作者)そもそも襲撃者が全部侵魔になっているので無いです。
旺牙)ごめんなさい。この馬鹿原作を読み返して頭やられたみたいで。
隊長)私の存在そのものを知らない人もいると思う。
作者)マジすんませんでした。
オペレーションルームへと続く通路。千冬、真耶、一樹はそこを塞ぐように並んでいた。
千冬は打鉄、真耶はラファール・リヴァイヴを展開しているが、一樹はハンドガンを右手、ナイフを左手に構えているのみ。
「あの、本当に大丈夫なんですか?」
「俺なら問題ありませんよ。この状態の方が戦いなれているし、むしろこの狭い中ISが三機並んだ方が動きが取れないでしょう。」
それにISにはAnti-KAGUYAが搭載されてますから、と続ける。
「この馬鹿はアホで自信家だが愚かではない。最良の選択肢を取っているのだろう。」
「おいおい、幼馴染になんて言い草だよ。」
「あ、あはは・・・。」
苦笑するしかない真耶。だが、空気がぴりついた瞬間、彼女の表情も引き締まる。
「さて来るぞ。かわいい生徒のためだ。教師が力になりましょうか。」
迫りくる侵魔の気配に、三人は戦闘態勢を取る。
その前にと、一樹は誰かに連絡した。
☆ ☆ ☆
「ここが・・・?」
箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、マドカの一行は、教えられたアクセスルームへとたどり着いた。
部屋の中は白一色で、それぞれがぼんやりと発光している。
部屋の中には左右で三対、計六台のベッドチェアがあった。部屋と同じく真っ白のそれは、まるでヘアサロンのようにも見える。
「みんなはこのイスで体を楽に・・・。私は、向こうのデスクでバックアップをするから・・・。」
「私は更識簪の護衛を兄さんから承っている。同じくデスクで待たせてもらおう。」
簪とマドカの言葉に促されて、全員がベッドチェアに身を横たえる。
「し、しかし、なんなんだこの部屋は?まるで映画の世界だぞ。」
「そうですわね。このような設備、はじめて見ましたわ。鈴さんは?」
「んー。中国にもなかったわねぇ、こんな設備。ここの地下特別区画って一体なんなの?どう考えても変でしょ。」
「確かにね。ちょっと普通じゃないよ。さっきのオペレーションルームなんて、ものすごい耐久構造になってたし。」
「え、なに、シャルロット。あんたISでスキャンしたの?」
秘密だよ?と、シャルロットは人差し指を唇の前で立てる。
「ドイツにもこれに類似する装置は無かったな。いったい、この学園はなんだ?本当にただの高校なのか?」
ラウラが口にした言葉で、全員が黙ってしまう。
それは薄々感じていたことだ。
『このIS学園は秘密が多すぎる』。
誰かが言わなくてもわかる。その場の全員がそう思っていた。
「とにかく、今は侵魔の撃退が先決だ。兄さん曰く、戦闘能力は低いそうだが、時間を掛けるのも面倒なことになりかねん。」
「あ、そうだね・・・。それじゃあ、みんなはISをコア・ネットワーク接続のために・・・ソフトウェア優先処理モードに変更を・・・。」
簪は早速、自身のIS 『打鉄弐式』を起動、コンソールだけを呼び出して、キーボードをずらりと手前に広げた。
「あ。」
ふと、シャルロットが声を漏らす。
「なんかさ、前に読んだ本で、ゲームの世界に入るっていうのがあったけど、そんな感じになるのかな?」
どこかワクワクとした様子のシャルロットに、他のメンバーはぽかんとしている。
ごほんと咳払いをして、簪が回答した。
「中は仮想現実の世界になっています・・・。こちらでバックアップしますので、みんなはシステム中枢の再起動と侵魔の撃退に向かってください。・・・ナビゲートします。・・・気を付けて。」
「一応危険があるかもしれん。気を引き締めて行け。」
「了解っ!」
鈴が元気よく答える。
それから全員ベッドチェアに体を預けて、意識を集中させた。
「行きます・・・!」
簪がシステムとの接続を行う。瞬間、五人の意識は落ちるような吸い込まれるような、不思議な感覚に包まれた。
「まず第一次フェーズは完了・・・。本番はこれから、て、秘匿回線?」
