IS×NW~世界を渡りし者~《更新停止》   作:戒炎

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本当に申し訳ありません!!

待っていてくれた方々、大変お待たせしました!!




暴走する狂気

 ズンッ!

 

「え・・・?」

 

「・・・カハッ!」

 

 

 覇王ジーザの腹から突き出された何か。それは本来なら彼女の持ち物。それを預かっていたのは、四天王の将パツィア。

 残されたマリアは息をすることすら忘れ、その光景を見つめていた。

 

「パツィア、なに、を・・・?」

 

「単純です母様。貴女はもう覇王に相応しくない。安心して。跡は私が継ぎます。」

 

 ズルリと剣が引き抜かれ、ジーザがパツィアに体を向けた瞬間、袈裟懸けにその身を切り裂いた。

 大量の出血と、魂すら破壊する魔剣により、その場に倒れこむ。

 

「い、いやぁぁぁぁ!お母様!!」

 

 我を取り戻したマリアが覇王に、ジーザに駆け寄る。

 血に塗れた彼女は呼吸もか細く、足元から存在が消えている。マリアの治癒魔法、及びプラーナの付与を急ぐが、それ以上に早く存在が粒子となっている。

 消え入るジーザ、涙を流すマリア、そして狂気的な笑みを浮かべるパツィア。

 

「お姉様!どうしてこんなことを!?」

 

「あら、さっき言ったでしょう?母様は覇王に相応しくない。だから斬ったの。」

 

 まるで何事も無い事の様に、パツィアは続ける。

 

「覇王とは、どこまでも闘争を望むもの。そのせいで、同族の侵魔からも封印されたもの。母様、ジーザは甘いのよ。ならば私が、全てを手に入れる!」

 

 瞳をぎらつかせ、パツィアは高らかに宣言する。

 

「パツィア・・・すまなかった・・・。次代は、お前に託すつもりだったのに、急かせてしまったね・・・。本当に、すまない・・・。」

 

「お母様!喋らないで!今治療を!」

 

「パツィア・・・、マリア・・・、私の、可愛い娘たち・・・。」

 

 ジーザの瞳から光が失われ、その身体は欠片も残らず空中に粒子となって消えていった。

 その光景に呆然とするマリアの首筋に、魔剣が向けられる。

 

「マリア、後は貴女が邪魔なの。私の地位を揺るがぬものにするべく。・・・死んでくれるわね?」

 

 母を失った衝撃と、姉が自分を殺そうとしている事実に、頭が回らなくなっているマリア。力も入らず、このままでは首が落とされる。

 その時だった。

 

「ところがギッチョン!!」

 

 何者かが横っ飛びでマリアを抱きかかえ、部屋を転がる。

 さらにパツィアの背後から巨大な影が、その巨体に似合う戦斧を振り下ろす。

 そんなもの気にするまでも無いと、片手でそれを止めて見せた。

 

「何をしている?ガイム、ジャン。」

 

 現れたのは旧テレモート隊、現在はマリアの僕となったガイムとジャン。廊下の奥からは武装をした侵魔たちが向かって来ていた。

 

「あっぶねぇ~。ギリギリだなお嬢。」

 

「ジャン・・・?」

 

「マリア様。我らマリア隊、命を賭して御守りしますぞ!」

 

「ガイム・・・?」

 

「もう一度聞くわ。何をしているの?」

 

 路肩の石でも見るような冷たい目でガイムの巨体を見る。間違っても味方に向けるものではなかった。

 返答次第では即殺す。そんな意志が垣間見えた。

 

「パツィア様。我々は貴方様を覇王とは認めませぬ。あのような不意打ちで覇王様をお斬りになっても誰も納得しませんぞ。」

 

「私は先代を斬った。それだけ。それだけが事実。貴方たちには関係ないでしょう?」

 

「それが気に入らないって言ってるんだよ!」

 

