「………リー…。パ……リー…。パチュリー!」
パチェ「…ふぁ。こんな朝早くから、なに?」
ここ数十年。すっかり聞きなれた声に呼ばれて、パチュリーは眠たげながらもその眼を開く。その目に映ったのは、いつも通りの服装で、こちらを向いて微笑むフィーゼル・スカーレットだった。
フィー「もう…。今日は魔法を協力して研究するって話をしたじゃないですか。…忘れていたとかではないですよね?」
それを聞いて、覚醒しきれていない頭が約束をしていたという事を遅まきながらに思い出す。
パチェ「…ええ。忘れていたわけではないわ。」
今ちょうど思い出したパチュリーだが、ここは忘れていたわけではないと自分に言い聞かせあえて嘘をつく。
フィー「ならいいですが…今日の体調は大丈夫ですか?」
パチェ「大丈夫よ。支度をしてから行くから先に行っていてちょうだい。」
フィー「分かりました。何か必要な物はあります?」
パチェ「特に無いわ。」
フィー「そうですか。分かりました。来ないのは無しですよ?」
細かなやり取りを終えた後、レミリアと同じ幼き友人をパチュリーは見送った。
そして、よいしょ。などと見た目に反するような仕草で起き上がった魔女は身支度を始めたのだった。
□ □ □ □ □ □
今日の目標は、酒を飲んでも酔わない魔法を作る、だ。
やはり、フィーゼルとしては皆と一緒に楽しくお酒を飲みたいと思っている。ここ500年近く家族と過ごし、少ししか友人が出来ていないフィーゼルにはお酒という円滑剤を挟んだ集まりなどほとんどなく。参席していたとしてもお酒には触れないようにしていたため、笑い合いながら美味しいお酒を飲むというのは、とても憧れる。夢をかなえるためにもこの研究は避けては通れぬ道だ――ちなみに、沢山飲んで慣れるというやり方をフィーゼルは絶対に受け付けない。
フィー「パチェ、それで具体的には何の魔法を主体にしたらいいと思います?」
早速魔法作りに取り掛かるため、フィーゼルは最重要ともいえる事を単刀直入に切り出す。
パチェ「そうね…。」
そう聞かれたパチュリーは少し考えこむ素振りを見せるが、
「というかそもそも絶対に酔えないようにする魔法なんて不可能なわけだし、出来て精々アルコールの回りを遅くするのが限界なんじゃないかしら。」
残念ながらと、そもそもを否定する。
フィー「むぅ~…。ですよね…。」
それを聞いたフィーゼルは途端に呆れのような、やっぱり…。みたいなどこか憂鬱な雰囲気にそう返す。長い魔法の歴史の中でも酒を飲んでも酔わないようにするなどといった特殊な魔法を研究した者はいない――そもそもそんなものを研究する必要性がなかったとも言える――。フィーゼル自身そんなことはとっくに知ってはいたのだが、もしかしたらと
「なら酔い方を変えるだけでも考えてみましょう。さすがにあの酔い方はもうこりごりですよ。」
不可能だと分かったなら、考え方の方向を変えてみる。これも魔法を研究していくなら必要といえる技能だろう。防げないなら軽減を。作れないなら似たものを。フィーゼルが今まで何度も行ってきたことだ。
パチェ「そうね…。ならアルコールを検知したら、眠くなるように組めば暴走を止められるんじゃないかしら?」
二人で暫く悩んでいるとふと思いついたようにそうパチュリーは代替案を告げる。
フィー「ん~と…。そうですね…。それがいいですかね?」
類似魔法としてはかなりよさげな部類ではあるが、本当はみんなと一緒に飲みたいと考えているフィーゼルにはどうも決めきれないようだった。
魔法というのは、対人、対妖怪用に編み出されたとも言われているもので、現在使われているのはそのほとんどがそれらを応用したものである。なので、パチュリーに提案された魔法も検知は敵の侵入を報せるものを、眠くなるよう仕込むのは催眠の魔法を、それぞれ自分にかければいいだけなので、安全かつ手軽に行える手段であるのだ。しかし、お酒に対しては強くなったりなどしないので、本当に暴走するのを防げるだけとも言える。
まあ、酒の回りを遅くする魔法よりは断然マシといえるだろう…。なぜなら、それは本当に酔うまでが遅れるだけなので、その分動ける状態が長引き結果として多くの酒を取り込んでしまいかねない。それは、単純にアルコールの摂取量が増え、自らを危険にさらすだけの愚かな行為だ。それはフィーゼルが吸血鬼だとしても同じことである。
パチェ「フィーはどうしたいの?」
パチュリーはフィーゼルにそう質問を投げかける。相談を受けた友人からすれば、本人の意思を尊重するのはとても大切で必要不可欠なものだ。これを怠れば、たちまち仲が決裂してしまうこともそう珍しくはない。親しき中にも礼儀ありというように、相手が気の許せる友人だとしても横暴な態度をとることは関係が疎遠になる大きな原因だ。それを考えないパチュリーではない。
そんなことはさておいて、先の問いからすでに数分は経過しているのだが、フィーゼルからいっこうに返答がこない。
フィー「…。」
パチュリーが見た限りではフィーゼルは相当熟考しているようだった。
微妙な静寂が図書館を訪れる。
パチェ「…フィ…」
フィー「あ!そうだパチェ。こういうのはどうでしょうか?」
