナムウィッチ。
「ウィザード、だったんすね。」
「はい。総裁を侵魔の魔手からお守りするのも、私のような秘書やSPの役目ですから。」
「え?じゃあ、総裁の周りには・・・。」
「ああ、何人かのウィザードがいるよ。僕の周囲はもちろん、社内にもね。」
わーお。もう要塞じゃないかこの会社。
「さあ、話を続けよう。と言っても、今後の我がグループとの間の話だけどね。」
「はあ。」
「なんだ元気ないぞ。やっぱりアレか。デートに行けなかったのがそんなにショックか?」
「おやおや、若い男子の恋バナってやつかい?嫌いじゃないよ?」
「そこはどうでもいいでしょうが!」
このふたり、根本が似てる!
人の不幸でワインが上手いって感じで!
ああ、簪が恋しい。
「そういえば、この世界に以前からウィザードや侵魔がいたなら、名前はあるんですか?」
「ああ、この世界の名前はな‐―――」
―――『テラ』だ。
やったかわからない解説コーナー。
『魔銃使い』・・銃器、砲をはじめとした射撃武器としての箒の使い手。使う箒によって位置取りが重要になる。
・・・やっぱ『箒』って書くと紛らわしいな。