──我が剣、未だ空には至らず。   作:矢野優斗

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ギリギリまで粘る。十一月になって呼符を手に入れ、そこからが勝負どころよな。
ところで話は変わりまするが、またなんか奇天烈なイベントが始まりますねぇ。いったいどうなることやら。


剣客少女とお嬢様

 波乱に満ちたネギ少年の初授業が終わって放課後、紬のもとにはネギほどではないものの多くのクラスメイトが転校生恒例の質問責めをせんと詰め掛けていた。

 

 紬としても早いうちにクラスに馴染みたいのもあって次から次へと投げ込まれる質問の数々に丁寧に答えつつ名前を覚えていく。

 

 質問の内容は出身から好きなこと嫌いなこと、彼氏はいるのかや先の身のこなしについてなど多種多様。その中でも注目を浴びたのはやはり最後の質問だろう。

 

 質問を投げかけてきたのは小麦色の肌を持つ明るい雰囲気の少女。紬が相当な遣り手だろうと当たりをつけた一人だ。名を古菲という中華からの留学生である。

 

「紬は何か武術をやってるアルか?」

 

 スポーツや運動をすっ飛ばして武術と問うてきたあたり、彼女も何かしらの武術を嗜んでいるのだろう。それは面と向かいあったことで確信が持てた。

 

「ええ、剣を振ったりしています。流派は“二天一流”、これでも腕には結構自信がありましてよ?」

 

 側に置いてあった木刀入りの長袋を手に、自信に満ちた笑みを浮かべる紬。その発言に集まっていたクラスメイトが何だか凄い! とばかりに声を上げる。

 

 気を良くする紬に古菲は好奇心と僅かな挑発を交えた笑みを浮かべた。

 

「なるほど。よければ一度手合わせしないアルか? ちなみに私は中国拳法を嗜んでるアルよ 」

 

「徒手空拳ですか。いいわ、むしろ望むところよ!」

 

 剣者として生きる紬にとって強者との戦いはむしろ望むところ。“宮本武蔵”が至った無空の境地に至るためにも、腕に覚えのある強者との立ち合い以上に修練と経験の積み重ねになるものはないだろう。

 

 そんな中で古菲からの申し出。正に渡りに船、願ったり叶ったりという他ない。

 

 今にもおっ始めそうな雰囲気の紬と古菲。その間に一人の女生徒が勢い勇んで割り入った。

 

「ちょっとお待ちになってお二人とも」

 

 火花を散らす二人の間に入ったのはお嬢様然とした雰囲気の少女。先の授業においてアスナとオジコンだショタコンだで争ったうちの後者、クラス委員長である雪広あやかである。

 

「古菲さん、親睦を深めるのはよろしいですが紬さんはまだ転校してきたばかりの身。まだ勝手が分からない状況でしょうから、お手合わせよりまずは新しい環境に慣れることを優先するべきですわ。紬さんもそうではなくて?」

 

「むむ、確かに……」

 

 紬はまだ麻帆良に来たばかりで何処に何があるのかも分からない状況。あやかの言葉にも一理あるだろう。

 

 しかし折角目の前に用意されたご馳走(手合わせ)を取り上げられるのは何とも言い難く、紬と古菲は揃ってご飯を取り上げられた子犬のような顔をする。

 

「そんな顔をしても駄目です。これは紬さんのためでもあるのですから。ところで紬さん、この後お時間ありまして? よろしければ私が校舎の案内をしてさしあげますわ」

 

「え、ほんと? それはすっごく助かるけど、いいの?」

 

「勿論。私たちはもう同じ教室で学ぶ仲間ですもの。何より私はこのクラスの委員長。転校生がより早くクラスに溶け込めるよう務めるのは当然でしてよ」

 

 オホホホなんて如何にもお嬢様といった具合に笑うあやかであるが、その実ただの世話焼きな良い人である。実際、彼女はお嬢様であるがそれを鼻にかけることもなし、アスナ絡みの喧嘩ととある嗜好にさえ目を瞑れば模範的な優等生だ。

 

