──我が剣、未だ空には至らず。   作:矢野優斗

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──武蔵(答え)は得た。大丈夫だよ読者の皆さん(遠坂)。俺もこれから(育成を)頑張っていくからさ。


というわけで……出ました。武蔵ちゃんが来てくれました。これも自分の作品を読んでくださった皆さんの応援のおかげ。本当にありがとうございました!


剣客少女と魔法の本

 ネギとアスナの危機を颯爽と救ってみせた紬は、帰り道も何も分からないため済し崩し的にネギと愉快な仲間たち一行に合流することになった。

 

 その際、紬が何処から図書館島に侵入したのかなど訊かれたものの、そこは散歩していたら迷い込んだという無茶苦茶苦しい言い訳で誤魔化した。能天気なまき絵は「紬ちゃんは方向音痴なんだね」と勝手に納得してくれるも、勉強は嫌いだが頭は悪くない夕映や勘の良いアスナあたりは訝しんでいたが。

 

 ネギと愉快な仲間たちに仲間入りした紬は列の後方につき、この場にいる面子の中で唯一()()()()()()()()()楓と情報交換に勤しんでいた。

 

「つまり此処は学園内にある図書館島内部で、皆は図書館島の深部にあると噂される魔法の本を手に入れるがため探検中と?」

 

「そんなところでござるな」

 

「なるほど、理解しました。夜中にこんな危なっかしい所に来たこととか、ネギ君連れ回していることとか、色々と文句はありますがここは飲み込みましょう。それに、楓と古菲ちゃんがいるなら万が一もそうそうないだろうしね」

 

 そう納得して紬は一先ず安堵の息を吐く。飛ばされてからネギたちと合流するまでに蓄積された疲労ゆえか、今の紬は常と比べると覇気に欠けている。

 

「随分と草臥れているでござるな、紬」

 

「そりゃあ草臥れもするわよ。知ってる? この下には忍者屋敷が可愛く思えるほどの迷宮が広がっているのよ? それを踏破してきた私を誰か褒めて、ほんと……」

 

「紬がそこまで参るほどの迷宮とは、参考までに内容を訊いても?」

 

 興味本位で楓が尋ねる。紬は待ってましたとばかりに空寒さを覚える笑顔で語り出した。

 

「そうね、手始めに棚が倒れてくるのや矢が飛んでくるなんてのは序の口。走っていたら床が抜けたり竹槍が突き出てきたり、ならばと棚を足場に跳んでいたら台風もかくやの突風が吹き荒れるわ、天井が迫ってくるとかね。えぐいのは瓦斯よ、瓦斯。あんなものどうやって切り抜けろっていうの!?」

 

 今にも血を吐きそうな勢いで紬はここまでの苦労を吐露する。実際にそれらの罠を体験してきただけあって言葉に込められた実感が凄まじい。

 

「それは災難でござったな……」

 

「ほんとよ。まあ甲賀の里のど真ん中に飛ばされた時と比べればまだマシかもしれないけれど」

 

「はっはっは、紬は存外根に持つ性質(タチ)でござるなぁ」

 

「三日三晩追い掛け回されて根に持たない方がどうかしてますから」

 

 うんざりと呟く紬と昔のことは忘れたとばかりにカラコロと笑う楓。二人の関係を説明するには三年ほど時を遡る必要がある。

 

 今から三年前、当時紬が十一の誕生日を迎えて暫くした時期。その頃から既に神隠しで世界各地へ飛ばされていた紬は、もう何度目か分からない神隠しに襲われた。

 

 飛ばされた場所は都市部から離れた山奥の里。そのど真ん中に空からダイナミックに登場した紬は、人類未踏の樹海でも銃弾が飛び交う紛争地でもないことを喜んだ。

 

 だがその喜びもすぐにぬか喜びに変わる。第一村人ならぬ里人に声を掛けようとしたらいきなり襲いかかってきたのだ。それも一人だけではない、その場に居合わせた者たち全員がである。

