作者)ゲームしてた。
旺牙)そうか。ならば辞世の句を読め。
作者)そっかぁ。正直に言ってもダメかぁ・・・。
なんだかんだで学園祭前日の夜。
生徒たちの中には遅くまで残って最後の作業をしている者たちもいるだろう。
虚先輩は何か問題が無いか校内を見回り中。
本音は一組、つまり俺たちのクラスの手伝い。生徒会の仕事は・・・お察しして。
それで俺と楯無先輩は書類と格闘中。ただでさえ多かった書類が、ギリギリになって提出してきたクラスや部活の所為でさらに増えた。チクショウめ。
「あー、やっぱり書類仕事は辛いわね。体中バッキバキ。」
うーん、と伸びをしながら先輩が唸る。確かに辛い。チェックだけとはいえ、不備が無いかを細かく見なければならない作業は精神的にも来るものがある。
「マッサージでもしますか?一夏ほどじゃないですけど、心得はありますよ。」
「それも魅力的だけど、今はお茶が欲しい気分かな。」
お茶かぁ・・・。
「じゃあ淹れてきますよ。虚先輩ほど美味く出来るかは自信ないですけど。」
「悪いわね。お願いね。」
えっと茶葉はっと、あったあった。・・・良いもん使ってるな。
取り合えず二人分淹れて。
「お待たせしました。無作法で申し訳ないですが。」
「大丈夫よ。気にしないわ。・・・うん、十分美味しいじゃない。」
「それはどうも。」
「ちゃんとお茶の香りが出てる。茶葉も蒸らしているのね。もう、何が無作法よ。」
「淹れ方をぼんやり覚えてただけですよ。」
菓子作りをやってると何となくで茶の淹れ方も覚えた。できる事なら寛いでほしいからな。
「・・・なんだか温かいわね。」
「?お茶は熱い物でしょう。」
「うーん。そういう意味じゃなくてね。」
そう言ってお茶を啜る先輩は、やけに良い笑顔をしていた。
腑に落ちないが、喜んでくれたのならいいだろう。
俺も小休止といこう。
――――――
温かい。そうね、温かくなったわ。心の奥の何かが。
お茶はもてなす心と言うけれど、旺牙君はその点天才ね。
味も丁寧な心遣いも虚ちゃんのほうが上だけど、彼は無意識レベルで相手を思いやっているのね。
最初は随分野性的な見た目の子だと思っていたけど、人は見かけによらずって本当ね。
生徒会の仕事でも細かいところにも気がつくし、日々の生活でも相手との距離感を保つのが上手い。
これに本気で惚れちゃった女子がいるってのも頷ける。その中に最愛の妹簪ちゃんが含まれてるのがちょっと複雑だけど。
本当に、変わった子。安東先生から聞いた話が信じられないくらい、一緒にいて温かくなるような。
「?俺の顔に何かついてます?」
「いいえ、何でもないわよ。」
「???」
ふふっ、キョトンとしたり怪訝な顔したり。案外表情豊かなのね。
そういう所、けっこう可愛いよ?
「さて、休憩おしまい!さっさと終わらせましょう!」
「ウイッス!」
みんなには悪いけど、今は彼を独り占め。
――――――
「あ、そうそう。明日はクラスの出し物に参加してもいいわよ。」
「へ?」
「見回りとか生徒会の仕事は私たちでやるから、ちゃんとサービスしてきなさい。」
「で、でも今更俺のサイズに合う服は用意できないでしょう?」
「一組には事前に連絡済み。みんな喜んでたわよ♪」
「オノーレーーー!!」
◇ ◇ ◇
あー、まだ眠い。昨日けっこう遅くなったからな。
しっかしこの学園の生徒たちはテンション高いな。
「うそ!?一組であの織斑くんの接客が受けられるの!?」
「しかも執事の燕尾服!」
「それだけじゃなくてゲームもあるらしいわよ?」
「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって!ツーショットよ、ツーショット!これは行かない手はないわね!」
おーおーやっぱり一夏は人気だね。俺は裏方が良かったのに。
そもそも俺に需要があるのか?
