作者)あら旺牙が優しい。
旺牙)お前のこと覚えてる方はいるのかな?
作者)あら旺牙が辛辣。
紳士風の姿をした侵魔『サヴァン』の言う『パツィア親衛隊』は、戦闘する気の無いような雰囲気を醸し出しながら、その実殺気と闘気を込めた視線で一夏たち七人を取り囲む。今更逃がす気は無いようだ。
銀色の身体の『ラスター』はつまらなそうに呟く。
「ふん、下らん。この程度の小僧、小娘ども、さっさと捻り潰してやればいい。」
「急くのはいけないよラスター。君がここに来てから未だ二分。秒にして百二十秒。待つというには性急過ぎるのではないかね?」
「もう!ラスターはせっかちなのがイケないわ!それではビューティでもダンディでもなくってよ?」
「その通り!物事は美しく!華麗にはこぶもの!そう!このわたくしの様に!」
「・・・パツィア様の言が無ければ貴様らを八つ裂きにしていた。」
ふざけているようで逃げる隙など微塵もない。と言うよりも、一夏たちは動けずにいた。眼前の『敵』は自分たちの戦力を大きく上回っていることは理解できていた。
以前の侵魔との戦いの様に、旺牙がいるわけではない。安東先生もいない。その状況で、『パツィア』と名乗っていた女ほどではないが、強大な敵を相手に自分たちに何が出来ようか。
「・・・みんな。これはただの希望なんだけど、これほどの規模の『月匣』と侵魔の気配、そして今回のことが罠だったんだ。旺牙や安東先生が気付いてくれてる。あの三人が来てくれるまで耐えよう。きっと助けに来てくれる。」
人任せの計画。奇跡的な確率の希望。それでも、彼らにはそれしか道が無い。
そして一夏は気付いていない。自らが月匣の規模を『無意識』に測っていたことを。
それは少しづつ、ウィザードに近づいていることの証だった。
「全員でかかれば、一人くらい何とかなるはずだ。速攻で一人、後は各個撃破出来れば・・・」
「おおっと、ムッシュ。それは待っていただきたいな。」
サヴァンがステッキで虚空を叩く。すると空間が捻じれ人魔合わせた十一人の姿がぶれ始める。そして・・・。
『なッ!?』
一夏たちは分断され、それぞれが侵魔の前にいた。
一夏は鉤爪を構えるファントム。
鈴とセシリアは腕を組むラスター。
シャルロットとラウラは怪しく微笑むエトワール。
そして箒と簪は、サヴァンの元へ。
「申し訳ないが、ここで君たちの力を図ることが『覇王様』の命令でね。簡単に逃がしたり、ましてや敗れることは出来ないのだよ。それと、気を付けたまえ。場合によっては」
―――君たちを『処分』してもかまわないとも言われている。
笑顔のままサヴァンは吐き捨てる。その言葉と同時に、残る三人が戦闘態勢をとる。
構えていた武器に、一夏たちはさらに力を込める。
そして、戦いが始まろうとしていた。
―――VSファントム―――
空に響く金属音。白式の雪片弐型をファントムの腕につけられた鉤爪が受け止めている。否、受け流している。大型の刀状である雪片弐型を、素材は分からなくとも細い爪の芯にぶつけることなく、ファントム本人に掠り傷すらつけられない。
ファントムはただ舞っていた。長身痩躯のその身体で、艶やかに、扇情に、優雅に舞い踊っている。
素早く変則的な動きに一夏が何とかついていけるのは、皆や楯無との訓練の賜物だろうが、それでも遊ばれているようにも見える。
いや、これがファントムの本気の戦い方。『舞い』に己の『美しさ』の全てを込めて、蝶よりも華麗に、蜂よりも鋭く攻撃を繰り出す。そして時に野獣の様に直線的に切りつけ、時に軟体生物の様に変則的に切り刻む。
美の無い言い方をすれば、ファントムの攻撃に正々堂々という言葉は無い。相手の急所や態勢を崩したところを攻め立てる。それだけでは『美しくない』。だからこそ誰よりも『美』に拘る。敵にも『美』を求める。それがこの侵魔の性質である。
「さあ!さあさあ!どうしました!?貴方の剣はその程度ですか!?もっと!もっとこのわたくしと美しい舞いを!!」
「くっ・・・そっ!なんだこの動き!ついていくのがやっとだ!」
だが、時間が経つにつれついていくのも辛くなった。ファントムが更にスピードを上げていったのだ。
いつの間にか白式の装甲に多くの切り傷が着けられていた。そして。
「そこです!」
「うわっ!?」
ついに露出していた部分、顔の右頬に傷が刻まれた。
「ああ!勇者を彩る紅い血!この空よりも濃く美しい!」
「っの野郎。変態かお前は!」
「失礼な。わたくしは誰よりも美の探求をしているにすぎません。」
顔に傷がついたことで思い出す。こいつら侵魔にISの絶対防御は意味がほとんどない。良くて即死を免れるぐらいか。いや、攻撃の規模によってはそれこそ一撃であの世逝きになるだろうか。ファントムの攻撃は一撃が軽いが、連続で受ければ致命傷にもなるだろう。
ならば、時間はかけていられない。こうしている間に、仲間たちも戦っているのだから。
「零落白夜!」
雪片弐型が輝く。今まで対IS、対レーザー兵器の様に扱っていたし、そう思っていたが、今回の輝きは、まるで魔を討つ為の刃に見えた。
「おおっ!それがあなたの切り札!なんと美しい光・・・。」
「でやああああっ!」
咆哮と共に飛び出す一夏。それを微笑で迎え撃つファントム。
その性質を知っているのか、ファントムは受ける事を止め、回避に専念し始める。受け流そうとして自分の武器が斬り飛ばされたら元も子もない。それに、いかに美しいと言えど、これは儚い光。いずれ消えることも承知済みだった。
遊んでいるようで、勝利にも貪欲。勝利せずば、美酒を飲むことも出来ない。
一夏に勝機は無い。その時。
「はああああああっ!!」
白式が、一夏の体が、まばゆい光を発した。
「これは!?プラーナの輝き!?」
「せいっ!」
袈裟懸け一閃。雪片弐型を振りぬいた。
ファントムは寸での所で躱した、はずだった。
目測を誤ったか、それとも輝きに目をやられたか、いずれにしろ、皮肉にも一夏と同じ場所に傷を負った。
浅かったためか、一筋の赤い線が出来たほどだったが、ファントムはその傷に触れる。
「フ、フフフ・・・。」
(やべ。これって『この美しい顔に傷を』ってキレるパターンか?)
