旺牙)そのこころは?
作者)次でお前はボロボロになるからじゃ。
旺牙)俺って基本ボロボロなんだけど・・・
一夏と対峙する女、パツィア。美しき姿と酷薄な笑みをたたえるその者はヒトに非ず。世界を恐怖と滅亡へと誘う闇の使者、侵魔。
「覇王軍?確か、ひょろ長い奴や鎧の大男がそんなこと名乗っていたような。」
「あら、不出来の弟たちのことは覚えているのね。それがあの子たちへのせめてもの慰めになるかしら。」
覇王。侵魔。度々旺牙の口から出ていた単語であった。その意味を知らずとも、一夏は無意識の中で、何かを感じ取っていた。
特に一番初め、トルトゥーラと名乗った『敵』に悪夢を見せられた時から、何かが変だった。体は動かなかったが、頭の中で明確に、アレは危険だと警鐘を鳴らしていた。
「その様子だと、まだ覚醒には至っていないようね。まあ、関係なく今殺すのだけれどね。」
「覚醒?一体何のことだよ。」
「それを教えてあげるほど、私は優しくないわよ。」
パツィアが再び剣を構える。
間違いない。彼女の言葉の意味はわからないが、明確なのは自分の命の危機だということ。
ならば迷ってはいられない。
「来い!白式!」
自らのISを纏い、愛刀『雪片弐型』を呼び出す。
ガキィン!という音とともに両者の剣がぶつかる。
ギリギリだった。運が良かったとも言える。武器を顕現させたところに丁度攻撃がきたのだ。
「ふふ。簡単に終わったらつまらないものね。」
依然、パツィアは艶美な、それでいて残虐な表情を崩さない。
闘争を、というよりも殺戮を楽しむようなその様は、一夏に若干の恐怖を与える。
本気だ。本気でこの女は自分を殺すつもりなのだと。ISの絶対防御があるにも関わらず、一夏は自分の死を予感した。
それでも恐怖を振り払い、雪片を構える。
「くそ!こんなところで、死んでたまるかよ!」
「そう、それでいいの。そうでなくちゃ、楽しめないから!」
両者の剣が再び交差する。
だが、力、速度、正確さ、何より殺意、その全てが、パツィアに軍配が上がる。
そもそも戦闘の練度が違う上、一夏には相手を殺そうという気が無かった。そこが大きな差である。
「ほらほら。どうしたの『勇者』様?守ってばかりじゃ面白くないじゃない!」
「ぐっ、まだ、まだぁ!」
(一撃一撃が重い!気を抜いたら、一気にやられそうだ!)
防戦一方、それでもパツィアは本気を出していなかった。
絶対防御があるとはいえ、その気になれば彼女は一気に一夏を戦闘不能に、それこそ抹殺できた。
それをしないのはパツィアの嗜虐性、敵をいたぶる悪癖のため。
パツィアも自分の癖を理解しているが、それを改める気は無い。楽しいからだ。
「んなろぉっ!」
「あはは!そうよ、もっと私を満足させてみなさい!」
手を抜かれている。遊ばれている。それは一夏にも理解できた。
だがそこで熱くなる余裕は無い。それこそ命がかかっているから。
熱くなろうとするとそれこそ致命傷になる攻撃が飛んできて、背筋が凍る。
何度でも言うが、ISの絶対防御があるのに、である。今この時は、それが信用できないくらい、一夏は追いつめられていた。
(守ってばかりじゃだめだ!相手が遊んでいるなら、今がチャンス!)
