またもあまり期待はしないでください・・・。
「であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ」
教科書の内容をすらすらと読み上げる山田先生。
SHRの時とは違い堂々としている。話も案外解り易い。
あの分厚いなんてモノじゃないほどの参考書を丁寧に説明してくれている。
俺や一夏のようなイレギュラーな存在のことも考えてくれての事だろう。
この学園にくる生徒はまず予習をしてからくるだろうし、俺自身ももとからISに興味がありある程度調べていたのが役立っている。
周りの女子も一心にノートを取っている。
あ、例外がいた。
一夏の背中から「訳が解らん」オーラが昇っている。
まだ基礎中の基礎の部分だぞ、大丈夫か?明らかに挙動不審だ。
「織斑くん、なにかわからないところがありますか?」
その様子を見て山田先生が尋ねる。
「志垣くんもわからない事は訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから。」
頼れる先生をちょっとアピールしたいのだろうが、逆に子供っぽく見えてしまう。山田先生の小動物感がさらにアップしている。
しかし張った胸の膨らみは常人のそれを遥かに凌駕していた。すげぇ。
「先生!」
「はい、織斑くん!」
元気一杯に、奴は言い放った。
「ほとんど、全部わかりません。」
堂々と言えることじゃないぜ親友。
みんなに出来ない事を平然と言ってのける。そこに痺れるが憧れない。
「え・・・・・・。ぜ、全部、ですか・・・?」
山田先生の顔が引き攣っている。困っていることこの上無しだ。
「え、えっと・・・織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」
困惑の先生の言葉に、誰も手を挙げない。
さすが敷居の高いIS学園の生徒。
エリート候補生の集団は伊達じゃない!
「ちょっと待てよ、旺牙、お前もわかってるのか!?」
「予習はしてきたからな。」
にべも無く応えてやる。予習は大事だ。
「織斑、入学前の参考書は読んだか?」
教室端にいた織斑先生が見かねて尋ねる。
そう、件の参考書だ。あの電話帳レベルの分厚さの。
でかでかと【必読】と書かれていたあれである。
あれを読破しておけば最低限の事はなんとか解る。
まぁ実はいまだにPICの原理を理解しきれていないのだが、とりあえずそれのおかげでISが飛行したり減加速したり出来る事はわかっている。
「古い電話帳と間違えて捨てました。」
どうしてこう変な方向に全力なのだ織斑一夏よ。
パアンッ!
またも必殺出席簿アタックが火を吹いた。
「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな。」
あれを一週間かぁ。かなりきついな。
貰った時点ではまだ時間があったからなんとか読めたけど、一週間は寝る間も惜しまなければならないだろう。
だが今回はこう言える。一夏の阿呆めが。
「旺牙が読破済みなのが納得いかない・・・。」
失礼な奴だ。あとで一閃の刑に処す。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ。」
正論だ。
力というものは振るう者によって大きく左右される。
何も知らないものが力を手に入れ振るえば、自分だけでは無く、周りも傷付く。
ウィザードの力を手に入れたときの俺は・・・。いや、やめておこう。
それに、ウィザードに目覚めてからもそれを受け入れられず、殻に篭ったり周囲に当り散らしたり、わざとらしい孤独感を背負う奴がいた。
「自分は望んでウィザードになったわけではない」と言って。
だがそれは間違いだ。
力を手に入れた者には、望む望まないに限らず責任が纏わりつく。
それを放棄することはできない。人を傷付けることを選んだ時、そいつは人の心を捨てたも同然。
あの時の俺はそれを放棄した。だからここにいるのだろうか。
この世界での俺は、力を手に入れた責任を保てるのだろうか。
「お前って、昔から意外と頭良かったよな。」
「褒めてるのか貶してるのかどっちだ?それにお前だって成績悪くはないだろうが。」
二時限目の休み時間、俺は一夏の席まで来ていた。
さっきはなんだかんだで話が出来なかったからな。
お互い保護観察とか言われて、俺なんかホテルに缶詰状態。