 

 縄やら網やら投げられては如何な紬とて呑気に話し合いなんて言っていられない。その場は取り敢えず撤退を決めたのだが、この場合は相手が悪かった。

 

 紬が飛ばされたのはただの山奥の里ではない、戦国時代より続く甲賀流の忍びが暮らす里であった。つまり追い掛けてくる者たちは殆どが手練れであり、幾度となく神隠しで世界各地に飛ばされてきた紬をして振り切れないほどの相手だったのだ。

 

 甲賀の忍者たちからすれば紬は侵入者。連綿と受け継がれる甲賀流忍術の秘伝を盗みにきた間者か何かかと判断し、取り敢えず捕縛に移るのは当然の帰結である。

 

 三日三晩野を駆け山を駆け、野宿すれば夜襲を受けて、何度か捕まりかけながらも繰り返し逃走。食事中に襲撃されたことで紬が本気でキレて徹底抗戦となり、最終的には間者の疑いも晴れて和解した。だが紬の心に刻み込まれた恐怖は根強く、今でもあの三日三晩のことを夢に見たりする。

 

「苦無やら鎖やら鎌が雨霰と降ってきた時はもう駄目かも知れないと思ったわ。恐ろしさで言えば分身合わせて百人近い忍者に追い掛け回された方が個人的にはトラウマですけど」

 

 実際に追い掛けていたのは十人程度だったのだろう。だがその誰も彼もが分身を使うものだから、紬の主観からすると百人近い忍者に追い掛け回されたようなものだ。

 

 そしてその中に、当時紬と同い年で修業中の身であった楓も居たのである。

 

「それを言うなら三日目の紬は悪鬼羅刹もかくやの迫力でござったからな。すわ修羅か何かを目覚めさせてしまったのではと思ったでござるよ」

 

「あの時は睡眠不足と空腹が重なって我慢の限界だったんです。お腹が減っている時に襲い掛かってきたら誰だって怒るでしょ?」

 

「気持ちは分からなくもないでござるが、里の半数を伸された此方の身にもなってほしいでござるよ」

 

 まさか間者と疑った少女が一転、鬼も裸足で逃げ出す形相で里に単独突撃かましてくるとは甲賀の者たちも想像すらしなかっただろう。その間者としてはあり得ない行動から話し合いの機会が生まれ、痛み分けのような形に収まったのだが。

 

 ともあれその後は詫びも兼ねて甲賀の里に一応客として数日ほど滞在させてもらい、美味しいご飯を頂いた。楓とも同年代ということでよく話し、手合わせやら修業やらもした仲である。

 

 紬と楓が呑気に駄弁っている間にもネギと愉快な仲間たちは目的地へと着実に歩みを進めている。

 

 湖を超え、崖の如き高さの本棚からロープ頼りに下へ降り、服がボロボロになるのも構わず狭い隙間を匍匐前進で進み、やっとのことで目的地に辿り着く。

 

 一行を出迎えたのはもはやどう取り繕っても図書館とは思えない、財宝でも眠っていそうな遺跡だった。

 

「いやいや、学園の地下に遺跡って嘘でしょ?」

 

「いやはや見事な造りでござるな。あの石像など、今にも動き出しそうな凝り具合」

 

 紬と楓がそんな感想を洩らしていると何やらネギが騒ぎ出した。

 

「あ、あれはメルキセデクの書!? 最高レベルの魔法書がどうしてこんな所に!?」

 

 こんな所で目にするとは思いもしなかった品の存在にネギが驚愕する。色々と不味い単語を口走っているのだが、そこは良くも悪くも能天気なバカレンジャー。ネギの発言よりも目先のお宝に飛びついてしまう。

 ただし紬と楓は戸惑い顔で視線を交わしていた。

 

「魔法書……」

 

「うぅむ、神隠しなるものがあれば魔法もあり得るのか?」

 

