──我が剣、未だ空には至らず。   作:矢野優斗

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遅まきながらヘブンスフィール見てきました。いやぁ、やっぱ兄貴はカッコいいですね。二部が楽しみです。


剣客少女と図書館島地下

 ネギと愉快な仲間たちが落下した先に広がっていたのは、一言で言えば楽園であった。図書館島探検部の綾瀬夕映曰く──地底図書室。

 

 地下深くであるにも関わらず温かい光に満たされ、数々の貴重書に溢れた読書家にとっては垂涎の楽園。おまけに食料やトイレにキッチンが完備されているという、百歩譲って図書室であったとしても至れり尽くせりが過ぎる場所だった。

 

 ただし夕映曰く、この図書館を見て生きて帰った者はいないらしい。だったら何故夕映は知っているのかという疑問は湧くが、その言葉通りこの図書館から抜け出す道はなかった。それは落っこちてすぐに全員で隅々まで探索したので間違いない。

 

 脱出経路もない地下図書室に閉じ込められたとあって一行は不安を抱き悲観しかけるも、ネギが担任らしく精一杯励ましの言葉を掛け、こんな時こそ期末に向けて勉強しようと提案したことで持ち直し、今現在はネギ指導のもと勉強に励んでいる。

 

 幸いというか地下図書室にはご丁寧にも全教科のテキストが揃っており、勉強自体は問題なく捗っている。地下図書室の空気が無駄に快適なのもあってバカレンジャーにしては真面目に勉強に打ち込んでいるのもいいことだろう。

 

 バカレンジャー+このかが一生懸命勉学に努めている一方、元から成績が大して悪くない紬はネギと同じくサポートに回っていた。と言ってもやることと言えば食事の用意や衣服の洗濯ぐらい。残りの時間は滝やら何やらあるのをいい事に修業に充てている。

 

「…………」

 

 轟々と音を立てる滝のど真ん中。衣服を取っ払って手頃な岩の上に座禅を組んで座り込み、大質量の滝に打たれながら瞑想をする。

 

 紬が目指すは無空の境地。空とは即ち無の観念。無念無想の域に至り、そこから更に先へ行かねばならない。紬は未だその域には達していない。精々が明鏡止水一歩手前がいいところだろう。

 

 心を完全に無にすることも未だ成せず。あらゆる邪念、想念を断ち切らねば無念無想の領域にすら及ばないというのに、しかし紬の心は微かな焦燥に支配されていた。

 

 このままでいいのか。果たして自分は無空の境地に至ることができるのか。一体全体何がどう不足しているのか。分からないまま、ただ心の赴くまま、風に流される雲のように生きてきた。

 

 更なる高みを目指すためにより強い達人たちとの立ち合いを繰り返し、生き抜くために死に物狂いで剣の腕を磨いた。されど未だこの身は奥義開眼に至らず、当てもなく霧中を彷徨っている。

 

 完成形(終着点)は知っているのに、どうしてもそこに辿り着けないもどかしさと不甲斐なさ。焦りは瞬く間に広がっていき、無念無想の境地すら遠のいてしまう。

 

 こんな事を考えてしまっている時点で無念無想の境地に至れるはずもなし、これ以上は時間の無駄と判断して滝行を切り上げる。

 

 滝の中から抜け出して水際近くの大岩に用意してあったバスタオルで体を拭く。トイレとキッチンだけに飽き足らずある程度の日用品まで完備しているのはやはり図書室の範疇を超えていると言わざるを得ない。もう住んでも問題ないレベルである。

 

 水気を含んだバスタオルを絞っていると、此方に近づいてくる人の気配。歩き方や足音の大きさから相手が誰か看破した紬は、さっと体にバスタオルを巻いて相手を出迎えた。

 

「どうかしたのネギ君。何か用事でもあった?」

 

「あ、紬さ……ん……。ご、ごめんなさい! 水浴びしてる最中でしたか?」

 

 バスタオル一枚を身に纏っただけの紬を見て、ネギは顔を真っ赤にして後ずさる。そんなネギに紬は気にするなと笑いかけた。

 

「いいよいいよ、気にしてないからさ。それより勉強会は?」

 

 手招きして隣に座るよう促しながら勉強会の進捗を訊く。ネギはバスタオル一枚の紬に緊張を覚えつつ、人一人分の間隔を空けて腰を下ろした。

 

「そうですね、皆さんとてもよく頑張ってます。この調子なら期末テストは赤点脱却のみならず、今までにない点数を取れるかもしれません」

 

「それは重畳。ネギ君の教えが良かったんだろうね」

 