 覇王軍は完全に分裂していた。もとよりパツィアの部下であった者たちと、先代となったジーザをあんな方法で廃し、次代の覇王を名乗ることを望まぬもの。

 それは同時にパツィア派と、奇しくも生き残ったマリア派に分かれる形に成った。

 

「私を認めず妹を推す、そういうこと?」

 

「如何にも!」

 

「なら・・・。死になさい。」

 

 疾風のような一閃を戦斧で受け止めるガイム。怪力のガイムと言えど、四天王最強のパツィアの斬撃を受けるには骨が折れた。

 その間に、マリアの部下たちがパツィアを取り囲む。

 だが、魔剣を円に振るうだけで、先陣にいた侵魔が両断される。

 

「ジャン!お主はマリア様を連れて逃げよ!あ奴ならば悪くせんであろう!」

 

「爺様たちは!?」

 

「壁も必要であろう!」

 

「・・・すまん!」

 

 ジャンはマリアを抱え走り出す。後ろは振り向かない。その暇があれば、一歩でも遠く、一秒でも速く、この場から逃れる。

 

「ガイム・・・!」

 

「マリア様!覇王様の!我らの無念を!どうか!」

 

「追いなさい!奴らを滅せるなら手段は問わない!」

 

 その声にパツィアの部下たちが殺到する。それから逃れるマリアとジャン。

 同じ侵魔たちが殺し合う、この世の地獄。それも、同じ軍の者たちである。

 それを望んだのは、魔剣を振るい笑みを浮かべる、狂気の権化。

 慈愛の心を持つ妹は、この現実を受け入れるだけで必死だった。

 

「むぅん!」

 

 ブチッ!

 

「ん?」

 

「ジャン!これを持ってゆけい!」

 

 ガイムはパツィアの首にかけられていたネックレス、IS『デモニック・シャイン』の待機状態を引きちぎり、ジャンに向かって放り投げる。

 

「お嬢!ちょいとスピードを上げるぜ!」

 

「ジャン・・・。」

 

 

――――――

 

「あんな玩具、今さら必要ないわ。」

 

「必ずやマリア様の役に立つ。そう信じております故。」

 

「本当に逃げ切れると思って?」

 

「侵魔でありながら人間に希望を見出す。情けないですがな。」

 

「貴方は本当に邪魔よ。いい加減に死になさい。」

 

(マリア様・・・、どうか、ご無事で。)

 

 

 

 

    ☆    ☆    ☆

 

「ふむ・・・。」

 

「ぜぇ・・・、はぁ・・・。」

 

 特訓が一区切りし、俺たちが息を整えていると安東先生がふと独り言ちる。

 この人のことは尊敬しているけど、こうたまに見せる「全部解ってる」的な態度は苦手だ。大抵面倒なことが起こる前兆になるからだ。口に出したら怒られるから言わないけど。

 

「何か言ったか旺牙。」

 

「いいえ何も。」

 

 くそ、勘がいい。

 

「マドカ。」

 

「はい。」

 

「外で何かあったらしい。少し見てきてくれ。・・・場合によっては中まで案内してやれ。許可は出す。」

 

「わかりました。」

 

 外?いったい何があるというんだ?あと、そんなに気軽に行き来出来るものだったけこの月匣。しかも案内ってなによ。

 まあ、こっちでの付き合いが長いマドカに言うんだから間違いはないか。

 今は兎に角息を整えることに集中しよう。でないとすぐに再開されかねない。

 

「外の状況にもよるが、マドカが返ってくるまで時間がかかる。長くて二、三日だと思え。それまでいつも通り修行の続きだ。」

 

 言ってるそばからだよこん畜生。残された全員の顔から血の気が引いていく。

 大丈夫。多分死なない。死なない・・・と良いなあ。

 

 

    ★    ★    ★

 

 

 

「ちっくしょう、まだ追ってきやがる・・・!」

 

