IS×NW~世界を渡りし者~《更新停止》   作:戒炎

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作者)タイトル通りなので、旺牙の出番はありません。

旺牙)ただ前回入れ忘れたシーンだろ?

作者)ち、ちち、違うしぃ~。

旺牙)嘘ぐらいつけ。


裏側のお話

「失礼します。」

 

 重厚なドアを開いて学園長室に入ってきたのは楯無だった。

 窓の外は暗く、すでに夜のとばりが辺りを包み込んでいる。

 

「ああ、更識くん。ちょうどよかった。これで役者が揃いましたな。」

 

 楯無を迎えたのは穏やかな顔をした初老の男性だった。

 表向きはその妻である女性が学園長を務めているが、実務に関してはこの男性が取り仕切っている。

 そしてその傍に長身痩躯の男性。

 三人目の男性IS操縦者にして新任教師、安東一樹が佇んでいた。

 

「それでは報告をお願いしますね。」

 

 男性は立派な机に組んだ手を置きながら、楯無に言葉を促す。

 その頭は総白髪で、顔にも年相応のしわが刻まれている。

 柔和さを感じさせる人柄は、親しみやすさからか『学園内の良心』などと呼ばれている。

 普段は用務員をしているこの男性、轡木十蔵こそが、IS学園という空間を実質的に運営しているのだった。

 安東からすれば、悪賢いとは言えないが海千山千の猛者にも通ずる一筋縄ではいかない、敵には回したくない人物だ。

 

「まず、織斑一夏くんに関してですが、彼のIS訓練については順調です。」

 

 楯無はいつもの茶目っ気は全く出さず、真剣な顔で報告をはじめる。

 

「正直、驚きました。一度教えたことを数回の反復で覚えるところや、理解の早さなどは今まで見てきたどんな女子よりも上ですね。」

「そうでしょうね。あの織斑先生の弟ですから。」

 

 どこか深い意味のあるような言葉であり、安東も意味ありげに目を閉じるが、楯無はあえて訊かずに報告を続けた。

 

「次に亡国企業、いえ『旧亡国企業』ですが、安東先生からの情報通り、完全に覇王軍に支配されているようです。例の『協力者』の情報通りですね。」

「『彼女ら』とは数年前から接触していますが、ちょうど前回のモンド・グロッソ前後には幹部の九割が買収、もしくは侵魔にすげ変わっていたそうです。」

 

 楯無の言葉に安東が続ける。

 

「安東先生の情報通りでした。たしかに織斑くんに実力がついてきたとはいえ、四天王の名を冠する存在には未だ届かないかと。」

「だが相手は四天王の長。生き残っただけ、伸びしろはあります。」

「安東先生は随分織斑くんを買っていますね。」

「というより、強くなってもらわなければ困ります。彼は『切り札』ですから。」

 

 安東が意味ありげな言葉を発する。ただ淡々と、事実だけを述べはぐらかすのはこの男の悪いところだった。そこに二人は苦笑する。

 そして、再び楯無の報告に戻る。

 

「また、志垣旺牙くんですが、彼も規格外ですね。本人はISの性能のお陰と言っていますが、実力的には二年生、いえ既に三年生の精鋭にも匹敵、凌駕しています。自分で無意識にリミッターをかけているのでしょう。今戦えば、私でも勝てるか微妙です。」

 

 元来、暗部とは戦力分析に長けているもの。現在の長である楯無が手放しで評価するとなると、事実なのだろう。

 実際、旺牙が侵魔と戦っている姿を見てきたが、尋常ならざるものを感じていた。

 

「あれでも前世からの俺の一番弟子です。それぐらいやってもらいたい。だが、覇王ジーザにあの体たらくでは、織斑一夏を守り切れない。」

「身内には厳しいんですね。」

「事実です。」

 

 その時、安東の端末に連絡が入る。その人物の名を見て若干顔が引きつるが、通信を開いた。聞こえてきたのは女性の声だった。

 

「なんの用だ『スコール』。」

「そう邪険に扱わないでくれるかしら。ただの定期連絡よ。」

「ああ、もうそんな時期か。」

 

 明らかに苦手としている。安東の顔がそう物語っている。

 

「で、何かあったのか?」

「いいえ。ただ、『オータム』が戦ったパツィアのことだけど、過去のデータより戦闘能力の向上が見られたの。侵魔も成長するということ?」

「まあな。『プラーナ』を吸収すればそれだけ侵魔は力を得る。それに奴らは完全に戦闘種族だ。今日より明日、明日より一週間後には更に力をつける事だろう。」

「厄介な連中だと思っていたけど、想像以上ね。無理に戦わず逃げ出して正解だったわ。」

 

 通信の向こうから溜息が聞こえる。

 安東にとってはどうでもよかったが、旧『亡国企業』の情報及び覇王軍の動きを得るために仕方なく組んでいるという状況だった。故に、お互い用が無ければ無用な接触をしない。連絡は定期でする、と決めたのは彼女たちだったのだから。

 

「ところで、あの話は考えてくれたかしら。」

「しつこい。俺がお前らと組むのは今回だけだ。亡国企業の立て直しは勝手にやれ。」

「残念ね。なら貴方の『妹』さんだけでもどうかしら。悪いようにはしない」

「おいスコール。」

 

 静かだが、声に激しい怒りを込めて安東は告げる。

 

「何度も言ったはずだ。あいつに手を出すな。それ以上は契約違反だ。すぐにでもお前たちを消し炭にしに行くぞ。」

「・・・冗談よ。」

 

