旺牙)季節に切れるなよ。
作者)皆様も風邪などひかぬようご自愛ください。あと、今回IS出てきません。
う~む・・・。
凶獣の調子がまたおかしい。
思った通りに動かないような、何故だか『凶獣を』置き去りにしているような。
挙句の果てには『二つの存在』を感知してエラーが起こる始末。何だよふたつの存在って。
と言うわけで、急遽派遣されたオカジマ技研の研究者(身元は安東先生が保証)が凶獣のメンテを行っている。
搭乗者の俺は今のところ用無し。つまりこの放課後は暇なのだ。
しかもこんな時に限って生徒会の仕事は無い。今ほど部活動への派遣が始まってほしいと思った瞬間は無いね。
・・・やっぱり格納庫で技研の作業でも見てようかな。
っと思うとあれだ。厄介事がやって来る。
周囲から人の気配が消える。運動部の掛け声や、校内の文化部の音も聞こえなくなる。
同時に世界が紅く染まり、コロシアムのような空間が広がる。天には禍々しく『紅い月』が昇る。
まったく、空気を読んでいるのか読んでいないのか。
この月匣を作り出した侵魔を探し出そうとしたが、その必要はなかった。
そいつはコロシアムの観客席に座っていた。だらりと力を抜いた、いわゆるヤンキー座り。柄悪そう。
「よう。お前さんが志垣旺牙だろ?初めまして、でいいか?」
口元はニヤニヤと軽薄そうな笑みを浮かべているが、眼は笑っていない。いつでも戦闘態勢にうつれるだろう。
遠目だが、身を包んでいる鎧は頑丈というより動きやすさを優先している。それでも急所はカバーされており、大量の魔力が込められているのを知覚させる。おそらく、魔鎧だろう。肩にトゲ付きパーツがあるのがまさに世紀末。
「見ない顔だな。四天王以外にもお前みたいにヒト型の奴がいるのか?」
「ああ。そこそこ上級の個体はこういう姿で『誕生』するんだと。俺も詳しいことは知らねえが、覇王様や四天王の趣味だろうよ。」
そう言うと侵魔は立ち上がり、一度のジャンプで俺のおよそ十メートル先まで跳んでくる。
しかしこの月匣の感覚、魔鎧、俺の予想が確かなら。
「お前、テレモートの?」
「おうよ。『元』テレモート隊の一人、ジャン様だ。刻んだか?」
なるほど。ということはだ。
「この襲撃は復讐か?」
「は?バカ言ってんじゃねえよ。テレモート隊はそんなことしねえ。全力で闘い敗れたなら、潔く逝く。よっぽどのことが無い限り退かないのが信条だ。」
随分あっさりしているようだが、侵魔がそれでいいのか?
まあ、こいつらと俺たちの価値観を同じ定規で測るのは難しいか。
(本当は『理解』出来るだろうによ!カカカカカカカッ!!)
・・・何やら脳内が騒がしい気がする。最近の俺はどうかしてしまったのだろうか。
そんなことより、ウィザードと侵魔が出会っちまったんだ。これから起こることはひとつだ。
俺は構えを取り、戦闘態勢に移行する。
「ちょっと待った。」
いざ戦う、という所で、侵魔―ジャン―に止められる。
「なんだよ?」
「一つ聞きてえ。旦那は・・・テレモートの旦那は、強かったかい?」
何かと思えば・・・。こいつといい先日のマリアとかいう奴といい、本当に侵魔かってほど、人間臭い。
「ああ、強かったよ。もう二度と相手にしたくないくらいにな。」
「・・・そうかい。」
なんだよ、その『満足そうな顔』は。やめろ、戦いづらくなる。
だが、俺もその雰囲気にのまれたのか、変なことが気になった。
「俺からも一つ。テレモートがいない今、お前は誰に従ってる?」
「ああ、お嬢・・・マリア様だ。」
侵魔の口からマリア『様』か。何だか妙な感じだ。罰が当たりそうな。
「言っておくが今回はお嬢の指示じゃねえ。単純に俺の興味本位だ。旦那を討ったヤツの力がどんなもんか知りたくなってな。」
そうだろうな。『アイツ』はこんな命令を出せるような感じには見えなかった。
まあいい。これでお互い聞きたいことは聞けた。
後は、どちらが先に倒れるか、それだけだ。
「「いざ・・・勝負っ!!」」
互いの叫びを合図に、俺の拳とジャンの拳が激突する。
なるほど。両者ともに徒手空拳か。面白い!
