何話かかるんだろう(遠い目
ここは、地獄だ。
いや。何の変哲も無い教室であり、針山も血の池も無く、獄卒もいない。
なら何がイカンのか。
教室には、俺ともう一人以外が全て女子。なんて状況だ。
全てが異質だ。本当に異質なのは俺達二人の方なのだが。
座席最前列のアイツも同じ気持ちなのだろうか。
背中しか見えないが、固まっているのがよく分かる。
ちなみに俺の席は同じ列の一番後ろ。身長の関係からだろうか。
ここでは居眠りしたらすぐに見つかってしまうではないか。解せぬ。
また、別の席を見るともう一人の幼馴染み、『篠ノ之箒』が座っていた。
この六年で随分綺麗になったと思う。
が、この感じは少し嫌な感じだ。まるで触れるもの全てを傷付ける抜き身の刀のような印象を与える。
俺達と別れてから、お前に何があった・・・。
「皆さん入学おめでとう。わたしは副担任の山田真耶です。」
色々と考えていると、教室に緑髪で眼鏡の女性が入ってくる。
自己紹介してもらって悪いが、この人本当に教師か?
童顔と身長から、同年代にしか見えない。さらには気の弱そうな、小動物のような感じも受ける。
だが同年代の少女達には無い、見事な双子山をお持ちのようです。あの大きさ、千冬さんや束さん以上じゃないのか・・・。
「ええっと・・・。」
教室の異様な雰囲気に、山田先生も困惑している。
それもそうだろう。何度も言うがこのクラスには『織斑一夏』と『志垣旺牙』がいるのだから。
女子の皆は俺達に興味津々なのだろう。
物珍しさがほとんど。一夏に対しては好奇の目。俺に対しては、大分畏怖の目が混じっている。
そりゃそうか。眼帯つけた切れ目の男なんて、怖いものでしかない。どうみてもチンピラだ。
「ええと・・・。それではSHRをはじめたいと思います。」
山田先生が果敢にもこの場の空気を変えようとしている。
意外と勇気のある人だ。
それから出席番号順に自己紹介が始まる。が、一夏の奴まだソワソワしていやがる。
ここまで来たなら覚悟を決めやがれってんだ。
俺はもう腹は決まった!そう決めた!
粛々と、時折笑いを混ぜながら、女子達の自己紹介が進んでいく。そして。
「それでは次に織斑くん、お願いします。」
「・・・・・・。」
おや?一夏の様子が・・・。
なにやら上の空のようで、山田先生の声が届いていない様子だった。
その後も先生は一夏を呼び続けるが、返答がない。
「織斑くん!織斑一夏くんっ!」
「は、はいっ!?」
ようやく反応したかと思えば、思いっきり声を裏返してるし。
案の定、周囲からクスクスと小さな笑いが聞こえてくる。
情けない・・・。情けないぜ親友。男ならもっとシャキッとしてくれ。
その後も涙目の山田先生を宥める姿は笑い者以外の何者でもないぞ。
覚悟を決めたのか、後ろを向いてクラスを見渡す。まだ表情は引き攣っていたが。
全員の視線が一夏に集中する。さぞ怖いことだろう。
「えーと・・・・・・。織斑一夏です。よろしくお願いします。」
そう言って一礼する。そして制止する時。
クラス中から『え?それだけ?』という空気が流れてくる。
かく言う俺も同じ気持ちだ。もう少し何か言えよ。趣味でも抱負でも。
このまま借りてきた猫状態でいる気か?
「以上です。」
本当に終わりかよ!何人かずっこけてるぞ!
いくら緊張してても少しくらい気の利いたこと・・・、言えないよなぁ、この男には。
そのまま時間が止まっていると、一夏の後ろに人影が。
そして人影は腕を振り上げると、持っていたそれを一夏の頭に叩きつけた。
パアンッ!という良い音が響き渡る。
声にならない悲鳴を上げ、頭を押さえる一夏。
その背後には、黒いスーツにタイトスカート、長身の美女が。
我らが織斑千冬様である。
「げぇっ、関羽!?」
ジャーン、ジャーン、ジャーンとでも言えばいいのか?
