IS×NW~世界を渡りし者~   作:戒炎

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作者)まあ、たまには子供と戯れるのも良いな。

旺牙)もしもし、警察ですか?

作者)甥っ子だよ!


日常の使者、闇からの使者

 夏休みももう終わる。終わってない課題がないか調べる昼下がり。うむ、全て終わっているな。

 未提出や間違いが多かった場合、ふたりの鬼に何をされるかわからない。特に安東先生だよ。あの人一応どういう扱いになるんだ?

 そういえば世界史の教師が寿退社(学校でもそう言うのか?)するらしいから、その補充かな?もしそうだとしたら・・・いきなり生徒に喧嘩吹っ掛けないといいけれど。

 なんてことを考えながら、チーズケーキ完成っと。今日のおやつにしよう。さすがにふたりで食いきれないから、残りは皆にお裾分け、って、同室の子だっているんだよな。その子たち分も計算して・・・、うん、間に合うな。気持ち大きめに作っておいてよかった。

 

 コンコンコンッ

 ん?誰か来たようだ。

 

「簪、頼む。」

「うん。」

 

 来客の対応を簪に任せ、俺は片付けに入る。物をよくちらかす俺だが、水回り、というかキッチンは常に綺麗にしている。どこに何があるか把握していないと、効率よく料理もできない。

 だが自分の荷物の整理は別だ。いまだにどこに何を置いたか分からなくなる。そのことでよく簪に怒られたり呆れられたりしている。だって難しいから・・・。

 

「どちらさま―――」

「ハロー。お姉ちゃんですよ―――」

 

 バタンッ!

 

 ・・・・・・。

 えーとー。

 

「簪、今の・・・。」

「新聞の勧誘だった。」

 

 いや嘘を吐くな嘘を。この寮に部外者が入れるわけないだろう。お姉ちゃんゆうとったやん。

 

「いやだから。」

「宗教の勧誘だった。」

 

 嘘が酷くなっている!?そこまで拒否するか。もう仲直りしたんじゃないのか?

 

「なあ、どうしたんだよ。ちょっと、おかしいぞ?」

「だって、まだ心の準備ができてない・・・。」

 

 簪の方はまだ緊張気味か。まあ長い間すれ違いがあったなら仕方ないが。

 

「簪ちゃーん、開けてー。あ、旺牙くんもいるの?ちょっと開けてくれると嬉しいかなー。」ドンドンドンッ。

 

 てかこのままじゃご近所迷惑だ。さっさと招いてお話聞いてご退室願おう。

 

「覚悟を決めてドアを開けよう。なに、俺が着いてる。」

「・・・うん。」

 

 簪はひとつ深呼吸すると、ドアノブに手をかけ、ゆっくり開ける。

 シュッ!

 サッ!

 ビタン!

 

「痛~い!」

「え?え?」

 

 楯無先輩はわずかに開いたドアの隙間からするりと入り込んできた。それこそ目にも止まらない速さで。

 俺はそこに足を出しただけ。勝手に先輩が引っかかって顔から床にダイビングしただけ。

 

「ちょっと旺牙くん!乙女の顔に傷でも付いたらどうするの!?」

「俺は避けると思ったんですがね。まさか引っかかるとは。」

「え?旺牙、今の見えたの?」

「伊達に格闘家名乗ってないよ。」

 

 なかなかに素早い動きだったが、魂に刻まれた『龍使い』の目を舐めないでほしい。

 

「ま、そんなことより。簪ちゃんとお話もしたいけど、今日は旺牙くんに用があるの。」

「え?俺っすか?」

 

 珍しい。この覚醒したシスコンが妹より優先することがあるとは。

 しかも俺目当て。なんだか嫌な予感がするのう。

 悟られないよう外に出ようとするが、何かが身体に絡みついていることに気付く。

 その次の瞬間、ビシイッ、と絡みついていた何かが締め付けを増し、俺の体の自由を奪う。

 こ、これはまさかーっ!?

 

「ふふっ、引きちぎろうとしても無駄よ。それは刃鋼線で出来た糸。簡単には脱出不可能!」

「くそ。さては『魁!!〇塾』を読んだな!?」

「答える必要はないわね。」

「何このノリ・・・。」

 

 なんだか昔のジャ〇プマンガみたいな雰囲気になったが、この人マジで俺になんの要件だ?

 

「旺牙くん。ちょっと『生徒会室』に来てみない?」

「は?」

「お姉ちゃん!まさか!?」

「それを決めるために、彼に直接来てもらうの。状況が以前と変わってしまったし、ね。」

 

 ・・・侵魔のことを言っているのか?確かにこの人も間近で見ていたからな。

 

「・・・はぁ。行きますよ。行きゃいいんでしょ。」

「旺牙!?」

「あら、素直な子はお姉さん好きよ。」

「行かなきゃ話が進まないだろうからな。ちょっと行ってくるよ。」

「・・・うん。」

「大丈夫よ簪ちゃん。取って食べるわけじゃないんだから。」

 

 まだどこか納得していない簪の・・・頭でも撫でたいが刃鋼線のせいで何もできない。

 チーズケーキのことを頼んで、俺と楯無先輩は部屋の外に出た。

 それからしばらく歩いて、人の気配がしなくなったところで止まる。大丈夫、この姿は誰にも見られていない。

 

「噴っ!」

 

 ブチブチィッ!!