打鉄弐式に通信が入る。
「問題ない。味方だ。一応な。」
『んー、一応は酷いなぁ。』
「!?」
突如繋がった通信から、見たことも聞いたこともある人物が顔と声を映す。というより、『彼女』を知らない人間は、少なくともIS関係者にはいないであろう。
『ちーちゃんに頼まれたし、珍しくアイツも頭を下げてきたから、今回は協力してあげるよ。箒ちゃんも関わってるし、少しでも危険を排除しないと。』
「し、し、篠ノ之博士・・・!?」
ウサ耳とドレスを着用した女性、ISの生みの親である篠ノ之束が急に現れたのだ。簪はもうパニック寸前である。
だがそれも、束本人に諫められる。
『おいおい、さっきも言ったけどさ、箒ちゃんも巻き込まれてるんだよ。一樹からは出来るだけ生徒に任せてくれって言われたけど、束さんとしては私だけでなんとかしたいくらいなんだよ。そこを我慢してるんだから、気合い入れなよ。』
「は、はい・・・!」
思わぬ援軍に、気を緩めるどころか引き締め直す簪。急に自身の命を握らされた感覚だった。
それでも、頼もしい事にはかわらない。態度はともかく。
『マドちゃんはしっかりみんなを守ってて偉いね!流石だよ!』
「マドちゃんと呼ぶな。兄さんの頼みだ。全力で引き受ける。」
『マドちゃんはアイツが大好きだねぇ。』
どこか緊張感がない会話を挟み、それぞれが己の役割に入る。
☆ ☆ ☆
「さて、こんなものか。後詰は・・・一応無さそうだ。」
地下特別区画通路、教員組の戦闘の後があった。色々と焦げ付いているが、月匣が完全に消えれば、この惨状も残らず消える。侵魔との戦いではそこが利点だった。
自分が転生、覚醒した時には既に簡単なウィザード組織が出来ていたので、情報操作も出来ていたのが楽だった。転生者の中で自分が一番の古株と言われた時は驚いたが。
「ハァ・・・、ハァ・・・。これが、侵魔なんですね・・・。」
「ISでも苦戦するか・・・。ウィザードの能力が羨ましいな。」
「面倒なだけだぞ・・・て、千冬、怪我してるじゃないか。」
「む。少し掠ったか。」
千冬の右腕に軽い切り傷が刻まれていた。血は流れていなかったが、放っておけば痕になりかねない傷跡だ。
「こんなもの、唾でもつけておけば治る。」
「だ、駄目ですよっ!?女性が傷なんて残しちゃっ!?」
「山田先生落ち着いて。ほら、診せてみろ千冬。」
一樹が千冬の傷跡に触れると、その部分が淡く光る。
「・・・温かいな。」
「別に特別なものじゃない。ただ、俺の得意分野はこっちだ。」
「・・・そうか。」
光が消え、一樹が手を離すと傷は消えており痕も残っていなかった。
「さっきは攻撃する魔法を見ましたけど、これは、治療魔法、ですか?」
「ええ。今言った通り、俺は治癒や補助の魔法の方が得意なんですよ。」
「・・・きっと、安東先生が本当は優しいから、そういう魔法が使えるんですね。」
「・・・ただそういう資質なだけですよ。さて、念のためまだ待機していましょうか。」
顔を背ける一樹の耳は若干赤くなっている。
傷のあった腕を撫で、千冬はなにやら温かい気持ちになっていたが、それを彼女が気付くことは、今はなかった。
☆ ☆ ☆
「さて、こんなものかしら。」
全ての侵魔『憑かれしもの』が転がっているのを見て、ふうっと一息をついた。
(これが本物の侵魔。安東先生に鍛えられてなかったら、確かに手こずったかも。)
学園のシステムが停止したのもこいつらの同類の仕業だと思われる。
あまりに長時間続くようなら、各教室のシャッターを破壊して外気を取り入れなければいけない。
(うーん、生徒会長自ら破壊行為っていうのは、さすがにちょっと・・・。)
しかしまあ、迷ってもいられない。
「いきましょうか。」
エネルギー節約のため、ISを待機状態に戻す。
一歩、歩き出す。
その瞬間、『ナニカ』が楯無の腹部を貫いた。
「え?」
その『ナニカ』が引き抜かれ、ぶしっと血が噴き出す。
そのまま、わけもわからず楯無は前のめりに転倒した。
「ようやく隙を見せたな・・・。」
(しまった、私としたことが!)
