人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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導入部分となります


虚ろなる世界の外側では、そういうゲームが流行っています

世界を変えるには、世界の当事者になることが一番効率がいい


序章 虚ろな魂・至高の器
無銘の魂と黄金の輝き


終わりとは、存外早くに訪れるものである。

 

 

そう、自分は今、死を迎えたのだ。

 

 

どんな死に方だったのかは、明確には覚えていない。

知覚できなかったのだ。あまりにも単調かつ、突然であったがゆえに。

 

取り立てて優れた能力はなく、取り立てて優れた人格でもない。

 

数多に溢れる『凡人』の謗りを受けるであろう、取るに足らない何者かだったからか。

 

それとも――或いは。

 

魂と呼べるものが、あまりにも代わり映えしない平凡な生活に、錆びきってしまったのか。

 

どこか、他人事のような感覚さえ覚える。

 

無価値、とは自分のためにあるような言葉なのだろうか。

 

――あぁ

 

口惜しい、と感じるのは何故だ。

 

 

生きたい? 違う、そんな執着はもう何もない。

 

家庭も持たず、ただ流されるまま生きていた。誰も自分を哀しむものはいまい。

 

 

悔しい、と感じるのは何故だ。

 

目指すものは何もなかった。憧れるものも何もなく、漠然と生きてきた。空虚と虚無が心を満たすのはそれが理由だ。

 

 

 

そうだ、目を閉じてしまおう。それがいい、それでいい。

 

 

目を、閉じれば……終わりなんだから。

 

 

――安らかな眠りが瞼を降ろす刹那。

 

 

ドクン、と何かが脈打つ。

 

 

同時に、寒風吹き荒ぶ胸に、何か、疼痛のような違和感が涌き出る。

 

 

――無念が、満ちるのは何故だ。

 

無念? 矛盾する、矛盾している。

 

何もしてこなかった。何も為しえてこなかった自分が、何を以て無念を定義するのか。

 

 

自らを包む死の安らぎに包まれながら、微かに残る思考を巡らせる。

 

何が無念だ? 何も成し遂げてはいないのに。

 

 

何もしてこなかった。熱を上げる趣味も何も、己には無かったから。

 

 

程なく、天啓、あるいは大悟の如く思い至る。

 

 

――何もできなかった。それが無念なのだ。

 

生きてきた、何かを積み上げることができなかった。

 

 

後に遺すようなものを、何も遺せなかった。

 

世界に、胸を張って誇れるような『痕跡』が……自分には何もなかったのだ。

 

 

――自分は消える。

 

何者でもないまま、己という存在は消え失せる。

 

 

その事実が、たまらなく悔しく感じるのだ。

 

 

あぁ、何てことだろう。

 

生命を手放してから、自分の意義を確立させるなんて、どこまで愚昧だったんだ、自分は。

 

 

 

――死ねない。

 

 

死にたくない、まだ死ねない。

 

 

 

虫のいい話だ。たった一つの生命を手放してようやく、自らの欲望を自覚するなんて。

 

 

そうだ。まだ、死ねない。

 

死ねない、死にたくない。こんな形で死にたくない。

 

この身は、何も成し遂げてはいない。

 

 

この魂は、何も燃やせてはいない。

 

 

燻っていた炉心に、火が灯る。

 

そうだ、まだ死ねない。

 

 

せめて――消え去る前に――せめて……

 

 

何かを成し遂げなければ、生きていた甲斐がないじゃないか……!

 

 

 

――――――

 

 

 

「呆れた自我の希薄さだ。よりにもよって死んでから自己を確立させるとは」

 

 

――!?

 

 

響く声に目を見開く。姿は見えない。何処からか、声だけが響く。

 

 

「そのまま朽ちていればまた無益な苦悩を抱える必要はなかったというのに。人というのはなんとも思い通りには行かない種だな」

 

 

尊大な物言い。まるで、全てを俯瞰し見下ろすような高みにいるような。

 

 

「――誰、だ」

 

「ん? あぁ……別に誰でもないさ」

 

 

誰でもない? こんな圧倒的な存在感を醸し出す声の持ち主が、か?

 

謙遜か、はたまた自嘲か。響く声は言葉を紡ぐ。

 

 

「私は……なんというかな。君のような魂を弄ぶろくでなしだ」

 

「……なんだ、それ」

 

 

「言葉通りの意味さ。私は基本、娯楽に飢えている、傍迷惑な存在。それだけだ」

 

 

 

紡ぐ言葉には、熱がない。尊大に響くが、事務的な放送の如く抑揚がない。

 

 

「まぁ、私のことはいい。問題は君だ。君の末期の慟哭が、私を引き寄せたという訳」

 

 

「自分が、だと?」

 

 

「あぁ、その無念と慟哭が、退屈に微睡む私を呼び寄せ、叩き起こしてくれたんだよ。厄介なことにね」

 

 

……いささか恥じ入る。熱い咆哮でも敬虔な信仰でもなく、そんな後ろ暗い感情で呼び寄せたという事実に、顔も見えぬ何者かに申し訳なく思ってしまった。

 

 

「すまない」

 

 

「気にしないでくれ。その手の悩みは一人を除いてつきものだ。むしろ、遅すぎたようだがね」

 

「申し訳ない」

 

「構わないさ。……で、本題だ――君という存在は死を迎え、肉体と精神は滅びを迎えた。魂もいずれ消えるだろう」

 

 

「本来なら止める理由も義理もないが……死の淵でようやく自我に目覚める無垢な魂など、あまりにも稀少なものをみすみす散らせるのも惜しく感じる」

 

 

無垢、無垢なのか? むしろ無念と泣き言を紡ぐ寂れた蓄音機程度ではないのだろうか。

 

 

「そこでだ。こうして言葉を交わした縁に基づき、君を『異世界転生』の憂き目に遭わせてやろうと思う」

 

 

……は?

