人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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酒呑「あらあら。姿見せんと思うとったらえらい目にあっとるんやねぇ。災難やわぁ」

ロマン「温羅、彼女を治す事は可能かい!?」

温羅『魂が腐りきってないならなんとかなる。呪術と言えど神業までは到達していないが故の意識の介在だ。茨木の魂次第だが、浄化はきっと出来る。──アタシに心当たりがある!綺麗な洗浄が出来る土地をな!』

モモ『それはまさか・・・』

『準備を始める!ひとまずリッちゃんらと足柄山に行く輩を見繕ってくれ!時間との勝負だからな!』

酒呑「足柄・・・小僧の生まれ山や無いの。リッカはん助けたりや」

金時「言われるまでもねぇ!小太郎!確かオメェっちもオナ山だったな!リッカの案内頼まぁ!」

小太郎「承知。速やかにレイシフト致しましょう!」

リッカ『現地集合ね!単独顕現で先行ってるから!』

頼光「あぁ、リッカに金時・・・。虫の一匹にまで粉骨砕身を行うだなんて。母は感動してしまいました。無事を祈り、お握りを拵えましょう・・・」

酒呑「大将はいかんの?子供でも小僧がおるのに」

頼光「私が行けば虫は潰れてしまいます。息子と娘の頑張りを台無しにはしたくありません。桃太郎様、そして温羅様の手腕を信じましょう」

酒呑「あら、温羅はんは特別やのん?鬼やのに」

頼光「道理を弁え、礼節を重んじ、魔を滅ぼす。貴女のような虫とは格が違う鬼神ならば礼節を払うは当然。──あの方は、気儘に生きる虫とは違うのです」

酒呑「ふぅん。そないなもんやろか。まぁええわ。うらはーん。酒清めとかどないやろー」

頼光(異形を虫と切り捨ててしまえば、リッカを侮辱するも同義。サーヴァントの在り方が狂っていても、娘を侮辱することだけは──)


足柄山

小太郎「先導します。何が起こるか解りませんから、ゴールデンから離れないよう」

リッカ「解った!よろしく、二人とも!」

金時「まぁかせろ!しかし静かすぎやしねぇか。熊どもはどうした?」

小太郎「・・・好機と考えましょう。それでは、邪気を辿ります!」

金時「・・・いるんだろうな。アイツはよぅ・・・馬鹿野郎。素直に助けてぐらい、言えってんだ」

リッカ「金時兄ぃ・・・」


金太郎の叱咤激励

足柄山──。

 

雷神、そして山姥が住んでいたとされる日本の畏れられし山。数多の妖怪、数多の猛獣が騒ぎ猛り、人食いの存在がいた事から常人には近付けぬ荒ぶる山。月夜が照らす戦慄の山。

 

いつもならば血みどろの喧騒と、猛獣達の恐ろしき咆哮が響き渡る筈の足柄山であったが、今は不気味に静まり返っていた。立ち上る邪気が並々ならぬ様子で山を取り囲み、恐ろしげに紅き雷雲を作り上げ、尋常ならざる絵図をもたらしていたからかも知れない。山の畏れを知らぬ猛獣達もその異常を察知していたのか、息を潜めしんと静まり返っている。

 

そんな折──いつもと変わらぬ様子で空を見上げる、金色の忌み子が月を見上げていた。金色の髪、蒼き瞳。両腕の肘から先・・・尺骨にあたる腕の部分は真紅に染め上がりし赤龍の骨。小さき体ながらも、天性の肉体に過不足は微塵も無い。褌を締めた雷神がごとき少年は、自らがシバき倒した大熊の上で変化を見つめていた。山の変化を、だ。

 

「──胸糞の悪い雰囲気だな、クソッタレ」

 

殺し、殺されの鉄火場が嫌に静かなのはなんとも気持ちの悪い。ヒグマの相撲も猿の腕相撲も河童の釣りも出来ないとなれば、食う飯にも困る。少年は苦々しげに呟き、それでも自然はどうにもならないのでふて寝しようと試みた。──だが。

 

「ぉん?」

 

【ウ、グ・・・ギ、グゥウ・・・!】

 

鼻が曲がるような臭気を撒き散らし、呻きと共に目の前にやってくる何者か。一目見て、少年は静かに拳をバキりと鳴らした。こいつが、山を・・・縄張りを荒らす元凶であると確信したのだ。