一夏の意志に合わせ、雪片弐型が輝きを放つ。
「『零落白夜』!」
「あら。」
「うおおおおっ!!」
必殺の一撃を放つ一夏。それを避けようともせず、微笑を浮かべたままのパツィア。
ろくに防ごうともせずにいるその姿に、一夏は思わず戸惑ってしまう。
軽い手応えとともに、パツィアの右頬に一筋の傷が刻まれる。
「あ、ああ・・・。」
人を斬った。傷つけた。
その事実に動きが止まる。
そんな一夏とは反対に、飄々としている魔性の女。
「なによその顔は。誇りなさいよ。覇王軍が誇るこの輝かしきパツィアに傷をつけたのよ?」
「お、俺は・・・。」
「それとも、『よくも私の美しい顔に!』と激昂すると思った?ふふ、私も覇王軍の将なのよ。闘いでの傷はむしろ勲章だわ。それにこの程度の掠り傷、残しておいても構わない。」
薄く流れる血を指で拭い、それを舐めとる。人外の妖艶さに一夏はさらに動揺した。最早雪片を取り落としそうになるほど、力が入らない。
「・・・そう。もう少し楽しめそうだったけれど、あなたはそこが限界のようね。」
先程までの笑みが消え、つまらなそうに呟く。
「もういいわ。『覇王を討つ者』。ここで、死になさい。」
パツィアが剣を振り上げる。雪片弐型のような特別な機構の無いただのブレード。それでも、一夏は己の死を予感する。
(ちくしょう!動けよ、俺の体!何で動いてくれないんだよ!こんなところで・・・)
「こんなところで、死ねるかよ!」
「さようなら。」
「注意散漫よ、侵魔さん。」
振り下ろされた剣を、槍が受け止める。
「何?」
「悪いわね。その子をここで死なせるわけにはいかないの。」
「楯無、さん?」
「それに生徒会長として、生徒は守らないとね。」
ミステリアス・レイディに身を包んだ更識楯無が一夏を守るように佇む。
受け止めていた剣を弾き、距離を取る。
「・・・少しは出来そうだけど、そこの『勇者』くんが戦意喪失中で、ただのヒトが『悪魔』に勝てると思う?」
「あら、『化物』退治は昔からヒトの領分でしょう?」
「私と十把一絡げの化物を一緒にしないでくれる?不愉快だわ。」
「あらあら、安東先生の言った通りね。傷には耐性があっても、煽り耐性は無しか。」
「・・・あの男の名も不愉快よ。」
静かに、されど燃えるような視線のぶつかり合い。
何やら意味ありげな言葉が出るが、今の一夏はそれを聞くだけで、頭には残らなかった。
そんな一夏の様子を見て、パツィアは再び酷薄な笑みをを浮かべる。
「ねえ、織斑一夏くん?まだ呆然としているところ悪いのだけれど。」
「え、あ・・・。」
「第二回モンドグロッソ、志垣旺牙の拉致。」
「・・・?」
「あれ、私たちがやったことだと言ったら、どうする?」
「!!」
一夏の瞳から怯えと後悔の色が消える。その代わり、目の前の『モノ』への敵意と怒りが支配する。
「お前かああぁぁぁっ!!!」
「ちょっ、一夏くん!?」
先程までと違う、殺意まで混じったような凶暴な剣を叩きつける。
大切な姉の偉業を阻んだこと。
大切な親友に消えない傷を残したこと。
そして、何もできず逃げることしかできなかった自分。
感情の蓋が怒りによって一気に開いた。
血を吐くように、叫ぶ。
「お前が!お前らが!!」
「アハハ!いいわよその憤怒と憎悪!楽しくなってきたわ!」
「ああもう!このサディスティック女!」
力は増している。その代わりただ振り回すだけの剣を、パツィアはわざわざ正面から受ける。自分には通じないと。遊びに付き合っているのだと言うように。
「おおおおおお!」
「そう!もっとぶつけてきなさい!さっきよりよっぽど楽しいわよ!」
「本当に、イイ性格だこと!」
二対一の状況で、それも学園最強の楯無の攻撃をも受けながら、軽くいなす。
(おかしい。いくら本気じゃないとしても、零落白夜を受けてシールドエネルギーが持つはずがない。)
楯無の疑問に、ハイパーセンサーの情報更新がなされる。エネルギーの総数は。
「4000!?出鱈目にもほどがあるでしょう!」
「それだけじゃないわよ。侵魔である私のために合わせたISだもの、こんなことも出来るわ。」
膨大なシールドエネルギーも、確かに減少していた。だが。
「『領域作成』。」
パツィアを中心にフィールドが展開される。
すると、戯れていた時に受けたISの傷が回復していく。それだけではない。
シールドエネルギーまで最大値まで回復したのだ。
「デモニック・シャインの能力。私の作った領域内では、あらゆるダメージを回復し、エネルギーを元に戻す。なかなか素敵な仕様に仕上がっているでしょう?」
「な、なんだよそれ!」
「・・・そんなボスキャラ、クソゲー認定されるわよ。」
あまりのことに、多少頭が冷えた一夏が呟き、楯無が嘯く。
「ちなみに。」
あまりのことに動揺し、隙を作ってしまった二人。特に楯無に剣先を向けるパツィア。そのままミステリアス・レイディを、楯無ごと貫いた。
「私の攻撃はISの絶対防御を無効化する。」
「楯無さん!よくも、てめぇ!」」