二度目のスパァン!という音と同時に俺も睨まれた気がする。
何故だ。まさか俺の頭の中を察したとでも?
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。」
トーン低めの声で、威圧感たっぷりに言う。
実の弟相手にそれは怖いぜ千冬さん。
混乱している一夏が萎縮しておられる。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押しつけてすまなかったな。」
さっきとは打って変わって優しい声だ。別人のように。
その言葉に応える山田先生の声と視線がやけに熱っぽい。はにかんでもいるようだ。
やはり初代ブリュンヒルデの名とあの凛々しい外見、性格は後輩からの憧れなのだろうか。
千冬さんがIS学園の教師をしているのは以前の試験で知っていたが、こうして見ていると立派な・・・
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな。」
暴君教師やでこの人!?相変わらずの性格だぜ。
そんなんじゃみんな引くぞ。
「キャーーーーーー!千冬様、本物の千冬様よ!」
だがしかし、教室に響いたのは黄色い声援だった。
てか耳が痛ぇっ!
「ずっとファンでした!」
ああそうかい。
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
このIS学園は国際学園だぞ。同じ日本なんて近いだろ。
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、千冬様のためなら死ねます!」
そこの娘達は自分の命を大事にしろ。
とうの千冬さん―――織斑先生はうっとうしそうにしている。
「・・・・・・毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
すごい暴言吐いたぞあの人。それでいいのか教師。
これがお上に知られたらクビじゃないんすか?
「きゃああああっ!お姉様っ!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして~!」
この国の未来は危ないかもわからんね。
その後も一夏と千冬さんが姉弟だと知られて若干ざわついたりしたが、些細な事だ。俺にとっては。
一夏がなにやら助けを求めるような目でこちらを視ている。
助けますか
YES
→ NO
目線を逸らすとまるで絶望した!という気配が漂ってくる。
関係ないね!
ちらりと箒の方を見てみる。
あいつも一夏をそれとなく見ていた。
幼馴染みなんだから真っ直ぐみてやれよ。(棚上げ中)
チャイムが鳴り、織斑先生のこれまた鬼教官的な一言でSHRは終了した。
「しかしお前がいてくれて良かったよ旺牙。」
「俺は良くねえ。貴様なんぞ知らねえ。黙れ織斑一夏。」
「酷くないかっ!?」
一時限目が終了した休み時間。一夏は早速俺に話しかけてきた。
うるさいやい。俺にはお前に怒りをぶつける資格がある。
「誰のせいで就職取り消しでこんな所にいると思っているんですかねえ?」
「え、それ俺のせいなの?」
こいつには俺が味わった絶望と面倒事を一から十まで説明してやろうか。
楽しかったこともあるけど、それは千冬さんとの試合や束さんとクロエとの再会くらいだ。
ホテル暮らしの間もマスコミがやってくるは、政府からは何も言わないように念を押されるは。
気の休まる時間が無かった・・・。
「それにしても。あれは・・・。」
「ああ。あれな。」
教室の外を見る。
廊下には他所のクラスや上級生がひしめいていた。
それはそうだ。俺達は世界でたった二人のIS操縦者なのだ。
ISが生まれて十年。こんなケースは無かったのだから、好奇心の塊の女子高生は俺達に興味津々と言ったところか。自分で言っていて変な感じだ。
「あの視線には耐えられん。」