 

【尺、骨・・・リュウ、の、尺・・・骨・・・】

 

「テメェ、覚悟は出来てんだろうな」

 

縄張りを荒らしたヤツに容赦はしない。基本殺し、たまにうっかりブッ飛ばす。自分以外の全ては糧。そう母に教えられそのように生きてきた少年は、荒ぶる神性と力を溢れさせていた。

 

「オレの縄張り、此処がオレの生きる場所。──御呼びじゃねぇヤツぁ、とっとと死ねや」

 

【グゥウァアァアァ───!!!】

 

絶叫と共に、狂いし鬼が飛び掛かる。更なる力を得んとする呪詛が、少年の尺骨に狙いを定めたのだ。呪いとして、傀儡として突き動かされたが故の行動に、──少年は返礼を行った。

 

「うぉおらぁあぁあぁっ!!!」

 

【ガッ───】

 

飛び掛かる鬼の顔面に、握りに握った拳をカチ合わせ──ただ、力の限りに振り抜いたのだ。たったそれだけ、それだけの一撃が、まつろわぬ鬼の魂起きぬ身体を遥か彼方へ吹き飛ばした。

 

大木を七つへし折り、岩壁に叩き付けられ漸く止まった程の剛力無双の直撃。少年は矮小なれど、その身に宿る力の制御を行わない。怪しいヤツは全力でぶん殴る。それを実行したが故の、鬼への迎撃にして必殺だった。

 

「テメェ、何処ヤマのもんだ。オレに喧嘩売ってくるたぁいい度胸して・・・──ぁ?」

 

【・・・キ、ン、トキ・・・】

 

「──なんだオメェ、女じゃねぇか・・・!バカ野郎!女なら女ってちゃんと言え!殴っちまったじゃねぇか!!」

 

殺気は忽然、気遣いに変わる。先の一撃で顔の札が剥がれ、一時的な機能停止状態に陥った鬼に、あたふたと少年は世話焼きの姿勢に入る。幸いなことに、彼は教育に染まらぬ、生まれながらの英雄であったのだ。

 

「ってか何でオレの名前知ってんだ?オレと会った事あんのかお前」

 

【──、シュ、テン・・・】

 

「──よく解らねぇ。ちっともよく解らねぇが、テメェが良くねぇ状態だって事ぁ解る。ちょいと待ってろ」

 

動きが鈍い鬼に、少年はあれこれと快復を試みた。傷薬を使い、或いは葉っぱを当て、様々な方法を試した。そして、それが蝕みの呪詛であることを、少年は理解する。

 

「テメェ、何だ・・・誰かに操られてんのか・・・」

 

その様子を把握した少年が理解したと同時に、鬼は動き出す。先に張り付けていた紙が顔面に付着し、再び鬼を動かす為の術を起動させたのだ。

 

【・・・グォオ!ガァアァア───!!】

 

再び、少年の尺骨を狙いに動き飛びかかるまつろわぬ鬼。状況をなんとなく理解した少年は、今の彼女を完璧に助けてやれぬ事を理解し──

 

「──フンッ!!!」

 

【ガグァッ──!!】

 

渾身の頭突きを叩き込み、首を胴体からネジ切った後。むんずと頭を鷲掴み啖呵を切る。・・・嘘偽りない、心配と配慮の言霊を込めた言葉を。

 

「テメェがオレに何を求めたかは知らねぇ。呪いの解除なんぞ器用な真似は出来ねぇ。だから、オレはオレなりにテメェに発破をかけてやる」

 

【──!】

 

「『鬼がテメェ以外の意志で悪事なんぞしてんじゃねぇ』。思うままに振る舞って暴れんのが鬼だろが。鬼としての矜持ってもんがねぇのか、テメェにはよぅ!」

 

少年が気に食わないのは其処だった。鬼は好きに、気儘に生き荒ぶる生き物だ。誰にも従わず誰にも靡かない。強く恐ろしい生き物が鬼であるべきなのだ。

 

それが今はどうだ。目の前にいる鬼は誰かに呪いをかけられ、誰かに操られ自己を失い暴れている。──情けないという感情を抑えられない少年は叫ぶ。そんな鬼なんぞ情けなくて涙が出る。矜持無き輩なんぞに自らの命はくれてはやれぬと少年は蒼き瞳で、呪いにまみれた鬼を真っ直ぐ睨み付けた。