またも怒りに飲み込まれそうになる一夏だが、あることに気がついた。
貫かれた楯無の表情が、さきほどと違い不敵な笑みをたたえていたのだ。
「手応えがない。砂・・・いえ、これは水?」
「うふふ。ご名答。」
ミステリアス・レイディ。アーマー面積の小ささをカバーする液状のフィールド。
そして左右一対に浮いているアクア・クリスタルと呼ばれるパーツから水のヴェールを展開し、大きなマントのように操縦者である楯無を包み込んでいる。
水をナノマシンで操る、攻撃にも回避にも防御にも向いたIS。
貫かれていた楯無はばしゃりと拡散し消え去る。
パツィアは後ろからの気配に声をかける。
「あなたもなかなか面倒な機能を持っているのね。」
「そちらにだけは言われたくないわね。」
振り返りざまの剣と槍がぶつかり合う刹那、どこからともなく砲撃が放たれる。
煙で包まれる更衣室。対面していた両者は各々の得物でそれを振り払う。
一夏が砲撃の飛んできた方向を見やると、そこには蜘蛛のような八本の装甲脚を持った、黄色と黒のカラーリングのISが佇んでいた。
「やっとご到着?重役出勤にもほどがあるわよ『協力者さん』?」
「うるせーぞクソガキ。ここは頭を下げてでも感謝するところだろうが。」
新たに現れた乱入者と楯無が言葉を交わす。楯無は協力者と呼んだが、先方は少々機嫌が悪い。
「あら、ここでお出ましなのね『裏切り者』?」
「裏切ったわけじゃねぇ。私たちは取り戻すためにてめぇらを狩るんだよ。」
乱入者とパツィアも剣呑な雰囲気に包まれる。
一夏は冷静にはなれたが、逆にこの状況についていけなくなってしまった。
そんな一夏を置き去りに、戦闘が再開されようとしていた。
「おら、これで三対一だ。ガキ共とつるむのは気が進まねえがスコールの指示なんでな。ここで死んでけ。」
「私としても犯罪者と組みたくはないけど、この状況を打破するには仕方ないわね。一夏くん、まだ頑張れる?」
「え、は、はい!」
数の差は明らか。それでいて、パツィアは今まで以上に妖しく、凄絶な笑みを浮かべる。
闘争そのものを楽しむように。そして、残虐に。
「フフ。羽虫がどれだけ集まろうとも、恐竜に勝てると思っているの?」
(パツィア、今は退くぞ。)
(母様?私はまだまだ戦えますが?)
(今は織斑一夏も志垣旺牙も発展途上だ。楽しみは最後までとっておこう。)
(・・・母様の望む通りに。)
ISを解除し、ため息を吐く。
「本当に、甘いお方・・・。」
「どこを見ていやがる!」
パツィアは乱入者の一撃をひらりとかわし、宙に浮かぶ。
そして面白くなさそうに告げた。
「今は退くわ。次に会った時、もっと楽しめるように精進しなさい。」
空間が歪み、そのまま消えていった。
残されたのはISを纏った三人のみ。
「ちっ。逃げたか。」
「どちらかというと、見逃してくれたんじゃないの?」
「うるせぇ、死にてえかガキ。・・・ん?ああ、了解だ。こっちも戻るぜスコール。」
蜘蛛のようなISが解除される。ふわりとしたロングヘア―がよく似合う美人が姿を見せた。
だが先程までの会話を思い出すと、きっと性格は悪いと思う一夏であった。
「私ももう帰る。・・・追ってくるんじゃねえぞ。気に入らねえとはいえあの男とスコールが結んだ『同盟』だからな。」
「残念。先生が言わなきゃここで捕まえてあげるのに。」
「けっ。だからガキは嫌いなんだ。」
「はいはい。じゃあまたね『オータム』さん。」
「・・・やっぱり殺すか。」
物騒なことを呟きながら、オータムと呼ばれた女性は更衣室から姿を消した。
「さて、大丈夫一夏くん?」
「え、ええ。問題ないです。」
状況が一気に変わり、着いていけなくなっていた一夏が、楯無の言葉で正気に戻る。
「あの、今までのは、一体・・・。」
「それは時期が来たら、安東先生が説明してくれるわよ。」
「はあ・・・。」
納得がいかない。そんなことを考えてもみたが、楯無と安東のこと、すぐに話してくれるとは思えない。
怒ったり悩んだり、今日はもう疲れた。
とりあえず風呂にでも入りたい。そんな気分だった。
「ところで、これなーんだ?」
そう言って楯無は指でくるりんと『それ』を回してもてあそぶ。
「・・・?王冠ですけど。」
「うん、そう。これをゲットした人が織斑くんと同室になれるっていう、素敵アイテム。旺牙くんのチョーカーも同じよ。」
「はぁ!?・・・ま、まさか、それであんなに女子が必死に!?」
「うん。」
「・・・何考えてるんですか・・・。それなら楯無さん、旺牙のほうが仲良いじゃないですか。」
「うーん・・・。そこは簪ちゃんに悪いしね。」
「へ?なんでそこで簪が?」
「・・・これはみんなが溜息を吐くわけだわ・・・。」
「??」
「ま、なんにしても、ゲットしたのは、わ・た・し。当分の間、よろしくね。一夏くん♪」
もうどーにでもなーれー。そんな気持ちのまま、一夏は背中から倒れた。
旺牙)もう少し短く出来たんじゃないか?
作者)これでもいらん場所削ってるんやで?
旺牙)精進せよ。
作者)厳しいぜよ。