「ちょっと!志垣くんも執事やってるわよ!」
「頼りになる大人な男・・・。」
「ムッキリボンバーな長身執事。」
「・・・ジュルリ。」
・・・喜んでくれて何よりだよ。
しかしアレだな。メイド服というものは、案外素晴らしいものだったのだな。
前世ではメイド服を戦闘服にしていた人がいたからまるで色気が感じられなかった。
だがこの光景は・・・素晴らしいな。
俺だって男の子だ。女の子が綺麗な服着てたら目が行っちまうよ。体は思春期なんだから。
しかも、
「い、いらっしゃいませ、お嬢様。」
簪が接客してる。たどたどしいが、初々しい。そして愛おしい。
惚れた弱みか、すごく似合って見える。いや、実際似合ってるのだが。
「旺牙、どうしたの?」
「いや、似合ってるな、と思って。」
「///お、旺牙も、その、似合ってる、よ。」
「「・・・・・・。」」
「「えへへへ。」」
「そこ!いちゃついてないで仕事する!」
「うわ!?」
「ご、ごめん!」
鈴の一喝に俺たちは慌てて接客に戻る。
まったく、怖いメイドさんだぜ。
(あの二人って付き合ってるの?)
(あれでまだ付き合ってないのよ。まったく、見てる方がヤキモキするわ。)
聞こえてるぞ鈴。悪かったな告白も出来ない根性なしで。
「ほらほら。男共は一組の目玉なんだから。気合い入れなさいよ。」
「・・・お前は嫌なタイミングで同じクラスになったな。他の組なら客で来れたものを。」
「それを言うな!」
やべ、地雷だったか。盆を振り回し始めた。
と、険悪なムードのそこに扇子が差し込まれた。
まさか、これは・・・。
「はいはい、騒ぎ立てないの。他のお客さんがびっくりするでしょう?」
「先輩・・・、なんちゅう格好してんすか。」
いつの間にか楯無先輩が来店していた。が、なぜかメイド服。しかもこのクラスの物と同じ。ほんといつの間に・・・。
「先輩?その格好は」
近くにいた一夏もよってきた。ダブルでツッコミ入れても聞きそうにないけど。
「楯無。」
「へ?」
「はい?」
「前から思ってたのよ、ふたりとも固いなって。だ・か・ら、先輩抜きで。」
「う~む・・・。」
「じゃ、じゃあ・・・。」
「「た、楯無さん。」」
「よろしい。」
ぱちんといい音をさせて扇子を閉じるせんぱ、楯無さん。
「さて、私もお茶しようかしら。」
「接客しないんですか・・・。」
「うん。」
「じゃあ何でその格好を・・・いや、もういいです。」
「一夏。考えるな、悟れ。」
「難易度高いな・・・。」
しょうがねえだろ、そういう人なんだから。
互いに溜息を漏らすと、そこにひときわ騒がしい女子が飛び込んできた。
「どうもー、新聞部でーす。話題の織斑執事と志垣執事を取材に来ましたー。」
新聞部のエースこと黛薫子さんの登場である。なにかにつけて俺や一夏の写真を撮りにくるので、今では結構顔馴染みである。
一度盗撮してきた時にはさすがに捕まえた。
「あ、薫子ちゃんだ。やっほー。」
「わお!たっちゃんじゃん!メイド服も似合うわねー。あ、このスリーショットいただき。」
言葉の途中からすでにシャッターを切っている。楯無さんに至っては「いえい♪」とピースまでしている。・・・二年ってこういうノリの巣窟なのだろうか。
「何でもいいけど、お店ほったらかしにするのは止めてよね。」
「アイアイマム、鈴少佐。」
「誰が少佐か。」
接客に戻ろうとした鈴の肩を、黛先輩がガシッと掴んだ。
「へ?」
「やっぱり女の子も写らないとダメねー。」
「私写ってるわよ?」
「たっちゃんはオーラありすぎてダメだよー。どうせなら他の子たちにも来てもらおうかな。」
「それいいわね。その間は私がお店のお手伝いするわ。」
「うんうん、それでいきましょう。では、写真撮るからメイドさん来て―。」
「え?なに?なに?」
((俺たちの意見は求めないんですね・・・。))
こうして始まった写真撮影。なぜか一夏とオリムラヴァーズのツーショットばかりだった。
別に寂しいわけじゃないが、なんだかハブられた気分でいると、
(志垣くんは簪ちゃんとツーショットのほうがいいでしょ。)
(・・・どこまで知ってる。)
(新聞部舐めちゃダメよー。あとで写真あげるから。)
こうして俺は小悪魔との契約に屈した。我ながらチョロい。
「・・・・・・。」
「簪、表情固いぞ。」
「そういう旺牙こそ。」
・・・ええい!ままよ!