 

「何処の誰かは知らねぇが根性見せろ!!テメェの角は、強き生き物の証だろうがよぉ!!」

 

誰かなど、なんのためか等知ったことではないとの叱咤激励。雷神のカミナリがごときその一喝に・・・鬼の魂に、変化が起こる。

 

【グ、ガ・・・──童風情が、えら、そうに・・・!!】

 

「あぁ?」

 

【吾は、まつろわぬ、鬼・・・では、ない・・・!!オオ、江山、の・・・!!鬼、鬼なれ、ば・・・!!】

 

「ブツクサ言ってんじゃねぇ!言いたい事があるんならハッキリと・・・──うおっ!?」

 

瞬間、転がっていた胴体が少年から首をひったくり、呪詛にて無理矢理くっ付け繋ぐ。その様子を見て、まだ臨戦は終わっていないのかと少年は手を構える。──が、確実に変化は起きていた。

 

【吾、吾は・・・まつろわぬ・・・違う、違う・・・!吾の、名前、吾の・・・生き様・・・!見つけ、なければ・・・見つけなければ・・・ッ──オォオオォオァアァアァ!!】

 

「ぐっ・・・!!」

 

絶叫と共に、その姿がかき消える。魂の励起と呪詛の浸食が更に高まり、霊基に深刻な過剰稼働を引き起こしたのだ。雷電発破を受け、まつろわぬ鬼はやがてかき消える。──おのれの在り方を求めて。

 

「──なんだってんだ。うるさいったらありゃしねぇ。・・・オレの名前、なんで知ってんだ?」

 

紛れもなく初対面だと言うのに、自らの名を口走ったその鬼の正体が僅かばかりに気掛かりではあったが・・・──。そんなものは腹の足しにもならんと、大あくびの後に少年は尻を掻く。

 

「ブッ倒せるヤツも力試しも出来ねぇ。つまんね、寝るか」

 

起きていても良いことはないので、朝を迎えるために寝る。そう決断し、少年はイビキを立てて大の字で眠り始めた。

 

・・・──彼の鮮烈にして痛快な魂は、奇しくも僅かなる抵抗であった鬼の魂を叩き起こしたのだ。彼は図らずともその生き様で、鬼の救済に一役買ったのである。

 

「んがぁあぁあ・・・んごぉおぉお・・・」

 

別にそんなつもりは微塵も無い、思うままに生きるのみの足柄山の少年。彼は後にこう呼ばれる事となる。

 

──坂田金時。鬼退治の四天王、源頼光の具足にして忠臣が一人。幼名を金太郎として過ごした、痛快無比の快男児──

 

・・・その生き様は、結果的に。悩める鬼を救い出すきっかけをもたらしたのであった。




小太郎「魔力の励起を察知し、赴いては見ましたが・・・」

金太郎「んがぁあぁあ・・・んごぉおぉお・・・」

金時「行儀わりぃ!こんなもん頼光サンに見られちゃ教育タイム待った無しじゃんよ・・・リッカ、真似すんなよ!な!」

リッカ「生まれつきなんだ!キレーな髪ー!あ、目も蒼いんだっけ!見たかったなぁ・・・!寝てるから見れないや・・・ざんねん」

金時「・・・まー、今の子にゃゴールデンヘアーなんて当たり前だよな。オレはこの髪と目の色で、忌み子扱いされてたからよ」

リッカ「うそっ!?こんな綺麗でサラサラなのに・・・!」

小太郎「母方が山姥、父が雷神。その血が色濃く出たのでしょうか・・・僕はゴールデンクールだと思います。ユニバーサルでグローバルかと」

金時「時代は変わるんだよな。・・・ちっと嬉しくなっちまった。まぁオレはどうでもいい。茨木はどこ行った・・・!?」

リッカ「・・・邪気の欠片・・・。──小太郎君!そこ!」

小太郎「これは・・・札の切れ端・・・!これを辿れば、行き先が掴めるやも!」 

玉藻『どれどれ失礼?えーと・・・あ、これ本能?帰巣本能発揮しちゃってます?』

金時「何処だフォックス!教えてくれ!」

『──大江山。茨木サンの本拠地ですねぇ』

リッカ「大江山・・・!行こう!多分ばらきー、其処でなんかやるつもりかも!」

金時「おう!」

小太郎「承知!!」

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