人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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大江山

茨木【違う、違う・・・!吾は、吾は・・・!!まつろわぬ者ではない!吾は鬼だ!吾は襲い、喰らう──!!】

まつろわぬ妖怪達【【【【【【【◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️】】】】】】】

【鬼なのだぁあぁっ!!うぉおぁあぁあぁあぁあぁ──!!!!!】


楽園カルデア

ムニエル「茨木の反応、膨張!」

シルビア「同時に大量の敵性エネミー生成!自己存在の保護の為に、鬼としての霊基を解放したようです!」

オルガマリー「呑まれないよう、鬼としての意地を見せた・・・ということ?」

ダストン「大江山地域、呪詛により汚染浸食!サーヴァントも、長く活動はできないほどです!」

ロマン「聖人サーヴァントと神霊サーヴァントを呼んでくれ!呪詛を解析しコーティングを図る!」

カドック「僕達も行けないのか・・・!」

リッカ【大丈夫!私なら呪詛に耐性あるよ!元人類悪だもん!】

マシュ「先輩!」

リッカ【モタモタしていられない!先に行って止めてくる!】

ロマン「──すぐにサーヴァントを呼べるようにする!頼んだよ、リッカ君!」

リッカ【うん!グランドマスターは伊達じゃないからね!!】



ウラ「・・・・・・」

(これなら茨木を確実に元に戻せる筈だ。・・・しかし妙だ。気にかかる部分がある)

「──ババァの術にしては、手緩すぎる」

(元に戻す余地など残すか?あのババァが。魂に自由意志などなぜ残した?なぜ元に戻す余地などを・・・)

モモ「準備完了!避難も今・・・ウラ?」

(──『茨木を助けさせる』のが目的だとしたら?アタシ達が、こう動くのをあのババァが織り込み済みだとしたら・・・)

「大丈夫ですか?・・・もしや、ばあ様の真意に・・・?」

ウラ「・・・もしかしたらだが、この世に絶対はない。御機嫌王、魔術王、そんでモモだけには話す!時間もないしな!」

モモ「え・・・!?」

「ババァにとって茨木は──『救わせる』為の餌だ・・・!!恐らく狙いは・・・!」


挑め!大討伐!!

【凄い・・・。妖怪とか、呪いとかで。夜かどうかも解んない・・・】

 

単独顕現にてやって来た、大江山の麓。遥か頂上から立ち上る邪気の暗雲は空を覆い尽くし、壮麗な神秘の光景を漆黒に染め上げている。月も見えず、雲も見えない。分厚い漆塗りの様な呪いが、星を覆い尽くす壮絶な光景が、山に初めてやって来たリッカを拒絶するかの様に渦巻き広がっている。

 

鼻を突くような邪気の群れ。大小問わない鬼や妖怪の大宴会もかくやの大集合。茨木童子がもたらした大号令に応え、呪詛に染まり支配下に置かれたのだろう。空を、山を覆い尽くすその陰を前に、自称グランドマスターは震えていた。

 

(母上や金時兄ぃ、武士やモモはこんなの日常茶飯事だったんだろうな・・・。妖怪退治に鬼退治が日常な日々なんて、平和な世界に生きている私には想像も出来ないけど・・・)

 

『リッカ!今温羅さんが茨木をなんとかする準備を整えているわ、それを信じて山頂に向かって!頂上で茨木童子は大江山を掌握しているわ!』

 

『僕達も向かいたい所だが、邪気と呪詛が強くて一分程度しか活動出来ない。サーヴァント達にロマニと聖人達、神霊が防護をかけているが時間がかかる。──君が単騎で駆け抜け、茨木の下へ辿り着くしかない。彼女を放っておけばどうなるかも解らない。・・・この世総ての悪を飲み干した君しか、かの呪詛に対応できないんだ』

 

『無茶で無謀、作戦とすら言えない特攻めいた活動だ。だが、その呪詛を人類史に定着させるわけにはいかない!・・・震えて、いるのかい。リッカ君』

 

震えている。楽園のサーヴァント達の力も借りられない。ただ一息に駆け抜ける。頂上迄の道を拓く。己の研鑽を頼りに。

 

やるしかない。逃げ道は無い。誰も犠牲にしないためには、この死地に飛び込むしかない。そんなもの──

 

【うん。──武者震いでね!!】

 

──最高に、女の子冥利に尽きると言うものだから。グランドマスターは、誰かに決戦を任せない。矢面に、中心に立ち戦う。そう定めた己の魂を奮い起たせ、力みなぎり走り出す。助けを求める者に応える為に!

