学校からの帰り道、仁は竜ヶ峰、紀田ともう一人女子生徒と一緒だった。
彼女の名前は園原杏里、竜ヶ峰と同じクラスでクラス委員をやっていると言う。
途中見かけた公園で一休みすることになり、それならと紀田がアイスを奢ってくれた。
仁と園原はシンプルなバニラソフト、竜ヶ峰はイチゴソフト、紀田はチョコソフトだ。
「お待たせ~、ほい」
「ありがとうございます」
園原へアイスを渡した紀田は木馬の遊具に跨る。
「でもなぁ、まじで気を付けたほうがいいぜ、那須島の野郎、噂は噂だけど、教え子に手出したってのはマジだから」
「えぇっ?!」
那須島隆志と言う教師はセクハラで有名だ。
紀田の話しでは一つ上の贄川春奈に手を出した、しかし、贄川春奈と言う女子生徒は那須島が思うよりも情熱的だった、職員室で斬りかかられた事をキッカケに、贄川春奈は転校した。
「それより、この前のこと」
「えっ?」
「いじめてた子、同中なんでしょ?」
「な、何で知ってるんですか?」
仁が考え事をしていたら、話題は別の事に移っていた。
「いやぁ、あの会話からはそうとしか……中学の時は実力のある子に助けられてて、その子がいなくなった途端に昔の奴らがまた来たとか」
「あぁ、なんだっけ? いなくなった友達? まだ見つからないんだ」
「うちのクラスの、張間美香さん、だったよね」
そこまで話すと、園原は鞄から手帳を取り出して中を開いて見せてくれた。
そこには、何枚ものプリクラが貼られ、園原と、張間美香とおぼしき人物が一緒に写っていた。
学校には欠席と言うことになっているが、入学式の前から家に帰っていないことを話した。
いや、それって思いっきり警察沙汰じゃん、と紀田がツッコム。
「私の携帯とご両親には連絡をいれているみたいです「ちょっと傷心旅行に行ってます、気にしないでって」」
「傷心旅行? 何かあったの?」
「それは……あの、驚かないで聞いてくれますか?」
「この数日で大抵のことには驚かなくなったから、大丈夫だよ」
「張間さん、ストーカーなんです」
ぷっ、と言う音と共に竜ヶ峰がアイスを吹き出した。
汚いな、と思いながらもハンカチで汚れをふき取る竜ヶ峰。
仁は黙って話しを聞いていた。
「成程ね、この間詰問していた相手が張間美香のストーカー相手、ならぬ求愛相手だったって訳だ、そんで振られて傷心旅行中って……そいつは家族に任せるしかないなぁ」
家族に任せると言っても限度がある、そのうちご家族からも警察に捜索願が出されるだろう。
「園原さんとは、仲良かったの?」
園原は張間といつも一緒だったこと、内気で引っ込み思案な自分をいつも引っ張ってくれていたことを話した。
仁は、無粋にも「張間は自分の引き立て役として園原を選んだのではないか」と思ったが口にはしなかった。
張間美香と言う人間を知らないのに、批判することはできないからだ。
ただ、ストーカーだのと言う話しを聞くかぎり、まともな思考を持っているとは考えにくい。
しかし、驚くべき事に園原は「自分が引き立て役であったこと、それを自分も利用していたんです」と確信めいた言葉を放った。
「依存して生きていく方が楽だから、そうしないと生きていけないと思ってたから……でも、今はそれほど必要だとは思えなくなって、慣れてきたんです、彼女がいないことに、クラス委員になったのは、張間さんがやりたがっていたからで、せめて私が代わりにやらなきゃと思って……クラス委員になれば彼女を追い越せるような気がして、ずるいですよね、こんなの」
園原は肯定も否定も望んではいないのだろう。
彼女の表情と言葉からは自虐しか読み取れない。
仁は「わざわざ人に言うことか」と思ったが、口にはしない。
何故なら、仁よりも先に竜ヶ峰が言っていたからだ。
紀田はと思えば、どこか感心した様子で竜ヶ峰を見ていた。
「それで誰かに許してもらおうとしているみたいだ、確かに、張間さんより上を目指そうっていうのは間違ってないと思う、でも、だったら胸をはって堂々としていればいいんじゃないかな」
言い切った竜ヶ峰に、園原は怒りも喜びもしない、ただ立ち上がってお礼を言い、綺麗にお辞儀をしたのだった。そして仁は、紀田がどうして竜ヶ峰と友達なのか分かった。
きっと紀田は、竜ヶ峰のこういう所が好きなんだろう、仁もまたそういう竜ヶ峰の所には好感を持った。
「話しは済んだか? 悪いがこれからバイトなんでな、俺は行くぞ」
「あっ、うん、ごめんねなんか、僕たちだけで話しちゃって」
「あ、ご、ごめんなさい」
「園原だったか、あまり思いつめるな、付き合いは浅いが紀田と竜ヶ峰はもう友達だろ、困ったことがあれば頼ればいい」
「あ……はい」
「俺も、出来る限りの事はしてやる、張間美香の顔写真、あるか?」
携帯を取り出し、園原と連絡先を交換する。
それから園原に張間美香の写真を送ってもらい、俺はメールを新規作成して送った。
「誰に送ったの?」
「俺の知り合いの運び屋、毎日いろんなところ通るし、見かけたらでいいから連絡くれって伝えた、ま、あんま期待すんなよ」
「あの、どうしてそこまで……」
してくれるんですか、と言葉は続かなかった。
仁の持っている携帯が鳴り始めたからだ。
電話に出ると、バイト先のオーナーからだった。
『ごめーん、今日間違えて仁君にシフトいれちゃったー、だから、店こないでいいからねー』
「あぁ、そうなんですか、了解です」
『ごめんねー、今度賄い作るから許して~』
「はいはい、オーナーの作る賄いは美味いっすから、それでいいっすよ」
『はーい、じゃーねー』
ぷ、と電話を切って向き直る。
「バイト無しになった、お前らもう帰るんだろ?」
「うん、そのつもり」
紀田と園原も頷き、そのまま帰ることとなった。
途中、三人と別れた俺は今日は家の冷蔵庫が空だと言うことに気付き、その足で買い物へと向かった。