最後に会ったのは中学の卒業式だったからな。
弾に数馬、元気にしてるかな。
「あんなの解るわけないだろ。俺、お前ほどISに詳しくないんだから。」
「参考書を捨てた人間が何言っても説得力無いぜ。」
ぐうの音もでなくなったな。
仕方ない。これでも親友だ。
少しぐらい一夏が授業についていけるように協力してやるとするか。
男と放課後二人っきりで復習・・・。うわ、やっぱりいやだ。
「ちょっと、よろしくて?」
「「ん?」」
俺達はいきなり声をかけられて、そちらを振り向く。
そこには鮮やかな金髪の目立つ女子がいた。白人特有の透き通ったブルーの瞳が俺達を見ている。
その特徴的なロールがかった髪はいかにも高貴なオーラを纏っている。雰囲気も『いかにも』な女子だ。
このご時勢、ISの存在で女性はかなり優遇されている。いや、優遇なんてものじゃない。いきすぎて女性=偉いの構図が出来上がっている。
ISは女性にしか動かせない。つまりこの世は女性が中心になって動かすべきだなどという風潮になってきている。
女性が何かしたい時、その辺の男性をパシリに使う。そしてそれがまかり通る。逆らえば無実の罪まで着せられて逮捕、などというケースまで存在する。
馬鹿馬鹿しいが、それが現代の『女尊男卑』の世界なのだ。
束さんが望んだのは、そんな下らない時代ではないというのに。
まぁそれはともかく、目の前の女子はいかにもそんな男を下に見ている感じだ。
ただ、その高貴さは本物らしく、腰に手を当てて佇む姿は様になっていた。良い所のお嬢様なのだろう。
「訊いてます?お返事は?」
「訊いてるよ。で、ご用件は、オルコット。」
俺の対応に、女子は大袈裟に声をあげる。
「まあ!なんですのそのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
あ、駄目だ。俺このタイプ合わない。
男と言うより他人を見下してる。
力を持った人間の典型だ。昔の自分を見ているようでムカつく。
「あれ、旺牙。この娘知ってるのか?」
「自己紹介ちゃんと聞いとけ馬鹿。」
「酷い!?」
セシリア・オルコット。たしかイギリスの代表候補生だったはずだ。
光栄云々と言うからには、本当にそういった家柄なのだろう。
「あら、あなたは少しは話がわかるようですわね。そう、わたくしがイギリスの名門、オルコット家のセシリア・オルコット。入試主席にして代表候補生ですわ。」
むふんと胸を張るオルコット。大分自慢げだ。まあ凄いことにはかわりないのだが。
「ちょっと、いいか?」
一夏が挙手しながら声をあげる。
何故だろう。なにか嫌な予感しかしない。
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ。」
「代表候補生って、何?」
がたたっ、と数人がずっこける。
俺も他人の振りがしたいよ、今更だけど。
オルコットなんか顔を真っ赤にしている。
「・・・一夏。代表候補生っていうのはな、読んで字の如くモンドグロッソの国家代表の候補者のことだ。お前に解りやすく言うとオリンピックの代表ってこと。いわばエリートだ。」
「ああ!」
いくらあまりテレビを見ないからって、それくらい知っておけよ。
字面からも予想できるだろう。
「そう、エリートなのですわ!」
お、オルコットが持ち直した。
しかし、力を持った人間の典型だな、この女。
偉ぶるのは国家代表に正式になってからにしろってんだ。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間と同じクラスになれただけでも奇跡・・・幸運なのよ?その現実をもう少し理解していただける?」
「「そうか、それはラッキーだな。」」
「あなた達、馬鹿にしてますの!?」
馬鹿にしていない。呆れてるだけだ。
『ファー・ジ・アース』にもエリート意識の高いウィザードがいたさ。
そういうやつらに限って大して実力が高くない。
力を振りかざす者、ひけらかす者は総じて他者を見下し、自分を磨こうとしない。
だから更なる高みに昇れない。
オルコットからもそんな雰囲気が伝わってくる。
コイツがどういう人間かは知らん。だが、感じが悪いのは確かだ。
先ほどの台詞も、本人はノブリス・オブリージュのつもりだろうが、自分が選ばれた人間ゆえの驕った態度でしかない。
だから、俺はこの女が苦手だ。素直にそう思う。
「大体あなたがた、よくこのIS学園に入学できましたわね。」