ガバッ!
「お!いいね、お姫様抱っこ!」
「ふ、ふわ・・・。」
「む。お姉ちゃんジェラシー。」
外野黙ってて。案外恥ずかしいから。
そんなこんなで、謎の写真大会が終わった。
黛先輩はほくほく顔で、何度もデジカメのプレビューを眺めていた。
「や~。一組の子は写真映えしていいわ。撮る方としても楽しいわね。」
「薫子ちゃん、あとで生徒会の方もよろしくね。」
「もっちろん!この黛薫子にお任せあれ!」
どんっと胸を叩いて答える黛先輩。おかしいな、新聞部って体育会系だったったけ?
「そうそう、一夏くんと旺牙くん。私、もうしばらくお手伝いするから、校内を色々見てきたら?」
「えっ、いいんですか?」
「うん、いいわよ。おねーさんの優しさサービス。」
「い、いや、でも、俺たちがいなくなるとクラスメイトからお叱りが・・・。」
「それも大丈夫。私が適当にごまかしておくから。」
また勝手に、とも思ったが、そろそろ一夏ぐらい休憩に入っても罰は当たらんだろう。
「行ってこいよ一夏。さすがにいっぺんに抜けたらヤバそうだから、交代で休憩行こうぜ。」
先輩の厚意には甘えるもんだ。
「じゃあ、ちょっとお願いします。」
「うん。行ってらっしゃーい。」
「ごゆっくりー。」
さて、一夏の抜けた穴はちゃんと埋めないとな。
「旺牙くんも休んでよかったのよ?」
「いやいや、さっきも言ったけど、俺まで抜けたらしんどいでしょう。」
一応二枚看板の一角という自負は、
「あ、あれ!会長よ!」
「きゃー!楯無様ー!」
・・・やっぱり俺いらなくね?
◇ ◇ ◇
「織斑、一夏さんですよね?」
「はい?」
招待券を送った五反田弾を迎えに正面玄関へと向かっていた一夏は、見知らぬ女性に声をかけられた。
スーツを身に纏い、ブロンドの長い髪がよく似合う、控えめに言っても美人だった。キリっとした釣り目が気の強そうな印象を与えている。
「失礼。私、こういうものです。」
女性は手早く名刺を取り出し一夏に渡した。
「えっと・・・IS装備開発企業『一条開発』渉外担当・木崎響子・・・さん?」
声をかけてきてから一度も柔らかい笑顔を崩さずにいる、いかにも『企業の人間』『仕事の出来る女』というイメージが頭によぎった。
「はい。織斑さんにぜひ我が社の装備を使っていただけないかと思い、乗り込んできちゃいました。」
今度はイタズラが成功したといったように笑う姿に、正直少しドキッとした一夏だが、話の内容に内心げんなりしていた。
(ああ・・・、またこういう話か・・・。)
白式に装備提供を名乗り出てくる企業は後を絶たない。一夏の夏休みも、半分以上をそういう人間たちと会うのに費やすほどだった。
世界に三人の男性操縦者。その肩書は本人たち以上に有名で貴重であるらしい。
だが、旺牙の凶獣はオカジマ技研が専属で契約、安東のグレート・ワンは本人が他人に触らせない。
そうなると、比較的つけこみやすいのは一夏の白式ということになる。
「あー、えーと、こういうのはちょっと・・・とりあえず学園側に許可を取ってからお願いします。」
「そうですね、わかりました。」
(おや?)
