ゴメンなさい、調子乗りました・・・orz
色々あった濃厚な休み時間を終え、三時限目が始まる。
授業は各種装備の特性について。
よほど大事な内容なのか、山田先生ではなく織斑先生が教壇に立っている。
実践で使用するものなので、事故が無いようしっかり叩き込むようなのだろう。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。」
ふと思い出したように織斑先生が言う。対抗戦。代表者。聞くからに面倒そうな単語だ。参考書によると、実際面倒らしい。
「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・まあ、クラス長だな。」
さらにクラス対抗戦は現時点での各クラスの実力推移を測るもの、要は今はどこの誰がどれくらい強くて、これ以降の経緯を予測するものらしい。
競争は向上心を生む。良い言葉だ。
だが先生。たいした差は無いとかはっきり言わんといてください。オルコットみたいなプライドの高い人間だっているんだからさあ。
しかしクラス長を一年間か。やっぱり面倒だ。俺ってそもそも人の前に出て行くタイプじゃないしさあ。
・・・いや、こんな見た目しといて(ガタイでかくて眼帯)そういうのもなんだけど、目立つのは嫌いなのよ。あの伝説の『柊蓮司』さんじゃあるまいし。
教室の女子達もざわつきだす。どこの何時だって面倒事は避けたいのが一般人だ。エリートと呼ばれてもそこは変わらんらしい。
まあ、このクラスで俺以外に目立って親しみやすそうと言えば。
「はいっ。織斑くんを推薦します!」
「私もそれが良いと思いますー。」
はい。そうなります。当然の結果です。
一夏はえ?といった感じになっているが、おそらく逃げられんぞ。
「では候補者は織斑一夏・・・他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ。」
「お、俺!?」
とうとう立ち上がる一夏。みんなの視線が集まる。
本人は嫌がっている様子だが、『それでも、それでも織斑くんならなんとかしてくれる』といった雰囲気だ。お前がエースだ、一夏。
「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にいないのか?いないなら無投票当選だぞ。」
「ちょっ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな―――」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ。」
そうだ。腹を括れ一夏。男らしいところを見せてやれ。
「なら俺は旺牙を推薦する!」
「あ!テメエ人を巻き込むな!」
誰が好き好んで女子校のクラス長にならなければならんのだ!潔く生贄になれ、主に俺のために!
「だってお前俺より落ち着きも人望もあるだろ!」
「人望だったらお前の方があるワイ!落ち着きが欲しかったらクラス長のひとつやふたつ経験しとけや!」
「私もしお~が良いと思いま~す。」
空気を読んで布仏ーー!!
教室をはさんでギャイギャイ騒ぐ俺たちに、織斑先生のこめかみが引き攣り始める。
ヤバイとは思いつつも、ここは男として退けない。退きたくない。
たとえ男らしくない理由だとしても。
「待ってください!納得がいきませんわ!」
バンッと机を叩いて立ち上がったのはオルコットだった。
そうだ、納得いかんだろう。だからさっさと自薦して俺たちを退けろ。
・・・なんて情けないことを考えているんだ俺は。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
ん?なんだか雲行きが怪しいぞい?
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
俺は猿ですか。まあ野生的と言われることはあるがさ。
しかしアジア人を卑下する人種は多いと聞くが、こいつもその一種なのか?