「その割にはお前、堂々としてるじゃないか。」
「まぁ俺にも色々あったのだよ一夏君。」
なんだそりゃと返されるが、これくらいで参るほど軟な鍛え方はしてないぜ。
あ、ゴメン嘘ついた。視線がメッチャ痛いです。
これなら侵魔と戦っていた方が楽だわ。
「ちょっといいか。」
「ん?」
「え・・・、箒?」
溜息交じりの会話をしていると、一人の女子が話しかけてくる。
篠ノ之箒。六年前に離れ離れになってしまった、俺達の幼馴染み。
一夏は箒から話しかけてきたことに驚いているようだが、箒は俺の右目の眼帯をジッと見ていた。
そうか。こいつは今までの事を知らなかったっけ。
「廊下で、いいか?」
「あ、ああ。行こうぜ旺牙。」
「いや。話があるならお前ら二人で済ませとけよ。」
俺は一夏の提案に断りを入れる。
俺まで行くと変に目立つ。というか悪目立ちする。
それに、箒が一番話をしたいのは一夏だ。
なぜなら、彼女は昔からコイツに惚の字だからだ。
せっかくの想い人との再会に、同じ幼馴染みだからってズケズケ入っていく気は無い。
「え?一緒に行かないのか?だって俺達が揃うのも六年ぶりだろ?」
「俺は後で話がある。長くなりそうだから先に行け。」
「いやでも「いいから行ってこい!(ドカッ「痛い!」
一夏の尻を蹴り飛ばす。
「・・・すまない。旺牙。」
「礼が言いたきゃ後で俺とも話せ。・・・心配してたのは一夏だけじゃねぇんだよ。」
「・・・ありがとう。一夏、廊下でいいか?」
そう言って二人は教室から出て行った。まったく。キューピッドなんて見た目じゃねぇんだよ俺は。
しかしひとつ困った。一夏という片割れがいなくなったことで、視線が俺に集中してしまった。
どうしよう。動物園のパンダやゴリラはどうして人間の視線を気にせずにいられるのだろう。
ああそうか。ここは檻の中なんだ。そう考えよう。
「ね~ね~、しお~。」
どこか変な方向に頭が飛びそうになっていると、袖を引っ張られる。
しおー?何?ヒト?歌?
「む~。ね~しお~ってば~。」
腕を見れば、なにやらちみっこい少女がダボダボの袖から小さな手を出し、俺の袖を引いていた。
「おい。しおーってのは俺のことか?」
「うん。『しがきおーが』だからしお~だよ。」
これはまた。俺の知り合いにはいないタイプのなんとものんびりした娘だ。
たしか自己紹介で布仏本音、とか言ってたっけ。
「・・・で?なんだよ布仏。」
「あ、本音でい~よ。上級生にお姉ちゃんがいるから混ざっちゃう~。」
はぁ、そうですか。
しかし何だろうこの間延びした喋り方。
聞いてるこっちまで力が抜けてくる。
「しお~は料理が出来るって言ってたよね?何が出来るの?」
「ん~。和洋中、大体出来るぞ。時間があれば手の込んだものも作れる。あと菓子。」
「お~~~。」
心なしか。いや確実に本音の眼が輝いている。
お菓子、好きかい?うん、大好きSA!と言わんばかりだ。
俺は鞄の中から昨日、手持ち無沙汰になった時に作ったクッキーがあった。
「・・・食うか?」
「ホントっ!ありがと~。(むぐむぐ)うま~。」
って早速食ってるし。まぁ喜んでくれたのは嬉しいけど。
ありがとね~と友人達のところに戻って行く。
その際大丈夫!?とか何かされなかった!?とか聞こえたのは気のせいにしておこう。
気のせいったら気のせいだ。悲しくなんかないやい。
キーンコーンカーンコーン。
休み時間終了のチャイムだ。
それと同時に廊下にいた生徒は蜘蛛の子を散らすように帰って行く。
パァンッ!
そして本日四度目の攻撃がぐずぐずしていた一夏の頭に落ちた。
原作台詞が多くなってしまいましたね。すいません。
オリジナル台詞考えるのって難しい・・・。
あ、旺牙の元の部屋には料理器具がひとしきり置いてあったという設定です。ボロアパートとか言ってたけど気にしないいで♪
・・・すんません。調子に乗りすぎました。
今回は解説コーナーはありません。