 全身に力を入れ、鋼線を引きちぎる。こんなもの、いつでも千切れたんだがな。

 

「相変わらず規格外ね。冗談じゃなくて簡単には破壊できる代物じゃないのよ?」

「この程度、真綿ほどにも感じませんでしたよ。」

「・・・うん。やっぱりそうね。当初の予定とは違うけど。」

 

 あのー、ひとりで完結しないでくれません?置いてけぼりは苦手なんです。

 楯無先輩はニコニコしながら俺を先導して歩く。まあ、生徒会室の場所を知らない俺はついていくしかない。

 この先が地獄じゃありませんように・・・。

 

「さ、着いたわよ。ようこそ、我が校の生徒会室へ。」

 

 着いたわよ、と言われましても。プレートにデンと書かれてますし、外からは別段変なところはない。

 中から奇声や怪音がするわけでもない、普通の生徒会室。む、普通とはなんぞや?自分で言って混乱した。

 

「もう、突っ立ってないで入るわよ。ハリー、ハリー。」

「ちょ、押さないでくださいよ。」

 

 背をぐいぐい押され、半ば強引に入室する。

 

「お帰りなさいませ会長。そしてよくおいで下さいました、志垣くん。」

「布仏先輩、あなたもグルですか。」

「グル、と言うなら生徒会役員総出で招待しました。」

「あ~、う~・・・。」

 

 なんだ!?今の地獄の底から聞こえてきそうな唸り声は!?

 

「眠・・・夜・・・遅・・・。」

「ほら本音、人が来ている時くらいしゃんとなさい。」

「ん~?あ~・・・、しお~だ~・・・。」

 

 本音かよ!なんか書類の山に囲まれてて最初わからなかったぞ。

 しかしいつも以上にゆっくりした動きだ。顔を見ると若干隈が出来ている。

 

「改めて紹介するわね。私が生徒会長の更識楯無。」

「私が会計の布仏虚です。」

「書記の布仏本音で~す。」

 

 いやマジかよ。布仏先輩が会計なのはわかる。

 ただ、本音が書記って・・・ちょっと酷い事言うが大丈夫なのか?

 

「まあ、正直不安に思う時はありますね。それと、私のことは虚で構いませんよ。」

「あ、なら俺も旺牙でいいですよ。ところで、早速ですが俺が連れてこられた理由をお聞かせ願えませんか。」

「あらあら、せっかちさんは嫌われるわよ。まずはお茶でも飲んでゆっくりして頂戴。」

 

 

 

 ふぅ、お茶が美味い・・・。

 じゃなくて!

 

「なんで俺を呼んだのかって話ですよ!ただお茶のお誘いじゃないでしょうが!」

「やん、そんなに怒られたらお姉さん困っちゃう。」

 

 この人は・・・!

 

「会長、このままでは本当に怒られてしまいますよ。」

「そうね。彼が本気で怒ったら私たちなんて塵同然だもの。」

 

 ガチで消し炭にしてやろうか・・・。

 

「改めて、志垣旺牙くん。私が生徒会長の更識楯無よ。」

「生徒会会計、布仏虚です。」

「生徒会書記、布仏本音で~す。」

 

 ん?なんだって?

 

「本音が書記?え~・・・。」

「むぅ~。しおー酷~い。」

「先程の失態を見られてるのよ。」

 

 相変わらず顔は似ているが、中身が似ていない。

 しっかし本音が書記・・・。会議の時とかついていけるのか。今も書類の山が出来上がってるが。

 

「虚先輩。本音は普段からこの調子で?」

「はい。お恥ずかしながら。」

 

 よく回ってるな、生徒会。先輩ズが優秀なのだろうか。

 

「あら、本音ちゃんは優秀よ。ちょっとあれやってみて。」

「は~い。」

 

 そう言って楯無先輩が取りだしたのは一丁の・・・拳銃?

 拳銃を嬉々として受け取ると(凄い字面だ)。

 

 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャタンッ!