安東は言っていた。侵魔との戦いは、最後まで気を抜くなと。
一瞬の油断、勝利の余韻が、命にかかわると。
倒れ伏していた侵魔の数体がゆっくりと起き上がる。そのうちの一体の指が血に塗れている。楯無の腹部を貫いたのはソレだろう。
「どうする?」
「ISとやらはパツィア様とマリア様が所持しておられるが、研究用が足りない。持ち帰ろう。」
「その人間は?」
「実験動物くらいには使えるだろう。同じく持ち帰る。
群れのリーダーと思わしき男の言葉を聞いてから、連中は外へと向かう。
まだ死なれては困る、という意味なのか。傷口は申し訳程度に塞がれ、自殺されないように一体の腕で猿ぐつわを噛ませる。
「ん、ぐぅっ!」
「動くと死ぬぞ。別に我々は構わんが。」
「・・・・・・。」
ズキズキと腹部から骨肉をえぐり取るような痛みが響く。
重傷に加えて雑な扱いを受け、意識が遠のいていく。
(おうが・・・く・・・ん・・・)
無意識のうちにその名前を呼んでいた。
そして、楯無はかくんと意識を失う。
☆ ☆ ☆
「ん?」
「む?どうかしたかね?」
「いえ・・・、誰かに呼ばれたような気がして。」
なにか、胸騒ぎがする。この手の感覚は外れたことがないのが、俺の自慢だった。
凶獣はデータも取り終わり、待機状態で机の上に置かれている。
(グルルルル・・・。)
(カカカ!おいおい、取り返しのつかないことが起っちまうぜ?)
獣の静かな唸り声と、自分自身によく似た声が響く。
今戻らないと、生涯後悔することになる。
そう感じた俺は、チェーン状の凶獣を引っ掴み即時展開する。
「ちょ、旺牙くん!?ちょっと!?」
「すいません!なにかあったらすぐに戻りますんで!それじゃあ!」
津久井さんの静止の声も聞かず、即全速でIS学園へと戻る。
頼む、間に合ってくれよ!
「行ってしまった・・・。ふむ、余程の事態か。・・・後は頼むよ、『運命の子』。」
連続の瞬時加速でIS学園にたどり着くまで三十分とかからなかった。
もう一つこちらに高速で向かっている反応は、白式か。
(急げよ『俺』!カカカ!)
煩い!お前に言われなくてもわかってる!
「!?」
凶獣のセンサーが何かの反応を捉える。
「あれは・・・!」
学園の渡り廊下、ヒトの形をしたナニカに運ばれているのは楯無さんだった。
「何を―」
沸騰する怒りを限界で留め、瞬時加速。意識を一点に集中。
「してんだゴラアアァァっ!!」
突撃と同時に連中を振り払い、楯無さんを確保する。
奴らが人間ではないことはわかっている。だから遠慮はしない。
「だらああああっ!!」
一蹴。
その一撃で奴ら、『侵魔』を消し飛ばす。いつも以上のパワーが出ている気がしたが、今はそれどころではない。
「楯無っ!目ぇ開けろ楯無っ!」
俺は必死で名前を呼ぶ。生体反応があるから死んではいない。だが、血を流し過ぎている。
急いで《ヒール》をかけ、傷を塞ぐ。しかし、楯無さんは目を覚まさない。
「起きろっ、楯無っ!」
ひときわ強く名を呼ぶと、やっと瞼が開いた。
「ん・・・。おう、が・・・くん・・・?」
やはり出血のせいか、意識がぼうっとしているようだ。
「旺牙っ!一体何が・・・!?楯無さん!?」
「一夏かっ!楯無さんが重傷だ!すぐに医療室に連れて行く!」
「ううん・・・地下・・・この場所に、・・・行って。織斑先生たちも・・・そこに・・・。」
「何を・・・、ええいクソ!行くぞ一夏!」
「あ、ああっ!」
俺たちは受け取った位置データを元に、校舎の廊下をフル・ブーストで飛翔する。
「急所は外れてるが・・・、大丈夫ですか楯無さん!?」
「へーき・・・。」
何が平気だよ!いつもの余裕も無いくせに!