「そうね、私もまだ麻帆良のことを把握できているわけではないから、校舎内だけでも案内してもらえるのは助かります。ご厚意に甘えさせてもらってもいいかな、あやかちゃん?」

 

「ええ、勿論! ……ところで、そのちゃん付けはちょっと遠慮していただけると」

 

 少しばかり恥ずかしげに言うあやか。中学生にもなって同年代からちゃん付けで呼ばれるのは少々面映ゆいものがあったらしい。

 

「あ、いきなり馴れ馴れしかったか。ごめんね、どうにも癖で女の子にはちゃんを付けたくなっちゃうのよねぇ」

 

 転生者である紬からすれば肉体的には同年代であっても精神的には年下になるため、どうしても相手にちゃんやら君を付けてしまう。こればかりは常日頃から意識しなければ治りようがない。

 

「と言うわけで、折角のお誘いだけど手合わせはまた今度。ごめんなさい、古ちゃ……古菲ちゃん」

 

 親しみを込めて古ちゃんと呼びかけて止める。何となく、自分が誰かをくーちゃんと呼ぶのは色々と不味いと直感したからだ。こう、ピンクの女王様的に。

 

「仕方ないアルね。手合わせはまた暇な時、楽しみにしてるアルよ」

 

 古菲も転校してきたばかりの紬を気遣い、この場は大人しく引き下がった。

 

「では紬さん、早速行きましょう。麻帆良全体と比べれば小さなものですが、それでも中等部の校舎も広いものですから」

 

「そうね。善は急げとも言うし、さくっと校舎を見て回りましょう」

 

 やや強引なあやかの態度に内心で首を傾げつつ席を立ち、あやかの先導のもと教室を出る。その際、あやかがクラスメイトたちに意味深な目配せを送っていたことに紬は気づいていたが、特に悪意も感じなかったので流した。

 

 

 ▽

 

 

「──とまあ、こんなところでしょうか。部活動の類はご自分の目で確かめた方がよろしいでしょうから、また後日に回させていただきますが、案内すべきところは以上ですわ」

 

「うーん、田舎のオンボロ校舎とは比べ物にならないわね。特別教室の数だけでもうちの倍はあるし、さすが都会、学園都市というだけあるわ……」

 

 粗方校舎内を回り終えた紬は転校前の校舎とは麻帆良の校舎の格の違いに圧倒されていた。

 

 まず綺麗。隙間風は吹かないし、雨漏りもしない。設備も最新鋭といっても過言ではなく、教室の広さ一つとっても紬が通っていた中学とは比べ物にならないものだ。

 

「何と言ってもここは日本有数の学術都市ですから。それに我が雪広財閥も経営に携わっている以上、学生諸君が思う存分学業に励める環境を作り上げるのは当然のことでしてよ」

 

「雪広財閥……やっぱりあやかは生粋のお嬢様なのね。いえ、それはともかく。その心意気は素晴らしいものだと思います。まだ中学生なのに確固たる芯を持っているその在り方、心から尊敬致しますわ」

 

「そんな大袈裟でしてよ、紬さん」

 

 ど直球な紬の言葉にさしものあやかも照れを隠せない。

 

「私、あやかとは何だかとっても仲良くなれる気がするわ」

 

「ええ、それは私も同じですわ。こうして校舎をご案内して気づいたのですが、私たちってどことなく似ている気がして……こうシンパシーめいたものを感じるというか」

 

「あやかも? 私もどことなく近いものを感じていたのよね。私たち、気が合うのかも」

 

 笑顔でそんなことを口にする紬とあやか。あやかの親友といっても過言ではないほどに付き合いの深いアスナならば、二人の間に生じた共感(シンパシー)の正体に思い当たるかもしれないが、生憎と今はこの場にいない。長谷川千雨(ツッコミ役)も不在なため二人の謎の共感の正体は知れないままだ。

 

 ただ、一言で二人の関係を的確に表すのならば──混ぜるな危険。

 

「さて、そろそろ戻りましょうか。いい加減、日も傾いてきたし」

 

「そうですわね。そろそろ頃合いでしょう」

 

「ん、頃合い? 何が?」

 