顔を伏せて笑いを漏らすファントムに、一夏は身構える。
そして。
「ふ、あっはっはっはっ、素晴らしい!ああ、美しい!」
「な、なんだ!?」
「わたくしの舞いを超える光を放ち!さらにはこの身に傷を残すとは!ああ、本当に強く、そして美しい!覇王様!パツィア様!この美しい者と闘争の場を設けていただき感謝いたします!」
その身を抱き、溢れる感情と震えを抑えようとするファントム。
覇王軍はそのほとんどが闘争を好む。ファントムも例外ではない。
自身に刃を届かせる相手を、本気で戦える『敵』を得た彼は怒るどころか歓喜していた。
そして再び一夏に相対する。
「さあ再開しましょう!凄絶に彩られた、歓喜の舞いと闘争を!」
「な、なんだか気持ち悪い奴だな・・・。」
だが、状況は依然一夏の不利。零落白夜の所為で大きくエネルギーを消費した白式は、あとどれだけ戦えるだろうか。
―――VSラスター―――
「サヴァンめ。俺の相手は覚醒前の小娘二人か。」
「誰が小娘ですって!」
「鈴さん、落ち着いてくださいまし。理性を欠いて生き残れる敵ではありませんわ。」
「・・・わかってるわよ。それでも強気でいないと、吞み込まれそうになってるだけ。」
セシリアと鈴の前に、相変わらず腕を組みながら宙に浮くラスター。だが、鈴が言うように、殺気は他の侵魔より濃く、それだけで逃げ出したくなるほどだった。もちろん、そうしようとした瞬間自分たちの命は無くなっているだろうが。
「仕方ない。これも命令だ。手早く終わらせよう。」
ここで初めてラスターが攻撃態勢に入る。徒競走のスタート姿勢のような形だった。
その姿がブレた刹那。
「かはっ!?」
「セシリア!?」
ラスターの肘が深々とセシリアの腹部に突き刺さる。だがそれだけでは終わらない。
またも姿がぼやけたと感じた時、甲龍のハイパーセンサーが何かを察知した。が、その時には既に遅く。
「ぐっ!?」
鈴の背をラスターが蹴り飛ばす。
「全くISというものは面倒くさい。こんな小娘どもがいっぱしのウィザードの防御力と耐久力を手に入れられるのだからな。」
呆れたように言い放つラスターに対し、二人は驚愕を隠せない。
「ちょっ、何よ今の!?」
「ハイパーセンサーでも曖昧にしか感知できない・・・。一体何が?」
「『瞬間移動』だ。」
「「瞬間移動?」」
「貴様らにも分かるように言えばそうなる。俺はごく短い距離ではあるが、空間の狭間を高速で移動できる。ただ単にスピードが上がるわけではないぞ。言い方を変えれば『空間跳躍』か。それでも理解できないようだがな。」
二人を見下すように、嘲笑交じりに今の事象を解説する。
なぜ自分の能力をわざわざ説明するのか。
答えは簡単である。もし理解できたとしても、セシリアと鈴では防ぐことは不可能と考えているからだ。
要するに、二人を完全に格下と見ているのである。ラスターにとって二人は『敵』と呼ぶほどではなく、ただの『木っ端』としてしか映っていない。
「ISのセンサーの限界レベルって、どんだけよ。」
「ですが、これで難易度がまた上がりましたわね。」
「安心しろ。こいつはもう使わん。」
「「?」」
「使うまでも無く貴様らを瞬殺できる。」
「なっ!?」
馬鹿にして!と怒りが沸くが、今の一合だけで確信してしまった。この異形は、自分たちの命を絶つ力を十二分に持っている。シールドや絶対防御があるのに、それすら超えうる攻撃を放てる。今のは単に『測った』だけの、軽い攻撃。こんな時、冷静に彼我の戦力差を測れるだけの能力があることに、二人は嫌気がさす。まあ、蛮勇に走らずにいられるというのもあるが。
旺牙はこんな化け物たちと一対一で戦ってきたのかと思うと、改めて戦慄する。
「このままではつまらんな・・・。貴様ら、俺に攻撃を与える権利をやろう。」
その言葉に嘘が無いと言うように両腕を広げ、無防備になるラスター。
「は?」
「それは、どういうことですの?」
「言葉通りだ。命令とはいえ、一方的に終わらせては味気ない。と言うよりつまらん。さぁ、貴様らの好きなように攻撃するがいい。」