「そんなことないですよ。僕がもっとしっかりしていれば、みんなをこんな所に連れてきてしまうようなことにはならなかった。不甲斐ないです」

 

「誰もネギ君のせいだなんて思っていないわよ。此処に来てしまったのは色々と不幸が重なった結果です。むしろネギ君はよく頑張ってます。私が保証するわ」

 

 地下図書室に落ちてからのネギはアスナたちに勉強を教える傍ら、自分なりに脱出方法を模索している。その頑張りを紬はよく知っていた。

 

 むしろ不甲斐ないのは自分の方だと紬は肩を落とす。

 

「ネギ君は悪くない。むしろあの時、きちんと対処できなかった私にこそ責任はあるわ。もっと早く動いていれば大槌ごと切り飛ばすこともできたでしょうに、ただの遊戯だと油断した私の手落ち。ほんと、情けない」

 

 深々と溜め息を吐く紬。お遊びのような課題だからと気を抜いてさえいなければ、魔法書は手に入らずとも無事に帰ることができていたはずだ。それができなかったのは己の過ち。紬が地下図書室に落ちてから暇な時間の大半を修業に充てているのはその反動でもある。

 

 紬にしては珍しく落ち込んでいると、隣に腰を下ろすネギが違うとばかりに首を振った。

 

「紬さんが悪いなんてそれこそ間違っていますよ。あの時、紬さんはみんなを守ろうとして動いてくれたんですから。あのまま大槌が振り下ろされていれば、それこそ怪我人が出ていたかもしれません」

 

「そうかな? そう言ってもらえると少し気が楽になるわ」

 

 あの時の自分にそこまでの考えがあったかは不明だ。何せ紬は剣者、突き詰めればあの場にいた誰よりも人でなしである。それこそ忍びである楓よりも、そのあたりの感性はシビアである自覚があった。

 

 だからこそ紬は誰かに頼られるのが好き。もっと言えば誰かに頼られることで()()()()()()()。誰かのために剣を振るっている時だけは皆と同じ、人間であれるような気がするのだ。

 

 だが、もしも目の前に運命(別れ道)が現れたならば、きっと自分は人ではなく剣の道を選んでしまうだろうと紬は確信していた。根拠はないが、宮本武蔵()に魅入られた自分は目指すべき場所に辿り着くまで止まれない。そういう人間だったからこそ、神なるモノに選ばれたのだろうと。

 

 何れ辿り着くであろう極地、されど何時至るかも分からない見果てぬ境地。遠く険しい道のりを往く途中で、救いようのない剣鬼に堕ちていくのは必定。そこに寂寥を覚えないかと言えば嘘になる。

 

 紬が未だ奥義の開眼に程遠いのは技術面だけではなく、そういった精神面の問題もあるのだろう。

 

 小さく嘆息を洩らして紬は立ち上がる。いい加減服を着なければ風邪を引きかねない。何より、ネギの心臓にも悪いだろう。

 

 顔を真っ赤にして「見ちゃダメだ、見ちゃダメだ……」なんて呟いているネギをもう暫く眺めていたい気持ちはあるが、意地悪も程々にしなければならない。今後の教師と生徒の関係のためにも。

 

「あ、そうだネギ君」

 

 その場を去る前に紬は一言、常と変わらぬ笑顔を浮かべて言った。

 

「どうしようもなく困った時は遠慮なく頼ってね、ネギ君」

 

 

 ▽

 

 

 期末試験を目前に控えた日曜日にもなってくるとさすがに焦りが募り始める。勉強についてはネギの指導もあって至って順調であるが、それも地下図書室を脱出できなければ意味がない。

 

 状況に動きが出たのは、何か手立てはないかと悪足掻きを承知で紬が地下図書室内を探索していた時だった。

 

「キャ────!」

 

「この声はまき絵ちゃん!?」

 

 図書室内に響き渡るまき絵の悲鳴。紬はすぐさま踵を返して悲鳴の発生源へと急行する。

 

 巨大な木の根や本棚を足場に駆け抜け、地下図書室中央に広がる水場に辿り着くと、そこには目を疑うものがあった。

 

「あの石像、一緒に落ちていたの!?」

 

 自分たちを地下図書室へ落とした動く石像が、水浴び途中だったのだろうまき絵をその手で鷲掴んでいた。周囲には他の面々も集っており、まき絵を救出せんと動いている。

 

 紬はその中の二人、古菲と楓に目配せを送り、駆ける勢いそのままに石像を背後から急襲する。

 

『フォフォフォ、諦めるのじゃ──』

 

「それはこっちの台詞よ、変態岩人形!!」

 