 マリアを護るように抱え、全力で空を駆けるジャン。だが、それも限界に近かった。

 追手から逃れる際に背中を負傷、確実に速度は低下し、彼の視界は靄がかかる。重症であった。

 それでも逃げる。奴らが諦めるまで。

 だがどこかで解ってはいた。自分たちを殺すまで、あの追手どもは追撃の手を緩めないと。

 先頭の侵魔が魔力を込めた礫を放つ。それがジャンの肩を掠める。それだけで顔は苦し気に歪み、バランスが崩れる。それでも決して腕の中の姫を離さない。

 

「ジャン!もう、もういいです!!私が死ねば、それでッ!」

 

「馬鹿野郎ッ!今更逃げられるかよ!爺様たちから託されたんだ!死んでもお嬢は逃がす!」

 

 このまだ状況が分かっていないお嬢は、自分が捨て石になればジャンは逃げられると思っているのだろう。

 だが現実はそう甘いものではない。マリアを差し出したとして、あのパツィアがジャンを見逃すとは到底思えない。何かの気まぐれでも起こさない限り、自分たちは死ぬまで追い立てられる。

 大体、生きたいを思っていたらこんなことは引き受けなかった。今の自分にとって、命よりも優先させるのはマリアの身。意地であったし、あの狂った将の思い通りになるのは許せなかっただけだ。

 離すとしたら安全だと確信したとき。ただ、それが何処かなんてのはわからないが。

 一瞬の思考の後、殺気が濃厚になる。いつの間にかすぐ傍まで追手に追いつかれていたらしい。

 ここで終わりか。せめてお嬢だけは!

 研ぎ澄まされた爪が振り下ろされようとしている。

 マリアがジャンの名を叫ぶ。

 

 その時だった。

 

 バシュンッ!

 

「ギイィィッ!?」

 

『!?』

 

 一条の閃光が侵魔の頭部を射抜く。その一撃で弾け飛ぶ追手の侵魔。

 光の正体は一基のビットから放たれたレーザー。放ったのはBT兵器『エネルギー・アンブレラ』。

 安東マドカが、寸でのところで間に合った。

 

「状況説明を求むが、今はゆっくり聞いている暇は無いようだ。」

 

 そう言いながら、マドカは追手の侵魔を冷静に、次々と撃墜していく。

 その光景を黙って見ていることしかできなかったが、ジャンは安堵の表情を浮かべていた。

 気に入らないが、お人好しに巡り合った、と。

 

 

 

    ☆    ☆    ☆

 

 

 マドカが月匣から出て二日が経った。外では何時間、いや何十分経ったのだろう。

 相変わらず地獄の修行を課せられていた。

 

「マドカが戻ってきたようだ。何やら厄介な客を連れてな。」

 

 客?誰だ?先生が迎え入れるくらいなら大丈夫だろうが、厄介な、とはこれ如何に。

 一時修行は中断。マドカが現れるまで待っていると、なるほど厄介な客だった。

 

「・・・・・・。」

 

「よう、元気かよ半端野郎・・・。」

 

「ジャンに、マリアか!?」

 

 彼女が連れてきたのは瀕死のジャンと、彼を支えながら歩くマリアだった。

 マリアは心配そうな顔をしているが、ジャンはどこか安心したような表情をしている。

 

「旺牙、誰よこの二人!?男の方は傷だらけじゃない!」

 

「・・・女の子の方は覇王軍四天王の一人、男の方はその部下だ。」

 

「「「ッ!?」」」

 

 俺の一言で周囲が思わず武器を構える。それを右手を上げて制する先生。

 俺にとっても敵だが、まず状況を把握したい。

 なぜこんなにも傷を負っているのか。敵意を感じないのはどうしてか。

 マドカ曰く、何故か侵魔に追われていたらしいが。

 

「時間が無ぇ。簡単に説明するぞ。」

 

 荒い息をそのままにジャンが口を開く。

 

 

 

 

 

 

「パツィアの謀反、だと?」

 

「ああ。あいつは覇王様を不意打ちし、自分が新たな覇王になろうとしやがった。んで、あれにとって、お嬢の存在は邪魔でしかなくなったわけだ。」

 