 

【行くぞぉおぉお──ぉう!?】

 

「はーい。ほな、うちも運んでおくれやすー」

 

いざ登山!と決意したリッカの背中に、すとんと柔肌の感覚と程よい重さの感触が伝わる。はんなりとした京言葉、ほんのりな酒気。誰かなど見なくても解る。──茨木と縁深き鬼・・・

 

「リッカはん、うちの茨木がえろう世話かけてしもてごめんなぁ。うちも詫びに手を貸すさかい、一緒に山登ろか?がいどや、がいど~」

 

【酒呑ちゃん・・・】

 

『酒呑!?てめぇ何考えて』

 

「ぷちり。うふふ。背負って山登るんは辛い?うち重いやろか・・・よよよ・・・」

 

何が目的か、何故このタイミングで彼女は来れたのか。疑問が無いでは無いが・・・今はそんな疑問を、議論している暇は無い。リッカは素早く、臨戦態勢を取り──。

 

【──しっかり掴まっててね!!あと、首は絞めないでね!行くよ!!】

 

「はぁい。ほなら・・・れっつらごー♪」

 

リッカの泥から生まれし数多の竜達が空を舞い、鍛え抜かれた健脚が山を疾走する。奇々怪々の山駆け、女子二人の鬼ごっこが闇の中で幕を開ける──!

 

 

アマテラス「ワフ!(御守りつくり)」

 

将門公『並ぶべし。祝辞を授けん』

 

金時「日本サーヴァントは優先に並べ!出来たヤツからリッカの助けに行ってやってくれ!」

 

カドック「リッカのスペックに頼った綱渡りの戦いだな・・・!いや、腐ってる場合じゃないか・・・!」

 

頼光「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

金時「ら、頼光サン・・・」

 

頼光「大丈夫ですよ金時。私は落ち着いています。虫ではなく、虫を愛でるリッカを心から信じていますから」

 

(──何かあったら悪戯で済まねぇぞ、酒呑・・・!)

 

 

【◼️◼️◼️◼️◼️】

 

【◼️◼️◼️◼️◼️】

 

【◼️◼️◼️◼️◼️】

 

【『天照神楽』──退けぇ!!】

 

空中の妖怪を竜達が進軍し喰らい尽くし、行く手を阻む妖怪達を雷と真紅の焔が駆逐する。天照神楽──縁壱から学んだ日の呼吸を絶えず行い、息切れも疲れも起こさぬ身体にて、源氏の武を思うがままに披露する。まつろわぬ言葉を吐き出す配下の妖怪を、細胞を燃やし稲妻で焼き尽くす剣の神楽が闇を照らす。

 

「へぇ、そないに繋がるん?あの手この手が数珠繋ぎ。ほんまに神楽みたいやわぁ」

 

二刀流を振るいし瞬きの間に上段一刀、その瞬きに居合いに変わる。瞬間に素手で頭を砕き、瞬間に弓矢を撃ち放つ。戦術から戦術に移る隙が完全に立ち消えた舞踊がごとき姿に、酒呑は楽しげに手を叩く。

 

神楽の名を冠するに相応しく、リッカの日の呼吸の活かし方は『無疲労』と『キャンセルルートの確保』。疲れず衰えない日の呼吸、産み出される魔力を掛け合わせ決して途切れぬ攻撃を実現し、繋がる余地なき戦法を型の様に繋げて見せる。日輪の化身とすら言える縁壱の瞬間斬撃とは別のアプローチ・・・『舞のように繋がる攻撃』としての型を見出だしたのだ。

 

近距離ならば刀に拳。中距離ならば槍、遠距離ならば弓。泥を使う戦法をその場にて選び振るう。その繋がりに形はなく無限。その場で紡がれる型が神に捧げる神楽となる。あらゆる型からあらゆる型に繋がる無限のキャンセルルートにこそ、日の呼吸の会得を見出だした。