『フォウっ!?』

 

 背後から叩きつけられる怒気と叫びに石像の注意が逸れる。その一瞬、古菲が石像の懐に踏み込んで強烈な一撃を叩き込んだ。

 

 中学生少女の拳とは思えぬほどの剛拳を受け、石像が堪らず体制を崩す。そこへ後方から跳躍してきた紬が二振りの木刀を峻烈に閃かせる。

 

 目にも留まらぬ斬撃はまき絵を鷲掴む石像の腕を下からかち上げ、捕まっていたまき絵はその拍子に空中へ放り出される。そんなまき絵を楓がすかさず受け止め、即座に撤退した。

 

「まき絵ちゃん、怪我はない?」

 

「うん、大丈夫! それより見て見てコレ!」

 

 そう言って楓に横抱きにされるまき絵が見せたのは見覚えのある一冊の本。というか、見間違いでなければ上で石像が守っていたメルキセデクの書であった。

 

 どうやら石像と一緒に地下図書室へ落ちていたらしく、石像の首元に引っかかっていたのをまき絵が救出された一瞬で釣り上げたらしい。恐るべきはまき絵の異常なほどに達者なリボン使いか。

 

『い、いかん! その本を返すのじゃ〜!?』

 

 声色に焦燥を滲ませて動く石像が追ってくる。巨大な石像ゆえにそれほど速くはないが、迫力だけは凄まじい。

 

 ネギたちが一目散に背を向けて逃走しようとする中、紬は木刀を構えて石像の行く手に立ちはだかった。

 

「貴方たちは先に行って着替えていらっしゃい。あと、もう一度だけ皆で図書室内を調べてみて。もしかしたら隠し通路の類があるかも。時間は私が稼ぐわ」

 

「紬さん!? 何をしているんですか、あなたも逃げてください!」

 

 ネギからすれば紬の行動は無謀以外の何物でもない。しかし紬は肩越しに振り返ると自信満々の笑みを浮かべ、石像へと躊躇いなく踊りかかった。

 

「せいっ!」

 

『ファフォウ!?』

 

 よもや真っ向から立ち向かってくるとは予想だにしなかったのか石像の動きが鈍る。紬は恐れることなく突貫、二刀をもって怒涛の連撃を繰り出す。

 

「むっ、この石像、無駄に硬いわね」

 

『フォフォフォ、無駄じゃよ……ちょ、痛い。少しは加減をせんか?』

 

「襲ってきておいて言う台詞?」

 

 捕まえようと伸びてくる石像の手をひらりひらりと躱し、比較的脆そうな関節を狙って木刀を振るう。しかしどういうわけか、返ってくる手応えがただの石像にしては硬い。動くだけあって材質もそこらの岩石とは違うようだ。

 

 いくら攻撃を加えても意味がない。むしろ攻撃している木刀の方が先に音を上げそうだ。これが真剣ならば石像程度に梃子摺りはしないのだが……。

 

「無い物強請りをしてもしょうがない、か……むっ、唐突に閃いた!」

 

 ピコーン! とばかりに頭上に電球を灯し、紬は再び石像に特攻。掴みかかってくる腕を掻い潜り、石像の兜の如き頭部、正確には覗き穴に狙いを定める。

 

「その眼、貰い受ける!」

 

『ぬわっ!? ま、待つのじゃ、それは洒落にならんぞ!?』

 

「問答無用!」

 

 石像の制止にも構わず木刀の先端を兜の隙間に突き込む。人間ならば眼球を貫通して頭部を串刺しにされる一撃。幸い相手は動く石像なので悲惨な状態にはならないものの、これで視界は潰れるだろうと紬は当たりをつけていた。

 

 しかし、

 

『フォウ……なんと恐ろしいことをするのか。心臓が止まるかと思ったぞい』

 

「石像に止まる心臓なんてないでしょ!」

 

 顔から木刀を生やしながらも堪えた様子のない石像に舌打ちを一つ。石像の胴体を蹴り、頭部に突き立てた木刀を抜きながら距離を取る。

 

 改めて石像と対峙する紬。その表情に焦りの類はない。無駄に硬いため倒すのは無理だが、石像自体には大した脅威を感じないからだ。時間稼ぎだけならば丸一日でも可能だろう。

 

 ズシン! と鈍重な音を立てて迫り来る石像に紬が身構えると、後方からネギの呼び声がかかった。

 

「紬さん! ありました、非常口がありました! 滝の裏です!」

 

「え!? 滝の裏!? うっそぉ!」

 