 片や魔法なる奇跡の存在を知る者。片や魔法は知らないが魔法と同じレベルの神隠し(奇跡)を知る者。ネギの迂闊な発言に引っ掛かりを覚えるのも致し方ないだろう。

 

 尽きない疑念に顔を見合わせていると前方から複数の悲鳴。何事かと二人が顔をそちらに向ければ、魔法書が置かれた台座に続く道が稼働し、渡ろうとしていたネギたちが下へ落っこちているところであった。

 

「ちょ、どうしてあんなあからさまに怪しい物に飛びつくかな!?」

 

「考え無しがうちのクラスの特徴でござるよ」

 

「要するにお馬鹿ちゃんなのね!?」

 

 即座にネギたちが落下した穴に駆け寄る。

 

 紬と楓の心配を裏切って穴自体はそう深くはなかった。落ちた面々も怪我はなく、二人はほっと胸を撫で下ろして自分たちも穴の下へ降り立つ。

 

 穴の下の床には何故か五十音表が彫り込まれていた。やや上の方を見れば英単語TWISTERの文字。途端に紬は肩の力が抜けた気がした。

 

「もう……ちょっと皆、逸る気持ちは分かりますけど不用心が過ぎるわ。これでこの穴が底なしだったらどうするつもりだったの?」

 

 紬は危なっかしい面々に注意を促す。ちょっと目を離すだけでこれなのだから、しっかり釘を刺しておかなければ何が起きるか分からない。

 

 などと紬がお姉さん風吹かしていたのも束の間。ズシン、と鈍重な音が響いたかと思えば頭上に影が覆い被さる。その場にいた全員が自ずと上を見上げれば、そこには岩石の大剣と大槌を構えた巨大な石像が一行を見下ろしていた。

 

 石像は奇妙な笑い声を響かせると喋る、いや声を発する。

 

『この本が欲しくば、わしの質問に答えるのじゃ!』

 

「せ、石像が動いたー!?」

 

「うそー!?」

 

「おおおお!?」

 

 各々がそれぞれの反応を示し動揺する中、動く石像は構わず早速問題を出し始める。

 

 最初こそパニックに陥っていた一行であるが、冷静になったネギの指示のもと楓を抜いたバカレンジャーが出題される英単語の意味をツイスターゲーム風に答えていく。順調とは言い難いが、この調子でいけば余程のポカでもしない限りクリアできるだろう。

 

 子供騙しのトラップに呆れていた紬であるが、可愛い女の子たちが組んず解れつツイスターゲームに打ち込む姿にグッとくるものを感じ、途中からは真剣な眼差しで見守っていた。

 

「紬、口元が緩んでいるでござるよ」

 

「おっと失礼。ところで楓は参加しないのかしら?」

 

 ちらっと横目に他人事のように様子を眺める楓を見やる。隣から刺さる視線に楓は素知らぬ素ぶりで顔を逸らす。

 

「はて、何のことでござろうか。なに、今の所手も足りているようでござるし、拙者の力は必要ないかと──」

 

「うわーん、ネギ君! どうやっても手が届かないよ〜!」

 

「えぇ!? ど、どうしましょう!?」

 

 何やら盤面上と外野でピンポイントなやり取りが発生。楓のこめかみをつーっと冷や汗が伝った。

 

「お呼びみたいでしてよ、忍者殿」

 

「いやいや、ここは拙者よりも紬殿が適任でござろうて」

 

「何を言う。里で身に付けた忍びの技にしがない剣士風情が敵うはずもありません。ささっ、どうぞいってらっしゃい」

 

 いい笑顔で送り出す紬。いつの間にか盤上の面々とネギからも期待の視線を向けられていて、いよいよもって楓は観念する他なかった。

 

「恨むでござるよ紬……」

 

「はいはい、いいから頑張ってらっしゃい」

 