 

「自分ではない何者かに転生し、第二の人生を歩む物語をこう呼ぶらしい」

 

らしい、とはなんだ。あまりにも適当かつぞんざいにすぎる。

 

 

先程からなんなんだこの声は。あまりにも無気力かつ奔放で胡散臭いことこの上ないぞ!

 

「そういうな。巷で流行らしいんだ。私の知り合いも熱中していてな。『俺の送り込んだ人間は一騎当千のヒーローになった』だの『私の考えた最強のイケメンは一国の王子になった』だの、大流行なんだぞ?」

 

どういう事だ!? この声は何を言っているんだ!?

 

 

 

「『人間どもの身の丈に合わぬ力を与えて異世界に放り込み、右往左往している姿を見るのが醍醐味』だそうだ。悪趣味というかなんというか。不法投棄と何が違うのか私には区別がつかん」

 

この物言いは当事者のものではない。更に上から、万物を玩弄する超越者がごとき発言だ。

 

それと知り合いということは……今響くこの声は……。

 

 

「まぁ、やってもいないのに解らんと決めつけるのはよくないな。何事も挑戦、知ろうとしないことは解らんとも言うしな」

 

 

「という訳で。今からお前を私の異世界転生玩具として使わせてもらう」

 

 

何だと!? ちょっと待て、お前は何を言っている……!?

 

 

理解が追い付かない。異世界転生? 玩具? なんだ、どういう事なんだ!?

 

「名前は……いらんな。精神は稀薄だが取るとまずい。ううん、ここまで自己が薄いと異能を持たせても何もできまいなぁ。ふむ……ならばこうしよう」

 

言葉は紡ぐ。

 

「■■■■■■。君は英雄となり、世界を救え」

 

 

――何、だと?

 

英雄? 英雄といったのか? 今?

 

 

「数多の世界に、『焼却され燃え尽きようとする世界』がひとつある。そこに招かれた英雄として、世界を救う手助けをしてもらおうかな」

 

「だが、君はあまりにも頼りない。存在の話だ。君個人を守護者に売り飛ばして使役させるのもいいが、なんかすぐ死にそう」

 

物凄く失礼なことと、恐ろしく不穏な言葉を紡ぐ謎の声。

 

 

「君には自己がない。現代の消費文明がそうさせたのか?あまりにも味気ない魂だ。ちょっとやそっとじゃ活躍は見込めないだろうな」

 

 

「――よし。君の転生先が決まったよ。ある意味、君の対極。個性と自我の頂点というべき存在だ」

 

瞬間、世界が流転する。凄まじい勢いで意識が流され、あらゆる情報が流れ星の如く駆け抜けていく。

 

 

「君は人理継続保障機関『カルデア』と呼ばれる施設に英雄として招かれる。人理焼却と呼ばれる偉業を果たされ、未来がない世界にね」

 

 

「そこにいる人類最後のマスター、藤丸立香と呼ばれる人間に使役されるサーヴァントとして、世界を救う刃となるんだ」

 

 

世界を、救う?

 

――できるのか? そんなことが? そんな夢物語が? 可能なのか? そんな、偉業が?

 

 

「生半可な力では君を送る意味がない。とびきりの特権を与えなければ、『いてもいなくてもいい』異物になる。そんなものはただのゴミだ」

 

 

「だから、君は英雄の中の英雄――英雄王とまで呼ばれる英雄として転生してもらうよ。君の魂を磨き上げるには丁度いい器だ。『神に造られた』という因果がある以上、サーヴァントとして形を持たせるのは容易い。……朋友の方はもっと楽なんだが、如何せん伸びしろが全くないのは問題だ」

 

 

「待て――そんな事が――!」

 

 

「君は今から、君であること以外の全てを棄てる」

 

 

意識が、薄れる。

 

 

「君がどうなるか、世界がどうなるかは君の頑張りにかかっている」

 

 

声が、遠く。

 

 

「精々頑張りたまえ。■■■■■■。いいや」

 

 

 

ゆっくりと、意識が沈んでいく――

 

 

「『英雄王・ギルガメッシュ』……」

 

 

 

――――

 

 

蒼に満たされる空間、白い稲光に目を閉じる。

 

 

やがて光は収まり、そこには一人の男が立っていた。

 

 

黄金のフルプレートアーマーに身を包み、逆立つ金色の髪。そして、冷然と総てを見下ろす真紅の瞳。

 

「あ、なたは……」

 

 

あまりの威容、あまりの威圧に立っていることが精一杯だった。

 

けれど、震える喉から懸命に声を絞り出す。

 

 

彼こそは、この人類史を救う旅を助ける無比なる刃。

 

剣となり、盾となる戦闘の代行者。

 

 

人類史に刻まれし。英霊の写し身。

 

 

その名を――

 

 

「や、我が知りたい」

 




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