 

「・・・嘘やろ?」

 

 拳銃を机に置いたその刹那、瞬く間に分解し続いて組み上げた。相当の訓練か才能が無いと出来ないぞこれ。

 そういえば打鉄弐式の時も結構いい動きしていたな。

 

「ちなみに虚ちゃんも三年生の首席で整備科に所属してるわ。」

「か、会長。それは今は関係ないでしょう。」

 

 へぇ~、やっぱり姉妹だな。外見だけじゃなく、どっかにるもんだ。。

 さて、本音の妙技を見せてもらったところで。

 

「いいもん見させてもらいましたが、俺がここに連れてこられた理由は?」

「ええ。直球で言うわ。旺牙くんに生徒会に入ってもらいたいのよ。」

 

 本当に直球勝負だな。嫌いじゃない。

 

「・・・理由は?」

「色々あるわね。まず、君がどこの部活に入らないことで苦情の声が上がってるのよ。もちろん、織斑一夏くんも。生徒会はキミたちをどこかに入部させないとまずいことになっちゃったのよ。」

「不満が爆発しないようにですか。」

「そう。それでまずキミに声をかけたの。暇してそうだったから。」

「そこまで暇じゃないっすよ。」

「うそうそ、怒っちゃいやん。」

 

 この人は・・・。

 

「旺牙くんに先に声をかけたのは、話が通じそうだったから。以前にも言ったけど、織斑くんにも機を見て接触するつもりよ。」

「・・・狙いは?」

「キミの場合、抑止ね。私以上の力を持った一年生、これを知られたら、さらにキミの争奪戦が激化する。」

「俺が先輩より強い?はははなにを―――」

「これでも『敵』の技量を見抜く目はあるつもりよ。あなたは生身なら私より強い。」

「・・・・・・。」

「次に織斑くんのコーチ。今まで一年の専用機持ちで行ってきたようだけど、彼にはもっと強くなってもらわないといけない。彼を狙う組織や、あの怪物たちから身を守れるように。」

「あの怪物たちの事、どこまでお知りで?」

「簡単なことなら調べたわ。キミと安東先生が関わっていることもね。」

 

 なるほど、ある程度調査済みか。

 

「俺の口からはまだ何も言いませんよ。てか言えませんよ。」

「構わないわ。安東先生曰く、『いずれ話す』らしいから。」

 

 あの人らしいあしらい方だ。

 しょうがない。ある程度知られてるんだ。話が拡散しないよう、俺から見張る意味もある。

 

「了解しました。それで、俺は何をすればいいんですか?」

「ありがとう。旺牙くんには『庶務』をしてもらおうかしら。」

「・・・ん?」

 

 楯無先輩の扇子には『雑用』と書かれていた。

 

「は、謀ったな〇ャア!?」

「キミの素直さが悪いのだよ。」

 

 畜生、やっぱやめてやろうか。

 いや、ここまで来たら引き返せない。きっと他にも予防線を張っているだろう。

 

「ちなみに庶務って何をすれば?」

「ん~、お茶やお菓子を用意したり、掃除したり、本音ちゃんの書類処理を手伝ったり?」

「最後のが一番大変そうだ・・・。」

「えへへ~。しおーよろしく~。」

「あなたも頑張るのよ本音。」

 

 俺、生徒会に入りました。

 

 

 

 

 

 

 夕食後、俺はいつもの校舎裏で鍛錬をしていた。

 さて、そろそろいいだろう。俺は周囲に備え構えを取る。

 すると案の定、世界が『紅』に染まった。

 天空に浮かぶは紅い月。奴らの顕現するサイン。

 月の中央、小さな影がこちらに向かってきた。

 人型の『ソレ』は、ゆっくりと俺の眼前に降りてくる。彼我の距離役三十メートル。ここまで近いとハッキリ見える。あれは、ISだった。

 

「あなたが志垣旺牙ですね?」

「・・・そうだと言ったらどうするね?」

「ここで討ち取ります!」

 

 そう言ってISを展開している『侵魔』は俺に剣を突き付けてきた。

 

「一つ聞くが、そのISはどうした。」

「・・・ある組織の盗品を、わたし用に、『わたしたち用』に改造したものです。」

「最近の侵魔は人間の兵器を使うのかい。」

「使える武器は何でも使う。それが覇王軍のやり方です。それに、わたしは弱いから、こんなものに頼らなくては満足に戦えない・・・。」

 

 相手がIS持ちか。戦闘方法がわからんなら、同じ土俵に上がるしかないか。ま、最初からそうするつもりだったけどな。

 

「『凶獣・紫電』。」

 

 右腕のチェーンが光り、一瞬で全身を紫の装甲で覆われる。そして名の通り、紫電が体中を走る。

 

「それが凶獣・・・。テレモート兄様とトルトゥーラ兄様を討ったIS・・・。」

「アイツらの妹か・・・。」

「手加減や変な同情は無縁です。戦いの中で命を落とすのも覇王軍の散り方ですから。それと、申し遅れましたが我が名はマリア。わたしのISの名は『ブレイヴ』。第二世代型です。」

「いいのか?そんな情報を口にして。」

「わたしはあなたの情報を知っているのに、あなたが何も知らないのはフェアではないとおもいまして。」

「・・・テレモートに似てるよ。」

「それはどうも、ありがとうございます。」

 

 侵魔、マリアが三メートルはありそうな大剣を構える。

 それに応じ、俺もいつでも飛びかかれるように構える。

 ふたりの間に、一陣の風が吹く。

 

「「参る!!」」

 

 闘いが始まった。




今までやけに長かったので、今回はちょい短めです。

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