 十蔵と楯無は動けなかった。声を発することも出来ず、裏の世界に通ずるふたりが冷や汗をかくほどに、安東の気配が冷たく、殺意に満ちていた。

 

「定期通信ならもう用はないだろ。切るぞ。」

「あら、女性にはもっと優しくしないとモテないわよ。」

「自慢の恋人に癒してもらえ。じゃあな。」

 

 一方的に通信を切る。安東にとって、長話をする関係ではなかった。

 気付くと、十蔵と楯無は深い息をしていた。

 

「?なにか?」

「先生はもっと周りに気を使ってください・・・。」

「やれやれ。老骨には厳しいんですよ?」

「よく言いますよ、俺の殺気に耐えておいて。」

 

 その後、学園の内外のことをそれぞれ二、三伝える。

 

「ご苦労様です。苦労を掛けますね。」

「それは言わない約束ですよ十蔵さん。」

「その配役、逆じゃね?」

 

 そのやり取りで、先程までの緊張感が霧散する。

 

「さて、お茶にしましょう。そうそう、いいお菓子があるんですよ。君たちの口に合えばいいですが。」

 

 十蔵がそういうと、楯無は目を輝かせた。そこには年相応の顔しかない。

 

「十蔵さんのお菓子チョイスには外れがないですからね。楽しみ♪」

「はっはっはっ、そんなに大したものではありませんよ。」

「いえいえ、本当においしいです。そうそう!私もお茶を持ってきたんですよ?」

「おお、まさか布仏虚くんの?」

「そのまさかです。」

「おお!彼女のお茶はすばらしいですからね、これはいいお茶会になりそうです。」

 

 年甲斐もなくはしゃぐその姿は、七十近い男のものには見えない。

 まるで仲のいい友達がそうするように、差し向かいで座ってお茶をはじめるふたりを見て、安東は小さく笑った。

 

「さあさあ、安東先生もどうぞ。」

「はいはい。ご相伴にあずかります。」

 

 

 

 

    ◆    ◆    ◆

 

 

「ヒトを知りたい、ですか。」

「はい。私はいつも奥にいたもので、あまりヒトについて理解していることが少なくて・・・。」

 

 机を挟み、少女と巨躯の老人が会話している。

 少女の名はマリア。覇王軍四天王の一角。

 老人の名はガイム。最近マリアの隊の長に就いた侵魔である。

 

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。ですがマリア様、あなたはお優しい。厳しいことを言いますが、情がうつっては戦うことも難しくなりましょうぞ。」

「・・・それでも、です。」

 

 先日のウィザードとの戦いで何かを感じたのだろうか。ガイムは考える。

 目の前の少女は自分より幼いが、歴戦のガイムよりも強大な潜在能力を有しているのはわかる。そして新たに配属となったテレモートの兵たちひとりひとりに声をかけるなど、将としての器は大きい。

 だが、その優しさがこの方にとって致命傷となることを恐れていた。ガイムもまた、その優しさに触れた者。できれば戦場になどでず、将兵たちを温かく迎え入れてくれる、そんな存在でいてほしかった。

 だが同時に、武人としてのガイムが、マリアの更なる成長を見てみたかったのだ。

 悩むガイム、俯いているマリア。その空間に、やけに軽い声が響く。

 

「いいじゃねえか爺様。お嬢のやりたいようにやらせてやれば。」

「ジャン・・・。」

「これジャン!軍団長の御前であるぞ!」

 

 ガイムの怒声を受けてもへらへらと流す、長い黒髪を乱暴にのばし、ワイルドな青年。

 ジャン。彼もまた元テレモートの部下であり、軽薄そうな笑顔の下に、戦士としての獰猛な素顔を持つれっきとした侵魔である。

 

「あんまり過保護にしすぎると、それでこそいざという時動けなくなるぜ。お嬢はもうお飾りじゃねえ。俺たちの主なんだ。」

「それは、そうだが。」

「お嬢は覚悟決めてんだ。だったら部下である俺たちが腹括らないでどうするよ。」

「うーむ・・・。」

 

 いまだ悩むガイムをよそに、ジャンは話を続ける。

 

「なにも本人が出向かなくても、ちょうどいい人間にプラーナを憑かせて、その視点で周りを見ればいい。それならお嬢本人も安全だし、情報も得られるってもんだ。いい考えじゃね?な、お嬢。」

「ジャン・・・、ありがとう。」

 

 マリアの微笑みに、照れくさそうに鼻を掻く。

 

「そこまでするなら、儂もこれ以上反対はすまい。じゃが・・・。」

「ん?」

「お嬢お嬢と主を気安く呼ぶな!馬鹿者!」

「痛ぇっ!」

 

 ガイムの拳がジャンの脳天に振り下ろされる。

 それを見て、マリアは嬉しく思った。こんな自分を本気で思ってくれていると、胸の内が温かくなっていた。

 

「なれば、どの人間にするか。」

「それならちょうどいいのがいるぜ。年頃の人間の女がたくさんいて、性格もお嬢に近くて、おまけにウィザードが近くにいる。ヤバくなったら即撤退すりゃあいい。」

 

 ジャンがあるひとりの少女の姿を空間に映しだす。

 そこには、友人に囲まれて笑顔を浮かべる、立花沙紀の姿があった。




作者)最後、「簪じゃないんかい!」と思われた方。俺も思ったから心配するな。

旺牙)ホント何でそうなった?

作者)簪だと旺牙に近すぎるんで。

旺牙)沙紀も萌も近い気が・・・。
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