 渋々の体で楓は盤面に上がった。それを観客気分で見送る紬であったが、その腕をくいくいっと引かれる。

 

「あの、紬さんも良かったら力を貸してくれませんか?」

 

 いつの間に側に来ていたのか、ネギが上目遣いで協力を求めてきた。

 

 美少年から上目遣いでのお願いとあっては紬に拒絶する選択などなく、輝かんばかりの笑顔で任せろと胸を叩く。

 

「ええ、勿論。ネギ君たっての頼みですもの。大船に乗ったつもりで任せて!」

 

 調子よく盤上に飛び乗る紬。先に参加していた楓の物言いたげな視線も何のその。前世知識と神隠しで飛ばされ続けたことで身に付いた語学力をもって軽々と問題に答えていく。

 

 出題された問題の数が十を超え、いよいよもって大詰め。石像が最後の問題を言い渡す。

 

『最後の問題じゃ。「DISH」の日本語訳は?』

 

「えっ……何でアルか?」

 

「古菲ちゃん、修行もいいけどもう少し勉強した方がいいかなぁ……」

 

 あまりにも壊滅的な古菲の語学力に紬も擁護できない。とはいえバカレンジャーの大半(夕映を除く)がそのレベルなので、古菲一人に限った話ではないが。

 

「アスナさん! 佐々木さん! アレですよ、ほら食べる時に使うやつ!」

 

「わ、分かった! おさらね!」

 

「うん、任せてネギ君!」

 

 比較的近いところに陣取っていたアスナのまき絵が文字盤を踏む。

『お』、『さ』ときて最後は『ら』。二人息を合わせて最後の文字盤に手と足をつく。

 

「「これで終わり!」」

 

 勢いよく文字盤を踏む二人。これで終わりかと紬が安堵しようとするも束の間、何やら「「あ……」」という如何にもやらかしたみたいな不穏な声が聞こえてきた。

 

「おさ『る』……」

 

「違うアルよ──!」

 

「アスナさん──!?」

 

「まき絵──!?」

 

 非難轟々、よりによって何故そこで押し間違えるのか。最後の最後で凡ミスを披露してしまって最終問題は不正解と相成る。

 

 問題に全て正解できなかった以上、魔法の書は手に入らない。だが事はそれだけでは済まなかった。

 

『ハズレじゃな。フォフォフォ』

 

 何やら奇天烈な笑い声を響かせて巨大な石像が岩石の大槌を振り上げる。次に何が起こるかは馬鹿にも分かった。

 

「させるかっ!!」

 

 即座に文字盤を蹴って木刀を構える紬。既に石像は槌を振り下ろし始めており、出鼻を挫くことはできない。紬に残された選択肢は受け止めることだけだった。

 

「ぐっ──!?」

 

『フォウ──!?』

 

「紬さん!?」

 

 木刀を頭上で交差させ、大槌の柄の部分を受け止める。凄まじい衝撃が全身を貫くが、そこは幾多もの修羅場を潜ってきた剣者。衝撃の大半を地面へと流して不敵に笑う。

 

「ふっ、この程度、なんてことないわ!」

 

 大槌を叩き返してやらんと地面を思いっきり踏み込んで──ミシッと。

 

「「「「「え?」」」」」

 

 力の限り紬が踏み込んだ足元から嫌な音が鳴り、蜘蛛の巣状に皹が広がる。罅割れはあっという間に文字盤全域を走り尽くし、ほんの些細な刺激で崩れかねない状態にまでなった。

 

 こうなれば次に何が起こるかは馬鹿にも分かった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

「えっと、ごめんね?」

 

 顔を引き攣らせる面々に茶目っ気混じり紬が謝るのと、辛うじて形を保っていた足場が崩壊するのは同時だった。

 

「「「「「紬ちゃーん!?」」」」」

 

「これって私のせいなのぉ!?」

 

 そんな絶叫を残しながら一行は底の見えない縦穴に落ちていくのだった。

 

 

 

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