 紬が驚くのも致し方ない。何せ彼女が修業のために使っていた滝の裏だ。非常口なんて代物があれば気づかないはずがない。

 

 しかし現実にネギたちが見つけた以上、滝の裏に非常口があるのは間違いないのだろう。石像もネギの言葉を聞いてあからさまに動揺しているし、ここは四の五の言っている場合ではない。

 

「分かった、すぐに行くわ!」

 

『い、いかん。待つのじゃ〜〜!』

 

「待てと言われて誰が待ちますか!」

 

 即座に踵を返して紬は律儀に非常口の前で待っているネギの元へ走る。他の面々は既に非常口内部なのだろう。

 

「ネギ君!」

 

「紬さん! みんなは先に行っています、僕たちも早く追いかけましょう!」

 

「もっちろん!」

 

 頷いて紬はネギと共に非常口へ飛び込む。

 

 非常口は地上へと続くように伸びる螺旋階段であった。見上げれば三階ほど上のあたりにアスナたちの姿がある。

 

「あそこね。でも、どうしてあんなにもたついているのかしら」

 

「それが、階段の途中に扉が幾つもあって。問題に答えないと開かない仕組みなんです」

 

「お馬鹿五人衆には致命的すぎる障害じゃないかしら!?」

 

 なるほど、それならばもたついているのも納得だ。階段の途中にそんな扉が幾つもあれば時間も食おうもの。

 

 階段を駆け上がりながら紬は頬を引き攣らせる。しかし地下図書室に落ちてからバカレンジャーの勉強を見てきたネギはそこまで心配していないのか、先を往くアスナたちに信頼の眼差しを送っていた。

 

「大丈夫です。僕も以前のアスナさんたちだったら心配でしたけど、今のみんななら心配いりません」

 

 その発言通り、アスナたちは扉の問題に正答しては上へ上へと登っていく。側から見る限りでは問題なさそうだ。

 

「よくもまあこの短い時間であそこまでできたものね。皆、普段からちゃんと勉強していればこんなことにはならなかったんじゃないかしら……」

 

「あはは、そこはちょっとコメントに困るというか……」

 

 こればかりはネギも苦笑いを返す他なかった。

 

 と、紬とネギが先を往くアスナたちを追いかけていると、一階下の壁が轟音を立てて崩れ落ちた。崩壊した壁から姿を現したのは動く石像である。

 

『待てー、本を返すのじゃー!』

 

「アレもほんとしつこいわね……」

 

「あの声、やっぱりどこかで……」

 

 鈍重な動きで階段を上がってくる石像に辟易とする紬と首を捻るネギ。先を往くアスナたちも石像の登場に気づき、騒ぎ始めている。

 

「やっぱりここで足止めした方がいいわね。ネギ君、君は先に──」

 

「──ダメです。行きますよ、紬さん」

 

「え、え? ちょっ、ネギ君?」

 

 木刀を構えようとした紬の手を取り、ネギは半ば強引に階段を上り始める。常にない強引な態度に紬は驚きを隠せない。

 

「いや、でも誰かが足止めしないと追いつかれて」

 

「大丈夫です。見る限り、動く石像(ゴーレム)の動きは遅い。僕たちの足ならまず追いつかれることはありません。だから、紬さん一人が無茶をする必要はないんです」

 

「ネギ君、君は……いえ、そうですね。先生の言う通り、すこし意固地になっていたわ。ごめんなさい」

 

 冷静になればネギの言う通りである。普通に走って追いつかれないのに、わざわざ紬が一人で足止めをする必要性はない。そのあたり、地下図書室へ落とされたことを根に持っていたのだろう。己の未熟さに紬は情けなくなった。

 

 それもネギの言葉でなくなり、あんな硬いだけの鈍間に対する執着は綺麗さっぱり払拭された。代わりに紬は自身の手を握るネギの小さな手をぎゅっと握り返し、

 

「でも、どうせ追いつかれないのならもっと引き離した方がいいよね、ネギ君?」

 

「えっ! つ、紬さん!?」

 

 小柄なネギの体を横抱きにし、得意満面の笑みで階段を爆走する紬。合法的に美少年(ネギ)と密着できていることも相まって調子は絶好調。抱えられるネギは柔らかいものが顔やら腕に当たって内心気が気ではないが。

 

 石像なんて目じゃないほどの速度で階段を駆け上がる。殆ど紬の全力での疾走によって一分とかからずアスナたちに合流し、ネギの体勢についてやんややんや言われるもすっとぼけ、改めて全員一丸となって階段を上っていく。

 

 それから一時間近く。さすがに一同の顔色に疲労の色が見え隠れし始めたところでそれは現れた。

 