まぁそれこそ強制なんですけどね。もう受け入れたけどね。
「一人はまったく知識が無く、一人は野蛮そうな外見・・・。知的さと美麗さが欠けていますわね、期待はずれですわ。」
失礼な。ちゃんと人間社会に適応した人間だよ。ゴツイ見た目のことは言うなよ。これでも気にしてるんだからさあ。
「旺牙はともかく、俺に何かを期待されてもな。」
「一夏。自分を卑下するな。あと人を持ち上げるな。」
こそばゆいし、親友のそんな台詞は聞きたくない。
さらにオルコット曰く、『優秀』な自分が『特別』にISのことを教えてくれるらしい。
それが彼女の優しさらしい。前世と合わせて三十年も経つが、そんな優しさは初めてだぞ。
とびっきりの厳しい優しさ(訓練)なら何度も受けてきたけどな。
「いいよ、俺先生や旺牙に教えてもらうから。」
「な、何ですって!?」
そこで火にニトログリセリンをくべるのが織斑一夏という男であった。
俺を巻き込まないでくれ。ってああ、今更か。
「わ、わたくしは入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートなのですよ!?そのわたくしのお誘いを断るおつもり!?」
ほう、教官をねぇ。さっきの考えは一部撤回しておこう。
そこそこの強者ということか。だがまだ尊敬には値しないがな。
「入試って、あれか?ISを動かして戦うってやつ?」
「それ以外に入試などありませんわ。」
「あれ?俺も倒したぞ、教官。」
「「は・・・?」」
俺とオルコットの声が重なる。
まじで?教官っていったら、少なくとも俺達よりISの操縦時間が長いはず。特に一夏は素人もいいところ。
その一夏が教官を倒した?運か?それともコイツには隠された実力が!
俺の相手は・・・規格外の人だったしな。
それはともかく、今の一夏の言葉にショックを受けてる様子のオルコット。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子だけではってオチじゃないのか?」
ピシッといういやな音が聞こえた。こう、氷にヒビが入ったような。
「あ、あなたはどうなんですの!?」
矛先が俺に向いた。ここは正直に言った方がいいだろう。
「俺は引き分けだ。」
「そ、そうでしょうとも。えぇ、そうですとも。」
「悔しかったな。相手が相手とはいえ。」
「相手とは?」
「織斑先生。」
空気が凍る。比喩ではなく、完全に固まっている。
オルコットの顔が真っ赤から真っ青になる。
と思ったら徐々に赤みが増してくる。
面白い。俺のこの女に対する評価が変わっていくぞ。変な意味で。
「嘘ですわ!ありえませんわ!?こんな男が織斑先生と引き分けたなんて!」
「まあ間違いなく本気出して無かっただろうがな。」
「あなたも!あなたも教官を倒したとはどういうことですの!?」
おお、大分混乱していらっしゃる。
「うん、まあ。たぶん。」
「たぶん!?たぶんってどういう意味かしら!?」
「まあまあ落ち着けオルコット。」
「これが落ち着いていられ―――」
キーンコーンカーンコーン。
三時限目のチャイムが鳴る。
「っ・・・!またあとで来ますわ!逃げないことね!よくって!?」
高貴さの欠片もなくズンズンッと自席に戻って行くオルコット。
まったく、落ち着きの無い奴じゃい。
「逃げないことって言われてもな。」
「いや、なんで旺牙はそんなに落ち着いてるんだよ?」
いやいや、これでも困ってるし色々呆れてるんだぜ?
まったく、初日から賑やかな学園生活だ。
今更な解説コーナー
『ウィザード』・・超常の力を用いて侵魔と戦う者たちの総称。『ナイトウィザード』とも。
魔法使いと呼ばれることもあるが、剣士や銃使い、吸血鬼や聖職者など職業や能力、種族問わず、侵魔と戦う者はウィザードと呼ばれる。
『侵魔』・・異界からの侵略者のこと。エミュレイターとも呼ばれる。
世界の裏側【裏界】より、生物が蓄えている力、存在の源であるプラーナを奪いに来る。【魔王級】と呼ばれる侵魔は、なぜか美男美女の姿をとることが多い。
『プラーナ』・・上記の通り、存在の源になる力。プラーナを失うと徐々に衰弱し、存在感が希薄になり、いずれは世界から消滅してしまう。
『イノセント』・・ウィザードではない普通の人々の総称。侵魔からよく狙われる。
『月匣』『月衣』についてはまた次回。関連項目が多く、長くなりそうなので。