「インカネーター!」
オーラを鎧のように纏う自分を想像し、具現化する。イメージできたのは、普段の凶獣の姿、ではなく、ボロを纏い、左目が真っ赤になっている『俺』。
この格好、どこかで見た。あれは、いつだったか・・・。
「オラ!ボーっとしてんじゃねえ!」
「おわっ!?」
拳が襲い掛かる。一撃はギリギリ避けられたが、返しの拳がボディに突き刺さる、直前に受け止める。
この姿でも能力は発動しているらしい。なら、今は戦いに集中しなければ。
受け止めた拳を体ごと引き寄せ、前蹴りを放つ。
ジャンは勢いを利用し、掴まれた拳を支点に倒立のような形を取り、そのまま膝を俺の顔面に落としてきた。直撃こそしなかったが避けきれず、目の前に星が舞う。その隙にジャンは拘束から解かれ、距離をとる。
痛ってえなこの野郎!
「意外と身軽じゃないか、ええ?」
「てめえこそ、意外と鈍重だな。ISが無いと何もできねえか!?」
言ってくれる。確かに『こっち』で戦う時はずっとISを装着してきたからな。あの感覚に頼り切っていたのかもな。
だからって、負ける、死ぬつもりは、無い!
今度はこっちが飛び蹴りで距離を詰める。ジャンは躱そうとせず、防御を取るどころか俺の脚に拳をぶつけて威力を相殺した。さらに俺の着地に合わせ殴りかかってくる。
受ける、逸らす、躱す。繰り出される拳が素早く、防戦一方となる。
合間を見て反撃に拳を突き出すが、弾かれるか、防御もせず攻撃を止めない。こいつ、頭のネジ飛んでるのか!?
「効かねーぞ!それが旦那を倒した男の攻撃かよ!!」
くそ!この距離は危険だろうが!
伏竜で距離を保ちつつ考えをまとめる。遠距離攻撃を仕掛けてこないのを見ると、奴は近接オンリーで戦うタイプ。というよりも喧嘩だな。動きが速くて洗礼されているように見えたが、躱されようがお構いなしに攻撃をしてくる。自分が打たれてもそのまま反撃。純粋なパワーとスピードで勝負するタイプか。
厄介な。テレモートの時はISがあったから何とかなったが・・・、やめよう。いつもいつも凶獣に頼れない。今までが運良くISを使えただけだ。
これが本来の俺の姿のはずだ。
・・・『本来の姿』?今の、インカネーターで具現化された姿が?
俺は、一体何だ?
「ボーっとしてんじゃねぇ!」
腕を大きく振りかぶり、ジャンが拳を突き出してくる。それに左脚を合わせて弾き、その回転の勢いに乗って右脚で奴の顔面を蹴りぬく。
吹き飛ばされながらも空中で体勢を整え、着地するジャン。
もしかしてこいつ、先日のマリアより強いんじゃないか?戦闘センスはあっちが上だったようだが、こう、戦いに対する執念というものが段違いに感じる。
しかも、結構タフだな。俺の蹴りをまともに喰らったのに、平然としている。
再び超接近での打ち合いが始まる。考える暇も与えてくれない、か。
今度はジャンが、俺の拳や脚にカウンターを合わせてくる。いや、正確には俺の攻撃などお構いなしに打ち込んできている。これが非常に厄介だ。ダメージが怖くないってか?