 

その研鑽と進化の前に、妖怪達は成す術なく蹴散らされていく。引きちぎられたと思えば迅雷の一閃が飛び、かと思えば紅蓮の刃が猛り狂う。龍のうねりがごとき千変万化の神楽を読み切るは不可能とも言っていい難業に等しくあった。

 

【このまま行くよ、酒呑!】

 

「はいはい。ふぁいとふぁいと~。うふふっ。特等席でええもん見せてもろうて幸せやわぁ」

 

リッカの神楽に合わせるように、ちょちょいと首を切り蹴り殺したりを行いながらリッカの背中に張り付く酒呑。無制限に湧き出る妖怪なぞに畏れは懐かず、酒の肴と楽しむばかりの強者ぶりに、リッカもまた励まされている。

 

「うっふふ・・・ねぇ、リッカはん?聞いてもえぇ?」

 

【どったの!?】

 

「ほんまに茨木、助けてくれるん?茨木も鬼なんやから、そんな世話は焼かんと別に殺してもかまへんのに」

 

酒呑は、いつものように問いかける。彼女の言葉ははんなりとしていて、恐ろしく鋭い。

 

「英雄やのうて、人を喰らう鬼。今回は悪い大人に騙された茨木の手落ち。尻拭いの様な真似になってしまうのはわかっとる?助けを求める資格なんて鬼になんてないんよ?」

 

それは、鬼の価値観か。或いは彼女の死生観か。彼女は知己である茨木すらも、助けてほしいとは願わなかった。鬼なんだから、無様に死ぬのは当然だと。

 

「楽園皆が出張る様な真似せんと、世話焼かんと倒してしまえば楽で──」

 

【──同じだよ、酒呑!私はずっと、変わらず同じ!】

 

その鬼の立場からの労りに、リッカは龍の兜の下で笑った。そんな意地悪で、試されるまでもない。目の前を塞ぐぬりかべを叩き斬りながら、リッカは変わらぬ言葉を告げる。

 

【私は!!自分の為に誰かを助けてる!!自分が、困っている人を助けたいから!力になりたいからこうして命を懸けてるの!その行為が正しいか善かなんて関係ない!その行為が偽善か悪かなんて関係ない!】

 

人だろうが、神だろうが、鬼だろうが関係無い。困っているなら、助けを求めているなら。地の底天の果てだろうと力になって助けてみせる。その行為に大義も理想も正義も挟まる余地はない。ただ──

 

【誰かの助けになることが──私のやりたいことだからだぁっ───!!!!】

 

紅蓮の刃と共に咆哮が響き渡る。そう、リッカは理由や理屈や理想や大義で人を助けない。結局の所、鬼や神と同じ。

 

「──ふふっ。それでこそやわぁ。ほんに・・・いけめんやわぁ・・・」

 

自分達と全く同じ。『やりたいからやる』。だからこそ真っ直ぐで、だからこそ迷わない。そんな飾り気のない信念と衝動、本能を味わいたかったのか。分かりきった問いを投げた酒呑はどんな美酒を飲む時よりも頬を赤らめる。その絶対性は紛れもなく・・・──龍が如く。

 

「ほんなら、茨木も助けられなきゃあかんねぇ。やりたいこと、やれないなんてごめんやもん。あ、囲まれてもうたわ、あかんわぁ」

 

【しつこいなぁ、もう!纏めて・・・うわっ!?】

 

そんな着飾らない、繕わない彼女に・・・力を貸す者達もまた然り。リッカの雷とは比べ物にならない程の神威と威厳が、辺りの怪異を焼き払った。

 

「───リッカ。露払いは母にお任せなさい。どうか振り返らずに」

 

【母上!?──ありがとう!!】

 

「あらまぁ。真っ先に来たのん?娘想いやねぇ」

 

「言うまでもありませんが、リッカを助ける露払いです。もしリッカを傷付けたなら、貴女に同じ苦しみを味わわせますので」

 

「こわいこわい。ほな、お気張りやす」

 

リッカは進み、頼光は退路を確保するために殺戮を行う。一人、また一人とサーヴァント達が道を拓きに加勢にやってくる。

 