 ものすごく簡単な話、そういうことらしい。なぜ急に謀反を起こしたのかまでは分からないし、知りたくもない、要は覇王ジーザが討たれた事実が大事らしい。

 だが、これで何が変わるのだろうか。

 

「それは貴様たちにとって不都合なのか?より優れた者が軍を指揮するのは当然だが。」

 

 ラウラの一言に各々が首肯する。それに答えたのは、意外にもスコールだった。

 

「パツィアのやり方がより苛烈、さらには狂気的だからでしょうね。亡国企業を実質的に操っていたのはパツィアだし、私たち以上に手段を選ばない。目的のためなら全てを犠牲にするやり方を取る、というところかしら。」

 

「まあ、な。あいつの、下じゃ、同属は、生き辛い。それに、自分の親と妹を、始末するような、奴には、従う気がしなかった、、だけだ、な・・・。」

 

「随分人間臭い奴らだな、覇王軍てのは。」

 

「・・・うっせ。」

 

 ジャンの息が絶え絶えになってきた。こいつは、やばいかもしれない。

 

「私たちの話せることは話しました!ジャンを、ジャンを助けて!お願いします!!」

 

 マリアが涙を流しながら訴える。

 やめろよ。今更、それこそ人間みたいに言うなよ。絆されちまう。

 考えるより体が動いてしまう。たまに忘れるが、俺は治癒もできるのだから。

 

「やめろ旺牙。」

 

「なんだよ先生。今回ばっかりはあんたの言うことは」

 

「・・・もう、手遅れだ。」

 

 そう言われてジャンの傷を見る。

 マドカが言うには、こいつはマリアを庇って追手の攻撃を碌に避けず、自身の身体で受けながら逃げていたらしい。マリアが少しでも安全でいられるように。

 

「・・・ジャン。」

 

「そんな顔、よしてくれよお嬢。俺は満足だ。爺様たちに、報いることができたから。」

 

「お前・・・。」

 

「半端野郎。お嬢を、頼む。お人好しのお前らなら、悪いようには、しないだろうって、分かる、から。」

 

 そう言いながら、ネックレスを俺に差し出す。

 

「これ、パツィアのISだ。お前らなら、上手く、使えるだろうな。」

 

「ジャン・・・!」

 

「戦いで死にたかったが、こんな、終わりも、悪くないもんだ、な・・・。」

 

 それだけ言い残し、薄く笑いながらジャンの体は光となって消えていった。

 なんなんだよ・・・。言いたいことだけ言って逝きやがって・・・。俺たちは敵だろうが。

 わけがわからねぇよ。ちくしょう。

 

「沈んでいる場合じゃないぞ、旺牙。お前たちもだ。」

 

 先生の言葉で顔を上げる。

 

「マリアといったな。お前にも暫くの間この月匣内にいてもらう。衣食住は、人間のものでよければ提供しよう。」

 

「・・・はい。」

 

「状況が変わった。全員、明日からはさらにギアを上げていく。死にたくなるかもしれん。気の毒だが死ぬことは許さん。必ず生き残れ。それが最低限決戦で生き残るレベルとなる。」

 

 そこまで言われ、俺たちの意識は明日からの更なる地獄に持っていかれた。

 

 

 

 

    ★    ★    ★

 

 

 

 暗い、どこまでも暗い空間。支配者を意味する玉座にはパツィアが腰かけていた。

 

「パツィア様。逃亡した二名への追跡に失敗したとの報告が。」

 

「もういいわ。あの二人ごときに何ができるか。もう放っておきなさい。」

 

「ははっ。」

 

「忌々しいけれど、マリアは次に見かけたときに殺せばそれでいい。それで私に逆らう気のあるものはいなくなるのだから。」

 

 もっとも、今こうしているときに、そんな気は失せているかもね。

 パツィアは高らかに笑う。己が全ての支配者になったことの喜びに震えながら。

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