「・・・馬鹿にして!!」
「流石にわたくしも、鶏冠にきますわ!」
結果として、冷静を保とうとしていたセシリアと鈴に燃料を投下したようだ。
セシリアはBTを展開し、鈴は双天牙月を構える。
「後ろは任せたわよ!」
「了解ですわ!」
四基のBTで弾幕を張り、鈴がラスターに接近する隙を作ろうとする。しかしラスターは動かない。
「腕、もらったあぁぁ!」
難なく接敵し双天牙月を左腕に振り下ろす。
スパッと、手応えが全くなく銀色の光沢を放った腕が斬り飛ばされた。
「え?」
「ほう、いい刃だ。フフフ・・・。」
腕を失ったというのに笑みを崩さないラスター。呆気にとられたのは鈴だったが、その次の瞬間にはおぞましいものを見ることになる。
斬り落とされた断面から機械のコードのようなものが幾本も伸び、のたうっている。嫌悪感を感じる音と共に。
やがてコードは腕の形を作り出し、新たに光沢のある皮膚(?)で覆われた。
「うわっキモっ!?」
「一体、何が?」
「ククク・・・。教えておいてやろう。俺の体内にはコアとなる塊がある。それが破壊されない限り、俺の体は何度でも再生する。弱点を克服し、パワーを大きく上げてな。ほら、もう一度斬ってみろ。」
再び双天牙月を振るう。だが。
ガキイィン!
今度は斬り飛ばすことは出来ず、受け止められてしまった。先程以上の力を入れていたのにも関わらず。
「想像以上の攻撃力だったが、今度は俺の強化された腕の方が勝ったようだな。」
「こっの・・・!あんたらホントに化け物ね!」
「誉め言葉だな。」
「鈴さん、離れて!」
その言葉と共に鈴はラスターから距離を取る。その次の瞬間、BTがレーザーを掃射する。
穴を開けるほどの攻撃力は出せないものの、その皮膚を削る事は出来ていた。だが。
「無駄だ。そんなものは俺の皮膚を強化するだけだぞ?」
ラスターの言う通り、火傷程のダメージも瞬時に回復していく。
「ならこいつはどうよ!」
甲龍の衝撃砲が頭部を吹き飛ばした。それでもラスターは滅びない。首からコードが伸び、やはり新たな頭部を生成していく。
「コアなら心臓や頭部にあると思ったか?俺のコアは移動できる。」
「そんな・・・。」
「反則ですわ・・・。」
「俺を滅ぼしたければ、空間ごと全身をそぎ落とすことだな。」
生命力ならば俺は覇王軍一だ。そう続けるラスター。
「・・・鈴さん。もう一度衝撃砲を撃ってくださいますか?わたくしの指示した場所に。」
「何か、考えでもあるの?」
「一瞬、あの者の体内に反応がありました。もしかしたら・・・。」
「・・・OK。やってやろうじゃないの。タイミングもアンタに任せるわ。」
「ええ。では・・・。」
3・・・2・・・1・・・。
「そこっ!」
正直、ラスターは衝撃砲の軌道を読んでいた。それでも回避しないのは『遊んで』いるからだ。
だが、今回はそれが仇となった。
衝撃砲はラスターの右腹部を撃ちぬいた。
「フン。何度やろうと無駄だ。こんなものすぐに。」
抉れた腹部に、ちらりと紅い塊が姿を見せる。それこそが狙いだった。
「逃しませんわっ!!」
ブルー・ティアーズのBTがその塊、『コア』を一斉に攻撃した。
「なにっ!?」
再生が数秒止まる。それでも追撃より速く、腹部は再生されてしまった。
しかし、完全ではない。若干ダメージを負ったのか、ひび割れている。
「貴様、俺のコアを・・・!」
「どーよ!あたしを舐めるからこうなるのよ!」
「ダメージを与えたのはわたくしでしてよ?」
ラスターの顔から余裕が消えた。追いつめられたからではない。
これは、怒りだ。
「貴様ら、どうなっても知らんぞ・・・!!」
ラスターが再び攻撃態勢に移行する。
ここからが、あの異形の本気だ。二人の危険信号が鳴り響いている。
それでも奴は不死身でも無敵でも無い。それならば、倒せるかもしれない。
予想以上に長くなってしまったので、前後編です。
・・・待たせた上にこんなことになってすいません。後編は出来るだけ近いうちに。