「マスター!新撰組に背中はお任せです!」

 

「退くんじゃねぇぞリッカ!新撰組!!前進!!」

 

「義仲様、私とリッカ様に力を!!」

 

「うっはっはっはっはっはぁ!!山火事になろうともロックに敦盛歌っちゃうのが楽園ノッブ!そうなる前に帰ってきてネ!」

 

「私達が食い止めます!どうか勝利を、ご主人様!」

 

【皆、背中は任せた!!】

 

「総員出るぞ!!イモータル・エモーショナル・ブリゲイド!!」

 

「忍法・火の鳥──!!」

 

「雪泉、鎮魂の夢に沈みましょう・・・!」

 

「大蛇、今は皆の活路を開かん・・・!」

 

「金太郎くん・・・!!この目で拝んで見たかった・・・ッ!!」

 

「黙るか斬るか、どっちかにしろぃ!!」

 

「はっはっは。熱いな。──本気になるか」

 

「行くぞ!!我が槍、味わってみよ!!」

 

「洗礼はお任せを。裏切りもしませんよ」

 

「かもぉーん!豊臣ポーンズ!!」

 

「リッカの為に・・・だな。マジンさんも、頑張るぞ」

 

「行くぜよ、お竜さん!」

「任せろ、今夜はリッカと龍馬とお竜さんで、トリプルドラゴンだ」

 

「うっははははははは!!おまんも!おまんも!おまんも!おまんも!おまんも!みぃんな人じゃあぁあぁ!!」

 

「雑でちね・・・さぁ、舌を落とされたいのは誰でちか?」

 

「さぁ行くぜぇ!!ゴォオールデンッ──!!スパァアアァアァク!!!」

 

山を駆け抜けし日本の魂。そしていよいよ、リッカ達は山頂へと辿り着く──!




山頂

リッカ【此処が──】

酒呑「せやね。てっぺん。ほら、其処におるよ」

指差す先には・・・腐敗せし、鬼たる茨木。棟梁としての矜持を奮い起たせし、茨木の名を思い浮かべるもの。

【シュ、テン・・・シュテ、ン・・・!?】

酒呑「ほぉら。いつまでも我儘言わんの茨木。皆にごめんなさいして、楽園で酒飲んで・・・」

【クル、ナ・・・此方へ来るなぁぁあぁ!!!】

茨木の叫びと共に、蝕まれし呪詛が酒呑へと殺到する。酒呑が心の支えと理解した呪詛が、酒呑を呑み込まんとしたのだ。

リッカ【酒呑!!──ぐっ!!】

「リッカはん・・・!」

酒呑の代わりに、呪詛を一身に受け止めるリッカ。吐き出された呪詛の奔流が、茨木からリッカへと雪崩れ込む。常人ならば即座に発狂し、取り込まれる心を犯す呪詛の束。──しかし。

【今更・・・呪いや悪意なんかに・・・!私が怯むもんか・・・ッ!!】

彼女は、総ての悪を背負っている。総ての悪、即ち人類史の悪性。その質量は、茨木を蝕む呪詛すらも撥ね飛ばす程に強靭かつ豊潤である。──そして。

【今の私の心に満ちてるのは、悪意なんかじゃない・・・!!私を魅力的と、可愛いと、一人の人間として認め、愛してくれた人達の善意で溢れてる!!】

だからこそ、だからこそ・・・今更、悪意に靡くなど有り得ない。リッカはとっくに知っている。底無しの悪意と呪いを抱き締める光、即ち──

『私の力は──この世総ての善意だぁあぁあぁあっ!!!!』

デモンベイン・ゼロビヨンド・ナイアー。光と切なる願いを束ねし悪を越える刃の鎧で、太古の呪詛を打ち破る。光の龍が、闇の呪詛を喰らい尽くしたのだ。

茨木【お、のれ・・・!おのれぇえ・・・!!】

呪いと鬼の矜持のバランスが崩れ、荒ぶる鬼としての側面が強くなった茨木はそれでも止まらない。まだ、彼女は抗っている。

リッカ『待ってて・・・絶対に助けるから!!』

酒呑「ふふっ・・・お尻ぺんぺん、しよか?」

茨木を助ける為の最後の戦いが、幕を開ける──

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