俺が楯無さんを抱え、一夏が邪魔なシャッターを破壊し織斑先生たちへの最短ルートを進む。
そして、織斑先生を筆頭に三人の教師が通路にいた。周囲には戦闘の跡がある。ここで何が起こっていたんだ?
「千冬姉!一体何が―」
「説明は後だ!織斑、すぐに篠ノ之たちの救出に向かえ!」
「えっ!?」
「位置データを転送する。急げ!」
「は、はいっ!」
その言葉に、一夏は奥に向かう。
「更識の傷は俺が診よう。旺牙、一応お前も手伝え。」
「はいっ!」
「落ち着け。・・・大丈夫だ。命に別状はない。少し治癒すればよくなる。体力回復には少し睡眠が必要になるだろうがな。」
「・・・ふうっ。」
なんだか、どっと力が抜けた。思わず凶獣が待機状態に戻ってしまうほどに。
暫くすると、奥の方からズドンッ!という音が響いた。
そこへ向かうと、マドカが拳銃を構えていて、巨大で邪悪なウサギのようなものが転がっていた。
「一体何が・・・。」
『悪いウサギさんはやっつけちゃった♪』
「束さんっ!?」
いやもう、本当に何が起こっていたんだ?
☆ ☆ ☆
「あ。」
「あ。」
えー、いきなりですが、大変な状況になっています。
安東先生が治療したとはいえ、念のため医療室で入院(?)している楯無さんのお見舞いに来たのだが。
丁度お着換えタイムだった様子です。
「・・・見た?」
「・・・ご立派ぁ。」
ビュン!とランスの先端が向けられる。危ねえ、半歩下がってなければちょっと刺さっていただろう。
赤くなっている楯無さんの姿を珍しく思いながら、隣のベッドに腰掛ける。
「楯無さん、知ってたんですね、世界の『裏側』と言うか、『真実』と言うか。」
「ええ。一応戦い方も教わったはずだったんだけど、慢心しちゃったみたい。」
更識家が知っていたのか、安東先生の差し金か。おそらく後者だろうが、あの人が半端に教えるとは思えない。言い方が悪いが、傷は楯無さんの油断だろう。
「この世界に首突っ込むってことは、またこんなことになりかねない。それどころか命を落としかねないんですよ。」
「・・・ええわかってる。だから、もっと修練しないとね。みんなを守れるくらい・・・って、旺牙くん!?」
儚い笑顔を浮かべる楯無さんの手を、思わず握りしめてしまう。
「・・・俺が止めて止まるような人じゃないのはわかってます。だから、俺にあなたを守らせてください。そして、強くなってください。自分自身を守れるように。」
それは懇願だった。この人を失いたくない。俺は強くそう思っていた。
みんなと同じ、俺の大切な日常、友人なのだから。
「なんだか、ちょっとムッとしたんだけど。」
なんで?
「そういえば、傷痕は・・・。」
「安東先生の魔法とナノマシン治療で残ることは無いって。あと、旺牙くんの応急処置が早かったのもあるって・・・。ありがとうね。」
「それなら、良かった。」
しばらく、ふたりのあいだに沈黙が訪れる。それは気まずいものではなかった。暖かいような、恥ずかしいような。
「・・・ありがとうね。」
「・・・なにがですか?」
「・・・助けに来てくれて。」
「・・・今さらですよ。」
「わ、私は嬉しかったのっ。」
「はいはい。」
握っていた手をどけようとすると、楯無さんのほうから握り返してくる。
その、いつもの感じと違って少し弱々しいところにドキッとする。
「あのさ、旺牙くんさ・・・前に私が楯無っていうのは更識家の当主の名前だって言ったの覚えてる?」
「え、はい、覚えてますけど。」
なんだ突然。
「私の本当の名前・・・教えておくわね。」
潤んだ瞳で、小さな声で、けれども確かな声で、覚悟を決めた顔で囁いた。
「更識――刀奈。」
それだけ伝えると、楯無さんはベッドに横になってしまった。
(本当の名前か・・・。)
不思議で愛嬌のある元気な先輩。
彼女のことが少しだけ、ほんの少しだけわかって嬉しいと思った。