 あやかの呟きに疑問符を上げて、紬は2年A組前の廊下に見覚えのある二人を認めた。ネギとアスナの二人である。

 

「あら、二人ともどうしたの? そんなところで固まって」

 

「ぇうっ!? つ、紬さん!? べ、別に何もありませんよ? アスナさんにバレちゃったとかそんなことありませんから!」

 

「あ! このバカ!?」

 

 パニックになって余計なことまで口走りそうなネギの口がアスナの手で塞がれる。しかし既に事の半分近くを口にしてしまった時点で紬とあやかの追及は避けられない。

 

「んー? バレちゃったって何が?」

 

「ネギ先生、もしやそこのおサルさんに何か有らぬ弱みでも握られてしまったのですか?」

 

「誰がおサルさんよっ!?」

 

 ムキーッと顔を真っ赤にして怒るアスナ。そういうところがおサルなのでしてよ、とあやかが火に油を注ぐことで悪化。ネギと紬を蚊帳の外に本日二度目のキャットファイトが始まってしまった。

 

「あわわわっ、二人とも喧嘩はダメですよ!?」

 

 慌ててネギが止めに入ろうとするも無駄に身体能力の高いアスナと人並みに武道を修めているあやかが相手では割り込めない。仕方なしに背中の杖に手を伸ばしかけるも、それよりも先に紬が二人の首根っこを掴んで仲裁する。

 

「こらこら、華の乙女が子供の目の前でみっともない。ネギ君も困っているでしょ?」

 

「うぐっ……」

 

「私としたことが、お恥ずかしい……」

 

 何とか冷静に戻ったあやかは埃を払い、気持ちを切り替えるように咳払いを一つした。

 

「これ以上、ネギ先生にご迷惑をお掛けするわけにもいきません。今日のところはこのぐらいにして、早くお二人を教室に案内しますわよ、アスナさん」

 

「……? 案内?」

 

「……アスナさん。もしかしなくても忘れていますわね」

 

 ほとほと呆れ果てたと言わんばかりにこめかみを押さえ、あやかがこれ見よがしに嘆息した。その態度にカチンときたのかアスナが言い返す。

 

「わ、忘れてなんかいないわよ? アレでしょ、アレ? ちゃーんと覚えてるに決まってるじゃない」

 

「アスナさん、忘れちゃったんですね」

 

「忘れてないって言ってるでしょ!?」

 

 ネギの何気ない指摘にもムキになって反論する。その反応が如実に物語っていることに当人は気づいていない。

 

「はぁ、もういいですわ。アスナさんは自分の手にある買い物袋が何なのかを思い出すまで廊下に立っていてくださいまし。ささ、ネギ先生、紬さん。どうぞこちらへ」

 

 あやかに促されてネギと紬は互いに顔を見合わせ、それから最初と同じように教室の戸をスライドした。すると次の瞬間──

 

「「「「「ようこそ! ネギ先生! 紬ちゃん! 」」」」」

 

 鳴り響く無数のクラッカーと舞い散る紙吹雪、そしてこっちまで元気になりそうな歓迎の声。予想だにしていなかった展開にネギは呆然と立ち尽くし、紬は背中の長袋に伸ばしかけていた手を引き戻して照れ笑いを浮かべた。

 

「粋なことしてくれるじゃない、あやか?」

 

「ふふっ。クラス委員長として、サプライズにも全力を注ぐのは当然ですわ。とは言え、私一人で企画立案したわけではなく、2年A組全員で用意した歓迎会ということをお忘れなく」

 

 悪戯っぽく笑ってみせるあやかに紬も自然と笑みが零れる。自分で思っている以上に、紬は目の前の少女のことが気に入ったらしい。

 

「お気遣いありがとうございます。目一杯、面白おかしく過ごさせてもらうわ! さ、行こうかネギ君?」

 

「はい!」

 

 呆けていたネギを伴って紬は新たなクラスメイトたちと親睦を深めるべく、クラスの輪に溶け込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




近しいものを感じても物騒な発想にならないあたり、武蔵との違いが若干出ています。まあむしろ悪化しているかもしれませんが。
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