パチュリーが沈黙に耐えかねて声をかけようとした瞬間、フィーゼルは何かとてつもなくいいことを思いついたかのように、盛大などや顔で、思いついたアイデアを説明する。
パチェ「な…。本当にそれは大丈夫なの?確かにそれは使えば、みんなと一緒にお酒は飲めるようになるかもしれないけど…。何が起こるかはわからないわよ?」
フィー「大丈夫です!そこさえうまくいけば!」
こうして幼き姿をした魔女と悪魔は研究を進めていく…。
――そして。
フィー「できました!」
フィーゼルが嬉しそうにそういうと、
パチェ「ようやくね…。話があってからもなんだかずいぶん時間がかかったような気がするわ。」
対称的にパチュリーはげんなりした様子でそう相槌を打つ。
しかし、パチュリーがそう返すのも仕方がなかった。あの後、構想を変えてからぶっ通しで研究を続ける事丸一日が既に経過している。パチュリーの体調が悪ければ倒れていてもおかしくない作業量である。
フィー「すみません。少し無理を強いてしまいましたね。私が片付けておくので、パチェは先に休んでいてください。」
そのパチュリーの様子に自分が過酷なことを強いてしまったということに気づいたフィーゼルは、そうパチュリーに告げ片づけを始めようとする。しかしそれは叶わなかったようだ。
咲夜「フィーゼルお嬢様。ここは私が片付けておきますので、お嬢様も先にお休みください。」
なんとそういいながら咲夜がフィーゼルを持ち上げてパチュリーのところに移動させたのだ。
フィーゼルは納得がいかない様子だ。
フィー「いえ、咲夜気持ちは嬉しいですが、私たちが使ったものですしここは…。」
そしてなおも食い下がろうとするが
フィー「あ…。」
ふと、パチュリーと目が合った。その目は少し呆れながらも怒っているようにも見えたのだ。
しかし理由がわからない。
フィーゼルが理由を考えているとパチュリーが口を開いた。
パチェ「フィー。私よりも、あなたのほうが顔色悪いわよ。」と。
フィー「…。分かりました。咲夜、申し訳ないですがあとはよろしくお願いします。」
フィーゼルとしてはまだまだ、動けると思っているがこれ以上何か言っても結果が変わらないことも、それがパチュリーをさらに怒らせてしまうことも分かっているのでここは素直に諦めることにしたようだ。
□ □ □ □ □ □
フィー「ふぁ~…。」
フィーゼルは目を覚ますと、そっと周りを見回した。外はまだ薄く明るい程度でフィーゼルたちが眠り始めたころよりも少し明るくなっているような具合だった。
その事実にフィーゼルは、やはりそこまで疲れていなかったんだと考える。
ベッドから起き上がり着替えを着て部屋を出ると――
そこにはドアに寄り掛かるようにして眠っているフランとこちらを向いたまま立っているパチュリーがいた。
フィー「えと…おはようございます?パチュリー。」
パチェ「おはようフィー。私たちが眠ってからどれくらいの時間がたったと思う?」
フィーゼルは困惑しながらもパチュリーに挨拶をするがパチュリーは真剣な面持ちでフィーゼルに問う。
フィー「…3時間ほどですか?」
フィーゼルはあり得ないとは思いつつも、窓から見える外の明るさからそう答えたが、パチュリーの答えに驚愕した。
パチェ「惜しいわ。正しくは二日と3時間ね。」
フィー「なっ…。」
まさに驚きを通り越した絶句だった。以前と似た静寂が再びその場に舞い降りる。
なるほど、これはパチュリーが呆れるのも頷ける。
それに、自分の考えが甘かったことを強く感じたフィーゼルはこちらを向いて腕を組み立っているパチュリーに向かって、
フィー「パチュリー。ごめんなさい。」
深々とお辞儀をして謝った。今までにないほどに長い間。
パチェ「…もういいわよ。ただ人の心配ばかりしていないで、自分の身のことも少しは案じなさい。」
暫くすると、パチュリーは微かに笑うような微笑んでいるかのような口調でそう言った。どうやら紅魔館の魔法使いたちに入った亀裂は修復されたようだった。
フィー「ありがとうございます。これからは…自分のことも考えてみるようにもしますね。」
パチェ「そうしなさい。次は許さないわよ。」
フィー「はいっ。」
パチュリーからの忠告にフィーゼルは笑顔でそう返す。そしてパチュリーはまた図書館に戻っていく。残されたフィーゼルはフランを抱え地下室へ向かった。
□ □ □ □ □ □
フラン「ん…。」
フランはいつもと足の感覚が違う違和感に目を覚ます。
フラン「お…姉様…?」
よく見るとその足の近くですやすやと眠るフィーゼルがいた。どうやら足の感覚がいつもと違ったのは、フィーゼルの頭が当たったからだったようだ。
そのフランの声が聞こえてか、フィーゼルも目を覚ましたようだった。そして謝罪を受けた。フランが止めるまでずっと。どうやら、フィーはここ数日間ずっと会えずにいたことや遊んであげられなかったことを、悔いているみたいだった。
そしてこれからは今までよりもより一層遊んで上げることを約束しお開きとなる。
一時乱れた日常は時間の経過とともに戻っていく。それは、紅魔の家族のきずなの強さなのか、はたまた、何者かによる力のおかげなのか…。
この後に試された魔法は無事成功したという。
一日に一気に書いたわけではないので、ちょこちょこおかしなところがあるかもしれません。ご了承くだされば幸いです。