随分と引き際のいい。今までの企業の人間たちはだいぶ粘っていたのに。
「お急ぎのところ申し訳ございませんでした。では、また『後ほど』。」
「え?」
何やら含みのある言葉を残し、木崎と名乗った女性は階段を上り人影に消えてしまった。
「何だったんだ、今の・・・。」
◇ ◇ ◇
「志垣くん!四番テーブルご指名!」
「あいよー。」
一夏を送り出したあとは、まあ予想通り大忙しだった。
一夏目当てのお客さんのクレーム対応には主に楯無さんが対応してくれたので、大事にはなっていない。
だがその分俺の指名が多く入ってきた。みんなこんななりの執事のどこが良いんだ?筋肉の塊で、眼帯してて、服の下は傷だらけ。我ながら厨二病だなー。
おっとと。四番だったな。・・・随分小さな子だな。
「いらっしゃいませ、お嬢様。」
「ははは!我がお嬢様か!なにやらくすぐったいぞ!」
我?なんだか妙に元気なお嬢さんだな。
ふわっとした桃色の長い髪。クリっとして大きな眼。身長は、150㎝弱だろうか。だが、小さな体から凄いオーラを感じる。この子、何者だ?普通の子じゃなさそうだが。
「うむ。注文をしてもよいか?」
「失礼いたしました。ご注文は何になさいますか?お嬢様。」
「この、『執事にご褒美セット』にしよう。」
・・・意味わかってんのかなこの子。
「む、意味ならわかるぞ。これのメイドバージョンを見ていたからな。」
心を読まれた!?い、いや、きっと顔に出ていたのだろう。気をつけねば。
「かしこまりました。少々お待ちください。」
キッチンテーブルに戻った俺に、すぐさま『執事にご褒美セット』が渡された。アイスハーブティーと冷やしたポッキー。お値段三百円。
「お待たせしました、お嬢様。セットのご説明は・・・。」
「あー大丈夫だ。メイドにしている姿を見ていたと言ったろう?」
「これは、失礼しました。」
「よいよい。使用人を労うのも主の務めだ。」
なんか堂に入ってるな。やっぱりどこぞの偉い人か金持ちの娘さんかなにかだろうか。
まあいい。相手が誰であれ、大事なお客様、もといお嬢様だ。接客接客。
テーブルの向かいに座る。
「うむ!では、あーん。」
「あーん・・・。」
ご褒美セット。それはお菓子を『お客様』が『メイドor執事』に食べさせるという、誰得な内容だ。
金出してスタッフに食べさせるって・・・と思っていたが、これが意外と好評。俺や一夏目当ての客がいて、かなり疲れた。
一番人気は一夏、次点に俺。その後にシャルロットが続き、意外にもラウラの指名も多かった。
「美味いか?」
「・・・大変美味しゅうございます。」
「そうか!」
しかしホントに元気な子だな。よく通る声が心地いいぐらいだ。
「ふふ、『ヒト』は面白いな。このような娯楽を考えるとは。」
ん?随分妙な言い方をするな。
「ああ、楽しかった。私はもう行こう。」
「ご堪能いただけたなら光栄です。」
「うむ!『またな』!志垣旺牙!」
そう言って少女は去っていった。
うん?『またな』ときたか。本当に不思議な娘さんだったな。
(ジー・・・)
(ジー・・・)
(ジー・・・)
おかしいな、フロアとキッチンから凄い刺さる視線を感じる。
とりあえず一番近い視線に声をかけなくてわ。
「あの、簪さん?視線が痛いよ?沙紀さんに萌さんも。」
「・・・ロリコン。」
「だから違うよ!?」
はい。巻紙礼子さんことあの人は登場しませんでした。
じゃあどこで登場するんでしょうね?