女尊男卑で人種差別主義者となるといただけんな。
大体誰がISを創ったと思ってるんだよ、その極東の猿だぞ。あ、あの人は兎か。それに技術も誰に教わるのか解ってて言っているのか?教壇におられるボス猿だぞ、あ、スイマセン。何も考えてません。だからそんな怖い目で見ないで。
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
徐々に俺のイライラが増してきても、興奮しきったオルコットは怒涛の剣幕で捲くし立てる。
言っていることは正しい。クラス代表とは文字通りクラスの顔。弱者が勤めればそのクラス全体の実力も低く見られがちになるだろう。
だがそこに人格が伴わなくてはな。強さだけではただの・・・暴力なのだから。俺のように。
「それを、一人は無知、一人は野蛮で片目も無いような粗野な外見の男に任せるなんて我慢なりません!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で」
いや、たしかに俺は隻眼ですけどね。外見をとやかく言うのはどうかと。
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ。」
俺が何かを言う前に、一夏が静かに言った。
心なしか、手を握り締め、言葉に怒気が篭っているように思える。
チラリと織斑先生、千冬さんを見ると、彼女も出席簿を握り締めている。
この『眼』のことは、二人には気にしてはほしくないのに。
それはそうと、反攻されたオルコットは顔を真っ赤にしている。
「あっ、あっ、あなたねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先に日本がどうの言ってきたのはそっちだろ!それともイギリス人は自分の言った事を棚上げするのかよ!」
あーあっ、熱入っちまったよ。
アレだね。ヒトが感情を昂ぶらせてるの見ると自分はかえって冷静になれるね。
イライラはまだ残ってるけど。
「決闘ですわ!」
「おう!いいぜ!四の五の言うよりわかりやすい!」
やれやれ。ここまでかな。
「お前ら。少し黙れ。」
静かに、だが確実に怒りを込めて俺は言い放った。
「旺牙・・・。」
「あなたこそ『黙れと言った。』うぐっ・・・。」
俺の威嚇に口を噤むオルコット。これでやっと話せる。
「黙って聞いてりゃ日本がどうのイギリスがどうの。お前ら小学生じゃあるまいし、まともな口論も出来ないのか。一夏、お前が何で怒ってくれてるのかは嬉しいが、そこは抑えてくれ、頼む。」
一度呼吸を整え、続ける。
「そもそもお前ら自分の立場が解ってるのか?オルコットはイギリスの代表候補生としてここにいる。そんな身分が日本という国を口撃したらどうなる。一夏もイギリスを馬鹿にするな。お前はたった二人の男性操縦者なんだぞ。お前らの一言が、余計な国際問題になりかねない。スキャンダルはどこから漏れるか分からないんだぞ。子供の口喧嘩で世界中の新聞を賑やかす気か馬鹿たれども。」
まだまだ続けるぞ。覚悟はいいか?
「それに決闘だ?さっきも言ったがこんな口喧嘩で誇りを賭けるんじゃねえ。決闘ってのはそれこそそいつの全てを、それこそ命すら賭けて行うんだ。軽々しく『決闘』なんて言葉を使うんじゃねえよガキ共。お前らがやるのは・・・。」
それこそただの喧嘩、だ。
俺の長台詞に教室がシンとなる。
イカン。説教臭かったか。だから精神だけ歳をとると嫌なんだ。言葉に重みが無い。
コイツらにどれだけ響いたか分からん。
「確かに、志垣の言うとおり、お前達の戦いなど私にとっては喧嘩に過ぎん。」
千冬さん、いや織斑先生が口を開く。
ここからは本当の大人に任せよう。
「だが喧嘩とはいえ、言い出したことは引っ込みがつかんだろう。そこでだ。お前達三人で決着をつけろ。」
え、三人?人数多くないですか?
「勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑と志垣、オルコットはそれぞれ用意をしておくように。」
イヤイヤイヤイヤちょっと待った!
「なんで俺まで参加することになってるんすか!?」
「お前も他薦されただろう。忘れたのか。」
あ、一夏の野郎。
睨み付けると露骨に目を逸らしやがった。
「それにお前は売られた喧嘩から逃げるような男だったか、志垣旺牙?」
ニヤニヤしながらこちらを見る織斑先生。駄目だ。この人には性格を把握されきっている。あそこまで長口上を述べておいてはいさようならが出来ない人間だという事。
そしてなにより、売られた喧嘩は必ず買う人間だという事を。
「はあ。分かりました。俺も参加しますよ。まったく。」
せめて不承不承といった感じで返してやる。涼しい顔でスルーされたがな!