次第に俺が劣勢になってくる。このままではヤバい。
そっちが喧嘩でくるなら、俺も荒っぽいやり方で距離を取るだけだ。
ジャンの頭を掴み、勢いをつけて頭突きをかます。流石に怯んだところに前蹴り、いわゆるヤクザキックで突き放す。
チクショウ、今ので額が切れたか。血が流れてきやがった。せめて止血だけでもと、ヒールを唱える。その間、奴が何もしてこなかったのが気になる。
「そんなモンかよ。」
「あ?」
「旦那を倒して、お嬢を退かせたテメーの力は、そんなモンかよ。」
「・・・生憎、全力でやってんだよ。」
「俺たちと『同じ匂い』を出してる奴が、この程度かよ。所詮は、半端モンかい。」
何を言っている。『同じ匂い』、だと?俺が奴と、いや『奴ら』と?
俺が混乱していると、さっきまでと違う冷たい声でジャンは告げた。
「もういい。お嬢や大将には悪いが、ここで潰す。」
そう言って右腕を弓のように、限界まで引き、拳を握りしめる。その音が、こちらまで聞こえてくるほどに。
「消えろ・・・。」
あれは、喰らったらマズイ!
「消えちまえ。半端野郎が!!」
「魔空龍円刃!」
頭より、体が先に動いた。今、即発動できる奥義を繰り出した。
衝撃波は確かにジャンを飲み込んだ。そのはずなのに、奴はその奔流の中を構わず突き進んでくる。全身を打ちながら、無理矢理突っ込んでくる。
そして、その拳が俺の顔面に突き刺さった。
吹き飛ばされる俺の体。この一撃だけならテレモートと同等じゃないのかとどうでもいいことを考えながら、仰向けで地に倒れる。
「ハァ・・・ハァ・・・。ここいらで死んどけ、半端モン。」
ヤバい。体が指一本動かない。頭も回らない。俺は今、どうなっている。
ジャンの足音が聞こえる。止めを刺す気か。
駄目だ。全身が動かない。このままじゃマズイ。
クソ!ここで死ぬわけにはいかないんだ!
動けってんだよ!このクソ野郎!!
(カカカッ!ヒデェな。『オレ』の体でもあるのによ!)
その『声』が聞こえた時、『俺』は意識を手放した・・・。
――――――
さて、やっとオレの出番か。
つっても、この雑魚をぶちのめすだけだがな。
オレは何事もなかったように起き上がる。
「何を、しやがった。」
「ハッ!テメエの鈍らなパンチなんぞ、オレには効いてねえってことだよ。」
「そうじゃねえ!テメエ、本当に『志垣旺牙』か?」
「・・・そうだ。『オレ』が『志垣旺牙』だ。」
カカカ。決して間違ったことは言ってないぜ?
ただ、このままだらけ切った『俺』に任せておくと本当に死んじまうかもしれないんでね。
「まあいきなりで悪いんだが・・・、とりあえず死んどけ。」
脚の龍を爆発させて一気に零距離になり、膝を野郎の腹に突き刺す。
息を吐き出す音が聞こえるが、これじゃあ終らねえ。今度は片手で頭を掴み、思い切り後頭部を地面に叩きつける。
オレはすぐに立ち上がると、ジャンの腹を踏みつける。ここからは呼吸もさせねえぞ?
何度も何度も踏みつけ、血と吐しゃ物をまき散らすジャン。これがヒト型を取っていることの弱点だな。
動きが止まった野郎に対し、今度は拳の雨を降らす。もちろん、弱っている腹にだ。
「ガッ!カハッ!ゲェハァッ!!」
「カ、カカカカカカカッ!!たぁのしいねぇ!!」
堪えきれず笑みが零れる。獰猛な、肉食獣のような笑みが。
幾つの拳を振り下ろしただろう。まだ息があるか。
ならばと野郎の体を持ち上げ、上空に蹴り上げる。
落下地点で龍を存分に練る。
カカカ。こいつ食らって生きてたら褒めてやるぜ。
両手を天にかざす。そこに落ちてくる野郎に対して。
「魔空龍円刃・終式。」
零距離から吹き飛ばす。
「ゲッ・・・ハァ・・・。」
ボロ雑巾のように吹き飛び転がる。
カカカッ、これだよ!この感じ!圧倒的な力で獲物を『喰らう』!