「あ、あれは! みんな、見てください!」

 

 ネギが指差す先。そこにあるものを見て一同が驚愕の声を上げた。

 

「「「「「ち、地上への直通エレベーター!?」」」」」

 

 此の期に及んでまさかのエレベーターである。色々と文句は山ほどあるが、状況が状況だ。一同は藁にも縋る思いでエレベーターに乗り込み──

 ──ブブー! 重量OVERデス。

 

「「「「「うそおおおお!?」」」」」

 

 無情にも告げられた事実にうら若き乙女たちは絶叫した。

 

 まさか二日間の飲み食い生活が祟ったのか、勉強ばかりで運動をしていなかったツケが回ってきたのか、それとま単にエレベーターが根性なしなのか。何にせよこのままではエレベーターが動いてくれない。

 

「待って、みんな! 見て、片足出すだけでブザーが止まる。あとちょっとで動くから、持ってるものとか服を捨てて!」

 

 珍しく機転を利かせたアスナがそう言えば、元がお馬鹿な面々は疑いもせず服を脱ぎ捨てていく。紬もそれで動くのか半信半疑になりつつ衣服を捨て、下着だけの姿になる。

 

 困るのはネギである。右を見ても左を見ても殆ど裸に近い少女たちがいるのだから、目のやり場に困ってしまう。挙句、それだけのことをしたにも関わらずなおもブザーが止まらないのだから踏んだり蹴ったりだ。

 

 そうこうしているうちに動く石像が追いついてしまった。

 

『フォフォフォ、追い詰めたぞよー』

 

「キャー! 出た──ッ」

 

 いよいよもって逃げ場もなくなり、打って出る他ないかと紬が立ち上がりかけた時、エレベーター内から飛び出す小さな影。身の丈を超える杖を手にネギが動く石像に立ち向かった。

 

「僕が降ります! 皆さんは先に行って明日のテストを受けてください」

 

「えっ!?」

 

「ネギ君!?」

 

「ネギ!? あんた何言って!」

 

 無謀にもネギは自分一人が残って生徒を守ろうとする。それはネギが先生だから。先生が生徒を守るのは当然の行いだ。

 

 だが、この場においてネギの勇気を黙って見ていられない者たちがいた。

 

「あう!?」

 

 勢い勇んで飛び出たネギが首根っこを二つの手が掴み、エレベーター内へと引き摺り戻す。下手人はアスナと紬だ。

 

「何してるのよバカネギ。あんたがいないまま期末受けてもしょーがないでしょーが。こういう時ばっかカッコつけたがりなんだから!」

 

「そうね。それに、さっきは人に一人で無茶する必要ないなんて言ってくれたのに、自分は無茶しようとするのは頂けないわ」

 

「えうっ、でもこのままじゃ動く石像(ゴーレム)が……」

 

「そんなの……」

 

「まあ、仕方ないよね……」

 

 アスナと紬が何かを投げるように振りかぶる。その手にあるのは魔法の書と得物である木刀だ。

 

「こうするのよ──!!」

 

 アスナが石像目掛けて魔法書を投げつける。紬は最後の悪足掻きに木刀を石像の顔面に狙いを澄まして投擲した。

 

 魔法の書と木刀二本分の重量が減ったことで積載限界量を下回ったのか、ブザーが鳴り止みドアが閉まっていく。閉まりゆくドアの隙間から石像が情けない悲鳴を上げて落下していくのを見届け、紬はとりあえず溜飲を下ろした。

 

 ともあれエレベーターは上へ向けて動き出し、数分と経たずして地上に到着した。一行は久方ぶりの地上の空気に歓喜し、外に出られたことを喜び合うのだった。

 

 

 ▽

 

 

 その後の顛末を語ろう。

 

 バカレンジャーと図書館島探検部はラストスパートとして徹夜の勉強会を執り行い、当日に寝坊して遅刻するも無事にテストを受けた。しかし結果は最下位脱却ならず、ネギは責任を取って故郷へ帰ろうとする。

 

 だがその結果は学園長の手違いによる間違いであり、集計し直した結果はなんと第一位であった2年F組を僅差で超えて2年A組が一位をもぎ取った。ネギは故郷に帰る必要はなくなり、正式な教師として認められることと相成ったのだ。

 

 めでたしめでたし──とは、ならなかった。

 

「で、どういうことかキリキリ説明してもらおうか?」

 

「えぇっと千雨ちゃん。私、色々あって今日のところはもう休みたいなぁ、なんて」

 

「吐け」

 

 宮本紬の受難はまだまだ終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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