「では、授業の続きを始める。」
一日目から濃いなあ、俺の学園生活。
次の休み時間、俺は箒を廊下に呼び出した。
内容は束さんの件についてだ。
あの二人がこのままなのは絶対に良くない。
この世でたった二人の姉妹なのだ。仲良くしてほしい。
俺の勝手な我侭だ。偽善と言ってもいい。
それでも、二人には笑い合っていてもらいたい。
「なんだ、旺牙。」
「俺には普通の対応なのな。やっぱり一夏は特別か。」
ちょっとからかうと若干顔を赤らめ睨みつけてくる。
怖くもなんとも無いよーだ。
「私をからかいたいだけならやめろ、お前相手でも・・・、いや。勝てそうに無いか。」
「そうか?竹刀を持てばお前に分があると思うがね。」
「お前に剣道三倍段は当てはまらんよ。小学生の頃、面無しで顔面に竹刀を受けて平然としていたくらい頑丈だったじゃないか。」
頑丈さは今でも変わらんぜ。
「それにしてもさっきは一瞬お前だと分からなかった。昔から体が大きかったが、随分身体つきが良くなったじゃないか。」
「食って鍛えたからな。」
「それに、その右眼は一体・・・。」
「聞いても面白くないぞ。気分が悪くなるだけだ。」
俺もあまり言いふらす気は無い。まあ相手は幼馴染みだ。いつかは言うさ。
「お前の方こそ、剣道の全国大会で優勝したってな。腕にさらに磨きがかかってるようで何よりだ。」
「あ、ああ。そうか。一夏もお前も、妙に情報が早いな。」
少し表情が曇っているが、何かあったのだろうか。
だが、悪いがこちらを優先させてもらう。
「それよりも、大事な話がある。」
「・・・なんだ。改まって。」
「・・・束さんのことだ。」
その名前を出すと、箒の顔色が変わる。
先ほどまでの和やかな空気が、一変して鋭いものになる。
「姉さんがどうした。」
「いや、なに。お前ら、少しは仲良くできないもんかと「出来るわけないだろう!!」うおっ!?」
突然、声を荒げる箒。
「あの人のせいで私たち家族はバラバラになった!お前たちとも離れることになった!私の人生は狂わされたんだ!」
「ちょっ、落ち着け箒。」
「私は、許せそうに無い。あの人は、いつも勝手だ。」
うーん。これはマズイか?
「話がそれだけなら、私は戻る。」
「あ、おい!」
駄目だ。聞いちゃくれねえ。
俺は携帯を取り出し、ある人物の名前を見つめる。
そこには『おーくんの束さん』とあった。
そんな登録名にした覚えは無いんだがなぁ。
束さん、あんたが作っちまった溝、思ったより深いみたいですぜ。
その名前を見ながら、溜息を吐く。
何やってるんだろう、俺。こんなお節介する人間だったかな。
生まれ変わるとここまで変わるんか。
ふと周囲を見ると、女子達が俺を見てヒソヒソ話をしていた。
さっきの箒との会話を見られていたのだろう。
・・・SHIT!あれじゃ傍から見たら痴情のもつれじゃねえか!
なんで昼休みの屋上とかにしなかった俺!?
はあ。
もうこれで何度目の溜息だよ。
本当に濃い一日だよ、ちくせう。
ここで一発解説コーナー!
『世界結界』・・怪物などいない。魔法など存在しない。そんな【常識】という認識で世界を覆っている巨大な結界。この結界内では超常の力は発揮できない。
『月衣』・・【かぐや】と読む。月衣をまとう者は世界結界の影響から切り離され、超常の力、魔法の力を使えるようになる。【常識】に取り込まれた人々は月衣の前には無力、銃で撃っても車で轢いても倒す事は出来ない。小規模な結界なのである。
対抗できるのは同じく月衣をもつ者である。
なお、この結界内にはある程度の物品を仕舞っておける。
『月匣』・・【げっこう】と読む。主に侵魔が使用する。月衣の力を広範囲に展開する物。彼らが世界に侵攻する際に結界が展開される。その際、空には【紅い月】が昇る。それが侵魔の侵攻の合図だ。
なお、侵魔ほど大規模でなくてもウィザードも展開できる。これは一般人【イノセント】を戦場から切り離す際に展開される。
『柊 蓮司』・・おそらくNWでもっとも有名なキャラクター。数々の事件を解決してきた、若くしてベテランの『魔剣使い』。別名【下がる男】。何が下がるのか、彼の活躍はここでは書ききれないほど。
『魔剣使い』・・刀剣類といった白兵戦用の『箒(マジックブルーム)』を魔剣と呼ぶ。それを扱うウィザードを魔剣使いと呼ぶ。
『マジックブルーム』・・現代のウィザードが扱う、科学と魔法の力を融合して造られた魔法の箒。剣や銃、鎧など、様々な形がある。
篠ノ之箒と混ざって紛らわしい(作者の思い)。