たまんねぇなぁオイ!
お前には理解できないだろうなぁ、えぇ!?おい『俺』よ!!
「グッ・・・、ゲホッ!」
まだ生きていやがるか。『俺』の言う通り、タフさはとんでもねえな。
「まだ、だ・・・。俺はまだ、倒れねぇ・・・。」
「頑張るなぁ。いい加減に逝っとけよ・・・、ん?」
何者かが月匣に侵入した気配がする。最初にイノセントを巻き込んでいないことを考えると、ウィザードか新しい侵魔か。
どうやら後者だったようだ。上空から何かが落ちてくる。
そいつはオレとジャンの間に分け入るように何かを振り下ろした。それが地面に叩きつけられると砂塵が舞う。
砂塵が晴れると、そこには重厚な鎧を纏い、巨大な斧を持つ巨漢の老人がいた。
こいつは、強いな。
「ジャン。ここまでじゃ。退くぞ。」
「な!?待てよ爺様!俺はまだ負けてねぇ!」
「軍団長の命令じゃ!今ここでお前が死ねば軍団長が悲しむ。・・・あの方を、泣かせてくれるな。」
「・・・ちっ。分かったよ。」
退く気か。だがオレがそれをさせるかよ。
二匹まとめて喰らいつくして―――
クラァ・・・
あー、くそ。時間切れか。
巨漢がジャンを抱え、姿を消す。
それと同時に、月匣が消滅、周囲に先程までの部活動の活気が戻ってくる。
誰かの足音が聞こえる。だがそちらを向く余裕もない。
そろそろ体を『俺』に返す頃合いか。
頼むぜ『俺』。誰にも喰われないでくれよ。
お前は『オレ』が喰らうんだからな。
そして、『オレ』は意識を手放した。
――――――
ん・・・ここは?
「保健室だ馬鹿者。」
この罵り方は織斑先生?いや、男の声だ。ということは。
「安東、先生・・・。」
「まったく、倒れているお前をここに運んだ時の反応が「またか」というものだったぞ。俺の方が恥ずかしくなっただろうが馬鹿弟子。」
「よく、俺を運べましたね。」
「重かったよこの大馬鹿者。」
さっきから馬鹿馬鹿って・・・。少しは心配してくれてもいいんじゃ。
「一応過労で倒れたということにしておいた。さっきまでお前関連の生徒たちが引っ切り無しだったから、面倒なんで面会謝絶にしてある。」
後が余計に面倒でしょうが。
「・・・侵魔か。」
「はい。なんとか一人で撃退しようと思っていたんですが。」
「・・・それで?」
「情けないですよ。ISが無いとまともに戦えないと痛感させられました。」
「そうか。なら、修行を怠るな。」
「はい。それは十分理解しました。」
ただ、あの『声』はなんだったのだろう。
聞き覚えがある、なんてもんじゃない。そのまま俺の声に聞こえた。
それにあの姿。やっぱり見覚えが・・・。
「ああ、それと凶獣なんだが、ほれ。」
先生がチェーンを投げつける。凶獣の待機モードだ。ぞんざいに扱わないでくれよ。
「とりあえず不調は元に戻したようだ。が、その原因は解らず仕舞いだそうだ。」
「えぇ・・・。」
「一応細目にデータを取り、技研に送ってくれとのことだ。まあ、大事に扱え。」
うへぇ、また面倒な。
「まあ、傷の方は俺が治療しておいたか。夜には部屋に戻れるだろう。それまで大人しく、ああ、部屋でも大人しくしてろ。」
「は?はい、部屋で大人しくするのは当たり前かと。」
「更識妹とイチャイチャパラダイスすんなってことだ。」
「とっとと帰れセクハラ教師!」
――――――
「旺牙から感じた気配、あれは間違いなく、侵魔のもの。」
早いところどうにかしないといかんか。
――――――
これ以降、通常の旺牙は『俺』、ホロ・・・じゃない闇旺牙(仮)は『オレ』を使用します。一応今までのシーンも直したつもりですが、見落としがあったら許してね♪